妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
深雪視点
はい死んだー。死にましたー。
自爆もいいとこですよ。なんです?お兄様にうっかり筋肉最高かっこいい好きなんて頭の悪い発言をするなんて信じられない。
ようやく体を起こせるようになって背中に敷いていたというお兄様のパーカーで顔を隠しながら蹲る。
「深雪さん?大丈夫だから」
くすくす笑うお兄様が慰めようとしてくれるけど何一つだいじょばない。
これぞ世に聞くいっそ殺せというヤツか。一思いにやってほしい。
墓穴はここに掘ればいいですか?
オタクはしょっちゅう後悔がリセットされるので同じ過ちを繰り返しやすい。本当に困る。
「しばらくエリカからは揶揄われるかもしれんが、その時は背中でも何でも貸してやるから」
あああその問題もあった!エリカちゃんニヤニヤしてたもんね。絶対揶揄われる。
でもその時には秘儀ブラコン返しが待っているからね!大丈夫、今度こそ決めてみせるから。
「……お兄様は、その、聞いて、しまわれたのですよね?」
ちらり、とパーカーから顔を覗かせて訊ねればいい笑顔。はい。間違いなく聞いてますね。
ガバッとパーカーを被りなおす。
ううう、日陰にいるはずなのに全身が熱い。もう、もう!私のおバカ。
「嬉しかったよ。深雪が全然怯えないどころか、褒めてくれたこと」
お兄様が!追い打ちを!!かけてくる!!!
喜んでもらえたなら嬉しいし、お兄様に怯えるなんてありえない。でもね、でもね!不可抗力だったんです。その誉め言葉は!!
「久しぶりに好きって言ってくれたね」
その言葉に今度は別の意味でドキッとする。
べたべたしすぎには気を付けようと、少しずつ減らしていこうとしていたのだけど、もしやお兄様気にしてらした?
だとしたら申し訳ない。こちらの勝手な都合で増やしては減らすのだからひどい行為だ。
「それは、その…もちろんお兄様を好きでないわけじゃないのですが、」
「その言葉が聞けて安心したよ。疑ったわけじゃないけど寂しくはあったからね」
パーカーを下げればお兄様のしょんぼりした眉が!
「っごめんなさいお兄様!もう子供ではないからあまり言いすぎるのは、と」
「そうだね。深雪はもうこんなに大きくなったのに、俺もいつまでも子ども扱いをしてしまった」
「お兄様…」
確かにお兄様はとっても甘やかしてくれていた。
…ただあれらって子ども扱いだったかなと思うものも多々あるような気がひしひしと…。
でもハグやら頭を撫でるのは確かに子ども扱いよね。
これなら頓挫しかけた普通の兄妹の距離感取り戻そう計画がうまくいくのでは?ふれあいを徐々に減らしていこう作戦!
確か当初は考えていたのに九校戦やらが忙しくて全然実行できていなかった。お兄様からの発案なのだから、今度こそきっと上手くいく――
「いつまでも可愛い妹には変わりはないから、可愛がることは許してくれよ?」
…。
それは、嬉しいのですが…つまり?
お兄様が徐々に前に倒れてくる。そしてパーカー越しに抱きしめられた!
!背中に回される腕がむき出しだからいつもと感じが違う!
おおおお兄様!?
「心配した。目の前で倒れられるとそれだけで心臓が止まるかと思ったよ」
耳元で吐息交じりに囁かれる。
頭ではすぐに謝らなきゃ、と思うのに体が硬直して動かない。
背に回された手がするりと背を撫でる。
胸の前ではパーカーを握りしめている腕があるので密着はしてないのだけど、猛烈に恥ずかしい!
「あ、あの、お兄様っ!」
「俺もお前が好きだよ、深雪。もし恥ずかしいなら慣れるまでいくらでも付き合うから。だから今後一切無しなんて寂しいことは言わないでくれ」
ま、まって!それだと作戦が!計画が!!
「頭を撫でるのも抱きしめるのも子供だからじゃない。深雪だからするんだ。お前が頑張ったら労いたい、それは大きくなってもおかしくはないだろう?」
いえいえ十分おかしいですよお兄様!正気に戻って!もしや熱中症!?頭が働いてないのでは?
抱きしめられたままの体も熱いし!どれくらい時間が経ったかわからないけど、ずっと傍にいたのなら、何も心配で喉を通らなくて水分を飲んでなくてもおかしくない。
「それくらいは許してくれないか?」
それ許しちゃったら計画台無しなんだよねぇ…っ!でもお兄様からのお願いを、私がどうやって突っぱねられるというのか。
「…お兄様はずるいです。私が断れないってわかってるんでしょう?」
「そんなことはない。いつだって決定権は深雪にある」
……本当にお兄様はずるい。そんな寂しそうな笑みで言わないでほしい。
何でも許すしかなくなってしまうじゃないか。
「それはお兄様の幸せに関係する?」
「大いに」
なら、しょうがない。
「お兄様の幸せの為なら、妹の私が叶えないわけにいかないじゃないですか」
「ありがとう。優しい妹をもって俺は果報者だな」
「もう、すぐ調子のいいことを言うんですから」
「お前が煽ててくれるのだから木にだって登ってやるさ」
どの木がいい?と私の顔を覗こうとするお兄様のおでこをよく母にされたようにぺちん、と叩く。
「その前に離してくださいませ。お兄様には熱中症の疑いがございます」
「そんなことはないと思うが」
「おかしなことばかり言って。きっと水分が足らないのです」
わざとらしく首を横に反らすと、お兄様はようやく体を離してくれた。
…熱かった。真夏に浜辺で抱き合うものじゃないね。夜だったらまだ涼しいかもしれないけど、日中はやるもんじゃない。
「お兄様のせいで汗をかきました」
「なら海で泳ごうか。皆が待ってる」
そう言って立ち上がったお兄様が手を伸ばしてくれて、しっかりつかんで立ち上がる。
立ち眩みもなく、熱もない。
「お兄様一応、念のため、誤解が無いようにお伝えしますが」
そうだ。これだけは伝えねばなるまい。
「私は別に筋肉フェチではありませんからね!ただお兄様の実用的な筋肉が、肉体美が素晴らしかったからかっこいいと申しました。…勘違いなさらないでください」
「それは、…うん。安心したよ」
私は別に筋肉なら何でもいいわけではないのだ。
そこだけは誤解無きように!
――
はい、と言うことでですね。
揶揄われるよりも先に心配の大合唱をいただきました。
心配させてごめんね。
そしてエリカちゃん。私は先に釘を刺すことにしたよ。
「私とエリカはブラコン友達ね?」
肩に手を掛けて耳元で囁いてやりましたとも。
エリカちゃん絶句です。
直後耳をぱあん、と勢いよく抑えましたけど音凄いよ。鼓膜破れなかった?
「あ、あ、アンタねぇ!自分のこともっと危険物だって把握しなさいよ!」
「…キケンブツ…」
真っ赤な顔したエリカちゃんに怒られました。
私危険物なんだって。
背筋がぞわってしたって、私幽霊か何か?そしてブラコンには一切触れられてない件について。
とりあえず藪突けば蛇って気づきました?よきよき。
「全くもう。揶揄うのも命懸けだわ」
…そんなに?
エリカちゃんの大げさな反応に首を傾げながら浜辺に到着。
原作ではここで水のかけ合いキャッキャからのジェット水流でお兄様を狙い撃つゲームが始まるのだけど、私がさっきまで倒れていたこともあって、ボートでゆらゆらに変更です。
いいよね。波に揺られてる感じも楽しい。
というか、恐ろしい水流でお兄様を狙い打つって…当たらないと思っているからできた遊びなんだろうけど、はたから見るとただのいじめ行為では?
せめて水鉄砲レベルにすれば可愛いお遊びだっただろうに。
美月ちゃんは酔うかも、と言うことでパラソルに戻っちゃいました。私も行こうかと思ったのだけど、そうすると多分お兄様もついてきちゃうので、ほのかちゃんの大作戦が始まらなくなってしまう。
それではイベントが発生もなくなってしまうから。
かといってその大作戦、成功しても可哀そうなことになるのだけど、そこはまあ、ね。
得られるものがあればいいじゃないってことで。
お兄様はちょっと離れた沖でぷかぷか浮いている。アレも楽しそうね。
しかしこんな小型のボートがどうして転覆なんてするんだろう?波も穏やかなのに。
魔法か何か?と思ってたんだけど、ちょっと場所を移動しようものならバランスが悪くなった。
体幹鍛える用のボートでしょうか?ってくらい揺れる。そんなものがあるなんて知らないけれど。
「なかなかバランスとるの難しいわね」
「それはエリカが態と揺らすからでしょ」
「そう言う割に深雪はバランス良いのね」
「体幹トレーニングは昔からやってるから」
ちょっとやそっとのバランスでは体を崩したりはしませんとも。
エリカちゃんもバランス感覚いいね。運動神経抜群の剣の達人だ。
いつかその剣を振り回すところが見てみたいけど、意外とエリカちゃんと行動すること少ないのよね。
現にまだ使っているところに遭遇したこともない。というより原作でもそんなシーン覚えが無い。森崎くんたちの一件はカウントに入るかな。
…まあどっちにしても争いごと自体無いに越したことはないんだけどね。
単なるファン心です。
なあんて話しながら、いつの間にかどこまでバランス耐えられるかゲームが始まっていました。エリカちゃんずるい。
雫ちゃん達はボートの縁に掴まって水の中へ――ってこれ逆じゃない?もしや私がさっきまで倒れてたから水中は危険扱いされてるのかな。休んでたから疲れてはないのだけど。
「うわっ!」
「きゃっ!」
その時だ。大きめの波が起きてバランスを崩させ、一方に偏っていた私たちに耐え切れずボートが転覆した!
原作と違くない?!私とエリカちゃん宙に放り出されたんですけど!
海でよかった、と体を反転させて衝撃を抑える姿勢で入水。息も吸ってから落っこちたのでパニックにならずに済んだけど、ほのかちゃん達は――いた!まずい、パニクってる。
一度浮上して確認するとすでにボートに掴まったエリカちゃん発見。
下を指差しほのかが、と言ってもう一度潜りなおす。雫ちゃんは…大丈夫だボートに影が見える。ひらひらしてるシルエットは間違いない。
なら沈んでいるのはほのかちゃんだけということになる。追いかけようと姿勢を変えたところで上から人が潜ってきた。お兄様だ。
お兄様は自分が行くから上がれと合図してきたので言うとおりに浮上する。
お兄様が来たならもう安心だ。ボートはいつの間にか正常位置に戻っていた。エリカちゃんも雫ちゃんもボートに掴まっている状態で、今にもエリカちゃんがボートの上に戻ろうとしているところだった。
次いで雫ちゃんも上がるところでお兄様が浮上。しかし――ほのかちゃんが水面に顔が上がってもパニックだ。それもそう。
彼女は今、海面の下で大事件が発生しているはずなのだから。
一瞬、天使と悪魔が脳内で見るか見ないか戦争を勃発させたけど、だめだめ。見ようとなんてしたらただの変態です。
…でも手を貸そうとして見えちゃったならそれは事故よね天使様?
…だめだ。私は正常な判断が下せなくなっている。せめてお兄様の邪魔にならないように、自分の身は自分でどうにかしよう。
――そして悲しき事件はほのかちゃんの悲鳴で幕を下ろした。…お兄様、お疲れ様です。
ラッキースケベの方も無事ミッションコンプリートです。泣いているほのかちゃんには悪いけど、――ありがとうございます。いいものを見させていただきました。合掌。
そしてやや強引であるがお兄様に一日言うことを聞いてもらう権利をゲット。
うんうん。恋する乙女の前に常識なんてルールはないからね。どんどん突き進んでくださいませ。誰も止める者はおりませんので。
途中、お兄様から助けを求める視線を受けた気がしたけれど、ごめんなさい。私も罪を償わなければならないので、ほのかちゃんの言うことはぜったーい側に付かせていただきます。
――
騒動に疲れた私たちはバルコニーでお茶をすることに。
その時になってようやく西城くんたちが遠泳から戻ってきた。
相当泳いだんだね。お疲れ様です。吉田くん、酸素入りますか?魔法で集めますよ。
「あれ?達也と…光井は?」
「あっち」
吉田くんがメンバーが足りないことに気付いて訊ねると、エリカちゃんがそっけなく指して教える。
海ではなかなか珍しい手漕ぎボートで二人はデート中だ。
だけどエリカちゃんの態度…もしやエリカちゃんも面白くない、とか?あらどうしましょう。こんなところにもフラグが。
しかしそんな空気を感じる余裕は遠泳に疲れている吉田くんにはない。
「へぇ、意外だけど…いい雰囲気じゃないか」
お。案外話せる口です?
そうだよね、いい雰囲気だよね。
美月ちゃんも微笑ましそうに観賞しているし、雫ちゃんなんて完全保護者目線で見守っている。
「どうなってんだ、ありゃ?」
西城くんは経緯が気になってるの?でもエリカちゃんが疲れたようにイロイロあったのよ、と返答。
気にはなったようだけどツッコむことなく、目の前に運ばれてきたフルーツやお菓子に目を奪われている。
うーん、すごいね西城くん。
目の前の色っぽいお姉さんのセクシーな格好よりおやつに目が行くの?私は黒沢さんのむき出しの肩とおみ足、そして白のエプロンの虜です。私たちにはまだ出せない、大人の雰囲気、最高。
「…深雪は気にならないの?」
おっと、ブラコン同盟からのご指名が。今気にしてたのは黒沢さんの魅力です、なんて冗談でも言えませんね。
「え?ああ、兄さんのこと?気にならないっていったら嘘になるけど、兄さんだって年頃だからおかしくないでしょう?」
「…年頃って、同い年でしょうが」
「そうだけど。うーん、でもそうね、兄さんよりもほのかの方が気になるかしら。――恋する乙女って可愛いわよね」
「わかります!ほのかさんとっても可愛らしいですよね」
美月ちゃんもそう思う?可愛いよね。
しかしこの答えではエリカちゃんは納得しない。
同じブラコンとしての違いに戸惑われてる?うーん。
「確かに友達と兄さんが、っていうのは複雑な思いになるのかしら?」
ただねぇ。私にとっては予定調和なもので、あまり複雑とは思わない。ほのかちゃんがお兄様を好き!これは決まっていたことだから。
そういうモノだと思っているから、むしろお兄様の恋愛フラグがちゃんと立って安心しているくらいだ。
「深雪は無理してない?」
今度は雫ちゃんだ。ずっと黙って見守っていたけどこっちの話は聞こえていたらしい。
だけど無理、とは。
「どうして?」
「…ないなら、いいの」
「そう?」
「ん」
雫ちゃんがいいなら、いいのかな?なんだか納得はいって無さそうだけど。
時折二人を遠目で眺めながら乾いたのどを潤した。
それからまたちょっと遊んでそろそろ夜に差し掛かる頃。
バーベキューコンロを囲んで皆でわいわい楽しむ。
今世初のバーベキューに私のテンションはいつもよりも高かった。
串から直にお肉にかぶりつく!もちろん深雪ちゃんの口は大きく開かないのでちょびっとずつではあるのだけど、美味しい!
「お肉、好き?」
「お肉と言うよりこういうスタイルで食べるの初めてで、この空気そのものが楽しいの」
雫ちゃんも野菜の串をかじりながら二人並んで食べる。
「あと、こうして友達とおしゃべりしながら野外で食べるなんてしたことなかったから新鮮で」
「そう」
にこにこと二人して笑っていると、エリカちゃんが割って入ってきた。
「なあに?バーベキュー初めてなの?なら雫、アレは用意されてるんでしょうね?」
アレ?
「モチ」
もち?
サムズアップして分かり合う二人。え、何々?バーベキューの定番⁇
「でも意外ですね。深雪さんならお友達から誘われることも多いでしょう?」
参加しなかったんですか、とは美月ちゃん。
純粋に気になったんでしょうね。エリカちゃんがちょっと気まずそうに身じろぎしたし、向かいのほのかちゃんにお世話焼かれて食べているお兄様も、こちらに視線を向けてきたけど、そんなに心配しなくていいよ。
「高校に入ってからなの、こうしてお友達と出かけるの。私、よく狙われるから自衛手段のない一般の子たちを巻き込むわけにもいかなくて。魔法科高校は皆魔法師だから、ある程度自衛ができる人ばかりでしょう?それに学校のセキュリティもばっちりだし。って、もちろん皆だから被害に遭っても大丈夫ってわけじゃなくて――」
「わかったわかった。わかってるから大丈夫。深雪がそんなこと思う子じゃないってことくらい皆わかってるから」
「おー。それにもし巻き込まれても実戦に勝る訓練はねぇからな!」
エリカちゃんは空気を払拭するように明るく笑い飛ばし、俺は大歓迎!と西城くんは豪快にお肉にかぶりつきながら笑って答えた。
皆も笑っている。
(…本当に恵まれてるよねぇ)
涙は出ないけど、代わりに笑みは零れる。
「ありがとう」
「どーいたしまして」
「…どうしてエリカが偉そうに答えるんだ」
「そんなちっちゃいこと気にしてるからミキなのよ」
「僕の名前は幹比古だ!ってそれどういう意味だよ」
「そのままの意味よ」
「…どっかで聞いたやり取りだなー」
そうだね西城くん。海水浴に来て早々の挨拶がそれだったね。
今日の出来事なのにもうかなり前の出来事のように感じる。それだけ今日が充実しているのだろう。
最後の〆はみんな大好き焼きマシュマロでした。
醍醐味だね!美味しい。幸せの甘い味がした。
NEXT→