妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
達也視点
講堂に向かえばそれなりに埋まっていた。
何も指示を受けていないのに前後に分かれて座っているのは、空気を読むのが得意な日本人特有の事なかれ主義か。
空気を読むのは苦手だが、事なかれ主義ではあるのでその流れに従った。
話は変わるが自分の容姿は決して良い方とは言えないと思う。
妹はよくかっこいい、素敵と言ってくれるがそれは身内の身びいきだ。
母は逆に客観的に見るのでよく目が怖い、どうして私にこんなに似てないのか、と頬を摘ままれた。
美しい容姿の母と妹に似ていないのは、むしろ良かったのではないかと彼女たちの周囲を見て思う。
あれだけ目立ってしまえばガーディアンなど務まりづらいだろう。
護衛など目立たないのが一番だ。
それを考えると目つきが悪く地味というのは、自分の役割的に必要な容姿なのではと思うわけで。
つまり何が言いたいかというと、
(なぜこんな目つきが悪い男に、気弱そうな女子が話しかけ、あまつ女子グループと並んで座ることになったんだ?)
ということだった。
まあ話を聞けば、四人掛けで続けて座れるのがここしか空いていなかったというだけだったのだが。
だが随分個性的な人物が寄ってきたものだ。
周囲の男子が隣の女子生徒の身体の一部に熱い視線を向けている。もう一人は顔に向けられていて――中には俺を睨む目まであった。
だったら席を変わってくれ。俺は別に求めていない。
この場所をなぜ選んだかなんて、ここならば妹の雄姿がよく見えるからだ。
どこにいても見えるが肉眼でもよく見たい。
そんな兄心を見せたのが悪かったのか。
そうこう考えているうちに式は始まった。
(ああ――予想していたが)
妹が壇上に上がるとまるで光が射したかのように眩しく輝き、講堂内は静寂に支配され衣擦れの音さえ消えた。
教員や父兄を入れて300人は超えるはずなのに皆動くことを、息をすることさえ忘れたようにたった一人の少女に目を奪われていた。
類い稀なる美貌の少女に男女関係なく魅入っていない者などいなかった。
そんな彼女がにこりと微笑み頭を下げ、答辞を読み上げる。
まるで天上の調べのように全員聞き入った。
可愛らしい声は歌声のように響き、語る言葉は神の言葉のごとく脳に直接届くよう。
理性の働いている自分には彼女がキーワードのように入れる一科二科に対する思いがオブラートに包まれてちりばめられていることに気付いたが、ここにいる何人がそれに気づけただろうか。
(…これは下手をすると信奉者が現れそうだ)
小中と、彼女が人前に立ってこのように発表することなど無かった。目立たないようにすることなど彼女には不可能ではあったが、平等性を謳った学校側の配慮もあり目立つような立場にはならなかったのだ。
だが、こうして表舞台に立ってしまった。人目に触れてしまった。これはしばらく荒れるだろう。そんな予感がした。
長くもない彼女の答辞が終わり万雷の拍手で講堂が揺れるという珍事は伝説として語り継がれる未来が待っている。
さて、その後大したことも無く式も終わり、IDカードを受け取れば今日は帰っていいはずだ。
ちらりと見えた妹は来賓や生徒会と思われる人たちに囲まれ、にこやかにそれに対応していた。
さぞかし疲れていることだろう、と早く労ってやりたいという気持ちとは裏腹にIDカード待ちの列はなかなか進まない。
流れでそのまま隣にいた女子グループと行動を共にしていたおかげか退屈はしなかったが。
ようやく自分の順番となりカードを受け取るとクラスを聞かれた。
「E組だ」
「やた!一緒だ」
「私もです」
知った人間が同じクラスというのは相手のことをよく知らなくても安心するものなのか。残る二人はばらけてしまい残念そうだが、クラスが別になっても声かけるねー、と手を振ってここで解散となった。
なんとも社交性の高い。女子とは皆こういうモノなのだろうか。だとしたら男でよかったと妙な安堵感がある。男子にも男子の社交があるが、女子とは種類が違う。
何の予定もないしホームルームでも覗くかと声を掛けられたが、ここで妹を待っていると伝えれば見てみたいと一緒に待つことになった。
その間流れで俺の妹なら可愛いだろうとよくわからない理論を千葉さんに言われたが、続く柴田さんからの言葉にツッコむことができなかった。
もしや妹とは答辞を述べていた新入生総代の彼女ではないか、と。
肯定すると話はいつも聞かれる双子説へ。それを否定し説明すれば、千葉さんはこれも一種の才能か聞きづらいことにズバッと切り込んでくる。
「そういうのって複雑なものなの?」
ただ、この時俺は戸惑った。そういうの、というのはどれを指しているのか、と。
一年もたたず兄妹ができている思春期特有のアレな質問か、はたまた優秀な妹を持つ劣等生な兄について、か。それともあれほど可憐で美しい妹を持つ平凡兄貴についてか。
若干どう返していいか迷っていると、その空気を感じたのか柴田さんは話の矛先を変えた、…のだが、こちらの方がより戸惑う羽目になった。
俺と深雪が似ているという。
どのパーツも重ならないし、似通ったところなど無いはずだ。
千葉さんも続けて似てるというが、これはただ乗っかっただけのものに思う。
柴田さんの目の良さは警戒した方がいいかもしれない、と思わせるほど敏感なもののようだ。
そうこうしていると前方からざわめきが起こる。
――我が愛しの妹の登場だとすぐにわかった。
「――兄さん」
ヒヤリ、とする声色はよく四葉の本宅に行くと聞かれるものだ。
それが今自分に向けられているというのになぜか気分が高揚している気がした。
彼女の背後には生徒会長と、その他諸々が集まっていた。
「こんにちは司波くん。また会いましたね」
無言で頭を下げつつ余計なことを、と思わずにいられない。
目立つ人間が話しかければ注目される。
ただでさえ、深雪が声を掛けただけで周囲の視線を向けられたというのに、深雪が入学するまでは学校一の美少女だっただろう会長が話しかけたとあればなおのことだ。
彼女の微笑みは確かに可愛らしいものだろうが、好感どころか近寄りたくない気持ちの方が勝る。
頭を下げたのだからいいだろう、と妹の方を見れば何かを耐えるように目を伏せる姿があった。
いったい何を思ってそうしたのかが気になって口を開きかけたがそれよりも早く彼女が口を開く。
「彼女たちとお話ししているなら、先に帰っていいかしら?」
「お前を待っている間話に付き合ってくれたんだ。柴田さんに千葉さん。同じクラスになった」
「そう」
深雪の態度はひどく冷めたもので、先ほどまでの優しい雰囲気しか知らない周囲の者たちは不穏な空気を感じたようだ。
どうやら彼女は兄を苦手に、いや嫌っているのでは、と。
見れば兄と呼ばれた男の胸に妹とおそろいの印はない。つまり彼は――
「ウィード」
どこからともなく聞こえた声に、深雪の肩が小さく揺れた。
ほんの些細なものだけど注目を浴びている彼女だ、誰もが気付いた。
けれどそんな素振りなどしていないよう深雪は毅然とした態度で顔を上げ千葉さんたちに顔を向け軽く頭を下げた。
「妹の司波深雪です。兄の話し相手をしてくださったようでありがとうございます。今後とも兄をよろしくお願いします」
兄に向けたのとは違う、温度の通った温かな言葉に、しかし受け取った彼女たちはさっきの姿を見ているので戸惑いながら返事を返した。
そして切り込み隊長はここでも空気をぶった切って聞いてみせた。
「あ~、もしかしてお兄さんと仲、悪い?」
すると浮かべていた表情を消し去って一言。
「いいえ」
と冷え切った声で返した。
全員が、司波深雪は兄司波達也を嫌っている。そう誤解するには十分な威力を持った『いいえ』だった。
そんな緊張した空気の中、動ける人間はそういない。
深雪が動かないなら俺が動く。それが道理だ。
「深雪、生徒会の方々の用事は済んだのかい?もし済んでいなければ適当に時間を潰すが」
「それは大丈夫です」
しかし返答したのは会長だった。
「今日はご挨拶をさせていただいただけですから。私も深雪さん、と呼ばせてもらってもいいかしら?」
暗に司波が二人もいるから、と言われているようだが生徒会長が二科の生徒を呼ぶ機会があるというのか。
呼び分けとはそういうためにするのだからそう言っているのだろうが、やはり彼女は俺にとって鬼門かもしれない。
そもそもぞろぞろとついてきている時点で、ただの挨拶だけで済むわけがないだろう。
後ろの男子生徒が会長を呼び止めている。
しかも若干こちらを睨んでいることから相当選民意識が強いのか。生徒会内部がこれなのだから意識改革なんて途方もないのではと妹を心配して視線を向ければ、温度がないどころか氷点下の視線で床を見ていた。
(――ああ、お前がそんなに怒ることはないというのに)
耳には雑音程度にウィードと蔑む言葉と、優秀な妹を比べる会話がそこかしこと聞こえてくる。
俺の耳には自然に入る音でも深雪には聞こうとしなければ聞こえないほど小さな声なのに、あの心優しい妹は拾ってしまったらしい。
こういう時、自分の不甲斐なさを感じる。
力が無いということは悲しむ妹を守れない。それを嫌というほど思い知るのだ。
ここにいる人間を打ち倒して攫うことはできるのに、実行することができない――妹を連れ去ることができないことが腹立たしい。
「それでは深雪さん、今日はこれで。司波くんもいずれまた、ゆっくりと」
二度とごめんだ、と返せるはずもなく目礼で返し、ほかに視線を向けることなく深雪ただ一人を見つめる。
会長とは反対に歩き出す彼女の先は、俺のすぐ前。
「さて、帰ろうか」
その言葉に千葉さんたちが反応した。
「んじゃ、私たちはケーキ食べて帰るから!じゃあねお二人さん」
「お、お先に失礼しますね」
また明日ー、と離れていく彼女たちに手を振って俺たちは人一人分の間隔を開けた距離で歩き出す。
まだついていきたそうな輩も、妹の無表情に恐れをなしたのか無理に後をつけることをやめたようで散っていく。
ただひたすら黙って歩く二人に、朝の仲睦まじさは欠片も見えなかった。
「深雪はがんばったよ」
「特にあの答辞の姿は兄として誇らしかった」
「今日は疲れただろう」
「お前は自慢の妹だ」
「可愛い可愛い、俺の妹」
玄関開けたら妹は引っ付き虫と化していた。
靴も脱げない。
ただぎゅうっとしがみつくように正面から抱きつく妹を包み込むように抱きしめる。
そうすると荒んでいた俺の心まですっと軽くなった。
俺よりも視線を集めて気を配り続けた深雪は、より疲れているだろう。
言葉を掛ければ掛けるほど、俺の胸に埋まるように頭をこすりつけてくる。
くすぐったいような痛いような。でもやめさせようという気にはならない。
宥めるように順番に背を撫でて、頭を撫でて髪を撫でる。
撫でるほど、徐々に動きは収まって今度は腕に頭を預けるように傾けた。小さな耳が黒い髪から覗く。
――ここに触れたらどうなるだろうか、なんて兄が誘惑されているなんて思いもよらないだろう。
少しでも感づいたならばこのように無防備な姿などさらさないだろうから。
妹は俺を安全だと思っている節がある。
兄がいれば大丈夫。兄なら自分を傷つけない。兄だから――。
その信頼だけは裏切れない。
「お兄様ぁ」
泣き言を言わない妹の泣きそうな声で呼ばれることに湧き上がる想いに厳重に蓋をして、兄として妹を労わるように応える。
「なんだい深雪」
「私、頑張った?」
敬語のない、子供返りのように幼い話し方はとても疲れた時や寝ぼけている時、稀になる。
可愛い妹の隠された姿の一つだ。
「ああ。とてもよく頑張ったよ」
「ちゃんとできた?」
「大丈夫だ。誰もが皆騙されてる」
「…お兄様のことを嫌いになるわけなんてないのに」
「わかってる」
「お兄様のそばにいたいの」
「いくらでもいてくれて構わないよ」
「…学校嫌いになりそう」
「嫌ったっていいんだ」
「でもお兄様と学校行きたい」
「無理はしなくていいんだよ」
「お兄様の、お勉強の邪魔はしたくないの」
この勉強とは授業のことではなく、一高生のみ閲覧できる資料を読めることを指しているのだろう。
俺が一高に行きたい理由の第二位はここでしか見られない貴重な資料があること。第一位はもちろん深雪だ。
「俺のためにありがとう」
「ちがうの。わたしのためなの」
ついにひらがな表記の話し方になってきた。
いい具合にとろけてきたようだ。
頭から頬に手を滑らせれば吸い付く肌に心地よさを覚える。
親指で頬を撫でれば口元が緩んで親指をかすめた。
俺の今の重要任務は妹の心を宥めること。ただそれのみだとほかの思考をシャットアウトして専念する。
「おにいさま、ごめんなさい。つめたいたいどとって、ごめんなさい」
「いいんだよ。深雪のしたいようにやるといい」
俺は最後までお前の味方だからと耳元で呟いて、最後の仕上げとばかりに両腕でしっかりと抱きしめる。
深雪もしがみついていた手を緩めて背に回しお互い抱きしめ合う形になった。
いち、に、と数え始めたのはこのふれあいのカウントダウン。
三十秒ハグをするとストレスが大幅に減少するのだと、もうかれこれ三年の習慣だ。
はじめは長いと感じた三十秒だがどんどん短くなっていき、今では一瞬のように感じるようになった。
ずっとこうして離れなければいい。
そうすれば何者からも守れるし、余計なものなど何も寄ってこないのに。
さーんじゅっ、と終わりを告げる妹は未練も何もなく終わったとばかりにニコッと笑ってさっと離れてしまう。
そのことが少し寂しい。
「…お恥ずかしい所をお見せいたしました」
「すべての深雪が見られるのが兄の特権なんだからどんどん見せてくれ」
「もう、お兄様ったら」
少し赤い顔の妹に、もう一度頭を撫でて互いにおかえりの挨拶とただいまの挨拶をして笑い合う。
いつも通りの日常が、帰ってきた。
部屋に戻りさっさと服を脱ぐ。
ブレザーの胸の模様を見るとつい、こんなもののせいで妹が苦しむのかと眉間に皴が寄る。
己の基準が学校の一定基準を満たしていないからだとわかっているものの、このように区別するから差別が起こりやすいのだと苛立つ思いを隠せない。
劣等生なことなどとっくに自覚している。
そのことを戒めるように見せつける制服を毎日着させられるのか。
これは鬱憤がたまりそうだなと、思い出すのは式に参列していない通常登校をしていた先輩たちの姿だ。
青春を謳歌しているはずの高校生の表情とは思えない感情に乏しい顔がいくつかあったように思う。もしくは不満をため込んだ顔。どちらにしても健全とは思えなかった。
とはいえ一年の二科生はまだああなっている者はほとんど見かけなかった。
特に千葉さんと柴田さんはそうならない可能性が高そうだったが、今後どうなることやら。
着替えた服は以前妹にプレゼントされた普段着ることのない白いシャツだ。
これを見て少し気分を上げてくれればいいのだが、と姑息なことを考えながらリビングに向かうのだった。
薄いピンクのカーディガンを羽織る妹は春を司る妖精なのではと、つい背中に羽がないかを確認してしまった俺を、深雪は面白そうに笑ってその場でくるりと回って見せた。
ふわりと広がるひざ下のスカートからちらりと膝小僧をのぞかせていたのも見逃さず、可愛い妹の姿を堪能する。
「その服着てくださったのですね」
「おかしくないかい?」
「お似合いです!ふふ、私の見立てに間違いはありませんでした」
「喜んでくれたならよかったよ」
「はい。私は世界一果報者の妹です」
「それは言いすぎだ。まだまだ幸せになってもらう予定だからね」
「そうしたら宇宙一にまでなってしまいますね」
俺のために淹れられた美味しいコーヒーと、可愛い俺の唯一の妹。
この時間を堪能できることが何よりも幸せなことなのだと教えてくれたのは、目の前で微笑んでいる世界で一番大切な少女だ。
「今日ちらりと聞きましたけど、どうやらこの先、生徒会に入ることになりそうです」
「だろうな。そのためのあの行列か」
「あの場で勧誘されてもよかったのですが」
「そうしたら放課後まで付き合わされていただろう。切り上げて正解だよ深雪。あれ以上付き合っていたらお前が疲れて倒れてしまう」
ただでさえ大役を終え、あれだけ人に囲まれていたのだ。
精神的にも疲労困憊していて当然だ。
深雪自身それを実感していたのだろう、疲れた笑みを浮かべていた。
「そういえばお兄様はすでに会長とお会いになっていたんですか?」
「ああ、式が始まる前にね。仮想型ではないディスプレイを使っていたことに興味を示したらしい」
「――と、いうきっかけを見つけて声を掛けたんでしょうね」
「ん?」
「いえ、会長は私がお会いした時にはすでにお兄様のことをご存じのようでした。とても成績が優秀な生徒だと褒めてましたよ。直接お会いになるくらい気になっていたんですね」
あれは知っていて近づいてきたのか。
自分のような人間に声を掛けるのはおかしいと思っていたが事前情報を得ていたのなら、何か探りを入れにきてもおかしくはないか。
「で、どうでした?」
「何がだい?」
「先輩にこういっては何ですが、可愛らしい人だったでしょう?」
「…そうか?」
確かに見た目はいいと思ったが、なんだかすべて計算された自然風で可愛らしいと思ったのは一瞬だったと思う。
「できれば二度と絡まれたくないと思ったな」
「え」
正直に伝えれば、深雪はなぜか固まってしまった。
これから世話になる先輩に兄が近づきたくないと言うのが気まずかったのだろうか。
ああ、深雪が彼女のそばにいれば、俺は否応なしに近づかなくてはならない場面に遭遇するからな。それを気にしたのか。
「気にしなくていい。表向きはちゃんと対応するから。お前にとっては身近になる先輩だからな」
「え、と…生徒会長はお兄様に、何か失礼なことを?」
「いや。…そうだね。さっき深雪が言っていた通り成績を褒められたくらいかな。特別なことなど何もない」
俺が他人をそう評するのは初めてだからか、深雪は戸惑った様子で瞬きを繰り返してはコーヒーをちびちび飲んでいた。
基本他人など無関心だったからな。こうも毛嫌いしているのは確かに珍しいのだろう。
感情が薄い自分にしては本当に珍しい。
もしかして深雪の言うように俺の感情が成長しているというのだろうか。
だとしたら、これは妹にとってあまりいい成長ではないのかもしれない。
「そうだ、千葉さんと柴田さん!彼女たちともうお友達になったのですか?」
「クラスメイトだと判明して打ち解け始めた、って所じゃないかな。彼女たちがあまりにフレンドリーだからそう見えてもおかしくないな」
「私彼女たちのこと好きです。彼女たちはお兄様を気遣ってくださってました」
「ああ、それは俺も感じたよ」
今度は打って変わって笑顔になった。嬉しそうな妹の周りには花が舞っているようだ。
喜んでいるのがよくわかる。
「きっと深雪も彼女たちと仲良くなれるよ」
「そう、だといいのですが…警戒させてしまいましたから」
すると今度はしょぼん、と肩を落とし、一回り体が小さくなったような錯覚を覚える。
いつの間にか深雪は幻影魔法が使えるようになったのか、俺の頭がいかれたのか。…壊れていれば強制修復が行われるだろうからどっちにしろ直すほどではないのだろうな。
「なあ深雪。しばらくはそう思わせるために計画通りに動くから警戒されるのは仕方がないとは思うが、二科生の一部――例えば俺の周囲の人間だけならば、先に秘密を明かしてもいいんじゃないか?」
「お兄様の、周囲ですか…」
「正直俺は今回の作戦の必要性を、いや重要性が低いと思っている。だけどお前のやりたいことは応援してやりたい」
はっきり言って周囲にどう思われようと深雪に害が無ければ問題にもならないと思っている。だが、深雪にとって一科生と二科生の確執がもたらす影響は軽いものではないと考えているようだった。
だからといって一時的にも深雪に悪意が向くような計画はさせたくなかったが、これも幸せになるためだ、とお願いされてしまえば黙って見守るのも兄の役目と沈黙するしかない。
「…はい」
「責めてるわけじゃない。ただお前の負担が大きいことに心配している。深雪は優しすぎるから」
「そんな、ことは」
「だからこそ、少しくらい味方を増やしてもいいんじゃないか?」
「…お兄様は彼女たちを信頼しているのですね」
「信頼、は言いすぎだが、そうだな。彼女たちと深雪が楽しそうに笑っている姿を見たいと思うくらいには」
傍に置いてもいいのではと思うほど彼女たちは善性だった。
真直ぐな彼女たちなら深雪の心の負担を減らしてくれるだろう。
「ありがとうございますお兄様」
「こちらこそ、今日のコーヒーも美味しかったよ」
「夕食もご期待に沿えるよう頑張りますね」
「楽しみだ」
こうして夜も更け、明日が始まる。
NEXT→
おまけ
『さてさて、今回のゲストはお兄様に来ていただきました』
「深雪はいないんだな」
『お兄様に配慮した結果です。深雪ちゃんには聞かれてはまずい所を深堀できればと』
「何を聞きたい?」
『(…わあ、興味ないって感じです。是非もないね!)ではさっそく。美月ちゃんたちに話しかけられた時は驚かれたでしょう』
「なぜ俺に?とは思ったな。訝しんでも情報も無い。断る理由も無いから気付かれない程度に観察はした」
『…それはもしかして探りを入れられている可能性を案じて、と?』
「偶然だったのは後にわかったが、初対面で話しかけやすい容姿だとは思わないからな」
『…で?それだけです?』
「他に何がある?」
『学年一美少女と、男子なら目を逸らせない女の子が隣に来たわけじゃないですか(妹が期待していた展開は…?)』
「整った容姿と目立った容姿、美月が声を掛けてきたのは意外に思ったくらいか」
『…まあ、お兄様は衝動を起こすだけの感情が消されているとはいえ、好き嫌いの感情くらいはあるんですよね?ぶっちゃけた話、初対面の時どちらがタイプでした?ある意味対極に居る二人ですが』
「ここにエリカを呼んでくればいいか?」
『お止めください!八つ裂きにされてしまいます!!』
「容姿だけで、と言われてもな。どちらも特徴的な容姿と認識はしたが、だからといっていきなり好意に繋がるか?」
『普通は繋がるかと。特にお兄様くらいの男子であれば初めてのクラスメイトにどっちがタイプ?くらい聞いちゃうかと』
「ああ、そういう話はE組でも交わされていたな。俺は尋ねられたことは無いが」
『…もしかしてそういうことを聞かれないよう空気をコントロールされてました?中学時代でも同級生に『さん』付で呼ばれてましたもんね』
「聞かれたところで答えられる問題でもないからな。適当に答えても良いことが無い」
『合理的思考が働いた、と。まあ、実際好みのタイプ聞かれても答えは一つですもんね。『深雪ちゃん』一択』
「…この時は妹だ」
『でもジョークで妹と血の繋がりが無ければと言っちゃうくらいにはドストライクでしょう?ちなみに自覚した現在は――』
「深雪以外に選択肢があるとでも?」
『デスヨネー。ではもう一つ、親しくなってからの二人で、どちらか一人と付き合わなければならなくなったらどちらを選びます?もちろん二人にお相手はいない状態で』
「どうしても二人のどちらかを選択させたいらしいが、二人がどちらも良い子だとは思うが、それ以上に思うことは無い。それに、俺なんかに付き合ったら不幸になることは目に見えてる。よってどちらも選択しない。――話はこれだけか?」
『いえいえ、これまだ序盤!クラス分けにも辿り着いてないじゃないですか。ではサクサク行くとして、その後の流れはどうです?』
「そうだな、美月の目の『良さ』には警戒を引き上げたが、それくらいか。その後の深雪の演技が光っていたな」
『…あまり本編では出てきていませんでしたがお兄様、かなりシスコンですよね。(原作より)妹自慢が凄い』
「自慢するところしかない、優秀な妹だからな」
『この時七草会長とは二回目の邂逅でしたが』
「それが?」
『…いえ、何か思うことでもないかな、と聞こうとしたのですが…なんか、七草会長に当たりが強くないですか?』
「初対面からあまりいい気がしなかったからな。七草がこちらを探るように見ている、と言うだけでかなり警戒していた。まあ、この時の彼女は俺たちを四葉とは結びつけていなかったようだが」
『そうですね、この先でも分家の可能性は疑われていましたが』
「油断ならない先輩ではあったな」
『うーん。事前情報がフラグを壊した…いえ、この場合深雪ちゃんが居る場で思わせぶりな態度を取られたことが気に障った、とか…?』
「……それは、考えたことが無かったが、そうか。それは有るかもしれないな。深雪も会長を気にしていたようであったから」
『(それはお相手候補と思っていたから、なんだけど私から言うと大変なことになっちゃうだろうし)この場でこれ以上ちょっかいを掛けられずに済んでよかったですね』
「そうだな、空気を読んでもらって助かった。でなければ俺が素っ気なく返し深雪が気をもむ羽目になっていたかもしれない。計画を崩すことにならなくてよかったよ」
『で、疲労困憊の妹を撫で回したわけですか』
「人聞きの悪い。落ち込んでいた妹を慰めていたんだ」
『…この距離が普通の兄妹でないことは?』
「理解しているが?」
『開き直っちゃったよこのお兄様』
「今さらだ。――だが、そうだな。当時は特になんとも思っていなかった。こうすることが自然だと思っていたからな」
『…どう考えても不自然な兄妹の図ですが』
「ハグするのが当たり前なんだぞ?抱きしめて慰めることのなにが不自然なんだ」
『(ってことは妹の初めの刷り込みが悪影響を及ぼしたってことに…南無)』
「あの時の深雪は久しぶりに幼さが見えて可愛かった。アレを見ることができる兄貴という立場は役得だと実感したな」
『…兄はあのように撫でまわさないと――いえ、何でもありません!しかし、その後着替えた妹の背中に羽が無いか確認するとか…案外ファンタジー思考です?』
「深雪の美しさと可愛さが現実離れしているからな。羽くらい生えてもおかしくないだろう」
『真顔で言い切ったよ…』
「しかし、この時やはり生徒会入りは断るべきだったな」
『トラブルに巻き込まれるから、ですか?でもこの件で妹の実力をはじめから隠さなかったことも原因だと思うのですが』
「深雪の制御力は俺に割いている分甘い。隠せば不審を抱かせる。何よりあの容姿だぞ?実力がない、と言うのが嘘であることはすぐ判明するだろう」
『あ、ちゃんとそこは考えていたんですね』
「深雪が目立たない、というのがどれほど無理難題だと思っているんだ」
『なら生徒会入りも仕方ないことですよね。風紀委員なんて荒っぽい仕事もさせられないですし』
「そんなことはさせられない。…わかってはいるんだ。断りきることはできなかった。もし入っていなければ、エリカのように部の勧誘が殺到していたかもしれない」
『…もみくちゃにされる深雪ちゃん…一高が消滅する姿が目に浮かびますね…。うん、生徒会入りしてヨカッタヨカッタ』
「深雪は会長のことも好感を持ったようだったが、やはり七草ということもある。あまり近づかせたい相手ではなかったが、仕方が無かった」
『好感と言えば、エリカちゃんたちも初見で気に入ってましたね』
「そうだな、初めから好印象だったようだ。その理由も深雪らしかったが」
『お兄様を気遣ってくれた、ですからねぇ』
「計画なんて企てず、仲良くすればいいと思っていたが、結果を見れば深雪が正しかった。まさか本当に一科生と二科生の間の壁を壊すとは思わなかったからな」
『それはこの先のお話ですね』
「では、このくらいでいいな?」
『はい、お付き合いいただきありがとうございました――例の約束は近いうちに(深々とお辞儀)』
――達也が退出しました――
――
というわけで、お兄様視点でのお話だったのですが、原作とはかなり逸れたのではないかと。スタートが違うお兄様ですからね、同じでは困ります。
でもそれにしても裏ではこんなことを考えていたとは。書きながら「そうなんだ…」とか思いながら進めてました。…基本キャラが勝手に動いて書いていくシステムです…。プロットなんて書けません。
そんなこんなで初めから警戒心バリバリです。妹への過保護が悪化しております。
あと、すでに妹に対する愛で方ではない。これで無自覚とは…。
お兄様視点の話はお兄様が真面目くさってますが、基本ギャグパートだと思って書いておりました。
シリアス?ただただ妹を賛美し、妹の為を思って行動し、隙あらば妹を撫で回そうとするお兄様ですからね。
真由美さんには悪いことをしました。初めから好感度が駄々下がるとは…。
このお兄様は妹に極振りされちゃってますから、より警戒心が強まってしまったようです。申し訳ない。メインヒロインの一人であったはずなのに厄介者扱いされてしまいました。
妹は会長ルート有りでしょ!と押していたので、お兄様の反応に困惑。「会長何かしちゃったんです?」濡れ衣です。やらかしたのは妹の方。愛情過多でお兄様の妹愛が激重になっていたことが要因です。
お兄様によるギャルゲーは残念ながら初めからルートが一つしかありませんでした。残念!
お粗末様でした。