妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.⑫

 

 

「お前は、調整体、らしい」

 

俺の為だけに作られた女の子、とは流石に言えなかったが、遺伝子操作により素は同じであろうとも遺伝子がかけ離れているため兄妹で子を成しても問題が無いのだという叔母の言葉を伝えた。

それを彼女は一体どう受け止めるのか。つぶさに観察する。

見る、観る、視る――。

表立った乱れは視られない。呼吸も、瞳孔も、発汗も、体温の上下も何の変化もない。

ただ、静かに口を開いた。

 

「私は、お役目を果たせますでしょうか」

 

お役目――お役目?

問われた言葉が予想外すぎて頭を巡らせるが、深雪の言うお役目とは何だろうか。

いざという時の為の制御装置、というのは四葉内の表向きの理由だ。

叔母上が言うには俺を生かすために作られ、結婚をするように望まれるからには、行きつく先は…子供を作る、子孫を残すこと、か?

だが叔母上の様子からは四葉の存続を願うようには見えなかった。世界の破滅を望まれていたからな。この発想はあまりに俺に都合が良すぎるか。

もしそうだとしても、深雪がこんなにあっさり恥ずかし気もなく言葉にできるとも思えない。

調整体であることを伝えても動揺しなかった…やはり深雪は俺の知らない何かを知っているのだろうか。

 

「お兄様…?」

 

しまったな。顔に出したつもりはないが、深雪は聡い。

ここは観念して素直に言葉にした方が良いだろう。

 

「…深雪、お前はどこまで知っている?」

「!!」

 

調整体と告げた時よりも、こちらの方に反応を見せた。びくり、と肩を揺らす。

だが、隠し事をしているというより、何かを間違えた、というような後悔?のようなものが感じられた。

視線をさまよわせた後、おずおずと口を開く。

 

「調整体、と言うからには何か目的があって造られた、ということでしょう。それでしたら私にはお役目があるはずです」

 

調整体を造るからには目的が存在する。

それは護りを中心にアプローチした魔法師を造り出すためか。

サポートをメインに造られるか、最強の魔法師を造ろうとするか。

たった一人を生かすためだけに、造られるか。

…深雪の頭の回転の良さ、勘の良さには驚かされるばかりだ。

抱いた感想をそのまま口にすると、深雪は苦笑を浮かべて。

 

「では訊ね方を変えましょう。私の寿命は短いでしょうか」

 

その言葉に、今度は言葉どころか配慮も足らなかったのだと気づかされた。

そうだ、まだ説明が途中であった。深雪が、調整体だと言っても一般的な調整体とは違い、常識を覆す完全調整体である、という肝心要を話していなかったのだ。

 

「それは無い、そうだ。お前は四葉が粋を結集させて造った完全調整体で、俺より先に死ぬことはないらしい」

 

調整体の寿命は短い。二世代、三世代と続けばまた変わってくる可能性があるが、深雪は一世代目。だが、ただの調整体ではなく、どのようにやったのか霊体にまで手をかけて完璧に造られた存在らしい。

俺のストッパーを兼ねているというのなら、同じかそれ以上でなければ成立しない。先に儚くなるということになれば完璧とは言えないだろう。

 

「それは、よろしゅうございました。お兄様とこの先も生きられるのですね」

 

心底安堵した、と言わんばかりの気の緩んだ笑みを浮かべられ、嬉しさ半分複雑な気持ちを抱いた。

深雪の言う、俺とこの先、というのは兄妹として、ということなのだろう。

彼女にとって俺との婚約は一時的なものであり、叔母上曰く、これから俺の結婚相手の選定をするつもりだというのだから。

 

(何故、そんなことをしようというのか)

 

深雪から聞いたわけはない。だが、叔母上の言葉を聞いて思い当たる節が無いとは言えなかった。

深雪は、俺の傍に特定の女子がいる時、目を輝かせていることがあった。そのたびによくわからない不安と複雑な感情を抱いていたものだが、自覚した今ならそれがなんだか分かった。

俺は、深雪が離れていく予感に不安を抱きつつ深雪に嫉妬して欲しかったのだ。面白くないと、そう思って欲しかった。そして俺はお前のものだと伝えたかった。

俺を、自分のモノとして必要として欲しかった。

しかし、自分の婚約を後回しにしてこちらの婚約者を選定しようとするということは、

 

(深雪の幸せに、俺は必要ないということなのだろうか)

 

その考えに至った瞬間ずき、と胸が痛んだ。

思うだけでこの威力。深雪に直接言われたりしたら、俺は死んでしまうのかもしれない。

だが、そうだ。深雪は言っていたではないか。

共に幸せになりましょう、と。

恐らく深雪にとって俺が誰かと結婚することは幸せなのだ。それは厄介払いとか、別の家族を築くから距離が取れる、というわけではない、はずだ。

 

(まず最悪の事態の方から打ち消していこうとする癖は何とかした方が良いかもしれないな。想像だけでダメージが大きい…)

 

深雪から距離を取られると、離れたいと思われているのではと考えるだけで心に痛みが走る。

しかし、だとしたら先ほどの共に生きられるという言葉が成り立たない。

彼女は共に歩めるのだと喜んでいた。

 

――あの子が、何のために一生懸命なのか。

 

叔母上の言葉が甦る。

自分の幸せを犠牲にしてまで叶えたい願いがあり、たった一人の幸せのために一生懸命に努力している。

 

(その相手がもし、自分であったならどれほど幸福なことだろうか――だが、婚約者を選定される時点で、深雪の幸福には…ん?)

 

「…お兄様?何か問題でも?」

「問題、ではないんだが…」

 

今、何かが引っかかった。

だが、それが何だったか今の思考を羅列しても導き出せない。

 

「もしや、婚約のことでしょうか」

 

そうだ、婚約。そのことを考えて引っかかったはずだ。

 

「…深雪は、どう思う?」

 

深雪は、何故、自分の婚約を蔑ろにしてまで、俺の婚約者を選定するんだ?…いや、まだ彼女の口から聞いたわけではないのだからそうとは決まったわけではないが。

婚約について一体何を考えている?

 

「そうですね。以前にも申しました通り、私個人としてまだ結婚について考える余裕がありません。いずれ四葉のために誰かが宛がわれる時が来るのだろうとは思っておりましたが、お兄様と婚約せよ、ということはまだ精査中なのでは、と愚考します」

「あの時も言っていたね。俺との婚約が一時的だと。なぜだ?」

「なぜって…。あまりに周囲に混乱を招くからです。私たちは魔法界でもそれなりに目立った存在になっています。九校戦での活躍は魔法師のほとんどが知る所でしょうし、青田買いを狙う企業や軍などもお兄様は目をつけられておりました。私たち兄妹は黒羽姉弟ほど兄妹として目立ってはないかもしれませんが、調べればすぐにわかるはずです。その兄妹が実はいとこ同士であり、いきなり婚約すると発表をすればセンセーショナルな話題となるでしょう。更にこれが他の十師族であれば避けられたでしょうが疑惑疑念を多く向けられる四葉です。疑われること山のごとし、でしょうから。きっと横やりが入ることでしょう」

「横やり…婚約に口を挟むか」

「師族会議も近いことですから、何かしらアクションはあるでしょう。七草が動く可能性も大いに考えられますね」

 

叔母上との話でも出ていたな。

可能性があるなら一条と十文字、それから何かと突っかかってくる七草、か。

 

「…叔母上にちょっかいを掛ける良いきっかけだな」

 

七草は、本当に余計なことばかりをする。

先輩たちに策略等の意図がなかろうとも、俺にとっては鬼門だ。災厄を運んでくる。

叔母上が撒く餌に簡単に飛びつく余裕があるのなら地盤を固めたらどうだ?計画が穴だらけだから手駒を失ったんだろうに。

しかし、深雪個人が結婚について考える余裕が無い――時間稼ぎだと考える理由はなんだ?先ほど兄妹であろうとも結婚ができる理由を述べたのに。

 

「俺との結婚は世間には受け入れがたい、か」

「だからこその一時的な策かと」

 

叔母上が言っていたな。

世界の害意から深雪を守る、とは深雪と俺の結婚が世間では許さないということなのだろうか。それが復讐心を満足させるというのは理解しがたいが。

深雪もそれをわかっているから、幸せになれないと思っている…?

 

(…仮定として、深雪は自分の幸せを考えていない。なら、この場合幸せになれないのは誰だ?)

 

「お兄様、申し訳ございません」

 

唐突に、深雪が頭を下げた。

さらりと流れる髪は、絹のような光沢が見えて触れたくなる。

きっとひんやりとしていてとても肌触りの良い心地がすることだろう。

顔を上げながら髪を耳にかけるが、黒を背景にしたその可愛らしいピンク色の花びらのような耳に触れたくて――口づけたくてたまらない。

――自覚とは恐ろしいものだ。どんどんと欲が溢れ、以前は形を成さなかった望みがはっきりと見えてくる。

 

「何がだ」

 

それを押し隠して平然としていられるのは、兄としての矜持か、ガーディアンとしての立場か。

とにかく聡い深雪にばれていないことが救いだ。というより、深雪にとって予想外だから考えもしないのだろう。

 

兄なのだ。

同じ両親から生まれた兄妹なのだ。

 

いくら四葉の非常識で子が作れるとなっても、本来であれば異性として好意を寄せるなど許されない。

俺たちは血を分けた兄妹なのだから。

俺は、そんな好きになってはいけない人を好きになってしまっていた。

結婚ができるなんて知らなかった時からずっと――自分だけのものにしたかった。自覚なく、愛してしまっていたのだ。取り返しのつかないほどに。

 

「お兄様にそのような役目が回されるなど、私の力不足です」

 

申し訳なさそうに頭を下げるが、深雪の力不足なんかではない。

初めから、それこそ生まれる前から仕組まれていたのだ。

そうであるように、と。でなければ、わざわざ結婚しても問題ないようになんて作る必要はなかったのだ。ただ、長く一緒に生きられる、それだけでよかったのに。

だが、やはりそうだ。

深雪は、自身の婚約者候補に俺の名が挙がっていることを知った上で俺以外を選ぼうとしていた。…まあ、当然と言えば当然か。深雪にとって俺は兄妹なのだから。

その当然が、非常に――面白くない。

役目だと、そんな風に言われることも。

 

(――俺は、自分の意思で、お前の婚約者となりたい)

 

お前が俺のものであると、世に知らしめたい。

 

「俺は構わない」

 

この現状に不満などない。お前とこのまま結婚ができるというのなら、将来を約束できているというのなら、今回の当主の決定に異論はない。

ただ、深雪の言う一時的なんてものは無理だ。破棄などするものか。

どんな手を使ってでも――そこまで考えて自嘲しそうになるのを堪えた。

 

(…俺は、ひどい兄貴だ。お前が望んでいないのに、お前を幸せにしてやりたいと言いながら意見を無視して婚約者であろうとしている)

 

自覚はしても伸ばす手を引っ込められない。手にできるというのなら、そのチャンスを手放してやれない。

俺は、俺の望みの為に――俺の、望み。

 

(俺の望みは深雪の幸せだったはずなのに、なんて浅ましいのだろうな。いつの間にか自分の幸せばかりを望むようになっていたのか)

 

深雪はずっと誰かの幸せのために生きていると聞いた時、自分と同じ想いを誰かに、なんて思っていたのに。

――深雪の幸せとはなんだ?

昨夜抱いたこの疑問。

あの時は何故その疑問に辿り着いたんだったか。

…そうだ。自由に羽ばたいて良いと、俺と別れることを示唆するような言葉を聞いたからだ。

深雪が、俺の絶対的味方だと宣言をして、嬉しさの陰で不安を覚えて。

そもそも深雪は、何故あの夜俺の部屋にやってきた?

分家の思惑を確認するためで、俺を心配してだった。

 

(そう、――俺の為…)

 

急に押し掛けたことを謝る深雪に、俺は言ったはずだ。俺の為だろう、と。言葉では否定されたが、俺は確信していた。

深雪はいつだって俺を心配し、俺を喜ばせてくれた。いつだって幸せを分けてくれた。

 

どくん、と心臓が音を立てた。

 

俺の為に。

 

(違う)

 

深雪は、俺が深雪を好いていることを知らない。

 

(ありえない)

 

俺を四葉から解き放とうとしている。

 

(そんな、都合の良いこと)

 

自分と婚約、結婚をしたら、逃げることができなくなる。

 

(やめろ!考えるな!!)

 

全部、俺の幸せのために、深雪は――

 

「深雪。叔母上が言っていた、お前の叶えたい望みとは何だ」

 

深雪が息をのむ。

 

「そ、れは…以前お兄様にも申しましたでしょう。幸せになることです」

「お前はどうしたら幸せになる?」

 

視線が揺らいだのは一瞬。すぐに仮面の下に隠される。

隠さなければならないということ。

 

「私の望む世界が迎えられること、でしょうか」

「深雪の望む世界はどんな世界だ」

「…誰もが、笑っていられる世界、です」

 

随分と、大きく出たものだ。

そうだな。俺が幸せにならない――深雪と共に生きられなくなれば、俺は世界を壊してしまうかもしれない。

そういった意味では深雪は世界を守っていることになる。

 

 

 

「――なら何故、その”誰も”に深雪が含まれていない」

 

 

 

「え…?」

 

 

 

不自然に、深雪の表情が止まった。

 

「ずっと、疑問だった。幸せになるためにと勉強も魔法も頑張っていたのを俺は見てきた。傷つきながらもよくここまで磨いてきたと感心する。誇らしいと思う。時には努力するお前があまりに眩しすぎて直視ができないと思ったほどだ。

その努力が実り、人を笑顔にさせてきたのをたくさん見た。俺や母さんのみならず、お前の周りはいつも笑顔で溢れ、お前自身も嬉しそうで、これが幸せなんだと、そう思っていた。

だが、いつも幸せだと言いながら、今のお前を見ているとどうにもお前の幸せが二の次にされている」

 

畳みかけるように言うと、深雪は呆然としてそんなことは、と否定をしようとするが、もう止まれなかった。

 

「ではなぜ幸せの象徴である結婚が、お前の中で描かれていない?確かにうちの両親を見ていれば結婚が幸せには思えないだろう。あんな親父であれば夢を抱けなくても仕方が無いのかもしれない。だが、それにしてもお前は自分の結婚ではなく四葉の為になる結婚にしか興味が無いように思う」

 

沈黙は、肯定を示していた。

深雪は、自分の結婚など二の次だった。つまり、婚約が一時的だと言っているのは――俺の為。

 

「お前の望みは何だ」

「お兄様、私は」

「“誰の”幸せを願っている」

「!!それはもちろん、私、です」

「嘘ではないな。それはわかっている。深雪は俺に嘘が吐けない」

 

深雪は俺に嘘が吐けない。いつだって、――誤解を招くような物言いをしたり隠し事をすることはあるけれど、嘘だけは吐かない。

記憶をひっくり返してみても、無かった。

それはきっと俺に言った、絶対的に味方だということをずっと守ってきたから。

 

「深雪の思い描く幸せの中には俺がいる、そうだな」

 

いつかの言葉を突き付ければ、深雪は怯えたような瞳になり小さく首を振る。

 

「…お兄様、もう、それ以上はどうか」

 

(ああ、なんてことだ)

 

こんなことが、あっていいのだろうか。

こんな、俺に都合の良いことが、あるというのか。

だが、もうそうとしか思えない。深雪の一つ一つの反応がそれを示している。

 

「一つ、訂正させてくれ」

「え?」

「さっき俺は構わない、と言った」

「…はい、おっしゃいました。この婚約について構わない、と」

「実際は大いに構う」

 

気が逸りすぎて言葉がうまく伝わらなかった。

小首をかしげる深雪が可愛い。

 

(おかしいな。少し前まで絶望を抱くほど沈んでいたはずなのに、たった一つの真実を見つけるだけで心に余裕が生まれるのか)

 

もう我慢する気はなかった。

口元に自嘲の笑みを浮かべる。

 

「俺は情けない男だ。確証を得られないと動くこともできない」

「…それは、慎重で良いことなのではないでしょうか」

 

深雪はいつだって俺の良い所を探そうとしてくれるな。そんな健気なところも好きだ。

自身が困っていたのに、心配そうにこちらをのぞき込んでくれる、優しい深雪が好きだ。

今まで何度も伝えてきたつもりでも、これから伝えるのは意味が変わってくる。

ただの兄妹として伝えていた好意では、恋になるはずがなかった。

だから、伝えよう。

明確に、言葉にして、乞おう――幸せになるために。

 

 

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