妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
今日はこのまま部屋に戻って、と思っていたが当主に呼び出され、不機嫌になる俺を深雪が慰めてくれるという場面があったが、すまない。深雪をちゃんと休ませてやりたいのに。
せめてこの話をすぐに終わらせて部屋でゆっくり休もう、と意気込んで指定された部屋に向かった。
堅苦しい正装のままではない。呼び出しの後すぐに着替えさせられたのだ。
先ほどまでの恰好に比べれば比較的楽な姿(とはいえ品位は損なわない程度)で叔母上との三者面談にしか見えないささやかなお茶会とやらが始まった。
警戒心を隠しもしない俺と、それすらも楽しむように返す叔母、それを表面上は嫋やかに、心の中ではきっと困惑しているだろう深雪が微笑んで見守っていた。
先日までではありえない態度で応戦しているからな。戸惑わせて悪いと思うが、もうこの人相手に遠慮はいらない。場さえ弁えれば問題ないはずだ。
その証拠に嫌味をぶつけても愉快とばかりに笑みを浮かべている。
奇妙な空間になりつつあったこの応酬に終止符を打ったのは叔母上。
「ああ、そうそう。水波ちゃんはせっかく地元に帰ってきたんだもの。一日くらいお休みがあっても良いでしょう」
この言葉に、深雪は目を輝かせて賛同するが、俺はさらに警戒心を高めた。
叔母上は決して深雪のような善人ではない。
ただ水波の為に休暇を用意するとは思えない。吊り上がる口角を見ても別の何かを企んでいることは明白だった。
「――叔母上、何をお考えです?」
この、四葉家次期当主を公表したタイミングでガーディアンである水波を深雪の傍から外すという。
もちろん俺一人だろうと深雪を護衛することに問題はないが、このタイミングで俺と深雪を二人きりにする――昨夜のことといい、慶春会中の発言といいあからさますぎるのが逆に何かの罠に見えて怪しく思えてくる。
「あら、一体何を考えていると達也さんは思っているのかしら」
白々しい発言だ。この人はどうあっても俺を弄びたいのだ。そう思わせる笑みを湛えていた。
「なんて、冗談よ。そこまで干渉することもないわ。大晦日のプレゼントもただ喜ぶだろうとしただけだから」
「何の意図も無かったと?」
「今まで何もしてあげられなかった息子にプレゼントすることの何がおかしいのかしら」
何がおかしい、かだと?何もかもおかしいだろう。
何故よりによって仮にも息子への初めてのプレゼントが愛する妹の下着なのか。
婚約までさせておいて干渉していないというのも大いに間違いだ。
あんな布団まで用意して、散々磨き上げた深雪を送り込んでおいて…あのまま理性を無くして事に及んでいたらと思うとぞっとする。
(下手をしたら深雪に恐れられていた可能性があったんだぞ?)
「私のセンスも悪くなかったでしょう?」
その言葉に思いきり顔を顰めてしまったのも仕方ないだろう。…大変遺憾ではあるが、あの深雪の姿は理性を焼き切るほどの威力があった。今思い出しても興奮を抱けるほど魅力的な姿だった。
だが、それを素直に認められるかと問われれば、激しく拒絶したい。したいのだが、あのような下着があると存在は知っていてもあそこまで深雪の魅力を引き出す代物を、俺一人では見つけることはできなかっただろう。
悔しいが、この件に関しては敗北を認めざるを得ない。
叔母上のこちらを見透かした笑みが癪に障るが黙るしか選択肢が無かった。
屈服させたことに満足したのか、話が戻る。
本来慶春会は三が日丸々行われる。
予定通りであれば俺たちも最終日までの参加が予定されていたが、年末の騒動により周辺が騒がしいらしい。
この村に余所者が入ることはできないが、帰るにはここを出なければならないわけで。
「二日の夕方までには検問が解除される予定になっているからその隙に二人だけ先に帰った方が良いと思ったのよ」
交代するタイミングでもあるらしく一番警戒が薄くなるらしい。…逆にそんな中出たら怪しまれないか?と思わなくも無かったが、そもそも高校生が容疑者として疑われる自体可能性が低い。
魔法師であるかなどCADを隠してしまえば一般の非魔法師には見分けもつかない。
だが、なんとなく引っ掛かりを覚えた。
何故、水波も戻さないのか。
何か他に理由があるのではないか、と現状考えられる理由になり得る要素を羅列して――
(………まさか)
「このような勝手が許されるのは今年だけだと思ってちょうだい」
続けられた言葉は、来年はフルで参加しろとのこと。
どのみち次期当主とその婚約者に据えられたのだ、それくらいの役目は果たさねばならないだろうことは覚悟していた。
それから、今年は師族会議で四年に一度の十師族の選別が行われる。バタバタするというからには入れ替えがあるのかもしれない。
九島のやらかしは一部にしか知られていない。七草の暗躍はもっと表立っていない。それでも追及されれば席を空けなければならないくらいの失態であるはずだ。
自分が知っているのはこのくらいだが、他の家でも何かあっただろうか。うちに、というか深雪に関係が無いのであれば興味の無い話だ。
しかし、ゆっくりできる時にはしておけ、ということのようだが。
(…昨日のようなこともある。今回もその企みの一つと考えるのはけして穿ちすぎではない、だろう)
余計なお世話だ、と言い返せるなら言い返したいが、残念ながらこれはまたとない好機。
使えるものは何でも使え。結果を出すことがすべて。
この家で学んだ教育の一つ。それは自身の考え方にも共通する思想でもあった。
これまた感謝をするのは癪だが、乗らない手はない。
(深雪は叔母上の計略に気付いていないようだな)
水波に一休暇を与えられることを喜んでいる。
帰宅命令が出た日は一月二日。その日を俗になんというかなど、ピンとくるのはそういう話題に触れたことのある人間くらいだ。大抵の男子学生なら一度は耳にするだろうが、女子学生ではその機会はない…とは思うが、一年の時、当時の会長たちが生徒会室にて赤裸々な女子トークをしていたことを思い出すと、知っている者は知っているのかもしれない。だとしても、この場ですぐピンとくるとは限らない。
(…今の俺のように浮足立っている状態なら別だが)
その日に、深雪と自宅で二人きり。
ゆっくりできる時に、ということは、恐らく俺たちがこのような時間を取れることはしばらくない、ということなのだろう。
(すまないな、深雪)
待つ、といった傍から悠長にただ待っていられないらしい状況に、憐みを抱く。
できるだけ、優しくしよう。彼女の意向に沿う形で。それが、俺のできるせめてもの報いだろうから。
話すことは終わったらしく、そのあとは大した雑談も無く茶会は終了した。
――
風呂から戻ると、深雪はまだ戻ってきていなかった。
真っ先に確認したのは寝室。清潔に整えられているが、昨日と同じ型の布団だった。
この家の使用人はこれをどんな気持ちで用意させられているんだろうな。
だが、昨夜のような動揺はない。
すでに一度見ているというのも大きな要因ではあるが、何より自分の気持ちをすでに告げていて、受け止めてもらえて、拒絶されるでもなかったから心を落ち着けられるのだろう。
(ただ深雪への恋心を自覚し、深雪が俺から離れていこうとしていたあの状態でこの布団を見た昨夜は――本当に自分の考えが信じられないくらいのことまで考えていたからな)
このまま逃げようとするなら既成事実を作ってしまえば、等外道な手段を考えていたなど葬り去りたい記憶だ。
だが、そんなものは杞憂だった。話せば話すほど彼女の心はいつでも俺を想ってくれていて、むしろ煽るように恋をさせてほしいとまで言ってきた。
これでやる気にならない男はいないだろう。
しかも、本人に煽っている気は自覚のないことが恐ろしい。あの子は無意識に人を虜にする術を持っている。昔からそうだった。
とりあえず今は襖を閉じておく。
朝以降初めて二人きりになる時間だ。しかも夜ともなれば深雪が緊張してしまうだろうから。
そういえば、九校戦にてあの子は出迎えられたのが嬉しい、と言っていたな、と思い出す。
まだ彼女の位置に動きが無いから戻るにはもう少し時間があるようだ。
あの人の言っていた一時的に検問を解除するらしい情報をこちらでも確認して待つとしよう。
明日の帰りも手配しておかなければ。
各チェックをしていると、深雪が戻ってきた。端末を閉じて扉が開く前に立ち上がりで出迎えに行く。
少し表情に疲れが出ているだろうか。ここ二日で色々とありすぎたからな。
腕を広げて迎える態勢を作れば、深雪はぽす、と腕の中に納まった。
ちゃんと温まってきた体からは昨日とは違う花のような香りがする。
もっと鼻を近づけたくなるのを我慢していると、腕の中で強張ったことから昨日のことを思い出したのだろう。
いきなり妹としてだけでなく女性としても愛しているなんて兄に告白されれば緊張もするか。
意識してもらえることを喜びそうになるが、先に安心させてやる方が先だ。
落ち着かせるように背に腕を伸ばして撫でた。
「深雪。確かに俺たちには婚約者という関係が増えたが兄妹ではなくなったわけではないんだ。世間がなんと言おうと、戸籍が変わろうと俺たちが兄妹という事実は捻じ曲げることはできない。俺はお前を女性としても愛するけれど、妹として愛することもやめるつもりはないよ」
肩書が増え、自覚もしたことで自身の深雪を見る目が変わったのは事実。だが、それでも深雪が可愛い妹であることも変えようがない。
血の繋がりだけは、切れることは無い。
それは自分にとって何よりも大事な繋がり。
宥めてみるも、深雪の耳が真っ赤に染まったまま戻らない。
(ああ、困った。安心させてあげたいというのに)
俺の妹がこんなにも可愛い。
「可愛いね。…だが困ったな。妹として可愛がると言った口で、キスしてしまいたいと思ってしまう」
掛け値なしの本音だが、ここで妹を襲うわけにはいかない。
匂わせるように背筋を撫でるだけで体を震わせる深雪に、今すぐこのまま布団まで運びたくなるのを堪えて冗談だよ、と背中をポンポン叩く。
可愛い妹を困らせたいわけじゃない。ここは兄貴が我慢をしなければな。
今日くらい、優しく頼りになる兄でいてやりたい。
「少しずつ、慣らしていこうな」
「……慣れる気がいたしません…」
弱気なことを言うなんて珍しいが、深雪はこの手の触れ合いは以前から弱かった。
それが、俺が相手だからだと嬉しいのだが、との考えは打ち消して。
「大丈夫だ。深雪の学習能力が高いことは俺が一番よく知っているから」
それとこれは別問題だろうとわかっているが、このまま丸め込まれて落ち着いてくれるといいんだが。
いつまでもこのままで居るわけにもいかない。
座って話そうと促して座布団に座らせる。
すでに明日の車の手配をしたこと、周辺の警察の動きを報告すると胸を撫で下ろした。
「少し気が楽になりました」
そうだな。早くこの魔窟から離れ家に帰れることも理由だろう。
立場が大きく変わったことにより、車を手配する時も今までと態度が変わりすぐに話が通ったことに拍子抜けもした。
立場が違うだけでこんなにも変わるものか、と彼らの変わり身になんとも言えない気持ちにさせられたが、これからこういう場面が増えてくるのだろう。
数日前まで緊急時でも無視をされていたはずなのに、今では深々と頭を下げられるようになった。
どちらにも共通するのは顔が見えないことか。見たいわけでもないので構わないが。
「特にこの二日間がとても長く感じたよ」
「ふふ、そうですね」
たった一週間前のクリスマスが遠い昔のように感じられる。
深雪も思い返しているのか、笑いが零れるくらいには落ち着きを取り戻したようだ。
よかった。リラックスした笑みに緊張が完全に取れていた。
「さて、もう寝ようか。…昨日は遅くなってしまったから、疲れているだろう。安心してくれ。今日は一緒に寝るだけだ」
もちろん、深雪が許してくれるならやぶさかじゃないが、と伝えるとパッと顔を赤らめる深雪が可愛らしい。
「お、お兄様!」
「冗談だ。昨日はすまなかったな。あまりに性急すぎた」
昨夜は本当に焦りすぎていた。
深雪が離れていこうとすることに焦り、婚約者に指名され、己の過去や完全調整体であること――深雪が自分の為に作られた存在だと知らされ、混乱しないでいられるわけがない。
ただ、妹として愛しているだけでなく恋をしているのだと自覚したことで、なんとしても深雪を逃がさない、俺から離れてなんていかせないという思いが強く、どうしても手に入れなければとかなり強引な手口で迫ってしまった。
深雪の意思を無視したつもりはない。
許可も無く、深雪に想いが無いのに触れるなど、それはただの強姦になってしまう。そんな真似ができるわけがない。
兄である自分に深雪を傷つけることなどできるはずがなかった。
(…だというのに、結果俺は嫌がる深雪に酷い仕打ちを)
怒りが我を忘れさせ、嫌がる深雪の制止も振り切って脱がせるなどあってはならないことだ。
だが、あの時の深雪は――と、考えかけたところで思考を切り替える。今は思い返している時ではない。
反省はすべきだが、それを生かさなければならない時が近い。余分なことなど考えずに、反省点だけ洗い出し、次に備えるべきだ。
「そ、それは…その…急なお話でしたから。お兄様も戸惑われたのでしょう」
…深雪は天使か何かかな、と思うと同時に自分の穢れた部分が浮き彫りにされたような気分だ。だが、怯んでもいられない。
「それはそうだが、据え膳だと思ったのも事実だ」
「お兄様!」
真っ赤な顔で怒ったような顔をする深雪もまた可愛いものだ。
だが、少しでも思いは伝えておかなければ。言葉にしないで伝わることは少ない。先も言ったが少しずつでも慣れてもらわないと深雪も困るだろう。
特に、明日は命運分かれる勝負の時だ。
出来る事ならもう少し日にちを空けてやりたいところだが、そうも言っていられそうにない。
ああ、それとこれは確認しておかないといけないな。
「今夜は叔母上から用意されたものでは無いね?」
「っ、ありません!」
良かった。また昨日のようなことになっていたら、今度は抑えが効くかもしれないが叔母上に抗議しに行くことになっていただろう。
多少破壊活動もするかもしれないが、こう言う時に再生は便利だ。壊した端から修復できるのだから。
先ほどより顔が赤いのは、彼女も昨夜の己の恰好と、その後の展開を思い出してしまったからか。
「すまない深雪」
「いえ…お兄様のせいだけではありませんから」
いつもなら俺のせいではない、と盲目的に許す深雪だが、今回ばかりはその対象にはならなかったらしい。当たり前だな。
罪悪感を抱きつつ、寝室に向かうと一組の布団に二つの枕が載っていた。配置は昨日とほぼ変わらない。
「…お兄様、腕は大丈夫だったのですか?」
この布団に対して深雪も昨日のような動揺はなかったみたいだ。昨日のような、というだけで全くないわけでもないようでまた頬を赤くしていたが。
それでも何とか平静を保とうとしているのだろう、質問が飛んできたが…腕?…今朝の腕枕のことか。
可愛い顔で可愛い質問をしてくれる。
(そんなつもりも無いだろうに誘惑されそうだ)
そもそも今の深雪は昨日と同様の白い単衣を身に纏っていて大変魅力的な姿だ。
下に着ているものは昨日のような危険物ではないようだが、そんなものが無くとも薄い衣は彼女の曲線美をぼやかすことなく表していた。何故冬にこのような着物を着せられているのか。
浴衣とは布地が違うのだろう、裸でもないのにシルエットが浮き彫りになることで想像力が掻き立てられ一層心が落ち着かないところに、こうして可愛い面も見せてくる。
今夜は何があっても手を出さないと決めているのに、その不安そうに揺れる瞳にも目を奪われて吸い寄せられそうになるのを何とか踏みとどまり、深雪からの質問に痺れはあったが問題ないと答えた。
ここでなんともないから気にするな、と返すこともできたが深雪の表情を見る限り俺の回答は正解らしい。
口元が綻んだ。が、すぐにきゅっと結ばれる動きに遮るように口を挟む。
「言っておくがそれくらいのことでやめるつもりはないぞ。デメリットが小さすぎる」
きっと深雪のことだ、俺の負担を考えて腕枕をしなくていいと言うつもりだったのだろう。
深雪を腕に抱いたまま眠れるのなら腕が壊れても構わない、とは流石に引かれるだろうから口にはしなかったが、正直これくらいの痺れは何ということも無い。
分解を使う分にはCADなど必要無く、思考操作型CADがあればそもそも手を使う必要も無い。別にこのために作ったわけではないが、こんな時に便利なツールを作ったものだ。
もし魔法が使えない状況になろうと、片腕が痺れたからと言ってもう一本あるのだから大抵は何とかなる。
欠損を想定した戦闘訓練は四葉でも軍でも熟してきた。
再生があるからと頼りきりになるのではなく、そう装う場面もあるだろうと実施してきたが、それがこのような場面でも役に立つとは。
何でも身に着けておくものだな、と考えている間に、深雪がどんどん羞恥に耐え切れず体を丸めていた。
「その…眠れる気がいたしません」
…ああ、駄目だ。
抑えろ、と思うのに体が動く。
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