妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
次の日は朝からすごかった。
何が凄いって、サイオンの流れが不自然なのだ。プシオンの塊がちらほら見えるし、コレ完全に舐め切った監視だよ。隠す気が無い。
昨日までのこそこそした動きが嘘のよう。ここ数日ばれてないから大っぴらにやっても大丈夫とか思れた?
学校の防犯ってどうなってるの!?って思うかもだけど、一応校内には入ってきていない。防壁に弾かれてます。防御魔法はしっかり発動しているんだけど、侵入はできなくても監視ってできるからね。遠視は防ぐのが難しい。
ただの防御魔法は外部からの侵入しか弾かない。その穴を突かれた形が浮き彫りになった。
その日は珍しく八人全員で帰ることになった。
っていうかお昼でも思ったけどエリカちゃんポニテ可愛いね。
ゆらゆら揺れるのがとってもキュート。私の目はさっきからずっと目の前のエリカちゃんの髪に釘付けです。
皆が論文コンペの話をしてるのは聞こえているけど、気になるものは気になる。
「…私も髪伸ばそうかな」
「雫、髪を伸ばすの?」
「だって、深雪気になるんでしょう?」
さっきからずっと見てる、と指摘されて恥ずかしくなる。
「なあに、これが気になるなんて。深雪は犬属性だと思ってたけど、猫でもあったのね」
「私ってそんなに犬っぽかったかしら?」
そんな風に見られてたの?と驚けば女子はうんうん頷き、男子は苦笑した。
お兄様はというと、私と同じで驚いてるね。考えたこともない、といった感じかな。
「深雪さん、達也さんの話をされる時とか、嬉しそうにしてる姿がその、」
「ワンコが喜んで尻尾を振ってるようにしか見えないのよ」
ぐっ…思い当たることしかない。
確かにお兄様が褒められたり、こっちから自慢してると興奮してしまってそういった傾向は無きにしも非ず、な気が。
「深雪がいぬ…」
お兄様ー?なんか不穏な空気を察知してるいのですが、いったい何をお考えで?
「でも今の姿は猫じゃらしに飛び掛からんとする猫ですよね」
「ほんと、うずうずしてた」
「目もキラキラしてたしね」
ううう…結構見られてたのね、恥ずかしい。
皆の視線が生暖かい。
「深雪自身はポニーテールしないの?」
「それは――」
「ダメだ」
ほのかちゃんからの質問に、しかし私が答えるより早くお兄様からの却下が入る。
皆ぽかんとしています。
逆にお兄様は厳しいお顔。
「兄さん的にアウトなんだって」
「深雪が外でポニーテールなんてして見ろ。死人が出るぞ」
だそうです。
…いや、わかるよ。ポニーテールって人の視線集めるし、深雪ちゃんのちらちら見える白い項なんて、そうと思っていなくても視界に入れば目を逸らせなくなるし、チラリズムのせいで性的に見えないわけがないからね。色気やばい。
でもね、この場合の死人って製造するのお兄様だよね。見た者は殺す、的な。
流石に人間えっちい項見ただけなら死にはしないよ。拝むけど。
「…死屍累々なのは目に浮かぶな」
「達也が構えているのはサブマシンガンかな」
サブマシンガンなんて使わずいつものCADでも一斉掃射できますよ、お兄様なら。なんて無粋なことは言わない。
イメージです。あくまでもイメージ。
「それで海でも髪結わなかったんだ」
「私はどちらでもいいから」
お兄様が嫌がるならしませんよ。楽だけどね、ポニーテール。家では許されているのでたまにしている。
話題が尽きたところで次の話題に行けるのは、女子高生の特技じゃないだろうか。
エリカちゃんはまた前を向いて歩き出す。
「啓先輩が魔法使いじゃなくて錬金術師っぽいって話出た時、達也くんならなんだろうって美月が言ってたけどさ」
「ああ、あったなーそんな話。達也の場合魔法だけじゃなくて武闘派でもあるからなぁ」
「さっきの話聞いてアサシンとか意外にぴったりかも、とか」
思っちゃった、とエリカちゃん。サブマシンガンでは暗殺もへったくれもないと思うけど。
死人製造でイメージしました?
「あ、暗殺者ですか?!でもナイトなんですから聖騎士とか!」
「ナイトはナイトでも黒騎士だろ、達也の場合」
「暗黒騎士」
「もういっそのこと魔王とか」
「それは捻りがねーよ。どうせだったら魔王倒した後の、絶望的な強さ持った裏ラスボスじゃね?」
「ああ。今までの苦労を無にする圧倒的強さの」
皆意外にゲームの話できるね。
そして西城くんと吉田くんいい線いってるよ。お兄様敵に回ったら絶望しかないもの。
でも魔王か。
「兄さん、世界征服期待されてるみたいよ」
「深雪が望むならやってやれないこともないが」
…おっと、私の目の前に核弾頭のスイッチ置きます?押しませんよ私は。
「平和が一番なので」
「…よかったな。魔王の誕生が避けられたぞ」
ほんとにね。
お兄様ならやってやれないことないものね。その気がなくて何よりです。
何のかんのお話してたら、お兄様からお茶のお誘い。
そろそろうっとうしくなってきましたか。
こうして私たちは馴染みの喫茶「アイネブリーゼ」に入店。
それなりに繁盛しているこのお店は、運が良ければ八人机をくっつけて座れるのだが、あいにく今日はカウンターと机で別れることになった。
マスターも私たちとの付き合いに慣れたもので、お兄様に相変わらずモテモテだね、とジャブを一発。
対するお兄様もその髭剃ればマスターだってモテモテですよ、なんて。お兄様こう見えて結構社交的なんですよね。軽口での付き合いもお手の物。
マスターの顔は確かに髭が似合わない。だって可愛い系ですからね、どっちかっていうと。
いや、綺麗寄りかも?だから男らしい髭を生やしているのかもしれないけど、うん。このミステリアスなちぐはぐさ、どの層にも美味しくいただけてとってもいいと思います。どの角度からも美味しい。オタクの大好物。
見つめていたら、マスターからぱちんとウインクいただいちゃった!えっと、どう返そう?と思っていたら突然の目隠し。お兄様の手ですね。
「過保護だねぇ」
ちょっとしたジョークじゃないと言うマスターにお兄様は無言。
おおう、さっきまでの社交的なお兄様がいなくなってしまった。
「兄さん、兄さん」
手を外してもらってお兄様に見えるようにウインク一つ。
「うまくできた?」
人生初ウインクです。
しかしお兄様はまた目隠ししてきた。
え、だめだった?うまくできたつもりだったけど練習必要?鏡がないからどんな出来だったかわからない。
「…マスター、人の妹に変なこと教えないでください。死人が出ます」
「あはは~。ごめん。反省するよ」
なぜマスター納得しました?謝罪は必要ないよ。一体何を反省するというの。
全員のコーヒー注文にマスターは応えてサイフォンにお湯を沸かしながら、雑談に付き合ってくれた。
マスターは魔法の素質こそ持っていないが、魔法師と関わり深い土地で仕事していることもあって、論文コンペも知っていた。
そして横浜にある実家の店の宣伝までちゃっかりしてみせるマスターは、茶目っ気もあって抜け目ない隙の無さ。素敵です。
でもそのお店、所謂知る人ぞ知る情報屋さんでしたよね。大人の社交場。
いつかお世話になることもあるのかしら。
なんて話していたらエリカちゃんがお花を摘みに、西城くんは電話をしに出ていった。吉田くんはお絵かきをはじめ、お兄様にやりすぎ注意を言い渡されていた。
(――ああ、ままならない)
ほのかちゃんと話しながら、私はコーヒーを飲み下すと同時に気持ちに蓋をする。
彼らの成長のための試練。これも必要な犠牲。敵がいかに凶悪な相手かを伝えるための一コマ。
――知らない他人だ。気にしたところでどうにもならない。
ただテレビで流れるニュースのように他人事と聞き流せばいい。――流せればいいのに。
まだ早い黙とうを心の中で捧げる。
口に含んだコーヒーは、とても苦く感じた。
その後戻ってきたエリカちゃんは不機嫌で、すぐに帰ることになった。
USNAの非合法工作員に、最後の最後で出し抜かれたのだと。
勝てる自信があったから、相手が上手だったことが余計に悔しいのだろう。
けれどその相手はこの後――もう、リベンジはできなくなる。
でも糧にはできる。きっとエリカちゃんも西城くんも強くなる。
帰宅してからの今日のハグは私からお願いした。
少し長くなるハグを、お兄様は何も聞かずただただ抱きしめてくれた。
――
次の日の昼。やっぱりエリカちゃんはまだ何か悩んでいるようだった。
「まんまと逃げられたことを気にしてるんじゃないの。ただ…アイツの言ってた学校の中だからと安心するなってさ、まさか生徒に何かあるんじゃないか、って」
エリカちゃんは壬生先輩の友達だから、彼女のように利用されてる人間がいるんじゃないかと疑っているようだ。
そしてそれはお兄様も。
「ああいう後味の悪いのは御免被りたいけどな。だがまだ何かされたわけでもないのに、探してとっ捕まえるなんてできないことはわかっているだろう?」
「それは、そうなんだけど」
何もできないもどかしさというのは精神的にくる。
もやもやと落ち着かない気持ちにさせる。だからこそ妙に焦っておかしくなる。――その気持ちが痛いくらいよく分かった。
午後の授業は、再来週の日曜に迫った論文コンペ準備のためフリーとなっていた。おかげで生徒のほとんどはお手伝いに駆り出され、校内を走り回ったり、とんてんかんてん工作機器を製作・動かしながら、準備に明け暮れていた。
美月ちゃんもクラブでお手伝いとして、食べ物配布だったりの手伝いに駆り出されたりと、文化部も忙しそうだった。
そんな中、私は一人こっそりと風紀委員室へやってきた。
原作であればお兄様が片付けただろう部屋は、花音先輩の代になっても残念なことに誰も手付かず状態で、探すの大変かも、と危惧していたが目的の物はすんなり見つかった。
他の貴重品もちらほらあったけどあんな雑に置いていていいのだろうか。
今回は助かるが、流石に注意が必要だろう。CAD自体は安くはないのだ。管理が必要です。取り締まる側が誘惑を作っちゃいけません。
慌ただしく人が行き交う作業場に戻れば実験が始まるところで、装置の周りにはすでに人だかりができていた。
その中心で騒いで人垣を作っている人間がいた。エリカちゃんだ。おかげで見つけやすくて助かった。
近づくと西城くんや吉田くん、美月ちゃんもいる。でもちょっぴり他人の距離。
悪目立ちしていて気まずいよね。それでも傍に居てくれる優しさよ。いい仲間たちです。
そこに、護衛役として立ち会っていた桐原先輩と壬生先輩が合流した。――今だ。
注目を浴びているところに近寄って桐原先輩に話しかけようとしたのだけれど、その前に壬生先輩が振り返った。
「何か用?」
「はい。桐原先輩は護衛ですよね。この前、花音先輩と話して、何かあった時のためにこれを、と思いまして」
差し出したのは録画録音機能の付いた端末。これを見た先輩たちの顔はちょっと歪んだ。
壬生先輩も桐原先輩もお世話になりましたものね。
「なんか起こるって、そう思ってんのか?」
「むしろ起こらない道理がないので。――ただ、勘なのですが、壬生先輩。こちらは先輩が使ってもらえますか?」
「え、わ、私?私護衛でも何でもないんだけど」
それはそう。ただ彼氏のそばにいただけだものね。何かあれば手伝うつもりでもあるのでしょうけど。
仲がよろしいようでなによりです。
「…ま、司波妹の勘ってやつを信じるか。使い方は?」
あっさりお願いを聞いてくれた桐原先輩が、壬生先輩につけてあげる姿にきゅんと来たのは私だけじゃなく、美月ちゃんもはわわ、となっていた。わかるよ!はわわ、だよね。
使い方を軽くレクチャーして、そろそろ実験は始まるから、始まったらすぐにスイッチを入れるように伝えた。
そろそろ周囲を怒らせそうなエリカちゃんを回収してその場を後にする。
しかし、エリカちゃんと対立していたこの人物が風紀委員の関本先輩か。なんというか神経質そうな、体格のわりに線の細い印象の先輩だ。
風紀委員らしくない。渡辺先輩どういう基準で選んだんだろう?
正義感強そうなところがよかったのかな?もしくは成績優秀者とか?一応論文コンペに選ばれかけたのだからそれなりに優秀なんだろう。どうでもいいけど。
実験は粛々と始まった。
だが内容を知らない生徒には、何をしているかよくわからないだろう。
エリカちゃんはひたすら電球?と疑問形だ。吉田くんはよく勉強しているのだろう、いろいろ質問してきたが、ごめんなさい。私もそこまでは詳しくないのです。
軽い知識でしか返せない。力になれなくて申し訳ない。
実験は無事成功。歓声が沸き起こる。
イマイチ理解していないエリカちゃんには悪いけどこれ、ほんと難易度の高い技術なんですよ。なんせ持続的な事象改変力が必要になるもので。
光が消えた頃、上がった歓声が落ち着くと周囲の騒ぎも収まり、皆散り散りに戻っていった。
――そして事態は動く。
壬生先輩が唐突に走り出し、それに追随して桐原先輩エリカちゃん西城くんが続いた。
その先にはお下げ髪の少女。
そこまでを確認してから、生徒会室へと向かう。
私は、この後に起こる出来事について、花音先輩の意見とは異なり立派な正当防衛だと思う。
仕掛け矢まで仕込み、神経ガスまで使う相手にどう手加減をしろというのか。
しかも校内で一般生徒はCADを使えないとわかっている状態で、だ。
どう聞いても危険人物です。反撃して脳震盪にすることがなんだというのか。
4対1が卑怯?生死がかかっていてそんなことを言う輩がどこにいる。
言えるのはその場におらず、結果だけを聞いた、現場の状況を理解していない者だけだ――。
…叩き上げ系の刑事ドラマあるあるだよね。
「…それで、大学付属の病院で預かるそうよ」
花音先輩は五十里先輩を連れて生徒会室へやってきた。
壬生先輩から預かったという録画記録端末を携えて。
で、確認のため上映したらあら不思議。どう見ても正当防衛ですね。死に物狂いの抵抗には対する側も、死に物狂いにならないと大変ですからね。
「罪と罰は同じ比重でなければならない。その通りですね」
先輩の言葉をそのままそっくりお返しする。
「で、でも致死に至るようなものでは――」
魔法師ってこの辺の感覚が狂ってるのかな?魔法攻撃でなければ死なないと思ってる?
でもその割に4対1に対して言ってるからな…。たぶん自分基準になってるのかな?先輩だったらどうにかできる、と。
「先輩、お忘れですか?彼女一人の犯行だと、まさかお思いではないでしょう。彼女が情報を盗んで何になります?」
「あ!!…」
というより神経ガスは下手すると死にますからね?
先輩はようやく事の状況を理解したようで、顔面が蒼白になった。
「じゃ、じゃあ本当に彼女は洗脳されてということですか!?」
「で、でも洗脳ってわりに彼女は司波くんを憎んた発言を――」
「待って花音!彼女はこうも言ったよ『あの人だってそう言っていた』って。『あの人』ってことは誰かが彼女に入れ知恵をしたってことだよね」
どうしてあの時気付かなかったんだ、と後悔する五十里先輩に絶句する花音先輩。
中条会長はとんでもない事実に今にも倒れそうだ。
ほのかちゃんは、今日のところはそんなに忙しくないのでお兄様たちの手伝いチームに回っていてここにはいない。
「非合法な電子機器を彼女に与え、彼女の復讐をバックアップする形で、情報を盗み取ろうとした黒幕がいるのです。しかももし、彼女の攻撃がエリカ達のように実力ある、実戦も熟せる人間以外に向けられていたらどうなっていたと思いますか?優秀な魔法師の卵をドロップアウトに追い込んだのかもしれないのですよ」
「そ、そんな…」
「生徒会長」
「は、はい!」
「今すぐ保険医の安宿先生を通じて病院へ連絡を」
「な、なんで!?」
え、あれ?周囲を見渡すと誰もピンと来てない?あ、五十里先輩はまさかって顔になった。
「非合法なハッキングツール、閃光弾や改造バイクに神経ガスなどの仕込み矢をバックアップするような人間が、任務を失敗した彼女に何もしないでいるとお思いですか?どう考えてもバックにいるのはよくない組織です。そのよくない組織がミスを犯した工作員をそのままにしますでしょうか?何か余計なことをばらすのではないかと、口封じに動くのが鉄則だと思います」
「…鉄則、かどうかはわからないけれど可能性はあるね」
「啓!?」
「そんなっ…」
「あ、あ、ありえない…だって、彼女は自分でやったって…」
私たちは軍事訓練を受けているわけではない。特殊な専門の高校に通っているだけの未成年なのだと、彼女たちの反応を見て思い出す。
国防を嘱望される面では他の高校とは違うけれど、それ以外は青春を謳歌する普通の高校生と変わらない。
だから花音先輩たちのような考えが普通なのかもしれない。
まさかたかが高校の一大イベントに後ろ暗い組織が絡むなんて想像もできるはずもない。
一人の女子高生が自分勝手な復讐のため危険な武器を持っていても、彼女の心を心配はできても、その背後に何らかの組織が、なんて疑うことなど酷な話だった。
そのことに今ようやく気付いた。でも、もう事は動き出している。
「兄さんを恨んだだけの犯行と思いたいのであればそれでも結構です。彼女の動機は確かにそれなのでしょう。ただ、その度合いが狂わされているのは、彼女自身の力ではないことは『あの人』、との発言の通りだと思いますよ」
愕然とする花音先輩を支える五十里先輩の憂い顔…こんな時だけどヤバいね。未亡人にまで見えてきた。儚げで支えて上げたくなる。
魔法でもないのに魅了してしまうなんて、恐ろしい男子高校生がいたものである。
「この話はここにいる私たちと、司波くんと市原先輩、教員の先生方、あと護衛の方々だけにしましょう」
「会長、」
「あまり大ごとにしては混乱を招くだけです。ただ彼女のことは、司波くんのお友達も関わってますし、動機までは話してもいいと思いますが、背後にいる人の話はまだ触れないように。市原先輩には私の方から伝えます」
「では兄さんには直接私が」
「お願いします」
この辺りが妥当か。
生徒会は今日のところはこれで解散となった。
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