妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

49 / 265
横浜騒乱編②

 

家に帰るのに「参る」とはおかしなものだが、気分は戦場に乗り込む意気込みなので。

ここでもたもたしていても何も解決しないですしね。

…気づいたけどこれ、すでに監視されてるんじゃなかった?メインは私たちじゃないにしてもターゲットの入った家の前でイチャイチャしていたら嫌でも目に入るだろう。

つまりさっきの様子を見られていた、と…?お兄様はそれに気づきつつもあんなことを⁇

…目的を探る為とか?相手の気力くらいは削げたんじゃないかな、うん。

内心ゴリゴリ精神を削られている間に、お兄様が念のため先に入って確認する。

地味なパンプスが揃って見えた。堂々と真ん中に置かれている。間違いなくあの人だ。

靴を脱いで上がったところで、人の気配がこちらに向かってくる。

削がれていた気力が、まだ見ぬ敵の気配に徐々に心が高揚し始め体に力が入るが、お兄様から落ち着かせるよう肩を抱き寄せてぽんぽん、と軽く叩かれる。

至近距離でしばし見つめ合う二人を目撃させられた彼女の心境は、一体どんなものなのだろう。

 

「――おかえりなさい。相変わらず仲が良いのね」

 

余裕を見せたいのか微笑んでいるけれど口の端、ぴくぴく引きつってますよ。

きっと私が家主よ!と勝ち誇って出迎えようとしていたのにね。兄妹仲良しの雰囲気に出鼻をぽっきり挫かれましたか。

 

「こちらにおかえりになるのは久し振りですね、小百合さん」

 

冷たい眼差しに、冷却された声、と彼女に対しての対応は原作にあったけど正にそれ。

先ほどまで私に向けられていたものとの落差に風邪を引きそうです。先ほどまであんなに熱々でしたのにね。

お兄様による「この家書類上お前んちなのにな」、の皮肉を込めた言葉に彼女、小百合さんはビビっていた。言葉っていうか迫力かな。一高校生男子に出せる威圧じゃない。

うーん、冷酷なお兄様、とっても素敵だよね。

自分に向けられていないことをいいことに、横から観察してしまう。冷徹なお兄様かっこいい。

でも正面からこれを受けるには、小百合さんは人生経験が豊富ではないらしい。

これくらいで狼狽えてちゃ四葉本家でなんて生きていけないよ。まあそんなところに行ける立場じゃないけど。

 

「お久し振りですね、小百合さん。おかえりなさい」

 

家で出迎えるというのは初めてだが、一応形だけでも家主ですからね。

貴女とは格の違う、淑女教育の行き届いた完璧の微笑みでお返しして差し上げますとも。

 

「え、ええ。深雪さんの活躍は龍郎さんから窺ってるわ。大活躍だったみたいね」

「ありがとうございます。父の自慢になれているのでしたら幸いですわ。ああ、そういえばこの間会社でお会いした時、少しお疲れのようでしたが、お仕事が忙しいのですか?父もですが、小百合さんもなんだかお疲れな顔をされてますのね、心配ですわ」

 

ほほほ、とお嬢様口調でにっこりと。

コレ、淑女教育中級で学ぶ皮肉である。

翻訳すると、夫の世話をちゃんとできてないんじゃないの?と自分の能力ちゃんと把握してる?できないなら大人しく引っ込んでれば?になるのだ。

大変だよね、淑女って。

彼女はどこまで翻訳できたか知らないが、ただの心配ではないことには気づいているようだ。

勘は鈍くなくても磨く術もないだろうから、うまく返せないし躱せない。

笑みを引きつらせながら言葉を返す様は滑稽に映るが私たちはそれを表に出すほど分別が無いわけではない。

父の後妻だから冷遇する、などという関心を抱いているとさえ思われたくないのだ。

 

「し、心配してくれてありがとう。龍郎さんも私もちょうど繁忙期みたいなものだから、これを乗り越えたら落ち着けるから大丈夫よ」

 

社会を知らない箱入り娘対応ですね。とりあえず繁忙期って言っておけば大丈夫、みたいな?

馬鹿にされてるね。

まあこれ以上追い詰めても益はないのでつつきはしないけど。

 

「そういえばお茶も出さずにこんなところで立ち話をさせてしまってすみません。そうだ、お夕飯は食べていかれますか?よろしければ一緒にご用意いたしますよ」

 

ぶぶ漬けどうです?とは言わないけれど、にっこり笑えば小百合さんは引きつった笑顔でお断りされる。全く、美少女の笑みですよ?そんな反応されなくてもいいのにね。

 

「この後また会社に戻る予定なの」

「あら、随分とお忙しいのですね。お体に気を付けてくださいね」

 

うふふ、おほほと会話をしてこの場を去る前に一言。

 

「これは杞憂だと思うのですが、このままシティコミューターで帰られるのですよね?」

「?ええ、そうよ」

「以前は見えなかった事故の相が見えたので」

「事故の、そう…?」

「ちょっとした人相学、占いみたいなものです。お帰りにはぜひお気を付け下さい」

 

不吉な言葉を掛けられて喜べる人間はいませんからね。小百合さんも困惑顔です。

ちなみに人相占いなどできない。適当にそれっぽく言ったただの原作知識によるお告げです。

現実になって蒼い顔にでもなってくれたらいいなというみみっちい嫌がらせです。これくらいは可愛いものでしょう?

この先お兄様に命を助けてもらうのにお礼もしないことに対する嫌がらせをこれくらいで済ませるなんて、我ながら優しすぎると呆れてしまうほどだ。

でも、やりすぎて怨恨を残すのもどうかと思うので。これくらいで許してやる、というヤツです。

それでは、とお兄様を見る。未だ冷めた顔で小百合さんを見てますね。この間もずっとプレッシャー与えてましたか。

 

「お兄様、私は一足先に着替えてご飯の支度をしてきます」

 

するとどうでしょう、凍てつく波動を放っていたお兄様は、春の陽気を迎えられたかのように朗らかな笑みに。

 

「ああ。いつもの美味しいご飯を期待してるよ」

「いつも以上に美味しくは期待してくださらないのですか?」

「最高の上があるなんて知らなかった。これ以上美味しくなられたら、深雪の料理以外は食べられなくなってしまうな」

「では手加減いたしませんと。外でのディナーも楽しみたいですからね」

「その時はぜひエスコートさせてくれ」

 

ええっと、会話がなかなか切れませんね。

ナチュラルにいちゃつきすぎて小百合さんドン引き。大丈夫ですか?こんなことで気力削られて。

これから貴女には重大ミッションが待ち構えているはずですが。

お兄様にとんでもないものを押し付けるという重大任務。

ホント、勝手よね。劣等生のレッテル貼っといて、利用する時は使い捨ての道具のように使おうとするんだから。

研究者ならレリックの扱いがどれほど難しいかわかっているはずなのに、自分にできない偉業を成し遂げるお兄様に変に嫉妬してこじらせて。

 

「小百合さん、なんのお構いもできなくて申し訳ありませんが、失礼させていただきます」

 

もう一度仕切りなおして今度こそこの場を後にする。

 

 

――

 

 

部屋に入って制服から着替えながら、さて今後の流れをどうしようかと考える。

この事件の発端の一つでもあるレリックはこの後お兄様の態度に腹を立てた彼女が一旦持ち帰ることになるのだが、その帰り道襲われた恐怖によってお兄様に押し付けられ、その危険物を預かることになる。

だがそれはお兄様の研究にとって必要なパーツとなる。

先日、飛行魔法の起動式を無償開放したことによって、各国の重力制御魔法に関するノウハウが集められたことで、核融合を維持する魔法を常駐させることを可能にする過程にまた一歩近づき、お兄様の夢が形になり始めていた。

更に夢を実現させるためにはこのレリックを手に入れることが必要であり、そのためには危険なことに巻き込まれなければならないのは重々承知。

危険を承知でも取らなければならない、お兄様にとって文字通り重要なキーストーン――。

たとえこの一時間後、お兄様が狙われ、修復せねばならぬほどの傷を負わされるとわかっていても、目を瞑るしかない。

 

(ムーバルスーツ程多機能とは言わないけど、ジャケットに今より一層上の防弾仕込むくらいならできるんじゃないかな?全て防ぐ派無理にしても、無いよりはマシじゃない?)

 

魔法に頼ることばかりで最先端技術に目を向けていなかった。

とはいえお兄様が着用しているものも、もちろん機能が備わっているが、そこそこの武器にしか対応できていない。まあ、普通そこそこあれば十分なはずなのだけど。

そういえば、この間お兄様に付いていった銀行では、私が寝ている間に銀行強盗があったらしい。

その時のセキュリティの一つに、銃弾をものともしない透明なカーテンがあったとか。

今からでは間に合わないけれど、今後もそういう場面は多い。そういった素材を仕込めば弾除けくらいにはなるのではないだろうか。

お兄様は正直そのあたり無頓着で、怪我したところで自己修復があるから気にしない節がある。

痛みはしっかり受けるのだから気にしてほしいのだけど、いくら伝えてもこればかりは治らない。

だったら私の方でできることを、と思考を巡らせる。

ふと、昔読んだ小説に、合金を特殊加工した糸を編み上げスカーフにし、ナイフのような鋭い切れ味を持たせた防犯グッズとして使っている話を思い出した。

それ暗器じゃなくて防犯グッズと言い張る?と思ったけれどそこは大人の事情というヤツだ。彼女は警察にお勤めだったから。

道具も言い方変えれば大抵武器も防犯グッズとなる。そういうことだ(たぶん違う)。

こういうのは千葉家の専売特許らしいけど、別アプローチで考えてみるのもまた一興。

さっそく机にスケッチブックを出して案だけは描いておく。左にアイデア、右にイラスト。ラフなので絵と呼ぶのも烏滸がましい出来だが、なんとなくのイメージなのでこんなもので十分だろう。

もし実現化したら、4月に使った時計型パノラマ録画機能付きカメラ等の機器を開発してもらった時にも出たけれど、今度こそ新規事業立ち上げまで話が行きそうだな、と予感がするけど今はその話は置いておくとして。

 

(どこまでこの話を先回りして大丈夫なのか。主軸を変えずに改変できるか。そこが焦点)

 

そうこうしていると時間はあっという間に過ぎたらしい、ダンダンと荒い足音に続いて玄関の開く音がした。

スケッチブックを閉じて、走らない程度に急いで玄関に向かえば、お兄様から声がかかる。

あ、ご飯の準備していないのはこの後出かけるのを知っていたから。

どうせなら出来立てを食べてもらいたいからね。下手に下りて顔を合わせて、なんてしたら話もうまく纏まらないだろうから。

 

「深雪」

 

玄関でお兄様はすでに制服の上着を脱ぎ始めていた。

これからすぐに追いかけるんだね。

 

「少し出て来る。しっかり戸締りをして留守番していてくれ」

 

しゅるっと外されるネクタイに、ちょっぴりドキッとしながら受け取ると、お兄様はふいに止まってするりと頬を撫でる。

 

「そんな可愛い顔をしないでくれ。出かけられなくなってしまう」

 

お兄様こそ、そんな顔と声で誘惑しないでください!手も!すぐ下ろす!!

お兄様は私のマタタビですか!?お兄様に触れられるたびに思考が鈍る。

 

「帰ってきたらお話聞かせてくださいね」

「もちろん」

 

時間もないのに用件など聞くのは迷惑だ。

コート掛けからブルゾンを手に取ると、お兄様の前に広げる。

それを羽織り、二輪用のブーツを履いてグローブとヘルメットを収納ボックスから取り出すと、装着しながら玄関を出ていった。

見送ってすぐ玄関に鍵をかけ、リビングへ。

 

(とりあえず大亜連合の動きがある横浜、横須賀の動きを四葉がどこまで把握しているか、だね)

 

先ほどまで考察していた話よりさらに前に戻した。

三年前からきな臭い動きをする大亜連合に注意すべきだと進言し、四葉は静かに動き出していた。それこそ信用していない軍と陰で協定を結んでまで。

おかげでブランシュの時や無頭竜の時も、ある程度動きを捕捉・情報共有できていた。ただ表立てない分、行動がとれないことが多々あったが、情報があるのとないのではこの先の見通しが全然違う。

四葉の情報収集能力はすごいが、圧倒的に人手が足りないのがネックだ。

軍に至っては大々的に大亜連合のみを重点的監視とは国際的・政治的観点からも簡単にはいかない。

よってこっそり裏で動かなければならなくて、大人数で活動できない上に四葉ほどの優れた人材もいない。

だが、いざという時大義名分で動けるのは軍だ。

だからこそこの二つが秘密裏に結びついた。今後の危機感を覚えているからこそ手を組めた。

そしてその脅威は正に今、この国に手を伸ばしていた。

 

(これからこの家には監視が付く上、ハッキングもされる。迂闊に回線も使えない)

 

とりあえず今ならば、まだ監視だけでハッキングは受けていないはずだ。

お出になるかは出たとこ勝負だったが、こっちの動きは把握されていたのかすぐに連絡が付いた。

直通の特殊回線を使用して、大亜連合の動きがどんな状況か教えてもらいつつ、これから活発に動き出しそうだと予測を話し、これから今日預かることになるだろうレリックのせいで狙われるため連絡不可になること。そして何より衣装の納品ができないことを伝えると叔母様は目をきらりと光らせて、本当あの国は余計なことしかしないわね、と手に持った扇子をパシリと手のひらに打ち付けていた。

いいな、あの扇子。かっこいいよね。迫力がある。

レリックの話や大亜連合の話など現在の私が知るはずない話だが、タイミング予測というでっち上げ能力でカバーしております。原作知ってますは口が裂けても絶対に言えない。

 

「わかりました。これからしばらくこちらから連絡を取ることは避けましょう。FLTに関してはよくもそのような取引に応じたと相応の報復をしたいところだけれど」

「せめてお兄様が卒業されるまではお待ちいただければと」

 

あんな父親でも保護者としての隠れ蓑には必要なのです。あとお兄様の研究仲間をごっそり引き抜く施設も作ってからじゃないとね。

だめかしら?

だめですよ。というか小首を傾げる叔母様お美しいですね。キュート4割セクシー6割。お母様と比べるとセクシー度がお高めです。お洋服のせいかな?

お兄様と同じ問答をして、思いとどまるようお願いすると、叔母様は仕方ないわねぇ、と引いてくれた。

表立って繋がりのないはずの会社を潰したら関係性がばれる危険性もあると思うけど、理不尽に潰すというのも四葉だからありえるだろうと勘違いされる可能性も。四葉の印象はどうにも悪すぎる。

たとえ今波に乗っている会社だろうと、四葉の逆鱗に触れればプチっといかれる。それが真実のように思わせてしまう一族。

もうね、どれだけ危険に思われてるの?流石に大した理由も無しに潰しはしないよ。

 

「ちなみにだけれど、貴女はどれが本命だと思う?」

「魔法協会関東支部、でしょう」

 

間髪入れずに答えた。

レリックでも、時期的に論文コンペでもなく、――ホンボシはそこにある。

 

「――そう。もし本当だとしたら大ごとになりそうね。それならば達也さんの出番があるのかしら」

「その際、私は彼の力を解放することに躊躇いません」

 

はっきりとそう述べると、画面の向こうの麗しい女性は先ほどの関東支部――副本部掌握・破壊計画でも動じなかった、湛えてられていた笑みを消した。

 

「どういうことかわかっていての発言、なのでしょうね」

「避けたい事態ですが、七草と十文字が動いたとて、食い止めるには足りないと思われます」

「そうね。まさか彼らも、魔法協会関東支部が狙われるなど予測もできないでしょうからね」

 

わたくしでも貴女の口から出なければ信じがたいわ、とのお言葉を頂戴した。かなり高評価をいただいているようだ。

だが当然四葉はこの後事実確認に動くだろう。何の確証も無く勘だけで動けるような組織ではない。

狙いがわかっていない状態で調べるよりは調べやすくはなるはずだから、多少時間短縮に役立てられることを祈る。

こんな突拍子もないとんでもない発言を、一蹴するでもなく聞き入れてくれる関係性になれたことはとても喜ばしいが、そのまま感情を表に出すことはできない。

まだまだ油断のならないご当主様ですから。淑女はこれくらいの腹芸ができなければ務まりません。

 

「ありがとうございます」

「では深雪さん、あまり無茶はされないようにね?」

 

最後の釘刺しは何かを感づかれたか。

ふう、と大きなため息を吐いてから、気晴らしに料理に取り掛かる。

 

(あー、美女の表情抜け落ちた顔めっちゃ怖かったー!!)

 

内心ずっとぷるぷる震えていた。よく淑女の仮面がもってくれたものである。

お兄様のお帰りはもう少しかかるだろうから、あまり消化に悪いものはやめた方がいいだろう。

大根おろしも添えたハンバーグがいいかもしれない。あれなら一応がっつりお肉だから食べ応えもある上に消化にもよい。

もう難しいことはこれ以上考えたくは無かったと脳内が拒否していたのかもしれない。お兄様に何を食べてもらおうかを考え、その工程を脳内で組み立てる。

真っ暗なモニターに背を向けて、すぐに準備にとりかかった。

 

 

NEXT→

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。