妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.㉘

 

ぽつぽつと語った内容は、年末聞かされた俺の生い立ちを自分なりに解釈したものだった。

途中、深雪の表情が悲しみに染まるのを、慰めるように頭を撫でながら伝えたい言葉を紡ぐ。

こうして想ってもらえることで、これまでどれほど慰められてきたことか。

自分の能力が、危険視される理由はわかっているつもりだ。

世界を破壊する力、というのも納得できる『世界のバランスを揺るがす魔法』を二つも持っているのだから。

分解の魔法は、物の解析に対する処理能力が高くなればなるほど、直接的に世界を滅ぼせる。

再生は直接破壊をもたらすわけではないが、ある種死を克服できる魔法とも言える。

そんなもの、どちらか存在するだけでも十分パワーバランスは崩れる。

沖縄や横浜での実戦がいい例だ。もしあの時この二つの魔法がなければ被害は甚大で、日本は蹂躙されていた可能性が高い。それだけの戦力差があった。

 

たった一人で世界をひっくり返せる力、そんな強大なものを持っているだけでなく使いこなす化け物を恐れるなという方が無理だ。

 

彼らの言う通り、この力は人の身に過ぎる力なのだろうが、そんなもの俺の知ったことではない。

あるものはある。それを有効に使う。ただそれだけのこと。

そう考えられるのは、人らしい感情を取り払われたからこそであり、普通の精神を持った人間がこの力を揮うとなれば分家たちの危惧していた通り暴発や暴走を起こしていただろうことは想像に難くない。

いくら特殊な訓練で精神をコントロールする術を身に付けさせたとしても、所詮人は完璧ではないのだから。

偶然の結果による副産物などではなく、母によるあの手術は自分を生かすためにあったのだと思えるようになったのは深雪のおかげだ。

家族として暮らすようになり、母の人となりに触れられるようになってその可能性に気付けた。

そしてそれは同時に母が衰弱した理由に思い至るきっかけにもなった。

 

(俺は桜井さんに続き、愛する母親も深雪から奪ってしまった)

 

その罪悪感で俯いているのを、深雪は俺が母の死を悼んでいるのだと慰めるように寄り添ってくれたが、それを否定せず、悲しみに暮れてもなおこうして寄り添おうとする深雪を抱き寄せた。

そして、母にこの唯一を残してくれたことに感謝した。

彼女がいるから、俺はただの兵器に徹することなく人でいられるのだと。

兵器として使われることに意義を感じるのではなく、人として頼られる――。

客観視して振り返ると、俺の人生は目を背けたくなる類いのものなのだろう。

絶望の中で生きている、そう見えるかもしれない。

 

 

だが、俺には深雪がいた。

 

 

「わ、たし…?」

 

抱き寄せていた体を起こし、触れるほどの至近距離で見つめ合ってから額をくっつけた。

知覚共有するでもなく、ただ合わせるだけのもの。なのに不思議と一体感がある。深雪と身体が混ざり合ったような、一つになったような感覚。

 

「そう、深雪が傍に居てくれるだけですべての意味が反転する。

この傷だらけで見苦しい体も、お前を守るために鍛えられたのだと誇れるものになる。

魔法力が劣っていても魔法にしがみつけたのは、お前の強大な魔法力をコントロールするために知識を欲した影響だ。それが無ければあのまま再生と分解に頼り切った戦闘に固執していたかもしれない。

お前しか愛することができないことに関して言えば、不幸でも何でもない。お前を愛することが許されたから俺はこんなにも幸せで満たされている。

世間で言う不幸とされる事柄すべてが意味を変え良い方向に転がされていく。

お前がいるというだけで、すべての意味が変わっていくんだ」

 

音もなく、そんな素振りも見せずにただ静かに流れる涙に視覚で捉えるより早く気づけたのは、この感覚によるものだろう。

額を離し、頬をなぞる様に涙を拭う。

 

「お前が、俺の不幸を書き換えてくれているんだ」

 

憐れまれる人生だったのは過去の話。

全てを逆転させる切り札はすでに切られた。

深雪の瞳に映っている自分が笑っている。その表情は作ったようには見えない。

当然だ。俺は今最高潮に幸せなのだから。

そう、心から思えるのだから。

涙が自然に零れ落ちるように、深雪の口からぽろっと言葉が零れた。

 

 

「――お兄様自身が、破壊されたのです」

 

 

破壊。

その言葉は忌むべき言葉のはずであった。

生まれ持ったすべてを破壊する力。

不幸の源――その、はずだったのに。

 

(深雪はそれさえ塗り替えてしまうのだな)

 

ああ、やはりそうだ、と納得した。

深雪という幸福のために、俺にはいくつもの試練が用意されていたのだ。

全てはこの幸福を手に入れる為。

そして俺の願いは叶い、こうして腕の中に納まってくれている。

幸不幸の天秤は大いに傾き、不幸が軽くなってしまった今、新たな試練が襲い来るかもしれない。

 

「そうか。不幸を破壊したのか。その発想は無かったな」

 

だが、構わないと思った。

 

「世界を滅ぼせるだけのお力があるのですもの。それくらい、お兄様には簡単でしょう」

 

事も無げに言ってのける深雪に、肩の力が抜けていく。

 

「俺には世界を滅ぼすことの方が簡単に思うがな。そっちは俺一人でできても不幸を打ち砕くのはお前のサポートが無ければできないことだ」

 

俺だけでは世界を破壊するだけの力しかないだろうが、深雪がいるのなら立ちはだかる不幸もすべて破壊できる。

その確信が、今得られた。

深雪という幸せを守る為ならば、俺は何にでもなってやる。騎士だろうが魔王だろうが、ヒーローだろうが、なんだって構わない。

破壊神となって世に君臨にしたっていい。

 

「お兄様はもう、不幸ではありませんか」

「この状況で不幸だと思うことがどうしてできる?」

 

俺は不幸なんかじゃない。ましてや憐れまれるような存在じゃない。

 

「今や俺より幸福な男はこの世にいないだろうよ」

 

世界が羨むほどの幸運を手にしたのだから。

美酒を飲むように、深雪の涙を口で掬いあげて飲み、その流れのまま顔中に口付けていく。

 

「…よかった…」

 

その言葉のあと、とめどなくあふれる涙が手を濡らしていく。

 

「ほんとに、よかった…ッ!」

 

(この子は、本当に俺の幸せを望んでくれていたんだ。俺の、為だけにここまで)

 

ずっと後ろを振り返らず努力してきた姿を見てきた。

俺の見ていないところでも、懸命に何かに取り組んでいたのを知っている。

笑顔の下でどれほど歯を食いしばっていたのか。

ただの才能だけで今の彼女が作られたわけではない。

それが、今この瞬間――報われたのだと、万感の思いの篭った一言で伝わってきた。

 

(俺は、生きていていいんだ)

 

人として生きて、幸せになって良いのだと、肯定されたよう。

この子に求められるだけで十分だと思っていた。

この子の、助けになるのなら自分の生きる価値になる、それが存在意義だと。

 

(いいんだ)

 

抱き込んで、深雪の髪に顔を埋めて零れる涙を隠した。

嬉しさのあまり涙が流れることがあると深雪は言っていたが、本当だった。

そのことを彼女に伝えることはできないが、嬉しいと、喜んでいることは伝えたいと、痛くない程度に力を込めて抱きしめる。

遠くで、「口にしないで伝わるなんて驕った考えだこと」と皮肉を込めた声が聞こえた気がした。

故人の声が聞こえるわけがない。かといってそんな言葉を過去に言われたことも無いから記憶の再生というわけではない。

だが、あの人がこの状況を見ていたならそんな言葉を言われそうだ、と感傷に浸りつつも気のせいだと割り切るが、想像だろうとあの人らしい言葉に口元が緩んだ。

 

 

――

 

 

涙は一筋のみだった為、痕が残ることも無く、流したこともバレることも無さそうだ。

心穏やかに落ち着いたことで再度深雪の涙を拭うことに専念する。

涙もろくなっていた深雪はしばらく涙を止めることができず、その滴を吸い取って味わうのだが、なぜ、これほど美味なのだろうな。

いくらでも飲んでいたい。

しかし、徐々に深雪も冷静になって状況を理解したのだろう。

じわじわと白い肌が桃色に染まりだす。

ああ、なんて美味そうなんだろう。

 

「お、お兄様、もう――」

「朝露を啄む鳥の気分だ。これは美味すぎて一度に少量しか味わえなくても何度も欲してしまうな」

「もう、お止めくださいませ…。このままでは恥ずかしくて溶けてしまいそうです…」

「それは困るな。仕方ない」

 

本当は涙だけでなくこのまますべてを食べつくしてしまいたいところだが、これ以上は深雪を困らせることは目に見えていた。

そろそろ引くべきところは引かなければ、と最後とばかりに唇を重ねてすぐに離れた。

 

「もうだいぶ朝も過ぎてしまったが、おはよう深雪」

「……おはようございます」

 

真っ赤に染まり切ってもじもじと初々しい反応を見せる深雪からは離れがたかったが、ここは深雪の意思を尊重すべきだ。

まだ、彼女は『恋をしていない』のだから。

兄妹であり、婚約者の立場であることと弁えなければ。

…しかし、この婚約者というのはどこまで許されたものだろうな。後で調べる必要があるか。

年末から調べることや確認することが山積みだ。

 

「朝食はHARに任せてもいいな。今日はゆっくり休もう」

 

起きた時間は遅いわけではない。鍛錬の時間は過ぎたが、世間的にはまだ早朝といえる時間帯だった。

だが、俺はともかく深雪は本調子ではない。

寝た時間はさほどいつもと変わりなかったが、何せ無理をさせた覚えがしっかりとある。

…盛りのついた獣と言われても言い返すことのできない行いだった。

しっかりと反省はするし、無体をはたらくことは今後も無いと固く誓うが、深雪がのってくれる場合はその限りに無い、と注意書を残すくらいには次があることへの期待を捨てきれなかった。

と、話が逸れたが、ともかく深雪の体を思うならこれ以上負担を掛けさせたくはない。

そのためには、

 

「可愛いなぁ」

 

目を真ん丸にした深雪の可愛さに思わずキスしてしまうこの衝動を抑えなくては。

どうにも先ほどから深雪が可愛くて仕方がない。

いや、深雪は常に美しく、可憐で可愛らしいのだが、自覚し、こうして体までつながったことでより一層可愛がりたくて体が疼くのだ。

 

「、お兄様!」

 

真っ赤な顔で怒る深雪も可愛い。その少し尖った唇はキスをしても良いという合図だろうか。

違うのだろうな。わかっているのだが、それでもそんな誘惑が付きまとう。

 

「外れた箍も元に戻さないと。このままだと水波の前でもこんな調子になってしまう」

 

完全に箍が外れてしまっている。

このベッドの上にずっといるのもよくないのだろう。このまま押し倒したくて仕方がない。

 

(いつものように抱きしめて頭を撫でて――ん?)

 

そこではたと気付く。

 

「兄の距離感とはどんなものだったか…元々そんなに変わっていないんじゃないか?」

 

そんな考えがふと過った。いつものように抱きしめて、ということはそもそも元から近すぎる距離は今と大差なかったのでは?と。

 

「流石にそれは有りません!!」

 

深雪が全力で否定するが、果たしてそうだろうか?

以前から抱きしめたいという欲求はあったし、さほど抑えてもいなかったように思う。頭を撫でるのもいつものことであったし――

 

「…深雪、恐らくだが」

「そんなことはございません!」

「逃避をすることも時には大事だと思うが」

「お兄様はちゃんとお兄様をしていらっしゃいました!」

「…兄は妹を可愛いからと言って密着して可愛がったりしない」

 

以前は深雪もそう指摘していたじゃないか。

それを幾度となく言いくるめてきた結果こうなっていたのだが。

 

(今になって思えば、とんだ兄貴だった)

 

何事も妹を優先するところを、随分我を通していた。妹を守るのが兄だというのに、あんなに困らせて。

だというのに深雪は力強い言葉で兄を肯定する。

 

「他所は他所!ウチはウチです!!」

 

それは九校戦で一条と話した時に言った言葉だった。

俺たちの周りにいる兄弟は基本仲の良い兄弟ばかりで、距離を取るような間柄の兄弟というモノを見たことが無かった。

だから一条の言う兄妹らしくない、という言葉はなかなか理解しがたいものであったが、こうして恋だと自覚してから色眼鏡を外してみれば、確かにそうだ。

いくら仲が良くても顔をこんなに近づけて密着するのは余所で見たことが無い。

人目が無ければこのくらいはおかしくないだろう、と何故思えたのか。

深雪が自身の発言に、今までの触れ合いを肯定してしまったのではないかと焦って節度をもって過ごすべきだと提案されるが、

 

「叔母上は、節度を守れとは言っていなかったが?」

「叔母様の非常識は棚に上げておいてくださいませ」

 

深雪のこの言葉に噴出してしまった。

確かに、あれは非常識だった。

おかげで彼女の言うような爛れた生活だけは送ってなるものか、と即座に心内で反射的に拒否したが、そもそも水波もいるのだ。

いくら婚約者となったからといって今までと違う生活になるわけがない。

それに、まだ婚約者という立場を得ただけで結婚をしたわけではない。常識的に子作りは世間体も有り結婚後が推奨されている。

こんな欲に塗れた俺でも、節度はある程度必要だということくらいわかっている。

だが、これだけは言いたい。

 

「確かに非常識だな。まさか兄妹で婚約をすることになろうとは。――俺としてはありがたいことだが」

 

叔母上の考えは理解不能。

結局なぜ彼女が俺たちを婚約させたいか、まったくもって理解はしていない。何故世界を破壊することと並んで俺が最愛の深雪を守り切れるかが同じ天秤に乗るのか。

だが、その意味不明の考えが不可能とされた俺たちの結婚を、問題なくできることに繋がっているのであればそこまで気にすることでもない。

 

「…お兄様。吹っ切れましたか?」

「そうだな。俺の出生のあれこれや、四葉との因縁めいた妄執も原因が分かったことで不明な部分もほとんどなくなったからな。何より一番欲しかったものが手に入られることを思えばすべてのことが些事だ」

 

深雪との関係を受け入れられる立場を提供されたくらいの恩は返さねばならないだろう。深雪の不利益にならなければ手を貸すくらい構わない。元々四葉に与している現状だ。大して変わりないことではあるのだが。

深雪が四葉に庇護されているから。そして未成年の自分にまだ独立するだけの力が無いから従っている。

そこに大きな借りが一つできた。これはいつか返さねばならない。

だが、深雪という幸福を得た今、そんなものに躊躇うことでもない。

 

「お前が傍に居てくれるなら俺は無敵だ」

 

そっと抱きしめる。それだけで力が湧くようだ。

ふふ、と深雪が笑う。

今日初めての、緊張の取れた晴れやかな笑み。

 

「そうですね。二人揃えば私たちは無敵です」

 

きゅっと重ねて握られた手に胸まで熱くなる。

朝食ができるまでこのまま――、そんな邪な考えを察知したのか、深雪は体を起こしてそういえば、と疑問を口にした。

曰く、九校戦で一体どのように困らせたのか、ということなのだが、深雪の方から抱きついて眠ってきたと言ったなら深雪はしばらく一緒には寝てくれなくなるかもしれない。

彼女は今も花も恥じらう、慎み深く美しくも可憐な乙女でもあるから。

直接言葉にはせず、試してみるか?と訊ねれば、賢明な彼女は首を振って知らなくていい、と答えた。

俺としてはもうしばらく知らずに無警戒のまま隣にいてくれることを願わずにはいられない。

 

 

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