妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
選挙当日。
今日の授業は午前中だけ。午後は丸々選挙となる。
司会進行役を仰せつかっているので、誰よりも早く入って準備に取り掛かる。お兄様はこの場にはまだいない。
風紀委員はすでに来ているけれどお兄様は風紀委員ではないからね。今日は一般席だ。
…こんなこと言うの失礼かもしれないけど、お兄様に一般席ってなんだか似合わない。
いつものメンバーと一緒だといいね。
後に控える選挙についてはおそらく大したトラブルもないだろう。中条先輩に不服を抱いている生徒は少ないから。
だが生徒総会は違う。
一科生優遇の象徴的だった生徒会役員の一科生のみの選出制度を撤廃し、二科生にも権利を与えるというのは根強い選民意識の残っている、中途半端にプライドの高い生徒には許しがたいことではあるのだ。
生徒たちも徐々に集まってきて、七草会長による最後の生徒総会は暗雲立ち込める中始まった。
七草会長は堂々と舞台に立ち、自ら掲げていた公約を成そうと声高らかに宣言する。
「…以上の理由をもって、私は生徒会役員の選任資格に関する制限の撤廃を提案します」
カリスマ性のある姿だった。
自信に満ちて、正しいことに導かんとする姿勢は後に続きたくなる気持ちにさせる。
けれど強すぎる光というのは、必然的に深い闇も生み出すもの――。
質問席に三年生の女子生徒が立った。
表情は暗く、声も小さい。けれどその声には抑えきれない感情が込められていた。
建前は正論だが、言っていることは贔屓にしている二科生生徒を役員に指名したいだけだろう、と。
私利私欲のために権力を振りかざすな、と。
不満、妬み、嫉妬。
――そうなのだ。私が七草会長より中条先輩を推す理由はここにある。
彼女は争いを生みやすいのだ。
家のことももちろんだが、その美貌と一部男子に対しての態度は、あまり褒められたものではない。
もしそれが平等なものであり、他の生徒にも向けられていたならまだよかったのだが、限られた人間にのみ向けられたその姿は、美形や優秀な者を侍らせて奔放に振舞っているように映り、結果反感を煽る形になっていた。
だが七草会長とてずっとトップに立ってきた人間。真正面から言われることに慣れているのか、冷静に対処している。
自らに悪い所などないのだといわんばかりに。
「私は院政を敷こうなど思っても居ませんよ」
おどけて言うことで会場からは笑いも起こるが、相手を煽ることにもなる。それがわからない筈が無いのに。
余裕ぶりをアピールしつつ、大衆を味方につけて意見を押しつぶそうとする姿のどこに誠意が見えるというのか。冷静に見れば勢いで押し切ろうとするのがわかる。
そして、敵対している人間には圧倒的圧力で飲み込まれると感じたことだろう。
会長に意見できる、付け入る隙がお兄様の件しかないことで、この会場がマスコミの囲み取材かと思わせるゴシップ塗れた空間と化してしまっていた。
今頃お兄様はエリカちゃん達に突かれているだろうか?だとしたら可哀想すぎる。
有りもしないことまでネタにされ次第に会長も頭に血が上ってしまったのか、彼らの抱く選民思想を非難してしまう。
これまで避けてきた否定ともとれる発言を。
会場は概ね拍手で包まれたが、――これは明らかなる会長の落ち度だ。導火線に火をつけた。
「会長は結局あの二科生の一年生を依怙贔屓したいだけじゃない!知ってるのよ!昨日の帰り、そいつと駅まで一緒だったでしょう!」
感情論は時に理論をも崩すことがある。理屈じゃない、人は信じたいモノを信じるのだ。
面白そうなことがあれば、そちらが真実になることもある。
嘘に塗れた取るに足らない噂話の中、真実を言い当てられたことで言葉に詰まった会長は動揺をあらわにし、顔を赤くした。
一体何を思い出してこの場面でそんな顔をしたのかはわからない。
けれどそのおかげで反乱軍は勢いを増してヒートアップする――前に私はマイクにスイッチを入れた。
「皆さん、お静かに願います。そしてしばしお時間をいただければと思います」
司会者特権です。有効に使わせていただきましょう。
「これまでの質疑応答の内容は二点。
一つは二科生は実力がないのに一科生を押しのけてまで生徒会役員になれるはずがないというのが一点。
もう一点は一人の生徒を優遇するため会長の私欲で撤廃しようとしたのではないかという疑念。
――一つ目につきましては、九校戦を見た方であれば納得された方もいらっしゃるでしょう。
新人戦のモノリスコードは『運営側の事故』により、急遽代役として二科生の生徒のみで編成されたチームで挑むしかありませんでした。即席のチームです。たとえ練習していた一科生であっても絶対的不利の状況で、一高の奇跡と呼ばれる快進撃が起こりました。決勝での試合はおそらく大会史上最も熱い戦いとも言われています。実戦力は二科生の中にも一科生に引けを取らない生徒がいることは疑いようもありません。
そして成績についても私は新入生総代ではありますが、多くの人の知るところでしょうが、筆記試験は未だ一位の二科生の方に追いつけません。
このことからも二科生だから実力がないという、今までの常識を覆すには十分な結果が残っています。
私たちはこの事実から目を背けることはできません。
公正な立場を鑑みても、二科生だから生徒会役員にできないという制度は見直すべきであると判断いたしました。
そしてもう一つ、一人の生徒に対する贔屓、とのことですが」
視線を向けなくてもお兄様に視線が向いてるのがわかる。
…本当不憫の星に生まれましたね、お兄様。追い打ち掛けるような発言を許してね?
「それは恋愛感情があり、振り向いてほしいがために権力を与えようとしているということでしょうか?
それともお付き合いしている男子に内申点を与えるため、将来のことを見据えて箔を付けるために、役員職を据えようとしていると思われているのでしょうか?」
「(ちょ、ちょっと!何を言ってるの深雪さん!!)」
マイクの入っていない七草会長の声が聞こえますが無視です無視。
会場もざわついているけど無視して質問者を見つめます。
彼女は突然の質問に戸惑っているようだが、どちらの方がインパクトがあるか、信じたいかと考えれば答えは自ずと出るわけで。
「箔を付けるために、でしょう!」
「では問います。生徒会長はいつから恋愛禁止になりましたか?」
「え!それ、はっ…」
「別に一高は生徒会長の、というより生徒全般恋愛禁止などという制度も、暗黙の了解などもありません。
先輩は学校の顔たる生徒会長には恋人を作ることは、許されるべきではないとお考えですか?
確かに恋にかまけて学業や生徒会業務が滞るというのであれば、そう思われるのも仕方ないかもしれません。
もしそれが理由なのだとしたら、七草会長の仕事ぶりは近くで拝見していましたが、恋にかまけて手を疎かになる、という場面に出くわしたこともございませんでしたので、そのような心配は無用だと思います。
その彼氏とされる男子生徒が能力もなく、生徒会役員に相応しくない学力、実力の持ち主であり、素行が著しく悪いのならば非難されるかもしれませんが、皆さんの視線を辿る限り、その生徒の方は実力不足とは言い難い仕事ぶりを九校戦で発揮されてました。
その上で、箔を付けようというのであれば――それはとてもロマンチックなことではありませんか。身分差のある男女が様々な困難を乗り越えて結ばれる、…とは流石に夢見がちな冗談ですが、やはり問題はないように思います」
そう締めくくると会場は静まり返った。
わあい、皆を絶句させちゃった(はぁと)。
横を見れば生徒会長が顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせてますね。餌を待ってる池の鯉のようです。
「――質問は終わりのようですので、質問者は席へお戻りください」
あ、服部先輩が復帰した。
マイクの主導権は先輩に取られてしまったのでお辞儀をしてマイクを切る。
すまし顔に視線が集中しますが気にしませんよ私は。――お兄様の視線にだって負ける気はありません。…帰ったら怖そうだなぁ、なんて今は考えない。
だがお花畑回答の影響により会場はまだ放心状態。
反対派の妨害って七草会長アンチが主だったみたいだからね。会長がしゃべらなければ燃料切れになるのは分かってました。
便乗男子は…恐らく会長に袖にされたり、振り回されたりした被害者…というほどじゃないだろうけど、そういう人たちじゃない?
彼らもこの状況で騒ぐ元気はないみたい。茫然としてるね。
そんな混乱治まらぬ中で質問も上がるはずもなく、続いて始まった選挙は逆に落ち着いたものだった。
中条先輩ファンがはやし立てる場面はあったけど、原作にあった下世話な言葉がかけられることもない至って平和な時間だった。
人間、大混乱の後は平和を求めるもの。おかげで会場はファンミーティング会場のように温かな空気に包まれ、中条先輩のステージは終わった。
「……深雪さん、ちょっとお話があるのだけど」
「七草会長お疲れさまでした」
「ええ、ありがとう。だけどね?」
「夢見がちな冗談だと申しました」
にっこり微笑めば大きなため息を吐いて。
「…本当、一番の思い出だわ貴女たち兄妹は」
こうして七草会長最後の生徒総会と生徒会長選挙の演説は無事終了した。
――
「深雪も恋愛話に興味を持つ年頃なのはよくわかったけれど、兄貴としてはこんなに複雑なことはない」
「…複雑、ですか」
玄関に入って靴を脱ぐ暇もなくお兄様に両肩を掴まれた。
複雑だという割に表情は不服色が強いですね。ご不満そう。
この話題はそんなに広がりようがない。お兄様はまだ恋愛をしている様子はないし、私も興味が全くない。よって恋バナをすることも無い。
それにこの話題はあまり触れること自体よくない予感がね、しますと言いますか。
ですので、ここは思いっきり逸らさせてもらおう。
「私としては生徒会長に祀り上げられることがなくて一安心しております」
「…知ってたのか」
お兄様から振られたことはないけどね。
お兄様が候補に挙がった時点で二科生の彼が上がるなら一科生の私も、という声があったのだ。
そして私の方がまだ揉め事が少ないだろう、と生徒会が担ぎ上げるのも時間の問題だなと思ったのだが、やはり会長から直々にお兄様へその打診はいっていたようだ。
いくら革新的に物事を進めたい生徒会であってもいきなり会長職に二科生を持っていくのは新たな分断を齎すとわかっていたのだろう。
「お兄様が止めて下さったのですね」
「この先深雪が生徒会長になることは決まっていることだが、何も一年も前から重責を背負わされるのは、ね」
「ありがとうございます」
肩を掴まれたまま頭を下げるのは難しく、微笑みで返した。
「…深雪は……」
言い淀むお兄様。うまくまとまっていないのか悩んでいるみたい。
こんなお兄様もなかなか見られないのでまじまじ見たいところだけれど。
「コーヒーでも飲みながらお話しませんか?」
「…いや、そこまでして話すことでもないのだが」
うーん、お兄様が何に悩んでいるかわからないけれど、恋愛に絡むこと?
「恋愛話は嫌いじゃないですが、私自身興味があるかといわれるとあまり興味はないので、そういった意味では年相応ではなく子供なのかもしれませんね」
「…そうか」
「あとは…お兄様が恋をするのであれば応援したいと思いますが、興味がないのであればそこはそれ。今まで通り過ごせばいいのだと思います」
「今まで通り、か」
いつだって選ぶのはお兄様なのだ。恋をするのもされるのも、しないこともお兄様の選択。
高校生活くらいそうであってもいいじゃないと思う私です。
「…それにしては随分七草先輩との話を楽しそうに話していたね?」
「それに関しては――やっぱりコーヒーを飲みながらお話しませんか?恐らくですが、お兄様は誤解しています」
「誤解?」
というわけで場所を変えて一息吐いて。
「――つまりあの話は会長のアンチを黙らせる策だったと」
「女子というのは、恋愛利用は否定できても恋愛自体は否定できないですからね。その上きちんとやることやっていれば恋愛賛成派になります」
「…なるほど。わからん」
でしょうねぇ。
自分の恋愛のために私欲で権力行使は許せないけど、恋をしていることに非難はしない。
そして仕事と恋愛を両立させる人は尊敬される。女の子にとって恋とはそれほど重要な判断基準の一つなのだ。
フィーリングで感じ取るものだから理屈で考える人には難しいだろう。
「もしかしてお兄様はあの後、その件で揶揄われましたか?」
「まあ、エリカのアレはもう挨拶みたいなものだがな」
エリカちゃんなら全力で揶揄ってくれたでしょうね。
でもお兄様も慣れたものでそんなに疲れてない。どんな話をしていたかわからないけれど、E組は皆仲がよろしいようでなにより。
「誰も元会長と付き合ってるとは思ってもいなかったしな」
「あら。お兄様と会長のロマンス、アリだと思ったのですが」
口元に手を当てて笑えば正面からはジト目が。
やっぱりこういうネタで揶揄われるのは面白くないですか。
でもおかしいな、原作ならもう少し疑う人間いたと思うのに。七草会長は指摘されて顔を赤らめてたし、あの反応って想像力掻き立てないかな?
首を傾げていたらお兄様はそういえば、とコーヒーを一口含んでカップを下ろし――にやりと笑う。
…まあっ!今すぐ裸足で逃げたくなる素敵な笑みですねお兄様。
「俺にはお前がいるから七草先輩の出番はないそうだ」
んん?私がいるから出番がない?
それはお兄様の隣は私がいるから空きがないということ?
いえいえ、隣と言っても兄妹ですよ。彼女とは違うでしょう。
「…そもそも学校でそんなに一緒にいないと思うのですが」
「それこそ4月の影響が大きいのだろうな」
ああ…プリンセスとナイト…。
二人きりでいることはほとんどないのだけど、あの物語の影響によりまだセット感があるのか。
通学や下校も今や二人きりじゃなく皆と一緒なのに。
「兄妹愛が一番の障害になってます?」
「いいんじゃないか?俺たちは今恋愛に興味がないのだから」
現在ほのかちゃんから猛アタック受けてる人が何か言ってる。
興味全く持てないですか?邪険に扱っているようには見えないのですが。
でも。
「…興味がないならしょうがないですね」
「だろう?俺の興味はお前に向いているからね」
とろりと甘い眼差し。甘い。甘すぎますお兄様。コーヒー飲んでも取れない甘さ。
カップで顔を隠していますが、見えてますね。恥ずかしい。
そんなに見つめないでほしい。穴が開いてしまう。
「可愛いな」
「…揶揄わないでくださいませ」
「揶揄うなんてとんでもない。いつでも本音だよ」
テーブル挟んでこの威力。これがソファでくっついてたら死んでたと思う。
お兄様は本当に気を付けてほしい。オタクは軽率に死ぬ。
「おにーちゃん、はずかしー言葉禁止ぃー」
せめてとカップを掲げて視線を物理で遮って小さな反抗を。
すると一拍空いてからがたん、とお兄様が立ち上がる。
いきなりどうした、とカップから覗き込むように見上げれば、ニッコリ笑顔。
「深雪、ソファでじっくり話し合おうか。深雪の言う恥ずかしい言葉とやらを教えてもらわないと」
「え…いや、その…」
「深雪を困らせたくないからね。ぜひ教えてくれ」
死期を早めてしまった…。
口は禍の元とはよく言ったものだ。
このまま立ち上がらなければ、なんて考えは甘い。立ち上がらなければ持ち運ばれるだけです。ばっちり学習済み。
お兄様エスコート必要ないですよ。俺がしたい?したいと言われればしょうがないですね…。
とんでもない辱めを受けたなんて記憶はしまっちゃおうね。
選挙結果の発表日、中条先輩は中条会長となり、七草会長は無事会長職を退いた。
「…なんでしょうか、この一高のプリンセスを女王に、とは?」
「スノープリンセスをスノークイーンにというのもありますね」
「ナイトを側仕えに、というものもありますね」
「なんで会長に任命権があるはずの役員まで投票を?」
投票数が一番多かったのは…私だった。
そして中条会長に次いで三番目にお兄様。…お兄様、舞台にも上がってないのですけど。
それだけ二科生への期待値が高かったのかもしれない。
でもなんで私?しかも会長に、ではなく女王とは⁇皆創作物に影響され過ぎじゃない?
まだ本出版されてないのに何で?校内全体に浸透しすぎじゃない?
「司波さんの堂々と丸め込む姿を見た生徒たちが、貴女の王政に期待したのでしょうね」
王政って…一高は王国だった…?
市原先輩の口から訂正の言葉がないのですが、あれ?ここは本当に国でした⁇
「兄さん~」
情けない声でお兄様に泣きつけばお兄様は慰めるように頭に手を乗せて。
「大丈夫だ。一年もあれば地盤は固められる。来年の今頃には誰もお前に逆らう政敵など現れることはない。――全ては次期女王の御心のままに」
「…その設定気に入ったの?」
恐怖政治でも敷くつもりですかお兄様。異分子は今から鎮圧って?恐ろしい。
来年入学してくる新入生、発言や態度に気を付けないとこわぁい先輩に粛清されちゃうぞ!
生徒会選挙編 END