妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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横浜騒乱編
横浜騒乱編①


 

新生徒会が発足して生活のリズムが一部変わった。

生徒会室でお昼を食べなくなったことが一番大きい変化だろうか。

中心になっていた前会長である七草先輩が生徒会室に来ることが無くなったことが主な理由。

元々中条会長も友達とクラスで食べる派で、渡辺先輩も、七草先輩が来なければそもそも生徒会役員でもないので来ることがない。

今まではある意味七草先輩の職権乱用によって時折お兄様も呼ばれてお昼をご一緒していたのだ。

渡辺先輩は風紀委員長であることもあっておかしくも無いが、お兄様は風紀委員でもない。ただ私の縁者というだけで呼ばれるってどういうことなんだろうね。原作強制力はこんなところにも?明確な理由がない分、原作よりも七草先輩がお兄様にご興味を持たれているということなのか。

…その辺り、話をしている分には特別な話はしていないように見られたけど。

和やかにお話する時間。基本的に七草会長が会話の中心となり話題を振ってはそれぞれ話を聞く、という某トークバラエティのMCのように立ち回り会話を途切れさせない。

流石コミュ力の七草、と言いたくなるほど普通の会話が笑いの絶えない昼食会に。すごくない?毎日が番組レベル。

渡辺先輩のガヤも合いの手も素晴らしく、この二人が揃うとそれだけでゲストが輝く番組ができるだろう。…ただし、弄られるのが苦手な男子にはあまり向かないかも。

お兄様はスルースキルや受け流しを覚えていらっしゃるので気まずいことにはならなかった。

原作よりも進展させられれば、とサポートもしたつもりだけど…二人の距離はさほど縮んだようには見えなかった。残念。

その会長が退任されたとなれば昼食時に生徒会室に集まる理由もなくなるわけで。

私たちは友達と食堂で食べるようになったのだが、今日はちょっと遅れるかもしれない。

授業中教員から資料を探してほしいと頼まれ、新しく役員になったほのかちゃんと、付き合いで付いてきてくれた雫ちゃんと三人で生徒会室に来ていた。

三人で分担して探そうと二人に一つずつお願いし、私は三つほど探し始めたのだが、二人はなかなか苦戦していた。

正解をそのまま教えるのも勉強になるが、もっと早く身に付けるには誘導して探させる方が将来的にはためになる。

時間よりも経験を優先して、ヒントを遠くからいくつか出しながら自力で探してもらう。

授業終了のチャイムが鳴ってすぐ、ようやくほのかちゃんがヒットしたようだ。

 

「お疲れ様ほのか。思いのほか早く見つかったわね。――あ、雫!その資料」

「これ?あ、本当だ」

 

資料も揃い、教員の元に届けて食堂へ急ぐ。

 

「皆もう待ってるよね」

「連絡はしておいたから先に食べ始めてくれているんじゃないかしら」

「私たちがもたもたしてたから…」

「そんなことないわ。私は4月から作業していたから慣れたけど、ほのかはまだ一週間。これで私と同じスピードで見つけられでもしたら、私のこれまでは何だったの?ってなってしまうじゃない」

 

少し大げさに肩をすくめると、雫ちゃんが噴出し、ほのかちゃんもつられて笑う。

 

「そっか」

「そうよ。それに生徒会役員でもない雫に先に見つけられた日には、恥ずかしくて隠れちゃうわ」

「それは困る」

 

箸が転がれば笑う女子高生です、落ち込んでもすぐに笑顔になる。

まだまだ始まったばかりなのだからポジティブに行きましょう!と伝えて足早に食堂に行けば、すでに食べ始めているお兄様たちの姿を発見。

待つと言われたけど先に食べてもらった方が気が楽なので、そうしてもらったのだ。

 

「おまたせ」

「ご苦労様」

「先いただいてるわよー」

 

気にしないで、と笑って返してくれる優しい気遣い、すき。

だけどほのかちゃんはどういうわけか、お兄様の言葉の一つ一つに過敏に反応することが増えた。

今も気にしてないと言っているのにぺこぺこ謝罪している。

…これって確かほのかちゃんの特殊な生まれに関係してるのよね。

どうしようもないことだけど、もう少し気をつけないとお兄様の手に余ってしまう。

今度さりげなく雫ちゃんに相談してみようか。

だけど残念ながら、これから忙しくなるので恋愛サポートは後回しになってしまうのだけど。

 

――新たなる転換点、横浜騒乱編が始まっているのだ。

 

 

――

 

 

これより一週間も前に話は遡る。

お兄様は論文コンペに参加することが決定した。

 

横浜騒乱戦――灼熱のハロウィンはこの物語の核となる事件。

 

この、世界を揺るがすきっかけとなる事件がなければ、お兄様が未知の魔法を大々的に使わなければ、世界中から追いかけ回されることも、身内から恐れられることも、仲間だった人たちと敵対することもなかった。

異端として注目されることもなかった。

世界中のほとんどが敵に回ることなどなかったのだ。

この、たった一発の魔法がなければ。

原作で読んだ時はこれほどの騒動に発展するなどと思わなかった。

だから原作通りに事件を起こさせないためにはここを潰してしまうことが一番だとも思うのだけど、今後あらゆる可能性を考慮しても、あの魔法を放つことは不可避なことだとの結論に至る。

あのまま大亜連合の好きにはさせられなかったし、なんの報復もしていなければ抑止力もなく、奴らは性懲りもなく人の国を我が物顔で歩き回ったことだろうから。

…やっぱりあの国根絶やしにした方が早いんじゃないかな、いろいろ。

とはいえ本当にそれをしたら、最終的にこの地球上にいられなくなってしまうので却下なのだけど。

一応いくつか使わない方法をシミュレートしてみたけれど、どれもしっくりこない。そもそも思惑が絡み過ぎているのだ。

大亜連合本隊と、現地の助っ人同胞(?)は初めから見えているものも違ければ、目的そのものも違う。

そこに双方が調達した現地工作員たちの拙い妨害工作によって事態は混乱。

更にたまたま目についたレリックにも手を出しちゃったからカオス状態に。

…いくら作戦の一つに陽動が含まれているからとはいえ、人手があるからといくつも同時にやろうとするから纏まるものも纏まらないのだ。初めからぶれない目標を絞ってから来い。

だったら諸悪の根源を早々に潰した方が世のためでは?と思わなくもないのだけど、残念ながらこの高校生活で気づかされる、――思い知らされる原作強制力。

この力によって失ったラスボスの代わりに私の知らない第二、第三の知らない敵が出てきたら対処が難しい。

…本当、この強制力は厄介だ。

既にこの半年、お兄様は様々なことに巻き込まれてきた。変化はいろいろあるはずなのに、主軸は何も変わっていないのだ。

いくら軌道を逸らしてみようと試みても勝手に何かしらの要素が加わり元に戻されてしまう。

今回もそう。

本来であれば、九校戦で小早川先輩は落下したことで卒業と共にドロップアウト、魔法師としての道は途絶えることとなる。

その調整を担当していた平河先輩も未然に防げなかった後悔から責任に押しつぶされて、論文コンペを辞退することでお兄様が参加することになるのだ。

だが実際、先輩が落下する事件は起きておらず、当然平河先輩は辞退をする理由がなかったはず。

なのに先輩は辞退した。

理由は、自分ではお兄様ほどのサポート技術はなく、テーマにもついていくのに精いっぱい。サブとして不安があるとのこと。

準備は九校戦より前、6月の選考論文から始まっている。

そこに一か月そこそこで実力未確定の一年生を途中参加させ、優勝を目指そうというのだから無茶もいい所だと思うのだけど、市原先輩と五十里先輩はお兄様の九校戦の活躍ぶりに勝機を見出していた。

そもそもいつ自身たちの論文テーマと、お兄様の研究テーマが同じことを知る機会があったのか。

やっぱり私の把握できていないミニクエスト発生してない?お兄様知らない間にフラグ回収しすぎじゃない⁇

避けようのない強制力に、私は逆らう術を持っていなかった。

事が起こるのはもう止めようがない。

ここまで来たら灼熱のハロウィンが起きてしまうことを止められないのだと理解させられた。

導かれている。

これが一番この物語の肝になる重要な切っ掛けになるから避けようがなかったらしい。

ならば私ができることは――

 

「深雪、どうしたのぼうっとして」

「ちょっと考え事かしら。兄さんが論文コンペで忙しいなら、何か手伝えることあるかしらって」

 

放課後、常連となった喫茶店でいつものメンバーでお茶をして、この場でお兄様が論文コンペに参加することを知って驚きつつ、話に花を咲かせていたところだった。

九日で論文を仕上げなければいけないというお兄様に、一同が驚きながらも応援するといういつもの流れになったのだが。

 

「確かに忙しいが、そうだな。深雪が傍にいてくれればそれだけで十分なんだが、美味しいコーヒーでもお願いしようか」

「それならいつものことじゃない」

 

他にないの?と聞いてもお兄様はただ微笑むばかりだ。

ほのかちゃんが、いつものことなんだ…と落ち込んだ後雫ちゃんが慰めるまでがセットです。

すまない、流れ弾が変に飛んでしまった。

他のメンバー?無言でコーヒーを嗜んでますね。

予定調和です。

皆飲み終わったことでこの場は解散。

他愛ない話をしながら家に着いたのだが、今日はいつもと違っている箇所が。

家の前にはシティコミューターが止まっている。

 

(うふふふふふふふ)

 

思わず笑いがこみ上げる。

誰が来ているのか、何が目的だか知っている私には彼女なんて敵ではない。

別段彼女のことを憎んでいるわけではない。今では父を虫けらと思っているので、アレを愛しているなんて奇特な人だな、と思う程度。

ええ。母に対して憎しみがあることも知っているけど、母自身がなんとも思ってなかったからね。独り相撲乙です。

ただお兄様を蔑ろにしている時点で私が彼女に優しくする理由なんて一ミクロンも無いのだけど。これからお兄様に迷惑をかけることを思うと血が滾ってきます。

この後の展開に思わず武者震いが起き、気分はリングに上がる前のボクサーの境地に。

ええ、絶対に一撃を食らわせてみせますとも!

しゅっしゅと心のシャドーボクシングでアップする。

 

「…複雑だな」

「え?」

「戦おうとする深雪は美しいからな。正面から見たらきっと最高だと思うが、かといってそのために敵対するなんて考えられないし」

 

急によくわからないことを言い出すお兄様。

いきなり私が戦闘態勢を取ったのが悪かったのかもしれないけれど、だからといって思案する内容が…どういうことです?

とりあえず今はそのモードにおかえり願えませんでしょうか。滾った戦意がしぼんでいくのがわかります。

 

「今ならじっくり眺めていいか?」

 

全くもってよろしくないですね。

なぜいいと思うのです?

 

「中で待っているのはあの人だろう?物理的な危険はない。多少待たせても、先に連絡をもらったわけでもないから問題ない」

 

お兄様にもお分かりになりましたか。この家に来る人は限られているから。

なあ、いいだろう?と頬に手を添えられ上を向かされるのだけど――色気がですね、溢れすぎじゃないですかねお兄様。

ここ外ですよ?出歩いている人はいないので見られてはいないのだけど、だからってそういうアレは駄目だと思うの。

 

「お、にい、さま」

 

止めたいのに声が出ない。

もしや魔眼お持ちでした?見つめられる視線と手のひらから熱が伝わり私の体もじわりと熱くなって動けなくなる。

自分の体がお兄様によって操られるような錯覚に支配されるよう。

だんだん頭が何も考えられなくなって――

 

「ダメだよ深雪。こんなところでそんな無防備になっては。外に出せなくなってしまう」

 

少し屈んだお兄様による耳元の囁きで体がびくんと跳ね、正気を取り戻す。

瞬間湯沸かし器ばりに熱せられて赤くなる顔と体。

あまりの羞恥に耐え切れず体が震えだした。

 

(このお兄様はR18として危険物指定しなければいけないと思う!おかしい。お色気担当は私じゃなかったの!?妖しい色香でお兄様を惑わそうとするんじゃないの?なぜ私がお兄様に惑わされそうになってるの!)

 

混乱している私を置いてけぼりにお兄様はすまない、とくすくす笑って抱きしめるけど何にも反省してない。だってお色気モードが解けていないもの。

ちょっと強めに胸をドンドン叩くけど、何の効果もなくお兄様は笑ったままだ。

 

(本当にこの色男モード?お色気モード?私に向けるの止めない!?向けるべきは落としたい女子でしょ!――…そういえばこの前、恋愛興味ないって話したばかりだっけ)

 

だから対象がいなくて全部妹に向かうのか…。もしやこれもストレス発散法なのかな?お兄様なりの。

これまでのことを回想するといろんな仕事に追われ、ストレスが多かった九校戦でもお色気お兄様がちょくちょく顔を出していた。

その後の夏休みでも、海へ行った時は目の前で私が倒れるというストレスでおかしなことになっていたし…。

やっぱり九日で予定になかった論文を仕上げるってとっても大変よね。

しかも安心できる家に帰ったと思ったら他人がいるわけだからストレスが溜まるのも無理もないかも。

原因を見つければなんてことはない。

お兄様は疲れたら色男モードになって幼気()な妹を誑かすことでストレス発散するという特殊なせいへ――技法を編み出したらしい。

私にとってははた迷惑だけど、これもお兄様のストレス軽減に一役買っているならば、まあ我慢できなくも、ない…?耐えられるかは別問題だけど。

 

「そろそろ入りましょうか」

「…はあ。仕方ないか」

 

玄関開けたらハグできないからここでやったのかと考えると、私の方が不倫相手で、家で待つあの人が正妻のような立ち位置では?とくだらないことが頭をよぎった。

 

「深雪?」

「いえ、毒にも薬にもならないことを考えておりました。参りましょう」

 

 

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