妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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四葉継承編 達也ver.㉞

 

 

昨夜のものは、予感というものだったのかもしれない。

翌日、三人で登校すると校舎に向かう途中に立ちふさがる六人の姿があった。

中央のエリカが不敵に笑いながら挨拶してきた。

魔法の気配は何もなく、古式魔法の自然に溶け込むようなサイオンの動きも見当たらない。

警戒は怠らないが、彼らが攻撃を仕掛けてくる可能性は限りなくゼロに近い。

深雪を守るのに最適な立ち位置にさりげなく移動してから声を掛ける。

 

「おはようエリカ、皆も。勢ぞろいでどうしたんだ」

「ちょーっとね、文句の一つでも言わないと、てね」

「待ち構えてまでか?」

「こうでもしないとお二人揃ってお目に掛かれないから。そこにいる生徒会長サマには特に、ね」

 

それはそうだろうな。

深雪は徹底的に関わりを避けてきた。

俺個人であれば簡単に捕まえられただろうが、二人揃ってとなると昼休みくらいだが、俺たちは揃って雲隠れしていて見つけ難かった上、彼らも注目されていたので下手に動くに動けなかったのだろう。

しかし、こうして前に現れたということは、時節が来た、ということか。

名指しをされた深雪が冷ややかな態度で睥睨してみせるとほのかと美月が肩を震わせたが、エリカはどこ吹く風といった様子で構えていた。

 

「――なんでしょう。あまり時間もございませんので手短にお願いしたいのですけれど」

 

凍てつく声にははっきりと拒絶が見て取れたが、これで怯むようではここに立っていないだろう。

できることなら正面からこの深雪を見たいものだが、この位置ならばカメラに映っているだろうか。後でピクシーに確認しよう。

エリカと深雪が対峙している間、登校中の生徒が集まってきた。

皆、好奇心を隠し切れないようで立ち去る者はいない。

 

「よぉくも騙してくれたじゃない」

 

切り込み隊長による一閃は、避けられることも無く見切られた。

淡々と彼女たちの追撃を予測済みだとばかりに弾いていく。

というよりここまですべて深雪には織り込み済みの計画だったのだろう。

彼女たちの訴え――四葉であることを隠していたのだから騙したことにはなるのだろうが、そんなことをエリカは気にしていなかったはずだ。もちろん表面上は、だが。

それをわざわざ口にして、何のつもりだろうか。

幹比古は俺に向けて強い視線を向けてきたが、そこに悪感情が含まれているように思えない。

何か別のことを訴えるための陽動的言動か?

糾弾の形を取ってはいるが、どうにもちぐはぐした印象だ。

これは一種のパフォーマンス、深雪と同じことを彼女たちもしているということなのではないだろうか。

打ち合わせなしの即興劇、というヤツだ。

立会い直後、深雪が一瞬期待に目を輝かせたのを俺は見逃がしはしなかった。

ヒートアップする彼女らの攻防に周囲の観衆が一斉に息を飲んで見守りながら、この劇に魅入っていた。先に登校していた生徒たちも校内からもパラパラと出てきては見逃せないとばかりに観衆の円に加わる。

全校生徒がここに集結しようとしていた。

 

「四葉ということを黙っていた、その件に関しましては家の事情です。謝罪することはできませんが、そのためにあなた方一般の方々を利用したことにつきましては、手紙にも記した通り、申し訳なく思います。ですが、四葉と知られたからにはもうこの関係を続けることは無意味でしょう」

「む、無意味って、そんな言い方!」

「ほのか」

 

脚本はない。演技の部分などほんの僅かだとほのかたちの態度が示していた。

彼女は本気で今の言葉に憤りを覚えている。

それを止めた雫も何も思っていないわけではないようで、それ以上は言ってほしくないと視線を強めて無言で訴えていた。

 

「騙していたという用件がその件に関してだとしたら、これ以上話すことはございません。失礼いたします」

 

これ以上の問答は無駄だ、とバッサリ切り捨てこのまま決裂かと思われたところで、エリカのドスの利いた声が深雪を引き留める。

 

「――そんなことどうだっていいのよ」

 

おふざけの消えた雰囲気に緊張感が一気に高まった。

主役たちを食い入るように見つめてごくり、と唾を飲み込む音がそこかしこから聞こえた。

 

「私たちが騙されたって言いたかったのは四葉ってことを隠していたことじゃない。アンタたちが兄妹じゃないって、そっちの方よ」

 

(確かに、エリカは何を騙したかなんて一言も言っていなかったな)

 

幹比古たちの誘導によっててっきりそのこととばかり思いこんでいたが、そちらのことだったか。

虚を突かれた、といった様子で深雪の動きが止まった。

深雪が動けないなら、俺が動くべきだろう。

 

「エリカ、それに関しては俺たちも先日聞かされるまでは知らなかった事実だ」

 

しかし、この言葉は思いのほか威力を持っていたらしい。

 

「え!?知らなかったの?!」

 

知らなかったというか、そんな事実は実際ないのだが、戸籍上代わったのは事実。

しかし、こんなに驚愕されるほど意外なことか?

 

「何をそんなに驚くのかわからないが、俺たちはずっと正真正銘兄妹として暮らしてきた」

 

そしてそれに関してはこれからも変わらない。ただそこに婚約者という関係が上乗せされるだけだ。

まあ、それが「だけ」、というほど軽いものでもないのだが嘘は言っていない。

悪びれる必要も無く堂々と答えれば、何故か彼ら一同驚愕の表情を浮かべていた。

彼らだけではない、ここにいるほとんどの生徒が似た表情をしている。

…一体なんだというんだ?

 

「じゃあ、何?あれは本当に兄妹だと思って…?」

「…嘘でしょう?」

 

漏れる呟きに、こちらの方が首を傾げたい気持ちだった。どう見ても仲の良い兄妹だっただろう。エリカたちだって『変な』、と付けつつも『兄妹』であったことを認めていただろうに。

そこで水波が何かを思いついたらしく、深雪に促されて仮説を口にした。

曰く、

 

「その、達也様方お二人の学校での様子は元々兄妹と呼ぶには仲が睦まじく、度を越えているように見えたのは、実は兄妹ではなく元から婚約者として将来を約束された関係であったからではないかと疑われているのではないか、と」

 

というものだったのだが、可能性として擬態してた、と発想するのはおかしなことでもないか。

だが、それを疑われたとしてなんだというのか。

兄妹ではなく従兄妹同士と知った上で婚約者として生活をしていたとして、それがどうして騙されたと憤ることに繋がるのか。――唯一考えられるのはほのかの気持ちを弄んだ、という件だが彼女からそれに対しての恨みを向けられていないのはおかしい。

 

「ほぼそんなところね。違うのは二人が付き合っているとまでは考えてなかった、という点と――深雪は知らなかったんじゃないかってこと」

 

纏めると俺だけが従兄妹であると知り、婚約者になる可能性を深雪は知らなかったということになるのか?

 

「それはほぼ違っているということになるんじゃないか」

 

水波の推理は外れていると思うのだが、何故ほぼ同じになる?

だが、そこはどうでもいいと切り捨てられた。

 

「肝心なのは達也くんが兄妹だって言ってたくせに深雪にベタ惚れで周囲にけん制しまくっていたじゃない?初めこそ兄妹なんて嘘でしょ、って思うくらいべったべたで胸焼けするようないちゃつきっぷりで。なのに達也くんは兄妹だって言い張るし、深雪に至っては仕方がない兄だって受け入れてるし。ぶっちゃけ達也くんだけだったらそんなウソ信じなかったわよ。あんな兄貴居てたまるか!って。

で、実際兄妹じゃなかったって聞かされたときの私たちの気持ちわかる?それ見たことか!ってね」

 

エリカは感情を爆発させたように文句を上げたが、嘘だと言われても兄妹であることは事実だし、深雪の婚約者の話がされるまで自覚すらしていなかったというのになぜこうも一方的に詰られなければならないのか。

 

「…いや、それ見たことかも何も、俺は深雪の兄貴として接していたつもりだが」

「いーや!あれは兄貴じゃない!!」

「具体的に何がそんなに兄貴としてダメだと言うんだ?」

 

この言葉に、爆発を超えた大噴火が待っていた。

 

「兄貴ってのはそもそも妹を愛おしくて仕方ない!なんて愛でたりしないのよ!!」

「…ブラコンだから仕方ないと言っていたじゃないか」

 

言いながらも、確かに兄貴は妹を異性として見ることは無いかとも思ったが、仕方がないだろう。

何せ妹が絶世の美少女だ。勘違いを起こしてもおかしくない、妹であっても見惚れないわけがない美貌を持っていたのだから。

この愛が兄妹愛だけでないなど、自覚できるわけがないとの言い訳は今言ったところでどうにもならないだろうから内に秘めておく。

 

「あれは漫画の世界だから許されるのよ!現実にあってたまるもんですか!!」

 

エリカにとってブラコンという言葉は地雷でもあったらしく、足を踏み鳴らして抗議するが、現実に無いと言われてもな。そもそも一体何に許されないというのか。

だが、ここでこれまで静観していた深雪が動いた。

 

「千葉さんのおっしゃる騙された、という発言ですが、達也様は本当にご存じありませんでした。言いがかりはお止めくださいませ」

 

ここで初めて、彼らの前で呼び方を変えていたことが明かされ、眉を顰める者、目を丸くする者と反応が分かれた。

そこから俺たちの表向きの立場、魔法力も無い当主の息子と優秀な次期当主の婚約者同士、という関係性を深雪が臭わせ、またも空気が硬くなりだしたところで、今度はレオと幹比古がぶち破る。

 

「ぶっちゃけると、俺らは疑ってたんだわ。あんまりにも達也に都合のいいように動いているからよ」

「…秋の京都でのあれらは四葉での仕事だったんじゃないか?僕たちは達也に利用された。違うかい?」

 

どうやら彼らは俺がずっと以前から深雪に懸想して手に入れる為計画を立て、難易度の高い任務を成功させた功績として婚約者の座を無理やり手に入れた、という筋書きを考えているらしかった。

タイミングで考えれば、大分こじ付けではあるが辻褄は合う、と彼らは考えたようだが。

 

(…あれしきの任務で深雪を手に入れられるというのなら、どれほど楽なことか)

 

言うほど簡単な任務ではなかったが、だとしてもそんなもので深雪を手に入れられるわけがない。

深雪の価値があんな任務一つで釣り合うわけがない。

 

「だったとしても俺のような下っ端の人間が願ったところで到底手が届かない高嶺の花だぞ」

「ま、その辺は想像よ。当主の息子なんだから融通も利いたんじゃないの?」

「強引だな」

 

直系の息子だからと甘やかす家がどこにあるのか。特に、実力主義の四葉ではありえない。

むしろあの人なら喜んで周囲を納得させられるだけの試練を用意し与えるだろう。

 

(…もしや、これまでのアレコレはそれを――いや、それはないな)

 

そもそも自分は彼女の息子でもない、と思いかけたありえない可能性とも言い難い妄想をばっさり切り捨てる。

 

「そもそも達也が下っ端って言うのが信じられないんだがな。達也の実力なら文句なしのトップクラスだろ」

 

四葉ってのはそんなにすげぇ奴らばっかなのか?との言葉に、謙遜なしで言えば他家に比べて実力は群を抜いているが、単純な殺し合いであれば俺一人の圧勝だろう。

純粋な能力のみで俺と対戦で勝てるとしたら深雪くらいなものだ。

 

「達也くんはご実家では異端扱いで、当主の息子だってのに四葉として認められてないとかあったけど」

 

手紙の内容は聞かされていたが、中身を見たわけではない。そんな風に書かれていたのか。

だが当主の息子とは書かれていなかったはずなので、エリカが勝手に組み合わせたのだろうが、間違ってはいない。

俺は四葉直系の生まれでありながら、生まれたことを親族から疎まれ、魔法力が無いと蔑まれ、ガーディアンという低い身分を与えられていたのだから。

 

「それが何か?おかしなことではないでしょう。この世は魔法力で判断される。二科生でも入学がギリギリの魔法力しかないのであれば如何な当主の息子だろうと四葉は実力主義の一族。魔法の使えない魔法師に価値はありません」

 

深雪の言葉は入学当初のこの学校でよく聞かれた一科生と二科生をブルームとウィードで分けていた頃の思想と変わらないよう聞こえただろう。

実力とは魔法力がものを言う。イレギュラーはそこに含まれない。

ほのかが反発して騒ぐが、彼女とて入学した時は無意識にそう思っていたはずなのに。いや、むしろだからか。

周囲もほのかに賛同するよう頷いている。深雪の起こした改革はうまい具合にしっかり根付いていた。

 

「続き、と言われましても四葉ではそれが全て。他家がどのようかは存じませんが、我が一族は達也様に対し、いくらその他が優れていようとも受け入れがたい、というのが現状ですので」

「ふぅん、実力主義ってわりに脳みそ固いんだ」

 

深雪の言葉を不快に感じる人間からの不信の視線を感じるが、深雪自身が魔法力の無い者を見下しているわけではなく、一般にどう思われるかということを述べているだけなのだが、それも話が進めばわかることだろうとこぶしを握り締めるだけに留めた。

 

「じゃあよ、ならなんで次期当主の深雪さんと、落ちこぼれの達也が結婚するっことになるんだ?さっきも立場がどうのって言ってたけどよ」

「レオ、それはウチの事情に突っ込み過ぎじゃないか?」

 

核心を突くのは相変わらずか。だが、これ以上踏み込んでも応えられるものは何もない。

 

「ウチのったって、今の話じゃ達也は四葉に認められてないんだろ?それだったら達也が次期当主の婚約者っておかしくねぇか?」

「当主の血縁関係を切り捨てられないだけだろう。一番近いのが俺で、次点が深雪だからな」

 

とは言ってみるものの、そんな理由であればどれほどよかったか。

世界への復讐の為、なんて誰が理解できるというのか。納得できる者なんてこの世界にいるのかどうか。

 

(――あの人自身、共感など得られなくとも構わないのだろうな)

 

その共感が得られずとも突き進む辺りは理解できなくもない、と少しだけ共感を抱いた。

 

 

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