妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
作り終えて机に並べても、お兄様は帰ってこない。
料理には保温のため空気の幕を張っているので熱が逃げることはないから出来立ての状態を保てるので問題ないのだけど。
何かしていないと落ち着かなくて今度は明日の朝食の仕込みでもして待っていよう、と再度キッチンに立とうとしたところで兄様は帰ってきた。
玄関まで迎えに行って、
「おかえりなさいませ、お兄様。お風呂になさいますか?ご飯になさいますか?」
「深雪で頼む」
…お約束かな、と思って一応やってみたけどお兄様、そちらは選択肢に御座いません。
しかし悲しいかな、ツッコむより早く問答無用で抱きしめられてから、先に連絡してくる、と電話に向かわれた。
お兄様ってこんなお茶目だったかな。楽しくていいけどね。…代わりに心臓持たないけど。
さっと用件を済ませてきたというのにお兄様はラフな服に着替える余裕もあったらしい。行動が早い。もしや藤林さんと電話をしながらお着替えに?映像電話ではないんだよね?ちょっとドキドキ。
「お疲れ様ですお兄様」
「おや?新婚さんごっこはもうお終いかい?」
「もうエプロンは外してしまいましたので」
「よく似合っていた。やっぱりあれを買ってよかったな」
今日の帰り道、美月ちゃんがエプロンを買うと言うので付いていったのだ。
だって、美月ちゃんがエプロン!どんなものを買うのか気になるでしょう!
エリカちゃんは自分の分は買わないだろうけど興味が無いわけではないみたいだし、選ぶくらいは付き合ってくれるらしい。付き合いがいい。
お友達との放課後のお買い物!ファンとしては見逃せないイベントに浮かれていた。
目的地に着いて色々見て回ってたのだけど、気が付けば私の横にはお兄様がエプロンを持って佇んでいた。
元々エプロンは何種類か持っていたので初めから私の分は買う予定になかったのだが、お兄様はスイッチが入ったのか乗り気になってしまい、この間のショッピングの再来のようにいろいろエプロンを当てられてしまう事態に。
とはいえエプロンにサイズは関係ないから実際に着せ変える必要がなくて、この前に比べたら遥かに楽ちんだけども。
初めニヤニヤきゃっきゃして見ていた二人の表情が途中から引きつり、呆れに変わっていったのにお兄様は止まらない。お兄様は深雪ちゃんのことに妥協しないから。
だんだん耐え切れなくなって、最後にお兄様が手にしたものを掴んで無理やりこれがいいと終わらせたのだが、それがまさかの以前断念した新婚さん風エプロンだった。
青ざめる私、笑うお兄様。かわいそうなものを見る二人の友人。
ギャグ漫画のように秋風が吹きぬけていった気がした。
そんなこんなで一応買ってもらったものだから、とさっそく身に付けて料理していたのだけど、玄関に迎えに行ったらもうそのシチュエーションにしか見えなくて。
オタクはその場のノリとテンションでやらかす生き物だから。
「もう!それの話はいいのです」
「とても可愛らしかったよ。疲れが吹き飛んだ」
「ならよろしゅうございました」
拗ねたように答えれば、揶揄ったわけじゃないんだがな、としょげた顔を見せるお兄様だけど騙されませんからね。ちゃんと口角上がってるの見逃しません。
夕食を食べ終わったお兄様はソファに腰を下ろしたので用意したコーヒーをそちらに持っていく。
「ありがとう。とりあえずどこから話そうか」
横に腰かけるように促され、自分のカップを持ったまま横に座った。
なぜコーヒーを机に置かず持ったままかって?自衛のためです察してください。今日はすでにお兄様を過剰に摂取した気分なんです。これ以上のお触りは命に係わる。
お兄様は一呼吸おいて、語り始める。まずは自身の研究が次のフェーズに行ったこと、そこに飛んで火にいる夏の虫と言わんばかりに求めていた技術の詰まったレリックを彼女が持ってきたこと。
そして、それを狙ったと思われるグループに襲撃されたこと。
怪我を負ったことをお兄様は言わなかった。今は修復されているから必要ないと思ったのか。…きっと心配させたくないということだろう、と微かに薫っていた臭いに気づかないふりをして、撃たれただろう位置から視線を引き剥がした。
「最近ずっと錬金術系の文献を調べていると思っておりましたが、魔法式を一時的に保存する方法を探してらしたのですね。そして、偶然にもその謎を解くカギになるかもしれないレリックがこちらですか」
宝石箱を開け見せてもらったのは赤みがかった半透明の勾玉。
正真正銘、これがキーストーンだ。
「これが、お兄様の夢を現実にするかもしれないレリックなのですね」
ただのガラス石にしか見えないけれどこれにはとんでもない価値がある。
そう思うといっそうキラキラと輝いて見えた。
それを受けてお兄様は少し照れたように苦笑して口を開く。
「まだ夢物語だよ。でも、そうだな。ここまでお前を期待させたんだ。精一杯応えようと思う」
時折顔を出す年相応のお兄様に胸が騒いだ。
このお兄様の照れたような、はにかむような顔が好きだ。滅多に見ることはないけれど、今この時、彼は16歳の少年であると実感できる。
「できますとも、お兄様なら。この私が保証します」
「心強いよ」
そう言ってお兄様は手を伸ばすと、手の内にあったコーヒーカップをさらっと抜き取ってテーブルに置き、私の体を抱き寄せた。
…わあ。姑息な作戦気づかれてたっぽい。
微笑むお兄様は、けれど揶揄いモードでも色男モードでもなかった。
「予想した通り、あの人は襲われた。そこいらの組織ではないだろう。コミューターを外部操作したんだ、やることが大胆過ぎる。手口が荒い。このレリックを狙っているだろうから、この周辺も騒がしくなるだろう」
「ではどこか、…研究所に預けに行くのですか?」
「それが妥当だろうな。…だが軍もこんな無茶な依頼をするとはな」
「ありえないことですものね、レリックの複製だなんて。飛行魔法を実現されたからこちらも、と期待したのでしょうか」
「だとしたらそれは楽観が過ぎると思うが。まあお陰で俺はこれに触れる機会を得られたわけか」
まずは分析を試みるか、とお兄様はすでに研究者の顔になっていた。
寄り添って座りながら、喫茶店でも言っていたことを思い出す。
私に、何ができるだろう。
お兄様はこれから論文コンペにレリック解析、そこに付随するトラブルに巻き込まれつつ魔法師の拠点を潰す計略も阻止しなければならなくなる。
その負担をどれだけ減らしてあげられるだろうか。そのために自分が何をできるだろうか。
ひと月しかない。それでも可能な限り足掻いてみよう。
――
生徒会の仕事は論文コンペ関係なしに日々増えては片付けてを繰り返す。
新しく加わったほのかちゃんは、どんどん新しいことを覚えては作業を熟そうと必死で、中条会長がそこまで肩ひじ張って頑張らなくても、と宥めてもあまり効果がなくがむしゃらに頑張っていた。
早く皆に追いつこうと必死なのだ。
だけど焦りはミスにもつながる。あまり急いては成せるものも成せなくなる。
案の定、急ぐあまり彼女は生徒会室にエラー音を響かせるようになった。
「ほのか。一旦休憩よ。そんなに貴女が一人張り切ってしまうと、中条会長も頑張らなくちゃ!って焦らせてしまうわ。会計の五十里先輩がいない分、頑張ろうって気合はわかるけどね」
お茶にしましょう、と皆にお茶を配るとほのかちゃんは、真っ赤になって中条先輩に謝り倒した。
うーん、そういうところがまた相手を委縮させてぎこちなくなってしまうのだけど、お兄様相手だけじゃなくここでもこうなっちゃうのは問題だなぁ。
「ねえほのか。何が心配なの?貴女は十分自分の仕事ができているわ」
「…でも、深雪は五十里先輩の分の業務も同時にやってるのに」
「それは前も言ったけど私は4月からやっているのよ?差が出るのは当然でしょう」
「それは!そう、だけど」
「それとも、私は仕事ができない方がいい?」
びくん、と体が跳ねる。
違うのだ、と慌てて首を振るけど、うん。乙女心って複雑だよね。
お兄様に褒めてもらいたくて一生懸命で、だけどそのお兄様の近くにいる女の子は、もっと手際よく作業してるから比べられるのも恥ずかしくて――だから早く追いつきたくて焦って空回りをしてしまう悪循環。
「大丈夫。昨日のほのかより今日のほのかの方が上手になっているから」
いつもお兄様にやってもらっているように頭を撫でる。
するとほのかちゃんはみるみる涙を浮かべて、ぽろぽろ泣き出してしまった。
相当ストレスだったんだね。追い込まれて苦しんで。
「頑張り屋さんねえ。いい子いい子」
抱きしめて、頭を撫でる。
肩がどんどん湿っていくけど気にせず撫でる。ひたすら撫でるし、何なら背中もぽんぽんしちゃう。
「ごめ、ごめんなさいっ。わ、わたし、はやく追いつかなきゃって」
「そうね。いつも頑張っていたわ」
「でも、でも深雪、一人で何でもできちゃうし」
「何でもはできないわ。だから分担するのよ」
ほのかちゃんにとって私は友人でもあるけれど恋のライバルだと意識されているから追いつこうと必死だったんだね。
だけど急激に成長しようとすれば無理がたたって綻びが出てきてしまう。呼吸をすることも忘れてしまえば苦しくて当然だ。
どこかで必ず息継ぎをしなければ。
「うう~ごめんねみゆきぃー」
「ちゃんと謝れて偉いわね。いい子」
うんうん、切羽詰まっていたね。苦しかったね。
でもね?えっとね、そんなにぎゅうって抱きしめられちゃうと、とんでもないボリュームによる弾力がね?
役得は役得だけど背徳感もあります。
顔を上げたら真っ赤な顔した中条会長。
え、見ているだけでも赤くなるの?そこまでいかがわしく見えちゃう⁇バックに百合の花がちりばめられてます?
そんなあわあわしないで大丈夫ですよ。見ちゃいけないものじゃないから。ただ慰めているだけだから!
そこへノック音と共に雫ちゃんが入室。
ようこそ混沌(?)の場へ~。
雫ちゃんのスペキャ顔可愛いね。
「…とりあえずほのか、場所代わって」
「ええ!?」
「やーだー。今深雪は私のなの~」
あらま。私のために争わないで~ですか?
「ほらほらほのか。そろそろ泣き止んで。可愛いお顔が台無しよ。雫もお疲れ様。ハグは順番こね」
最後のぽんぽんをするとほのかちゃんはゆっくり離れていった。うわあ、肩びっしょり。ささっと魔法で乾かしましょう。ついでによく冷えたタオルも作る。これくらい息を吸うくらい簡単だからね。
「ありがとう深雪」
「どういたしまして、っ、雫待てなかったの?しょうがないわね」
ほのかちゃんが離れた直後横からタックルのように抱きつかれました。
はい、ハグしましょうね~。私の友達たちが可愛い。
「深雪さん、手馴れてますねぇ」
「中条会長もいかがです?」
感心されたので誘ったら固まられた上、めちゃくちゃ首を振られました。
そこまで拒否しますか?ショックですよ。あとで隙を見て抱きつきにいこう。
ほのかちゃんも雫ちゃんも落ち着いて作業再開。仕事はまだまだありますからね。お兄様たちが来るまでは頑張りますよ。
雫ちゃんは生徒会役員ではないけれど、ほのかちゃんの手伝いを率先してやってくれる。
助かります。
日もすっかり暮れて、そろそろ作業も終わる頃、ノックと共にお兄様がやってきた。五十里先輩も一緒だ。その横には当然のように花音先輩もいる。
「ごめんね。仕事任せっぱなしで」
「こっちは大丈夫だから。五十里君たちはコンペに全力で挑んで!」
中条会長の返答に、先輩は恥じらう乙女のように可愛らしく微笑む。
うん。中性的っていうよりこれもう蠱惑的って言ってもいいんじゃないかな。免疫ない人ならそっち系の扉開いちゃうよ。
お兄様はこの先輩とずっと一緒で大丈夫だったんだろうか。惑わされてもおかしくない可愛さ。
「兄さん、お疲れ様」
「ああ、深雪たちもお疲れ様――ほのか、大丈夫か?」
「は、はははい!深雪のお陰で、もう大丈夫!」
うーん、全然説明になってないけど顔色はマシになったかな。
いくらタオルで冷やしても泣いたとわかる赤い目元に気付いたお兄様が声を掛けたけど、気づいてもらって情けないやら、でも嬉しいやらで舞い上がるほのかちゃん。それを横で抑える雫ちゃん。
よくわかってないが、私が何かをしたということだけは分かったお兄様はちらりとこちらを見るけれど、とりあえず微笑んで返しておく。
「会長、今日はもうおしまいにしますか?」
「そ、そーですね。もう帰りましょう!」
会長の号令の下、下校することになった。
五十里先輩は花音先輩と一緒に帰っていき、中条会長は素早く動いてもう遠くへ行ってしまった。
なんか、警戒されてます?小動物でも野生の勘が強いのか、チャンスを狙っていた行き場のない手が寂しい。
「じゃあ俺たちも帰るか」
「はい!」
元気に答えるほのかちゃんに微笑む私と雫ちゃん。
お兄様はもう慣れたのか、気にせず歩き出す。
生徒会室で起きた今日の出来事を、ほのかちゃんは話そうとしなかった。
恥ずかしかったんだろうな。
他愛ない雑談をして駅で別れた。
「それで、ほのかはどうしたんだ?」
「一生懸命頑張りすぎてちょっと破裂しちゃった感じでしょうか。でももう大丈夫です」
「深雪が慰めたのか。羨ましいな」
「なぜそこで羨ましがるのです?よかったと安心するところでしょう」
具体的にどう、とは話さなかったが、ここしばらくの彼女の張りつめた様子を見てなんとなく察知したのだろう。
お兄様は深く聞かないように話をそらした。
「深雪に頭を撫でてもらえるのは気持ちがいいからね」
「それくらい、いくらでもして差し上げますから」
「言ったな?」
そんな、言質取ったぞって顔しなくても。
頭撫でるくらいよくやりましたよね?
「今日もいっぱい頑張ったお兄様は偉いです」
とりあえず有言実行で撫でてみる。
お兄様もサラサラですよね。
私のに比べて芯がしっかりしてるような固さはあるけど。
でも背が高いからちょっと届きにくくて後頭部になってしまった。
するとお兄様が予告もなく私の体を抱き上げて、自身の頭を突き出してきた。
…そこまでして撫でられたかった?
周囲に人は見えないけどコレ監視されてるのよね?間違いなく見られてるのよね⁇…気にしてもしょうがないか。
家に帰るまでずっと撫で続けました。
そしてその日の夜、事態は動き出していた。
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