妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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横浜騒乱編⑬

 

 

食べ終わったら休憩して。残り二時間になる頃五十里先輩たちが合流。準備に取り掛かる。

その時小さなノック音と共に小さな中条会長が入ってきた。

各校生徒会長は審査員の仕事がある。時間的に本来今も審査員席にいるはずなのだが、前の学校が早く終わったとのことで、顔を出してくれたようだ。

いくら巻きで終わっても次の発表の時間に変更はないのだけど会長としての初の大仕事、激励に駆けつけてくれたみたい。

可愛い。癒されますね。彼女らしい、生徒会長のお仕事ぶりに微笑ましくなる。

来年は私も審査員をやることになるだろうから、発表も見るけれど会長にも注目させてもらってました。

ちまちま書いてたり小さく頷いていたりと大変可愛らしかった。参考になってるかは…姿勢は勉強させてもらったから大丈夫。問題ない。

時間になったので会長は戻っていき、お兄様たちはまた作業に戻る。

あっという間に時は過ぎ、ついにお兄様たち一高の番になった。

舞台にまで付いていくわけにもいかないので、私は関係者席に向かうが、客席を通るので目立たないように動いているつもりだけど悲しいかな、注目を浴びているのがわかった。

深雪ちゃんにこっそりなんてできるわけが無いのです。

発表との合間の休憩時間だったので、発表の邪魔にならずに済んだけど、発表中だったら、もしかしたら妨害工作と思われたかもしれない。

いや、逆に皆舞台に集中するから私が見られることはないか?…怖くて実験なんてできないけど。

時間ギリギリで関係者席にたどり着き、すぐに照明が暗くなる。

凛と立つ市原先輩はいつもよりも美しく見えた。凛々しい顔立ちに自信満ちた声色、背筋はピンとして堂々としている。

――陰に徹する必要なんてないくらい、彼女は見せ方を熟知していた。

発表が進むにつれ、会場のボルテージも上がる。特に市原先輩の、

 

「今回私たちは、限定された空間内における見かけ上のクーロン力を十万分の一に低下させる魔法式の開発に成功しました」

 

との言葉に会場はどよめいた。

五十里先輩はそのタイミングでデモ機を操作、市原先輩の説明と共に魔法はプラズマ化、クーロン力の制御、重力制御、冷却、エネルギー回収、そしてプラズマ化へと循環し、何十回とループする魔法を安定的に発動する。

 

「現時点では、この実験機を動かし続ける為に高ランクの魔法師が必要ですが、エネルギー回収と設置型魔法による代替で、いずれは点火に魔法師を必要とするだけの重力制御魔法式核融合炉が実現できると確信しています」

 

夢物語だった、技術的に不可能とされてきた理論が、新技術『ループ・キャスト』によって実現したことに会場全体が惜しみない称賛を送った。

お兄様の理想とする形が皆に認められる姿に感動する。

飛行魔法の時もそうだったが、また泣きそうになってしまった。

誰もお兄様に目を止めていない。皆、市原先輩と魔法を発動した五十里先輩に集中していたけれど、間違いなくあの魔法式に関して言えばお兄様発案のモノだ。

誇らしい。ほとんどの人は気付いていないけど、私にとってこの称賛はお兄様に向けられたも同然のモノだった。

会場はまだ興奮から冷めやらない。

だが――どんな熱も水を差されては一瞬にして黙らされる。

轟音と振動が、会場を大きく揺るがした。

誰もが突然の衝撃に何が起きたのかわからず動けない。

 

(人員を増やしても、食い止められなかったのね)

 

自分のできる範囲で周囲に頼って警戒してもらってもこの流れは止められなかった。

だけど、すべてを運命通りに進めるつもりはない。

決意を込めた拳を胸に、私は改めて覚悟を決めた。

 

 

――

 

 

「深雪!」

 

誰もが動揺し動けない中、お兄様の声が響く。

 

「、兄さん!」

 

危うくお兄様と言いそうになるのを堪えて声のする方へ返せば、お兄様は跳んで駆けつけてくれた。

息を吸うように魔法を行使する姿はこんな場面でも見惚れてしまう。TPOを考えて顔には出さないけれど。

緊迫したシーンです。ふざけてもいられないわけで。

落ち着いている私の様子に、お兄様は冷静に状況を説明する。

 

「正面出入口でグレネードが爆発したのだろう」

 

音と衝撃で場所と獲物がわかるって相当すごいことをさらっと言えてしまうお兄様ヤバいね、かっこよすぎない?と惚けるのはほどほどにして。

魔法師の戦いは、別に魔法だけで行わなければならないなんてルールはない。

現在でも戦争は大抵魔法以外の武器がメインだ。近接中距離で言えば魔法よりも銃の引き金引くほうが大抵早いしね。

それに誰でも使えるのだから、そっちの武器の方が主流なのは当然とも言えよう。

一般に流通しているような武器ならば魔法で防げるが、魔法がすべてを解決するようなことがあれば世界バランスは狂ってしまう、と魔法に対抗する物理的武器が開発されるのも当然の流れだ。

金はかかるが大国であればそのくらいの備えは余裕だろう。

つまり、――荒々しい足音と共に銃を構えた集団が、魔法師の警備員に守られているはずの会場に雪崩れ込んできたということは、魔法だけで対処ができない武器を持ち込んでいるということで。

お兄様は恐怖よりもしかめっ面だ。入り口の対策不足で防げなかったことへの憤りを感じているらしかった。

たぶんだけど、それなりの数を配置していた入り口側は陽動作戦かカモフラージュかで、少数精鋭で守りを固めていた裏口に本隊が奇襲をかけ、潜り込んだのかと。

数が多いというのもあるけれど、向こうは会場の設備や配置を確認して作戦を立ててやってきているのだから、急ごしらえの警備で、しかも直前まで狙われるとは思ってもいない高校生の大会会場。怠慢と言えばそれまでかもしれないが、警戒するに当たっての準備も間に合っていなかった。

もちろんお兄様のご不満はごもっとも。

こちらサイドは各方面から警戒を促していただけに対応が遅れていると、対策がなってないと非難をしたくもなる気持ちもわかる。

風間さんたちのチームとは別の軍がメインに動いていたから、初動の遅さの粗が目立つ、とか考えているのかもしれない。

情報提供している分、独立魔装大隊が入り込む余地を作ったことによって素早い協力体制ができるはずだけど。

縦社会だ、派閥だ、なんて拘らないで国防の為だけに動けたならばお兄様の希望通り、各入り口で対対物理障壁を構築して防ぐことができたかもしれない。

なんて、今さらこんなイフを考えたところでどうにもならない。現実にはすでにここまで侵入されてしまっているのだから。

三高が果敢にも舞台上からCADを起動して魔法を放とうとしたが、やはり発動速度はトリガーを引くより遅くて、銃弾がステージ上に突き刺さる。

相手の発砲したのがただの銃じゃないことはその弾痕でもわかる通り。ハイパワーライフルだ。

この威力、十文字家などの防御力に長けた人でもいない限り防ぎようがない。

 

「大人しくしろっ!」

 

包囲する男たちの人数は思ったより多くない。やはり警戒は無駄ではなく外の魔法師たちの活躍はしっかりあったようだ。

持っている武器は凶悪でも、十五人。目視できるこの人数なら――

 

「デバイスを外して床に置け!」

 

銃を相手に無謀な選択をしない判断ができただけ、三高の生徒は状況が理解できているらしい。

構えていたデバイスを下ろす姿を見ていた男たちが次に目をやるのは観客席周辺で、――私のいる関係者席というのは大抵扉の近く、通路の近くだ。

だから真っ先に目が向くもの仕方ないことだった。

 

「オマエもだ!」

 

銃を向けられ威圧する声に、けれど当然だがお兄様がビビるわけがない。そして私もお兄様が傍にいてビビることはない。

デバイスを外すことなく立っている兄妹は目立つわけで、視線が一気に集中した。

 

「早くしろっ!」

 

苛立つ男の声は実に耳障りだ。

思わず顔をしかめてしまい、男の視線がこちらに向いた。すると男は怯えたと勘違いしたのか下卑た笑みを浮かべたが、間にお兄様が入ったことで一変、銃に怯まず庇おうとする姿に苛立ちが倍増したように舌打ちする。

お兄様は一切表情を変えることなく相手を観察していた。

こんな状況下だ、その冷静な眼差しが異常なものに思えたのだろう。あまりの落ち着きぶりに畏怖したのかもしれない。

 

「おい、待て!」

 

リーダーだろうか、引き金に指を掛けた男を制止しようと声を上げたが間に合わず、男は引き金を引き――銃身が爆発した。

 

「っがあ!!」

 

悲鳴が上がる。

銃の破片が刺さった男は無様に転がり呻いていた。

騒然となった空間を治めたのは、やはりリーダーと目される男。銃を上に向けて発砲、またも会場を黙らせた。

もし非魔法師であれば真っ先に暴発を疑っただろうが、彼らは、いや、彼自身が目のいい魔法師なのだろう。

魔法を行使した私に銃口を向けた。

私が放った魔法はワンホールショット。発砲する熱量を感知し、不可視の弾を撃ち込む魔法。

銃口を向けるだけで発砲しなかったのは、床に転がり呻き声を上げる男の二の舞は避けたのだろう。瞬時にその判断ができるだけ実戦経験のあるリーダーのようだ。

だが私に銃口が向いたことでお兄様の気配が変わる。

 

(あ、これあかんやつ)

 

内なる似非関西人の呟きをこぼしつつ、内心慌てて別の魔法を操作する。

私の狙う相手は、こちらに銃口を向けていることによってお兄様が殺気を向けるリーダー――のみならず、銃を持った男たち。

全員の銃火器を対象に凍火(フリーズフレイム)を発動。

ここが全体を見渡せるホールでよかった。これなら障害物がないから自前の目だけで照準がわかる。

魔法が行使された直後、飛び出たお兄様の速攻の突撃に、リーダーの男はターゲットを変えお兄様に向けて今度こそ引き金を引くが、雷管に熱量が届かない銃など欠陥品だ。弾は出ない。

使えないとわかった瞬間、素早く武器を捨てコンバットナイフに持ち替えられた動きは流石訓練を積んだ兵士なのだろうが、お兄様の方が早かった。

手刀一閃。

血しぶきが舞う。

ナイフを持ったまま切断された腕は宙を舞い、上がる悲鳴は拳を腹に突き刺すことで黙らせた。

一瞬だった。

派手に血が飛んだことで敵も唖然として動けない。

その中唯一動けるお兄様は、振り返ることなく後方に跳び、私を背に庇う形に戻った。

 

 

――

 

 

漂う血臭に、お兄様が正面から相当な量の血を浴びたことが窺える。

さて困った。今すぐお兄様の血を落としてあげたいのに誰も動かない。この状況下でお兄様が敵に背を向けられる?…お願いすれば向けられる、か。

 

「兄さん、こっち向いて」

 

声を掛けたら、あら素直。

お兄様はくるりと反転。血がべっとりですね。お顔にもかかってますよ。

CADを操作してお兄様の体と服に付着した汚れを落とす。はい、綺麗になりました。

 

「取り押さえろっ!」

 

いつの間にか舞台袖で待機していた警備部隊が魔法を放ち、敵を無力化。…彼らの動きに気付いていたからお兄様はこちらに振り返ったのか。

とりあえずこの場は一旦終結した。

固まって動けなくなっていた人たちも動けるようになり、お兄様の周りにはサークルのように離れる人たちもいたが、エリカちゃん達をはじめ仲間たちが駆け寄ってくる。

 

「達也くん!」

「達也!」

 

彼らの表情は忌避でも恐怖でもなく、身を案ずるもので。

お兄様も彼らの無事を喜ぶ声を掛けた。

 

「達也さん!どこにも怪我はないですか!?」

「深雪が武器を抑えたからってよく突っ込んでいったよね」

「見てるこっちが冷や冷やしたよ」

「互いに怪我無くよかったな」

「深雪も、あの場で冷静に動けるなんて。すごかった」

「ありがとう」

 

周囲の視線をものともせずに駆け寄ってくれるなんて。いい仲間だな、と眺めていたら雫ちゃんにあの場で動けたことを褒められ、ちょっと嬉しい。はにかんでしまう。

でもそんな時間も一瞬で。

この場は敵がいなくなったといっても安全ではない。

 

「さっきウチから連絡があった。想定外に大事みたいね。どうする?」

 

エリカちゃんはご実家から連絡が来たらしい。

どういった連絡かはわからないが、彼女の体から闘気が迸っていることからもわかる通りやる気に満ちている。

相当危険な状態だとわかった。

お兄様に指示を仰ぐ辺り、彼女はお兄様をリーダーと定めたようだ。あの中で冷静に動ける人間はそういない。皆も同じようにお兄様を見つめていた。

――生き残るために。

彼らは学生の中でも一番にこの危機的状況を現実だと飲み込んだ。

 

「逃げ出すにしても、追い返すにしてもまずは正面入り口を片付けないとな」

 

エリカちゃんだけでなく西城くんも、それどころか美月ちゃんまでやる気だ。

一種の興奮状態が起きていた。

ほのかちゃんは若干怯えているけど、そんなほのかちゃんも雫ちゃんもCADをしっかり握っていた。

エリカちゃんと吉田くん以外はたぶん対人の経験なんてないだろうに、気丈なことだ。

守られていて、安全なところにいてほしいと思わなくもないけど、いつかは避けて通れないというならばお兄様と一緒の今経験した方がいい。

お兄様先導で正面入り口に向かおうとしたところでストップがかけられた。

 

「待って、チョッと待って司波達也!」

「いったい何の用だ、吉祥寺真紅郎」

 

声だけで分かるようになりました?随分親しくなりましたね。その向ける声には愛想のかけらもないですけど。

この忙しい時になんだ、って思いますもんね。

 

「今のは『分子ディバイダ―』じゃないのか!?」

 

うん…今聞くことかな、それ。きっと未知の状況に混乱してるんだろうね。

お兄様が口を開きかける前に、というより吉祥寺くんがしゃべっている最中に口を挟む。

 

「だったとして、今この状況下で尋問をしてどうなります?この争いが終わりますか?」

 

予想より冷たい声はきっと断罪しているように聞こえたことだろう。良く聞こえれていれば、この状況下で冷静に努めようとしていると取ってもらえるかもしれないけど。

 

「っ!!…失礼しました」

「こちらこそ、会話を遮るような真似をして申し訳ありませんでした」

 

会話というより一方的な文句だったけどね。

お兄様は舞台袖の七草先輩を見つけ、更にそこへ向かう中条会長にも声を掛けた。

 

「この場を早く離れることをお勧めします。最終目的が何であれ、彼らは外国人の魔法師でした。優れた魔法技能を持つ生徒の殺傷または拉致も目的の一つでしょうから」

 

その忠告は当然周囲にも聞かれ、ざわめきが浸透していくが、お兄様は忠告はしたとばかりに振り返らず、私たちを引き連れてホールを後にした。

 

 

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