妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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横浜騒乱編⑧

 

それからまたバイクを走らせ、ラボに向かう。

もう尾行する気配は感じられない。

こういうところが本気で狙っているように見えず、気を抜きそうになる要因でもある。

実際レリックは奪えればいいな、レベルではあるので、そんな真剣に狙ってはいないのだろうけど。

時間があったからついでにといったところだろう。…本当に迷惑でしかない。

だけどあちらは人員だけは大量にいるのだ。下手な鉄砲数撃ちゃ当たる方式をいくら投入しても余りある戦力がある。

…本当に国ごとじゅわっとやるのが一番手っ取り早いな、と思ってしまうのは私もストレスが溜まっているのだろうか。

せっかく抱きついていることだし、これで少しはストレス発散できていると良いのだけど、とまたぎゅっと抱きつく。

 

「深雪?」

「っ」

 

うわ、と。ヘルメットの存在忘れてた。

耳元で聞こえたお兄様の声に体を震わせてしまった。

突然動いたから何かあったと思われたかな?

 

「すみません。ただ、これで終わりなのかと思うと」

「そうだな。どうにもレリックを狙っているにしては中途半端だ」

「本気ではないということでしょうか」

「狙いは別にあると?」

「いえ、家にまでハッキングして小百合さんや、こうして私たちを追っているのです。レリックが狙いであることは間違いないと思うのです。ただ――ホンボシがこちらではない…優先順位がこちらの方が低い」

「本命の片手間、ということか」

「憶測ですが」

「いや、その可能性はあるだろう。そう考えると論文コンペ絡みの方もあまりにも手抜きだ。これも優先順位が低いとなると――本命はなんだ?」

 

答えは出ないままラボに着くと、そこは戦場さながらの騒ぎの最中だった。

牛山主任の指示が飛び、社員が動揺しながらも指示通り作業に取り掛かっていた。

お兄様はすぐにレリック絡みだと気づき、自分の存在で動きを止めようとした研究員たちに指示を飛ばし、作業に戻らせる。

全員一丸となって作業に取り掛かったのだが、その騒動もすぐに終結した。

ハッキングがピタッと止まったのだ。

タイミングといい、お兄様が来る時を狙ったのは間違いない。

しかしここから何か情報を奪うでもなく、ただの警告のような手口はこちらを舐めすぎだと思う。

自分たちはすべて把握しているぞ、とプレッシャーを掛けてきているということだろうが、場をかく乱させるのが目的だとしても中途半端だ。

お兄様はすぐに牛山主任と打ち合わせに行き、私はそっと人の視線を遮れる死角に身を寄せた。

皆の邪魔になってしまうから、それは避けるべきだと判断してのことだった。

幸い待っている間、考えることはたくさんある。

そろそろ四葉からの報告が何かしらの形であるはず。

魔法協会関東支部襲撃の確証は得るには時間的にも難しいだろうが、大亜連合が日本にかなりの数を送り込んでいることくらいはわかるはずだ。

その動きを少しでも周知させることができれば、もう少し防衛は楽になる。

平河千秋の元に来る刺客については、原作通り渡辺先輩カップルに任せるつもりだ。

一応病院側にも警戒するように生徒会を通して促したので応援はそれなりに期待…はできないか。

そこまで楽観できる相手でもない。

けれど花音先輩の方からも渡辺先輩には警戒するよう伝えられているはずだからそこに賭けるしかない。

あとは、もう一人の洗脳者、関本先輩だけど…これはお兄様が好きに使うだろうから、せいぜい呂の囮として活躍してもらいたい。お兄様を嵌めようとしたことは許しがたいので助けようなんて微塵も思わない。

それにこれから私には――危険とわかっていても成したいことがある。

拳を固く握りしめたところで、ふっと背後に忍び寄る気配を感じた。

 

 

――

 

 

「待たせたな」

「お話はもうお済ですか?」

 

お兄様のお迎えに、私は差し伸べられた手を取って、休憩所の椅子から立ち上がった。

今日は日曜日だが、論文コンペの前に休みなどと悠長なことを言っている暇はないようで、ラボからとんぼ返りでいったん帰宅し、制服に着替えてリビングに戻ったところでお兄様は電話をしていた。

ああ、平河先輩だね。

妹がなぜこんなことをしたのか困惑してるよね。

優しい先輩を思い出しながら、でもその先輩が妹のデータハッキングするんだよなぁ、と思うと、結構強かな先輩の顔も見えてちょっと苦笑してしまう。

自分の手に負えないからお兄様に押し付けるあたり、この先輩はけして妹が思っているような弱い人ではないと思う。

彼女にとっては優しくて物静かで、気の弱いお姉ちゃんだったのかもしれない。

 

(だけどそれは、きっと九校戦前までのお姉ちゃんだよ)

 

私の知っている先輩は、小早川先輩をよくサポートして、メンタルも支えられる良きパートナーだった。小早川先輩からいい影響でも受けていたのかもしれない。

あと、お兄様の調整講座も受けてたから、何かしら刺激を受けていた可能性もある。

身近にいると気づきにくい変化だったのかもしれない。お互いに。

お兄様は電話が切れるとすぐさま端末を操作していた。送られてきた情報をチェックしているのだろう。

その間私は窓の外を見る。空模様は曇り。降るか降らないか微妙な曇り具合だが、これから降ることは端末の天気予報でも確認済みだ。

 

「ん?傘が必要か?」

「みたいです」

 

二本用意するとお兄様が流れるように二本持った、と思ったら一本私の分は戻されてしまった。

 

「俺の傘は大きいからね」

 

つまり二人で一本ですか。一人一本使ってもいいと思うのだけど。

狙われている可能性のある今、その方が都合がいいことでもあるのかな?よくわからないけれど、お兄様に考えがあってのことだろう。

 

「先輩は何と?」

「情報提供だな。妹のログを渡された」

 

それを藤林さんに送ったそうだ。これで何か掴めればいいが、と言いながらもお兄様はあまり興味無さそうだった。

それとももう別のことを考えているのか。

学校前の駅に着いて歩き始めると予報通り雨がぽつりと降り始めた。

広げられた傘は確かに大きい。けれど二人並べば肩が出てしまうのでは、と思ったら肩に腕を回される。二人分の肩幅が一人と半分に。

…確かにこれなら濡れないね。

校舎に入って跳ねて濡れた個所だけ魔法で乾かした。

 

「この雨では野外作業は無理ですね」

「こればかりは仕方ないな。だけど俺は元々、ロボ研のガレージでデバッグ作業メインだから」

「それなら問題ないですね」

 

問題はありありなのですがね。これから。

どうも護衛担当さんが、お兄様を囮に罠を仕掛けるようなので余計な手出しは無用とのこと。

一応本人に知らせないようにと釘は刺されつつ情報共有されました。

これ、原作だったら絶対無理なヤツ。

深雪ちゃんがお兄様を囮になんてお兄様の意思を無視してOKを出すなんてありえない。ついでに花音先輩はちょっぴり怖い目に遭うこと間違いなしだ。

私はお兄様が全方位警戒なさっていることをわかった上で応援だけを。

 

「ではお兄様、頑張ってください」

「ああ、行ってくる」

 

お兄様には申し訳ないけれど、この方が手っ取り早いのは事実。現行犯逮捕なら逃げようがない。

ガレージに向かわれる姿を見送ってから生徒会室へ。今日は本気で取りかからねばならない。

明日に仕事を残すことなど、できないのだから。

それから一時間後、お兄様がロボ研のガレージで襲われ、ハッキングツールを使って起動式のデータを盗もうとする事件が発生したと報告が来た。

犯人の関本先輩は確保済みで、取調室に連れていかれたそうな。

これはもう未遂であろうとも現行犯。立派な犯罪行為だ。

たとえ狙われたお兄様が無傷でぴんぴんしていようとも使われた薬やハッキングツールが証拠だ。

とりあえず関本先輩には一日3回足の小指をどこかしらにぶつけるよう祈っておく。呪いじゃない。祈りです。

中条会長は青い顔になりながらも気丈に対応し、教員たちと意見を交換していた。

彼がデータを破壊するならば、自分が選ばれなかった復讐として納得がいくが、盗むとなれば渡す相手がいなければ成立しない。

背後に何らかの組織がいることで、平河千秋の周辺にも本格的な対策が立てられることになった。

ただ襲われることを警戒するのではなく、接触を試みる者がいるかもしれないという警戒だけど。

先日の何かあるかもしれないという忠告より具体的だから多少マシになると思いたい。

…間に合えばいいが、この辺りは微妙だな。時間もない。

中断していた作業に戻り、自分の分を終え、五十里先輩の分も半ばまで進んだ頃に、その一報は入った。

平河千秋の病室に呂剛虎――大亜連合でも屈指の兵士、連合軍特殊工作部隊のエースが現れ交戦、退けたとの連絡だった。

予想をはるかに超えたビッグネームに、中条会長は付いていけずに、ついに椅子にへたり込んでしまった。

慌ててほのかちゃんが支えに行くが双方顔色が悪い。

無理もない。一高校生が聞く名ではない。生徒会長といえど、恐らく他校ではそんな名前聞いたこともないだろう。当然関わるなんて論外だ。

彼女にとってはまだブランシュという組織の名前の方が可愛く思えただろう。

そちらも元をたどると大亜連合絡みだが、知る由もないからね。

教員たちも流石にわが校だけで手に負える事態ではないと、各所に連絡を入れざるを得なかった。

大半の生徒には当然知らせるつもりはないが、役員以上にまで情報を制限しては、統率も取れない。ある程度の共有が必要だった。

その結果、この情報は学外ではあるが相談という形を通じて七草、十文字の家にも知らせが行くことになる。

――これで、流れは変えられただろうか。

特に十文字は軍との関わりが強いはずだ。七草との情報収集力と合わせれば目的に辿り着けそうだが、論文コンペまで残り一週間もない。

結局、今日はこのまま作業はできないと、お兄様含め帰宅指示が出た。

 

 

――

 

 

「随分と大物が来たな。呂剛虎とは。そんなに彼女は重要な任務を担っていたのか?」

「というより、少しでも関わった痕跡を消そうとしたのではないでしょうか?ラボでの出来事も、結局発信元は掴めなかったわけですから、身元を掴ませないために、と。八雲先生がおっしゃってたように、正体を隠すことには随分慎重に立ち回っているようですから」

 

今回あそこに渡辺先輩たちカップルが来ていなければ呂は姿も見せず任務を遂行できていただろう。痕跡など残さなかったはずだ。

 

「相当な手練れ、と言っていたが、呂はそんな言葉で片付く相手ではないと思うんだがな」

「駒は優秀でも指揮者が大したことがないと、そういうことでしょうか」

 

先生の場合、呂が相手でも相当な手練れ程度な表現しそうだけどね。先生最強説。

今日のコミューターはお兄様と向い合せ。珍しい。

おかげでふれあいがない。ドキドキしないで集中しておしゃべりができる。

 

「ところでお兄様は睡眠ガスを受けられたのですよね?大丈夫ですか?」

 

もう治っていることはわかっていても、つい聞いてしまうのはお兄様の魔法を疑っているのではない。

 

「心配させたな。なんともないよ」

 

お兄様の魔法は特別ですが、体は特別ではないのですから心配位はさせてくださいね、と初めに言ったのはいつだったか。

いくら魔法があっても苦しくないわけがない、痛くないわけではないのだ。

魔法で治る前は確かに傷を負っているのだから。

鍛えられた強靭な体だって関係ない。治ったって痛かったものは痛いのだ。

だからその分の心配はさせてほしい、と。

当時のお兄様はたぶん、私がしたいというのだからさせてあげようくらいの気持ちだったと思う。

今も、そういうところがないとは思わないけど、昔に比べたら素直に心配させられてくれるようになった。

くすぐったそうに少しだけ、口角を緩めるお兄様に心が温まった。

 

「お兄様はもう少し、自分のお体に頓着してください」

「そうだな。お前を心配させるのは心苦しいからな」

「そう言いながらも笑っているではありませんか。もっと真剣にご検討くださいませ」

「深雪にされるのなら嬉しいからね。心を配ってくれるのだろう?」

 

いつだったか、心配とは心を配るものだと語ったことがある。それを覚えていたのだろう。

お前から心を貰えるなら受けた痛みも癒される、なんて言うモノだからお兄様にも困ったものだ。

熱くなって手で顔に風を送るけど効果がない。

それをくすくすと笑いながら立ち上がると宥めるように抱きしめられた。うーん、結局触れ合いは無くならなかったか。

家に着いてハグをして。

お兄様は私に断りを入れてから端末を取り出し電話をかけ始めた。

相手は藤林さん。

邪魔しちゃ悪いと私はすぐに部屋に上がったけど、――藤林さんもいいよね。大人のお姉さんは好きですか?大好きですとも。

しかも彼女は時折お兄様を惑わすような発言で揺さぶりをかけたり、揶揄ったりもするけれど憎からず想ってくれていることはわかる。

それが可愛い後輩扱いによるものかわからないけれど、お兄様の立場もよくわかってくれるし、フォローもしてくれる年上のお姉さんだ。

私生活も仕事もサポートしてくれるならお兄様のパートナーとして最高では?

あまりお会いする機会がないから、お話したことも数える程度なのだけど、とっても優しくて憧れる大人の女性の一人だ。

妄想が捗りすぎたあまり今日の夕飯は、大人の女性を想像しすぎたのかちょっと彩り豊かに。

カプレーゼにカットサイズのパンにエビやアボカドなどを乗せたオープンサンド、牛肉をとろとろに煮込んだシチューがテーブルを飾った。

 

「今日は随分と気合が入った料理だね」

「作りたい気分でしたので」

 

シャンパンの代わりに雰囲気づくりの炭酸水をグラスに入れて、これで部屋の明かりを少し落とせばこじゃれたお店に見えなくないメニューだ。

 

「何かの記念日なのかと思ったよ」

「それでしたら、来週はハロウィンですね」

 

グラスを傾け差し出すお兄様にグラスを合わせて乾杯して一口。ノンアルだけど気分は上がる。

 

「今年も何か用意しているのかい?」

「そうですね、今年からはお母様がいないので悪戯相手もいないですし、どうしましょう?できるのであれば仮装やお菓子は用意したいですが」

 

この三年、我が家は私の趣味全開で季節のイベントごとを楽しんだ。主に楽しんでいたのは私だけど、母もなんだかんだと付き合い楽しんでくれていたと思う。

お兄様も私がやりたいならば、と付き合ってくれていた。

特にハロウィンは思い出深い。

お兄様にも仮装してもらえる楽しいイベントでしたから、それはもう張り切ったものです。

だけど今年はお菓子をねだる相手がいない。このイベントも形骸化していくのだろうな、と思うとやっぱり寂しい。

 

「いいんじゃないか?深雪の好きなようにするといいよ。俺も変な仮装じゃない限りは付き合ってあげるから」

「毎年それをおっしゃいますが、私がお兄様に変な仮装をさせたことがありましたか?」

「深雪いわく、正統派だというが、そもそも何をもって正しいというのかわからない」

 

それはコスプレとかコスプレとかですかね。

今のところお兄様とお揃いのお化けや、魔女と魔法使い、スケルトンとゾンビくらいしかしませんでしたからね。

ゾンビメイクは母に不評でした。ちょっと怖かったらしい。二時間かけて本格的にやりましたから。あ、もちろん私だけですよ。お兄様にそんな長い時間拘束するなんてことできません。

そういえばあの時お兄様も顔を顰められていた。私に傷痕があることがアウトだったみたい。

そのこともあってお遊びでも傷跡は禁止になった。

 

「流石に一週間ではたいしたものは用意できないですからね。ご安心ください」

 

今年はできないと思っていただけに、お兄様からの提案が嬉しかった。

母がいなくなったからイベント自体が無くなるかな、とも思っていた。

高校に入ってからお兄様は忙しくなる。

ただでさえ時間が足りないのに、家でのちょっとしたイベントなど付き合わせるのは気が引けた。

もちろん学友とのイベントは別だけどね。私と二人きりに時間を割く機会は『お兄様幸せ計画』の為にも減らしていくべきだと思うわけで…だったのだけど、お兄様からお誘いいただいたのなら話は変わる。

少しだけ、お兄様の貴重なお時間頂きますね。

 

「深雪も生徒会に入ってから忙しくなったからな。――無理はしていないかい?」

「ええ。毎日が楽しいです」

 

お兄様のお陰で、私は毎日が幸せで、毎日楽しく暮らしている。

そう微笑めば、お兄様は俺もだよ、と微笑み返しをしてくれた。

 

 

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