妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
天幕に戻ると、そこは悲壮感漂う空間だった。
あらー。男子のクラウドボールはうまく結果が出なかったようだ。
もしや妨害か?とも疑ったがどうも調整がうまくいかなかったらしい。実力は拮抗していたのでそういった差が余計に悔しいのだろう。エンジニアスタッフたちは落ち込んでいる。
こんな空気じゃ勝てるものも勝てなくなりますよ。
調整は心も体もメンテして、ですからね。
だけど無頭竜の被害を出さないためには直前まで点差が離れない方がいいのか?…うーん。
「皆さん、お疲れ様です。まだこれからがありますからしっかり休息も取りませんと」
とりあえず全員にお茶を配るのは無理だから、お菓子の入ったかごを持って、手前にいた服部先輩に手渡す。
別に私が用意した差し入れではなく皆のモノなんだけど、ほら、負けるとこういうのも手を出しにくいだろうから。
「あ、ありがとう司波さん」
「悔しいですが、今日の結果を引きずってしまいますと明日にも影響してしまいますからね。切り替えていきましょう」
そう労うと、俯いていた彼らの顔も上向きに変わる。
うんうん。落ち込んでる暇はないですよ。まだ戦いは始まったばかりなのですから。
「…深雪さん、すごいわね」
「生徒会長のお仕事を奪って申し訳ありません」
「いいのいいの!むしろ助かったわ。こういうのって若い子に言われた方が嬉しいだろうから」
「若いって、二つしか違わないじゃないですか」
くすくすと笑う美少女たちに誘われるように空気が和らいでいった。
その裏でとある男子たちが話しているのを深雪が知る由もない。
「…これか、お前が言ってた睨まれるってやつは」
「すげぇだろ。アイツあれで無自覚だぜ?」
自分に向けられる視線に鈍い達也も気づかなかった。
――
そして夕食前、友人たちとお兄様を迎えに行くと、晴れやかな顔をしたお兄様が。
「嬉しそうね。何かあった?」
頷くお兄様と驚く周囲。え、何に驚かれた⁇
「…嬉しそうだった?今」
「え、ええ。見えなかった?」
「いつもと何か違ったか?」
「ぼ、僕に聞かないでくれ。付き合いはそっちの方が長いだろ」
「たった数か月差だ」
「口角も上がってなかったよね?」
「目なんていつも通り何考えてるかわからない真っ黒だったわよ」
「…流石にそれは言い過ぎよエリカちゃん」
見えなかったのか。おかしいな。とっても上機嫌だったのに。
「深雪はいつも俺を見てくれているからね。気づいてくれて嬉しいよ。――とりあえず入って」
「あ、今のが嬉しそうだってのはわかった」
「今のは誰だってわかるだろ」
ふぅむ。日頃の修行の賜物ってやつですねきっと。
そういえば昔、私もわかりづらいって思っていた頃がありましたね。ミリ単位難しいとか。…それは今も偶にあるけど、もう慣れましたとも。
そして中に入って見慣れぬものがあり、皆でわいわい話す。
昨日話していたおもちゃですね。
でも昨日話してシステム構築して研究室送って次の日完成って…。私のもそうだったけど無理してない?そんなにすぐ完成するものじゃないよね!?
思わず研究所が心配になってしまったが、その間に西城くんへ使い方についてレクチャーが始まっていた。
とはいっても仮想型の再生機器のマニュアルなので見るだけなのだが。しかしその機械をお兄様が使うことに違和感を覚えた人たちに質問攻めにあっていた。
こうしてお兄様がいろんな人と話しているのは新鮮だ。そしてこれが日常になるんだな、と思うと感慨深い。
私と母と三人しかいなかった頃には起きなかった変化が、立て続けにお兄様に起こっている。
学校に通ってよかった。
お兄様は外の世界に触れられ、狭かった世界が広がる。
友人ができ、きっと恋をして、そして幸せになれる――。そんな未来が待っているのかと思うとたまらなく嬉しい。
だけどまだ先の未来よりも、この現在を喜ぼうじゃないか。
(『現在』と書いて『いま』と読む――なんて、この時代にあったかな…?)
ただ感傷に浸るだけで終われない私は、どこまでもシリアスには向かないなと思った。
「…何を考えてた?」
食堂に向かう途中。
まだ試作デバイスのテストはしていない。移動に余裕をもって行ったつもりだったが、説明と解説でその時間までは無かった。
八人と言う大所帯が廊下を歩くとなかなか幅を取るものだが、利用時間が決まっている食堂への道に余分な人はいないのでゆったりと歩くことができた。
前でエリカちゃんと西城くんと話していたお兄様がいつの間にか隣に来ていて、何を考えていたかと問われるけれど何のことだろう?
「さっき部屋で笑ってた」
「ああ」
思い当たったけれど、さてどう伝えようか。
「幸せだなぁって」
「…深雪はよくその言葉を口にするね」
「だって、幸せだもの」
お兄様が普通の高校生に見えるなんて、昔を知っているだけに難しいと思っていた。
周囲に溶け込むため上っ面だけで感情が伴わないのだと。
でもそうじゃない。
お兄様はちゃんと笑って、怒って、呆れて、そして苦笑して。どこにでもいる男子高校生に見えた。
「俺はお前を幸せにしてあげられているか?」
「もちろん」
誰よりも私を幸せにしてくれるのはお兄様だ。
断言したのに少しだけ不安そうな顔。
不安になんて思うことないのに。
「気づいてないみたいだけど、私が幸せな時、必ず傍にいてくれてるのは――貴方よ」
お兄様、と呼べなくてちょっと戸惑ってしまったけれど。
想いよ伝われ、と手を取って握ると、珍しく握り返す際に躊躇ったような感覚があった。
「…恐ろしいな、深雪は。そんなことを言われると手放せなくなるじゃないか」
「手放すの?」
せっかく手を繋いだのに?
するとお兄様は眦を下げて、微笑んだ…のだけど、なんだか距離がある笑み…何かを含んだような笑みだ。
「手放したくないな」
「なら放す必要はないんじゃないかしら」
放したくないなら放さなければいい。
なんとなくその放すが『離す』なんじゃないかって気づいたけど、お兄様が嫌なら無理に離れる必要なんてない。
離れる時が来たら自然と離れるのだから。
「そうか。いいのか」
「難しく考え過ぎよ」
「そうか。…そうだな」
食堂に付き、席に向かうと自然と手は離れていく。
これでいいのだ。自然に離れ、また繋がったりして。
お兄様と目が合う。さっきとは違ういつもの距離の笑み。
何か悩んでいるのかもしれない。でも悩みもまた成長に必要なものだから。たくさん悩んで、そして自分の道を選んでほしい。
――
運命の三日目。
「動くなら今日でしょうか」
「今日は予選ではない本選ばかりで、得点が入るものだからな。狙いは絞りづらい」
「誰もが優勝候補ですからね。ですが彼らは十師族である七草会長には何もしかけてませんでした。もしかしたら避けているかもしれません」
「十師族を直接、なんてしたら調べられる可能性が高くなる、か」
「十文字先輩を外してもまだ服部先輩も渡辺先輩もいますものね」
「あと千代田先輩も優勝候補だな――だがピラーズブレイクやバトルボードでどう妨害をする?外部からの攻撃など目に付くようなことはしないだろう」
「すでに内部に入り込んでいるのなら、場所そのものに仕掛けている可能性もありますね」
「場所、か。風間さんたちも罠を仕掛けてると言っていたが、相手が仕掛けないという理由もない。念のため伝えておこう」
メールで連絡を終えたお兄様と部屋を出て、向かうはバトルボードの会場、渡辺先輩の試合だ。
「お待たせエリカ」
「待ってないよ。席も確保済み」
先に座っている皆に挨拶とお礼を言って座る。
まだスタートするには時間があるのでちょっと雑談タイムだ。
「そういえば、昨日はここで魔法を使用したいって雫と話していたのよね」
「ええ!?それって妨害するってこと?!」
「違うよほのか。深雪が注目されちゃって大変だったから、気配を消すとか視線をずらすとか、そういう魔法が使えたら楽だって話」
「あ、ああそういうこと。びっくりした!でも、もし妨害じゃなくても魔法使ったら出場停止だもんね」
「だけどそもそも妨害って、いったい何をしたらこの試合の妨害になるのかしら?」
水を向けると皆でどう妨害できるかの話になった。
本気でやらないとわかっているからできる雑談だった。
「えー?流石に直接的は速攻警備が来るからダメでしょ」
「風を起こすなら目には見えないけど」
「不自然な突風は流石にバレる」
「なら水は?」
「波を起こして乱す?それだと四高が自滅的なのをやってたな。思ったより皆バランス崩さなかったぞ」
「そもそも外部からの魔法干渉による不正を防止するために魔法師を配置しているし、監視装置も大量に配備されている。本来ならそういった問題は起こらないはずだが」
「そこを掻い潜る話でしょ」
「掻い潜るなら、当日こんな場所からやったら目立つんじゃないか。仕込むならその前の方がいい」
「仕込むって、魔法をか?そんなことできるのかよ」
「?ああ、そうか。古式魔法の使い手なら思い当たることだけど精霊魔法――SB魔法ならよくある罠の手口だ。敵を中に誘い込んで罠にかける、とかね」
「それだと監視装置を置いても、すでに仕掛けてあるわけだから反応できない?」
「はじめからあるものを警戒するのは機械には無理だし、SB魔法はそもそも特殊な目じゃないと気づきにくいから」
…どうしよう。思ったよりすんなり答えが出ました。
お兄様をちらりと見れば鋭い眼差し。可能性見出しましたね。
「特殊、ねえ。――だぁめ。私にはなーんにも見えない」
「見えないってエリカちゃん、そもそも仕掛けられてないなら見えるものも見えないよ」
「ほら、自分の知らない才能があるかもしれないじゃん?」
「そ、そう言われたら私もチャレンジしてみよっかな」
「…何にも見えない」
皆ノリいいね。
では私も――おや?…えっと、
「…あの、見間違いならそれでいいのだけど、あの辺り、霊子らしきものが固まってない?」
「え、どこどこ?」
おかしいな。サイオンとかは知覚しやすいけどプシオンって認知しにくいものじゃなかった?固まってるから感知できるようになってる?
「え…あれって、以前見た光の玉…?でもあの時より青の色が暗い?」
眼鏡をはずした美月ちゃんの呟きにお兄様は私の陰に隠れて端末を操作していた。おそらく風間さんに連絡しているのだろう。
でもすでにスタート準備は整い――スタートが切られてしまった。
「ちょ、ちょっと、まさか本当に妨害があるなんて言わないわよね?」
エリカちゃんの動揺した声に、しかし誰も答えられる者はいない。
不安なままレースを見守る。
そしてその不安は現実となった。スピードを出しすぎ曲がり切れない七高生徒と、その先にいる渡辺先輩が試合を放棄して、彼女を助けようと動くがバランスを崩し――奇しくもその場所はプシオンの塊のあった付近だ――二人はフェンスに叩きつけられ、会場からは悲鳴が上がり、レースは中断。
「お――、達也さん!」
「行ってくる。お前たちはここで待て」
お兄様は人垣をかき分け魔法のようにすり抜けながらステージに走っていった。
私は困惑し怯えるほのかちゃん達を落ち着かせるよう背を撫で、お兄様の指示に従う。
「まさか、ほんとに…?」
「これって一応警備に伝えた方がいいのか?」
「直接私たちが伝えるより先に会長たちに相談した方がいいかもしれない。映像に証拠が残っていればいいけど、なければただの言いがかりになってしまうから」
「…そもそも僕たちが気付けたのだって偶然だったしね」
「渡辺先輩ご無事でしょうか…」
「心配だね」
時は経ち、人も疎らになった頃、お兄様が戻られた。
渡辺先輩は軍の病院に向かったそうだ。
骨は折れているようだが命に別状はないとのこと。七高の生徒も心配はないそうでひとまずは安心だ。
むしろ怪我の状態は渡辺先輩の方がひどいらしい。
「これから検証と報告に行く。美月と幹比古も手を貸してほしい」
「わかった」
「わかりました」
そしてお兄様の部屋で行われた五十里先輩たちとの検証は、美月ちゃん達の言葉もあり信ぴょう性のある推測はできたが、やはり証拠はない。
見えない敵に一層注意をするという、曖昧な対策を取るしかないという結論になった。
――だがそれは表向きだ。
お兄様はその後軍のところへ向かい、より深い話をしてきたようだった。
「連絡が間に合って水精は確認できたらしいが、七高のオーバースピードの方はまだ手口がわかっていない。だがばれないようSB魔法を使っているなら、こっちにも使っているのではと七高生のCADを借りて調べるそうだが、痕跡は見つからないかもと言っていたな。もしかしたら使用後消えるよう設定されているのかもしれん」
「なら使用前に見つけ出さないと、ですか」
「さっきも言ったが七高サイドに裏切り者がいればいいが、メリットがな。――大会側の方が有力だろうな」
そしてその夜、明日の新人戦に備え早く就寝をしようとした頃、呼び出し音が響いた。
指示通りミーティングルームへ向かうとお兄様とばったり。
ちょっと目つきが鋭くなったのは一人で出歩いているからですか?
でもお兄様も召喚されたのでしょう?
そう視線を向ければしぶしぶ納得してくれた。心配ありがとうお兄様。
一緒に中に入るとわが校のトップたちが勢ぞろいしていた。
渡辺先輩なんてまだ寝てないといけないだろうに無理をしてきたのだろう。
心配そうに見ればその心配を吹き飛ばすように笑顔で返される。ううん、怪我を防げなかった身としては心苦しいのだけどちょっと安堵もしている。…先輩は強い。
夜も更けている。明日のこともあるからと早々に切り出されたのは、ミラージバット新人戦を放棄して本戦に出場してほしいという打診――いや、もう彼らの中では決定していたのだろう。
私の実力であれば本戦であろうとも勝ち上がれるだろうと、優勝を狙えると思ってもらえたのだ。光栄なことだろう。先輩たちを差し置いてというのが申し訳ないが、勝率が高い方を選ぶとまで言われては下がれない。
謹んで受けることにした。
「深雪なら優勝できるでしょう」
そうお兄様が太鼓判を押してくれたのだから、負けるなんてありえない。
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