妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.⑬

 

「今までの話を聞いてよく分かった。――俺はまだスタートラインにも立っていなかったのだと気付かされた」

 

昨日まで俺たちは兄妹として暮らしてきた。

 

「当たり前だな。お前には兄である俺が、なんて思うはずも無かった」

 

ずっとこれからも兄妹として一緒に生きていくのだと、思っていた。

 

「俺自身、まだ信じられてもいないのだから無理もない」

 

まさかこんな、恋を自覚して絶望するのではなく、希望が見えることがあるなんて。

 

「深雪」

 

俺の最愛の名を呼ぶ。

名前を呼ぶだけで愛しい、との思いが溢れるようだ。

だが、思うだけでは伝わらない。

言葉にしなくては、思いは届かないから。

 

 

 

 

「愛している。妹としてももちろんだが、一人の女性として、お前のことを――愛しているんだ」

 

 

 

 

唐突な告白は深雪に届いたようだったが、いくら優秀な深雪であっても理解するには時間がかかるようだった。

それはそうだ。

こんなこと、簡単に受け止めきれるわけがない。

だが、この想いを止めることはもうできない。

唯一のブレーキであった深雪の幸せが、俺に向けられていると気付いたら、もう止まれるわけもなかった。

 

「気づいたのは叔母上と話している時だった。と言うよりアレは気付かされたのだろうな。焚きつけられたとでも言うのか。だが、叔母上に言われたからじゃない。俺はずっと前からお前を愛していたんだ」

 

具体的にいつからか、なんてわからない。だが独占欲だけは一丁前に中学に上がる前にはあったと思う。

深雪は俺にとって唯一の光だったから。こんな綺麗な女の子が、俺の妹であると、その事実が俺を支えていた。

だからずっと遠くで見守るだけでも良いと言いながらも、繋がりを持っていることが誇らしくもあった。

苦しくても孤独であっても、心が空虚になっても耐えられた。

深雪が、いてくれたから。

 

「兄妹愛だと思っていた。それしか残されていない俺にとって唯一愛することができるのがお前だったから。血の繋がった妹だから大事で、これからも一生繋がったままでいられるから愛しているのだと」

 

残されていないと思い込んでいた。

俺には多少なりとも感情があって、暗示によって抑え込まれていただけ。

激しい感情が抱けないだけで好意を寄せることもできたはずなのに、軽い暗示だけで必要性を感じなくなっていた。

恐らく、俺としても楽だったのだろう。何も抱けないのなら割り切ればいい。持たなければいい。その方が楽だ、と。

だが、深雪に感情を解放されてきて改めて気づいたのは、いらないと思っていたものが、あきらめていたものだったということ。

期待して裏切られることが恐ろしかったのだ。奪われてきた人生だったから、今さら何に期待できるというのか、と初めから持たないことを選んだ気でいたが、それは選んだのではない。あきらめていたのだ。

どうせ、俺には何も残らないのだと。

高校生活を送り始める頃には、根気よく感情の育成・解放をしてくれた深雪によって表面上だけでない付き合いができるようになっていた。

特に個性ある仲間たちとの付き合いは、今まで以上に興味深い連中であったこともあって親しみを覚え、気を許せる間柄にもなった。

事件が増え、巻き込まれるようになった時、信頼できる人たちに頼ることができるようになっていた。ただの利用、とは違う。彼らならやってくれるだろう、と期待できるようになっていた。

特に大隊の方たちには協定範囲内とはいえ、よく俺の我儘に付き合ってくれたものだ。持ちつ持たれつというにはその後の処理が大変だっただろうに。

友愛と信頼関係。

これがもし、暗示が無い状態で構築できていたと前提した上で――それでも思う。

他に感情が向けられたとしても、お前以上に好きになれる人間などいるわけがない。

この想いは確かに兄妹愛から生まれたものなのだろう。

それが、突然変異を起こしたのはいつだったか。

思うに、入学前の――深雪が女性なのだと認識した、あの地下室が一番の転機だったと思う。

深雪の、少し背伸びをしたような下着姿を目にして、しかしそれがよく似合ってもいて、もう大人の女性になるのだと気付かされたあの日。

あれから深雪相手に対して動悸がすることが増えた。

もっと触れていたいと思うようになった。

 

「何度も勘違いを正す機会はあったんだ。普通、兄は妹をあんなにべたべたと触らない。抱きしめても抱き足りないなんて思うわけがない。ましてやキスをしたい等、妹に抱く感情ではなかった」

 

あの頃は何も考えていなかった。

深雪を褒めてあげなければ、労ってやらなければ、と何かと理由をつけていた。

そうしてやるのが兄として当たり前だから、と。

だが、どう考えても抱きしめては撫でまわしたり、キスをしたりは幼い頃からの慣習ならいざ知らず、高校生になって新たにすることではない。

 

「周囲にもあんなに醜く嫉妬していたのに、俺はそれを子供染みた独占欲だと思っていた」

 

初めは桐原先輩。レオや幹比古にも向けたことがあった。

近づき、深雪に認識された男はおしなべて精査した。

深雪に害をなすつもりがあるか、好意を寄せる可能性があるか。

幸い三人は好意を寄せる相手が他にいる様だったので問題などなかったのだが、それでも近づきすぎるようなら牽制を兼ねて間に入っていた。

…桐原先輩を近づけさせないようにしたのは、深雪が初めて容姿に対して感想を述べた相手だったから。

完全な嫉妬だ。子供染みた独占欲?それならばこんなにドロドロとしないだろう。

 

「俺の大事な妹に近づくな、と。――妹であるならば、深雪の立場であればいずれ誰かと結婚することなんてわかっていたはずなのに。俺はお前を外敵から守るという名目で近寄るモノを遠ざけようとしていた。それだけでなく、お前にどう思っているかなど確認までしていたな」

 

俺には兄という立場だけでなくガーディアンという役目もあった。何者からも守護するという役目が。

四葉家次期当主候補の深雪に変な虫など近づかせないだけでなく、深雪本人にもそんな思いを抱いていないか確認するなんて。明らかに立場を弁えていない言動だった。

何故疑問に思わなかったのか。

恐らく無意識でも認めたくなかったのだ。

けして結ばれないとわかっていたから、気付きたくなかった。

実妹であることは誰よりも俺が一番知っていたのだから。

 

「わ、たしは…あの、…お兄様と…そのような、えっと」

「うん」

「か、考えたことが無くて」

 

ああ、真っ赤になって俯く深雪の何と可愛らしいことだろうか。愛おしい。仕草一つでも心が掴まれる。

深雪の言葉にショックを受けるかと思ったが、逆にその仕草だけで愛しさが募っていく。

 

「だろうな」

 

深雪が、俺に女性として愛されているだなんて気付くはずがない。

俺自身が気付いていないということもあるが、あれだけ必死に俺の幸せのために奔走していた深雪が、兄妹愛が逸脱していたなんてわかるはずがない。

彼女も日ごろの言動から普段の接し方が兄妹としておかしいと気付いていたようだけれど、それでも俺の好きなようにさせてくれたことで感覚が狂っていったのだろう。

慣らされていった深雪も深雪だが、それで調子に乗った俺も俺だ。

振り返れば、兄妹というよりも恋人のような触れ合いばかりだった。

触れれば頬を染め、はにかむ姿を愛らしいと抱きしめ――。

 

「なあ、深雪」

「は、はい!」

 

深雪の声がひっくり返る。

思考が鈍るくらいには混乱しているのだろう。

 

(悪いな、深雪)

 

出来ることなら深雪が自覚するまで待ってあげたかった。

だが、お前がまだ一時的な婚約の案を出す可能性があるのならば――俺はその可能性を、全力を以て潰させてもらう。

 

「お前は俺をそんな対象として見たことが無いのだったね。当たり前だよ。普通兄に恋をすることなんてあり得ないのだから」

「…はい」

 

俺が欠陥品だったばっかりに、兄妹と知りつつも想いを止められない。

 

「だが、お前は俺を愛してくれた。慈しんでくれた。それは間違いない」

「はい」

 

今度の返事は早かった。そこに考える余地もない、と言うほど早い返答。

その反応は嬉しいが、お前のそれは兄妹愛が主だったはずだ。

ただ、そこに羞恥が入るのは、照れる、恥ずかしい要素があるということであり、それが年齢による羞恥だけではないと俺は確信している。

 

(確信しているが――もし、俺の勘違いだったとしてもいい)

 

愛が、間違いなわけではないのだから。

それが恋からなる愛か家族に向けられた愛か。その差だけ。愛には変わりない。

 

「俺も、そのつもりだった。妹としてお前を愛していたつもりになっていた」

 

たった数時間前まで、本気でそのつもりでいたのだ。

それが今では狩人のように獲物を捕らえんと罠を仕掛け、身を低くして銃を構えている――その愛を得ようと、これまでにない緊張感をもって。

そんな妄想じみたことを考える自分がおかしくて口元が歪んでしまい、深雪が戸惑いを見せる。

けれど、逃げない。現状が理解できていないのか、まだ俺を安全だと思いたいのか。

 

「――試してみないか?」

「試す、ですか?」

「お前が俺を異性として意識できないか否か」

 

正直、叔母上の策に嵌っているようでいい気はしない。

食堂で出た次期当主の婚約者の話は俺を焚き付けるため。自覚を促すためだったのか俺にはわからない。

その後三人になって話した深雪の婚約者の指名後に、わざと想い人がいるのでは、と訊ねたのも深雪の為ではないのだと叔母上の目的を知った今ならわかる。

その後深雪を見送った後の、二人での会話で初めから結婚させる気でいたこと。

俺を四葉に縛り付けることが目的であったが深雪のファンになったと。胡散臭いことこの上ないが、あの人が深雪のことを語る目は、母にも似た感情が見えた。すぐに見えなくなったが、隠す様子に余計に演技しているとは見えなかった。

あの人は当初の目的とは逆に俺を利用して深雪を手に入れようとしているのかもしれない。

そしてこの布団である。あからさますぎるだろう。

普通ならこんな計略に乗らない。

この布団に何か仕掛けられている可能性だって疑うべきだ。

そういえば、プレゼントが届けられるということだが、まさかこの布団のことか?だとしたら大分下世話が過ぎる。

…いや、違うか。これにリボンなどかけられていない。それらしいものも見当たらない。

やはり、何か仕掛けられているのか?眼で確認するが何の変哲の無い布団に見える。

布団の成分としては、何にも。魔法の痕跡も見当たらない。ただ、この布団を何の変哲もない普通の、とは言えなかった。

目的は一つしかない。婚約者と指名しておきながら仲良く横に並んで眠りなさい、ということはないだろう。

つまり――何か企み…その先の発展を望んでいる、もしくは関係をこじらせようとしている、等考えられるのだが、あの人の考えなどわかるわけがない。

元々理解しがたい人ではあったが、二人で話してみてより一層分からなくなった。

だが、その謎にこだわってチャンスを逃がすほど愚かでもない。

深雪が何か案を思いつく前に。――俺たちの婚約を阻む案を用意する前に、俺は自分の想いを伝え、この関係を確固たるものにしなければならない。

だからこその、既成事実が必要だ。

といっても何も最後までするつもりはない。

ここは四葉の本拠地。いくら絶好のチャンスだと言っても我を忘れて事に及ぶなどできるはずも無い。

この屋敷には俺の眼でも気づけない監視方法がある可能性が高い。

誰であっても深雪のあられもない姿を見られるのは許せそうになかった。

だが、ここで既成事実を残せたら、婚約が揺るがないものになる。

最後までしなくとも、それらしい証拠を残せれば使用人をだますことくらいはできるかもしれない。

だから、

 

「深雪が嫌がったなら止める。それを確認するために、お前に触れさせてもらいたい」

 

流石の深雪もこの提案には言葉も無くしていた。

それはそうだろうな。こんな非常識な発言を鵜呑みにできるわけがない。

完全に固まっていた。思考のみならず体も動かない様子だ。

可哀想にも思うがこんな機会を逃すわけにいかない。勢いのまま畳みかける。

 

「このまま婚約をして、結婚となったら次に求められるのは子作りだ」

 

当主はどうかわからないが、一族は次期当主の子供を望むだろう。それがたとえ、蔑み嫌っていた俺が相手であろうとも。四葉の一族を増やすことは彼らにとっても喜ばしいことなのだ。ただ、俺が気に入らないだけで。

ここで深雪が嫌悪感でも滲ませたなら俺は大人しく引き下がっただろう。

…その場合、心に致命傷を負うだろうが、それでも俺にとって深雪を優先させるのは至極当然のことだ。

だが、深雪の反応は――頬に朱を走らせて目を泳がせるというもので――。

 

(仕方のない子だ。そんな反応を返してしまうなんて。あれほど悪い男には気を付けろと言ったのに)

 

もう、逃してあげられない。

視線を絡め、捉える。

 

「俺はもうお前を手放す気はない。お前の言う一時的の婚約で終わらせない。お前と結婚できる権利なんてこの先あるわけがないからな。だが、だからと言って一方的に求めるつもりも無いんだ。できることならお前にも、俺を愛してもらいたい」

 

この時点で婚約続行に関していえば勝率はかなり高かった。

以前から不思議と、深雪は俺の命令に従順だった。

兄だから、信頼しているから。はっきりとした理由などわからない。

まさか遺伝子操作でそんなことはできないだろうし、未知の精神干渉系の魔法だったりで縛られている可能性もあるのかもしれないが、生まれた直後に植え付けられて人格形成をされていたとしたら俺に調べることは不可能だ。

これまでの経験上、命令をすれば深雪は従うだろう。

だが、そんなことはしたくなかった。

あの日のことを今でも鮮明に覚えている。

二人で幸せになりたいと、初めて約束をした。もっと幸せになろう、と。深雪も、母さんも一緒にと。

だから命令ではなく、本人の意思で選んでもらいたい。

ただし、あまり時間も無いのできっかけはこちらで用意させてもらうが。

 

(深雪も言っていた。この婚約には横やりが入る、と。ならば躊躇している時間はない)

 

時間は有限。しかも明日は慶春会。早く就寝させてあげなければならない。

混乱している深雪は俺が立ち上がったことにも目が向かないほど思考の海に沈んでいた。

以前から集中すると周囲が見えなくなることがあったが、こんな時になんとも無防備なことだ。

…だからこうして悪い男に良いようにされてしまうんだ、と俺以外であれば忠告をするんだが。

実際のところ、俺だからこそここまで警戒心が働かないのだろうがな。

深雪の護身術は相当の腕前だ。ただ、それが俺にだけ発動しないだけで。

それを良いことにこうして人さらいのように深雪を抱き上げる。

 

「お、お兄様?!」

「ここでは具合が悪いだろう」

 

いくら情緒が無いと言われる俺でも座布団の上で、なんてことがまずいことくらいわかる。

 

「え」

 

呆けていても深雪のバランス感覚は優れていて俺の腕一本に支えられていても慌てることなく収まった。

空いた片手で襖を開ければ、衝撃を受けた時と変わらぬ状態で部屋の中央で布団が鎮座していた。

そっと布団の中央に下ろすと、深雪の身体が微かに震えているのが伝わってくる。

 

「震えているね。俺が怖いか」

 

じっと深雪を見つめる。

怯えの表情は見えないように思う。どちらかというと戸惑っているような。混乱して震えているのか。

本人も首を振って否定をするが、その姿は憐れに思えるほど。

ただでさえ薄い単衣がさらに彼女を儚くさせていた。

あれだけ色づいていた肌も、時間の経過とともに落ち着いたようだ。抱きしめると少し温度が低い。いくら室内温度が保たれていると言ってもこの薄着だ。もう少し早く気づいてあげるべきだった。

せめて震えだけでもどうにかしてやりたくて、頭を撫で、時折指を絡ませてすべらかな感触を楽しみつつ、あやす様に背中を撫でると徐々に震えは治まって、深雪はいつものように体を預けてくるのだが、本当にこの子は警戒心をどこに落としてしまったのかとこんな時でも心配がよぎる。

だが、俺相手に無防備になってしまう、そんなところも愛おしい。

 

「深雪、嫌だったら抵抗をしてくれ」

 

そう言いつつも、心の中では拒絶はされないだろう自信があった。

 

 

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