妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.㉛

 

九重寺に着いたが、案内された部屋は待合の部屋だった。

何でも急な来客があったらしい。しかも、師匠が丁重に迎えねばならないような御仁のようだ。

ここは一度この場を離れた方が良い予感がするのだが、よく手合わせをしている高弟の引き留め方が尋常ではない。

もしやここで足止めをするよう頼まれているのか、とますます離れた方が良いと勘が働くのだが、深雪がお茶に手を付けていた。

この場に居ることを選択したようだ。

深雪が残るというのならばその意思に従おう。

帰らないでいることに胸を撫で下ろす高弟はまた呼びに来る、と下がっていった。

二人きりになると深雪はじっとこちらに視線を向けてきた。

 

「深雪の目は相変わらずおしゃべりだね。そんなにこの恰好が気になるかい」

「も、申し訳ございません!」

「いいよ、俺もその分深雪の艶やかな恰好を堪能させてもらっているからね」

 

俺なんかに見惚れてくれるという深雪は本当に趣味が悪いのでは、と思ってしまうがそのおかげでこのように見てもらえるのだからそれも悪いことではないように思う。

深雪を見つめているだけで時間などあっという間に過ぎていき、師匠の客がようやく帰る頃らしいと呼びに来た。

僧坊から本堂へ向かう庭、すれ違った相手が師匠の客人だと直感で確信したのは異様な気配を感じたからだ。向かってくる方向からもそうであることは確実だが、そんな情報が霞むほどその人物には得体の知れなさがあった。

視線を向けられ、その際に違和感も覚えたが、こちらも無遠慮に見るわけにもいかないと、黙ってその場を後にした。

師匠はいつもと変わらず飄々として見えた。

一切何を考えているかわからず、悟らせるようなことも無い。先ほどの来客のことも、俺たちに対しても、何も変わった様子はない。

新年の挨拶をし終えたところで、当然のように魔法師協会を通して一部に公開された情報を手に入れていた。

形上驚いてみせたが、師匠なら当然とも思えた。

四葉であることは調べられてもまさか俺たちが従兄妹同士で婚約者という展開は読めなかっただろう。

というより読まれていたとしたらそれはもう未来視か何かだ。通常に調べたのでは誰にもわかるまい。

すごいスピードで魔法師界に噂が広まっているよ、と楽しそうに話す師匠は本当に意地が悪い。

まあ、それも悪いことだけではないか。

深雪が次期当主と広まれば注目が酷く集まるだろうが、その婚約者が既にいるとわかれば余計な手出しをする輩は湧きにくいはずだ。

――ちょっかいを掛けてきそうな家が無きにしも非ず、ではあるが。

その他大勢で無いだけでも幾分マシだろう。

 

「それに、もうすぐ師族会議もある。今年は四年に一度の選定もあることだし」

 

やはり、噂の広がりが早いのはそのことも影響しているのか。

叔母上の話では何か仕掛けられる可能性を示唆されていたが、各方位警戒を強めた方が良さそうだ。

 

「それにしても君と深雪君が兄妹ではなく従兄妹同士で、婚約とはね」

 

すっかり騙された、とにやついた顔がいつにも増して憎らしい。

まるで真実を知っていると言わんばかりの訳知り顔だ。だが、知られたところで現実は変わらない。深雪との婚約は覆させない。

 

「それで、何処までが本当なんだい?」

 

なんて揺さぶりをかけてくる。それをしれっとそう聞いているとだけ返し、多少応酬があったものの師匠はふぅん、とすべて受け流した。

これは追及ではなく一種の通過儀礼のようなものだったのだろう。詮索する意図が全く見えなかった。

しかし、次に続けられた言葉にはすぐに返すことができなかった。

 

「それで、達也君は想いを成就させたわけだ。まだ婚約ではあるけれど」

 

よかったね、と軽い口調でおめでとうと祝いの言葉までつけられたが、一瞬何を言われているのかわからなかった。

 

「…どういう意味です?」

「どうって、何が?」

「その、俺の想いと言うのは」

「まさかとは思うけど、バレてないとでも思っていたのかい?あんなあからさまだったのに?」

 

師匠の様子に揶揄う色は見られない。

本気でそう訊ねている。

 

「むしろ隠す気あったの?」

 

と怪訝そうに続けられた言葉に、何も言えなくなる。

婚約できてよかったね、おめでとうと祝われる理由が、俺の想いの成就に繋がる理由はただ一つだとわかったが認めたくないという気持ちが先行した。

自覚もしていないのに隠すもなにもあったものでもないでしょう、と自然に返せるなら返したかった。

というよりも、そんなにあからさまな態度だった、と?

そんなに――深雪に想いを寄せていたと目に見えてわかるほどだっただろうか。

 

「先生はお気づきだったのですか?」

「まあ、深雪君は気付いてなさそうだと思っていたけれど、まさか達也君が…ねぇ。あんなに牽制してたじゃないか」

「あれは、兄として当然のことです」

 

妹に寄り付く虫を排除していただけ――そのはずだったのに。

 

「普通兄は嫉妬を向けないよ」

「…しっと…」

 

たとえ師匠であろうとも、遊びでちょっかいを掛けてきているのだとわかっていても牽制をしていた覚えはある。

 

(だが、あれが嫉妬による行動だった…?)

 

そんなつもりはなかったが、面白く思わなかったのは事実。

 

「それも自覚していなかったのかい?本当に?」

 

うっそだぁ!と年甲斐もなく大げさに驚いてみせたりとはしゃいだ様子の師匠に己の視線が冷めていくのがわかったが、文句を言う気力も無かった。

そんなわけないでしょ、あれだけやっておいて?いくら妹が大事だからって兄はあんなに独占欲を丸出しにして主張しないよ?と畳みかける言葉に返せる言葉を持ち合わせておらず、じっと耐えた。

そんなに独占欲を前面に押し出していただろうか?そんなつもりは一切なかったが、こうしてバレバレだったと言うからにはそうとしか見えなかったというわけで。

 

(いや、あの頃はちゃんと兄妹として、兄として妹と接していたはずだ)

 

特に対外的には、それなりに節度をもって触れ合ってきたつもりだ。

…そのはずだったのだが。

師匠は信じられない!と腹を抱えて散々笑った後、何気ない日常の会話を織り交ぜながら周囲にどのような変化があったかを教えてくれた。

この街は師匠の縄張り。そこに侵入する魔法師は逐一彼に報告される。

そして彼らにとって目を瞑っていられない悪さをしようものなら、忍ぶ者たちによって闇に葬られる。

だからこそ、安全とも言えた。中立ではあるが、彼らの縄張りを踏み荒らそうものなら彼らはきっちりと片を付ける。そういう場所だから。

ひとしきり話した後、車まで見送りに来た師匠は最後に一言、

 

「明日から少し厳しく指導してあげるからそのつもりで」

 

と言ってひらひらと手を振った。

あっけらかんと、これからも変わりなく付き合ってくれるとの言葉を最後に投げかけてくる。すべて見透かされている気分だが、悪い気はしなかった。

頭を下げている間、深雪が身を震わせながら礼を言いながら涙ぐんでいた。

車に乗り込んで、しばらく走ったところで堪えきれなくなり、はらはらと零れ落ちていく深雪の涙を指で拭う。

できることなら直に舐め取りたいところであったが、先ほど師匠に散々笑われたこともあり外での距離感に気を付けるべきだと戒める。

しかし、振り袖姿も相まって、静かに涙を流す深雪は儚げで美しい。なんとも言い難い色香が漂っていた。

これに手を出してはならないとは、かなりの忍耐が必要に思えたが、今朝言われたばかりだろう。これも修行だ。

指に付いた甘露を舐めるだけに留めた。

 

 

――

 

 

夕方、深雪待望の水波が帰宅した。

深雪の勢いに押されてたたらを踏んだ水波だったが何とか踏ん張り持ちこたえていた。

あんなに喜んでのハグは俺もほとんどされたことが無いが、思っているより心が凪いで見つめられた。

なんだか言いたげな視線を向けられはしたが、特に何も言われることも無く、「今日までは休みなのだから働いてはだめよ」と諭され夕飯は深雪が作ることに。

風呂後のケアもさせないと意気込む深雪に、しぶしぶ肩を落として従う姿勢を見せていた。

あれから四葉での会は例年以上の賑わいがあったそうだ。

目出度い、と新発田家の婚約について喜ぶ声もあったとのこと。

俺たちの関係についてはタブーのように口に上ることは無かったそうだが、深雪が次期当主だということは概ね好意的に受け入れられ、主にその件での喜びの声が多かったとか。

俺たちのことに関しては反発の声が上がらなかっただけ十分だろう。

まあ、それも表立っての話だろうが。

久しぶりの深雪の張り切った料理に舌鼓を打ちながら家族三人の夕食は賑やかに終わった。

 

 

 

 

就寝直前、深雪の部屋を訪ねる。

こういうルールは初めが肝心だ。

 

「どうか、なさったのですか?とりあえずここではなんですから中へ」

 

と促す深雪は水波が戻ってきたこともあってか警戒心が薄くなったようだ。

 

「寝る前の挨拶に来たんだ」

 

それだけ伝えると、今朝の話を思い出したのだろう。用件が何か分かったようで頬を赤らめ視線を斜め下に向けながらそうですか、と小さな声で答えた。

 

「部屋に入ったら、歯止めが利かなかった時、お前が逃げられないだろう」

 

おやすみのキスだけで止めるつもりではあるが、万が一ということもある。

…水波が家にいるからとはいえ、深雪に触れて止まれるかは、五分五分といったところか。

すでにパジャマの上にカーディガンを羽織っている姿に手を伸ばしそうだ。

これ以上前に進むわけにはいかない、と扉の外で待てば、深雪が遠慮がちに近寄り胸に手を添え寄り添う形になったところを、腕を回して囲い込む。

そしてできるだけ優しく重ねた唇は引力でもあるように離れがたく、ただ合わせるだけで離れるつもりだったのに角度を変えて啄んでから離れた。

 

「…おやすみ、深雪」

 

鋼の理性が働いてそれだけで済ませられたことはさっそく修行の成果が出ているように思えた。

 

「おやすみなさいませ、お兄様」

 

ゆっくりと閉じられる間も触れられない代わりに深雪と視線を絡め合う。

ぱたん、と閉じられた扉をしばらく未練がましく見つめてから、自室に戻った。

熱の点った唇を撫でるが、その熱はなかなかおさまらなかった。

 

 

――

 

 

次の日、深雪に見送られて国防軍の基地に向かう。

約束の時刻十分前に到着し、藤林さんと軽く話してから風間中佐(・・)の待つ部屋に案内される。

今までの溜まりに溜まった実績が評価され、独立魔装大隊の隊員が隊長含め数人昇進を果たしたとのことだ。

横浜事変からの立て続けの功績が無視できる段階を超えたのだとか。軍部内の勢力争いは管轄外なので情報だけ入れておく。

給料が上がったことなどに触れジョークを交えながら新年の挨拶と昇進祝いを述べる。その間に藤林中尉がお茶を淹れ終え、風間中佐の視線を受けて彼女が退室して二人きりになる。

会話の傍受対策がされていることを確認した上で真っ先に確認したのは今後の編成の有無だ。

建前では家は関係ない、としている軍だが四葉ともなれば対応が変わってもおかしくない。自分の所属している部署が部署だけによりその可能性があった。

しかしそれは杞憂であり、自分に対しての方針が現状維持であることに多少驚きつつも、秘匿性の高い魔法の件もある。下手に動かすにも自身の能力自体に問題があるか、と納得もした。

元々四葉であることは一部に開示されていたので、発表後の対策は前もって用意されていたのだろう。

お互いの立場を確認し、自身は四葉の人間としての立場であることも明言したので、いずれここに居場所は無くなる可能性が高いだろう。いつになるかはわからないが、今はこの現状維持である状況が有難かった。

軍所属であることで正規に動けることもある。特に今は深雪が公になったことで何が起こるかわからない現状。手札が減るのは良くない。

これからは四葉のバックアップが受けられるようになるだろうが、まだ接触もしていない状況で安心などできない。

軍の方でも国内外の動きが不安定で、近々動きがあることをキャッチしているようだ。この情報は、参謀本部ではなく佐伯閣下からの、との言葉に政治がらみや遠慮のない純粋な分析結果によるもので、慶春会での当主の挨拶もあって、事が起こる確率がグンと跳ね上がったことを示していた。当たってほしくはないがこれだけ情報が揃えば無視できる話でもない。

聞きたい話は十分聞けたので改めて四葉は独立魔装大隊と利害が対立するものでは無く、国防の責務を果たすつもりである旨を伝えた。

達也、と階級ではなく名を呼ばれ今後の活躍に期待していると風間中佐個人としての言葉に、師匠の時のように頭を下げたのだが――続けられる言葉に、またも絶句を強いられた。

 

「まあ、よかったんじゃないか。お前の望みが叶った形になったわけだから」

 

唐突な言葉にまたも反応ができなかった。

望みが叶うが一体何を指しているのかと訝しむと、師匠とは違い風間さんは婚約者の件だ、とはっきりと口にした。

 

「……どういう意味です?」

 

まさか、と昨日のことが頭を過る。

そしてその予感は当たっていた。

 

「どうって。――お前、まさかバレていないとでも思っていたのか?あんなにあからさまだったのに?」

 

その驚きぶりは似ても似つかないはずなのに師弟そっくりに見えた。

 

「達也…、お前そのことについて感情を隠す気があったのか?」

「…隠すも何も、自分は…いえ」

「もしや無自覚であれ、か…?」

 

師匠よりも気まずくなったのは、風間中佐が冗談抜きで本気で驚いているからだ。

師匠の場合、揶揄いが含まれていたから苛立ちや反発心があったが、こちらはむしろ心配そうですらあった。

言葉にされないが、お前、そんなので大丈夫か?と言われているような居たたまれなさが襲った。

「まあ、なんだ。とりあえずおめでとう」という言葉で締めくくられて、一応お礼の言葉を返したがすっきりしないまま部屋を後にした。

その後真田さんたちにも挨拶をするつもりだったのだが、真田さんと柳さんは手が離せない状況らしく、彼らの状況を調べてくれた藤林さんに誘われるままに士官用のカフェに来た。

そこでも婚約を祝われ、自分もそういう年だからって家族がうるさいのよー、と愚痴をこぼす彼女は憂鬱そうな表情を浮かべていた。

こちらもデリケートな話だったが彼女自身から振られた話なので聞き役に徹する。

だが、

 

「あーあ。これで達也くんがフリーなら、婚約してもらうのもアリかと思ったんだけど」

 

いつもの揶揄いかと思いきや、彼女はこちらに一切視線を向けず不満だとばかりに頬を膨らませてカップを傾けていた。

 

「わざわざ俺なんて選ばなくても――」

 

軍にだってフリーの男はいる。年齢も俺より近い人間がいるだろうに、と思ったところで俺だけしか持っていないものを狙っているのでは、と過り顎を引いて訊ねた。

 

「もしや、深雪ですか」

「せっかく深雪さんを本物の妹にするチャンスだったのにー」

 

ビンゴだった。

 

「残念ですがそれは未来永劫無くなりました」

 

まさか、と鎌を掛けたらこの人も深雪狙いだった。まあ、それも本気ではないだろうがここはバッサリと断らせてもらう。

酷い、と非難されるが、酷いもへったくれも無い。これ以上ライバルが増えてたまるか、の心境だった。

 

「なぁんて、冗談よ、冗談」

「深雪は俺の婚約者です」

 

冗談にしては質の悪い。

そして未来永劫俺だけの妹だ、と心の中で付け加えておく。

 

「――達也くんも、ようやく自分の欲しいものを手に入れられたんだ」

 

藤林さんの視線が僻むでも羨むでもなく優しさに満ちていて、開きかけていた口を閉ざした。

初めからそれを確認するためにあんな冗談を言ったらしい。

 

「おめでとう」

「ありがとうございます」

 

祝いの言葉に改めて感謝を述べて頭を下げる。

自分は恵まれている。特に深雪と兄妹として暮らせるようになってからできた繋がりはすべて得難い良縁ばかりだ。

それがこの先も続くかはわからない。

唐突に切れることもあるだろう。それでも、良い人たちに巡り合えたことは違いない。

 

 

 

 

ただいま、と深雪をハグして頬と額に口付けて、疲労感をリセットしようとするが、驚いた風間さんの顔がちらついた。

食後、深雪とのコーヒーを飲みながらも、そのことが離れない。

 

「…どうかなさったのですか?」

 

軍で何か言われたのかと心配してくれた深雪に、風間さんとの話を掻い摘んで伝えると、はい?と聞き返した。

そうだな。俺も同じ気持ちだった。

 

「…俺はそんなに態度に出ていたか?」

「…さあ。そもそも私は気付いてもおりませんでしたので、なんとも…」

「そうだったな」

 

深雪にもわかるわけが無かった。

格好悪い姿になるが、今はもう取り繕う気力すらなかった。

ソファに身を預けて力を抜いた。

深雪が慰めるように寄り添って手を握ってくれたことに嬉しく思いながら、水波の眼が光っていなければこのままキスでもできただろうに残念だ、と項垂れた。

 

 

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