妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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九校戦編⑬

 

 

そしてついに迎えた大会8日目。

本日は新人戦のモノリスコードのみだ。

今朝はお兄様と挨拶も交わせていない。邪魔をしてはいけないと、姿は見かけたが声を掛けることもなく応援席に向かう。

昨日の説得が効いたのか、一年男子たちは若干まだ蟠りはありそうだが、応援することに決めたみたい。

その一年の姿に成績が奮わなかった先輩たちも、二科生と見下す心に蓋をして応援することにしたようだ。

先輩たちの方が、特に運動部は一科生と二科生の溝が深かった。

いくら和解したと言っても過去に積み重なった思いは、そう簡単に風化しない。特に面白くないことが続けば、つい愚痴の対象になってしまうこともあるだろう。

それでも一年生の姿を見て応援しようという気になってくれたのだから運動部、義理人情に厚い人が多い。

女子は女子で演劇部のプリンセスとナイトがバイブル的扱いになっているのかナイトがついに見られる!と応援にも力が入っている。

もちろんこの数日で得た信頼関係で応援もしてるんだろうけどね。

なんだか一高がずいぶん愉快な仲間たちになったなぁと他人事のように思った。

そしてその愉快な仲間たちの注目選手三人が姿を現すと、困惑、期待と様々な声が上がる。

 

(お兄様。ワクワクしていますか?どうかこの時間、楽しんでくださいませ)

 

お兄様はこれから苦戦を強いられるはずだ。

制約が多すぎて実力などほとんど出せない上に、吉田くんと西城くんと組むのだって授業以外では初めてで、何ができるかなんて口頭のみで打ち合わせをし、動きはほとんど合わせていないぶっつけ本番だ。

そんなボロボロの穴あき状態で作戦を立てるのだから、当然全部がうまくいくはずない。

…こんな不利な状況を楽しめ、だなんてひどい妹だと思う。

けれどこの、共有し、共に築き上げる時間こそ、お兄様の経験してこなかった要素。

軍で似たような状況はあったかもしれない。私の知らないところでお兄様もコミュニティを築いている。

だが、この場は今までお兄様が経験したことのない、同年代しかいない空間。

大人たちしか知らなかったお兄様が同級生と、自分と同じ等身大の彼らと共に行動することがどれほど貴重な経験か。

お兄様は知るといい。同世代が、高校生が何を思い、どう動き、何を語るかを。

友達とはどういうものか――彼らのために何をしたいか。

そこまで行き着いてくれたら最高だ。

お兄様に必要なのは余計、余分、と今まで切り捨ててきたモノ。

それは時にお兄様を迷わせるかもしれない。決断を鈍らせるかもしれない。――苦しませるかもしれない。

 

(だけどそれが人間というもの)

 

兵器として生まれたと、そう育てられたお兄様。

心を奪われ、普通を奪われ、幸せを望むことすら奪われてきたお兄様。

世界に呪われたお兄様は、この瞬間にもその殻を破ろうとしている。

残されたなけなしの感情を糧に、喰らい付き、這いつくばってでも生きたお兄様は今、ようやく舞台の上に上がった。

 

(四葉の分家の方々には面白くないでしょうけど、そんなことは些末事)

 

日陰者にして封印したいと願われても、知ったことか。…おっと、深雪ちゃんが剥がれてしまった。

目下でお兄様が撤退したのが見えたことに不満を言っているのを聞いてたらついうっかり。

大丈夫、表には一切出てないから。

そろそろ目の前の試合に集中しなきゃね。

でもお兄様が何の考えも無しに撤退などしないことは知っているので周囲を宥める。

言った傍から形勢は逆転。

ほら、ね?やっぱり考えがあってのことでしょう?

皆に倣って応援することに徹していれば、お兄様は何とか勝ち上がった。

即席チームで勝てるなんてまずない競技だが、お兄様たちは勝った。

これで二科生に実力なんて、とわずかに残っていた思想は風化していく。偶然ではないということは、ここにいる経験者たちにはよくわかったのだ。

服部先輩との試合を見た部長たちは、実力を知っているはずなのに驚いているのだから、口頭でいくら説明されたところで後輩たちには理解なんてできなかっただろう。

それだけ、二科生が一科生より優れているなんて話は、実際に目にして結果を見ない限りは信じられないほどのことだったのだ。

 

「深雪!達也さんたちが!!」

「ほのか、わかった、わかったからそんなに揺さぶらないで」

 

いつものほのかちゃんなら絶対こんなことしないけど、お兄様のカッコよさにヤラレてテンションMAXですね?

恋する乙女の暴走は止められるものじゃない。雫ちゃんが力づくで止めなかったら危なかった。

まだ一回戦目だというのに応援席はまるで優勝したかのような喜び様だった。

 

 

――

 

 

せっかくだから労いに行ってあげなよ、という女子一同の声に押され、お兄様たちが休んでいる控室に向かう。

吉田くんと西城くんのリラックスしていたところに登場したものだから、二人は慌てて立ち上がった。

 

「まずは一勝おめでとう。皆で押しかけたら悪いから、私だけきたの」

 

そう言って座ってもらう。

そして私はお兄様のそばでお話でも、と思ったのだけど。

 

「深雪」

 

椅子に深く腰掛けたお兄様に呼ばれて見れば、とんとんと己の太ももを叩いてます。

…え、座れと?

家ではたまに見かける光景だけどここは外。西城くんも吉田くんも居ますよ。

とんとん、とんとん。

催促ですね。え、正気?お兄様疲れすぎて周りが見えなくなってる⁇

西城くんと吉田くんを見ます。

え、みたいな顔してますね。私も同意見です。

ここは心を鬼にして見なかった振りをするべきところなんだろうけど、…なんでそんな目で見つめてくるの?

捨てられた子犬みたいに、拾ってくれないの?みたいな。

気付いたらお兄様の太ももに腰を下ろしてたよね。

お兄様は魔法を使った。そうに違いない。

 

「にいさ」

「達也」

「…達也さん、お疲れ様」

 

その設定でこの姿勢はいけないような気がするのだけど、もういいか。

お兄様相当お疲れだし。

そうだよね。ただでさえ無頭竜で頭悩ませてるのに九校戦では慣れないことばかり起こって、予定になかった選手として出場までさせられて。

おそらく四葉に何言われるかとかも考えて――そうだ、インデックス断ったりとかもあったしね。

この試合も制限だらけで、肉弾戦ができたならもっと早くケリがつけられただろうに魔法攻撃のみの上、得意な魔法は封じられている。とんだ縛りプレイだ。

奥の手はあってもそれは最終手段であって大っぴらには使えないし――これはストレスが溜まる。

 

「よく頑張ったね。すごかったよ。応援席の皆も、三人の活躍に驚いて盛り上がってた」

 

頭を撫でると、センテンスごとにお兄様がうん、と合の手を入れる。

うーん、お疲れだ。

両頬を手で覆って顔を上げさせると、ちょっと眠たげな顔。

昨日は遅かったもんね。

そのまま手を頭に滑らせてヘッドマッサージもどきを。

お兄様も何をするのかわかってやりやすいように頭を下げる。

腿の上に乗っているので、ほぼ顔の位置が正面にあるので下げてもらえると更にやりやすい。

背後ではがたん、という音と共に吉田くんがうろうろと歩き出し、西城くんが宥めようとするも落ち着かないようだ。

これは何か声を掛けるべきかと思ったら、腰にお兄様の腕が巻き付いた。

あ、こっちに専念しろってことですね。気持ちいいですかヘッドマッサージ。

しかし三十分の休憩は長くはなく、先輩たちの来訪でヘッドマッサージは強制ストップに。

中条先輩お顔真っ赤。

七草会長からは兄妹と言えど節度を!とお叱りをいただきました。

私は見えてなかったけど、お兄様には先輩の蔑むような視線が向けられたんだとか。

妹に嫉妬することなんてないですよー。

お兄様の負担にならないようゆっくり降りて、お兄様の背後に立つと、お兄様もすっと立ち上がる。…よく足しびれないよね、人一人乗せてたのに。

次の試合の説明を受け、軽く打ち合わせをした彼らはすぐにまた戦場へと向かった。

 

 

 

二回戦目は、ようやく連携が取れ始めたようで、動きが違って見て取れた。

吉田くんのサポートが生きるようになり、西城くんも臨機応変に動けている。

応援席ではそれぞれ固定のファンが付きそうなほどの盛り上がりです。男子の方も感心してるし、悪い空気は一切ない。

ところどころ危うい場面がないわけではなかったが、何とか勝ち進んだ。

次は準決勝。午後からの開始なので時間にはだいぶ余裕がある。

一試合最大20分。準備設営などがあってもステージがバラバラなのでそんなに時間はかからない。

三高は余裕で勝ち進み、一高も時間を巻いたのでその分予定より長く休めるのだ。

お兄様はてっきり作戦会議もかねて西城くんたちと食べるかと思ったら、なぜか二人に遠慮されたらしく、それなら妹と二人でゆっくり食べたいとのリクエストでホテルへ戻ることにした。

ほのかちゃんもきたそうにしてたんだけどね、お兄様が先手を打ってしまったので言うに言えなかったみたい。

すまんほのかちゃん。お兄様はストレスが溜まっているのだ。

 

「ん?」

「まあ」

 

到着したロビーではロマンスが待っていました。

渡辺先輩が、あのいつもしゃんと立っている先輩が乙女全開で可愛らしくしなを作っているのです!

お相手は、千葉家の麒麟児さんですね。資料でお顔は拝見しています。エリカちゃんのお兄さん。

あ~、優男系で実は実力半端ないってところも少女漫画的ヒーローですね。女子の憧れ。

頬を染めてる先輩のなんと可愛らしいこと。

ここでしか見られない先輩の表情に心のカメラマンがシャッターをバシバシきってます。

私が立ち止まると同時にお兄様も相手を観察していた。

 

「流石は九校戦、あちらこちらで有名人に出会えるな」

「そうですね」

 

うんうん頷いていると、別方向から見慣れた女の子が、見慣れない空気を背負ってやってきた。

お怒りです。うん、めっちゃおこ。

大好きな自慢のお兄様が女の子に現を抜かしてたら、ブラコンエリカちゃんも爆発しちゃうんだね。

あ、離れたところに美月ちゃん発見。お兄様の袖を引く。

お兄様も美月ちゃんの動揺が可哀想になったのか、こっちにおいでと手で招く。

その間、こんな会話に。

 

「恐妻家は聞いたことはあるが、恐妹家と言う言葉は覚えがないな」

「あら、じゃあ私も目指します?」

「お前の尻になら敷かれるのはやぶさかじゃないが、そもそも怒られる前に俺たちの場合解決してしまうからな」

 

そうだね。お兄様が現を抜かして何かをないがしろにするなんてことまず想像できないし、私に甘いお兄様が、たとえ彼女ができたところで私の嫌がることをするとも思えない。

エリカちゃんがなぜ、「兄上は渡辺先輩と付き合うようになって堕落した」と言うのかわからないけれど、理想の姿から外れちゃったのかな。

理想のお兄様が、お兄様じゃなくなる…か。

 

(想像つかないことが起きて、エリカちゃんは癇癪を起こしているのか)

 

もしかしたら原作の深雪ちゃんも、理想のお兄様がお兄様じゃなくなりそうで、知らない人になりそうで怖くなったりしたんだろうか。

たまに起こす彼女の、お兄様曰く可愛い癇癪はそういったことが原因で生じていたのかもしれない。

 

「エリカちゃん、どうしちゃったのでしょう?」

「どうしたんだろうな、本当に」

 

まあ外部の人間にはどうしようもないことだけど。

 

「八つ当たりでしょうね」

 

二人が私の言葉に首を傾げるが、果たして説明していいものか。

大爆発を起こしたエリカちゃんがロビーを出ていこうとするのを、慌てて追いかける美月ちゃん――についていく私たち。

何とかエレベーターホール前で捕まえて、一緒にお昼という流れになった。

気まずい場面を見られてばつの悪いエリカちゃんは、それでもただでは起きずにちゃっかりお兄様におごりを要求していた。

 

「まったく、恥ずかしいところ見られちゃったな」

「あそこは別に個室じゃないんだ。まあ、うちの生徒がいなくてよかったじゃないか」

「君たちに見られるのも十分恥ずかしいんだけど」

「ーー兄上だったな。敬語も使ってたし」

「あ~~~!黙っててよ。特にアイツには!」

 

絶好調でエリカちゃんを揶揄うお兄様。もしやそれがおごりの理由ですか?黙って見ちゃったことへの詫びじゃなく。

西城くんには知られたくないというエリカちゃんだけど、いつか道場通うようになったらばれるのは時間の問題では?

もちろん黙ってはいるつもりだけど。

 

「…何か聞きたいことがあるんじゃないの、お三方」

 

そうは言うけど大概事情は分かっているし、ブラコンいじりはおそらく地雷。相手が私なら猶更だ。

 

「さっきにいさ――、達也さんから聞いたけど、お兄さんって有名な方なのね」

「え、ああ達也くんなら知っててもおかしくは、ないのかな。そ。剣術家としてその世界の人間なら知ってるっていう」

「そ、そんなにすごい方なんですか」

 

美月ちゃんは純粋に驚いている。

お家の事情なんてたぶん話してこなかったんだろうな。

でも聞きたいことを聞かれたら応えようとするエリカちゃんは、知られてもいいって思ってるということ。

その変化が嬉しい。

 

「なぁに、深雪、人のこと笑ってるの?性格悪いわよ」

「違うわ。エリカが話してもいいって思ってくれたのが嬉しかっただけ」

 

正直に言えば、エリカちゃんは怒鳴った時より真っ赤になった。

 

「そ、そういう恥ずかしいことさらっと言うの何とかならないの二人とも!」

 

二人、とはどうやらお兄様と私のことらしい。お兄様も平気で恥ずかしくなるような言葉をストレートに言うからね。

 

「俺は別に何も言ってないだろう」

「いつもの言動顧みて!」

 

横で美月ちゃんが頷いている。美月ちゃんも被害者か。

ごめんねお兄様が。

昼食は終始にぎやかだった。

 

 

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