妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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夏休み編⑧

 

 

食べ終わってもまだまだ夜は長い。

皆でカードゲームやボードゲームを遊び倒し、のどが渇いたから飲み物でも、と立ち上がった時事態は動き出す。

 

「深雪、よければ風に当たりにいかない?」

「いいわね」

 

お散歩のお誘いに一もなく二もなく頷いた。

お兄様がそれに気づいて動こうとしたが、ほのかちゃんに話しかけられて身動きができない隙に、私たちは部屋を後にする。

 

「ごめん」

 

唐突な雫ちゃんの謝罪は、恐らく――

 

「ほのかのこと?」

 

こくんと頷く雫ちゃん。

本当、友達想いのいい子たちだ。

別荘を出て、波打ち際まできた。

波は穏やかで、風も昼間と違ってそよ風程度。心地よい風に少し目を閉じて波音に耳を傾けた。

月明かりも十分で街頭など無くても明るかった。

これならロケーションもばっちりだ。

女子高生、真夏の大冒険。

 

「それもだけど、達也さんを奪う形になってるから」

「奪う、ねぇ」

 

奪う、と言うのは私のモノと思われていない限りでない言葉だ。

 

「これから突拍子のないことを言うけど、聞いてくれる?」

「…うん」

 

雫ちゃんが神妙に頷いたのを確認してから私は月を見上げて語る。

本当は、誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

 

「兄さんには誰よりも自由になって幸せになってほしい。これは私がずっと願っていることなの。

どうしてそんなことを、なんて思うかもしれないけど、今の私には答えられないことが多すぎて説明できない。

私たち兄妹は複雑で、あまりにも多くの思惑や柵が絡みついているから」

「…もしかしてだけど、血が繋がってない?」

 

そこは心配になるよね。

お兄様と私はそもそも容姿は似てないし、魔法だって血縁関係者は似るのが一般的なのに得意魔法が違う上、私たちは一科生と二科生だ。

 

「気にしないで。よく似てないってことは言われているから。

血は繋がってるわよ。少なくとも書類上は間違いないし、何より母がそう言っていたから」

 

私たちは正真正銘の兄妹である。お兄様が言っているのだから間違いない。

ただ、私の在り方が異常なだけ。

 

「そっか」

「逆に聞きづらいことを質問させてしまったみたいでごめんなさいね」

「ううん。こっちこそ踏み込んだことを聞いた、ごめん」

 

二人して頭を下げ合ってちょっと笑って。

ふわり、とそよ風が髪を揺らした。

 

「私が三年前に死んでるって言ったらどう思う?」

「…幽霊?」

「ふふ、違うわ。ちゃんと生身」

 

そう笑って言うと、雫ちゃんの手を取った。私の方が若干温度が低い。

 

「命が消える瞬間っていうの?徐々に失われていくのを私は感じた。死んでいくはずだったところを、死の淵から兄さんが――お兄様が救ってくださったの」

 

意識して変えた口調に、雫ちゃんは黙って目を見開いた。

 

「本当はね、いつもそう呼んでる。皆には内緒よ。

――お兄様に救われた時、今度は私が救う番だって思った。お兄様を唯一自由にできるのは私だから。

だから雫が私からお兄様を奪ってるなんて謝らないで。縛り付けている私が言うのもなんだけど、ね」

「縛り付けるって…」

「ごめんなさい。これ以上は言えない」

 

先ほどより強い風が吹く。

この空気を流そうとしてくれたのかもしれない、なんて妄想するくらいには、センチな気分になっているらしい。

 

「今頃ほのかはお兄様に告白できたかしら?」

「嬉しいの?」

「というより好奇心?ワクワクしちゃう。許されるならデバガメしたい?」

「…それはほのかも達也さんも可哀想だからやめてあげて」

 

ほのかちゃんは分かるけど、お兄様も?気恥ずかしくて気まずくなっちゃうかな。

妹に告白場面を見られたら、いくらお兄様でも気まずいか。

 

「深雪って本当に達也さんのことお兄さんとして好きなんだね」

 

そうよ、と返すつもりだったけどわざわざ言うこともない、と笑顔で返した。

お兄様たちがいるのはあちらの方向だろうか。

私の行動のせいで展開は変わってしまったりしてないだろうか?それが気がかりだった。

 

「体が冷えてきた。戻ろう」

「雫、綺麗なものを見せてくれてありがとう」

「ん。どういたしまして」

 

月夜に照らされた海はきらきらと、美しかった。

 

 

――

 

 

次の日。

熱い砂浜に熱々のカップルが!

ほのかちゃんが吹っ切れたようにお兄様にラブラブアタックしております!

いいですね。あまりの熱烈ぶりにお兄様もたじたじになってる。けど突き放さないところが優しいよね。

 

「これは成功したとしか思えないんだけど」

「朝の話だとお二人はお付き合いしていないと宣言してましたよね?」

 

エリカちゃんと美月ちゃんが首を捻って目の前の光景を見つめていた。

そうなのだ。この二人朝にとんでもない発言で私たちの度肝を抜いてくれた。

 

「実は昨日、告白したけどお付き合いできないって断られました!」

 

まずこの時点でワン度肝は抜かれた。

発表しちゃうんだね。びっくりですよ。

 

「だけど達也さんに恋人出来るまでアタックする権利を得ました!」

 

底抜けに明るいけど若干自棄が入ってる?

ここでツー度肝抜かれて。

 

「俺は恋ができないと断ったんだがな」

 

この呟きにスリー度肝引っこ抜かれたよね。

お兄様随分とオープン!言っちゃいますか、皆の前でそれ!

皆唖然としてますよ。

 

「なので全力でアピールしようと思います!」

 

スルーしたほのかちゃんは応援よろしくとばかりに宣言した。

それが今朝の出来事。

 

「で、するの?応援」

 

しばらく眺めていたエリカちゃんだったが、そろそろ見るのが辛くなったのか、飽きたのかわからないけどこちらにパスを投げてきた。

応援とは恋する乙女ほのかちゃんへの応援ですね。

 

「んー、応援はしないわね」

「え!?どうしてです?」

 

美月ちゃんにとっても驚かれた。

そうだね。昨日も見守る態勢だからそう見られるのも無理はないのだけど。

 

「だって応援したら中立じゃなくなっちゃうじゃない」

「え、じゃあ達也くんの味方もしないの?」

 

お兄様の味方って…何をしたら味方になるのかな。

別にお兄様断りはしたけど拒否はしてないし。

 

「もう子供じゃないんだから、恋愛は本人たちの自由でしょう?恋する女の子を見るのは好きだけど、応援もしたくなるけれど、こういうのって近い人間が何かしようとすると拗れる典型じゃない」

「…たしかに」

「深雪が入ったら拗れるわね」

 

納得いただけたようで何よりです。

 

「さ、私たちも遊びましょ。私あれにチャレンジしたいの。砂に埋めてもらうアレ!」

「ド定番だけど地味に辛いヤツ」

「あれって罰ゲームなのかと思ってましたけど」

 

お兄様がいたら多分させてもらえないだろうから。

リクエストしたら皆ノリノリで埋めてくれました。

でもおっぱいはつけてくれなかった。まあ女の子にはつけないか、アレ。

そんなこんなで二泊三日はあっという間に過ぎ、宿題も勉強も無事に終わって最高の夏休みを過ごした。

 

 

 

のだけど。

 

「…お兄様?」

「おにーさまー」

「お兄様、そろそろ」

「あとごふん」

 

わあ珍しい。お兄様のひらがな表記。

玄関開けたらお兄様が引っ付き虫になりました。ストレスと疲労が溜まったのか、はたまたこの休暇後の皺寄せの仕事の為のハグの前借りか。

でも五分って。もうすでに経ってますよー。

 

 

――

 

 

夏休みも残すところあと二日と迫った頃。私は一人、届いたモノを胸に抱いてくるくる踊っていた。

 

 

突然失礼しました。

あまりの嬉しさにちょっと、ね。舞い上がってしまいました。

お兄様は外出して今日は遅くなるとのこと。つまり一人でしかもオフ!やることはひとつ――そう、ぬいのお洋服作製!

なんだけど、今まで一人で楽しんでいただけなので、急いで作る必要も無くちまちま手縫いで作業していた。

だけど気付いたのだ。文明の利器を使えばもっと作業は効率化できるのではないか、と。

…気づくのがどう考えても遅いよね。

でもね、ミシンって骨とう品みたいなもので、学生がおいそれと手を出すのもな、って感じだったんですよ。

個人用なんて今や使う人なんてほとんどいない。なぜならもっと優れた機能のミシンを貸してくれるお店があるからだ。

店舗に行って型紙からオートで選んだ生地と糸でぱぱっと作ってくれるのだから皆それを利用する。つまり家でちまちま裁縫をするのは珍しいのだ。

多分それを使えばこんな服も一瞬でできてしまうのだろうけど、この趣味全開のモノをいくら個室だからと言っても人様に見られる可能性があるような場所で縫えるわけがない。

というか、こんな小さなお洋服縫っているなんて変に思われるに決まっている。

なので地道に家でこそこそ縫っていたのだけど、これが今や一人の趣味ではなくなってしまった。

顧客を得てしまったことでお仕事になってしまったのです。

そしてここにそのスポンサーの叔母様からのお手当があるのです。…たんまりと。

これをいつ使うのか?今でしょ!九校戦の衣装の納期が迫っています!!…とまあ、こんな流れがありまして。

その納期も自分で設定しただけなんだけどね。催促なんて来てません。

一応一か月くらい見積もってもらっているので間に合っていたのだ。

だけど今回は何と言っても種類が多い。

スポーツウェアにスタッフジャンパー、ミラージパッドとピラーズブレイクの衣装にお兄様一科生バージョン。

最後の以外は二着ずつ必要なのだ。…やることが、多い。

今まで何をしていたんだと思われるかもしれないだろうが、生地選びと小物の準備で手一杯でした。

素材は拘りだすと終わりが見えないものなのです。

そして今日!お兄様のいない今!待望のミシンが届き、これから作業に入る。

今日は絶対部屋から出ません。もしお兄様が早く帰られてミシンを使っているところを万が一見られでもしたらと思うとぞっとする。

けして見られてはいけません。鶴に戻ってしまいます。

飲み物と軽食を持ち込んで準備は万端!

 

「うふふ~、楽しみ~」

 

百年経てばミシンも軽くなるが、性能はほとんど変わりがない。おかげで一から使い方をマスターせずに済むのはありがたい。

どれから縫っていこうかな?楽しみ。

なんて気楽な気分だったのは最初だけ。

 

「わあああ!楽しい!楽!!こんなに早く進むの?すごい!!」

 

テンションが爆上がりしました。

手が止まらない!楽しい!!

いつもちまちまちくちくやっていたけれどミシンはすごい。流石百年経ってもほぼ変わらない便利道具!素晴らしい。

気が付けばあっという間に頼まれていた分も、自分の分も終わっていた。

あれ?ご飯って食べたっけ?お腹すら空いていなかった。と時計を見ればもう夕食時だ。まずい。

お昼をスムージーだけで済ませてしまった。深雪ちゃんの美は一日にしてならず!ご飯を食べてお風呂に入ってしっかり柔軟しなくては。

一応机の上を全て片付けてから一人夕食を食べにリビングへ。今日は一人なのでHAR任せです。

 

(九校戦の服は一通り作ったから満足だけど、次は何作ろうかな)

 

現実にある服を着せ替えるのも楽しいが、たまにはファンタジーにもチャレンジしたい。

 

(八雲先生とお揃いの作務衣とかもいいけど、ナイトって呼ばれてるんだから騎士風衣装も捨てがたい。そしたら深雪ちゃんにはプリンセス衣装?どんなプリンセスドレスがいいかしら)

 

ご飯が食べ終わってもお風呂の中でも想像は膨らむばかりだ。

 

(夏休みは明日までだし、ちょっぴり夜更かししちゃおうかな)

 

お兄様からのお電話では何時に帰宅するかはわからないとのことだけれど、ちょっとくらいは許してくれるだろう。

まずはデザインを決めないと、とスケッチブックを取り出して形を決めるところから始めた。

そしてミシンのターン。

もしかしたら私はミシンを使うと人格が変わるタイプなのだろうか。そんなの聞いたことがないけれど。とにかくテンションが上がる上がる。

たたたた、とかすかに聞こえる音と振動は百年前とは違うけど、これはこれでいい。

煩くない分、作業に集中しやすい。

おかげで形はほぼできた。あとは装飾だ。おおざっぱはミシンでできても、細かい作業はやはり手縫いでないとできない。

ミシンをしまって針箱を――と手を伸ばしたところで部屋をノックする音が。

この家でノックをする人は一人しかいない。

まさか、と時間を見れば午前二時を回っていた!

 

「――深雪、起きているのかい?」

 

小さな声なのは寝ているかもしれないから起こさないようにという気遣いか。

どんな時でも部屋の中は覗かないでいてくれるお兄様。ありがとうございます。

机の上に何もないことを確認してからドアを開ける。

お兄様は帰ってきたばかりなのか、服は外着のままだった。

 

「おかえりなさいお兄様。ごめんなさい。熱中しててお出迎えもせず」

「ただいま深雪。それはいいんだ。だけどこんな遅くまで起きていたのが心配でね」

 

電気がつけっぱなしだったので気にしてくれたようだ。

 

「明日はゆっくりする予定だから、たまには夜更かしもいいけれど、」

「…こんな遅くまでするつもりはなかったのですが、時を忘れてしまったようです」

 

恥ずかしい。時間を忘れるほど熱中していたことが。せめてタイマーでもかけておけばよかった。

 

「珍しいね。深雪がそんなに熱中するだなんて。何をしていたか気になるところだけど、今日のところはもう遅い」

「はい。私ももう寝ようと思います。お兄様も夜遅くまでお疲れ様です」

「うん、おやすみ」

「おやすみなさい」

 

……もう、寝よう。明日はお兄様とゆったりまったり過ごす予定なのだ。寝不足で予定を狂わせるなんてよくない。

 

 

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