妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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九校戦編⑦

 

「深雪って怒ると怖いのね」

 

午後になり、合流したお兄様にさっそくチクるエリカちゃんは懲りていなかった。

いや、懲りたんだろうけど文句の一つでも保護者に言ってやろうと…つまりやっぱり懲りてはないのか?

 

「深雪を怒らせること自体なかなか難しいと思うが」

「あははー」

「いったい深雪に何をした?」

 

やぶへびだった。お兄様はちょっぴりおこです。

搔い摘んで事情を説明すると、お兄様はくるりと私に向き直るとちょっと怖い顔をして。

 

「俺の前以外でそういう冗談はだめだ。変態が湧くだろう?」

 

…湧くんですか、変態。

ちょっとしたおちゃめな冗談のつもりだったけど…と、ふと思い出したのは温泉の記憶。

そういえば歩く猥褻物扱いだったな。湧くか、変態。

 

「気を付ける」

 

それが正解だ、と頭を撫でるお兄様。

エリカちゃんは自分が怒られるんじゃないとほっとしてるみたいだけど、原因貴女だからね?

 

「エリカも、あまりそっち系で揶揄うと――その内揶揄えなくするぞ」

「え。どういう…?」

「揶揄えるのは絶対にないと思っているからだろう?」

「そりゃあ、まあ?…え゛!?」

 

え。

 

「お、おい達也その辺にしてやれ!てかその辺で勘弁してくれ!!美月が今にも卒倒しちまいそうだし幹比古は真っ赤になってうろたえてるし、エリカだってそっちの二人の女子だって固まっちまってんだろ。…俺だって反応困るわ!」

 

私だって困りますよ。てか困ってるよ。てっきりエリカちゃんにそっち系のネタ注意するだけだと思ってたらこっちに飛び火が!

何?私お兄様に何をされるというの?!だめだからね!お兄様はノーマルなんだからそっちのイメージよくない!!

あ、今恋人設定だから?期間限定ってやつです?!

 

「…いつも言ってるでしょ、冗談はちゃんとそれっぽく言って」

「揶揄いすぎたか。悪かった」

 

とりあえず皆、冷たいジュース注文するけどいいよね?冷やそう、頭も顔も。

 

「おい、反省したか?」

「…しました。ごめんなさい」

 

西城くんって本当にいい男過ぎない?もうこの二人くっつかないかな。ああでもエリカちゃんがお兄様と、っていうのも捨てがたい。悩ましい問題だ。

 

「深雪も反省したかい?」

「やっぱりそういう意味だったのね…はい。しました。ごめんなさい」

 

それからは普通に観戦しました。

あ、でも七草会長の試合は人気がすごすぎて、熱気に中てられてしまった吉田くんがダウンして帰ってしまった。感覚が鋭すぎるっていうのも大変だね。

他を圧倒する会長の力に、本人の美貌も手伝って会場が熱狂していた。

アイドルさながらの盛り上がりだ。

戻ったらサインでも貰おうかしら。なんて。ミーハーな私です。

ともあれ七草会長はぶっちぎりの優勝。他の競技も予選を突破していい滑り出しだ。

男子の方は少し危ない場面があったようで服部先輩がギリギリ優勝。

その他も何とか予選は突破したという結果だったので男子は反省会と次に向けての話し合いをしているようだ。

必然的に女子会になった。

まずは景気づけの会長の勝利を祝って乾杯からスタートし、今後の流れを生徒会が中心となって予測する。その間一年生たちは先輩たち凄かったね、と話に花を咲かせていた。次は自分たちの番だと発破もかけている。気合十分だ。…一部緊張も十分みたいだけど。

 

「ほのか」

「だ、大丈夫!」

「じゃなくて、はいこれチョコレート。甘めだから力になるわ」

 

口に放り込んであげると、ほのかちゃんは目をぱちくりさせてもごもごと口を動かす。

甘いからと言って何かすごい効果があるわけではないけど、ちょっとしたおまじないだ。

 

「おいひい。元気出る」

「ほのかは単純」

 

雫ちゃんもちょっぴり呆れてるけど口元は笑っている。

作戦会議は終盤で、エンジニアのフォローが必要だという話になり、二日間オフ予定だったお兄様に手伝ってもらうことになったらしい。

 

「達也くんに伝えてくれる?」

 

端末で連絡しないのはなんででしょう?とは聞かなかった。

お兄様に会いに行く理由があるのはありがたかった。

 

 

――

 

 

「…それでこんな夜更けに」

 

部屋に招き入れてもらい、ベッドに腰を下ろさせると、お兄様手ずからホットミルクを入れてもらった。

 

「いくらホテルの中とはいえ、こんな時間に女の子が一人で部屋の外を出歩いてはいけないよ」

 

ここが軍事施設でホテルよりもセキュリティは上だと言ってもすでに敵が潜り込んでいる現状。

守りもへったくれもないけれど、私をどうこうできる人ってそもそもいるのかしら?…とは言ってはいけない。

いくら強くなろうとも、何があってもお兄様が駆けつけるから安心と言っても、妹を心配するのはお兄様にとって当然のことなのだ。

 

「申し訳ありません、お兄様」

「いや、お前はただ先輩たちに頼まれただけだろう?」

「メールや電話でもよいことはわかっていたのですが、お兄様に会えると思ったら、言われたとおりに来てしまいました」

 

本当は来ない方がいいことくらいわかっている。

だが、お兄様の顔を見て、触れて安心感が欲しかったのだろう。

日中、あんなことを考えてしまったから、余計に。

守りたい相手に甘えるなんて、矛盾しているようだけど。

自分の情けなさに内心落ち込む。

 

「…仕方ないな」

 

そう言うとお兄様は隣に腰かけ、その反動でスプリングが揺れてたが、カップの中身は零れずに済んだ。――お兄様が取り上げて抱き寄せられたから、なんだけど。

 

「甘やかされておいて言うのもなんですが、お兄様は私に甘すぎます」

「お前を甘やかすことは俺にとって至上の喜びだからな」

「…お兄様の迷惑になっていなければいいのですけど」

「迷惑なものか。――もしや机の上のモノを言っているのか?気にすることはない。あれはちょっとしたおもちゃだから」

 

お兄様が作業をしていたスペースにはノート型端末が開かれており、それがCADのプログラムだということは一目見てわかった。

今日の昼間思いついたことを、さっそく形にしようとしていたらしい。

 

「ああ、お前に頼まれたおもちゃは完成しているよ。牛山さんが面白がってた」

「ありがとうございます。あんなその場の思い付きのような案を」

「深雪が考えてやってみたいというものを俺が叶えてあげられるなんて、こんな嬉しいことはないよ」

「…あのような子供だましが本当に効くか、わかりませんけれど」

「魔法は工夫次第、老師は深雪に面白い影響を与えてくれた。そのことは感謝しないとな」

 

…すみません。ただのオタクの閃きと言うか、不発になってもおかしくはないネタなのですが。

いや、いざとなれば力押しに変更するから、負けはしないと思うんだけど。

 

「一度きりの奇策ですが、お兄様との合作と思うと、なんだかもったいなく思えてきます」

 

二度は使えない策だ。もったいないけどでっかい花火を打ち上げて驚かせたいような、そんな気持の方が勝る。

やったことはないけれど黒板消しをドアに挟んで先生に開けてもらう時のような高揚感?

 

「深雪のおかげだな」

 

そんな変なことを考えていたら、ふいにお兄様が呟く。

向けられた視線はどこまでも優しい。

 

「学校生活がこんなに楽しくなるなんて思いもしなかったよ」

 

穏やかな笑みだった。

返してもらったカップを傾けちびちびミルクを飲む。

そうでもしないとこぼれそうになるから。

 

(お兄様こそ、私を喜ばせる)

 

喜びのあまり泣きそうになるのをこらえて飲むミルクは、ほんのり砂糖が入っていて心も体も温まる。

 

「さ、それが飲み終わったら部屋まで送ろう」

 

その言葉にちょっといたずら心が疼く。

 

「そんなことを言われては最後まで飲み干せなくなってしまいます」

「…もしかして昼間の仕返しかい?」

「あら、これが最後の一口でした」

 

にっこり笑うとお兄様は悪かったと謝った。

いつまでも負けっぱなしの妹と思われてはいられないからね。

送ってもらう間、遅い時間だというのにちらほらと人とすれ違った。

もしや皆カップルだったり…?青春だね。

だけどなんだろう、別に羨ましく思わないのは隣にお兄様がいるからだろうか。

 

「それじゃあ、おやすみ深雪」

 

よい夢を、と髪にキスを落とされた。

ボンッと音が鳴ったのは私だけじゃなかったと思う。でも周囲を確認なんてする余裕はない!

そんなこと今までされたことなんてない。もしかしなくてもコレさっきの仕返しですねお兄様。

…お兄様も負けず嫌いでしたね。よく母ともやり合ってましたっけ。

小さく鳴くように「…おやすみ」と返すので精いっぱいだった。

 

 

――

 

 

今日のお兄様は大忙しだ。

朝から姿を拝見し、目を合わせるくらいしかできなかった。

挨拶をする間もないのだから相当だろう。

七草会長の試合が終わったら、お兄様と合流して雫ちゃんと三人でアイスピラーズブレイク――ピラーズブレイクを中から見学させてもらうことにはなっているから一日会う機会がないわけではないのだけど。

 

「それにしてもすごいね」

 

雫ちゃんの視線の先は、私に向けられている。

クラウドボールの本選と同時にピラーズブレイクの予選が始まるので、こちらには七草会長を見たいファンたちがいない分人は少ないと思っていたが、そうでもなかった。

というか私の後ろにぞろぞろと人が付いて回っているような…。そして視線がたくさん向けられていて、ですね。

 

「…達也さんがいないから見放題って思われてない?」

 

チャンスってことですか?ないよ。試合を見ようよ。

 

「鼻眼鏡でもしたら皆見なくなるかしら?」

「それはそれで見てみたいけど、多分逆効果」

 

だよね。私も深雪ちゃんがそんなことになってたら二度見どころか五度見くらいはする。

 

「精神干渉魔法くらい使っても」

「だめだから。会場でどんな目的でも魔法使ったら捕まる」

 

出場権はく奪ですね。逮捕じゃないです。

閣下の魔法が羨ましい。今すぐ使いたいと思ったけど、それをやったらどんな理由であっても魔法を使用したということで違反者扱いになってしまう。…世知辛いね(違う)。

 

「雫、協力してもらって作戦立ててる風を装ってもらってもいい?」

「もちろん」

 

端末を取り出して時折ああだこうだと選手たちを指さしながら観戦に集中した。

遠慮して話しかけてくる人はいなかったけど…疲れた。

雫ちゃんもありがとう。

二人してこっそりサムズアップして笑い合った。

いくつか試合を見て、予定通りお兄様との待ち合わせ場所へ向かうと、お兄様は私たちの後ろに気が付いて目がすっと細くなる。

途端ざっ、と背後で立ち止まるか、去っていく気配がするが振り向いてはいけない。私たちは何も気づいていない。

 

「お待たせ」

「やっぱり俺が迎えに行けばよかったな。大丈夫か?」

「雫とずっとおしゃべりしてたから、ね」

「うん、深雪に手出しはさせてないよ」

「ありがとう雫」

 

すごいね。あんなに煩わしかった視線がちょっと離れましたよ。…無くなりはしないけどね。

というわけでさくさく移動です。雫ちゃんとお兄様に挟まれて。ちょっと調子に乗って二人と手を繋いじゃったりしましたけど、二人とも優しいので振り払われることはなかった。

 

「深雪って案外パーソナルスペース狭い?」

「あまり気にしたことなかったけど、そうかも?」

「深雪は無意識にくっついてくるタイプだな」

「え、そうだった?」

 

自覚はないけれどお兄様が言うのだったらそうなのだろう。

前世はそんなことなかったと思うから、深雪ちゃん生来のものかな。生まれ変わると味覚が変わる的な?

 

「嫌だったら言ってね」

「「嫌じゃないから大丈夫」だ」

 

(…この二人ってちょっと似てるよね。並んだところを写真撮りたい)

 

到着したスタッフ席はすでに慌ただしい状態だった。

これから出場する花音先輩にも五十里先輩にも声を掛けられる状態ではなかった。

その間お兄様がピラーズブレイクの説明をしてくれる。贅沢だよね。

私たちもここで試合をするんだ。舞台裏を見て実感する。

選手が櫓に上昇して舞台に上がる。

スタッフは固唾を飲んで見守っている。

見ているだけの私たちにも緊張が走る、のだけど、その櫓に幻影を見る。――そしてこの高揚感は、

 

「深雪も、感じてる?」

 

ぎゅっと握られた手が熱かった。

きっと私も。

 

「雫、負けないわよ」

「私だって、負けない」

 

まだ予選すら勝ち抜いていないけど、戦ってすらいないけど二人して予感した。

きっと私たちは決勝で顔を合わせることになるだろうと。

原作知識じゃない、説明できない不思議な感覚。

 

「盛り上がっているところ悪いが、始まるぞ」

 

お兄様に声を掛けられるまで見つめ合っていた私たちは、慌てて視線を舞台に向けた。

まずは先輩を応援だ。

とはいえ心配などなかった。

圧倒的な試合運びだった。

魔法力が特別強いわけではないが、千代田家の地雷源は見ものだった。

偏に振動と言っても様々だ。だから防御をする側もどういった振動に対抗させるか、魔法を選択することが重要だ。

…私の場合、そこに関しては干渉力に物を言わせてしまうのが一番効率的だったりするので、ずるをしているような気分になる。

…これも実力のうち、ということなのだけど釈然としないので、こっそり隠れて勉強しているけどね。

相手の手の内の勉強ならやってもいいでしょう?!と無駄じゃない言い訳を自分にして。

…器用貧乏だった前世ってこうやって無駄な知識溜めこんでたからそうなったんだなー、と真理にいたる15の夏。

 

「深雪、落ち込んでる?」

「ううん、何でもないの」

 

ちょっと過去に思いを馳せてただけだから。なぞは解けた。成仏してね、過去の私。

天に昇っていく幻影を見送っていると勝利した花音先輩が五十里先輩といちゃついていた。

これが若さか、いいね。青春を謳歌しているって感じ。

因みに千代田先輩を花音先輩と呼んでいるのは、五十里家に嫁ぐんだから変わらない下の名前で呼んでという気遣いからそう呼ぶようにと。将来まで見越して素晴らしいですね。式に呼んでもらえる関係になれるかしら。

 

「お似合い」

「そうね」

 

雫ちゃんも同じ気持ちだったみたい。

お兄様は、苦笑を浮かべている。お兄様も同じ意見だけど口にはしない、ってことですね。

 

(おお、お兄様が他人の恋愛を理解している。これも成長)

 

他人に興味を持てない、感情が向きにくいお兄様だったがこう、感受性が生まれ、周囲に同調する心を持った。

人がどう感じているかを感じ、同調することができるというのは、感情が育たなければできなかったことだ。

私に何かがあれば全て切り捨てて考えてしまうところはおそらく変わっていないけど、こういった日常ではシャットアウトすることない姿が、私にはとても眩しく映る。とても尊い光景だ。

 

「深雪、行こうか」

 

お兄様が手を差し伸べる。

もう次の試合の準備が始まる。私たちは早くその場を譲るため移動した。

 

 

 

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