妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.⑪

 

風呂への案内は人を向かわせると言われていたので、部屋に戻って準備をしていれば終わるタイミングで人の気配が扉の向こうに。

いつもとの待遇の違いに違和感はあるが、案内に従うまま移動し入浴、誰にも会わずに部屋に戻る。

そこまでの間に何か変わった様子などは無かった。

せいぜい部屋に誰かが入った形跡はあるものの、不自然には思わなかった。

深雪はまだ戻ってきてはいないようだ。

そのことに少しばかり安堵した。

考える時間が圧倒的に足りないこの状況に普段は感じることのない焦燥感に捕われて、思考がうまくまとまらない。

というより、この先のプランも立っていない。

これからまず兄妹ではないという言葉を真に受けたかもしれない深雪に、正しい説明をしなければならない。

俺たちは偽りなく血の繋がった兄妹であること。

ただ、深雪が、調整体であることも。

――そして、明日から婚約者となる俺たち兄妹に、実質結婚できない理由が無いことも。

 

(無い、わけではない。ただ、兄妹を理由に結婚ができないという柵だけが取り払われていることを伝える)

 

彼女はそれをどう思うだろうか。

あれだけ光宣のことで怒りを覚えていた彼女のことだ。兄妹での結婚なんて抵抗や嫌悪があるかもしれない。

いくら調整体だからと兄妹であっても子供を作れる、なんて非常識だ。深雪にそんなことが受け入れられるかもわからない。

そもそも――

 

(俺が深雪に対し恋愛感情を抱いていることを受け入れられるか…?)

 

兄妹仲は非常に良好で、周囲からも異常だと言われるほどに仲が良かった。

深雪は触れられることを嫌がることはなく、時折恥ずかしがってはいるものの、避けることもなければ触れないでと言われることもなかった。

抱きしめてもキスをしても拒絶されることはなく、真っ赤になりながらも許してくれた。

時にやりすぎて意識を失ってしまうこともあったか。

…今思えばあの時からすでに自分の理性が働いていなかったのだろうな。

妹を失神するほど愛でるなど、兄としてあり得ないだろう。

 

(だが、兄でなければなんだったら有り得るか――理性を失ったケダモノの所業なのでは…?)

 

恋人でもない異性を欲望の赴くままに愛で、追い詰めるなんて。

 

(…よくこれで深雪に今まで避けられなかったな)

 

深雪は兄に寛容すぎではないのか?

例えば、とエリカがもし自分の妹だった場合を想像してみた。もし、彼女を深雪にしたように愛でたとしたら――すぐに斬りかかられた。そして睨まれ、触るな!と警戒される。

容易にイメージできた。

エリカならばそれくらいしてきそうだ。そこに照れ隠しがあるのかどうかわからないが、確実に距離は取られただろう。

いくら慕ってくれていたとしても年頃の妹の反応とは似たようなものになるのではないだろうか。確か一条も妹に毛嫌いされているんだったか。…それが普通とも言っていたな。

 

(…もしかして俺の為に作られたというからには、遺伝子操作で――いや、感情までは操れないはずだ)

 

生まれた頃より唯一を慕うように作られたのでは?なんて、さすがにあり得ない。

だが、深雪の献身はただの兄に向けられるものとは思えなかった。

深雪しか見えていなかったとはいえ、一般的な兄妹というものを観察していた時期もある。それは兄というものを知る為、でもあったがそれは同時に妹の観察もしていたことになる。

本来であれば自然と身につくだろう兄妹の関係性も、自分たちの環境では身につくはずもなく。

対外的に普通一般の兄妹を演じるためには必要なことだった。

そのため様々なケースを観察してはいたのだが――いつの間にか自分たちは自分たちなりの兄妹であろうとし、参考にもしなくなっていた。

しかし、思い返せば如何にこれまでの言動が非常識だったかを思い知らされる。

兄の自分も大概ではあるが――それに対する深雪も、一般的な妹とは異なっていた。

そもそも兄に献身的な妹など、百年以上前の旧時代、男尊女卑がまかり通っていた時代の旧家くらいではないだろうか。ああいった家は仕来りにうるさく、女は家の為に尽くすものである、との教えを遵守するのがほとんどだったと中学の授業の雑談として聞いた記憶がある。

教師の趣味が時代劇だったから出た雑談であり、フィクションの話だったかもしれないが、今ではあまり現実味の無い話というのが一般的な意見だろう。

 

(…自分が妹の理想的な『兄』でありたかったように、深雪もまた、俺の理想の『妹』をやってくれていたのではないか…?)

 

ふとそんな考えが過るも、それにしては彼女の言動は自然なものに思えた。

何時だって深雪は、俺の為に尽くしてくれていた。自分がそうしたいから、と笑ってくれた。

彼女の思いやりを、感じられたから――深雪には、ちゃんと自分の意思がある。それは間違いない。

今までの全てが演技でないことくらい、分かっている。

完全調整体だからといっても心までは縛られない。

唯一それができただろう母は、そんな細工をしていなかった。

だから、深雪が俺を受け入れてくれていた、ということも間違いないはずなのだが…深雪の心が今まで以上にわからない。

 

(深雪の幸せはどこにある?叔母は言っていた。自分を犠牲にして叶えようとしている、と。それはどう考えても自分の幸せを思っての行動ではない。――深雪は誰かの幸せを願っている)

 

ずしっ、と加重魔法がかけられたように体と心が重くなった。

深雪が、誰かの幸せを願っていると思うだけでその誰かに右手を向けそうになる。

酷く、醜い嫉妬心だった。

 

(いったい誰だ?深雪の心をずっと奪っているのは)

 

母かとも思ったが、故人を喜ばせたいと思うことはおかしくないが、だからと言ってあそこまで自身を追いこむように鍛え続けるだろうか。

魔法も知識も体術も美貌も。

彼女が手を抜いているところを見たことが無い。

それらの努力がたった一人の為だけに向けられているというのかと思うと、また嫉妬の炎が燃え上がるが、自分たちの周囲で深雪が尽くしている相手が浮かんでは消えていく。

四葉の為、なんてことはあり得ない。一瞬勝成さんがよぎったが、離婚をしてもいいと考えていたりすることから違うように思う。では文弥はどうだ?候補に名は上がるだろう。彼の為に重責になるだろう当主の座を掴み取った可能性はあるが――文弥を可愛いと思っているようだがそれ以上の感情は見えなかったように思う。

高校のメンバーではないはずだ。彼女は中学の時にその目標を決めているはずなのだから。その時に知り合っている人物で幸せを願う――儚く散っていった桜井さんの為に自身が幸せになるんだ、と努力する可能性もあるのか…?彼女のことを密かに姉と思うくらい慕っていた。

 

(いや、それなら母の横に写真を飾っていてもおかしくない)

 

大切なのは間違いないが、母同様違う気がする。

となると――

 

(以前の俺なら気付けないが、今の俺なら気付ける相手――?)

 

深雪がいつも一生懸命になる相手なんて――そんな相手を俺が見逃すだろうか。

何か重大なことを見落としている。そんな気がするのだが――頭がうまく働かない。

何時までも扉の前で突っ立って何をしていたのか。せめて座って考えようと座卓に向かったのだが、そこで視界に入ったのは――一組の布団。

部屋を出る時までにはなかったのだから、使用人が用意したのだろうことはわかっているが――明らかに一人用ではない布団一組に枕が二つ並べられている。

これが意図することなど一つしか思い至らない。

それは想像力が貧相なのではない。この布団がそういった用途のものだからだ。

叔母上――四葉真夜の最後の笑みが思い出される。あの顔はこれを用意していたからか。

使用人が勝手に敷くわけがない。これはあの人が全部用意させたのだ――!そのために、わざわざ遠い風呂場まで案内させて!!

冷静に見られるわけもなかった。

目を向けただけでそこに横たわる姿を夢想してしまうくらいに。

それがいけなかった。

思考がそちらに奪われていたことによって背後に近づく気配に気づかなかった。

振り返らずともわかる、深雪だ。

こんなに接近していたのに気づかなかったなんて、とんでもない失態だ。

しかも、こんな現場を見られるなんて。

俺が何を見ていたかなんて、もう少し覗けば見えてしまう。

そして深雪は今も俺の方に近づく足を止めていない。

 

「俺が来たときにはすでにこうだった――」

 

何か弁明を、と口を開いて振り向いたのだが、最後まで言い切ることはできなかった。

 

 

美を極めると、人は発光するらしい。

 

 

あまりの眩さに目を逸らさないと、と思うのに視界から外すことを拒否している。

いや、実際に人間が発光することはないのだから外す必要性は全くもってないのだが、自分が見ているモノが信じられなかった。

深雪であることは間違いない。だが、――身に着けているのは肌が透けて見えているのではないかと言うほど薄い単衣だけ。華美なドレスでも着物でもない。

だからこそこの輝きは深雪自身のものから発せられているのだということだ。

 

(ああ…こういうことなのか)

 

深雪がよく許容量を超えて呼吸を止めることがあり不思議に思っていたが、これは確かに呼吸が止まるほどの事案だ。

精神干渉を受けているのかと言うほど、思考は鈍り、体も動かない。俺は深雪に魔法をかけられているのだろうかと疑いたくなるが、魔法の痕跡は視られないのでそれはない。ただ純粋に深雪そのものに魅了されたのだ。

深雪が目の前で動いているのにそれを視線で追うことはできても、それ以外に何も考えられない。

ただ、動いたことでかすかに香る香りがいつもの深雪と違うことだけは分かった。

思考力とはここまで低下するのか。

見惚れるというのは恐ろしいな。思考も視線も呼吸さえも奪われてしまうのだから。

だが嗅覚が働いたたことで意識が少しずつ戻ってきた。

とりあえず必要なのは酸素だ。深呼吸をして体の自由を取り戻す。

 

「お兄様…」

「すまない。あまりの美しさに魅入ってしまった。随分と磨き上げられたようだね。いつものままでも十分美しいが、まだその上があったなんて、驚いた」

「……ありがとうございます」

 

深雪の輝きが治まったわけではないが、目が少しずつ慣れてきたとでも言うのだろうか。それでもとんでもなく美しいのは変わらず、羽織っている白い衣が霞むほどの輝く肌は、血行が良くなっているのか薄い桃色に染まっていてみずみずしさもある。

しかしながら、冬の夜にはどう見ても寒そうな恰好だ。薄い生地は体のラインを隠す気もないのか曲線をなぞるだけであって艶めかしさが際立ち刺激が強い。今すぐに何か上にかけてあげたいのだが、上気した頬と、ほう、と漏れる吐息から寒いどころか少し熱を帯びた気だるげな様子に、相当マッサージで体を温められてきたのだろうことが分かった。

だが、潤んだ瞳と少し体を内側に丸めるような姿はあまり直視してはいけないという気持ちにさせられる。

それに、深雪がそわそわと目を泳がせ出したことから俺の背後の布団に気付いたようだった。

そっと襖を閉じる。

意識していると思われようとも、深雪が落ち着けないのであれば閉じた方が良いだろう。

話すことがたくさんある。とりあえず座るように促せば視界からあの布団が消えたことでほっと安心したようで言われるまま座布団の上に腰を下ろした。

本日二度目のしぐさだが、今度は視線をずらして焦点を当てないようにした。

ただでさえ普通のワンピースであれほど艶めかしく座った深雪だ。あの時でさえ直視できなかったというのに、今の恰好でされて凝視しないでいる自信が無かった。

フォーカスを当てなくても十分に美しい所作なのだが纏う色香が心を惑わす。

順番も無視して好きだと叫んで押し倒してしまいそうなのを理性の鎖で縛り付け、呼吸を整えた。

しかし、どう口にしたものか。話すことが多すぎた。それも、ただの説明ではない。自分たちの関係性を揺るがす内容を、だ。

深雪の心境はどうなのだろう。

叔母上から兄妹ではないと聞かされ、兄だと思っていた人間と婚約者にさせられ――拒絶、の様子は見られないが落ち着きが無いようには見える。動揺していることを隠そうと取り繕おうとしているような、そんな気配がした。

それが可哀想に思えて、まずは安堵させるべきだ、と口にする言葉を決めた。

 

「結論から言う。俺たちは間違いなく兄妹だ」

 

ゆるぎない事実。

俺たちの関係を繋ぐ大事な要素。

深雪のことを女性として愛しているのだと自覚していても、兄妹である繋がりを厭うことなどない。むしろ血の繋がりは俺にとってこれ以上ない強固な繋がりと言えた。

ただの恋人、婚約者などという、絶たれれば繋がらない関係ではなく、一生縛り付けるものだから。縁を切ろうが家族を作ろうが決して揺るがない関係。

断言すると、深雪は大きく肩を上下させ胸を撫でおろして安堵の表情を浮かべた。

彼女もまた兄妹であることに安心するのだと思うと嬉しく思う。ただ、そうなると不安なのは――深雪が婚約者という関係を、将来は結婚するのだと受け入れられるか、である。

 

「ただ、叔母上には俺たちを婚約させることができる根拠をお持ちだった。深雪、心して聞きなさい」

 

深雪の反応が怖い、と感じるのは初めてだ。

俺が、深雪に恐怖する時が来るなんて。――拒絶されることを恐れるなんて。

昔はそれが当たり前だったのに。嫌がられても大事な妹を守れるなら、そう思っていたのに。

俺の心は成長と共に弱くなる。

 

「お願いします」

 

逆に深雪はどんどん強くなる。

置いていかれないよう必死に取り繕う自分が滑稽だが、それでも縋り付きたくなる理由がある。

 

(俺は深雪が――欲しい)

 

だから、どんな卑怯な手を使っても、見っとも無く足掻いてでも――

 

 

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