妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
向かう先は八雲先生の寺。なんでも練武場を改装したとかで。…お寺の練武場とは?などと聞いてはいけない。忍びには秘密がいっぱいなのだ。
今日はわくわく射撃体験である。
深雪ちゃんの能力は基本力押しだ。点で攻撃より面で潰す。早いし楽だけどおおざっぱ。
繊細な魔法も使うけど、おおざっぱな力押しが一番強い。攻撃しようとする敵の主導権を奪い、抵抗する術を無くしたところに襲い掛かるとんでもない出力の魔法――絶望しかない。
深雪様の通った後には草も生えない。
だが私はオタク。形から入り、理想を求める勤勉オタク。
魔法が使えるとわかったその日から、いろんなものを試しましたとも!
あんな魔法もこんな魔法も。世界は違えど使ってみたいと思うじゃないですか。
ただこの世界はまず基本魔法式ありき。どうしたら構築できるか考えるところから始めなければならないので、使ってみたくても想像したものを落とし込むのが大変なのだ。
…と、話が逸れた。
要はいろいろ試し、遠距離中距離近距離と、様々な魔法を身に着けたいと努力した結果、原作では磨いてこなかった射撃の腕前も、そこそこ位にまでなっていた。
射撃といったら、いつかやりたいワンホールショットを夢見ていろいろ考えましたとも!
カッコいいよね。相手と同時に銃を構えたところで相手の銃口に弾を打ち込むところとかとてもカッコいいシーンだと思う。
森崎くんちのクイックドローにプラス正確無比の射撃の腕前が無いと成立しない超一流の技!憧れる。
なんとしてもやりたいと色々頭を捻って考えて。相手の起動熱量を感知して、追跡機能を持たせて狙い撃てば撃ち落とせるんじゃない?というところまで行き着いた。
結果、魔法処理速度に物を言わせたワンホールショットが出来上がった。
…いや、うん。理想の形とは違ったけれど、これはこれ。
照準を合わせる時に固定じゃなく熱源(正しくは非魔法武器の熱源だけでなく、魔法発現熱量もなのだけど、この方がイメージしやすい)探知なので相手が移動しようが、追尾機能付きという反則的なワンホールショットが出来上がってしまったのだ。
わかりにくい?なら、もぐら叩きゲームのモグラの頭を出す起動音を感知した途端、ハンマーで頭が出るより早く叩き潰し、二度とモグラが穴からでなくなると想像してもらいたい。
しかもハンマーは一個だけじゃなく最大16個同時展開できるとなれば、どれほど非道なことか伝わるだろうか。モグラが素直に出てくれば二秒で終わる。
――そう、私の最大照準数は16。十分すごいことではあると思うんだけどね。
頑張って鍛えても、原作のこの壁は乗り越えられなかった。無念。これも強制力なんだろうか。はたまた上限が決まっていたのか。まだあきらめていないけどね。今後に期待。
さて、ではさっそく挑戦です。
髪を結ってCADを構え、しっかり足を踏みしめる。
気分は最高難易度のシューティングゲーム。ただし360度という前世では体験したことのない絶望的状況。しかし武器が変われば絶望度は変わる。
私の目標は、撃ち漏らした的の数に応じて向かってくる模擬弾をできる限り食らわないことと、時間制限まで立っていられること。
合図が鳴る。これは実地訓練ではなく反射を鍛えることに重点を置いた訓練。
意表を突く攻撃はあってもしょせんはプログラム。きちんと対処していけば――
(なんて甘っちょろい考えでした全方位こわいいいいい~~~!)
四方八方に現れる的を狙って照準を合わせるのだけど、的の数が多い。当然撃ち漏らす。
先ほど説明したワンホールショットのために構築した魔法は、相手の弾には反応するが、動きのない的には反応しないので使えない。
自力で目標に照準を合わせるしかない。処理スピードが速くても、サイオンの関係ない無機物の動きに反応できるほど、私の視野は広くない。狙う的をいくつも見落とし模擬弾が飛んできた。
そこでようやくワンホールショットの魔法を生かすことができるんだけど、こっちも数が多い!
撃ち漏らしを避けてブロックして、その間にも起動式を展開しての繰り返し。
2機のCADを駆使して、相殺を起こさないタイミングで起動、または相乗効果で増幅させてからの攻撃展開と、忙しなく頭と体を働かせる。
何とか一歩リードしていたかに思えていた攻防が劣勢に立たされたのは、足を汗で滑らせるという初歩的ミスを犯したから。
ひゃあ、と情けない声を漏らしながら、内心涙目パニックでも体は必死に防御に徹していた。
負けてなるものかと食らいついて、何とか体勢を立て直したところで先生からの終了の合図。
体の緊張が一気に解けて、その場にへたり込んでしまった。
息は荒く、心臓も痛いぐらい激しく音を立て、体にどれだけ模擬弾を受けたかなんて、見る余裕もない。
「お疲れ様」
「あ、ありがとうございます、お兄様」
息も絶え絶えにお兄様からタオルを受け取――ろうとしたら、腕を掴まれ、体を引き上げられたかと思ったら腰を支えられ、至近距離から全身隈なくチェックされる。
「怪我はないようだね」
派手に何度か転びましたからね。大丈夫です、と答えると部屋の端まで連れていかれて、今度こそタオルを渡されると、お兄様はフロアの中心へ。お次はお兄様の番だ。
恐らく私のは通常モード。だけどお兄様にはきっとその上のモードで挑戦されるのだろう。
学ばせてもらおう、とタオルを首にかけてじっと集中する。
お兄様の手には愛機のCAD一機のみだった。
やはり、というべきか私の時とは違い、合図もなしに訓練は始まった。
動かぬ的の場合と違い、飛び出すボール状のターゲットに、しかしお兄様は、右手を突き出した射撃体勢を取ったまま的に向けることなくスイッチに触れるだけ。
それだけで12もの的が一瞬にして砂と化した。
続けて現れる的も、次々に分解魔法に撃ちぬかれては砂となる。その砂を避けるように動いては、またターゲットを撃ちぬいてくるりとターン。
まるで踊っているような動きに見惚れそうになるが、注目すべきはそこじゃない。
的の数が私と比べると、出るスピードも不規則さも格段に違うのがわかる。
それなのにお兄様は的確に撃破していく。そのスピードもものすごい速さで、終いには36もの的を一度に撃ちぬくという、とんでもない技量を見せつけた。
合図を出すまでもなく、すべての的を撃ちぬかれ、訓練は終了した。
お兄様の視線を追ってみたけれど、どのように的を認識しているのかわからなかった。
あれらをすべて正確に位置を把握し、座標を定義するなど神業としか言いようがないが、お兄様に少々呆れ気味に感心したと声を掛ける先生も、きっとこれくらいのこと息を吸うくらい簡単にこなすのだろう。
お兄様と先生の会話を聞きつつ、自分の反省点を上げながら、でもやっぱりお兄様はすごかったな、と目に焼き付いた神業を反芻する。
3か月前までお兄様は同時照準が24までだった。けれど今日はさらに増やして36…16から増えない私にはとても追いつけそうにない数字だ。
「しかし、深雪くんも成長したね」
「!あ、ありがとうございます。ですが私は撃ち漏らしが多すぎて…」
「いやいや。それをあれだけ撃ち落とせるようになるなんて、正直動かぬ的よりも難しいことだよ」
先生は優しい。お兄様の凄さに打ちひしがれないように声を掛けてくれるなんて、よく見てくれてるいい先生だ。
そこにお兄様まで参戦する。
「深雪はまだ自分がどれだけのことをやってのけてるか実感がないんでしょうね。これに関しては比べる相手が俺だから感覚がおかしくなってしまっているのでしょうが」
なんだなんだ?先生とお兄様がタッグを組んでお前がやっていることはすごいことなんだぞ?と持ち上げに来る。困った、内容はともかく褒めようとしてくれることは嬉しい。
「あ、あ…精進します」
恥ずかしくなってタオルで顔を覆うと、先生たちが小声で囁き合ってるのを見逃してしまった。
「本当、成長しすぎじゃない?あの可愛さ、無意識でしょう?」
「――師匠」
「ちょ、達也くんだって思ったくせにそんな物騒なもの向けようとしないでよ」
「俺は兄ですので」
「免罪符になると思ってるの?それ」
不穏な空気を感じタオルから顔を上げたらお兄様と先生は組み手をしていた。
訓練足りなかったのかな?あれだけ動いたのにお兄様も元気ですね。
――
お茶でも如何だい?と誘われて向かったのは、いつもの本堂の縁側ではなく庫裏で。
お兄様が少し姿勢を正したのを見習い私も正す。
話はレリックの件だった。
先生自ら入れて下さったお茶をいただきながら、手短に話された内容に、お兄様は事態は軽くないようだ、と認識を改めた。
お兄様にとっては、やることがちょっと派手だが、さほど警戒することでもない敵だと思っていた節がある。
初めこそ銃で撃たれたり、コミューターの不正操作など妨害があったが、軍に動いてもらっている上、仕掛けられているハッキングやクラッキング行為も今のところ防げる段階止まりで実害がない。
論文コンペが終わっても、まだあるようだったら本腰を入れるか程度にしか思っていなかったかもしれない。
後回しにしてもかまわないと思うほど重視していないことだった。
だが、先生が手元に持っていない方がいい、とわざわざ忠告するということはかなりの厄介ごとだということ。
特にお兄様が持つことに、より警戒すべきだと言っているようだった。
相手が誰かは言わなかったが、どうやら手ごわい相手だということは伝わった。
「そうだね…一つ忠告を。敵を前にしたら方位を見失わないように気を付けるんだよ」
これは先生の出せる最大のヒントだったのだろう。
奇門遁甲――オタクにとっては耳馴染みの技だけど、普通知らないですもんね。
ああでも彼らが使うのは鬼門遁甲、だったかな。魔法はイメージだから源流からアレンジして生まれた魔法なのだろうか。
「方位、ですか」
「おや、深雪くんは何か心当たりがありそうだね」
「…今回の件は大亜連合が関わっているようですので、そこに方位と言われると気を引き締めねば、と」
はっきりと敵と思われる名を言えば、先生は正解とも何も言わずに意味ありげに笑みを深めた。
先生は改めて、気を付けるんだよ、と学校へ送り出してくれた。
「USNAに大亜連合か…」
エリカちゃんが逃したと悔しがっていたフリーの工作員に、不気味に動き回る大亜連合。
この2つが揃って何もないと思えるほど、私たちは何も知らないわけではなかった。
とてつもない陰謀があるのでは、思わせるには十分な組み合わせ。そこに先生の注意までくれば、警戒レベルは否応なしに跳ね上がる。
「とりあえず今日は予定通り、このまま学校に行かなくてはな」
「はい、お兄様」
一旦家に帰り、制服に着替えて学校へ。
着々と論文コンペの準備は進んでいった。
――ついでに方々でラブコメの気配を察知したけど、私にはお兄様のような特殊な眼はないので、のぞき見ができないことが残念でならなかった。
――
日曜の朝も早かったが、目的地がFLTのためバイクです!
二人揃ってライダースジャケット!お兄様とお揃いです。
遊びじゃないとわかっていてもまたツーリングができると心が弾む。
「いつかツーリング目的で出かけようか」
「!いいのですか?それは楽しみです。でも、あまりご無理は…」
夏休みの件もある。
お兄様にはやりたいこと、やるべきことがたくさんあるのに、あまり私に時間を割くのは――と恐縮すると、お兄様は無理じゃないよと返した。
「この論文コンペが終われば、そこまで忙しい予定は無い。飛行デバイスの方も、トラブルは聞かないから大丈夫だと思う。
それにね、深雪と出かけられることは俺にとってはそれだけで十分ご褒美なんだ。俺にご褒美をくれないか?」
そこまで言われては引き下がるしかない。
お兄様の願いなら叶えてあげたいと思うから。
「でしたらお弁当も作りましょう。外で食べるのもまた、いい気分転換にもなります」
「いいね、楽しみにしているよ」
そろそろ出発しよう、とバイクに跨るお兄様に続いて声を掛けてからシートに腰を下ろした。
バイクで走るのは楽しいのだが、この一瞬はどうしても緊張してしまう。
自然に、と心で念じながら腕を腰に回して体を密着させると、お兄様は静かにバイクを走らせた。
ほっ、と安心したのもつかの間、背後からの視線を微弱に感じる。
伊達に周囲から視線を浴びてはいない。人の視線には敏感になっている。ただ普段なら無視するが、今この状況で無視できるほど私も平和ボケはしていない。
サイドミラーには車もバイクも見当たらない。特に変わったものは映って見えないが、確かに首筋にちりちりと感じる気配がある。
「お兄様」
ヘルメットについているマイクに囁くと耳元にお兄様の声が返ってきた。
「少し先に店がある。そこまで泳がすぞ」
…うん、改めてお兄様の声が耳元からするって、それだけで凶器だなと思う今日この頃。
そんな場合じゃないっていうのにね。お兄様の低音は耳を伝って体を震わせる。恐ろしい凶器ですよ、本当。
恥ずかしさを誤魔化すように、お兄様の腰に強く抱きつく。
それが怯えているように思ったのか、お兄様は安心させるように柔らかな声で大丈夫、というけれどごめんなさい。その声がだいじょばないのです。
筋肉フェチではないけれど、声は結構弱いかもしれない。
敵に監視されているというのに、気の抜けた思考回路で申し訳ない。
都市部を抜けて、閑散としてきた道にポツンと休憩所のようにある飲食店に入っていく。
一般的なカフェのウェイトレスさんの制服に、今度はコスプレ系の衣装にも挑戦しようかと、ぬいの服を構想しつつ窓際の席に座った。
飲み物は適当に注文し、ウェイトレスがいなくなったタイミングで、両肘をテーブルについて手を組んで口元を隠しながら話す。
「あちらに連れて行きたくない。ここで処理する」
端的に話すお兄様の表情は、若干不機嫌そうに眉間に皺をよせていた。
尾行と監視に苛立っているのか。
口元を隠していることから、周囲に見られないようにしているなら私も、と上半身を乗り出してお兄様の耳元に手を添えて返す。
「気配はわかりましたが、正体は何でしょう」
「カラスだ」
知ってる。知ってはいるのだけど、方向はわかっても私には見えなかった。
がっつり振り向くわけにもいかなかったし、とは言い訳になってしまうのだけど。
見つけられなかったことにしょんぼりしていると、お兄様は慰めるように頭を撫でてくれた。
表情も柔らかくいつものお兄様だ。
見つめ合ってしばし、ウェイトレスさんの近づく気配に、ゆっくりと体を離す。
っていうかグラスを置くお姉さんの顔、赤いですね。…なんか、ごめんね?
そしてせっかくおいてもらったグラスを退かし、私の手を握って両肘をつき、また口元を窓辺から隠すようにしゃべる。
「座標はここ。わかるな?」
お兄様の手を伝って、サイオンの信号が情報となって送り込まれる。お兄様の伝えたいことがダイレクトに受け取るんだけど、その、滅多にないお兄様の上目遣いにね、頑張ってポーカーフェイス保つんだけど、多分耳だけでなく頬まで赤くなってる気がする。
とりあえずこくん、と頷く。
周囲からまるで学校の食堂と同じような反応がちらほら見受けられた。
明らかに関係誤解されてますね。都合がいいのでお兄様も気にせず利用するみたいです。…少しは恥ずかしがりましょうよ、お兄様。
「この状況で俺の力は知られたくない。深雪、お前だけが頼りだ」
お兄様に頼られるのは嬉しく思った。心が浮足立つ。
けれど私にはこの後に続く言葉の方に――
「撃ち落とせ」
この短い命令に、撃ちぬかれた。
その強い眼差しに射抜かれた。
高揚する心をねじ伏せ、今はお兄様の命令に従う。気分はプロのスナイパー。
お兄様の指に自分の指を絡め、視線はずっとお兄様に向けた状態で、もう片方の空いた手に袖口からCADを滑らせ操作する。
外部にはただ美少女が、目の前の青年に見つめられて甘えているように見えただろう。
プロは仕事を周囲に気付かせること自体させない。
お兄様から送られた座標に、一瞬で放たれる魔法。私にはそれがヒットしたか確認することはできないが、目の前のお兄様の瞳がゆるりと何かを捉えていた。
「よくやった」
絡めていた指を取られ、口元に運ぶとリップ音を一つ。
夏休みにもやってたけど、お兄様それ気に入ったの?私がボンっと赤くなるの、そんなに気に入った⁇私を真っ赤にするのがそんなに面白いですか。
慌てて手を引っ込めて、お兄様が退かしたアイスティーに手を伸ばす。
お兄様は揶揄いすぎたか、と言わんばかりに苦笑を浮かべられて、先を読んだようにようなタイミングでグラスを手渡してくれた。
勢いよくストローに吸い付く。急いで冷やさないと、このままでは季節外れの熱中症で倒れてしまいそうだった。
周囲では、注文呼び出しボタンの音が連続で鳴っていた。
飲み終わり席を立つと、どのテーブルにもコーヒーがあったことに気付き、どこでも同じ反応だなと他人事のような感想を抱いた。
無糖のコーヒーはそんなに美味しいですか、そうですか。
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