妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.⑰

 

――息が、止まるかと思った。

深雪の冷えた手が俺の頬を挟んで、視線が交わる。

 

「今度はお兄様が私に心を、恋を教えてください」

 

それは、あまりにも――

 

「…結局俺に都合の良いようになっているじゃないか」

 

俺が深雪に恋を教える?そんなことできるかどうかが問題じゃない。

彼女が言っているのは、俺がアタックしてもいいと許可をくれる、ということだ。

それがどういうことなのか分かっていないわけが無いだろうに、深雪はくすくすと笑いながら。

 

「さて、それはどうでしょう」

 

惑わせるようなことを言いながら俺の胸に凭れ掛かる。

とんだ小悪魔もいたものだ。いや、今の深雪に小悪魔なんて言葉は似合わないな。可愛らしさは鳴りを潜め、薄っすら微笑を浮かべる挑戦的な表情と、俺の身体をなぞるように動く指の艶めかしさは妖艶と形容したくなる色香を滲ませていた。

小悪魔でないなら、この深雪に似合う言葉は何だろう。

強く香る甘い香りに鈍る思考で考えながら腕の中に閉じ込めて強く抱きしめる。

もう、離さないというのを言外に伝えるために。

 

「かぐや姫のような無理難題だろうと、必ずクリアしてみせる」

「…随分と自信がおありのようですね」

 

なんて深雪は言うけれど、深雪が俺を愛してくれている自信はあっても、恋をしてくれるかには自信はない。

恋と愛はまた別物なのだと経験したから言えることだった。

 

「自信なんかないさ。だた、お前を手に入れられるなら俺はどんな無茶でもやり遂げる。そう宣言したんだ」

 

出来ることなら今すぐにチャレンジしたい。

だが、ここで焦ったところで、今の深雪はきっと動かない。

深雪がぶるりと身を震わせて俯きながら耳を赤く染めているのを見て、案外このままでもいけるのでは、と心が揺らぐが、おそらく自分の恰好に気づいたのだろうな。

その薄い衣の下には何も身に着けていないという事実に。

…俺も今は意識の外に追いやるべきだ。

 

「今日はもう遅い。明日に備えて、寝るとしよう」

 

明らかに不自然な言葉であったが、深雪も同様でたどたどしく答える。

 

「そう、ですね。では布団を」

 

深雪の視線が扉に向かったことで布団を通常のものと交換させようとしているのが分かった。だが、それは悪いが止めさせてもらう。

名前を呼んで止めると、きょとん、と俺を見上げる。

ああ、可愛い。

つい先程のやり取りも忘れて疑問しか浮かべない妹が愛らしい。

そんなお前を困らせる俺を、どうか許してほしい。

 

「このまま一緒に寝よう。それ以上のことはしない」

「……お兄様、それは」

「大丈夫だ。九校戦ですでに実証済みだ」

 

チャレンジはしないが少しでも深雪から離れたくなかった。

叔母上がまだ何かを企んでいるのでは、という思いもあるが、想いを自覚した今深雪を離せる気がしなかった。

明日はまた大変なことに巻き込まれることは想像に難くない。ハグの前借りが欲しかったというのもある。

いや、それも単なる理由づけか。

 

「もちろん、お前が許してくれればそれ以上だって構わない」

 

開き直って冗談めかして言えば、深雪は火がついたように顔を赤らめて力強く否を叫んだ。

残念だが今日のところは大人しく引き下がろう。

深雪の身体を離して立ち上がる。

寝巻が用意されているのは知っていた。着替えてくると伝えつつ、そうだ、と自然に見えるよう振り返りながら提案する。

 

「深雪も、今のうちに別の下着を身に着けると良い」

「!!そ、そうですね」

 

わざわざ別の下着と言ったのだが、深雪には変な違和感を抱かれずに済んだようだ。

俺も、存外嫉妬深い。いや、思い返せば元から結構嫉妬は深かったが、人の用意した下着を身に着けていることにまで嫉妬にかられるとは思わなかった。

さっさと浴衣に着替えて戻ると深雪はまだ戻らないので、枕元に置いたCADと首から下げたままのCADを触れて確認してから、ゆっくりと右手を上げてくしゃりと部屋の隅にまとめられていた下着に照準を合わせて分解する。

初めこそ、下着に決定的ととれる証拠をつけて使用人に持っていかせればそれで既成事実は作れるのではと考えもしたのだが、そんなものの為に深雪のモノが他人の目に触れるのかと思うとそれだけで許しがたく思えてきれいさっぱり痕跡を消した。

布団に残る、少し垂れた部分も当然のように跡形もなく消し、乱れも整えながら考える。

 

(むしろ、この方が俺らしいのかもしれない)

 

深雪の痕跡をひとかけらも残したくない。俺だけのものにしたい。誰にも見せたくない。

自分の考えに自嘲を浮かべながら最後に下着を畳んで隅に置いて、布団に戻る。

…ふむ。

 

(このまま待っているのもいいが、どうせなら深雪を驚かせてみるか)

 

先ほど摘まみ上げた肌触りのいい軽すぎる布地について考えないよう、まだ荷物の前に居る深雪にサプライズを仕掛けることにした。

そしてしばらく待っていると、お待たせしました、と入ってきた深雪が目を見開いて固まった。

良い反応だ。くすりと笑って手招きすると、おっかなびっくりといった様子で近づいて傍に腰を下ろす。

恥じ入る姿に先ほどの妖艶さなど一切感じられない。

これはこれで唆られるものはあるが、兄として迎えられそうだ。

しかし深雪には肉食獣の気配が感じ取れてしまうのか、震えながらも果敢に近寄る様は必要に駆られて決死の覚悟で近づいてくる小動物のよう。

健気な様子に微笑ましいと思う反面、邪な気持ちも湧き起こってくる。

恋を自覚すると、なかなかに感情の制御が厄介だ。

 

「し、失礼します」

 

緊張しながら布団に入ってくる深雪に胸を高鳴らせていることは気づかれていないのだろうな、と自身の表情筋の硬さを有難く思いながらいつもの兄らしい笑みを浮かべられるよう口角を上げながら見守った。

動き出しそうな体を抑えるのに苦労したが、ここでオオカミになって深雪を怖がらせたらすべて振り出しに戻ると思えば我慢できた。

それに、男として動けないのであれば、兄として動けばいい。

 

「取って食ったりしないから、もう少し寄りなさい。それでは寒いだろう」

 

恐々と緊張しながら身を寄せる深雪の腰を抱き寄せて、密着させる。

せっかく一緒の布団に寝ているのに離れて眠るのでは意味がない。

 

「きゃっ」

 

可愛らしい慌てる声と同時に深雪の身体が重なるように半分乗っかる形に収まった。

柔らかな肢体とぬくもりが気持ちいい。

これだと俺の心音も聞かれてしまうだろうが構わなかった。

 

「うん、これくらいだったかな」

「な、何がです?」

「九校戦でお前が俺で暖を取っていた時はこれくらい密着していた」

「そんなっ?!」

 

深雪は驚愕の声を上げるが、実際はこんなものどころじゃなかった。

絡み合う体にどれほど兄としての矜持が揺らいだことか。しかし、思い返すとあれだな。

 

「よかったな」

「よかった?とは」

「あの時俺がもしお前への想いに気付いていたら何もせずにいられなかっただろう」

「!!」

 

もしあの時俺が深雪への想いを自覚していたらと思うと、眠る深雪に何もしないでいられた自信がない。

むしろ深雪から来たのだからいいだろう、くらい開き直って撫でまわすくらいはしただろう。

…そこまで行っていたら、もう引き返すことなどできなかっただろうな。

たとえ兄妹であろうとも、深雪が調整体でなかろうとも――それこそ深雪が嫌がろうとも手に入れようとしただろう。

それでは深雪が幸せになれないとわかっていても、自分の欲望を抑えきれなかったに違いない。

今は深雪の真の望みを知り幸せを願えるから、互いの幸せが自分たちの幸せと気付いたから余裕が生まれて待ってあげられるようになったのだが。

 

「確認は途中になってしまったが、深雪にとって俺は変わらず兄のままなのだろう?」

 

念のため、現状を確認すると深雪は少し考えこんでから答えた。

 

「分かりません」

「わからない?」

「…お兄様はお兄様です。それは今までも、これからも変わらない。お兄様にとって私がずっと妹であるように不変の真実です。

ですが、全く変わらず、というのは恐らく違います。お兄様からお気持ちを聞いて、私は自分の心がわからなくなりました」

 

…深雪は深雪なりにこの短時間でいろいろと考えてくれていたらしい。

俺の場合、先に自覚したから早かった。あのような非常識も受け入れられたが、深雪には自覚すべきものが無かった。

深雪にとって俺は兄であり、血縁者であり、憧れはあったとしても異性ではなかった。

そう易々と受け入れられるわけがない。

 

「お兄様を愛しております。そこは間違いがありません。ただ、その愛の種類と訊ねられるとわからない、としか言いようがないのです。…恋ではないと、否定することも」

 

できないと言う深雪に、愛おしさがこみ上げる。

逃げ出さずに考えてくれていることが何より嬉しかった。

 

「そうか。全くの脈無しではないんだな」

「…わかりません」

 

正直に答えてくれているのだとわかると、曖昧な答えでも受け入れられるものなのだな。

だが、この曖昧な答えがどちらかに傾いている「わからない」かは、誤魔化そうとしている深雪には悪いがわかりやすかった。

だからこそ、――考える時間を与えられる。

 

「分かった」

「お兄様?」

「待つよ。お前が俺に恋をしてくれることを。何も今ある感情から焦って探し出すことはない。これから育んだって良いんだ。そして必ず結婚をするまでに恋をしてもらえるよう、待っているだけでなく努力するとしよう」

 

時間は、あまり与えられないかもしれない。

この婚約には物言いがつくという。

叔母上も想定していた。

あの人が意見を曲げることはないと思うが、あれでも立場のある人間だ。ある程度の意見は聞き入れなければ一族の存続にまで影響を及ぼす可能性があるとなれば、一考くらいするかもしれない。

少しでも隙を作らないためには両想いで誰も入ることができない状態に持ち込むのがベストだ。

そうなればいくら血の濃さを主張しようとも、貴重な魔法師の存続の危機と騒ごうとも世論が黙っていない。

こういう日本魔法師に不利益になる事案がある場合、敵対国や敵対組織が頑張って印象操作してくれるだろうからな。それも後押しになるだろう。

 

「電気を消してもお前の赤い顔はよく見える。こんな体に生まれたことも、お前の傍に居るだけで全て良かったことになる――ありがとう」

 

今日は色々とありすぎた。こんな状態でも眠気が襲う。

肉体は問題なくとも精神が疲労しているのだ。これではまたストレスをため込み深雪に迷惑をかけてしまう恐れがあった。

ただでさえ気が滅入る四葉の行事だ。絶対深雪に迷惑をかけるようなことはあってはならない。というよりこんな時だからこそ自分が支えてやらなければ。

そう、思って覚悟を決めたというのに。

 

「…お兄様が生まれてくださったことに感謝を。お兄様がいてくださるから、私は生きられるのです」

 

しがみ付くように腕に力を込められた。締めつけられても全く苦しくないが、心臓は苦しいくらいに騒いだ。

そして続けられた言葉に、ふっ、と体の力が抜けた。

深雪はいつだって俺を支えてくれる。息がしやすいように、空気を変えてくれる。

 

(欲しい。もっと、もっとお前が――)

 

回した腕で強く引き寄せてさらに密着させる。

深雪ももう限界だったのだろう。温かくなり眠気に襲われて徐々に抱きつく力は弱まるが、その分重みが増していく。

もう、夢の世界に旅立っただろうか。

除夜の鐘が遠くで鳴っていた。

きっと108つ聞いたところで俺の煩悩が消えることはない。こうして腕の中で抱いているだけでいくらでも浮かんできてしまうのだから。

そのうちの一つを、額に口付けることで満足させて目を閉じ、意識を落す。

 

 

――

 

 

新しい年が始まった。

何かが大きく変わる一年になるだろう。

それでも、こうして腕の中に深雪がいてくれるのであれば、どんな困難も乗り越えられる。

その自信があった。

そうなるよう、覚悟も決める。

 

(愛するお前の為ならば魔王にでも救世主にでもなってやる。だからどうか――)

 

温かなぬくもりに包まれ微睡みながら意識を浮上させると、女神も裸足で逃げ出すほどの美の化身たる、まだわずかに幼さが抜けきれない美少女が、その女性特有の柔らかい肢体を離さないとばかりに絡ませ、一部の隙も無いようにぴたりと密着させていた。

その事実だけでも目覚めたばかりの脳が沸騰しそうだというのに、自身も離さないとばかりに抱き寄せている腕と、逃さないとばかりに絡ませている足が無意識化でも欲望が表れてしまっているようで居心地の悪さを覚えるがそんなことはどうでもいい。

完全な九校戦の夜の再現だった。

あの時は互いに寝巻だったから問題ないが、今着ているのは…纏っているのは、何もなかったはずだが少々、というには肌色が多く見える寝乱れた浴衣と単衣。

好きだと自覚した後でのこの状態、欲情しない人間がいるなら見てみたい。

朝ということも手伝って自身が主張を始めるが、寝惚れられたのは一瞬で、この後の予定をしっかりと思い出したことにより鎮めること一択しか選択肢が選べないことが悔やまれてならなかった。

いや、残念がることもできない。なぜなら告白こそしていても、肝心の深雪からの了承は得られていない身だ。

そんな現状でまさか寝込みを襲うことなどできようはずもない。

…そもそも寝込みを襲おうという発想の時点でアウトだ。まだ頭が正常に働いていなかった。

このまま何事もなく順調にいけば、問題なく深雪は応えてくれる。こんなところで信用を無くすような真似はできない。

たとえ、この状況が自分だけの意思でこんなことになっているわけでなくとも、昨夜のことがあったにもかかわらず、無意識に絡みついている深雪に現状を教えて混乱させるわけにはいかない。

今日はこれから隙を見せることのできない予定があるのだ。下手に動揺させるようなことがあってはならない。

それにいくらこんな美味しい状況であろうとも、焦りは禁物だ。警戒されて距離を作られてはたまらない。

ままならない現状を理解しつつもため息を漏らしそうになるのを堪え、まずは慎重に自分の手を外して、深雪の柔らかな体を、熱をゆっくりと離していく。

その柔らかさを直に掴んでは実感して体が熱を抱くが意識を散らすよう今後の予定を考えながら外していった。

何度か目覚めてしまうのでは、と心配になる場面がありつつも、眠る前の腕枕の状態に戻して一仕事を終えたとばかりに今度こそ大きく息を吐いた。

何度心が折れかけたことか。

もう、いっそこのまま食らってしまおうかと思うたびに、これまでの努力を台無しにする気かと思いとどまり、を繰り返した。

朝からものすごい疲労感だが、腕の中ですやすやと眠る深雪の寝顔を見るだけで無駄ではなかったのだと心が癒されていくようだ。

 

(しかし、これはなかなか問題だな)

 

以前の九校戦の時とは違い、意識したことで欲望を抑えることが難しくなっている。

兄が妹にそんなものを抱くなんて、と律せていたのが嘘みたいに触れるだけで、匂いを感じるだけで何度生唾を飲み込んだことか。

これは後でご褒美をもらわないと、等と考えてしまうくらいに頭が茹っていた。

そんなことを考えながら愛おしく妹の無防備な寝顔を眺めていると、長いまつげがピクリと震えた。

覚醒が近いようだ。

 

(目が覚めたらキスをさせてもらおう。きっと寝起きの深雪なら恥ずかしがりながらも許してくれるだろう)

 

簡単に想像がついた。

しっかりしているようでいて押しに弱い深雪のこと。目を閉じたら了承の合図、との昨夜の取り決めを使えばそういえばそんな約束を…と大した抵抗もせずあきらめて受け入れるはずだ。

そして案の定、寝ぼけた深雪にキスを受け入れてもらいながらもう少し、と深く踏み込もうとしたが、さすがに深雪もその頃にはすっかり目を覚ましていて初日の出を拝みたいのだと懇願してきた。

その必死さもまた愛らしくて抱きしめてしまった。

拒絶されたと落ち込むことが無かったのは、深雪が真っ赤で潤んだ瞳のまま訴えていたから。

その際ぎゅっと浴衣を掴まれて言われてしまえば嫌悪による拒絶だと勘違いする方が難しい。

深雪の願いを叶える為、深雪を抱き上げ、飛行デバイスを操作して屋根の上に。

寒さのあまり抱き着く深雪に役得だと思いながら深雪の端末を渡し、冷気を取り除いても貰う。相変わらず見惚れるほどの精密な操作だ。

初日の出に感動することはないが、照らされた深雪の眩しさは拝みたくなるほどに美しい。神々しさすら感じる。

一番に新年の挨拶を述べるより早くキスを強請ってしまったのは流石に図に乗りすぎだろうか。

だが、触れるだけで留めようとしたのに離れる際の深雪の切なげな表情にグッと心臓を掴まれる。

自身では気づけないのだとわかっていてもこれはなかなかクるのだが、ここでがっついて引かれるわけにもいかない。

それにしても恥ずかしがりながらも応えてくれる深雪の可愛さは天井知らず、だ。

順番が逆になったが新年の挨拶と共に抱負を述べる。

 

「今年の目標はお前に恋をしてもらうことだな。そのためにもどんどんアプローチをさせてもらおう」

 

恋をしてもらう、というより自覚してもらうが正確なところであるが、下手に混乱させるよりはいいだろう。

ついでに深雪に触れる口実も付け加えさせてもらう。

もう、深雪に触れられない生活には耐えられない。

 

「…お手柔らかにお願いします」

 

努力はするつもりだが、恥じらいながら可愛くお願いされては逆効果だということに深雪は気づかない。

これは俺以外にしないよう後で注意しないといけないな。

 

 

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