妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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横浜騒乱編⑭

 

移動直後に激しい爆撃音と揺れが起こった。

ひっ、怯えた声は美月ちゃんとほのかちゃん。そっと寄り添うように雫ちゃんと吉田くんが動く。本当、いい仲間たちだこと。

正面入り口に着くとそこは戦場真っただ中。ライフルの弾が飛び交い、魔法で応戦している最中だった。

だがどう見ても現状、魔法師の警備員の方が不利だった。

数で圧されていることもあるが、相手の武器がただのゲリラ兵が持つ者ではなくハイパワーライフル、対魔法武器であることも原因か。むしろ良くここまで防いでいる。

危険な区域に近づいたのでお兄様の後ろにぴったりくっつく形で移動すると、お兄様がぴたりと止まり扉の裏に身を隠す。

当然私も続いたけれど、その後ろのエリカちゃん達はそのまま突破しようとし、お兄様が西城くんの襟首を引っ付構えてエリカちゃんにストップをかける。

 

「止まれ!対魔法師用の高速弾だ!」

 

ぐえっと首が閉まって漏れ出た音と西城くんの顔色を見た吉田くんが容赦ないな、と顔を顰めつつ感心するのと、雫ちゃんも命拾いしたね、と冷静。この状況に怯えてなくて何よりですよ。

こういう時ペースを乱されずいつも通りでいられるかは今後の動きを左右する。

 

「深雪、銃を黙らせてくれ」

 

お兄様からの短い命令。

皆が驚く中、周囲を見渡し数が多いことを確認してからお兄様を見て。

 

「手を」

 

それだけで十分だった。

お兄様の伸ばした手に自身の手を重ね、指を絡める。

戦場には似つかわしくない動作に、皆からの動揺も伝わるが振り返っている余裕はない。

手から伝わるサイオンの信号は敵の座標を正確に伝え、私はCADを二度連射した。

二度目の振動減速系概念拡張魔法、凍火(フリーズフレイム)。

その発動を確認すると同時にお兄様は隠れていた扉から飛び出して、魔法を宿した両の手の手刀で人体を切り裂いた。

一閃の後噴き出る血に、味方よりも敵の動揺の方が見て取れる。

どう見ても武器も持たない素手の男子高校生に、仲間が切り裂かれるという信じられない光景だけでも十分ショッキングではあったが、先ほどまで自分たちを優位にしていた魔法師を圧倒していた対魔法武器がうんともすんとも言わず、いくら引き金を引いても弾が出ないとなれば混乱もする。

ただ彼らは絶望をただ待つよりも応戦しようとコンバットナイフを出すあたり切り替えが早かった。こちらもある程度実戦経験のある兵だったのだろう。

それでもだ。いかに反応ができても仲間が次々と訳も分からぬ攻撃に倒れ、血にまみれていく姿というのは戦意を鈍らせ、失わせるには実に効果的だった。

体勢を立て直すためか、逃げようとする敵に反応したのは警備員ではなく、エリカちゃん。

彼女は自己加速の魔法で敵に迫ると頸動脈を斬りつけた。

ここで敵を屠らねばならないのだと彼女は知っていた。

戦場にて人の命を奪うことに躊躇っていては、明日の我が身が危ないことを。

吉田くんもそこに参戦しカマイタチを放って敵を斬り斃していく。

銃器がなくなれば警備員達も動きやすくなる。ようやく攻勢に出られる、と彼らはエリカちゃんたちに続いて勢いを取り戻し果敢に敵を倒していった。

これなら彼らで十分だろうと戻ってきたお兄様とエリカちゃんの血を落とし、ようやくひと心地つく。

だがいきなりの交戦だ。荒事に慣れていないだろうほのかちゃんや雫ちゃん、美月ちゃんを見れば――特にほのかちゃんと美月ちゃんは今にも倒れそうな顔色だった。

 

「すまない。ほのか達には少し刺激が強かったかな」

 

お兄様の言葉に、ほのかちゃんは気丈に頷いて「いえ、大丈夫です」と答えてみせた。

恋心ってすごいね。人を強くさせてくれる。

 

「雫も大丈夫?」

「…うん」

 

雫ちゃんは普段と変わりなさそうにしているけれど、顔が強張って見える。

若い女の子たちが見るものじゃない。そう言いたいけれどこの非常時、どこにも安全なところはない。避難させてあげられないことが辛い。

 

「美月も、無理しすぎないで」

 

背を撫でると細かく震えている。ぎこちなく笑ってくれたけど内心かなりきついはずだ。

お兄様が気を使って普段通りの口調でエリカちゃんに得物の話を聞いて、雰囲気を平常に戻そうと図る。

エリカちゃんは心得たものでいつも以上に口調を砕いて解説してくれた。

見た目ではわからなかったギミックに、皆手品を見たように引き付けられていた。

こんな殺伐とした状況だし、内容も武器についてではあったが軽口をたたき合うことで、徐々に日常に近づいた気がした。

 

「それで、これからどうすんだ?」

 

落ち着いた頃を見計らって西城くんは切り出した。

そう、これからどうするか。

 

「情報が欲しいな」

 

その一言に反応したのは雫ちゃんだった。

指して曰く、あそこの新しくできたビルのVIP会議室を利用してはどうか、と。

 

「あそこは閣僚級の政治家や経済団体トップレベルの会合に使われる部屋だから、大抵の情報にアクセスできるはず」

 

そしてそのアクセスコードも暗証キーも知ってるっていう雫ちゃん凄すぎない?私のお友達が凄いんです。

本人はお父様の溺愛が恥ずかしいみたいだけど、おかげで情報が手に入るのだ。恥じることなんてないよ。家族愛が深くて私は嬉しくなる。

さっそく向かったVIP会議室。ほんとVIP仕様って感じの重厚感ある、格式高そうなお部屋です。

一般人は絶対に入れない場所だ。

雫ちゃんは父親に教わったことを思い出しながら操作し、そしてモニターに受信した警察のマップデータを見て、――一同愕然とした。

海側地域が真っ赤に染まっていた。そこから内陸に向けて現在進行形でまた一つ、と赤くなる。

ものすごい勢いで侵攻しているのがわかる。

海側は警戒していたはずだったが、相手の方が上手だったらしい。

それとも警備に邪魔でも入ったか。軍でも警察でも上層部や政治家といった上の連中が余計な手出し口出しをすることもある。

今回の件でそういった輩には重い処分を下してもらいたいものだけど、そんなことはこちらの関知するところでは無い。

 

「何これ!」

「酷ぇなこりゃあ」

「こんなに大勢…一体どうやって」

 

あまりの非常事態に危機感を募らせる。

お兄様も顔を顰めている。そっと手を伸ばしてお兄様の手に触れると、少しだけ握り返してするりと離れた。

 

「改めて言わなくても分かっているだろうが状況はかなり悪い。この辺りでぐずぐずしていたら国防軍の到着より早く敵に捕捉されてしまうだろう。だからといって簡単に脱出できそうにない。少なくとも陸路は無理だろうな。何より交通機関が動いていない」

 

安全を確保するにはどうすべきか話し合うが海は敵だらけでだめ、シェルターは現実的だが建物が爆破されれば元も子もないと一刀両断。

なら地下通路を使えばとの案もお兄様がストップをかけ、エリカちゃんも地下はまずいか、と思い当たったところでもう一つ、お兄様が脱出とは別の提案を持ちかける。

デモ機を処理したい、と。敵の目的の一つを確実に潰したいのだと。

全員否はなかった。

 

 

――

 

 

そうと決まれば行動は早い。

最短ルートで会場に戻り、ステージ裏の通路へ向かう途中で十文字先輩、桐原先輩ともう一人は風紀委員の沢木先輩だね、と鉢合った。

 

「他の者も一緒か。お前たちは先に避難したのではなかったのか?」

「デモ機のデータが盗まれないよう処分しに戻りました。彼女らはバラバラに動くより良いと思いまして」

「皆すでに地下通路に避難したぞ」

 

その言葉にエリカちゃんが反応してお兄様を見る。さっき話したばかりだからその危険性を危惧したのだろう。

 

「なんだ?地下通路はまずいのか?」

「地下通路は直通ではないので他のグループと鉢合わせる可能性があります。場合によっては」

「遭遇戦の可能性もあるということか!?」

 

地下通路って耐震だのはいいけれど閉鎖的で道幅も狭い。正面から敵が来た場合逃げ隠れはまず難しい。

 

「服部、沢木、すぐに中条の後を追え」

「ハッ」

「分かりました」

 

素早く身をひるがえす先輩たちを見送った十文字先輩は、お兄様に向き直ると少し非難めいた色を交えた顔をして。

 

「司波、お前は智謀のわりにフットワークが軽すぎるようだな」

 

含まれた言葉の意味を理解したお兄様は返答せず。十文字先輩も期待していなかったとばかりに急ぐぞ、と先導した。

目的地はすぐそばだったのでものの数分で着いたのだが、そこには先客がいた。

五十里先輩市原先輩含め護衛の方々、と関係者。

デモ機の消去と、お兄様と同じことを考えてのことだった。

 

「七草たちは?」

「リンちゃん達が頑張ってるのに、私たちだけ避難もできないわ」

 

その考えはご立派ですが、お家としてはどうなんでしょう?七草先輩って十師族の割に結構自由だよね。

もしかして状況についてまだ連絡が来てないなんてことないよね?

 

「司波くんは控室に残っている機器の方を頼めるかな」

「可能なら他校の分も壊してちょうだい」

「こっちが終わったら控室を手伝うから、そこで今後の方針を決めよう」

 

先輩たちからの要望に、お兄様は頷いて私だけを連れて控室へ。

彼女たちも壊すだけなら手伝おうか?と言ってくれたがお兄様がやった方が早い。

そんな事情は知らないからちょっと疑問に思われたけど、お兄様の指示に従ってステージ裏で待機してくれるようだ。

皆すっかりお兄様の指示に従うようになりました。いい判断。とてもいいチームだ。

 

「深雪」

「はい」

 

作業をしてながら呼ぶ。

 

「思ったより状況は悪い」

「はい」

「おそらくこの後俺は招集される」

 

お兄様の顔に苦みが滲む。

お兄様は離れていても私の守護ができるけれど、それでも傍で守れないことは彼にとって苦痛、トラウマを呼び起こすもののようだった。

あれから三年。

それでもお兄様には昨日のことのように鮮明に記憶が残っている。

 

「以前にも申しましたでしょう?あの時のようなことにはなりません」

「心配なんだ」

 

最後の一つを分解して、お兄様はようやく顔を合わせてくれた。

辛そうな顔に、そっと手を添える。

 

「ありがとうございます。私もいつだってお兄様を心配しておりますよ」

「俺とお前では違うよ」

 

自分には自己修復がある。再生の魔法が展開されるからとお兄様は言うのだろうけれど、私にとってそれは安心には繋がらないから。

 

「愛する家族が傷つくことへの心配に、違いなど在りはしません」

 

お兄様はいつだって私を優先してしまうけれど、私だってお兄様のことが最優先で、事情はいろいろ絡み合うが、互いを心配し想い合う気持ちに差はないはずだ。

 

「必ずお兄様は私の元に戻ってきます。だから私も無事でいなければならない。そのために私は抗ってみせます」

 

お兄様が必ず私の元へ戻ってきてくれるというのなら、なにがなんでも生き延びてみせると宣言すると、お兄様は表情を柔らかくして頬の手に己の手を重ねた。

 

「必ず戻るよ、お前の元に」

「約束ですよ」

「ああ」

 

重ねた手を握りしめ、約束するとお兄様は立ち上がった。つられて立てば、ノックと共に先輩たちが。

どうやらあちらも終わったらしい。

お兄様がすべて終わったというと花音先輩が驚いて何をしたのか聞くが、婚約者である五十里先輩が嗜める。魔法を聞くのはマナーがよろしくないですよ。

そして渡辺先輩を筆頭に今後のことを話し始める。

七草先輩がようやく敵の真の目的が魔法協会にあるのではないかと触れるが、だとしても私たち学生には避難することの方が優先だと考えるのは自然だった。

避難船は到着予定があるがキャパシティはそこまでないことは明白。

シェルターへ避難に向かっていた中条会長たちはお兄様の予測が的中し、敵と交戦したらしいが退けたと連絡あったそうだ。

とりあえずこの場で待機し続けることは生存確率を限りなく低くさせることは確かなので、十文字先輩は報告と市原先輩の護衛として戻ってきていた桐原先輩を連れて、他に逃げ遅れがいないか確認しに。

残りは彼らが戻り次第、シェルターの方向へ向かうことになったのだが――

 

「達也くん!?」

 

お兄様がCADを構え、七草先輩が悲鳴のように声を上げた。

しまった!お兄様に必要以上に魔法を使わせないようにとしていたはずなのに、見落としていた。

デモ機があるのだからこの会場自体が攻撃対象として狙われるとわかっていたのに、お兄様に警戒してもらうことを忘れるなんて!

 

(私では知覚できなくてもお兄様に視ていてもらえば、私の魔法で処理できたはずなのに!)

 

後悔してももう遅い。

壁に向かって構えていたCADを操作し魔法が放たれる。

雲散霧消を発動しただろうお兄様を、本来であれば誰も見ることなく不審に思うだけだったのに――ここにはマルチスコープで多角的に視界を持っている七草先輩がいた。

 

「…今の、なに?」

 

何をしたのかわからぬまでも、何かして突っ込んでくるはずだった攻撃がお兄様によって無力化されたということはわかるわけで。

けれど先輩のその疑問はすぐに別の恐怖に塗り替えられた。

お兄様がもう一度構えたことで、敵が再度攻撃を仕掛けてきたことがわかる。

続く攻撃も、普通では迎撃できない攻撃なのだろう。見えている七草先輩の顔色は青ざめたまま。

敵は先ほどの奇襲が防がれたことで、デモ機のデータ回収を諦め殲滅する方を選んだらしい。随分思い切りがいい。

そこまで論文コンペの技術の搾取は重要な任務ではなかったのだろう。

そしてお兄様は立て続けに魔法を行使――せず腕を下ろした。

――頼もしい援軍が到着したのだ。

直撃を免れないはずの攻撃が無力化されたのだと、七草先輩の顔が物語っていた。

 

 

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