妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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九校戦編⑯

 

――飛行魔法。

 

誰かの呟きが波を起こし、混乱の嵐を巻き起こす。

会場は、一種の恐慌状態に陥った。

選手たちはそれでも頑張って飛び跳ねるが、空を舞う妖精に敵うはずもなく、絶望の表情を浮かべていた。

ここで高笑いでもできればよかったのかもしれないが、深雪ちゃんの妖精女王は無垢にほほ笑むばかり。それで十分だった。むしろそれがイイ。

わざとらしい悪役になどならずとも、妖精に人の理などわからないのだからただ無邪気に笑っていればそれだけで、圧倒される。

点差は見事逆転。どころか差を開いての勝利をおさめフィールドを去ると、背後では爆発が起きたかのような熱狂と興奮状態で、場内アナウンスなど聞くこともできない騒ぎとなっていた。

それは会場のみならずスタッフ席も同様だった。

一応このデバイスのことは中条先輩はじめエンジニアの人は知っていた。

当然大会委員にもチェックを通しているし、使用に問題は無いはずだが、どこからか文句が来たのか大会側からCADをチェックさせてほしいと持っていかれてしまった。

そのことで若干スタッフたちも落ち着いたが、それでもまた興奮は波のように押し寄せる。

お兄様は質問攻めに遭い、私もすごかった、綺麗だったと…あれ?容姿ばかりを褒められるね。でも囲まれた。

それを解放してくれたのは他ならぬ七草会長だ。

午後には決勝があるのに休ませないつもりかと注意して、そうだった!と慌てて休むように追い出された。

お兄様と目が合って、二人で苦笑して、どちらともなく触れあった手を繋いでその場を離れた。

 

 

――

 

 

どこに行っても騒がれるだろうから、と逃げるように向かう先はホテルのお兄様の部屋だ。

お弁当もお兄様が受け取ってくれていたのでゆっくりご飯も食べられる。

でもその前にシャワーを浴びたいと、一度私の部屋に寄ることになった。

女子部屋にお兄様を入れることはできないのでドアの前で待ってもらい急いでシャワーを浴びる。

お兄様の部屋でシャワーを浴びるシーンがあったけど、私にはできない。

お兄様とドア一つ隔てて入浴なんてできるわけがない。恥ずか死ぬ。…いくら意識してほしいからって、深雪ちゃんの行動って時に酷く大胆だよね。

普段はちょっとしたことでも恥じらうくらい乙女なのに。振れ幅が凄い。

恋する乙女の行動力は凄い。私にはそんなエンジンは積んでいないので振り切ることはないのだけど。

魔法で水気を飛ばしたらすぐに着替えてお兄様の元へ。魔法って本当に便利。

 

「おまたせ」

「早いな。もっとゆっくりしててもよかったんだぞ?」

「お腹すいちゃったんだもの」

 

早く食べたいと言えばお兄様はそれならしょうがないな、と部屋までエスコートしてくれた。

ご飯も食べ、部屋の備え付けのお茶を飲んで一息つく。

 

「ふふ、すごい反響でしたね」

「いいデモンストレーションになったよ。きっと今頃会社は大変なことになっているだろうな」

 

九校戦の注目度は高い。

魔法師で興味のない人間はそういない。私たちのように大会を全く見たことのない人間でも、珍しいことがあればニュースとして知っている。

今回はとんでもないニュースとして世間を騒がせることだろう。

先月飛行デバイスを発表したとき並みに話題になるかもしれない。

 

「深雪には特別ボーナスを出さないとな」

 

宣伝に貢献した、という意味だろうけど、特別ボーナスとは?

 

「会社から特別することはないが、俺からのご褒美だな」

 

ご褒美!その言葉のなんと甘美なことか。

 

「何か俺にしてほしいことはないか?」

 

リクエストまで!?なんて豪華なご褒美。でもどうしよう。お兄様にしてほしいこと?

笑って、こっち向いて、ピースして、撃ちぬいて――あ、これ違う。ファンサだ。

えっと、お兄様にしてほしいこと?

健やかであれ?幸せであれ?…これも違うね。

ううん、難しい。

 

「そんなに悩むことか?あんまり難しいことはできないぞ」

「あ、違うんです!あの、お兄様にはいつも私がしてほしいと思う前にしてもらっているので、なかなか思いつかなくて」

 

えーと、原作ではどんなおねだりしてたっけ?手を繋いで、とか頭撫でで?普段からしてもらってるしなぁ。

…そういえば添い寝をお願いとかしてなかった…?いやいや!たとえ兄妹でも妙齢の男女がそれしちゃダメだよ。

間違い云々じゃなくね。お兄様を疑うわけがない。…私が無意識にやらかしたら悪いし…いや、何もないはずだけどね?ただお兄様の大ファンではあったからね?無意識だと抱き枕よろしく抱きつく可能性が捨てきれないわけで。

無し無し。

と、頭を振って顔を上げればお兄様は苦笑顔。

 

「お兄様?」

「悩んでる深雪も可愛いな」

「…もう、揶揄わないでくださいませ」

「揶揄ってなんていないさ。本心だ」

 

これだから、お兄様は!

 

「…では、その一つお願いを」

「言ってごらん」

「後夜祭合同パーティーではダンスがあるとか。よろしければお兄様とも踊れたら、と。あ!もちろんダンスホールでは目立つでしょうからどこかほかの…例えば中庭などなら見られることも少ないでしょうし」

 

そう、ご存じラストダンスのあの一コマだ。

あのシーンは月明かりに照らされうっすら微笑むお兄様がとにかく素敵だった。

 

「ダンスか、あまり得意じゃないんだが」

 

残念だがお兄様の声は乗り気ではない。

いくらおねだりであってもお兄様に無理強いはできない。

 

「なら別の――」

「構わないよ。それでもいいと、俺がへたくそでもいいと言うなら」

「もちろんです!嬉しいです!」

 

食い気味の勢いに、お兄様はびっくりしているけど抑えられなかった。

お兄様と踊れるなら何でも構わない。

 

「そんなに喜んでくれるなら、まあ…いいのか」

 

諦めたように笑うお兄様に、ごめんなさいと内心謝るけど撤回はしなかった。

 

「じゃあそろそろ寝ようか。次の試合前までゆっくり休むと良い」

「……あの、ここで、寝るのですか?」

「?部屋に戻る必要はないだろう。ベッドならもともとこの部屋はツインだから、壁に収納してあるのを使えばいい」

 

へー、そうなんだー。じゃなくて。

なぜ戻る必要ないのでしょう?

 

(ここお兄様の部屋。私の部屋違う)

 

「えっと、もしかしてお兄様はこの後どこかへ用事が?」

「特に用事はないな。あるとすればお前の安眠を守ることか」

「…この部屋で?」

「ここが一番安全だ」

 

窓の位置もドアの位置も離れているし傍にいて守れないわけもない、と言うお兄様。

…ま、いいか。

問題なんて全くない。だってお兄様が守ってくれるのだから。

気にするなというのだ。気にしてはいけない。私の羞恥心なんて、お兄様の安寧を守る為なら耐えて見せましょうとも。

備え付けの服をユニットバスで着替えて戻るとベッドがすでに整っていた。

なんでお兄様の部屋にもう一対の服が有ったかは聞かないでおきます。たぶんホテルマンさんがツインだからと置いていったんだね。

 

「さ、横になって。それとも俺が運ぼうか?」

「この距離で運ばれるのはおかしいでしょう」

 

からかいモードのお兄様は苦手だ、色男モードに次いで難敵です。まだ口答えできるからいいけど。

大人しく言われるままにベッドにもぐりこむ。

お兄様は枕元に腰かけて、私の頭を撫でた。うーん、距離が近い。

 

「顔が赤いね。顔も熱を持ってる」

「…お兄様は寝かせる気がないのですか?」

 

それは赤くもなるよね。頭だけでなく頬も、耳も撫でられて。

 

(くすぐったい!それに首筋は撫でないで…)

 

「お兄様!」

「悪かった。つい悪戯してしまった。せめてアイマスク役に徹しよう」

 

そう言って目元を覆われる。

温かな手は心地よく、次第に横にお兄様がいるということを忘れていく。

 

「――よい夢を」

 

そこで私の意識は途切れた。

 

 

――

 

 

達也視点

 

眠ったのを確認して手のひらを戻すと、安心しきったように眠る妹の顔があった。

眠って力が抜けているからかいつもより幼く見えるあどけない表情に、最終ピリオドのステージ上で見せていた妖しげな雰囲気は見当たらない。

深雪はよく雰囲気が変わる。時に可愛らしく、何も知らない無垢の彼女。時に綺麗に、聡明でおしとやかな彼女。時に美しく、世の男を魅了して狂わせる彼女。

今日は可愛らしさと美しさの二面が現れていた。

その熱が今日だけで終わればいいが、もし追いかけてくるような者が現れたら、法的措置と超法的措置の両方を検討しなければならない。

うちのセキュリティを再度チェックしておこうと端末を操作していれば時間はあっという間に過ぎていく。

――よく眠っている。

時折直接目視しては、その寝顔に笑みを浮かべる自分がいた。

美しくも可愛い、俺の妹。

ガーディアンとしてだけではなく兄妹として暮らして三年の月日が過ぎたが、その三年は本当にあっという間だった。

それ以前が霞むほど濃密な日々。

彼女は幸せになりたいから素直に生きると宣言し、やりたいことをして言いたいことを言うのだと行動を起こした。

それだけ聞けばただの我侭娘だが、彼女の生活は我侭とは無縁の、それまで以上の自由度を失ってまで勉強に勤しんだ。体術にまで手を伸ばし、魔法についても貪欲に技術を磨いていった。――はっきり言って異常なほど知識を欲した。

――なぜそこまでするのか。

彼女は言った。幸せを得るには力がいるのだ、と。

疲労を滲ませながらも、達成感に満ちた笑顔で答えていた。

幸せを得るということはなんて大変なんだと思ったが、深雪は続けて言うのだ。

 

「お兄様はすでに実践しているではないですか」

 

俺が死ぬ思いで必死に足掻き、身に付けたこと全てはそのための力だと。

 

「私はお兄様に救っていただきました。これは幸せなことです。

お兄様が私の安全を保障してくれている。これだって幸せを守ってくれているということ。

お兄様の努力は何一つ無駄なものなどありません。お兄様が生きていて、そして私やお母様がいる。

笑って暮らしている。これは幸せなことでしょう?」

 

――愛おしいと思った。

心の底から。

妹を愛している理由を俺はいくらでも言えるだろう。

妹だから、ではない。深雪が妹だから愛している。

だが時折どうしようもなく妹を愛しているが故に、暴走する自分もいた。

今回のCADの件はそれだ。

漂白されたように思考が消え、体が勝手に動き出そうとしていた。

深雪は気にもしていないようだが、前もって受けていた彼女の命を無視したのだ。これはガーディアンとしては許されることではない。

私情に流されるなんてあってはならないことなのに、彼女は俺を許した。

頬を撫でる。

よく眠っているので反応はない。――いや、温かいのがよかったのか口元が緩みすり寄ってきた。

可愛い――が、心配になる。

誰にでもこうなってしまっては問題だ。…などと彼女の寝室に誰も入れるわけがないので杞憂なのだが。

落ち着こう、と手を離してもう一度端末を開く。

――深雪が寝入った頃、藤林さんから届いた追加の暗号メールには、深雪の試合直後に大量殺戮を目論んだ動きがあったと記されていた。当然そんな騒ぎは起こっていない。速やかに処理したらしい。

だが、深雪を地に堕とすなどの計画を実行に移そうとした事自体許せるものではなかった。――計画を企てた時点で万死に値するとさえ思う。

 

「ん…」

 

ころん、と深雪が俺の方に寝返りを打つ。

乱れた布団を肩にかけてやりながら、少しだけ抱きしめる形で覆いかぶさる。

 

「安心するといい」

 

この瞬間、己の中で判決が下った。

――お前を傷つける者はこの兄が始末をつける。

 

 

――

 

 

深雪視点

 

目が覚めたらすぐ近くで微笑む兄の顔がありました。

……もしかしてずっと寝顔を見られてた…?

いや、それはない。たぶん布団をかけなおそうとかして前かがみになったところで私が目を覚ましたとかだ。

自意識過剰が過ぎた。深雪ちゃんが可愛いせいだ。

落ち着こう、と深呼吸をして目覚めの挨拶を一つ。

 

「おはようございます、お兄様」

「おはよう深雪、よく寝られたかい?」

「ええ。ぐっすりでした」

 

恐ろしいくらいに。

よくお兄様がこんなに近くにいて眠れたね。いや、逆にお兄様だから安心して寝られたのか?

わからない。

 

「さ、白湯を用意したよ。ゆっくり飲んでも余裕で間に合うから慌てずにね」

 

用意が完璧ですお兄様。

こんなに至れり尽くせりでいいのでしょうか?

白湯は程よく飲みやすく、起きる前には用意されていたのだろう。お兄様はこういったことに魔法を使わないから。

手間をかけてもらったことにお礼を言ってカップを戻し、ゆっくり立ち上がって制服に着替えに行く。

鏡でチェックして問題がないことを確認してユニットバスから出ると、座っていた椅子から立ち上がったお兄様が両手を広げた。

 

(…ただハグするのも面白くないよね)

 

予備動作なく飛びつくように飛び込めば、お兄様は読んでいた、とばかりに笑って微動だにせず受け止める。

 

「すまないな。驚かせ甲斐がなくて」

「…そうやって油断していればいいのです」

 

悔しまぎれに言えば、更に振動が激しくなった。

ツボりましたか。

笑いもストレス軽減に一役買いますからね。どんどん笑ってくださいませ。…次こそはびっくりさせて見せますとも。

 

「じゃあ戻ろうか、お前が主役の舞台に」

「お兄様にかけてもらった魔法で、魅了して御覧に入れます」

 

お兄様に差し伸べられた手を取って、会場へと向かう。

 

 

 

着替えを済ませ控室に入れば、堂々とやる気に満ちた小早川先輩とその背後でぐったり疲れている担当エンジニアの平河先輩、更にその手伝いをしたのか並んで同じくぐったりしている中条先輩の姿があった。

 

「待っていたわよ、司波さん」

「先輩の胸、お借りします」

 

バチバチ火花が散ることはない。不思議だが、言葉のわりに互いに頑張りましょうという空気が漂っていた。

 

「二人とも、よくここまで頑張ってくれました。だけどあえて言うわ。一高のことなんて考えないで思いっきりやっちゃって」

 

七草会長なりの激励なのだろう。どちらも入賞間違いないと信じているから出た言葉だということは、誰もがわかっていた。

心を落ち着かせる。

この試合、体力気力がモノを言う試合になる。

負ける気はしなかった。誰よりも飛行練習をして使い方に慣れている私が負けるわけにはいかなかった。

他の選手は力尽き、落ちることになるだろう。けれど安全装置が働き安全性のプロモーションとしては完璧だ。

なら私は何を魅せればいい?――優雅さを、皆に夢を与えよう。

妖精はいるのだと、そう思わせる幻想的な舞を披露しよう。

この競技は別名フェアリーダンス。

 

(胡蝶の夢を、お見せしようではないか)

 

お兄様が言っていた。ここは私が主役の舞台だと。

ならば誰よりも、この星が霞むほど煌々と眩い月よりも、輝いて見せようじゃないか。

開幕のランプが点灯する。

ふわり、と舞い上がるのは私だけではない。小早川先輩をはじめ全員が空を舞う。

中に、同じ一年生の一色さん――愛梨ちゃんの姿もある。とても素敵な衣装だけれど、私はもう身も心も妖精になっていて、もう彼女のことも近くを舞う妖精の一人と認識していた。

色とりどりの妖精の舞う空は幻想的な画だが、私はその上をいかせてもらおう。

コスチュームを生かし、ひらり、ひらりと舞い踊るように、ひとつ、またひとつと光球に触れては消していく。

私の動きに観客席から歓声が上がる。

途中選手と鉢合わせれば、私はふわりと避けてその先に浮き上がる光球へと目標を変える。

周囲を見る余裕のある私と、飛ぶので精いっぱいの選手たち。

実力の差がはっきりと表れた。

悲鳴が上がり、見渡せば目の端で力尽き安全装置が働いてゆっくりと降りていく選手の姿があった。

そしてまた一人脱落する選手を見送りながらポイントを重ねていく。

第二ピリオドに残ったのは四人。

二人棄権をしたようだ。

小早川先輩は喰らい付いているが表情に余裕はなかった。

そして最終ピリオドは三人。

小早川先輩と愛梨ちゃんだ。

愛梨ちゃんの表情はすましているが、彼女は飛行魔法と同時に別の魔法も行使しているおかげでかなり疲労しているようだ。

途中、私の狙う光球を狙いに来る場面があった。闘志を漲らせた目で、私に勝負を挑んできた。けれど残念だ。いくらスピードで貴女が抜きん出ていても、技巧では私も負けない。

貴女がその一つを狙うというのなら、私はその先の三つを狙う。内、一つは追いつけるかもしれないが、二つは確実に私のポイント。つまり差が縮まることはない。

徒に彼女は力を消耗していった。

トップはぶっちぎりだが残る二人は接戦で、私はその邪魔をしないよう離れ、広くなった空を独占するように飛び続けた。

結果、小早川先輩は三年生の意地か、一ポイント差という僅差でワンツーフィニッシュは我が校となり、魅了された観客たちは、試合の終了の合図と共に盛大な拍手を惜しみなく送っていた。

大会で見ることのないスタンディングオベーションに、大会主催者側はどうアナウンスすべきか頭を悩ませたという。

 

私たちのもたらした結果により、明日のモノリスコードの試合を前に一高の総合優勝が決まった。

 

 

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