妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.㉜

 

始業式の前日の夜、学校から呼び出しのメールが来た。

深雪の予想が確信へと変わった。

二人してメールを開いたので、隣で不満を抱いたのが伝わったのだろう。深雪が苦笑しながら慰めるように頭を撫でてくれたことですぐに気を持ち直したが。

変わらぬルーティーンを熟してから早めに登校し、校長室へ。

四葉による戸籍改竄の件での事情聴取が主であったが、俺たちは何も関与していない。

百山校長もそれは理解しているのだろう。深く追及されることは無かった。されたところで俺たちにはどうしようもないとわかっているとも言える。

最後に節度を持った行動を求められたのだが、これまでは兄妹だから許されていた、とはどういう意味か。

記憶を遡っても学内で咎められるような行動を取ったつもりはないのだが。

まさか教員たちも物語と現実を混同しているのか?

深雪は生徒会長でもある。生徒の模範として節度を持った行動を取るのは当然だ、と二人揃って頭を下げて退室した。

 

「…深雪」

「大丈夫です、お兄様――私は四葉家次期当主、司波深雪なのですから」

 

いつかの再現のよう。

後半のセリフは四葉でも見られるお嬢様の凛とした姿。温度の無い声色はそれだけで周囲を委縮させるだろう。

何をするかわかっている俺には頑張って母の物真似をしている可愛い妹の姿にしか見えないが。

 

(今日も俺の妹で婚約者は可愛いな)

 

できることならこの場で抱きしめて撫でたいところではあるが、つい先ほど学校内では節度を持った行動を心掛けると態度で示したばかりだ。

 

「それでは達也様、私はこれで失礼します」

 

その言葉には薄っぺらい敬意しか見えない。表面上だけ取り繕っているような、そんな態度だ。

他人よりも遠い距離に感じる。

だが、そんな態度を取られようとも、ツン、とした深雪も可愛らしい、としか思わないのだから恋愛脳というのは知能を下げるは事実のようだ。痘痕も靨とでも言うのか。深雪にそんなものはないが。

何をしてもされても愛おしい気持ちに変わりはなかった。

深雪を最後まで見送ってから自身の教室に向かう。

まだ早い時間だというのに、一番乗りではなかった。

挨拶はするが、怯えたように返され、逃げるように教室を後にした生徒もいた。

気にせず席に座る。

 

「うーす」

「オハヨー達也くん」

 

隣のクラスのエリカとレオが窓越しに挨拶をしてきた。

ごく自然ないつもと変わらない対応にこちらも変わらず返す。

だが、教室内の美月はいつもと変わらずとはいかなかったようだ。びくびくと怯えられた。

これには少し申し訳なさがあったが、四葉の名は今更返還もできないし、したところで意味もない。

クラスの空気は戸惑いや怯えがあるようだったが、最終的に触らぬ神に祟りなしといったところか、当たらず騒がず見てみぬふりに落ち着いたようだ。

あえてこちらからアクションを起こす真似はしなかった。

必要最低限の会話だけをして、授業は進んでいく。

昼になったが、この様子ではいつものように食堂で、とはいかないだろう。

人の来ないところ、と考え真っ先に浮かび向かった生徒会室だが、深雪はおらず、それどころかほのかと雫がいるようだ。

彼女たちも注目されただろうから避難してきたのだろう。

初めからこうしていればよかった、と意識を内に向けることで深雪の居場所はすぐに分かった。

目の前の扉の中に入ることも無く踵を返して深雪の下へと向かう。

そこは確実にほかの生徒が寄り付かない場所――気温一桁の寒空の広がる屋上だった。

水波は一緒ではないらしい。

深雪が演じる孤高の女王には使用人も傍に寄せ付けないつもりのようだ。

 

(あの子は守りたいものが多いから)

 

俺には深雪だけを守れればいい。

だが、深雪は違う。あの子は優しい子だから。

深雪のことを考えるだけで口元が緩む。人に見られていないからといってあまりに締まりのない顔だ。

表情を引き締めてから深雪の座るベンチにまっすぐ進むと、深雪が立ち上がって一礼する。

こんなところまで演技しなくてもいいだろうに。

 

「流石にこんなところに来る人間はいないよ」

 

視線を向けられている気配もない。

そう教えれば深雪はふわっといつもの笑みに戻った。

うん、可愛らしい。それだけで冬が春に変わったように心が温かくなる。

 

「…正直、こちらには来られないのではないかと思っておりました」

 

エリカたちと食べるものだと思っていたとのことだが、確かに彼女とレオだけならばその可能性もあっただろうが、美月や今日はまだ姿を見ていない幹比古は難しそうだ。

孤高の女王を演じる深雪はといえば、初めから一人で食べる予定だったらしい。

そんなことなら俺も誘って欲しかったが、学校側から節度を持てと言われたらこのように二人きりというのは良くない状況なのか。

だが、端から人目に付かなければ問題にもならない。

昼食はどうするのかと思ったが準備の良い深雪は二人分の弁当を用意していた。

小さいほうは深雪の分、そして大きいのは俺の為に用意されていたらしい。

準備していたのに言わなかったのは初めからこうなる可能性を考えていたが、この結果になってほしくないという願いがあったからか。

言えなかった深雪の何といじらしいことか。心が痛くなる。

だが、それ以上に――

 

「ありがとう。美味そうだ。いただきます」

「どうぞ、お召し上がりくださいませ」

 

弁当を掲げてにっこりと微笑む深雪があまりにも健気で可愛くて、弁当箱を見ずに深雪を見ながら美味そうだと言ってしまった時は若干焦ったのだが、深雪に不審がられることが無くてホッとしている。

深雪の魔法のおかげで寒さなど感じることも無く、渡された弁当もほのかに温かい。

容器は温めずに中身だけが温めているようだ。相変わらず器用な魔法の使い方に惚れ惚れする。

まさか真冬の屋上で弁当を食べることになるとは思わなかったが、どう考えても注目されながら気まずく定食を食べるより、邪魔をされることなく最愛の人と二人きりで手作り弁当が食べられる現状の方が良いに決まっている。

思ってもみなかった幸運をかみしめていると、隣の深雪が静かに俯きながら頬を染めているではないか。

彼女もこの状況を喜んでいるのだろうか、と声を掛けると、見られた!とばかりに目を見開いて動揺する。

一つ一つの仕草が可愛い過ぎる。俺が深雪を見ないはずないのに。

 

「!いいえ、あの…」

「赤くなった理由を知りたいな」

 

言いながらじりじりと身を寄せていくと、仰け反るように上体が離れていく。

磁石のようで面白いが、深雪の反発力の方が弱くこのままではくっつきそうだ。

 

「お、お兄様、ここは学校です!」

「だから触れないよう我慢しているだろう?」

 

もしここが学校ではなく家のソファなら、膝の上に乗せ存分にその赤い顔を覗き込んで愛でていたことだろう。

しかし、この距離感も嫌いではない。

深雪の困った顔も焦る様子も可愛くてたまらない。

完熟したように顔を赤らめた深雪がとても美味しそうだが、彼女が指摘するようにここは学校だ。

愛でるだけで我慢とは、修業とは何と厳しいモノか。

そんなことを考えていると、ようやく決心がついたのか震える唇が開く。

 

「お兄様のように、素敵な方のお嫁さんになれるのかと思ったら、その…こんなに幸せになっていいのかと…」

 

……

…………

俺の息の根を止められるのは深雪しかいないと改めて実感するな。

今、まさに息を吐くことすらできずにいた。

顔を赤らめてお嫁さん、と言うだけで、この破壊力。深雪が人に触れることも無く倒す光景が目に浮かぶようだ。

俯き組んだ手の上に額を乗せ、ゆっくりと細い息を吐いていく。

深雪が恥ずかしい告白をさせられたことにより身を震わせ顔を覆っている。恥じらう姿がとても可愛いと思うのだが指先ひとつ動かすことができなかった。

今動いてしまえば、人気が無くとも学校の屋上という開放的な場所で何をしでかすかわからない。

それほどの衝動に襲われていた。

抑え込むことに必死で身動きすら取れない。

滑稽な姿を最愛に晒していることになるが、それでも襲い掛かるよりマシなはずだ。

 

「お兄様…?」

 

あまりに動きのない俺を心配したのだろうが、すまない。

 

「今、俺は修行中だから待ってくれ」

 

己を抑え込むのに集中しなければならないほどの状況に陥っているなど深雪は夢にも思っていないだろう。

だから、

 

「あの、先ほどお兄様が仰っていました。こんなところに人は来ないのであれば、その…少しくらいよろしいのではないでしょうか?」

 

だからこそそんな、美味しそうなご馳走をどうぞ召し上がってくださいとばかりに差し出すようなことが言えるのだ。

俺が内心涎を垂らして我慢しているなど、気付くことも無く。

 

「――深雪、自分の身体を大切にしなさい」

 

こんなところでGOサインを出さないでくれ。

ここが家であったなら即ベッドの上に向かうだろうが、二回目をいきなり野外で、などあまりに深雪が可哀想だ……いや違う!そもそも深雪にそんな気はないのだ、待つと言った身で早々に破るのは許されることではない。

しかも人目が無いとはいえここは学校の敷地内。いくら気温一桁台の屋上とはいえ人が来ない確率は皆無ではない。

 

(恐ろしいな、煩悩とは。消しても消しても湧いてくる…)

 

護衛としてあり得ない発想が先に立ってしまうなど、頭も痛くなってくる。

おろそかになどしていないが、思考がこれでは先が思いやられる。

兄との切り替えがなかなかうまくできなかった数日前と重なった。

結局あれはどのようにして兄であることを思い出せたんだったか。

欲望を引っ込ませるこの修行は自身の愚かさを認識させられるダメージを受けながらとなりそうで、精神力を鍛える修行にもなるかもしれない。

目の端では深雪が修行中の俺の邪魔をしないよう弁当を食べ始めていた。こちらに気を使わせないよう自然体を装ってくれているのだろう。有難い。

ようやく長い息を吐き終わり、落ち着いてきたところで顔を上げると、すでに彼女の弁当は三分の一が終わるくらいまで無くなっていた。

昼時間もそう長いわけではない。せっかく深雪と二人きりなのに、まさか修行に時間を費やすとは。

もったいないことをした、と改めて深雪の作ってくれた弁当に向き直り、いただきます、と手を合わせてから食べ始める。

用意されているなんて思ってもいなかった深雪の弁当を一口食べると、これは水波ではなく深雪が作ったものだとわかった。

美味い。文句なしに美味い。己の胃が喜ぶ味だ。

性欲は食欲によって騙すことができるとあったが、確かにそうなのかもしれない。腹にモノが入ると落ち着いてくるというのがわかる。

特に美味い物を食べると満たされていく心地がして、荒ぶる心が穏やかになっていくようだ。

 

「やっぱり深雪の弁当は美味いな」

「ありがとうございます」

 

しみじみと思った言葉が声に出ていた。

嬉しそうにはにかむ深雪が可愛いが、弁当を放り投げるほどの衝動は抑えられた。

やっぱりお腹が空いていたから抑えが利かなかったのか。

 

「だが、ずっとこうして寒空の中食べるというのもな」

「そうですか?これもなかなか乙なものですよ」

 

今後はどうするか、と話せるだけの余裕が生まれ、いくら深雪が寒さを避けてくれているといっても手間だろうし、どこか人気の無い室内の方が良いのではないか、と提案したのだが、深雪はこの場所を気に入ったようだ。

 

「お兄様がお嫌なのでしたら、他の場所を探しましょう」

「…いいや。人が通るかもしれない教室よりも、こちらの方が気が休まるかもしれないな」

 

考えてみれば寒さにより深雪が魔法を使い続ける事がデメリットなだけでこれほど好条件の場所もない。

自然の力で人除けもできていて、誰もこんなところにいるとも思わない。

煩わしい視線が向けられることも無く、目的も無く人が近寄ることも無い。のびのびと二人きりでいられる。

解放的なのに密室のようだ。

そう思うとここ以上の場所など見当たらない。深雪の魔法頼りになるが、深雪にとってもこの解放感はいいストレス発散にもなるはずだ。

しばらくはここが癒しの場所になりそうだ。

弁当を食べ終えると、教室での様子や仲間たちの態度について話をした。

深雪はある程度予測通りだった、と語るが親しかったクラスメイト達とよそよそしくなることに落ち込まないわけもない。

学校では肩を抱いて慰めることもできない。帰ったら怯えられない程度に甘やかそう、と決めて拳を握る。

 

「エリカ達は、変わりなかったのですね」

「ああ。あれは凄いな」

 

彼らの反応は予想外だったが彼ららしいとも言えた。

レオはともかくエリカは四葉がどれほど恐れられるものか聞かされているだろうにそれがどうした、とばかりに堂々と話しかけてきた。

無関心とは違う、そんなものに私は屈しない、という気概を感じた。

その様子が目に浮かんだのだろう。

深雪の表情が優しい笑みに彩られた。

困った顔も好きだが、やはり笑った顔がいい。

 

「…すぐに気が緩んでしまうな。いや、お前が美しい上に優しすぎることが原因か…」

 

気が付けば体が引き寄せられるように傾いていた。腕もいつの間にかに後ろに回りかけている。

抱き寄せようとしていたらしい。

回しかけた手で目元を覆い、隠すことで冷静さを取り戻す。

深雪に見抜かれて苦笑しているのが伝わってきて、少し情けない気持ちになったが、これもまた修行か。精進に努めるとしよう。

 

 

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