妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.⑥

 

 

何事もなく本家に到着した。

時刻は三時を回っていたが、これなら少しは心を落ち着けて休める時間が取れるだろう。

あとはガーディアンとして深雪の傍に控えているだけで良い。

建物に入るまではそう思っていたのだが、どうにも様子がおかしい。

何がどう、とはわからないが夕歌さんと別れ、水波も使用人として仕事に駆り出されるというので別れたのだが、通された部屋も二間続きの和室で深雪と共に案内された。この部屋は初めてだ、と室内を眺めていると、唐突に深雪が小さく頭を振っていた。

 

「深雪、どうした?」

「!何でもございませんっ」

 

胸を押さえて落ち着こうとしている様子から、何かはあるのだろうが追及するのは憚られた。

ここは四葉家。敵地と呼んでも過言ではない。

たとえ、深雪がいずれここを継ぐことになっていても、今はまだ今回のように邪魔をする輩が存在するのだから軽率な言動は避けるべきだ。

 

(…もしかして深雪はこの部屋に何かあることを知っているのかもしれないな)

 

俺にとっては初めて見る部屋だが、もしかしたら深雪はここに来たことがあるのかもしれない――が、だとしてもそんなに慌てる理由などあるだろうか?

ごく普通の和室に見えるのだが。

何時までも突っ立っているのもおかしいので、座卓へと向かう。

まるで旅館の一室のようだ。これで温泉や内風呂があれば正にそのものだが、ここにそんなものがあっても困る。四葉の本陣でリラックスなど到底不可能なのだから。

深雪もしばらくして落ち着きを取り戻したようでこちらに来て座布団に腰を下ろすのだが、深雪のこういうちょっとした所作に目を引かれる。

髪が乱れないよう耳にかけ、ワンピースの裾を押さえて膝を折り――流れるように腰を下ろす姿は品があるのに妙に艶めかしく映るのは少女から大人になりかけているからだろうか。

じっと見つめるのはやましい気持ちを抱えているように思えて視界には収まるが中心からは視線をずらした。

 

「お兄様、この三日間お疲れ様でした」

「深雪も、疲れただろう。お疲れ様」

 

ほっと一息ついたところで人の気配が。水波だ。

入室前だが、彼女の緊張感が伝わるようだ。何かあったか?

使用人としての完璧な所作で入室してきた水波は、四葉の使用人としての完璧な仮面を付けていた。

普段の深雪に甘い彼女の顔は鳴りを潜めている。

 

「達也様、深雪様」

 

――これは、何かがある。

そう思わせるには十分な出来事だった。

この四葉の邸で、深雪よりも俺の名が先に呼ばれ、深々と首を垂れている。

 

「水波、ここではその言い方をやめた方が良いのではないか?」

 

確認を込めて訊ねれば、彼女は使用人をまとめ上げる上司の名を上げた。

 

「白川夫人からのご伝言を預かっております」

 

この時点で、嫌な予感が一気に高まる。自身が予想もしていない出来事が待ち受けている、そんな悪い予感だ。

 

「達也様と深雪様は七時になりましたら奥の食堂へお越しください。奥様がお待ちです」

 

伝言をそのまま機械音声で再生したような声色だった。

つまりは呼び方も何もかも、白川夫人が指示したものということ。

序列に厳しい夫人が俺の名を先に呼ぶということはガーディアンではなく、当主の甥として呼ばれているということか?何のために?今までの呼び名もせいぜいが『殿』止まりだったのに。

しかも、

 

「奥の食堂で叔母様がお待ちになっている、と。そう仰ったのね」

 

奥の食堂とは。あそこは特殊な場所で、秘密の会合が行われるための部屋ではなかったか。

 

「その会食には俺も呼ばれているのか?」

 

わざわざあのような言い方をするということは、ガーディアンとして傍まで案内するだけとは思えない。

食堂に来るように、との言葉に参加まではないことを願うが、その願いが聞き届けられないことくらいわかっていた。

水波の肯定の言葉に、落胆とまではいかないが多少気落ちはする。

一体、何を企んでいる?

会食に参加するくらいなら食事抜きにされた方がどれほど楽なことだろう。

深雪が呼ばれるとしたら、明日の慶春会についての話だと推測は立つ。

だとしたら深雪だけでなくほかの候補者も呼ばれる可能性が高い。文弥が呼ばれるなら亜夜子も呼ばれるだろうから、兄妹枠として俺も参加せよということか?

だとしても候補である深雪より先に名を呼ばれる理由にはならない。

ガーディアンという立場が無かったとしても、魔法力が劣っている時点で実力主義の四葉で長男というだけで俺の名前が先に呼ばれることなどないだろう。

何か俺に役目でも与えるつもりか。できることと言えば殺戮を含めた掃除くらいのものだが。…あちらの研究の件か?どれにせよ情報が足りない。

そういえば、本邸に到着したのだからあの約束を果たしてもらうか。夕食時までにどんな情報でも集めておく必要がある。

退室しようとする水波を呼び止めて黒羽貢への取次ぎを頼む。

忠告を受けたその日に、無事到着出来たらご褒美をもらえるらしい、と冗談交じりで説明していたので深雪もその件だとすぐに分かったのだろう。

しかし詳しく聞かれると答えづらいものがあるので聞かないで貰えると助かるのだが。

その思いが通じたのか、深雪は一度口を開きかけたが言葉を飲み込んで曖昧に笑う。

望み通りではあるが、この表情を見ると心が苦しくなる。深雪が、我慢をしているのがわかるから。俺を困らせたくないと下がったのだ。

引いてくれたことは助かるのだが、心の距離が離れたようで自分勝手とだと知りつつももっと、俺を求めてくれればいい、と、そう願ってしまう。

 

「深雪は物分かりが良すぎる。時折、全て見透かされているんじゃないかと思うよ」

 

もっと俺に対して我が儘になってもらいたい。されれば困るとわかっているのに言いたくなる自分がいた。

 

(この矛盾は何なんだろうな)

 

深雪は控えめに微笑んで。

 

「気になることがたくさんあるのは事実です」

 

けれどその声に諦めている、という負の感情は読み取れない。自身の願望がそう感じさせているのかと思ったが続けられる言葉がそれを肯定してくれた。

 

「お兄様がお話できることがあれば、教えてくださいませ」

 

話せることがあったらそこのところだけでも教えてほしい、と。笑みと同様、なんと控えめな言葉だろうか。

話次第ではすべて話してやりたいが、おそらくそれは不可能だ。これから聞く内容はきっと楽しい話にはならない。

心苦しい。この深雪の期待に応えられないことが、申し訳なく思う。

 

「今、ここが家であったなら、と思わずにいられないよ。お前を抱きしめて安心させることもできない」

 

四葉内部で油断などできない。あと最低でも四日は深雪を抱きしめることができないのかと思うと今から気が重くなってきた。

抱きしめて安心させたいだなんて、ただ自分が抱きしめて心を落ち着けたいだけなのに。本当、兄だというのに妹に甘えすぎだな。

水波が入ってきて、とりあえずは約束を果たすつもりらしく、案内するという水波に続いて立ち上がる。

お気をつけて、と深雪が身を案じつつ一礼して見送りをしてくれることがどれほど心を軽くさせるか。

緩む頬を自覚しながら部屋を後にした。

 

 

――

 

 

人気のない廊下は空調が効いていても寒々しい。水波も俺も、無表情のまま廊下を歩いた。

さっさと終わればいいが、この間会った時もなかなか話を切り出さなかったことを思い出すと、今から憂鬱だ。

早く終わらせて少しでも長く深雪とゆっくりと過ごしたい。

通された部屋にはまだ誰もいなかった。

別の使用人がお茶を用意し下がっていく。

下の者より後に入りたい、というくだらないプライドによる演出か。面子というのも面倒だ。無駄な時間ばかり取られる。

しばらくして入室してきた様子はこの人にしては珍しい、少しばかり気の抜けたような雰囲気だった。

着いてしまったか、と落胆しつつもそうなるだろうとどこか諦めていたといったところだろうか。

妨害が成功すると思われていたことの方がおかしいほど生ぬるい妨害だったのは、この人が作戦に加わってないことも大きかったのかもしれない。この人ならばあれほど手ぬるい工作はしなかっただろうから。

また使用人が入室し、お茶を出して退室。

しばらく本題に入らない時間が続いたのは、相当口にしたくもないことだからか。

自然と開くのを待って、重い口を割って語られた内容は――はっきり言って思っていた以上に馬鹿馬鹿しいモノだった。

 

(俺は夢物語でも聞かされたのだろうか)

 

精神干渉の魔法特化の一族ではあれど、何故強くあれと、守ってくれと願い、祈っただけで特殊な魔法が生まれたと信じられるのか。

自分たちの願いが化け物を生んだ?母の復讐心が作り出した?馬鹿も休み休み言え。そんなことで特殊な固有魔法を持って生まれてくるなら世界中が固有魔法を持った魔法師であふれている。

元々イレギュラーが生まれやすい四葉だから起きた、ただそれだけだろう。

それを自分たちの必死の願いが最悪の形となって誕生させてしまい、殺すかを討論し、実行しようとしたが当主に止められ断念した、と。

だが、生きているだけで己たちの罪を意識させられる存在に、次第に耐え切れなくなった、と。

…そんなくだらない思想によって俺は殺されかけ、疎まれ、蔑まれ、邪険にされ続けたらしいことは理解した。

さんざん人間扱いしないでおいて、自分たちが復讐されるのではないかなどと――それこそ人の心が、強い衝動が無ければできないことだろうに。

前当主の思惑は何となく理解はしたが、現当主の考えはわからない。

ただ引き継いだにしては俺を自由にさせすぎだと分家たちはだいぶ苦言を呈したらしいが、彼女は気にもかけなかったらしい。

俺にとってもかなり都合がいい生活ではあった。だが、四葉である人間が俺の都合に合わせて好き勝手させるわけがない。あちらにもメリットが何かしらあるはずだが――

 

(それが、今回の慶春会で明らかになる――?)

 

俺のこの待遇の変化や、今夜の晩餐会の参加などに関してここで得られる情報は何もなかった。

すべてを話し終えた、と付き物が落ちたようにぐったりとしている男にもう用はない。

さっさと引き上げて愛しい妹の下へ帰ろう。

俺の態度に瞬間的に怒りを覚えたようだが、疲労感と解放感か、それらが怒りを上回り早く出ていけとばかりに追い出された。

文弥達には悪いことをしたな。この後彼らの元に戻るのだろうから、不機嫌にさせてしまったことに少しばかり申し訳なく思った。彼らにとってあれでも良い父親なのだ。

案内が無くとも道は記憶しているので問題なく部屋にたどり着く。

道すがらずっと考えるのは部屋で待つ深雪のことだ。

一人にしてしまって寂しくはなかっただろうか。水波でも呼んで心穏やかに過ごしてくれてればいいが、恐らくあの子のことだ。忙しいだろう水波を呼ぶことはできなかっただろうな。

部屋でずっと端末を操作しているようだったから暇つぶしに何かを持ってきていたのかもしれない。

声を掛けてから部屋に入ると、深雪の温かい笑みに迎え入れられる。

それだけでささくれ立っていた心が均されてしまうのだからすごい。

二、三言言葉を交わして腰を下ろす。

やはりハグができないのは痛いな、と思いながらもこれくらいなら問題にはならないだろう、と掌を差し出して。

 

「深雪、手を貸してもらえるか?」

「?はい」

 

言われるままに手を乗せてくれる深雪の素直さに、この手の温度にほっとする。

冷えている手を包むように残る手を重ねた。

これだけで深雪の役に立てている気分になる。

深雪の手はいつも冷えているから、温めてあげるのだと触れられる理由になる。

 

「――なんとも回りくどい話をされた」

「!!」

 

深雪は本当に俺が話すとは思っていなかったのだろう。

話すと言っても内容を言うつもりはない。あんなくだらないことでも、知れば深雪の心が乱されることがわかっていたから。

だが、向かう前のあの控えめでありながらも寂しそうな笑みに、何も応えないというのも気が引けた。

内容こそ話せないが、深雪の望む、格好悪い姿の一つでも見せようと思ったのだ。

案の定、俺の疲れたとの発言は深雪を驚かせるだけの威力があったようだ。

深雪からの強い視線を感じる。

思わず苦笑を浮かべそうになったが、何とか堪えて付き合いきれない内容だったと愚痴をこぼす。

情けない姿だろうに、深雪はそれがよかったらしく胸を押さえるように手を当てて話を聞いてくれた。

 

「深雪に格好悪いところなんて見せたくなかったしな」

「…お兄様に、格好悪い所などございません」

「深雪には一体俺がどう見えているのか不思議だよ」

 

こんなに情けない姿をさらしているのに、頬を染めて見つめるなんて。

 

(深雪の趣味は変わっているのかもしれない)

 

こんな平凡な男を素敵だと褒める深雪はいつだって本気で言っているように見えて、もしかしたら彼女には普通とは違うものが見えているのかもしれない、なんて非常識なことまで考えてしまう。

だが、そのおかげで俺は深雪にこうして触れさせてもらえる。

その喜びをかみしめつつ、脳裏をよぎるのは、昨夜深雪に質問したいと思った言葉。

 

(深雪の幸せとは、一体どんなものだ?今の深雪は一体何を願っている?)

 

しかしそのことを口に出すことができない。

この手を離すことになりそうで恐ろしかった。――あと少し、このままで居たかった。

そうこうしているとあっという間に時間は過ぎていく。

 

「もう時間か」

「準備をしませんと」

 

入ってきた水波は深雪の仕度を手伝いに来たのだろう。

俺も荷物を持って襖で仕切られている部屋に移動する。

着飾るのには時間がかかるだろうから、端末を持っていくのも忘れない。

着替えはすぐに終わり、開いた端末にはここ二日のニュース記事。

この周辺(と言っても距離はかなりある)で立て続けに二件も奇妙な事件が起これば不審に思われてもおかしくないと思うのだが、別々の事件として扱われており、片や若き軍人の暴走として、片やただの自動車事故として処理されている。

…このことを不審がるような書き込みは見当たらない。いや、『年末に連続で物騒だな』『何かの陰謀かもよ』『年末陰謀説総決算(笑)』などとのコメントはあるものの誰も本気にはしていなかった。

世の中の関心なんてこんなものなのかもしれない。もしくはどこかが印象操作をしているのか。

軍にとっても二日前の事件は闇に葬りたいだろうからな。マスコミに嗅ぎ付けられたら一大事だ。

しばらくチェックしていると深雪からの声がかかる。準備ができたらしい。

念のための声を掛けてから襖を開けると――そこには世にも美しいプリンセスが立っていた。ドレスはもちろんだが、何よりも目を惹くのはそれを纏った深雪本人。

 

「綺麗だ。――水波、ご苦労だった」

 

水波も、いつもであれば頬を染めて深雪に賛辞を贈るのにここの空気がそれを許さない。

水波が我慢しているのがわかっていて俺が好き勝手にしては示しがつかないし、何より深雪の印象も良くないだろう。

だが、気になることは聞いておかなければ。

 

「美しいが、寒くは無いか」

 

いくら空調が利いているとはいえ、年末。雪の山道を通ってきたことでもわかる通りこの地域は東京よりも寒いのに、二の腕の新雪を月に照らされたかのように眩しい素肌が晒されていた。

 

「この格好で外に出れば寒いでしょうが、室内だけですから」

 

それは我慢ができるという言葉と同義に聞こえた。

女性の、美しさのための忍耐力というのは頭が下がる。

頑張っている深雪を褒めてあげたかったが、綺麗にセットされた髪を見て手を下げざるを得なかった。

だが、長手袋に包まれた手を取ることくらいは許されるだろう。

 

「エスコートくらいはさせてくれ」

「よろしくお願いいたします」

 

手袋越しでも深雪と触れ合えるだけ有難い。

これから向かう戦場に向けて、わずかでも英気を養いたい。

 

(ストレスをため込まないようにしないと。…これ以上深雪に迷惑をかけるわけにはいかない)

 

これまで幾度となくストレスをため込んでは深雪に迷惑をかけてきた。

特に論文コンペの際にはとんでもないことをさせるところだったことに自分でも恐怖を覚えた。あまりにもありえない思考だった。

あれからはまめに休憩を取るようになったり、根を詰めて仕事をしないよう調整をするようになったおかげであのような悲劇は起こっていない。

そもそもそんなに重なる仕事自体が無かったのだが。

かなり歩いたはずだが深雪と手を繋いでいるとあっという間だ。

奥の食堂と呼ばれる部屋に到着すると中には夕歌さん、文弥に亜夜子がすでに席についていた。机には俺たちの他にあと二人分の空席が。当主と勝成さんだろう。

 

(亜夜子がいるから俺も呼ばれた、ということではないだろうな)

 

亜夜子は俺と違って文弥と同席する機会があるらしい。ガーディアンという俺の立場と、諜報員としても優秀な亜夜子とでは当然待遇が違う。当主の血に近いからと言って優遇される、という甘い一族ではないのだ。

…だが、俺が今まで冷遇されていた理由はその立場だけではないことは先ほどの話で分かっている。

分家を嗜めることもできたはずの当主が、ただ傍観して許していたはずもない。何か思惑があるはずだ。

気を引き締めてかからなければ。

 

 

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