妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
全国高校魔法学論文コンペティション開催日当日。
時間通り到着した私たちを出迎えてくれたのは花音・五十里先輩ペアとエリカちゃんと西城くんペア。
どうもエリカちゃんと花音先輩は反りが合わないようだ。壬生先輩の時のように仲良くなれないのは相性の問題なのかしら。
「おはようございます。エリカ達も随分早かったのね。美月たちはまだ来てないのでしょう?」
「んー、なんか早く目が覚めちゃってね」
ううん、リベンジマッチじゃないけど、戦いの気配があるから特訓の成果を見せたくてうずうずしているところかな。
好戦的なエリカちゃんもかっこかわいくて良し。
反対に花音先輩はエリカちゃんが何かしでかすのではないかと、警戒心をむき出しにしている。向けるべきはこちらではなくあちらですよー。
「先輩、エリカ達はこれまで兄さんが頑張ってきたのを、傍で見てきた友人です。応援を張り切ってしまうのもしょうがないことかと思います。先輩も五十里先輩が頑張っているのを見ていたら、応援に熱が入るでしょう?」
ね、と言えばこちらまで胡散臭そうな目を向けられてしまったけれど、何か言うつもりはないようだ。
「でも、ここにいるより客席で応援していた方が、全体が見渡せていいと思うわ」
「そうだな。もし何かまた事件が起きたようなら、その時は事態収拾に協力してくれ」
「!そうね。お友達だもの。もしその時が来たら手伝ってあげるわ」
お兄様の言葉の意図を読み取ったエリカちゃんは西城くんを引き連れて意気揚々と『いい席』を探しに行った。
この場は五十里先輩たちが担当するとあって、私たちは控室へ移動することになった。
そこで備え付けのお茶を入れて一息ついたところで来客が。
藤林さんだ!一応プライベートとなっているのでスーツ姿。大人の女性って感じのお姉さまの魅力にくらくらです。
実際にお会いするのは久しぶりだ。見つめていると隣のお兄様から背中を見られた。背中というより、腰?何かあったかな。
久しぶりー、と互いに挨拶を交わしていると話題は九校戦へ。
「あの時皆でお茶してたのよ。深雪さんも誘ったらって言ったんだけど」
「深雪が行っては目立ってしまいますし、何より深雪は藤林さんが憧れのようですから、取られてしまうのではないかと心配になってしまうんですよ」
う…ばれてる。っていうか取られるって何?私も皆さんとも、藤林さん個人ともお茶したいですよ。
「あら、心の狭いお兄ちゃんね。お茶するくらいいいじゃない」
「深雪に関しては譲る気はないですから」
「お兄様?私も藤林さんとお茶をご一緒してみたいのですが」
綺麗なお姉さんとお茶できるんですか?お布施はいくらでしょう⁇なオタクです、お茶できるチャンスがあるならぜひ欲しい。
お兄様は渋いお顔。
そして勝ち誇った笑みを浮かべる藤林さん。この構図写真に残したいくらい素敵なんですけど。残せない?網膜に焼き付けるしかないね。
「束縛しすぎると嫌われちゃうわよ」
「……俺も傍にいてもよければ」
わあい。お兄様の許可が出た。
でもなんでそんな絞り出すように…。
いくら藤林さんにメロメロでも何がどうこうなるわけでもないのに。
そもそも取られる、とは?お兄様より彼女を優先するなんてことはあり得ないのに少しの可能性を感じさせること自体が許せない?
安心してください、妹はいつまでもお兄様の妹でしかありませんよ。
「さて、お兄さんの許可も下りたことだし、今度時間ができたら一緒に行きましょう!もし外が難しければ手土産もってお宅に訪問するわ。いつも美味しいお茶を入れてくれるって、達也くんから自慢されてて気になってたのよ」
「もちろんです!お兄様、いいですよね?」
「構わないよ」
やったー。美女とティータイム権利ゲット!とっておきの紅茶用意して、ケーキスタンドも久しぶりに出して――と頭に浮かべていると、お兄様たちは別の話に移行していた。
「こちらに来て大丈夫だったんですか?」
「こういう時に肩書がたくさんあると便利ね。貴方達が九校戦で目立ってくれたおかげで、どの肩書でも貴女たちに会いに来る理由になる」
「それは技術士官としてだけではなく、藤林家としても、ですか」
「ええ。だから達也くんも『藤林少尉』でも『藤林さん』でも『藤林のお姉さま』でも呼んで大丈夫よ」
「いえ、お姉さまという呼び方はなかったかと思いますが」
え、公式でお姉さまと呼んでいいのですか?
「藤林のお姉さま?」
「深雪さんからなら響子お姉さまも捨てがたいわね」
「響子お姉さま!今度のティータイム、精いっぱい腕を振るいますね」
慈愛に満ちた微笑みいただきましたよ。やったね。ご褒美いっぱい。
「…人の妹を誑かさないでいただけますか?」
「深雪さんって時折人懐っこいワンちゃんになるわね。可愛くて連れ帰りたくなるわ」
「させませんからね」
「癒しが欲しくなる時もあるの」
「貸し出しは受け付けておりませんので」
おっと、お兄様目つきが鋭くなってしまいました。そろそろおふざけもここまでにしましょう。
つんつんお兄様をつついてにっこり笑うと、お兄様は大きなため息を吐いて本題に入った。
藤林さんが来た理由は二点。お兄様が設計したムーバルスーツが完成し、それが今日こちらに届くということ。
もう一点、こちらが本題だった。わざわざデータカードで渡されたそれは周囲を警戒するほどのモノで。
「間違いであってほしかったんだけどね」
そう言って藤林さんは客席で応援してるわ、と部屋を出ていった。
さっそくデータを確認すると、軍で確認が取れた外国の国家機関関与の確証ともとれる証拠が入手できたというもの。
つまり防衛本部が動く許可が下りたということだ。
ギリギリ間に合った、と取るべきか遅い、と怒るべきか。
これならば今すぐではないにしろ、昼頃には十師族並びに百家にも通達が行くことだろう。
時刻は八時四十五分、五十里先輩が花音先輩と共に控室にやってきた。
見張り番の交代だ。
それなら客席のエリカちゃん達のところに行こうか、と向かう途中、若い男性の声に止められた。
「司波さん!」
CV松岡氏ですね。確実にメインキャラです。
振り返ると一条くんとB組の十三束くんだ。
「一条さん」
とりあえずお兄様に視線が向いていないので、私に声を掛けてるんだろうと呼び返すと硬直されてしまった。
…どうすればいい?お兄様をちらりと見ると、お兄様の視線は彼の警備の腕章。
十三束くんとお揃いだ。
うーん、話しかければ解凍するかな。
「お久しぶりですね」
「え、ええ。後夜祭のダンスパーティー以来です」
そんなに緊張する?というかさせてるのか。隣の十三束くんまで緊張してるし。
とりあえず緊張解すために微笑んどく?
「会場の見回りお疲れ様です。一条さんが目を光らせて下さっているならば、私たちも一層安心できます。よろしくお願いしますね」
特にこれから大荒れだからね。ぜひ一条くんには頑張ってもらいたい。
そんな気持ちも込めて言えば一条くんは鯱張って。
「はいっ!必ずやご期待に沿えるよう全力を尽くします!」
おおう、応援団ばりの声量ですね。気合十分?今からこんなのじゃ疲れない?
隣からお兄様のやりすぎだという視線を感じました。
だって、これから大変なことになるから。頑張ってもらえたらと応援しただけなのに。
「十三束くんも頑張ってください」
「あ、ありがとうございます」
話しかけられると思ってなかったのかな?びっくりした表情が可愛いね。
でも一条君とは違い復活が早い。お家のお仕事手伝って接客業してるからかお返事スムーズ。
一条くんは彼から少しでも何かを得られるといいね。
二人と別れてまたお兄様と歩き出す。
「十三束のこと知っていたのか?」
「隣のクラスですし、エイミィが彼と仲がいいんですよ」
未来の可愛いカップルはチェックさせていただいてます。
お兄様は風紀委員じゃないのに、いったいどこで接点が?と思ったら十三束家の『レンジ・ゼロ』は有名とのこと。そういえばそうでしたね。
そんな話をしていたらエリカちゃんと合流。
西城くんは一緒じゃないのかと訊ねたお兄様に、エリカちゃんはご立腹だ。ごめんね私もセット扱いしてました。さっきも一緒にいたから。
状況が悪いのか、お兄様がクラスの皆は?と訊ねる。なんでもE組は皆ノリがよくて応援行くぞー!となっているらしい。仲いいクラスだね。クラスメイトの応援に集まるなんて青春だ。
他の皆はまだ来てないが、美月ちゃん達は来ているらしく、エリカちゃんがにんまりと二人の座っている方に視線を向けていた。
自分が揶揄われるのは嫌だけど、人のことは全力で揶揄いたい。そんなエリカちゃんも大好きですよ。
因みに演劇部部長も来るんだって。なんでエリカちゃんがそんなこと知ってるの?そしてどんなネタでも拾う姿勢、着々と創作系オタクの道を進んでますね。いいことだと思います。
――
しばらく他校の研究を聞きながら、周囲を確認するも特に異常はまだない。
また交代の時間になったので客席から移動する途中、小さな声が耳をかすめた。
振り返ると、そこには安宿先生と共に壁際に立っている千秋ちゃんの姿。さっき名前を呼んだのは千秋ちゃんだったみたい。
「千秋!もう外出て大丈夫なの?体調は悪くない?」
「…もう平気」
「そう、よかったわ。安宿先生もこんにちは」
「ええ、こんにちは」
千秋ちゃんは素直に顔が見れないお年頃なのか、ちらちらとこちらを見ては顔を背けるツンデレ少女だった。
警戒心の強い小動物みたいで可愛い。ちーちゃんって呼びたい。
「良くなったからって無理しちゃダメよ」
「わかってるわよ」
「興味深い発表だからって熱中しすぎてもダメだからね」
「もう、わかったってば」
「あらあら二人は仲良しなのね~」
「ええ。友人です」
「!!」
あらま。先生の陰に隠れちゃった。やり過ぎたかな。先生はふふふ、と笑っている。
お兄様は、うん。何の感情も読み取れない顔になってる。なんで?
「では先生、私たちはこれから交代に向かうところなので」
「発表、楽しみにしてるわね、司波くん」
「はい」
軽くお辞儀をして二人と別れて今度こそ控室へ。
花音先輩になんかあったの?と聞かれたけど、はて?何かあったかなとお兄様を見ると、お兄様は何もありませんと無表情。そこはいつも通りに見えなくないけどオーラがね、ちょっと不機嫌そうといいますか。これは何かあったと思われてもおかしくない。
交代して先輩たちがいなくなって二人きり。
「私、何かしてしまいましたか?」
私たちが無言で過ごすことはよくあること。会話がなくても心地よい穏やかな空間は好きだ。
けれど今流れていた無言は少し居心地が悪い。これから起こることへの警戒心かとも思ったが、なんというかお兄様の関心がこちらに向いている気がするのに、見ないようにしているような…うん、よくわからないけれどそんな感じ。
さっきも感情を隠したような顔をしていたし、何か私がおかしなことをして、そのことを注意しようか考えているのか。
黙っていることもできたけど、改善すべきことがあるなら早めに修正をするべきだ。放置して拗らせて後で仲直りするなんて時間がもったいない。
思い切って質問すると、お兄様はゆっくりと視線を合わせた。
無表情だけど眉は下がっている、多分一ミリくらい。
「深雪は何も悪くないよ。これは俺の問題だ」
「その問題は、私たちで解決するものではないのですか?」
この質問は予想外だったらしく、目を見開くお兄様。
一人で問題解決できるなら、お兄様はさほど悩まないのでは?と考えたのは経験則だ。
お兄様はそもそも他に関心が薄い。はっきり言えば私が絡むことでなければ基本放置か即決だ。
しないとなれば私絡み。そう自意識過剰になるくらいにはまだ、お兄様の主軸は私だった。
そして今回も正解のようである。
「解決、は難しいだろうな。…単に俺が寂しくなっただけだから」
「お兄様が?私がお兄様を寂しくさせたのですか?」
おっとこれは大問題だ。そしてどう考えても私が解決せねばならない問題では⁇
驚くとお兄様は苦笑して情けないなと零した。
「互いに高校に入って人との付き合いが変わっただろう?昔に比べて交友関係が広がった」
「そうですね。以前では考えられなかったことがたくさんありました」
以前は家族とそれ以外だった世界に、友人ができたことで随分世界が広がったように思う。
お兄様も昔より周囲に振り回されることが多くなったけど、その分楽しそうに過ごすことも増えた。
感情は更に豊かになった。人との関わりがお兄様の新たな扉を開いてくれた。
私にとってこの変化はとても喜ばしいのだけど、お兄様には違うのだろうか?
「お兄様は困ってますか?」
「困ってる…戸惑ってる、かな。ずっと深雪のそばにいることが当たり前で、深雪のことは全部知っている気になっていたのかもしれない。…俺の知らない交友関係があってもおかしくなんてないのに」
ああ、そういうこと――ようやく合点がいった。
つまり、あれだ。え?アレでいいのかな?
親友だと思ってた子に知らない友達がいたことがショック、みたいな。
「そういえば千秋のこと、事件概要は話しましたけど、名前を呼び合う仲になったとは説明しませんでしたねぇ」
「…かなり腹を立てているように見えていたから、どうして仲良くなったのか信じられなかった」
確かに。千秋ちゃんの行動は許せるものじゃなかったからね。お兄様への八つ当たりも、妹としての心構えも。
「そうですね。私自身友達になるとは思ってもみませんでした」
エリカちゃんと壬生先輩じゃないけれど、殴って友情が芽生えることってあるんだね。
「それから、一条や十三束のことも」
「十三束くんのことなら先も申しました通り、エイミィと仲良しですから自然と見る機会は増えますね。…ですが一条さん、は特に心当たりがないのですが?」
「熱心に応援しているように見えたが」
「ああ、これから大変なことになるでしょう?クリムゾンプリンスとして活躍なさるでしょうから応援を」
「…そうか」
あらあら。ちょっと面白くなさそうな口ぶりです。拗ねてる?珍しく可愛いお兄様が顔を出した。
昔母を褒めた時のような顔だ。
「一条さんを応援できるのはあの場だけですが、お兄様へは常に応援しているのですよ。それでは足りませんか?」
お兄様は常に巻き込まれていきますからね。いつでも妹は傍で応援していますとも。
そう言えばお兄様は少し考えるような顔をして、――にやり、と笑った。
「足りないから補充してくれ」
――揶揄いモードだから助かった。これが色男モードだったら死んでた。
お兄様の近くに立って座ったままのお兄様の両肩に手を置いて覆いかぶさる。
長い髪がカーテンのようにお兄様を囲み、まるで閉じ込めた気分だ。
「お兄様、行かないで、無茶はしないで、傷ついてほしくないの。――これも私の本心。
だけど強くて格好良くて、皆を守って悪い敵なんてやっつけちゃう、そんなお兄様も見たいのも本心。
応援してるわ、私のヒーロー。頑張って。絶対戻ってきて」
行ってなんて欲しくない。行ってしまえばお兄様が世界の中心人物になってしまう。渦中に巻き込まれてしまう。けれど、お兄様が行く方が被害も最小限で収まるし、抑止力としても効果的なのだ。
(何とか軍や十師族の力で、と思ったけれど、どこも組織力と力が足りない。一丸となっても被害が大きい)
これも、神の采配なのか。
でも、それでも立ち向かう姿は格好良いのも知っている。
お兄様はどんな相手にも負けない――最後には必ず勝つ。
なんてったって、彼はヒーロー。主人公なのだから。
頑張っている人に頑張ってと言うのは、と思わなくもないけれど、お兄様はそれがよかったみたいだ。
「ヒーローなんて柄ではないが、深雪のためのヒーローなら喜んで引き受けるよ。ありがとう」
脇に手を差し入れられ持ち上げられると腿の上に座らされた。
抱っこ好きですねお兄様。
でもタイミングが悪かった。
ノック音と共に入ってきたのは七草先輩と渡辺先輩、そして市原先輩だ。
「早く来ちゃ――って!また兄妹でそんないちゃついて!!もう、ここは公共の場です!破廉恥禁止!!」
…破廉恥って言われた…。
子供抱っこだと思うんだけど破廉恥に見える?…私の見た目が子供じゃないからかー。
先輩たちの前でこの格好は恥ずかしいので、お兄様の巻き付いている腕をぽんぽんする。…ぽんぽん。あれ?外れない?
「兄さん?」
「……わかった」
シートベルトが外れました。
「失礼しました先輩方」
すすす、とお兄様の後ろに下がってすまし顔。
先輩方の視線が突き刺さるけど、私っていうよりお兄様にですね。すぐに離さなかったことが要因でしょうか。
「予定を繰り上げて早く来たということは、何かあったということでしょうか?」
お兄様も何事もなかったかのように話し始めました。
三人とも呆れた視線になったけれど、触れることなくそれぞれ適当な椅子に腰を下ろした。
話は先ほどまで尋問してきたという関本先輩の話だった。
真新しい話はほとんど出なかったそうだけど、マインドコントロールされた形跡があったという。そして、
「これは家からの情報だけど、関本君の背後の組織と関連あるかわからないけれど、どうもこの周辺できな臭いことが起こる可能性があるって」
「今日かはわからんが、ここに来る途中街を見て外国人が多くてな。信ぴょう性が高い」
「十文字君のところも情報が行っていると思うから、午後からは防弾チョッキ着用で警備に当たるかも」
「主催本部からも避難経路に関する案内のついたパンフレットが配られましたね」
パンフレットは入場者全員に配られた今日のプログラムだ。
毎年用意されているが、全員に配られるものではなかったので、違和感を持った人もいただろう。そしてそこにはいつも記載のない避難経路。
何かがあると気付く者もいるはずだ。
「あーちゃんには更に警戒するように後で伝えるわ。何事もないのが一番なんだけど」
「警戒自体が無駄になることはないでしょう」
話がまとまったのか、市原先輩は原稿を読み出し、七草先輩たちは市原先輩の護衛係をかって出ているので、そのままここで待機するらしい。
お兄様も気にせずモニターに映る発表を見て過ごして一時間。昼休憩となりお弁当タイム。
仕出し弁当は結構豪華。飾り切りされたニンジンのモミジが秋らしい。
今度フルーツカッティングでも始めようかしら。
リンゴの白鳥とか作ってみたい。
「…深雪さんは何を目指しているの?」
あらま。また口に出してた?
「できたら面白そうじゃないですか」
見た目にも楽しいし、デザートの幅も広がりそう。
いつか来る藤林さんとのお茶会で披露したら素敵じゃない?…あれです。気分はフルーツ盛り合わせを注文してあげるお客さんの気分。高いお酒は用意できないからちょうどいいね。
お姉さんをナンバーワンにするためなら頑張っちゃおうかしら。
「飾り切りか。お煮しめも年々豪華になっているな」
「できることが増えてきて楽しくなっていっちゃうのよね」
「お料理もするとは聞いてたけど、おせちまで作ってるなんて。すごいわね」
「流石におせちまでは。一月に煮物を作る時にそれっぽくするだけで」
正月は親族の集まりにも顔を出しているのでね。あちらに行けばおせちは用意されていて、自分で作ったことはない。
だけどあまりにもプロ過ぎて家庭レベルのものが食べたくなる。あそこにあるのは美味しいものであって、あったかいものではない。
「練習するなら加減をしてくれよ」
「リンゴならジャムにもできるし、ドライフルーツにもできるから」
脳内ですでに計画は立ててます。大丈夫、コーヒーの時のようにはならないから。
「おかしいわね。べたべたくっついてないのに甘いわ」
「ここまでくると恋人ではなく夫婦だな」
「コーヒーが欲しければついでに入れますよ」
市原先輩はすでに自身のコーヒーを用意していた。早い。
二人の先輩は即手を上げてコーヒーを求めた。ううん、そんなにおかしな会話でもないと思うんだけど。
これがダメなら二人で会話しない方がいいかもしれない。反省点。
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