妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
やってきました小笠原!ではなくここは葉山のマリーナです。
車などの陸での移動手段ではなくわざわざクルージングの旅をするんですって。粋ですね。
横ではエリカちゃんと雫ちゃんが船の話でお嬢様トークしてるけど、普通に家で所有している船の会話ができるってすごいね。
お兄様も船をしげしげ眺めてます。
…もしやおかしなところがないかチェックしてます?いや、ただの興味本位で観察しているんですよね?ここはこうなっているのか、みたいな独り言も聞こえてくる。
と、その独り言に返答があった。
船乗り(のイメージを具現化しました!な装いのダンディなおじ様)が現れた!
え、本当に50過ぎてます?見えない。エネルギッシュで現役真っただ中といった風貌だ。
あ、お話し中だったお兄様に視線だけでなく手招き付きで呼ばれました。駆け足にならない程度にささっと近づく。
「初めまして、司波深雪です。この度はお招きいただきありがとうございます」
すっと礼を取り挨拶すると、姿格好には似つかない洗練された動きで返された。
流石上流階級、成り上がりと言われていても動きが板についている。
けれど同時に茶目っ気もある人のようで。
「ご丁寧にありがとう、レディ。北山潮です。貴女のように美しいお嬢さんを迎えられるとは、この船にとっても当家のあばら家にとっても望外の栄誉と申せましょう」
如才ない女性への誉め言葉は流石の貫禄。
そしてコミカルに見える動きもこちらの緊張を解さんとする気遣いに、私も併せて大げさにスカートを持ち上げて膝を折って見せた。
こういうノリのいいおじ様大好き。流石雫ちゃんのお父様。わかってらっしゃる。
このやり取りを見ていた雫ちゃん達が父親を非難しているが、ほのかちゃんも意外と遠慮のない物言い。家族のように親しくしてるのがよくわかる。
いい関係だ。
お兄様と二人で顔を見合わせて笑う。
もし、原作通りに事が進んでいたならば、彼女たちの親しげなやり取りが羨ましい光景に映ったかもしれないけど、今はただ微笑ましい。
そこにエリカちゃん達も巻き込んでおじ様は不利な状況を打開しようとするも、大人社会のようにうまくいかないのか、旗色が悪いと判断するとそそくさと退場していった。
でも実際のところ、無い時間をひねり出してのこの挨拶だったのだろうな。車に乗り込んだ時にはすでに仕事の顔つきをしていた。
「雫のお父様はとても素敵な方ね」
「…あんなに鼻の下伸ばしてたのに?」
雫ちゃんはそっけなく言っているけど褒められてちょっと照れ臭そう。
無表情を見分けるのは得意ですからね。特に照れているのは見逃しません。可愛い。
予定時刻通り、船は出発した。
運転は万能メイドさんの黒沢さんだ。話を聞いただけでも興奮するよね。
ハウスキーパーさんだけど、つまりはメイドさん。しかも敏腕秘書さん風なのにメイド服。そして有能だなんて。この世界設定盛り過ぎ大好きですね。大好物ですとも。
きっとこの方はバトルもできるんだろうな。ロマンがあり過ぎる。
さてさて、お姉さんを堪能している場合ではない。
この船旅は早くても約6時間かかる。
いくら珍しい海上であっても、多感な高校生が集まってずっと外を眺めるのも飽きる。
クルーザーでも揺れをほぼ感じないのは運転技術もあるのかもしれないが、やはり船の性能なのだろう。
この程度の揺れなら文字を追っても酔うことはないはずだ。
と、言うわけでさっそくこの小旅行の目的でもある宿題と勉強会をすることにした。
海では思いっきり遊びたいから早く片付けよう!とのこと。
後回しにしないところ皆偉いよね。
「――ならここは」
「そう、それで合ってるわ。よく復習できてるわね」
「ねぇ、ここの問題なんだけど」
「それはこっちの公式を使って――」
「あ!解けた」
「ん、計算ミスもない。正解よ。よくできました」
ちょっと方向性を示すだけですぐ答えを導き出せる彼女たち天才では?
できた!と顔を輝かせて答え合わせをする優秀な生徒たちに花丸満点あげちゃう。頭もなでなでしようねー。
「…なんか、あっち世界が違いすぎねぇか?」
「学校の先生が深雪さんなら生徒は皆勉強楽しかったでしょうね」
「うん、それはそうかもしれないけど、その…甘すぎないかい?」
「叱るだけが勉強ではないだろう。レオ、そこ違うぞ」
「あり?ほんとだ」
「もしかして深雪の勉強方法って達也くん直伝だったり?」
「いや。俺が深雪の勉強を見ていたのは中学のはじめくらいだけだったな。あとは同じ空間で勉強することはあっても、教え合うということはなかった」
宿題組の話に、懐かしい思い出がよみがえる。
小学生の時、教わることなんてなく、それどころかお兄様に近づくことなんてなかった。
中学で記憶を取り戻してからは難しい所なんてなく、せいぜい知らない歴史ですね?くらいだったのだけど、兄妹のコミュニケーションとして最初に取り入れたのがお勉強会だった。
兄妹のスキンシップで一番に思い付いたのがそれくらいだったのだ。
お兄様は勉強が完璧で、4月に配られた教科書はその日のうちに読破し内容を理解していた。
だからはじめは教わる体で机に並んでお勉強に付き合ってもらったのだけど、コミュニケーションがうまく取れるようになってからは、わざわざ教わることもないと、一緒に勉強するだけになっていった。
お兄様の教え方?とってもわかりやすかったよ。
ただ、甘々だったかと言われるとそんなことはなかった。本当、普通の勉強会だった。
ならどうして私がこんな孫に甘々おばあちゃんになっているかと言えば、それは単純に私の性質である。
頑張っている子を褒めて何が悪い。私は褒めて伸ばすタイプです。
頑張ったか可愛い子には飴ちゃんあげようね。
「兄さんは解説がとても丁寧で分かりやすかったわね」
「深雪はすぐに何でも吸収してしまうから教えることがすぐに無くなってしまったな」
「でも魔法理論や構築は兄さんに教わらないとわからないところもあるのよ」
「そこが唯一兄ぶれるところだな」
「兄さんはいつだって兄さんじゃない。ダメなところなんて見せてくれないくせに」
「お前の前ではかっこいい兄貴でいたいのさ」
「もう――」
「はいはーい!兄妹で仲良しはその辺にして頂戴!私たちには残された時間が少ないの。邪魔しないで」
「お前たちが振ってきたことだろうに。まあいいが」
エリカちゃんからのストップがかかる。確かに思い出話しはお勉強の邪魔だね。反省。
ちょっとした小話を挟みつつ各々自分の課題を熟していく。
宿題組が終わる頃には、ほのかちゃん達は二学期の予習まで進んでいた。
「こんなに勉強進められたの初めて!」
「深雪、ぜひ家庭教師にならない?達也さんも家で雇うから一緒に暮らそう」
大好評だったようで何よりです。
っていうか雫ちゃんそれは…お兄様の専属許可取れました?
「雫、それは無理だと言っただろう」
「なら深雪だけでも」
「猶更却下だ」
お兄様が専属になれば魔法師としてどれほど楽か。わからないでもないけど、お兄様が専属になることは残念ながらないかなぁ。
あ、でも雫ちゃんと結婚すればワンチャン?この二人よく火花を散らすほど見つめ合ってるから仲はいいと思うんだけどね。ケンカップル嫌いじゃない。ライバル同士なんてラブの始まりしか見えない。
オタクは小さな綻びからいろんなものに発展させていく生き物です。
「ちょ、ちょっと二人とも!」
あ、ごめんなさいほのかちゃん。貴女のことがあるから雫ちゃんは遠慮するね。間違いない。
水着売り場でも応援するような発言してたし。
今夜がおそらくその勝負の時。覗く気はないけれど…気になる!
――
やることがあれば6時間なんてあっという間だった。
ゆっくり接岸し、私たちは島へと上陸を果たした。
白い砂浜、照り付ける日差し、そしてそこに男女の高校生たち。この最高の布陣で物語が始まらないわけがなかった。
そうだな、惜しむらくはここがプライベートビーチで、ほかに客がいないということで起こるハプニング――例えばナンパとか喧嘩吹っ掛けられるとか――がないことが物足りないが、正直私がいる時点でそのトラブルは人死にが出るレベルの災害になるので、むしろなくて正解だろう。
着替えを済ませ浜に下りれば、すでに着替え終わっていたお兄様たちが手持無沙汰に柔軟をして待っていた。
声を掛ける前にこちらを見つけたお兄様たちが一瞬固まったのは、少女たちの水着姿に目を奪われたからでしょうね。
眩しいでしょう!私も周りが眩しい。まず先に鏡を見た時は目が潰れるかと思ったけどね。深雪ちゃんボディぱないっす。
「おっまたせー」
「おー待った待った」
「こういう時くらい待ってないぐらい言ったらどうなのよ。そんなんだからレオって呼ばれんのよ」
「おいそりゃどういう意味だ!?」
「そのまんまの意味よ」
さっそく始まりましたね、ケンカップル代表!
水着同士なのに自然に会話できるなんて、二人のコミュ力は半端ない。
そして吉田くんは肌が白いから赤くなるとすぐにわかっちゃいますね。
天然娘の美月ちゃんが心配して傍に行ったけど、明らかなる逆効果!だけど瀕死になりながらも水着姿を褒めたのは紳士だと思うよ。美月ちゃんにも効果抜群だね!
二人して茹で上がりのタコさんになって座ってしまいました。
ほのかちゃんは果敢にもお兄様アタック!勢い余ったのでちょっとお兄様がのけぞっている。珍しい姿勢だ。
「青空と砂浜があると、より魅力的に映るわね。可愛いわよ、雫」
「深雪も。いつもは綺麗が勝ってるけど今日は可愛い」
「ありがとう」
はぁ、可愛い。語彙力なんて初めからなかった。
どうしてお兄様と血が繋がっているのにこういうところは似ないのか。
もっと言語力身に付けないと。…違うか。知識量はあるのです。だけどこういう時になってしまうと溶けてなくなってしまうの。だってオタクだもの。
さて、そろそろ皆のところにでも、と思ったら西城くんと吉田くんが海に入っていくところだった。
「遠泳に行くんだって」
あら。元気が有り余っていることで。
吉田くんはこの場に居辛かったからだろうけど、まあ魔法師も体が資本ですからね。鍛えることは悪くない。
「達也くんはいかないの?」
パラソルの下で腰を下ろしていたお兄様に、エリカちゃんがちょっかいを掛けに行った。
あの姿勢で屈めばまあ、いわゆるグラビアポーズよね。世の男性が見たらお兄様に呪いの念をぶつけそう。
流石男所帯で育ったエリカちゃん。わかっててやってる。
そこに参戦するはほのかちゃんだ。こっちはたぶんエリカちゃんもライバル?と焦っての行動であって、そうした意図は無さそう…いや、微妙にしなを作ったな。女子高生でも女は女ですか。いいよいいよー。
そこに何も考えていない天然娘美月ちゃんも参戦だー。すごいね、重力と質量を感じます。あ、エリカちゃんがちょっと気づいて体を起こした。
この猛攻に耐え切れなかったのか、お兄様はついに立ち上がる。
「そうだな、俺も泳ぐか」
お兄様が羽織っているのはそのまま着て泳げるパーカーだ。
その目的で買ったものなので脱ごうともしない。
「達也さん、脱がないの?」
でもまあ疑問に思うよね。こんな暑いんだから。しかもこれから泳ぐって時にパーカーを脱がないのは不自然だ。
「まあこんな美少女たちの前で脱ぐのは恥ずかしいって?」
挑発的なエリカちゃんに、お兄様は反応に困っていた。
断る言葉はいくらでもあるだろうけど、ごめんなさい。この機会を私は利用する。
「兄さんは、私を気遣ってパーカーを脱がないの」
「深雪」
「私が気にしちゃうから。でもね、私のことは大丈夫だから。私ももう幼くはないのよ。狼狽えたりしないから」
空気を邪魔しちゃうかな、と思わなくもないけどお兄様のことを知ってもらう機会でもあるから。
お兄様はちょっとだけ制止する声を出したけど、そもそもお兄様も着たままだと暑いだろうしね。
周りが気にするから脱がない方がいいっていう理由なら、彼女たちは確かに怖がるかもしれないけれど、お兄様を知らないわけじゃない。怖がるとしてもそれは一瞬だ。
…でもだからといって、優しいお兄様が傷つかないわけじゃないのだけれど。
(私は自分勝手だな)
自分の価値観を周囲に押し付けて、自分の思い通りにしようとしている。
お兄様は私をじっと見つめて、ため息を小さくついてからジッパーを下ろしてパーカーを脱いだ。
そして現れるのは彫刻のように鍛え抜かれた実用性しかない筋肉と、明らかに尋常でない無数の傷跡。
皆が息を飲むのがわかった。でも悲鳴が上がらなかっただけ彼女たちはすごい。
そしておそらく私の言った言葉を都合よく解釈してくれたはずだ。
(この傷の数々は過去、私を守るために付いたのだと)
それならば拷問のような跡も意味を変える。
家の事情など誰も問うことはない。
しかし――久しぶりに見るお兄様の上半身に、さっきはあんなことを言ったけど内心は狼狽えている。狼狽えまくっている。
…相変わらず芸術作品ですねーお兄様。うん、昔見た時より洗練されたボディにおなりになられて。
傷跡に思うところがないわけではない。もちろん胸は軋むように痛むけど、その反面――マッチョだ、マッチョやばい。
彫刻家がこぞって作る不必要な筋肉をそぎ落としたこの姿こそ、真の芸術だと私は思う。すまん。オタクは情緒が簡単に分裂するし、狂ったように対象を崇めてしまうのだ。
もちろんお兄様の悲惨な過去を知っている身としては、傷跡一つ一つが憎らしく、苦しくもなる。
傷は男の勲章と言うが、お兄様のこれはそういうものじゃない。拷問と言う名の修練と、鍛錬によって形成されたものだ。
お兄様にとってこれらの傷痕がいいもののはずはない。
だからこうして晒す行為など考えられなかっただろうけど。
だけどね、この肉体美を褒めずにいられるだろうか?いや無い。むしろそれだけの血の滲む努力をした体をなぜ崇めずにいられようか。
かっこいい。すき。
このときめきは止めようがなかった。
「深雪、深雪」
「え、なに、雫?」
「漏れてるよ」
「何が?」
ちょっとトリップしていたのを雫ちゃんが肩を叩いて目を覚ましてくれた、んだけど…。
周囲を見回すと皆がこちらを見ていた。
え、と?
あれ?この場面って皆お兄様の体の傷を見て驚愕する場面よね?なぜ私が見られているの?
はて、と正面のお兄様に視線を戻す。
相変わらずパーカーがオフした状態は美しい彫刻で、引き寄せられるのを何とか引きはがして顔を見れば――え?なんでそんな驚いた表情で固まってるの?
「深雪もしかして筋肉フェチ?」
「……え!?そっ、なんでそんな?!」
「深雪ぃ、アンタ口に出してたわよ~」
突然の雫ちゃんの発言に動揺していたら、いつの間にかエリカちゃんがニヤニヤしてこちらに近寄ってきた。
怖い!何!?私何かやらかしたの?口に出してたって――え、まさか…
「あ、の…まさか私…」
せめて、と思って美月ちゃんを向く。
美月ちゃん天然だけど嘘はつかないし、揶揄ったりもしない。
急に自分に視線を向けられてびくっとする美月ちゃんだけど、どうしてか頬は赤いですね。日差しに当たりすぎたかな?
「あ、あの、…かっこいい、って言ってました…」
怯えながらも答える美月ちゃんは可愛いのだけど、…嘘でしょう?
(……そんな。とんでもない自爆を私が…?)
思考が動き出さない。
直前私は何を考えていた?
確かお兄様の体の傷のことと、
「あと好きって言ってたわね~。深雪ちゃんったらブ・ラ・コ・ン!」
………終わった。
エリカちゃんが全力で揶揄いに来ているのは、おそらく直前の空気の悪さを払拭するためだね?
うん、大丈夫だ。頭は再稼働を始めた。
っていうかお兄ちゃんの恋人に文句言うエリカちゃんにブラコンと呼ばれるの?私も呼び返していい?
だけど悲しいかな、頭は動けど口どころか表情も体も動かせません。機能が停止しています。
むしろ脳と心臓が動いているだけ奇跡だね。
おーいとエリカちゃんが目の前で手を振ってるけど、ごめんね動けないの。
ちょっとこれまずいんじゃない?と雫ちゃんがおでこに手を当てる。きもちいね。あと柔らかい。ご褒美です?
もしかして熱中症じゃ!?って美月ちゃん、まだ浜に出てそんなに経ってないですよ?さっきまでジュース飲んでたでしょ。
あれ?ほのかちゃんは?と思ったらなんかあらぬ方向を見て固まってますね。ん?よく見ると口が動いてるけど…私の名前とお兄様の名前以外読み取れないですね。
もうちょっと目を細めればよく見えるかしら、と考えていれば急に暗くなった。雲が出てお日様が隠されたのかなと視線を上げれば――お兄様ですね。
(あ、だめだ。これは――)
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脳内に昔懐かし容量パンパンのパソコン画面のポップが思い出された。
それが最後の記憶だった。
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