妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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横浜騒乱編⑨

 

 

慌ただしくも幸せな週末が終わり、月曜日。

今日は早めに学校へ向かう途中、エリカちゃん西城くんペアに遭遇。

こんなところでばったり会うとは思わなかったんでしょうね。大変気まずそうです。

それもそう。二人揃って学校休んでたら何かあると噂される。思春期の男女が気まずさを覚えないわけないですからね。

二人は誤解されたくないと必死だが、その慌てた様子はどう考えても怪しんでくださいというもので、特に自覚なしに爆弾を放り込んだ西城くんのうっかり発言に、エリカちゃんは泣きそうだ。

 

「まあ…早起きは三文の徳だよな」

 

追い打ちはしない、というお兄様のお言葉だけど、なんというか、お兄様にしては雑だよね。いや、適当にあしらっているって意味ではなくて、近しい人だからこその雑な扱い…それだけ心を許しているってことだよ、ね?

 

「エリカ達に怪我や病気がなくて安心したわ。連絡がなくてそれだけが気がかりだったから」

「う、それは、…ごめん」

 

連絡できなかった気持ちはわからないでもないけど、念のため送ったメールにも返信がなかったのは寂しい。

そう伝えればエリカちゃんは絞り出すように謝った。

 

「ん、許すわ。改めておはよう二人とも。おかえり」

「変な挨拶ね。おはよ、ただいま」

「おはよーさん。怪我で復帰したわけでもないのに学校でただいまってのも変な感じだな」

 

イマイチ決まらないけれど、これくらいがちょうどいい。

三人と別れて教室に向かえば誰もまだ登校していなかった。

今の内かな、と職員室へ交渉に。――許可はあっさりと貰えた。

 

 

 

 

平日の昼間、私は学校を抜け出し、病院へ来ていた。

名目は生徒会役員として平河千秋のお見舞いと、病院の警護体制の確認だ。

本日は面会謝絶となっているが、学校から病院にはすでに連絡がいっているはず。

因みに学校を出る前、ほのかちゃんにお兄様への伝言を運んでもらっている。古風な手紙という形で。

お兄様のことだから、私の位置も周囲の様子も視えていることだろう。

だけど来られると困ってしまうので、そのまま学校にいてもらうよう手紙には書いておいた。

手紙のいい所は完全に一方通行で伝えられることだ。

止められることも怒られることもない。…帰ってからが怖いけど。

襲撃事件があったので、彼女の病室の両隣は念のため空室となった。襲撃を退けたとはいえ万が一を想定しての措置である。

警備も万全で4階だけでもエレベーター一基の前に二人、二機あるから計四人。階段には二人、屈強な警備員が立っている。

その他に巡回する警備員も。すべて魔法師の警備員だ。

厳重すぎるほどの警備員。これをどうやったら潜り抜けられるというのか、という程の過剰警護のようであった――が、そんな彼らの目にも、目の前を通過する花束を持った美青年を見ることはできない。

チェックさせてもらっているカメラ越しに見ている私にもどういう理屈か当然見えていない。

ただ、聞こえたのだ。彼女が部屋を開ける動作と声が。――前もって仕掛けてられていた、隣の部屋の壁越しに取り付けた集音器によって。

これだけが唯一何者かが入室したことを捉えていた。

室内の盗聴器には警戒できても、隣接した部屋の集音のみに特化した小さな機器を警戒するなんて、恐らく経験ないことだろう。

遮音の魔法は使っていても、その音をサイオンも動かさずに拾い集める魔法なんて聞いたこともないだろうし、そもそも魔法なんて使っていない。

骨伝導の仕組みを応用した集音器ですからね。これがもし振動も遮断していたのなら防がれてしまっていた可能性もあるけれど、その場合もう一つ、すべての音が聞こえなくなる不自然さが入室の合図と判断するまで。本来聞こえるはずの彼女の生活音まで聞こえ無くなれば何かしらの力が働いたことになるからね。そっちはタイミングを計ることが難しかったから相手の油断に助けられた形だ。

だけど入室以降本人の声はどうやっても聞こえない。

音は聞こえないが振動は感知できているというのに、その場所の特定もできない。ただモニターの波形がわずかに動くのみ。

彼の鬼門遁甲の術は方向感覚だけでなく機械でさえ騙せる技術なのだろう。対人だけではないのだ。精神干渉だけの魔法というわけではないことは分かった。

警備員の方々にはちょっと移動をお願いして、私もスタンバイする。

 

(大丈夫、私は女優)

 

扉の前に立っても彼女の声すら漏れ聞こえないのは、これも鬼門遁甲の術の影響なのか、別の魔法が作用しているのか。扉越しにサイオンの流れを感じようとしても、彼女周辺には見えるが、どういうわけか男性のいるであろう辺りには、何もなくただ自然に漂っているだけにしか感じられない。

そのことが不気味だった。背筋が薄ら寒かった。

だが、そんなもの――塗り替えてしまえば丸裸になる。

 

   「忘れる…忘れればいいの?」

   「わかった――」

 

(ここ。このタイミングだ)

 

コンコンコンコン。

高らかになるノック音。

 

「一年A組司波深雪です」

 

凛とした声は冷たさを含んで。

 

「わたくし、貴女を殴り飛ばしにまいりました。宣言は致しましたので歯を食いしばってお待ちくださいませね」

 

押し殺した感情があふれ出し干渉事変を起こして、足元から病室まで半径一メートルは霜が降りていた。

普通、魔法を使えば警報が鳴るはずなのに音がしないのは、彼のように誤魔化しているわけではなく起動式や魔法式など使っていないから。怒りの感情に呼応するように有り余るサイオンが反応し制御しないことで周囲に干渉しているだけのこと。

そして私は扉を開け放った。

 

 

――

 

 

この部屋の鍵は当然前もって許可を得て借りている。

中に入ると上体を起こしている平河千秋と――なるほどこれは確かに麗しく見える知的美青年、の男が一人花束を持ったまま、彼女のベッドの横に佇んでいた。

いや、直前まで座っていて予想もしていなかった乱入者に警戒して立ったのか。サイオンの動きが彼の移動を物語っている。

 

「あら、お客人がいらしたのですね。今現在、こちらは面会謝絶のはずですが、わたくしも人のことを言えませんので詮索は致しませんわ。ですが、下がっていらして。他人を巻き込む気などさらさらないのです」

 

荒れ狂うサイオンに、私の怒りが凄まじいことを彼女も、そして目の前の男も感じているのだろう。

当然だ。いくら私が微笑んで見せていても、この部屋の室温はすでに十度は下がっている。

 

「これは…、怒りを鎮めてはいただけませんかレディ。このままでは彼女の体調が悪化してしまいます」

「下がっていらしてミスター。貴方ほど素敵な殿方ならお判りでしょう?これから始まるのは女の闘い。そこに殿方がいては余計な火種を生むだけですわ」

「そちらの少女が傷つけられるとわかっていて、みすみす手を上げられるのを見逃すなど――」

 

突如始まる会話の応酬に顔を引きつらせながら呆然としている彼女は、聞こえているだろうに「そちらの少女」、との言葉に何の反応も示さない。傷ついた顔もしない。

好意を寄せていた相手に他人行儀に扱われ、見向きもされていないことに何の反応も無いということは、すでに忘却は完了したということか。

そして男のこの発言はそれを確認するためであり、己の術が成功したと確信したのだろう、花束を抱えなおした。

あえて男をただの邪魔者扱いにするのは怒りで周りが見えていない演出。

だからその花束にも、男自身にも警戒などしない。彼女にだけ用があるのだと見せつけるように白けた視線を向ける。

 

「これが最後の警告ですわミスター。平手打ちで我慢すると言っているのです。これ以上邪魔をするというのであれば、この部屋ごと凍結させてしまいますでしょうね。わたくしはどちらでも構いませんのよ?」

 

再度離れるように警告すれば、彼は足元が凍ることを避けるように下がった。そのことに、自分を窮地から救ってくれそうだった、見知らぬ(・・・・)男性が引いたことに絶望の表情を浮かべる彼女に、私は改めて向き直って。

 

「歯は食いしばりまして?」

 

にっこりと微笑んで、振り上げた手を怯える彼女の頬に向かって思い切りスイングさせた。

途端ぱあんっ、と派手にはじける音が響く。

魔法で包まれている私の手が痛むことはない。

反対に、彼女の頬は見る見るうちに赤く染まっていく。

しっかり歯を食いしばる時間を与えたからだろうか、声は漏れなかった。

叩かれた個所を手で押さえて、混乱しているだろうにこちらを睨みつけてくる彼女に、私は笑みを深くする。

 

「よかったわ。まだ人を睨みつける元気はありそうね」

「なんっ、なんなのよアンタ!いきなりこんなことして」

「私は名乗ったはずよ、司波深雪と」

「それが何だっていうの!?アイツの妹だから!?復讐にでも来たの?!」

「復讐で来ているのだったら、貴女の息の根なんて挨拶する前に止めているわ」

 

干渉力を更に範囲を拡大してみせれば、彼女は顔を青ざめさせた。

手で覆い隠された部分は赤いままのはず。ちょっとその手を外して、赤と青を比較させて欲しいと思う私は、やっぱりシリアスは似合わないんだなと思った。

 

「じゃ、じゃあ何しに来たっていうのよ!」

「貴女を馬鹿にしに来たに決まっているでしょう」

「はあ!?」

 

今度は赤くなった。

彼女の激しい変化に血圧が心配になるけれど、元気そうで何より。

感情の起伏があるということは心が疲弊していないってことだからね。

 

「貴女、自分がいったい何をしたかわかっているの?」

「アンタも壬生って先輩みたいに私を馬鹿にするの!?すべてわかってやってるわよ!

私が手を借りた相手がとんでもない組織であっても、アンタの兄に復讐できれば誰だってかまわなかった!

知らないおじさんからハッキングツールの話を持ち掛けられた時だって相手が何を求めてるかなんてどうでもよかった。ただアイツの顔が歪む、苦しむ様が見たかったのよ!

利用されてようが関係ない。へまをして捕まったんだもの。消されて当然だって思ったくらいよ。

私はあんな女とは違う。自分の立場ぐらいわかってる!」

 

すごいね。記憶を忘却させるだけじゃなく都合よく改変までできる暗示。

でも背後のサイオンに動きは見られない。まだこの場に残って何か確認することがあるのかな?

 

「ほら、わかっていない。だから貴女は馬鹿だというのよ」

「知ったかぶりしないで!アンタなんかに何がわかるってのよ!!」

 

激しい感情をぶつけるように睨みつけ荒ぶる彼女とは対照的に冷ややかな視線で睥睨する。

 

「貴女、何のためにこんなことしたのか覚えてないの?」

「何のためって…もしかして勘違いしてない?私は別に姉さんのために復讐したんじゃない。きっかけにはなったけど、元々アンタの兄が気に食わなかったのよ!実力隠して二科生になって、ヒーローのようにアンタを救った話だって、絶対盛ってるんだと思ってた。同じ二科生でそんな奴いるわけないと思った。でもテストの成績や九校戦で活躍を見て本当にすごい人なんだって!だけどそんなすごい実力を見た姉さんは日に日に悩んでいった。名誉であるはずの論文コンペを辞退して譲ったのよ、あの男に!姉さんはずっとずっと頑張ってきたのに!アイツの、アンタの兄のせいで!!」

 

己の発言が支離滅裂なことを自覚できていないほど、彼女は激しい感情をぶつけた。

きっと、そうでもしないと己を守れなかった。全ての責任をお兄様のせいにしなければ彼女の心は行き場を失っていたのだろう。

 

「自分のための復讐だったと」

「そうよ」

「司波達也が困ればいいと」

「いっつもすました顔して、何でもできるアイツが許せなかったのよ!」

「なら姉が貴女のしたことを苦に感じても、あなたは何も思わない」

「姉に嫌われるくらい覚悟の上よっ!」

 

確かに、その覚悟はあったのだろう。復讐をすると誓った時点で彼女は姉のせいにするつもりなどなかった。切っ掛けではあっても、そこからは先はすべて自分で行動したのだと。

だけどね、そんなもの――すべて貴女の空回り。

 

「――なぜその程度で済むと思ったの?」

 

「……は、なに?」

「貴女の姉が犯罪に走ることも、貴女の復讐の内だったのかしら?」

「…っどういうことよ?!」

「貴女にとって、これはお姉さんの復讐ではないのでしょう?きっかけの一つではあるけれど。自慢だったお姉さんが辞退したこと自体も貴女は許せなかった。お姉さんにも苦しんでもらいたい。――そういうことだったのね」

 

冷ややかな目で見下ろせば、彼女は凍ったように固まった。

いや、理解が追いつかないだけだろう。

優しくて気弱な姉と、犯罪に走るという言葉が結びつかないのだ。

 

「よかったわね。兄が証拠をしかるべきところに出せば貴女のお姉さんには札が付くわ。当然学校も退学になるでしょうね。あれだけ優秀な成績を修められ、未来も有望だったはずなのに。

可哀そうなお姉様。愛する妹のために手を汚したのに、その妹にまで憎まれていただなんて」

「姉さんを憎んでなんかっ!それに姉さんが犯罪!?ありえない!」

「否定されても事実は事実。でも、貴女はお姉さんのことなどなんとも思っていないから、自分勝手な復讐をしたのでしょう?でなければ優しいお姉さんが傷つくとわかっていてできるはずないものね」

「っ!!」

「覚悟の上だったのでしょう?嫌われるなんて、見当違いな覚悟だったみたいだけど」

 

あざ笑うように口角を上げれば、彼女はすぐさま反発しようと息を吸うが、凍てつく空気を思い切り吸えば呼吸は苦しくなるというのに。

咳き込んで睨みつける彼女に悪役ムーヴで笑って見せる。

げほ、ごほと咳込む彼女に手など差し伸べない。

そんな女たちの喧嘩の結末を見届けて背後でわずかにサイオンが動く。――男はここに残る理由がなくなったようだ。

相変わらず音も気配も何も感じない。そこに何かがいることなんて覚えらいれないほど存在感がなかった。

このフィールドを私の空間にしていたからこそ、わずかにでも認知ができた。

逆に言えば、それしかできなかった。

…もし、彼の目的が忘却ではなく処分であったなら、私ごと消されていたかもしれない可能性に、今更になって身を震わせた。

 

 

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