妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.⑧

 

食事が終わり、ようやく部屋に――とはならなかった。

俺たち二人を残して他は退室を命じられた。

まだ何かあるというのか、等と正直に苛立ちを表に出しはしないが不満は抱く。

俺までここに連れてこられた理由はどうやらこの後が本番らしい。

 

(深雪の婚約の話だけでも十分な衝撃だったというのに、一体何があるというのか)

 

それぞれにそれぞれの好みに合った飲み物を供されて、後半戦は始まった。

だが、まさか葉山さんまでも退室させるとは思わなかった。

叔母上にとって俺は一度正面からやり合った間柄だというのに。深雪がいるから俺が動かないと思っているということか。それとも警戒対象ではないという意思表示か。

何が起こっても対処ができる様シミュレートをいくつかして待ち構える。

 

「さて、あまり時間もないから要件を済ませましょうか」

 

カップを机に戻し、重心を前に傾けて微笑みを浮かべ、

 

「まず初めに、伝えておかねばならないことがあります」

 

強い意志を瞳に込めて、言い放った。

 

 

 

「達也さん、深雪さん、――あなた達は兄妹ではありません」

 

 

 

何を言っているかははっきりと聞こえた。が、理解するのに時間がかかった。

俺と、深雪が兄妹では、ない……?

何を言っているんだ、この人は。

そんなありえない話を、どんなつもりで言っているのか図りかねた。

どんな意図があってそんな虚言を吐いたのか。

何の考えがあればそんな設定が必要になる?

一つの仮説にどくん、と心臓が音を立てた。

ありえない、とすぐに打ち消すが、消しても消してもすぐにその可能性が浮上する。

有り得て良いはずがない。

そんなこと、許されるはずがない。

 

「深雪さんはとても落ち着いていらっしゃるのね」

 

…視えている深雪の情報にも一片の揺らぎが無かった。

頭が他のこと埋まろうとも彼女の情報だけは常に見逃してなどいない。だからこそわかる。

指摘した通り深雪は非常に落ち着いているように視えた。

 

「いいえ、とても衝撃的なお言葉に、どう反応していいのかがわからず困っているところです」

 

そうは言うが、彼女の淑女らしさが動揺などを感じさせない。完璧に覆い隠せていた。

だが、言葉の方は動揺しているようで、声が平坦で抑揚が感じられない。その場を取り繕って出した言葉のようだった。

自分のように、深雪には兄妹だという確証を得られる情報源はない。兄妹ではないと叔母上に言われたのでは不安に思うのもおかしくはない。

対する叔母上はリラックスした様子で俺たちの反応を愉しんでいた。

それがまた苛立ちを感じさせるが、今は深雪の憂いを晴らす方が先だ。

 

「叔母上、一体何の冗談です」

「冗談?冗談ではないわ。だって達也さん、――あなたは私の息子だもの」

 

……

…………

深雪と兄妹ではないと言ったり、今度は自分が母親だと言ったり、この人はこんな虚言癖があったのか。

すべてが嘘だとわかっているだけにその言葉の真意を探ろうとするが、自身の都合の良いことばかりが浮かんでうまく思考がまとまらない。

こんなこと、初めてだ。

怒りよりも困惑が上回った。

 

「どういうことです?お兄様が叔母様の子というのは」

 

深雪も信じがたい、と質問を投げかける。叔母上の前だというのに兄と呼んでいないことから彼女も仮面で表情は隠せていても動揺しているのが窺えた。

それから語られたのは、自身の卵子をベースに母、深夜を代理母として俺が誕生した、というシナリオ。

かなり無理がある設定だが、四葉であればありえなくもない、そう世間は思うかもしれないがそれで誤魔化されるわけにもいかない。真実を知る俺が騙されることなどないのだから。

この話にはどう考えてもただの嘘というだけでは説明のつかない裏があった。

 

「…後ほど、詳しく教えていただけませんか」

 

深雪の前で話す必要を感じない。横浜の件で呼び出された時のように一対一を希望すると、その要望はすんなり通った。

 

「そうね。いきなり納得しろと言っても難しいでしょうし、この後、親子水入らずでお話ししましょう」

 

何が親子水入らずか。

冗談としてもあり得なさ過ぎて受け入れがたいが、今文句を言っても話が進まない。

その嘘の目的を問い質さねばならない。

一拍待ったのち、それは明かされる。

 

 

 

「四葉家次期当主、深雪さんの婚約者は達也さんよ」

 

 

 

――俺を、深雪の婚約者に据えるためだけの、嘘。

これもガーディアンとしての任務だとでも言うのだろうか。

 

(欲しくとも手に入れられないものをちらつかせて、無理やり手に持たせておきながら、最終的にすべてを奪おうと、そういうつもりなのか)

 

だとしたら、どれだけ俺は憎まれているのだろうか。

これほどまで有効で残酷な復讐を俺は知らない。

 

 

この時になって初めて、気付いた。

俺は、深雪を――手に入れたいと願うほど欲していたという事実に、気付いてしまった。

かつてないほどの深い深い絶望の底を、覗いてしまった。

身の程を嫌と言うほど思い知らされてきたというのに、俺は――望んでしまっていたのだ。

絶対に手にしてはならない宝玉を、手の内に収めたいという欲求を。

それだけは手に入らないと誰よりも知っているというのに。

 

(この絶望だけは、知りたくなかった)

 

たとえ己の存在が世界中から恨まれ、疎まれる存在であろうとも、唯一受け入れてくれていた存在があったから自分は幸福を知ったのに。

その幸せだけで満足できなかった罰を、一生背負って生きていかなければならない。

 

初めて、自分は不幸な人間だ、と自覚した。

 

 

――

 

 

「明日の次期当主指名と同時に婚約者も発表します。ですので達也さんにも、深雪さんの婚約者として明日のお披露目に出席してもらいますからそのつもりで」

 

密かに絶望を抱いていても、時間は止まらない。

明日の発表は覆らないと、淡々と予定を説明される。

――己の感情を除けば、悪い話ではない。

俺が相手であれば、深雪の傍で守るのはおかしなことではないし、繋ぎとしても実際は兄妹なのだから相手との禍根もない。婚約破棄をしたとしても時間稼ぎだったとばらせば深雪に傷など残らない。そう、何の問題も――

 

「叔母様、それはお兄様が一時的に私の婚約者となり盾となるということでしょうか」

 

深雪の指摘にわずかにも体を揺らしてしまったことが痛恨の極みだった。

彼女は絶対に気付いただろう。後でその理由など聞かれても返せるわけが無い。

深雪の一時的、という言葉に傷ついたなんて、言えるはずもなかった。お前の盾になるのは構わない。守ることができることは俺の誉れだ。

だが、初めから叶う筈が無いと自分でもわかっているはずなのに、いざ深雪に指摘されてしまうと実態など無いはずの心に痛みが走る。

この傷は、自動修復の対象外だ。

 

「なあに、深雪さん。もしかして他にどなたか想われている方でもいるのかしら」

 

まるで達也と結婚したくないみたいね、とすでに息子だからと意識的に呼び方まで変えて愉しげに笑う声が、さほど大きくもないはずなのに頭に響いて聞こえた。

他人の言葉に傷などつかない自分の心に揺さぶりをかけられる。

深雪を見そうになるのをこらえて耳に集中する。

 

「想う方など、そのような方はおりませんが私とお兄さ――失礼しました。…達也様と私が結婚することは現実的ではございません。兄妹でないにしろ血が近すぎます。叔母様と母は双子ですから普通の姉妹以上に血も濃いでしょう。一時的な候補として据えているのだと考えるのが妥当です」

 

――深雪の言うことはいつだって正しい。

以前にも、光宣の時にも言っていた。

「実の兄妹で子を成す必要性など、そもそもないでしょうに」と、怒りを滲ませて。

あの時、深雪の言葉に言い知れぬ何かを抱いたが、それが恐怖であったのだと今ならわかる。

直接そうだと言われたわけでもない。彼女にそんな意図はなかったはずだ。

だが、はっきりと俺たちの間ではありえないことだと断ずる内容でもあった。

当たり前だ。劣性遺伝子を生みやすい血の近い兄妹間で子を作るなど常識的にあり得ない。そもそも兄妹で結婚など、法律で禁じられている上に、人は本能で忌避するはずだ。――普通であれば。

 

(俺はこんなところも欠陥品だったのか)

 

忌避するどころかのめり込む様に愛してしまっていた。

ここまでずっとその想いに気が付かなかったくせに、理解するのは一瞬だった。

ただの兄妹愛だけではない。それ以上に彼女を女性として愛しているのだと、こんな時になって初めて自覚した。

深雪が一時俺から離れようとしていたのはまさか、俺よりも先にこの想いに気付いて危機感を覚えたからでは、とまで考えるが、もしそうであればもっと本気で遠ざけられたはずだ。

彼女は俺に唯一命令ができる立場にある。本気で嫌がれば…

 

(――だが、深雪は優しいからはっきりとした拒絶ができなかっただけではないか?)

 

いろんな考えが浮かんでは消えていく間にも二人の会話は続いていた。

 

「そうね。深雪さんが言うことは正しいわ――普通なら、ね」

 

普通なら。

その一言をやたらと強調するのが耳に障る。

劣等生だと、欠陥品だと言われ続けた人生だ。今さら普通ではないと言われようと慣れた言葉のはずだというのに。

 

「どのみち時間稼ぎが必要なのは深雪さんもわかるでしょう?すでに十師族の内、二家から『司波深雪』にそういった意味での調査が入っているのだから」

 

一つは一条か、とすぐに思い至るがもう一つ…七草ではないだろうから、そうすると十文字家か?あの後本当に先輩が申し込むべきか調べた可能性がある。一瞬九島の可能性もよぎった。光宣が深雪に懐いていたから家族が気をまわしてと思ったが、あそこは事情を知る老師がいる。深雪が四葉だと知っているはずだから司波には調査が行くはずがない。

他は接点が無いし、婚約していない年頃の男子はそういない。五輪家は七草家長女と話が上がっていたはずだが、正式に婚約が決まったなどの話は聞かないけれど切れたという話も聞かないので可能性は低い。

これで深雪が四葉家次期当主と発表がされれば正式に申し込みが来てもおかしくない。

あの四葉だろうと、むしろ抑え込める可能性があるのならと婚姻を迫る可能性だってある。

四葉は今、十師族でも実力が頭一つ抜きんでている。足並みを揃えたい、足を引っ張り引きずりおろしたい者たちにとっては格好の獲物に思えるだろう。

 

「一時的にでも何でも、明日は深雪さんの次期当主の件と婚約者の件の発表は覆らないわ」

 

深雪が次期当主として発表されることは予測できていたが、まさかそこで俺が当主の息子として深雪の婚約者になることは予想だにできなかった。というよりできるはずがない。すべてが嘘で、出鱈目だからだ。

一体どんなつもりで、と睨みたい気持ちを抑えて叔母上を探ろうとすれば、何故か深雪に対し温かみのあるような視線を向けている…?

初めて見る視線だ。しかしそれはいつか見た母の眼差しにも似ていた。

 

「ねえ、深雪さん。私は貴女がこれまでどれだけ努力してきたか、知っているつもりよ。“幸せ”のためにここまで頑張ってこられたのだものね。私も応援しているの。貴女の望む幸せが叶うことを」

 

――なぜ、知っている?兄の俺でも知らないことを、何故遠く離れて暮らすこの人が知っているというのか。

まさか深雪が直接言ったというのだろうか、と見れば、彼女は完ぺきだったはずの仮面がはがれかけているのか瞳が揺らいでいた。

動揺している…?つまり、知られていることを、深雪も知らなかったのだろうか。

それとも別の要因か。

 

「さあ、明日は貴女の望みが叶う第一歩よ。目いっぱい磨かれていらっしゃい。せっかくの晴れ舞台だものね」

「…はい、叔母様。お心遣い、感謝いたします」

 

その言葉には、先ほどまでの覇気は感じられない。

明らかに望みが叶うと喜ぶ姿には見えなかった。

いつもならこっそりと目を合わせてくれるのに、それすらない。…兄ではないという言葉を信じ、戸惑っているのか。

様子のおかしい深雪に付いて行ってやりたかったが、叔母上が葉山さんを呼び、使用人に案内させてと声を掛ければすぐに来た使用人に連れられて深雪は行ってしまった。

この、くだらない茶番の真意を聞かなければ。

退室する深雪を姿が見えなくなるまで見送って、俺たちも場所を移動するらしい。

面倒だからこの場で構わないのだが、ここでへそを曲げられて真相を語られなくなっても困る。従順な姿勢を見せた方が得策か、と反論もせず付いていった。

 

 

――

 

 

到着したのは当主の書斎部屋。

ざっと部屋を確認して、葉山さんに勧められるままソファに腰を下ろす。

このような待遇も初めてだ。先ほども部屋を出る前に深く一礼をされたりとすでに一部の使用人、執事には俺の明日の発表の内容を知らせているらしい。

ここで発表を無しにしろと要求したところで無駄だということだ。

大人しく雑談に付き合い、この部屋が完全なプライベートスペースらしく、HARもスタンドアローンで動かしている、完全なオフライン環境だということを知る。

葉山さんからも達也様、と様付けで呼ばれ座りが悪いが、もうこれは決定事項なのだと思い知らされるようだ。

どれだけ人の人生を振り回せば気が済むのだろうか。そんな不満を押し殺し、無難に目の前のコーヒーの話題に花を咲かせた。葉山さんの淹れたコーヒーは深雪が淹れた物よりも美味しいのだろうということは分かった。

ただ、好みで言えば慣れた深雪の味が恋しいと思った。

アイドリングトークはこんなものだろう。

あちらも本題に入るきっかけを待っていたようで、互いの視線が交差する。

どこから話すべきか、と悩むほど話すことがあるらしいが、まずは嘘について問いたださなければ何も始まらない。

何故深雪が妹でないなどと嘘をついたのか追及すると、嘘がばれると思っていなかったのか白を切ろうとしたので、はっきりと確証ある事実を突き付けた。

 

「俺は物質の構造と構成要素を認識し、任意の構成段階に分解することができる異能力者だ。物質の構成要素を認識するということは、それが何を素にしているのかを認識するということでもあります」

「あなたの情報遡及は24時間が限度だったと思うけど」

 

ああ、そこで認識がずれて騙せると踏んだのか。

構成要素に関する情報は時間的な遡及は必要ないと言えば、叔母上からはしまったという焦りの表情が、葉山さんからは単純な感嘆があった。

彼女はあっさりと俺の素となった卵子が叔母ではなく母のものであり、深雪と同じものであることを認めた。

だが、そのあとが問題だった。

 

「あなたと深雪が実の兄妹ではないというのも、完全な誤りではないのよ」

 

この期に及んで一体何を言うつもりだ、と続きを待った。

 

 

 

「だって、深雪さんは調整体だから」

 

 

音は聞こえたのに、言葉を認識できたのは数秒経ってのことだった。

 

 

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