妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.⑭

 

宣言をして無言を了承と取り、まずは小さな頭をなぞる様に髪に触れた。

その感触を褒めながら今度は頬へ。

いつもより掌が吸い付くような柔肌に、一体どんな施術をしたらこうなるのか若干興味がわいた。が、…だめだな。覚えたところでマッサージだけで済ませられる気がしない。下ごしらえをしたうえで食べようとする自分が容易に想像できた。

まずは怖がらせないように触れるだけ、と思いながら意識していつものように触れるのだが、深雪に触れているだけで鼓動は激しく鳴り、興奮を覚え始めているのを自覚する。

考えてみれば恋と意識してから触れるのは初めてだった。その上、今の深雪はいつにも増して強烈なまでの色香を纏っている。これで欲を意識するなという方が無理だ。

深雪も緊張しているのか、瞳が揺れている。

不思議なもので、こんな時でも深雪が不安だったり落ち込んでいる姿を見るとどうにかしてやりたいという気持ちが強くなるらしい。これはきっとこの子の兄としての矜持なのだろう。

たとえ世間からは兄妹ではないと認識されようとも、そのように振舞うことを強要されようとも、妹である事実は捻じ曲げられない。女性として愛している今でもそれは変わらない。変えられない。

俺にとって最愛の妹であり、最愛の女性。

普通であれば両立しないはずだが、奇跡、というより四葉(叔母)の陰謀だな。それによって両者が成り立っている。このことに関して言えば叔母上に感謝してもいい。

落ち着かせるように抱き寄せて背を叩き、冷めた体に熱を与える。

閉じられた瞼の下が揺らめいているかわからないが、背を撫で、髪を撫で、頭を撫で。

一巡してゆっくりと体を離すころには落ち着きを取り戻していた。

頬に手を当て上向きにして、ゆっくり持ち上がった瞼から覗く瞳と合う。

綺麗な黒曜石が光を受けてきらめいている。美しい輝きに吸い込まれそうになるが、今はそこに顔を寄せるのではなく、深雪の警戒心を解いてく方が先決だった。

 

「頬もいつもより温かく感じる。――うん、手先も温かい。全体の血の巡りが良くなっているのか」

 

先ほど冷めた、と言ったが熱を与えればすぐに血の巡りが良くなり温かさを取り戻していた。

その早さはいつもより早い。確実に施術の効果が見て取れた。

 

「爪が輝いて見えたが、特にコーティングされていないんだな。綺麗な桜色だ」

 

無遠慮に触るのではなく、これ以上なく繊細なガラス細工に触れる時のように丁寧に触れることを心掛けながら手を取りまじまじと見つめる。

価値の高い本物の宝石を見たところで綺麗なのだろう、とは思っても感想を抱くというよりも分類分けする感覚に近い。

人には美しく見えるのだろう、と一般的な感覚としてこう思うのが妥当だろう、と。

だが、この手に収まる桜色の艶やかな宝石と評されておかしくない指先はとても美しく、その先に続く白く滑らかな肌触りの手もいつまでも撫でていたい。細かくチェックしていくようにひっくり返したり、指先を絡めてみたりと意味も無いのに触れる。

出来ることならこの指先一本一本に口づけを落とし、じっくり味わいたいが、触れているだけで頬を赤らめ目を泳がせている深雪にそれ以上踏み込むのは危険だと判断。

努めて平静を装いながら手の甲を撫でるに留める。

さて、次はどうしよう。どこから手を付けるべきか。

手を握ったら次は――キスをしてもいいだろうか。

今顔を上げたら欲が見えてしまう気がして手から視線を上げられない。

次の行動を決め、欲を押さえつけないと、深雪を怯えさせてしまう。慎重にいかねば。

しかし、こう言っては何だが、深雪の反応は悪くないと思う。

指の間に指を滑らせてみると身じろぎをした深雪はわずかに何かに耐えるような表情になった。そこに嫌悪の色は見えず、手も引かれることが無かった。

くすぐったかったのか、はたまた――少しは何かを感じてくれたのだろうか。

ダメだな。ずっと自分の都合の良い解釈ばかりしようとする。少し前までは最悪の事態ばかり想定していたというのに。

深雪には、期待してしまう自分がいた。

深雪なら、どんな俺でも受け入れてくれる。そんな期待が。

兄に触れられるだけで、あそこまで恥ずかしがったりするだろうか。

好意を向けられていることは間違いない。だが、兄妹であるというのならただ安心して身をゆだねるのではないか?

俺の視線に堪え切れず目を逸らしたり、過度の触れ合いに真っ赤になったり。

あの時は微笑ましい、可愛らしい、とあまり深く考えていなかったが、あれらの反応は身内に対する反応ではないのではないか。

思い起こせば母に対して深雪は、頬は染めているものの緊張を見せるようなことなどなかった。安心して身をゆだねていた。むしろ深雪自らすり寄っているような場面が多かったと思う。…と、過去を羨むのは無意味だ。今そこに意識を向けるべきじゃない。

あの当時は俺から深雪に触れるなんて、恐れ多くてできなかった。身分が、というより俺のように穢れた者がこんなに綺麗な深雪に触れてもいいのかという戸惑いがあったのだ。

だが、そんな俺を気にする風もなく大丈夫だと寄り添い、抱きしめ、小さな手で撫でてくれた。

それが、どれだけ嬉しかったことか。どれほど救いになったことか。

深雪を守るためにもっと力が欲しい、と思い始めたのもこの深雪に報いたいと思ったからだ。

それだけで十分だったはずなのに、人間というのは欲深い。もっと、もっとと求め、ついには自分だけのものにしようとするのだから。

あのまま兵器のままで居られたら、こんな欲など抱かないでいただろうが、兵器のままで居たら深雪はきっと悲しんだ。

今でも痛みを無視して行動すると涙を浮かべる深雪のことだ。つい最短処理を考え、自分を無視した特攻を考えてしまうのは、早く深雪の元に戻りたいからなのだが、そんなことを言ったらきっと深雪に叱られてしまうのだろう。

それはそれで見てみたいと思うのは、兄としてではない、男としての俺の欲。

兄は、妹を故意に悲しませたりしないものだ。

改めて自分がひどい男だと自嘲していると、繋がったままの深雪が何やら思いつめたような気配に変わっていた。

一体何を考えた?何か不安に思わせるようなことをしただろうか、と思ったがそもそもこの確認自体深雪にとっては不安要素に溢れたものだった。

内心焦りつつ、兄として深雪の憂いは何かを問いかける。

 

「…深雪、何を考えている?」

 

こんな言葉しか掛けられない自分の言葉足らずが嫌になるが、深雪は申し訳なさそうに眉を下げ、告白する。

 

「この婚約は、お兄様を四葉に縛り付けるものです。自立しようとなさるお兄様を、引き留めようとする楔」

 

――。

深雪は、本当に俺の為に、俺の幸せのためにずっと考えてきてくれていたのだろう。

でなければ自身の身が危ぶまれているこのような場面でそのような発想に至らない。

四葉にいれば俺が使いつぶされる。表に出られないで一生閉じ込められたまま生活を余儀なくされる。

そのことを憂いて――。

だが、言わせてほしい。

 

(それが、一体なんだというのだ)

 

深雪が傍に居てくれる。ここに縛られるだけで深雪と共にいられるというのならそんな些細なことなど構わなかった。

 

「お兄様が、愛して下さるとおっしゃってくださったこと、とても嬉しく思います。ですがこのまま叔母様の策略に乗ることは無いのです」

「…策略、か」

 

…恐らく、というか確実に深雪が思い描く策略とは異なると思うのだが。

過去はどうあれ、あの人の現在の目的は俺とお前を番わせることで深雪を娘として手に入れようと画策していることだぞ。

 

「先ほどお兄様はおっしゃいました。叔母様と話して認識をした、と。それは叔母様からの誘導があったということ。叔母様に精神干渉の適性は無いはずですが、魔法だけが勘違いを引き起こす要因ではないことは七宝さんの件でも証明されたはずです」

 

誘導があったか無いかで聞かれれば、確かにあったにはあっただろう。

最終的にこんな布団まで用意されて御膳立てされているのだから。

しかし、この勘違いは解かないといけないな。

 

「深雪は、俺が騙されていると」

 

俺が深雪を愛しているのを、叔母上の誘導で兄妹愛を恋愛だと錯覚させられていると言うのであれば、それは否定させてもらう。

気付いたのは二人きりの時ではなかったし、そもそも記憶を辿れば兄妹愛と信じていた言動は自覚した今、振り返ってみれば深雪に向けていた想いのほとんどが妹に向けたものとは言えない代物ばかりだ。

深雪だって、その都度おかしいと思っていたはずなのに、…もしや深雪にとって兄妹とはあれほどのことしても当然と認識しているのだろうか。

だとしたら、俺は責任を取って謝罪した上で説明をしなければならない。

 

「お兄様の愛を疑うことはありません」

「ならばなぜ」

「血が繋がっている相手でも、肉欲を覚えることはあるのです」

 

深雪からの肉欲、との直接的な言葉にドキリとした。

俺が覚えるのは当然だが、もしや深雪自身抱いたことがあるのかと問いただしたいが、口を挟む空気ではなかった。

 

「その後嫌厭するか常識的に無いと判断するか、どちらにせよその先を躊躇い、無かったことにする。――お兄様も今までそうしてきたはずです」

 

そうだな。常識的にこの先を望むのはおかしい、と手を引いたことなら何度もある。

この先に進みたい、と過る前に思考を切り替え気付かぬようにしていた。

でなければ、もしそうしていなければ俺は深雪の傍にはいられないと無意識に避けていたのだろうと推測できた。

兄妹で恋愛感情など深雪が望んでいないことは明白で、しかも彼女は次期当主候補で最も有力者だった。

そんな彼女の輝かしい未来に、兄である俺が懸想をしたところで重荷にしかならなかったはずだ。

兄からの想いに気づかれたら嫌悪される恐れだってあったかもしれない。気付かれなくても愛する深雪の隣に立つ男に嫉妬を向けずにいられるか自信も無い。

感情を殺すことは慣れていても、常に沸き立つ状況というのは経験したこともないし、もしも、…もしも深雪が幸せそうにその男に笑いかけていたら――近くにいると守るどころではなくなりそうだ。

自分から遠く離れて彼女を守護し続けていたかもしれない。

あのままずっと自覚をしていなかったから、知らないでいられたから兄妹として過ごしてくれた。耐えられていた。

 

「あくまで兄妹愛の延長である、と」

 

もしこれがただの行き過ぎた兄妹愛であったなら、きっと傍に居続けられた。兄だからとの矜持がそれを支えてくれたことだろう。

しかし兄であっても男であることを自覚し、妹だけれど恋愛対象だと認識をしてしまった今、暴れだしそうな感情を抑えるだけで精いっぱいで取り繕うこともできない。

 

「なら、それも含めて確かめ合おうか」

 

この想いが、すでに兄妹の範疇に収まらないと理解していた。

兄妹であったなら、今すぐこの場で押し倒し、すべてを暴き、食らいたいなどと思うはずがないからだ。

『確かめ合う』…初めからこれから行う行為は深雪に俺を男として認識してもらい、俺が婚約者として望んでいることを理解してもらい、その上でれっきとした正当な婚約者だと認めてもらう。それを目的としていた。

決して己の欲望を表立たせてはいけない。

ただ、自身の想いを認識してもらい、あわよくば――受け入れてもらいたい。

出来るだけ優しく、押しつけがましくせず、触れることに嫌悪が無く、触れられることに悦びを感じてもらえるように――。

繋がっている手をさらに絡めるよう力を籠め、反対に頬にはそっと手を添えた。

出来るだけ怯えさせないように、まずは安心させるように。

何の魔法も込められていないキスを、額に落として。

 

「俺の愛が、妹へのものか、深雪も確かめてくれ」

「確かめる…のですか?」

 

俺だけでなく、お前も、と返す代わりに続けざまにこめかみに、頬にとわざとらしく音を立てて口付けていけば徐々に白い肌が色づき始める。

 

「お、お兄様、」

「俺はお前が俺を異性として認識できないかを確かめ、お前は俺の抱いているこの気持ちが妹へ対するものなのかを確認してくれればいい。それだけのことだ」

 

焦る深雪の言葉を遮り、確認項目を挙げて口づけを再開する。

唇以外の顔中いたるところに口付けていくのだが、ただ深雪の羞恥を少しでも煽れれば、と触覚だけでなく聴覚にまで刺激を与えようとしただけの行為なのに、困ったことにこちらの気分まで煽られている。

触れるたびに愛しさが募って次第に言葉にできない想いを乗せてひたすらキスを落とした。

好きだと、愛しているのだと、口にしてしまいそうになるのを深雪の眉間に、眦に、鼻にと押し付けることで封じた。

今愛を囁かれれば、深雪から拒絶までとは言わないが止められる気がした。

まだ、その段階には早い。焦りは禁物だ。

だが、その我慢もそろそろ限界に近かった。

 

(触れたい――、そこに触れさせてもらいたい)

 

「深雪」

 

一旦顔を離して深雪を見つめる。

熟れた果実のように赤く染まった深雪は、瞳を潤ませていて悩まし気に眉を寄せていた。

彼女の瞳に情欲は見て取れない。けれど恐怖や嫌悪が映っているようにも見られない。――拒絶の色は、見られなかった。

 

 

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