妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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九校戦編⑮

 

達也視点

 

何度も訪れた大会委員のテントの中。

いくつか見知った顔が見えるが素知らぬ顔をして深雪と共に入り、CADのチェックのため一機のCADを預けた。

正直俺は全員のCADに細工がされる可能性は低いと考えていた。

全員などリスキーすぎるだろう。そこまで破れかぶれな行動を起こすか?と言うのが本心だ。

だが、CADに細工をすること自体、もう数度行っていることを思えば、ばれないと大胆な行動に出てもおかしくはないのか。

俺にはわからない心理だな、と思いながらもそれとなく注視していたその時だ。

思考がすべて吹き飛んだ。

自然な動きだった。検査機にセットし、コンソールを操作する姿はこの大会中何度も見たものだった。

しかし、されたことはいつもの作業ではない。

 

――アレハ深雪ヲ害スモノダ。

 

無意識だった。今にも飛び掛からんと足に、腕に指示を出すより早く動こうとした瞬間、右腕に小さな違和感。

その小さな違和感が意識を呼び覚ます。

 

「行ってはダメ」

 

その小さな囁きが足をその場に縫い留める。

そして視線の先ではCADに細工をした男が取り押さえられていた。

耳にようやく雑音が入る。

悲鳴や動揺、様々な声が飛び交う中で、捕えられた男が抗おうとしているが、この騒ぎを聞きつけた御仁の一言で動きが止まった。

 

「何事かね」

 

その問いに答えたのは風間少佐だ。こんなところになぜ、と互いが互いに思っているだろうに二人はそんな素振りを微塵も見せない。

事故が多発している今大会の状況に異常を感じ、監視していたら妙な動きをした男を捕えたのだと。

 

「これがそのCADか、どれ…。確かに異物が混入しているな。これには見覚えがある。私が現役だった頃東シナ海諸島部戦域で広東軍の魔法師が使っておった電子金蚕だ」

 

九島閣下その一言が決定打となり男は自爆覚悟の逃走を試みようとしたが、それも不発に終わり捕えることに成功した。

大会本部に工作員が紛れ込んだと公になれば大会中止は必至だ。

だがここで閣下が動く。

幸いまだこのCADで事故は起きていない。

これからすぐの第一試合に出るには間に合わないだろうから第一と第二を入れ替え、その間に調整してはどうか、と。

事実上大会の続行を指示したのだ。

当然緘口令が敷かれ、この場にいた全員何事もなかったことにして、ささやかな変更だけが告げられた。

 

 

 

「え?チェックしたCADに大会委員がミスをして修正が必要になった?!いったいどんなミスよ!第一試合と第二試合を入れ替えなんて簡単に言ってくれちゃってー!」

 

七草会長は突然の変更劇に頭を抱えたが、当人の小早川先輩はむしろやる気に満ちていた。

 

「ミスだか何だか知ったことじゃないわ。実力を見せてやろうじゃない!やるわよ!!」

 

担当エンジニアに声を掛け調整に入る姿は頼もしいものがある。

深雪はそう感じているのか微笑ましそうに彼女らを見ていた。

いつもと変わらない深雪の様子に、安堵する。

もし深雪が止めてくれていなければ、俺は確実にあの男を殺そうとしただろう。風間さんの制止も聞かずに。

朝、深雪からお願いされていたにもかかわらず、俺の思考はあの瞬間蒸発してしまった。

こういうことになることがわかっていたのか、付いてこないで休んでいろと言ったにもかかわらず一緒に行くと付いてきた深雪が俺を止めてくれた。

何から何まで深雪の手を焼かせていると思うと自分が情けなかった。

 

「深雪、すまない」

「何を謝るの?感謝こそすれ謝ることはないわ」

 

あの瞬間、俺は合図を出すことさえ忘れていた。俺が出したのは純粋な殺意、殺気だ。

彼らが動いたのは容疑者を、実行犯を死なせないためだったかもしれない。守るために動いたと言われた方が信じられる動きでもあった。

 

「気づいてくれた。それで十分」

 

周囲に人がいるからか、はっきりとした文言は言えないが、それとなく伝わるように言葉を濁して伝えてくる。

深雪は優しすぎる。

慰めるかのように俺の頭を撫でて、予定通り二機目のCADの調整をしよう、と入っているかばんを指さした。

――そう、予定通りに事は進んでいる。いつまでも失敗を引きずるわけにはいかない。

深雪は傷ついても悲しんでもいないのだから。

ほぼ完成している調整を丁寧にチューニングして波立つ心を落ち着かせた。

 

 

 

深雪は次期四葉当主候補としての自覚が強く、勉強をたくさんしていた。

時間は把握しているが、どのような内容を学んでいるかは聞いていない。

だが確実にその勉強は彼女の身になっていた。

 

「いきなりすごい一年生が、って注目を浴びるより、負けそうな一年生が逆境を撥ね退ける方が見物でしょう?」

 

そこに飛行デバイスの宣伝ができたらきっと皆飛びつくわ、と。

つまりプロモーションの一環だという。

人の心を掌握する――というと聞こえが悪いが、心をつかむ術を持っていた。

第一試合も第二クオーターが終わり、一高スタッフの歓声が聞こえる。

小早川先輩が順当に得点を稼いでいるのだろう。

 

「そろそろ行ってくる」

「ああ、着替えておいで」

 

深雪を見送るけれど、正直あの格好でステージに上がるのはいただけない。

できることなら今からでも変更願いたいが、残念ながらそれはできないことくらいは分かっている。

いったいこの衣装でやろうと考えた者は何を考えていたのか。初めは純粋に空気抵抗などを考慮したのだろう、と思わなくもないが、そこにどんどんファッション性を加えた結果が現在に繋がるとでもいうのだろうか。

彼女にこれから向けられるだろう視線を思うと憂鬱になる。

ため息をついたタイミングで端末に受信を知らせる振動が来た。

 

(――やはり一高全員分に仕掛ける予定だったか。なりふり構わず、だな。余程見破られない自信があったと見える)

 

ミシリ、と端末が悲鳴を上げたので力を緩めた。

八つ当たりをしている場合ではない。

移送前に殴らせてもらえないかと『お願い』をしつつ、今後の計画が伝えられる。しばらく大会に集中しろ、とはつまり静観していろと言うこと。

だがしばらく、とつくからには――

 

(終われば参加してもいい、ということだな)

 

大人しくそれまで待つしかない。

もう一度息を吐いて精神を統一する。

間違っても深雪に心配をかけるようなことになってはならない。

兄として、これ以上情けない姿は見せられない。

 

 

――

 

 

深雪視点

 

誰よこの衣装考えたの。

そうも言いたくなりますよね。ぴっちりボディラインの出るコスチュームなんて煩悩の塊でしかない。

メリハリ出まくりである。可愛いよ。確かに女の子の花形競技と言われるだけあってかわいいデザインでもあると思うけどこれはちょっと…恥ずかしく思うのは前世の記憶があるからなのか。

ベストも羽織るし、レギンスだって履いてる。フィギュアスケーターも似たような格好ではあるが、ひらひらスカートで跳び上がるのだからつまりその、スカートは意味をなさないのだ。

選手はたいして気にしてない。むしろ空気抵抗がなくて魔法を邪魔しない、程度に思ってるみたいだ。たくましい。

だがこれもコスプレだと思えば、と気合を入れて頭にカチューシャの羽をセットして私は妖精!と言い聞かせる。

そうだ、私はどんな衣装も着こなす深雪ちゃんなのだ。

鏡を見る。

うん。超絶可愛い。

これは妖精、ファンタジーのイキモノだ。

そして、と裾をちらっと――うん、お尻の形が超絶えっち。

…あかん。これ絶対公然わいせつ罪だ。

ここってもしかして少年誌でなく青年誌でした?

そんなことを考えていたら時間が来てしまいました。

大丈夫、着こなせてはいる。

すれ違う選手の女の子たちも、初日の温泉のような悲劇は起きていない。

…起きてはいないけど、頬を赤く染めてため息は漏らしてるけど…大丈夫、その程度だ。皆理性をちゃんと持ってる。

 

(…皆同じような服着てるんだよね?なんで私だけそんなに見られるの?もしかして着方間違えてた?)

 

おかしい。確か原作の深雪ちゃんはエレガントに見えたはずなのに、どうして私の場合、青年向けに感じるのだろう?

私だけの目がおかしいのか、ちょっと基準がわからない。

とりあえずお兄様の元へ戻る。

陣営はちょうど小早川先輩が勝ち進んだと喜んでいる真っただ中だった。

 

「、達也さん」

 

名前を呼ぶのって本当に慣れない。早く明日になってほしいと思いつつお兄様に声を掛けると、お兄様はこちらを向いて――絶句した。

え、いつなんどきも深雪ちゃんに反応するお兄様が、絶句?

やっぱりどこかおかしいのだろうか。

しかし処理能力の高いお兄様はすぐさま再起動して言った。

 

「妖精姫が現れたのかと思ったよ」

「…ありがとう」

 

流石お兄様。私が鏡を見た時思ったことをそのまま口になさる。

可愛いよね。この世のモノとは思えないほどだって気持ち、自分のことだけどよくわかるよ。

自分を磨くため日頃食生活に気を付け、姿勢も乱さず、ヨガやストレッチだって余念なくこなしておりますとも。

その努力が形となって皆を虜にするほど光り輝いています。

それをストレートで言えちゃう当たりお兄様だよね。とっても恥ずかしい!

周囲もしん、となっていたけどお兄様が褒め称えている間に再起動。

あ、お兄様この間もずっと誉め言葉が止まりません。

コスチュームを乱さないためか触れることはないけれど、お兄様饒舌だね。

普通饒舌な時って何か誤魔化す時だけど、お兄様が何か誤魔化すことなんてないと思うし。

 

「そんなに言わないで、恥ずかしくて消えちゃいそう」

「それは困る。わかった、これ以上言わないよ、可愛いプリンセス」

 

言った傍からー!

そろそろ限界―!と心の中で叫んだら、レフェリーストップといった感じに試合で疲れてるだろう小早川先輩が、間に割って入ってくれた。

 

「ちょっと司波くん。彼女を口説くのは試合が終わった後にして。メンテナンスする側が乱してどうするの!」

「すみませんでした」

 

ありがとう小早川先輩!あなたが無事で本当に、本当に良かったです。助かりました。

 

「ありがとうございます小早川先輩。そしておめでとうございます」

「あら、おめでとうは早いんじゃない?あなたとはこれから決勝で戦うんだから」

 

早くも先輩は私が勝つと確信しているようだ。

新人戦に出場する予定だったから練習は一緒にしていたけれど、そんなに確信が持てるほど技を見せていただろうか?

疑問をそのままぶつけてみたら先輩は笑って、だって司波くんの妹でしょ、と言った。

お兄様の担当した選手は皆勝ち抜いている。

唯一は私と対戦した雫ちゃんだけど、対する私も調整したのはお兄様だった。

実力を認められてではなく、実績と結果を残してきたお兄様のエンジニアの腕への信頼の評価だった。

喜びと同時に絶対に負けられないと心に火が付いた。

 

「負けないわよ」

「はい!先輩の期待に応えられるよう頑張ります!」

 

原作ではドロップアウトしてしまう先輩だった。けれど彼女はあんなところで終わっていい人ではない。未来ある若者だ。

改変に後悔はない。

 

 

――

 

 

新たな自信を胸に、私は突き進む。

ステージは曇天のため練習より暗く感じられたが、おかげでその分光球が見やすいだろう。

合図が点灯。皆一斉に飛び上がる。

流石本戦は動きが違う。ほかの新人戦の選手ならこの時点で諦めていたかもしれない。それほど実力差が浮き彫りだった。

周囲が狙いそびれた取りこぼしを丁寧に狙っていく。点差はそこまで離れていないが、ちょっと頑張らないと追いつけない、それくらいの点差があった。

観客の反応はそれはもう見事に私に引き込まれていた。解説者の説明も一年生ながら、とかピラーズではその美貌で、とか――美貌は関係ないはずなのだが、ここでも容姿が飛びぬけていたため誰も文句がなかった。

観客の誰もが、一年生だもんな、ここまでよく喰らい付いてるよ。先輩の代打だって?先輩のために頑張るなんて偉いじゃないか、応援してあげよう、なんて。

…なんか、知らない間に感動ストーリーが作られてますね。その通りではあるけどちょっと盛ってる感が否めない。

この作戦を知っているのはお兄様だけ。

最終ピリオドに追い上げなるかと不安そうな先輩たちに、私は力強く頷いて返すが、実力が高いことは知っていてもまだ大した実績も無い一年生。不安はぬぐい切れない。

勝負とは何があるかわからないのだから、そう思われてもしょうがないけど。

やっぱり作戦を伝えなくてよかったかもしれない。先輩たちにスタートダッシュ遅らせようと思いますなんて、結果も出してないのに言ったところで聞いてもらえるわけがない。

だから――

 

「アレを使おうと思うのだけど」

 

さあ、ついにこの瞬間がやってきました。お兄様のすばらしさを世に知らしめる時が来たのです!

この時の私の目は爛々と輝いていたに違いない。衆人環視の中ストレスが溜まっていたせいもあるだろうが、好戦的になっていた。

お兄様が目を細めて微笑む。

 

「すべてはお前の望むままに」

 

芝居かかったお兄様に差し出されたCADを受け取る。

最終兵器を手にした私は勝利を確信し、笑みを深めた。

 

「世界をひっくり返してくるわ」

 

気分は妖精姫ではなくなった。

いたずら好きの可愛らしい妖精ではない。

世界すら弄ぶ妖精女王――美しいものは毒々しくもあれ。オタクの願望です。

最終ピリオド、最高のオモチャを手にした私は――空を支配した。

誰もが地へと戻らねばならない中、私はいつまでも上空にあり続けた。

 

 

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