妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.㉒

 

 

軽く挨拶を交わすが、亜夜子はまだ調子が万全ではなさそうだ。それでも気丈に振舞っている姿が彼女らしい。

挨拶もそこそこに文弥が切り出した。

 

「お二人でお話とは珍しいですね。深雪さんは席を外されているんですか?」

「ちょっと呼ばれてな。夕歌さんが付き合ってくれているんだ」

「付き合って、というか今や時の人だもの。情報収集はしないとね」

「…情報収集とは、穏やかではありませんね」

「陰でこそこそ隠れてやるよりはいいんじゃない?達也さんも隠さず婚約者とのことを惚気てくるし」

「惚気話をしたつもりはありませんが」

「言葉だけじゃなく態度もそうだって言ってるの」

 

女である私にまで牽制してきたくせに、と言う夕歌さんにそれは失礼しました、と形だけの謝罪をすれば、ふん!と顔を背けられた。

どちらも本気ではなく軽口を叩き合う様子に文弥も亜夜子も驚きを隠せないようだ。

 

「…随分と、お二人は親しいのですね」

「「親しい?」」

 

思いがけない言葉に引っ掛かりを覚えると同じように引っかかった夕歌さんと言葉が被った。

 

「今後のことを思えば達也さんとも親しくあった方が良いのでしょうけど、親しいかと聞かれると――」

「しばらくは難しいでしょうね」

 

彼女が言い淀んだ言葉を引き継いで続ければ、彼女は嫌な顔せずそうでしょうね、と大きく頷いた。

その言葉と自分たちだけが分かり合っているような態度に双子はシンクロした動きで首を傾げ俺たちの顔を窺った。

今まで俺がこのように親しげに自分たち以外の親戚と話している姿を見たことのない彼らにとって、この姿は非常に違和感を覚えたことだろう。

臆することは無いが遠慮もしない姿というのは彼らにも見せたことは無かった。

 

「しばらくは警戒させていただきますよ」

「勝手にして頂戴。その間深雪さんに慰めてもらうから」

「…それは卑怯ではないですか?」

 

深雪は特に女性には甘いから、彼女の言葉を真に受けることは無くとも慰める事はしそうだ。

というかするだろう。瞼を閉じればその姿が浮かぶ。

卑怯だと訴えれば夕歌さんは鼻を鳴らして胸を反らした。

 

「ふん。どうせその後たいして傷ついていないのに慰めてもらおうとする貴方に比べれば卑怯でも何でもない――ってやめてよ、その手があったかみたいな顔するの!私が塩を送っちゃったみたいじゃない」

「事実、俺はそこまでは考えておりませんでしたので。そうですね。そのようなことになったら深雪に慰めてもらうとしましょう」

「あーやだやだ!可愛い親戚が毒牙にかかるのを見ることになるなんて。もっと前から男の見る目を養わせるべきだったわ」

「俺にとっては幸運でしたね」

 

彼女がどのように『男を見る目』とやらを教えるかは知らないが、良くも悪くも深雪の周囲には男性の見分け方など教えるような人間などいなかった。

本来そういった注意をするべき母親はその前に他界していた。

俺と婚約を画策する叔母上がそのようなことを教えるはずも無い。

そして自身で養う機会、深雪の周囲に寄ってくる男たちはことごとく排除してきた。

養うべき目が鍛えられることも無く育ってしまった彼女は、自分のようなひどい男を尊敬すべき兄だと信じている。

 

(…正直、大晦日の夜には嫌悪されてもおかしくないことをしたはずなんだが、深雪は未だこんな俺を慕ってくれている)

 

それは今朝方も布団の中で兄を呼びながら身を寄せたことからも、間違いはないと思われる。

そんなあの子だから心配にもなるのだが、自分に都合がいいので黙っておく。

この俺たちのやり取りに目を白黒させていた文弥がちらりと自身の姉を見遣ってからあの、と恐る恐る口を挟む形で入ってきた。

 

「この度の発表――深雪さんとの婚約の方ですが、その、お祝いの言葉をお伝えしてもよろしいのでしょうか」

 

この言葉に俺は――

 

「もちろん」

 

是非この婚約を喜ばしいものとして認めてほしい、とにこやかに応えた。

脳裏によみがえるのは、叔母上の言葉。

深雪は早々に四葉の人間との婚約を考えていたようだった。その中に年の近い文弥も含まれていておかしくない。

可能性がまだ完全に立ち消えていない現在、少しでもその芽を摘み取っておく。

笑みを浮かべての即答が予想外だったのだろう、文弥は戸惑いを浮かべ、亜夜子は元より白い顔をさらに白くさせた。

 

「大丈夫か?無理をしているなら少し休んだ方がいいんじゃないか」

 

血の気を失って今にも倒れそうに見える亜夜子に声を掛ける。

なんなら手も差し伸べるのだが、いつもなら重ねられる手は取られることなく、彼女は力なく頭を振って断った。

 

「だ、大丈夫です」

「しかし、」

「いえ、本当に、大したことはございませんので」

 

そう言って微笑む顔にいつもの覇気はなく、どう見ても元気が無いように見えるのだが、無理に騒がれたくも無いのだろう。

大人しく手を引っ込める。

 

「えっと、改めまして達也兄さん、ご婚約おめでとうございます」

「ありがとう」

 

まだ婚約が決まっただけで確実に結婚ができると決まったわけではない。

いくら当主肝いりの計画であっても情勢が変われば簡単に解消される可能性は捨てきれない。

だが、それでも公的に発表されることに変わりはない。

後は、深雪の恋心を自分に向けさせ確実にさせればいい。幸いにもすでにこれ以上ないほど愛されている自覚はあった。

あとは――

 

(本来であれば、じっくりと外堀を埋めていきゆっくりと育んでいきたかったものだが)

 

そう悠長に構えられるほど、自分の心に余裕はないらしい。

そのことがこの一つ年下の、可愛い弟分によって気付かされた。

もちろん、この先あわただしくなるだろう事情に巻き込まれるらしい、という理由もある。

そんなことになれば二人の時間を確保することが難しくなるのだろうことは想像に難くない。

 

(これまでも無自覚にストレスを溜め込み理性を失いかけたことは幾度もあった)

 

その時の行動を思い返せば俺がいかに深雪を異性として愛していたかが分かりそうなものだが、その件は今は置いておくとして。

あれ並みに忙しくなるというのであれば深雪との関係を進ませる余裕などないわけで、その状態でストレスを溜め込み理性の制御ができなくなれば、今度こそ深雪の意思を無視して襲い掛かってもおかしくはない。

自覚をしていない状態で脱がせようとまで考えていたのだ。自覚をしていたら何をしでかすか想像に難くないだろう。

そのことも心配に違いないが、文弥にその気――深雪と結婚する意思が無いとわかっていながらもこのように可能性があるというだけでこのように牽制をしていることの方が問題に思えた。

もしこれで学校が始まったら――半数が男である閉鎖空間に深雪を連れて行くことを想像するだけで傍から離れられる気がしない。

まだ、不安定な形だけの婚約者というだけでは、不安で仕方が無いのだ。

深雪が問題なのではない。深雪が婚約の決まった状態で男と二人きりになるような不信を抱かれる真似をするはずがない。

だからこれは――俺自身の心の問題。

 

(心とは、こんなにも厄介なものなのか)

 

頭で分かっていても、心がそれを不安視する。想像するだけで居ても立っても居られない。

 

(確固たる証が欲しい)

 

それはもしかしたら兄妹としてしか見られていない不安を払拭したいという理由もあるのかもしれない。

深雪にとって俺は兄でしかない。――それを、覆したい。

異性なのだと、刻み込みたい。

 

(最低だな。どんなに理由を付けようとも、ただの欲望じゃないか)

 

深雪を抱きたい。

結局のところ何かと理由を付けてはそこに行きつく。

そこからの会話は他愛のないもので、気楽な同年代の会話、という四葉邸にいるとは思えない会話を交わしながら深雪の戻りを待った。

しかし、なかなか戻らず、文弥たちは亜夜子の調子が悪いこともあって下がり、夕歌さんもまだ挨拶をしていない人がいた、と離れていき一人になった。

このまま壁になっていようとしたのだが、このタイミングを見計らったように当主の子息であり、次期当主の婚約者への挨拶を、と直接挨拶をかわすのも初めての親戚たちが次から次へと訪れた。

どうやら深雪がいなくなってから近寄りがたかったところに、歳の近い親戚たちとリラックスして会話をしていた様子を見て近寄る機会を見出したらしい。

探りをさりげなく入れてくる者も多く、また向けられる視線も今まで単純に見下すものばかりだったのが好奇の目に晒されることにより、辟易させられる場面もありいつになく疲労を感じたが顔に出すようなことは無い。

些細なことでも隙を見せれば命取りになる。

たかが会話だけであろうが、ここは四葉だ。武器が違うだけで戦場と変わらない。

自分には不得手なフィールドだが、深雪の隣に立つと決めた以上、逃げることなどできようはずもない。

そういえば、と挨拶が途切れた合間に周囲をうかがう。

 

(嫌悪の視線が向けられていない)

 

黒羽を筆頭に、俺の誕生を憎々しく思っているだろう分家当主クラスが軒並み席を外していることに気付いた。

もしかしたら深雪がいないことに関係しているのかもしれない。

深雪の下に向かうべきか、と思い意識を向ければ、どうやら彼女は用件が終わったのかこちらに向かっているようだった。

少しでも近い場所へ、と不自然に思われないようグラスを取って彼女の現れるだろう入り口付近に場所を移した。

予測通り現れた深雪は、葉山さんを伴っていた。

水波から白川夫人へ、そして葉山さんに変わったということは深雪を丁重に扱いながらも、周囲にも当主の傍仕えを侍らせていることで彼女の立場を改めて認識させる意味もあるのだろう。

周囲の視線が意味合いを変えた。

ただの好奇心だけでなく、次期当主への敬意。

彼女はまだ弱冠16歳でありながら気品と他を圧倒する美貌だけでなく、その佇まいと態度にも畏敬の念を抱かれているようだった。

その彼女が、まっすぐとこちらに向かってくる。

それだけで先ほどまで抱いていた疲労感が嘘のように霧散した気がした。

出来れば笑顔で迎えたいところではあったがここは四葉邸であり葉山さんのいる手前、そのような緩んだ顔を見せるなどできようはずもない。

ここまで連れてきてくれたことに頭を下げてから、深雪に向き直る。

 

「おかえり、深雪」

「お待たせいたしました、達也さん」

 

ただいま、ではない返答にそれもそうかと思いつつ、名前を呼ばれることに、名前などただの記号のはずなのに胸が騒いだ。

それは深雪が言い慣れないからその緊張が伝わって、だけではなく自身も聞き慣れていないからなのだろう。

先ほども思ったが、やはり深雪に付き合ってもらって早急に慣れないといけないな。

 

「葉山さんもありがとうございました」

「もうしばらく会をお楽しみくださいませ」

 

葉山さんの言葉に、予定通りしばらく後に警察の検問が薄くなるらしい。

彼に頭を下げられることにもまだ慣れないが、自然体を装って受け止め、見送った後に深雪の分の飲み物を渡して一息つくのだが、

 

「文弥くんたちとお話はできましたか」

 

姉の亜夜子の名より文弥の名を呼ぶことは別におかしなことではない。

無いはずなのに妙に引っかかる。

 

「ああ。彼女はまだ体調が良くないようだったがな」

 

それは心配ですね、と浮かない表情になってグラスの縁をなぞる。

普段はライバル然としているが、深雪にそのつもりはなく、彼女にとって亜夜子は可愛い親戚なのだ。

表情を曇らせてしまったことに罪悪感を抱くが、ふわりと香る臭いにすぐに意識が切り替わる。

 

「…たばこの香りがするね」

 

それも、ただの安いたばこの香りではない。先ほどの懸念が当たったようだ。

深雪の様子から亜夜子のこと以外で心が落ち込んだ様子もない。恐らく問題なく終わったのだろう。

深雪のことだから俺のように悪意を向けられるようなことは無かったはずだ。だが、駄目だった。

分家の、特に俺を目の敵にしている者は男ばかりだ。たとえ既婚者で子供のいる相手だろうと関係ない。そんな連中に深雪が囲まれていたのかと思うと、苛立つ思いに蓋ができない。

先ほどの文弥の名を呼んだことも気に入らず、深雪が一旦下がって臭いを消しに行くと離れようとするのをエスコートする形で連れ添う。

一人でも大丈夫だというが、俺がもう深雪と離れることができなかった。

挨拶の責務も十分に果たした。少し抜けたところで問題はないはずだ。

むしろ若い婚約者同士が席を外すのだ。気を利かせるくらいはするだろう。

人気の無い、離れた場所でCADを取り出し繊細な操作を、息を吸うように簡単に熟す姿に改めて感服するとともに、臭いが落ちた瞬間に腕の中に閉じ込める。

慌てた深雪が兄と呼ぶので訂正すると、先ほどまでのお嬢様の仮面が剥がれ、俺のよく知る可愛らしい妹の顔になった。

そのことにひどく安堵して抱きしめる腕が強くなる。

 

「…お疲れなのですか、達也さん」

「そりゃあ、ね。悪意の視線に晒されるのは慣れているが、ずっとあのように探られる視線に晒されるといくら俺でも辟易する。それに、傍にお前もいないしな」

 

深雪がいればまた違っただろう。それは分散されるからとか、そういう理由ではない。深雪がいればそれだけで負担など後回しにできる。

 

「お前と一緒ならどんな場面でも気にすることなんて無いのに」

 

深雪を眺めていれば疲れなど吹っ飛ぶというものだ。

やはり手放せないな、と蟀谷にキスをすると、深雪は恥ずかしがって身じろぎをするが逃げはしなかった。

 

「…お兄様には羞恥というものが無いのですか」

「達也」

 

細かく訂正すると、腕の中で動かなくなった。

少ししつこすぎたか、と顔を窺うと頬に朱を走らせている。少しばかり尖った唇も、不満の色は見せるも嫌がっている様子は見えない。

だが、深雪は油断しているようだ。

 

「…達也さん」

 

なんて、潤んだ瞳で見上げられて、俺が冷静でいられると思っているのか。

 

「俺にだって羞恥くらいはある。だがそれよりもお前を堪能したいという欲が勝ってしまうだけで」

 

深雪には俺が超人のように思われているようだが生まれと育ちが普通でないだけで、一般的な男とそう大差はないはずだ。

ただ、そこに衝動が結びつかないだけでフィジカル的素質はさほど普通の人間と変わりはない。

三大欲求は普通に存在するのだが、それをコントロールする術があるから勘違いが起きているのか。

とはいえそのうち二つほど深雪が絡むとノーコントロールになるのだが。

 

「ほら」

 

深雪の手を取って己の胸に押し当てる。これが一番手っ取り早い。

 

「分かるか」

「…確かに、鼓動が早いようですけれど」

 

分かってもらえたようなら何よりだ。

深雪に触れるだけで、触れてもらえるだけで鼓動は早まる。

それは喜びであり、期待であり――俺が唯一、一人にだけ向けて抱ける欲でもある。

 

「俺に触れるだけでそんなに赤くなってしまうのか」

 

こんなことで照れてしまう。

この仕草一つ可愛くて仕方がない。

このままこの腕の中に閉じ込められないだろうか。誰の人目にもつかないところに隠してしまいたいと思いながらも口では「深雪から触れることだってあっただろう?」と別のことを訊ねていた。

自分から触れるのとはまた別です、と小さな声で顔を胸に埋めてくるこの可愛い婚約者であり妹をどうしてくれようか。

 

「ああ、可愛い。困ったな。もうこのまま帰りたくなってきた」

 

そして思うまま押し倒してしまいたい、とは流石に口には出さなかったが本心を述べると顔を耳まで真っ赤にして、グイっと体を押し返される。とはいえ深雪の力はさほど強くないので添えられているのと変わりはないが。

 

「も、もう!達也さ――達也様、戻りませんと」

 

ここでまさかの様付けに変わり、距離が空けられてしまったか、と内心焦る。

距離を詰めすぎただろうか。それとも兄としての信頼を失ったか?

唐突に変わった敬称に戸惑いを隠せない。

 

「様って…俺はお前の婚約者というだけであって、立場で言ったらお前の下だぞ」

「ですが、現当主のご子息なのですからおかしくはないはずです」

 

取ってつけたような理由だが、普段お兄様、と呼んでいることから『さん』より『様』の方が彼女にとって呼びやすいらしいのだと推測できた。

 

(よかった…距離を開けられたわけではないらしい)

 

兄さん、とこれまで学校で呼んでいたのももしかしたらまだ抵抗があったのかもしれない。

思い出すのはあの沖縄の出来事。あの日以来、深雪はお兄様と呼ぶようになった。

そんな高尚な呼び方をされるような人間ではないのに、まるでそれが一番しっくりくるというように嬉しそうに微笑みながら。

対して俺は多少の居心地の悪さを感じていた。

深雪は妹でありながら次期当主候補に選ばれており立場がずっと上で、俺なんかより優秀で、お姫様のように美しかったから。

自分ごときが『様』を付けられて呼ばれるなどあってはならないことのように思えた。

だが、深雪が嬉しそうに呼ぶものだから否定もできなかった。

母のことをお母様と呼んでいるのだ、兄もそう呼ぶことは彼女にとっておかしなことでもなかったのだろう。

過去に戻ることができるならあの時に呼び名を変えさせたいと思うくらいには変えさせたかった時期もある。

が、深雪に呼んでもらえるのならなんだって構わないかと次第に落ち着いていった。

いずれこの呼び方も落ち着いていくのだろうか。

 

「ご子息ってなぁ。…やはりあの時呼び方を直すべきだったか」

「お兄様はお兄様です。それ以外には呼べません」

 

つん、と唇を尖らせてそっぽを向くのが可愛すぎて結局好きにさせてしまう。

こういうところがダメ兄貴なんだろうな。可愛さに負けてつい甘やかしてしまう。だが、それでいい。

俺を振り回すくらいが、ちょうどいい。

 

「頑固だな。…そんなお前も愛おしいが」

 

愛おしくてたまらない、という想いの乗った声で耳元で囁くと、落ち着き始めた顔色がまた薄く染まりだす。

それを強く抱きしめて込み上げる笑いを堪えようとするが、駄目だな。深雪に関するとどうにも抑えが利かない。というより抑える気も無い。

 

「…達也様は変わられてしまいました」

 

抵抗空しくされるがままになって拗ねたような物言いになってしまったが、これは嫌がられての言葉ではないのだと、真っ赤な耳を覗かせて服を握られていることからも理解していた。

そうだな、ただの兄ではなくなった時点で大きな変化だっただろう。

自身でも大分変わったように思う。プログラムが書き替えられたように年明け前とはまるで思考が違う。

 

「変わった俺は嫌いかい?」

 

耳元で囁きながら髪を耳に掛けてのぞき込めば、深雪は顕著に体を震わせ皴になるほど服を握りしめて頬を赤く染め上げた。

 

「答えは聞かないでおいてあげよう」

 

直接彼女の口から聞きたくはあったが、その態度で嫌われていないことは明白だった。

これ以上追い詰めては逃げられてしまうかもしれない。ただ囲って追い詰めて逃がさないようにするのではなく、彼女の方からも歩み寄れるだけの余白が無ければならない。

「恋をさせてほしい」、それが彼女の願い。

愛されていることはわかっている。絆されやすく流されやすい深雪のことだから、ちょっと刺激を与えれば導くことはそう難しいことではないように思うのだが、この計画で一番気を付けなければならないのは俺自身だ。

流されやすい深雪だが、一定を超えるとパニックになって拒絶することもある。

心の赴くままに押し続けては逃げられる可能性がある。そこだけは気を付けないといけないポイントだが、そこが一番難しい。

この深雪の可愛さにどこまで耐えられるのか、理性がもつのか。

 

(もたさねば、ならないだろうが)

 

恋とは本当に厄介だ。自覚してしまえばこんなにも制御が難しくなるなんて。

このままここで二人きりでいたら危険だな、と会場に戻ることに。

周囲に目があれば己を抑えられるだろう。

…他人を頼るなんて情けない話に思えるが、制御できないうちはこうして周囲を利用してでも抑えなければ。

信用を失ってからでは遅いのだから。

 

 

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