妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
達也視点
「どうして達也さんがこっちに?」
深雪に付きたいんじゃないの?と聞かれたが、付きたいかと聞かれればそうだ。だが、
「俺とも戦いたいんだそうだ」
「ふぅん。深雪は罪作り」
雫はいつも端的に話すので文脈がわかりづらい。
表情もあまり表に感情を出さないから余計だ。
「どういう意味だ?」
「私ひとりじゃ物足りないってこと」
…物言いは独特で、掴みにくくもあった。
「でもこのハンデをもらっても、いい試合ができるか難しいってことは私もわかってる」
確かに深雪の力と雫では学校では順位を競えるが、外に出ればプロと素人ほど違う。持って生まれた才能に加え、努力の差というのは互いに努力を続ければ続けるほど埋まらない。
深雪はずっと才能に胡坐をかくことなく努力を続けてきた。――一般で中高とやっているだけでは追いつけるはずもない。
――だが。
「達也さん、策を頂戴。私ひとりじゃ勝てないなら何を使っても食らいつく」
「小手先の作戦がどれだけ通用するかはわからないが、俺にできることはやろう。まずは調整だ。――俺も深雪に負けたくないからな」
秘策はあった。雫にはまだ隠し玉があったのだ。
深雪は驚いてくれるだろうか。
「達也さんって深雪のことになるとわかりやすい」
「…気を付けよう」
深雪のことを考えていたのが顔に出ていたらしい。
気をつけねばと顔を引き締めると、しかし雫は首を振る。
「いいよ。わかりやすい方が深雪も喜ぶ」
「…雫は随分深雪と仲良くなったな」
二人の距離が近いなと思っていたが、思っている以上に深いところまで深雪のことをわかっているようだ。
妹のことをこんなに理解してくれる人はいなかったから雫の発言に驚きを隠せない。
(嬉しく思うんだが、なんだか…なんだろう、言葉にするのが難しい。不快感、と言うほどのモノではないし、これは何だろうか)
考えながらも手は動く。調整は問題なさそうだ。
――会場は超満員だった。
何でも人気競技が被ったらしく大会運営側が予定時間をずらすことをしてまでということだから、相当だろう。
スタッフ席でよかった。もし観客席だったならあの熱気で参っていたかもしれない。
そんな軟ではないからもちろん冗談であるが。
おそらく深雪と雫の容姿もあって話題にもなったのだろう。そこにはもちろん深雪の魔法が高校生級を超えているということも理由のひとつに上げられるだろうが。
…四葉とばれてはいけない身だが、深雪を隠すなどその方が無理だ。だったら開き直って目立った方がいい。
その方がもし四葉と公表することになっても角が立ちにくいのでは、とは深雪の意見だった。
実力を隠してたら不信感がより上がるのでは、と。四葉という時点で不審に思われると思うのだが、こういったことは深雪の方がよく見えている。四葉からも何も言ってこないし、問題ないと判断されているのか。
(まあどちらにしても深雪が傷つかなければそれでいい)
傷つかないよう守ればいいのだ、俺が。
これから雫を通して戦うことになっているというのに守るとは、と妙な気分だが、これはこれ。
策は立てた。付け焼刃がどこまで通用するか。
「行ってくる」
雫が櫓に上がる。
――舞台は整った。
――
結果、雫は深雪の柱に傷一つ負わせただけで倒すことができなかった。
だがあの深雪相手に健闘したと思う。
最後まで諦めずに対峙するだけでも相当な気力が必要だ。
そしてなにより深雪にニブルヘイムまで使わせた。
「…全然、歯が立たなかった、ごめん」
降りてきた雫が落ち込んでいるが、深雪の実力を知っているだけに十二分に戦えていたと俺にはわかる。
「深雪は喜んでいたぞ」
直接深雪と会話などできていない。
だが俺にはちゃんと見えていた。
雫が二つ目のCADを出した時、驚愕の後目が輝いていたのだ。
舞台上で笑うことはなかったが、あれは歓喜の目だった。
「だから深雪もニブルヘイムを使った」
使わなくても勝てた。
それだけの実力差があったにもかかわらず、彼女はわざわざ見せたのだ。
それは決して実力の差をひけらかしたのではない。
「…深雪のステージまで、遠いね。――でも、諦めない」
落ち込んで暗かった雫の目は、息を吹き返した。
慰めたつもりはない。ただの事実を述べただけだが、雫には深雪の真意が届いたのだろう。
雫の中で一つ完結したように頷くとこちらに顔を向けて…理解しがたいことを口にした。
「敵に塩を送るなんて余裕だね達也さん」
「…敵って、俺たちはいつの間に敵対していたんだ?」
さっきまで共闘していた仲じゃなかったのか。
「深雪のために共闘したに過ぎない」
でしょ、と言われて、まあ確かにそうだなと思ったが、だからといってなぜ敵なんだ?
よくわかってないでいると、まさか無自覚とこれまた意味不明なことを口走る。
「…敵っていうよりライバル?深雪が好きだから」
「だから、それでなんでライバルに?深雪に友達ができて兄として喜ぶぐらいだが」
さっぱり彼女の考えがわからない。
とりあえずこれだけは確認しておこう。
「深雪に害をなすことはないんだろ?」
「当然。そんなつもりはない」
「なら問題ない」
それだけわかれば十分だ。
「これからもアイツと仲良くしてやってくれ」
雫はまあいいか、と納得して頷いた。
…なんというか一高は癖がある人間ばかりのようだ。深雪に変な影響がなければいいが。
「達也さんはこれから深雪のところでしょ。私は…まだ悔しくて心の整理がついてないから」
「わかった。伝えておくことはあるか?」
「ん…いい。自分で言う」
「そうか」
雫とはここで別れて深雪の控室へ向かう。
こちらはお祭り騒ぎだ。会長に渡辺先輩がお祝いに駆けつけていた。しかし深雪は不在。着替え中とのこと。
「それにしても深雪さんはとんでもないわね。インフェルノだけでも驚きなのにニブルヘイムなんて」
「それを仕込む達也くんも大概だがな」
「恐縮です」
と言うか渡辺先輩は本当に休まなくていいのか?本人がいいなら別に構わないが。
「だが君は、本当は彼女に付きたかったんじゃなかったのか?」
「ええ。ですが深雪本人たっての願いでしたから」
その発言は予想外だったのか目を見開く二人。
「どういうこと?」
「深雪は俺とも戦いたかったのだそうで」
「…なんというか、深雪さんって意外と」
「ああ見えて結構お転婆なんです」
「……流石にその言葉じゃないだろう」
「好戦的って言おうとしたんだけど」
「お転婆でおちゃめで、可愛い所があるでしょう」
「おい真由美、コイツとんでもないシスターコンプレックスだぞ」
「ええ。しかもこれ自覚して開き直ってるわね」
「重症だな。完治の見込みゼロじゃないか」
随分な言われようである。
ただ事実を述べただけだというのに、なぜそんな非難の目を向けられねばならないのか。
「お待たせしました。今戻り――お、にっ、達也さん」
「それだと俺が鬼になってしまうな」
「あ、いえ、そうじゃなくて」
「わかってるよ――深雪、優勝おめでとう」
制服姿に戻った深雪が予想していなかった俺の来訪に、驚き惑う姿が可愛くて思わず笑いがこみ上げる。
ここには一高以外の人がいないのに設定を守ろうとするのもまた健気で可愛い。
そして、
「ありがとうございます」
はにかんで答える深雪は目に入れても痛くないという言葉がぴったりなほど愛らしい。
人目がなければ抱きしめて撫でてやりたいが、この二人の前ですると煩そうだ。
近寄ってくる深雪の頭を撫でるだけで我慢する。
「私たちもいるんだから、もうちょっと遠慮してくれてもいいんじゃない?」
我慢しているのにこれ以上とは?
深雪がすっ、と離れてしまった。
そんな言葉素直に聞かなくていいのに。
「あの、雫の様子は」
「ああ。悔しそうだったが次の目標を見つけたみたいだ」
優しい深雪は対戦相手を心配していたが、彼女は思った以上に強かった。
少し時間はかかることを伝えると、堪えるような顔になったがすぐ微笑みに変わった。
「手を尽くして戦ってくれてありがとう」
「それがお前の望みだったからね。どうだった?」
「楽しかった!すっごくワクワクして、次に何が来るかわからなくてびっくり箱みたいで」
これを撫でるなと言うのかこの先輩方は。
見たくないなら早く出ていけばいいのになぜここに居座るのか。
「試験の時とは全然違う雫に驚かされた。CADを同時操作だなんて!それにフォノンメーザーまで使ってくるなんて思わなかった!きっと短期間でも頑張って身に付けたのね。余程訓練したんだわ。すごい努力ね!」
自分のことのように喜ぶ姿が微笑ましい。
先輩方も初めは呆気に取られていたが、対戦相手を賛美する深雪に同じように微笑ましさを覚えたのか、二人とも先輩らしく見守っていた。
「あ、そういえばほのかも勝ち進んだってさっき先輩たちから教わりました。ほのかも頑張ったんですね!」
興奮してか、先輩の話が混じったからか敬語に戻っているが、深雪は気づいていない。
「そうだな」
「それも達也くんの功績だな」
「頑張ったのは選手ですよ。特に深雪は俺の調整などなくても勝てたでしょうし」
「「「それは違う」わ」」
三人に否定されては何も言えない。
この後こんこんと説明され、無駄に時間を過ごすことになってしまった。
ついでに愚痴も飛び出てストレス発散に突き合わされ、解放された頃にはのどが渇いていたのでお茶でもするかと深雪とカフェに来たのだが――今度はほのかと目が合ってしまった。横には当然雫がいる。
深雪が俺の手をそっと放して目礼すると、まっすぐと雫に向かって歩き出す。
雫もすっと立ち上がり椅子をどけて向かい合う形で佇む。
その横ではほのかがあたふたしているが、二人の目には互いの姿しか入っていない。
そして二人の距離がどんどん短くなっていき五十センチを切る頃、互いに手を差し出して固く握手をすると、互いの手を引くようにして抱き合った。
…展開に付いていけないのは俺だけか…?ほのかも同じく固まっていたはずなのに、今では胸の前で手を組みうんうんと大きく頷いている。
「雫の想い、伝わったわ」
「今度はもっと深雪を驚かせて見せるから」
「よかった、よかったね雫~」
なぜほのかが涙ぐむ?…これは女子特有のモノなのだろうか。さっぱりだが、ぎすぎすしているわけでもない。深雪も喜んでいる。ならば何も言うこともない。
「よかったな深雪」
「うん」
お前が喜んでいるならそれでいい。
――
深雪視点
端末が震えたのは雫ちゃんたちの部屋から自分に割り当てられた部屋に戻り、明かりをつけた時だった。
音声だけの電話だ。
「おめでとう深雪さん。活躍を拝見させてもらったわ」
「ありがとうございます叔母様」
「お姉さま、でしょう?」
「失礼しました真夜姉さま」
タイミングがあまりに良すぎる。…どこで見ているのでしょうね?それともこの端末に何かしかけられてるのかな。
もしや九島閣下だけでなく四葉も観戦に来てました?いや、軍事施設だ。彼女が直接、とは考えにくい。
声だけだけど、怒ってはいなさそう。でもご機嫌、と言うほどの陽気さはない。
「誰もが貴女にくぎ付けで、私もあの姿には魅入ってしまったわ」
「気に入っていただけたのなら光栄ですわ」
「なら用件もわかっているわね?」
ぬいの新コスチュームですね。
それ用の布は用意しておりますとも。ついでに小物は榊。私の分はビーズで鈴に見立てる予定。あの鳴り物なんて名前なんだろう。あとで調べておこう。
もちろん、と答えると叔母様はご満悦にそう、と返した。
「そういえば情報は役に立っているのかしら?どうにもトラブルが多いようだけど」
「そちらにつきまして、私共は表立って動けませんので軍の方に一任しておりましたが――どうもなかなか上手くいかないようですね」
「あらそうなの…本当に余計なことばかりするお国ね」
「真夜姉さまの憂いを晴らすためにも、少々派手に動かざるを得なくなりそうです。――そうですね、本戦のミラージバットで一回戦に私が出場できれば、大ごとにはならずに済むかもしれません」
「あら。新人戦のモノリスコードで抑え込むのだと聞いていたのだけれど」
本当軍の諜報部もそうだけど四葉の諜報部もどうなっているのか。情報を得るのってそんな息を吸うように簡単なことではないでしょうに。
「実行犯までたどり着けばいいですが、難しいかと」
「深雪さんは無理だと思うのね。――だけど貴女ばかり巻き込まれるのもね」
「ご心配してくださってありがとうございます。ですが私には兄が付いておりますので」
「ふふ、達也さんも苦労するわね」
う、それを言われると心が痛いです。ごめんなさいお兄様。
「ああ、そうだわ。ミラージバットも出場するならそちらの衣装もあるわね。楽しみにしているわ」
「兄のエンジニアスタッフジャンパーも素材が用意でき次第頑張りますわ」
あと、限定一科生ブレザーは自分用に。
…夜なべして頑張れば納期内にできるよ、大丈夫。
「きっと深雪さんのことですもの、運よく望み通りの順番で出場するかもしれないわね」
「そう願います」
おやすみの挨拶をして電話は終わった。少しして同室の子が戻ってきた。
今日も先輩たちに可愛がられたのか、髪やら服装やらが若干乱れていた。
(…本当、どこでどう知るんだろうね、こういう情報って)
知りたいような知らない方が身のためのような…。
明日のためにしっかり寝ましょう。それが今私に必要なことだから。
NEXT→