妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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夏休み編③

 

 

「ここにしようか」

「ええ」

 

にこやかにお兄様のエスコートを受けながら入店した。

するとここでも店が静まり返った。

お食事中お邪魔してごめんね。でも店員さんはお仕事しましょうね?

お兄様がいつもの(ランクの高い)店と比べて反応の違いに踵を返しかけた瞬間、店員は息を吹き返し接客をし始めた。

うーん、お店代えてもいいんですけど、原作で確か当たりの店って言ってたので食べてみたいんだよね。

お兄様をちらっと見て小さく頷けば、意図は伝わり入店することに。ありがとうお兄様。

席に案内されても視線はまとわりつくが、これが日常なので気にも留めない。仕方ないね、深雪ちゃんだから。諦めが肝心です。

お兄様も割り切っている。というより悪意ある視線と害のない視線をより分けているらしいけど。

そして椅子を引こうとするウェイターを断り、お兄様が代わりに引いてくれた。

普通の彼氏どころか、他の男性はやらないですよ。

日本じゃせいぜい意中の女性を射止めんとして張り切る人か、人気獲得のためホストがポーズとして振舞うくらいじゃないだろうか。

でも、女性としてはこの特別扱いというシチュエーションは憧れるものかもしれない。

これ見よがしではなく、スマートな動作はそれだけで見惚れるものがある。

お礼を込めて微笑めば、お兄様も笑みを浮かべて返してくれた。

その瞬間、この店の空気は一変する。

少し前までこの超絶美少女のお相手がこれなの?みたいな視線ががらりと変わった。

まるで規制線でも張られたかのように、品定めからこの二人の空間を邪魔してはならないという空気に変わったと共に、視線を観賞用に緩めたのだ。

決して外したわけではないところに好奇心が隠しきれていないね。

それでも邪魔をしようとしない空気があるだけマシである。

メニューを眺め、二人で分けっこ前提で別々のモノを注文し、落ち着いた頃、それはやってきた。

――綺麗な女性だ。

己の見せ方もよく知っている、風格もある姿は女性が憧れる女性の姿を具現化したかのよう。

もちろん女性だけでなく、男性もその美しさに目を奪われるだろう魅力を合わせ持っていた。

ここに私さえいなければ視線を独り占めできただろうに、タイミングが悪かったとしか言い様がない。

しかも私の席の近くを通ったことで客が「あれ、ひょっとして今の人って俳優の」と気づいてざわめくも、注目されるのは一瞬。すぐに話題は元に戻り、ドラマや少女漫画から出てきたのようなカップルへ視線を戻していた。

つまり、私たちである。

とんでもない美少女と、冴えない(私にはそんな風に見えないですけどね!)地味な青年が仲睦まじく互いを見つめ合い、二人の世界を構築しているなんて展開が現実に現れたら、まあガン見するよね。

…聞こえてくるのは学校の先輩後輩じゃない?とか、美少女の方が先にアタックしたのよ!とかいろいろな妄想話。皆様楽しい休日をお過ごしのようですね。

完全に突然現れた俳優さんよりこっちに興味を持たれてます。

これはプライドを傷つけられたと思ってもしょうがない。

嫉妬が隠された強い視線を向けられるも、しかしこれくらいなら痛くもかゆくもない。問題なのは――相席の男の方だ。

嘗め回す視線が気持ち悪い。

ある程度権力を持つ男特有の、この世の女はすべて思い通りにできるという思い上がりが滲んでいて腹立たしさを覚えた。

こんな男をお兄様が相手にすることなんてない。

改めて思いを強くすると、机の上でお兄様に手を伸ばし、それを重ねて、お兄様を見つめる。

お兄様しか目に入らないと言わんばかりの熱量で見つめれば、お兄様は優しい声でどうした?と訊ねた。

甘い問いかけに何でもないの、と返して重ねていた手を、今度は挟んでひっくり返して手のひらを合わせて、指を絡める。

唐突に始まる――カップルのちょっとした合間のいちゃつきである。

恋しい彼氏の気を引きたくてちょっかいを掛ける彼女を、愛おしいとばかりに見つめ好きなようにさせてあげて見守る彼氏の図。

店内中の女性陣が一斉に身悶えした。キュンキュンするよね!わかるよ!!

でもね、それって見てる側だからであってやってる本人は今口から心臓を出さずに笑顔をキープしている状態です。ドッキドキですよ。

お兄様もノリノリで見つめてくるものだからもうね、もうね!心臓が持たないんじゃないかってくらい激しく暴れております。

互いに互いしか目に入らない状態。そこに、空気の読めない男はやってきた。

途端、周囲の女子たちによる無言の抗議という名の睨みつけが殺到したことに、男が一瞬たじろいだようだったが、それで引き返せるほど男は利口ではなかった。権力というのは時に人を愚かにする。その典型だった。

 

「僕はこういう者です」

 

失礼、とテーブルの横から声を掛けてきた。

うん、声も自身がありげです。これまでのスカウト実績でもあるのかな。

見向きもしていないのに視界に割り込もうとする男は、二人の視界に割り入るよう名刺を差し出すが、私たちは顔色を変えることもなく無視――否、お兄様の目の色は若干変わっていたのだが、私が止めたのだ。関わらないで、と。

私を見ていて、と。

覚えてよかったモールス信号である。

手が触れ合っているのもよかった。おかげでちょっかいを出しあって遊んでいるようにしか見えなかっただろう。

目の前で繰り広げられるいちゃいちゃラブラブ攻撃に、それでも男は食い下がる。

 

「キミ、映画に興味ない?」

 

私の視線はお兄様に固定されたまま動かない。

 

「キミにぴったりの役があるんだ」

 

お兄様が茶目っ気を発揮して手をくすぐってきて、漏れる笑いにお兄様がいたずらが成功したように笑う。

やだ、一瞬演技を忘れて身悶えしそうになってしまった。お兄様のラブラブ彼氏役っぷりに内心驚愕です。

そして業界人であろうにこの演技に気付かない貴方の目は節穴ですね。何の価値も無い。

 

「ねっ、名前を教えてもらえないかな?」

 

ああ。せっかくここまで見逃してあげていたというのに。――男は愚行を犯した。

お兄様の顔を遮るように前かがみになってこちらを窺ってきたのだ。

直後、上がる非難の声とウェイターを呼ぶ声。

だけどその喧騒はすぐに消えることになる。

 

「申し訳ないのですが、お引き取り願えます?わたくし、今、とても楽しんでおりましたの」

 

先ほどまで浮かべていた笑みは抜け落ちて、精巧な人形の温度のないアルカイックスマイルが表れる。

それだけで春の陽気が一気に厳冬に早変わりだ。

何より感情を失った声は、凍てつく吹雪が襲ったかのように周囲を凍り付かせた。

悲鳴が起こらなかったのは、凍り付いて息すら吸えなかったからか。なんてね。

こういう場面ではお嬢様言葉が力を発揮することを私はよく知っていた。

オタクは知っている。美少女からのお嬢様言葉で品よく話しかけられると人は委縮する。

毅然とした悪役令嬢は強くてかっこいいよね!――と、話が逸れた。

睨みもしない、不機嫌も表に出さない。

それでも不快感は伝わっているはずだ。

その証拠にこちらに伸ばそうとした男の手は、その前に凍り付いたように動きを止めていた。

――もちろんだが、こんなところで干渉力にモノを言わせたりしない。魔法など一切使っていない。

それでも彼らの動きを止めるくらいわけないだけの、美貌という名の武器を持っている。

 

「お声がけいただきありがとうございました。けれどわたくしこれでも忙しい身ですので、このような時間を持つこともなかなかできないのです。大事な有限の時間を、どうか好きに使わせていただけませんこと?」

 

少し覇気を収め、申し訳なさそうに眉を下げて『お願い』すれば、男は時が戻ったようにぎこちなく体を戻して「邪魔してすまなかったね」と下がっていった。

そして俳優を連れ立って店を後にした。

流石にこのアウェー感漂う場に居続けるだけの胆力は持ち合わせていなかったらしい。持たれても困るのだけど。

俳優さんとは一切視線が交わることは無かった。

誇り高きプロ意識の強い女優さんと見た。その事務所から即刻移籍して大成していただきたい。

 

「…全く。俺の出番がないな」

 

お兄様がやれやれ、と首を振る。でもいいの。あんな男にお兄様が関わって面倒ごとを被るなんてあってはならないから。

せっかくの、二人のデートなのだから。

 

「違うわ。私が貴方との時間を奪われたくなかっただけ。――私以外を見て欲しくなかったの」

 

その言葉に女性客たちからの声なき悲鳴が漏れる。

隠そうとしてくれてありがとう。全くもって隠せない視線がこっちに向けられているけれど。

しかし堪えた人たちも、残念ながら次の一撃でノックアウトされることになる。

お兄様は繫がったままの手を引いて口元に運んで、今度は指先にしっかりと唇を落としてキスをすると、

 

「今も昔も、そしてこれからも、お前以外を見ることなんてありえない。ここに誓うよ」

 

…もちろん私も当然ノックアウトされました。

この後店ではコーヒーが飛ぶように売れ、騒動を止められなくて申し訳ない、とお店側から料金無料の上、頼んでもいなかったアイスケーキまでサービスしてもらった。

どれも美味しくて、顔をほころばせているところをずっと見つめられていたことに気付いた私は、二度目のノックアウトを受ける羽目になった。

 

「そんなに見つめられては恥ずかしいわ」

「あまりに美味しそうだから」

 

…それはケーキのことですよね?見つめられている私じゃないですよね⁇

バカップルあるあるのセリフにありえない妄想が脳裏をよぎった。

いえいえ!私たちは兄妹だから!カップル偽装していても兄妹ですからね。

ケーキよりも甘い視線に私は耐えられず、周囲の女性たちと共に撃沈した。

 

 

 

その後、店を出た際、お兄様によってメンツを潰されていない男が悪いお友達を引き連れて襲ってくることもなく、――俳優の機嫌を取る方を優先したのかもしれない――午後もモールをぶらついて、「誓ったからには指輪でも買うか」というお兄様の謎理論にストップをかけたりするハプニングもあったが、それ以外特出したことも起こらず、楽しい休日デートを過ごした。

 

 

 

後日ニュースで、あるプロダクションの若手社長が事務所内の女性たちに無理やり手を出していたとかで逮捕されたらしいとの報道があった。

たった一行のそのニュースはすぐに他のニュースに紛れて消えた。

 

 

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