妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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横浜騒乱編④

 

 

私が知ったのは次の日の朝。

 

「ハッキングを受けた。動き出したようだな」

「狙いはどちらでしょう」

 

レリックか、論文コンペか。

論文コンペも警護を付けるかと提案されるくらいには狙われる行事の一つ。

タイミングから言ってレリックの可能性が高いがはっきりはしない、とのこと。

とりあえず、学校でほかのメンバーが被害にあってないかを確認しようということになった。

 

(ということは今日、彼女も動く)

 

平河先輩が自らの意思で辞退したことを知らぬわけでもないだろうに、復讐心に飲まれて周囲が見えなくなってしまう彼女。

壬生先輩の時と同じで心の隙を突かれたのだろうが、あちらはセミプロ、こちらは超一流の術者が暗示をかけている。

彼女は二科生のヒーローであるお兄様に憧れていた。だがそのお兄様のせいで、大好きな姉が大舞台から降りる羽目になったと思い込んだ。

関心が高ければ、その分裏切られたと思うのも無理のない心理。そこを利用された。

利用されただけのはずなのに彼女自身、動機があることを自覚していたことによりすべて自分の意志でやっていると思い込んでいるからこそ行動に迷いが無い。どんな危険があろうとも躊躇わない。

恋する乙女は一直線。それが一転恨みに変わった時も同じだけ行動力を持つ。

むしろ想いがあった分、憎しみは募って更なる行動力に変わったかもしれない。そこを利用されたのだ。

敵ながら上手いやり方だと思う。

彼女の暴走を起こす前に止めるか――否、これも強制力が働いて第二第三の障害が現れるだけ、か。

風紀委員になったわけでもないので原作よりも恨みを買うことは無いはずだけど、密かにお兄様に憧れ、嫉妬する人がいないとは限らないから。

 

「お兄様、お気をつけてくださいませ」

「そうだね。でもレリックの件だったら、深雪だって狙われる可能性があるんだから気を付けるんだよ」

 

はい、と答えて一緒に登校する。

途中合流するエリカちゃん達と他愛なく話し、別れて教室に向かいつつ、目を閉じた。

目には見える事以上に集中すれば多少感覚でもって捉えることができる。

サイオンの動きが微かに違う。

何がどう、といえるほど形づくって見えないのは、相手の術が巧妙なのか、プシオンが影響しているのか。

大陸の魔法とは厄介なものだ。前世の原作アドバンテージと、様々なオタク知識を総動員しても現実にわかるのはこの程度。

 

(もっと、知覚のレベルも上げていかないと)

 

持っている深雪ちゃんスペックはとんでもなく高いのだ。

これをさらに能力値を向上させることができれば有利になる。前世のゲーム脳が、私にレベルアップを図って力を得よと訴える。

基礎能力値が高ければ高いほど能力が伸びやすいのだと前世で学習してますからね。え?それはゲームの話だろう、って?

ゲームは人生の縮図ですよ。経験値を溜めればできることが増えていくのは現実でも変わらない。

もうね、深雪ちゃんスペックはとにかくすごかった。鍛えれば鍛えるほど身に付く。それだけ深雪ちゃんには伸びしろがあった。

原作ではお兄様が一番だから出しゃばるつもりはない、と能力値を上げることは控えていた。

…一人でも十分やっていけるだけの強さを持っていたらお兄様が離れていってしまうのでは、という恐れもあったのだろう。そんなことは無いのにね。お兄様はたとえ深雪ちゃんが最強になろうとも、自分が敵わない力を持っていようとも、大切で守りたい妹には変わりないのだ。

私はそれを読者側として知っていたので遠慮なく能力向上を目指している。

力を持つことはそれだけ救う手段が増えるということに繋がるから。

力と知識。この二つが合わさることで、今、この景色が見えている。

こんなサイオンの流れなど、見ようとしなければなんてことない風景だからね。

どこの魔法を構築するのに使われていて、どう作用しているかなど誤魔化すように使われたら特殊な眼でもない限り目を凝らしたところで、そうわかるものでもない。四葉の魔法師もよくそうやって誤魔化しているからね。そういう術があることを知っている。

ここに漂うサイオンは四葉の隠ぺいに比べると少し雑なところがあるようだ。

こうして注視しているとなんとなくだが違和が生じる。自然のようで異なる流れ。

その上同時に微かに感じ取れるざわめきのような感覚。

 

(すでに監視の目は送られている。でも私に向けられたものではない、と思う)

 

お兄様も感じているのかもしれないが、標的が私ではないからそこまで重要視していないか。

決めつけるには早いが、私たちではなく彼女についている監視かもしれない。

彼女はG組だからお兄様の教室に近いため、レリック絡みでお兄様狙いとも取れるか。

 

(ややこしい。敵の狙いや思惑が多すぎて何に対しての監視かが読みづらい)

 

かといってこの監視に対し何かアクションを起こせるわけでもない。

 

 

「お、おはよう司波さん!」

「おはよう」

 

――ともかく、今は私にできることを。

 

 

――

 

 

風紀委員長から不審者に襲撃されたとの情報が入ったのは、お兄様から買い出しに行ってくると連絡を受けた一時間後だった。

不審者を止めるため魔法を行使したこと、閃光弾や改造バイクを使用していたことで逃げられたこと。そしてその不審者は当校の制服を纏った女の子だということが報告された。

中条会長は驚きすぎて椅子から5㎝は飛び跳ねた…ように見えた。こんな時だけど、可愛い。

しかしながら襲撃者の顔は見ておらず、本当にうちの生徒かはわからないということ。

まあ、制服一枚でうちの生徒だ!なんて単純に判断はできないからね。むしろその判断ができるだけ冷静に物事の分別が付いているようで何よりだ。…とはいえ犯人一高女子生徒そのままなんだけどね。

 

「新歓の時の録画機能を持った端末は持ってなかったのですか?」

「……学校外では使えないのよ」

 

多分規則でそう決まっているのだろうけど一瞬その可能性があったか、という顔は見逃さないですよ花音先輩。

こんな警戒が必要な時くらい学校外でも使えるようにルール改正が必要だね。せめて学校区域くらいは生徒を守る為に地域に協力を仰ぐ必要がある。けど、これは後回しだ。

改造バイクに閃光弾とは穏やかじゃない。正直警察沙汰である。

でも先輩も会長も警察を介入させる気はないようだ。論文コンペでは毎年何かしらトラブルがあり、魔法科高校は特殊で一般の警察では手に負えないことはわかっている。

非魔法師に悪印象を与える恐れがあるトラブルは、できるだけ学生内で、という不文律でもあるように外部に頼らないのが暗黙の了解だった。魔法師のことは魔法師内で。

…違法改造バイクと閃光弾は一般の警察も対応する物のような気がするけど魔法師が関わっている時点で不信感を抱かせるかもしれないからって、本当に世知辛いよね。マイノリティは生きづらい。

自分たちの身は自分たちで守らないといけないってことだね。

なら、そのためにも動きましょう。

 

「会長。まだ可能性の域を出ませんが、4月のように外部からわが校の生徒が悪用されている可能性があります」

「ええ!?」

「なんですって!?」

 

…中条会長は相手を見てないから驚くのもわからなくはないけど、花音先輩は直に見たのでしょう?なぜ驚く⁇うちの生徒じゃないと信じたいのかな。

残念ですが事実は変わらないのでサクサク誘導するとしますか。

 

「まずは最悪のケースから考えましょう。もし一高の生徒であったならを前提に考えてみてください。改造バイクと閃光弾。どうやって一般の生徒が揃えられるのでしょうか?けして安いものではないと思うのですが」

「で、でも自力で作ったとか、よくニュースでも闇ルートで手に入れたとかやってるじゃない」

「あくまでも単体の犯行だと、花音先輩はお考えなのですね?」

「…違うって言うの?!」

 

単体であってほしいと思うのは自由ですけどね。その方がすぐ解決するし。

さっきの冷静な分析はもしやここに来る前二人の話をそのまま述べた感じです?二人なら道すがらそれくらい推理しそう。

 

「監視がばれて逃げる為だけにそれらのアイテムを使うなんて、どれだけ用意周到なのでしょう。何を目的として五十里先輩と兄さんを狙ったのかわかりませんが、穏やかな装備ではありません」

「ちょっと待ってよ!二人を狙ったのだから狙いはコンペでしょう!?」

「コンペを狙うにしても何が目的か、ということです。論文を盗もうとしているのか。発表を妨害したいのか。個人的に恨みがあり失敗を目論んでいるのか。――彼女の様子はどんな感じでしたか?」

「ど、どんなって」

 

先輩は思い出そうと上を向く。

その間中条会長はメモを取っては頭を抱えていた。ほのかちゃんもおろおろしている。

 

「そうですね、例えば焦ってたり混乱していたり、冷静だったり、強い意志のある目をしていたり――」

「それだわ!」

 

いくつか例を挙げると花音先輩はパッとこちらを見た。

 

「冷静じゃなかった、焦っていたと思う。でも混乱はしてなくて――だけど強い目をしてたのは覚えてる。あれは憎しみのように見えたわ」

「…憎しみ、ですか」

 

その言葉に中条会長たちが体を震わせた。

私怨ってことはうちの生徒の可能性が強くなったことに花音先輩も気付いたのか顔色が悪くなった。

 

「ということは何か恨みがあって妨害を?」

「でもそれだったらやっぱり個人で動くんじゃない?」

「先輩にはその恨みは彼女自身の感情に見えた、ということですね?」

「え、ええ」

「洗脳されて利用されているようには見えなかった、と」

「――先ほどから深雪さんはその話に触れてますが、もしかしてそれは剣道部元部長や壬生さんみたいに操られてるってことですか!?もしそうなら、そんなの見分けがつくはずないですよ!」

 

会長の悲鳴のような声に、一同口をつぐんだ。

そう、洗脳はとても気づきにくい。たとえ身内でもおかしいなと思っても、その程度の違和感しか抱かない厄介さがある。

一高では4月の件があって、定期的にマインドコントロールを受けていないかチェックをするようになった。けれどそれも月に一度。その一度を受けた直後にコントロール下にあればチェックはすり抜ける。

一旦その話を棚に上げ、今の話を踏まえたうえでもう一度犯人を絞り込む。

 

「産業スパイでもおかしくはないですが、前例を見る限り、いささか乱暴な手口に思います。昨日は我が家にハッキングがあったと兄さんが言っていました。ですがただの産業スパイなら、個人宅へのハッキングなどリスクが高すぎると思いませんか?」

「それは…」

「確かに尋常じゃない、かもだけど」

「でもされたのは達也さんの家だけで、五十里先輩や市原先輩は何もなかったんですよね?」

「ええ、啓も先輩もそんなことは言ってなかったわ」

「な、なら達也さんが狙われているってことになるんじゃないですか?!彼なら九校戦でも活躍していましたし、何より凄腕エンジニアですし、なにか技術を狙われているとか――」

「恨まれているとか、ね。ないとは言い切れないんじゃない?」

「あ、ご、ごめん深雪…」

 

ほのかちゃん落ち込ませてごめんねー。でもその流れが欲しかったのでグッジョブですよ。

 

「今後の動向に注意した方がよさそうですね」

「…私は啓たちの護衛に戻るわ」

「よろしくお願いします」

 

花音先輩が去って、私たち三人は顔を見合わせた。

 

「…深雪さん、またブランシュが関わっていたりとか」

「判断材料が足りませんが、それが原因で恨まれたのだとしたら私も標的のはずですし、論文コンペが狙われるにしても、そもそもどうして兄が参加していることを知っているのでしょう?」

「え?どういう…あ!そうか」

「そうです。兄さんはあくまで代打で参加することになったのです。まだ論文を提出していない現在、知っているのはわが校でも活動に注目している人間くらいです」

 

そうなのだ。論文コンペでお兄様を狙おうと考えることができるのは、最近代表が変わったと知る内部の人間しかいない。

六月から決まっていたのならまだしも、ついこの間出場が決まったばかりのお兄様に復讐するために改造バイクや閃光弾など前もって用意するなんてコネが無い限りできない。

 

「こ、これ明らかにその子一人じゃできないことなんじゃ」

「大ごとになる前になんとかできればいいのですが」

「み、深雪ぃ、不吉なこと言わないで」

 

残念だけど言わなくてもなるのよねー。だから皆で心構えしましょ。

 

「先生方には情報の共有しておいた方がよさそうですね」

 

今日は生徒会の仕事は、皆心ここにあらず状態で捗らずに帰ることになった。

ほのかちゃんは帰り道、必死にお兄様を心配していたけれど、お兄様は大丈夫だよと苦笑気味。

うーん、温度差があるなぁ。

駅でばいばいしてコミューターへ乗るとお兄様はため息を一つ。

 

「お疲れ様です」

「…すまないな。お前の前でため息を吐くなど」

「気になさらないでください。こうして飾らず自然体のお兄様を見せてもらう方が、私には嬉しいのです。かっこいいお兄様ももちろん好きですが、たまには弱った姿を見るのもまた、特別な気持ちになります」

 

高校へ進学する前に封印した好き、という言葉をまた使うようになってお兄様はご満悦のようだが、すぐに少し困ったような顔に変わる。

 

「あまり俺を甘やかしすぎない方がいい。図に乗ったら困るのはお前だろう?」

「…そこは、お兄様が加減をしてくれればよろしいでしょう」

 

図に乗るお兄様。たまに見られますね。そしてご指摘の通り大変困らせられます。

甘やかしすぎてるのかな?…お兄様相手だとどこまでが甘やかしになるのか線引きが難しい。

甘やかされずに育ったお兄様の甘やかされラインは低いのだ。

ちょっとしたことも、お兄様にはとてつもない甘やかしに感じるみたいで。

この匙加減、難しすぎない?お兄様もそろそろ甘やかされ耐性レベル上げてもいいと思うんだけど。

 

「加減か、難しいな。深雪は俺を喜ばせるのが上手いから」

「…お兄様こそ。そうやってすぐ喜ばしになる」

 

これ、ずっと終わらない奴!

乗ったばかりだから家に着くまでまだあるよ。

ほら!お兄様の手が伸びてきた。

 

「心配だな。これくらいで赤くなるなんて。こんなところを他の男が見たら勘違いをさせてしまうよ」

 

頬を撫でながらとんでもないことを言う。

これくらいって、お兄様ご自身の威力をご存じない?その手つきで頬を撫でないでほしい。

あと目ね。その甘い目こそ他の女性が見たらこの人私を落とす気だー!って勘違いするからね?ほのかちゃんなら一発で落ちる。

恥ずかしくなって目を閉じるんだけど、そうするとお兄様の手が頬から顎に流れて上向かされた。

 

「二人きりで目を閉じるなんて、深雪は危機管理が足りないね」

 

(んぐっ…、破壊力がひどい…。もう、なんていうか色気がね…どれだけストレス溜めたのお兄様)

 

心が白旗振ってます。これ以上の攻撃はやめてください。死んでしまいます。

 

「もう、戯れが過ぎますよ。お兄様」

 

目を開いて睨んで見せればお兄様は笑ってすまない、と手を離してくれた。

お色気モードも引っ込んだ。

助かった。今日も命拾いした。

家に着くとお兄様はいつもより力強くハグをする。

 

「油断した。あそこで取り逃がしたのは失敗だった」

「どうにも複数の事情が絡んでるようですね」

 

レリックと論文コンペ、そこに組織と個人が絡み合う。

まさかお兄様も色々が重なりあって、偶然一極集中するなんて思わなかっただろう。

生徒会で上がった話をすれば、お兄様は「恨み、ねえ」と零す。

 

「恨みを買ったとしてもどれだ?」

「論文コンペがつぶれてもいい恨みなら、やはりコンペに絡んだ人物でしょうか」

「辞退者による繰り上げ、か」

 

市原先輩たちが狙われず、お兄様がメンバーに加わった途端標的されたのならお兄様に向けられた恨みということになり、考えられる可能性で一番濃厚なのはそれになるよね。

 

「ですが、家をハッキングしている人の目的と思われるのが魔法理論に関する文書ファイルだとすると、明らかに学生ではないでしょう」

「家を狙うくらいなら校内で狙った方がはるかに楽だしな。やはりそちらはレリックか」

 

タイミングが重なり過ぎて嫌になる。

 

「もしも、ですがこれで生徒側がレリックの回収もしようとしたならば、またブランシュのように使われている可能性も出てきます」

「――大亜連合」

「可能性はゼロではないでしょうね」

「困ったな。今の状況で家から軍に連絡するわけにも――藤林さんにお願いしてみるか」

 

そこでようやくお兄様は私を離し、端末を取り出して操作しだした。

証拠は何もない状態。ただの可能性として伝えるだけに留めたそうだ。

 

「明日は論文と発表原稿とプレゼンデータを学校に提出する日だ。動くと思うか?」

「その日はこちら陣営が最も警戒する日でしょうから、危険を冒さず次の日以降になるのではないでしょうか」

「そうか」

 

ところで最近ハグをしたまま作戦会議をしている気がするのですが、これ何か効果あります?密着したところでいい考えなどでないと思う。

聞いてしまうとこれからずっとこの姿勢な気がしたのでお口チャックした。

こういう予感は外す外さない関係なしに本能に従いましょう。

安全第一。

 

 

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