妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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生徒会選挙編②

 

 

さて、と。恐らく間違いなければ――だけど。

 

(…どういうわけか、四葉が動いている)

 

あの名前には見覚えがあった。

四葉の抱える工作員の名だ。主に情報操作に回る諜報グループの一人。出版社に勤めていたとは知らなかったが恐らく間違いない。

お兄様はご存じだろうか?おそらくだけど四葉との関係には気付いたかもしれない。

 

「そういえば達也くんが立候補するんじゃないかって噂聞いた?」

 

七草会長が明らかに楽しんでいますとばかりに弾んだ声で尋ねる。

お兄様のネタは先輩にとってのいい娯楽のようですね。

 

「ええ。私も相談されましたが、二年の間にも広がっているみたいですね」

 

あら、市原先輩はそういったことも後輩からお話が来るとは、年下から慕われてますね。頼りたくなる素敵な先輩だものね。

…クールビューティーだから会長より親しみは無いように見られやすいと思うんだけど、誠実さがね?ってことかしら。

七草先輩、渡辺先輩とセットで愉快犯みたいなところあるから。

 

「一年生の間でも、特に二科生の間では有名のようですね。期待されているようで兄さんが困ってました」

「あら困ってたの?そのまま立候補してくれればまた一高の歴史が変わって伝説になれるのに」

 

そんな伝説お兄様は嫌がるでしょうね。

市原先輩も同じ考えなのか半目になって会長を見つめていた。

 

「深雪さんが応援したら確実に当選するわよ」

 

私に水を向けてきたけれど、無理ですよ。

 

「兄さんが生徒会長になりたいのであれば応援もやぶさかではありませんが、そんなことしては勉強の時間が取られてしまいますので、立候補はしないでしょうね」

「勉強って、あれだけ頭いいのにまだ知識を詰め込もうというの?!」

「そちらを応援しているので生徒会は諦めてください」

 

きっぱり言うと七草会長はべたっと机に倒れてしまった。

そして市原先輩の檄が飛び、中条先輩がびくっと体を震わせて――いないのでした。

ここ数日、中条先輩は生徒会室に来なくなっていた。

立候補を勧められるのが嫌なのだろう。

服部先輩には正当な理由があるが、中条先輩は自分に生徒会長なんて役職恐れ多い、と思っている節があったから来づらいのだ。

 

「七草会長は中条先輩になってもらいたいのですよね?」

「それは、もちろんなってくれたらこんないいことはないわ。彼女にはいろいろ目を掛けてきたから」

 

つまり最初から次期生徒会長として育成していたのか。

なら、初めから彼女が生徒会長になるのが筋なのだろう。

帰宅時間、お兄様が迎えに来てひと悶着あったのだが、七草会長がバッサリ断られただけなので何事もなかったように帰宅した。

 

 

 

私はすぐさま専用回線で叔母様にメールをしたためた。

お兄様も知らない特別回線だ。この家でどうやってお兄様に知られずに?なんてわかるはずもない。四葉、隠匿は得意中の得意なのだ。

数日のうちに連絡が来ればいいかなと送ったメールに、まるで予期していたかのようなタイミングで返事が届いたのは、夕食の準備に向かう直前だった。

…もしやカメラでも仕掛けられてはいないだろうか?

あまりにタイミングがばっちりで疑いたくなるが恐らく、多分、それはない、と思う。…なんでこんなにはっきり断言できないんでしょうね?四葉って不思議。

さて、返信ですが――ああ、やっぱりそういう?いざという時の手の回しようが本当にすごいですね。

 

「出版しても問題ないとのことです」

「もう本家から連絡が来たのか?」

 

夕飯を囲みながら切り出せば、お兄様は少し驚いた声を上げた。

そうだよね。本家って忙しくて連絡なんてそんな簡単に取れるわけないのにね。

 

「すでに手は回しているそうなので、権利を誰も奪えないようになっているそうですよ」

「つまり何かに利用されそうになったり、俺たちの名が表に出ることはない、と?だが一高生徒はどう対応するんだ?口を閉ざすのは無理がある」

「それについても、出るとしても司波なので。それに恐らくなのですが、もし四葉とばれた場合の予防線に使うのでは、と」

「…予防線、になるのか?」

 

お兄様は疑念を抱いているようだが意外にこういったイメージ戦略って地味に効いてくるのよね。

 

「実際一高ではお兄様の心象操作に多大な影響を与えてますからね」

「そんなものか」

 

理解しづらい心理戦にお兄様は首を捻るが、こればっかりは理屈での説明は難しい。

とりあえず明日先輩にOKを出すということに決まった。

 

 

――

 

 

そんなこんなであれから一週間、学校内では前代未聞の一年生の二科生が生徒会長になるのではとの話題で盛り上がっていた。

流石に一年生はないだろう、というのが大半の意見だが、なったらすげーな、と他人事で楽観視する者もいた。

そこまで否定的なものはなかったが当然面白くないという輩は一定数居るわけで。

お兄様もうんざりして噂の原因を突き止めようとしたが、4月の一件を知る教諭方に賛成派が多いことも手伝ってこの噂の信ぴょう性を高めてしまったらしい。…故意に噂を広めている人もいるみたいだけど。

そしてこの日、七草会長がお兄様の教室へ訪れたことで事態は動き出す――。

 

「中条先輩を説得する。ついてきてくれるか?」

 

お兄様からお誘いを受けました。

もちろん、とお兄様に連れられて上級生の教室へ。

噂の影響で思いっきり視線を浴びたけど、それくらいで怯む私たちじゃない。

中条先輩は青い顔をしながらお兄様に連行され――うん、説得という名の脅迫を受けているようにしか見えないね。

お兄様の迫力のせいだけではなく、中条先輩の怯えっぷりがそう見せてるだけなんだけど、すごい。小動物いじめてる気分。

そんな中でもお兄様はいつも通り、怯えられていることを気にしていないとばかりに特大の餌を彼女の前で吊るした。

FLTの飛行デバイスのモニター用試供品だ。

見事な釣り上げです。一本釣り大成功。中条先輩のやる気は一気にマックスまで上がり切った。

だけどね、これだけは勘違いしてほしくないから。

 

「中条先輩が生徒会長になることを、私はおかしいとは思いません。

だって先輩はいつだって和を重んじて、争いにならないようにと働きかける優しい先輩ですから。

七草会長を間近で見てきた先輩は気後れしているのかもしれませんが、会長と同じことを求められているわけじゃないんです。

中条先輩らしい会長であることを皆期待しています」

「…私、らしい?」

「中条先輩だからこそ、できる会長の形です。それはもちろん服部先輩にもできないこと。どうか、自分なんてと言わないでください。先輩を慕う一人の生徒としてお願いします」

 

頭を下げると先輩は慌てふためくけど、最後にはわかった、と言ってくれた。

 

「そこまで言って貰ったのにいつまでもうじうじしちゃダメだよね。ありがとう、私、頑張る!」

 

気合を入れる先輩の目にはデバイスだけではない何かが映っていた――と思いたい。

 

 

 

「中条先輩のこと、そんなに慕っていたのか」

 

帰り道、お兄様のつぶやきがこちらです。

 

「中条先輩あんな可愛らしい見た目からは想像つきにくいかもしれませんが、仕事の処理能力が高いんですよね。それでいて癒し系なんですから、一緒に働きたい上司ランキングのトップに食い込むのではないかと」

「…ああ、そんなランキング聞いたことがあったな」

 

何でもランキングにする文化も廃れていなかった。

日本人、百年文化をガラパゴスしてた説。

 

 

――

 

 

準備は順調に進み、選挙も迫る頃、お兄様はやっぱりというか、渡辺先輩からの極秘任務を受けていた。

風紀委員じゃないのに何でそんなに接点が生まれるのですかね?お兄様は放課後を図書室に籠って過ごしているのだから校内をぶらついていないはずなのに。

もしかして私が知らないだけで、フラグ乱立してました?ミニクエスト攻略中です⁇

というわけで会長を誘って三人で帰宅中。

いやあ、お兄様ったら臆面もなく皆の前で七草会長のこと美少女っていうモノだから驚いてたよね。

言われ慣れているはずなのに。会長しっかりと撃ちぬかれてましたよ。

でもそれをおくびにも出さないようにして、護衛でも頼まれたんでしょ、なんて憎まれ口をたたく会長。うーん、つんつん頑張ってますね。

そして話は会長の一人帰宅の理由について。

想像通り、周りを巻き込まないためでした。

 

「私のボディーガードはこの先の駅で待ち合わせてるの。連れ立って歩くのってなんだかお嬢様って言ってるみたいでちょっと恥ずかしくて」

 

一応自衛はできるしね、と見せられたCADは待機モードですぐさま対応できるようになっていた。

 

「だから駅まで、ということですか。――ですが、どうしてそれを俺たちに?」

 

渡辺先輩も知らない情報を私たちに教えたことに疑問をぶつけるお兄様に先輩は笑って答えた。

 

「達也くんと深雪さん、二人と一緒に帰りたかったから、かな」

「私も、ですか?」

 

ついそう出てしまうのは、お邪魔虫じゃないかなという思いがあったから。

 

「去年の秋に生徒会長になって、最初の半年もそれなりに充実してたけど、この半年は私にとっては本当に充実した時間だったから」

 

どれほどの意味が込められていたのだろう。

半年を振り返った会長の顔はとても、本心から充実していたといわんばかりで――

お兄様に眼差しを向けて、

 

「そして、それはきっと、二人のお陰だと思うから」

 

とても美しい笑みを浮かべられて言った。

たった二つしか違わないのに大人を感じさせる年上の笑み。

 

「…過大評価だと思いますが」

 

お兄様のささやかな反論に、しかし会長はお見通しと言わんばかりに噴出して。

 

「最近分かってきたけど、達也くんって照れ屋さんよね」

 

(わああああ!すっごい!!私今ラブコメ世界を目の前で!)

 

スチルが見えました。BGMもキラキラしたものに変わった気さえします。フレームはピンク色!

胸が大いに高鳴っております。大興奮。

七草会長は堪えきれないとばかりに、けれどお嬢様の品を欠くことなくコロコロと笑う。

 

「そ、そーいうところは年相応なのかな?時々年齢を十歳くらい誤魔化してるんじゃないのかって感じることもあったんだけど」

 

ここで飛び切りの笑顔で言うのだ。

 

「…あーちゃんも、はんぞーくんもとってもいい子たちだけど、貴方たち兄妹はきっと私の高校時代一番の思い出になる素敵な後輩だから」

 

…これはオチますわぁ。久しぶり、素の私。落っことされたね。沼に。

これが大抵の我侭も許せちゃう美少女の笑み。恐ろしい威力です。

イイもの見せていただきました。と心の中で拝みつつ。

やっぱりお兄様にはこういったラブコメ要素は外せないね。お兄様を照れさせることのできる先輩の存在は大変貴重。大事にしていきたい。

そして駅に到着してお嬢様をお迎えに来たのは、これまた設定もりもり老執事風のイケオジでした。

服の上からでもわかるしっかりした体格は今でもバリバリ現役だとわかる。気配こそ静かなのがまたそっちのお仕事も担当されてます?と疑いたくなる佇まいだ。好きです。

更に数字落ちを臭わせるところも過去が闇深そうで美味しさ二倍。お兄様を悩ませる存在ではあるけれど、オタクは軽率にキャラをもぐもぐ美味しく食べようとします。

帰り道、お兄様はやはりそちらに思考を奪われているようだった。

邪魔しても悪いので私も静かに並んで歩く。

玄関に入るまで無言だったお兄様が手を掴んできた。

はて、なんだろう?とお兄様の顔を見るとお兄様も不思議そうな顔。

 

「お兄様?どうされました?」

「…いや」

 

もしや無意識に?いろいろ考えることがあってストレスにでもなっているのだろうか。

とりあえずハグします?とばかりに空いた手を広げると、お兄様にはすぐに通じて掴んだ手を引き寄せる形で抱きしめられた。

 

「おかえりなさい、お兄様。今日もお疲れさまでした」

「深雪も、付き合わせて悪かったね」

「私も会長と帰れてよかったです」

「そうか…」

 

ううん?そんなに名倉さんの存在ってお兄様をぴりつかせる話題だったかな。

十師族と数字落ち。血統による能力の優等生と劣等生。この差別も根深い。だからだろうか。

 

(もしかしてお兄様は七草会長を心配している、とか)

 

恋愛脳がそちらにまで手を伸ばしてくるが、たとえそうだったとしても、それだけではないだろう。

 

「心配事ですか?――七草会長が無事帰れているか」

「それは心配ないよ」

「では、護衛の方が気になりますか?」

「…深雪には敵わないな」

 

ぎゅっと抱きしめられて少し苦しいが、そんな素振りは見せずにお兄様の背に、繋がっていない方の腕を回す。

 

「俺が気にするようなことではないと思うがな」

 

ぽつぽつと語るお兄様に相槌を入れてようやく思い当たる。

――どんな意図があってわざわざ十師族直系の娘に、欠陥品扱いを受ける数字落ちをボディーガードとして傍に置くのか。

お兄様はこのことを気にされていたのか。

闇は深く、複雑に絡み合っていて下手に手を触れることができない。

その夜は早く寝た。

お兄様は起きているかもしれないけれど、一人で考えたい夜もある。

いつも私に時間を割いているのだから余分に気を使わせることなどあってはならないから。

因みに会長との下校中、奇襲が来ることはなかった。

厳密にはきたんだけど、私が目線を合わせて微笑むだけで腰が引けていなくなっちゃったんだよね。不思議―!

 

 

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