妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
深雪視点
私今日死ぬのかな?
動悸が止まらないよ。心臓壊れそうです。
でも今心臓が止まったらお兄様の腕の中で逝けるのかしら?だとしたら幸せなのでは⁇と血迷った考えが過るけど、死にませんよ。お兄様幸せにするまでは死ねないからね。
だけどね、
「それで、どれを着ればいい?」
今、お兄様の私室のクローゼット前に居ます。
思ったより服が多いけど似通った服ばかり。今度お兄様のお洋服買いに行きたいですね。選ばせてもらえるなら選びたい。
さっきはルーズファッション似合わないと思ったけれど、Bボーイ系案外いけたりしそう。ちょっと見てみたい。
…と、そうじゃなかった。
なぜかお兄様から詫びをしたいと申し出られ、いろいろ考えた結果、最終的にだらけた格好が見せてもらえることになった。
しかしお兄様は抵抗があるらしく(ちょっと横になってくれればいいだけだったんだけど)、だったらと妥協案で服をだらけさせることを提案させてもらった。
お兄様は虚を突かれたようだが服ならばまだ許容範囲だったかOKを出してくれた。
いつでもかっちりした服だったり、前を開けていても清潔感ある恰好なので、だらしのないという印象にならない。
それはお兄様の姿勢だったり、身に付いている品がそうさせているのだろう。
この部屋の中もそうだ。
こうしてお兄様の私室に入るなんて、片手で数えるくらいしかないのだけど、突然お邪魔したのにベッドに乱れもない。机も整頓されて綺麗なものだ。
これが高校生男子の部屋だというのか?信じがたい。きちんとしすぎている。…というのは偏見かな。
男子高校生の部屋にはいる機会なんて前世でも無かったからわからない。ドラマや本の知識です。
周囲を観察しているのがばれないうちに、クローゼットに視線を戻して、目的の服を選ぶ。
手に取ったのは黒のスーツと、グレイのシャツ、そしてダークレッドのネクタイ。
「これでいいのか?」
拍子抜け、といったところだろうけどお兄様、いったい何を想像されてたんです?
というよりスーツってだけで結構私にはご褒美なんですけれどもね。それを崩していいなんて、私やっぱりこれからとんでもない不幸に見舞われるのでは?計算が狂ったり、予想外の事件が舞い込んだり。
…フラグがサイレントで乱立しまくっている気がする。
でもまだ見ぬ不安要素より、目の前のご褒美です。あ、違った。お詫び?です。
「着替えていただけますでしょうか?」
「分かった。着替えたらリビングでいいか?」
「ではお待ちしてます」
リビングに戻って、さて待っている間どうしよう?
いつものようにコーヒーでも用意しようかとキッチンへ向かう。
それにしても、と今日という日を振り返ってみる。
朝から一日長くもあり、大変濃かったように思う。
ガリガリ豆を削りながら回想すれば、たった一日のはずなのにいろんなことがあった。
朝から生徒会役員に掴まって生贄に捧げられ、お昼にはお兄様と二人きりでお食事。
帰宅までにもいろいろあって、家に帰ったらおうちデート、だなんて。
映画を見たのが随分前のように思えたが、それもつい二時間前のことだ。信じられない。
(ちょこっとだけ猫ちゃん観て元気を補充しておこうかな)
アニマルは心の疲れを癒してくれる。
ただお兄様にリラックスしてもらうだけのはずなのにこんな展開は予想だにしていなかった。
(まさか、お兄様がお詫びを申し出るとは)
確かに困らされたけれど、本人に困らせるという意図は無かったのだ。それなのにお詫びとは。
何も思いつかなくて、とっさに今日話していただらけた姿が見たい、という話を引っ張り出してしまったけれど、お兄様が自然にだらけた格好なんて、ちょっと考えれば無理な話で。
でもそれ以外思いつくことも無く、苦し紛れに着崩れたところがみたい、だなんて――言葉だけ聞くとめっちゃ破廉恥だね。
そんな意図はないよ?!本当!浮かんだシーンはそんなアレな姿じゃなくてくたびれた社会人だもの。一杯ひっかける前の、ジャケット脱いでネクタイ緩めるといった、リラックスした格好だもの。
もしアレな姿をしてもらえるというのなら着物を着てもらいたい!…ダメだ。ちょっと私もおかしなことになってる。
しっかりしなくちゃ。あれだ。猫ちゃんを、猫ちゃんは世界を救う可愛さだから煩悩だって払えるはず。
手元に注意しつつお湯をゆっくり注ぎながら、冒頭の草むらを掛けっこするシーンだけ、と決めて再生する。
猫が風に揺れる草にじゃれつくだけで、なんでこんなに可愛いのか。愛い。
可愛い。可愛いがすぎる。
「――酷いな、俺がいないところで観るなんて」
ひぃ!お兄様の低音ヴォイスが耳元に!!
声は抑えたけど体が跳ねるのは止められなかった。
いつの間に。お兄様は忍術使いの弟子ですから気配消すのも朝飯前ですか。でも妹相手には止めていただきたい。妹は貴女の敵にはなりませんよ!
「ごめんなさ――」
息が、止まった。
多分一瞬心臓も一緒に止まったと思う。
――ヤバい。何がヤバいって…お兄様のスーツ姿なんてそれだけでカッコいいというのに、なぜお風呂に入った後なのに髪型までしっかりセットされてるのです?サイドまでしっかり上がって耳まではっきり見える。
え、ヤダ。カッコよすぎる。どうしよう、無理。素敵。
お兄様が少し首を傾ける。無表情だけれど、カッコいいのに可愛さもプラスしてくるなんて、私をどうする気なの!?
どうすればいいの?どこにお布施を払えば⁇お兄様に直払い?受け取ってもらえ無さそう。
というかお兄様キラキラしてない?私のお兄様かっこよすぎない⁇
「とりあえず呼吸しようか」
手を伸ばされ、頬を撫でられてまだ呼吸が止まっていたことを知る。
呼吸ってどうするんでしたっけ?
「吸って」
下あごを撫でられて口を開く。
「吐いて」
視線が重なり合って、短い指示に従いゆっくりと息を吐く。
「ん、上手」
…ごめんさない。最後の一言でまた息が止まりかけました。
あと褒める時に微笑むのも心臓を止める要因です。気を付けてほしい。
お兄様、私は何かいけないことをしましたか?なぜこんな甘やかな責め苦を受ける羽目に?
新手の拷問ですか?私は何を話せばいいのか。今なら何でもペロッとしゃべってしまいそう。なんと甘い罠。これが世に聞く甘い罠!
でも何とか頭に酸素が回って状況がちゃんと見えるようになった。
コーヒーはいつの間にかに淹れ終わっていて、モニターにはすでに街中の猫ちゃんが映っていた。もう冒頭から五分以上経ったらしい。いつの間に。
「…お兄様、素敵です」
「ありがとう」
何とかひねり出した言葉がお兄様への賛辞だったのは及第点だと思う。
誰か褒めてほしいけど、イマジナリーお母様は半眼です。なぜ?想像なのに、どうしてこのイマジナリーお母様は私の想像と違う反応を示すのだろう?
「コーヒーはリビングに持っていくよ」
「お願いします。何か摘まみますか?」
「いや、今日はもういいかな」
私ももうお腹いっぱいです。胸ももういっぱいいっぱい。何も入る気がしない。
お兄様が運んでくれたので手持無沙汰でお兄様の後についていく。
しかし、後ろ姿だけでもなんとかっこいいことか。
これだけスーツの似合う高校生いる?着こなしが完璧。滲み出る出来る男感。
あるよね、背中見るだけでこの人頼りになりそう、とか。
困った。カッコイイ。原作の深雪ちゃんもここまでときめいてただろうか?お兄様かっこいいは言っていたと思うけど、お兄様のコスプ――じゃなく、制服萌えじゃなく…なんて言えばいいんだ?いつもと違う姿とかにもときめいてたりしてたかな?
もし違ったら申し訳ない。中身が私なもので。服の変化やちょっとした仕草にも大変弱いのだ。
「映画は消していいか?」
あ。忘れてた。お兄様に目が行ってそのままにしてた。うっかり。
お兄様の長い指に操作され画面は消えた。
「なんだかこの格好でソファに座るのも変な感じだ。それで、ここからどうすればいい?」
もうこのままでいいような気もするけれど、私がリクエストしたことだ。きっちりとした恰好を崩してもらおう。
――まずはジャケットを脱いでもらって、
「脱げばいいのか?」
脱いだ服をソファの背にかけて。
――ベストも前を開けて、
「ボタンを外せばいいんだな」
長い指が一つ一つ丁寧にボタンを外して、前を開いて。
――…ネクタイを…弛めてもらって。
「第一ボタン、と第二も開けるか」
人差し指をひっかけて左右に引っ張って弛めた後、お願いするよりも先にボタンを外して首元が開放的に。
――……、最後に、髪をね、
「…あの、せっかくセットしてもらったのですが、」
「こんな感じか?」
くしゃ、と髪をかき上げて崩すお兄様に、私は今にも崩れ落ちそうです。
なんでそんなに色気が溢れるのか。お兄様16歳ですよね?
お兄様はこちらの反応を見て苦笑しているけれど、今は本当にやめてほしい。ただの追い打ちにしかならない。
大人っぽい雰囲気に色男モードをプラスしないでいただきたい。
口元をきゅっと力を入れておかないと、変な声が漏れそうだ。
特にネクタイを弛めるところがね、ヤバかった。シャツもボタン外しているのもお色気ポイントが高い。
普段見えない鎖骨がちらリズムですよ。怪しからんです。目が開けられない!
これ、だらけた格好かな?私注文間違えたんじゃない⁇だって、思い描いたものと違うもの。
私が注文したのは気の抜けたお兄様。疲れ切った社会人みたいな格好のはずなのに、ここにいるのはお色気満載――夜の帝王のようなお兄様なんだもの!
「確かに、これならだらけた格好だな」
違うよ…。想定していただらけた姿じゃない。
なんでこんなに違うの?もっとくたびれたような空気漂ってもいいのに、お兄様から漂うのはお色気フェロモンだ。ものが違いすぎる。
「…お兄様、申し訳ありません」
私の想像力不足でした…。完敗です。想定外。
顔を覆って謝罪する。
「何が違う?」
お兄様は何も悪くないんです。でも何もかもが違うんです。
こんなえっちくなるなんて思わなかった…。真直ぐお兄様が見れない。
「深雪?どうして顔を隠してるんだい?」
それはお兄様がえっちくて見れないからです。言えないけど。首を横に振る。
「こっちにおいで」
無理です。近くで息を吸っただけで倒れそう。
「深雪」
…ううう…お兄様に逆らえないのが恨めしい…。
すすす、とお兄様の傍による。でも顔は覆ったまま。だってものすごく恥ずかしい。
ちらりと見えたお兄様がヤバいんですもの。
「深雪」
やめて、そんな甘さをたっぷり含んだ良い声で呼ばないでほしい。
なんでも言うことを聞いてしまいそうになる。
お兄様、たまに自分の魅力分かってて言ってますよね?私がお兄様に弱いことわかってて言ってる時ある。今のは絶対わかってやってる。
とんとん、と催促するようにソファを叩く音が。
「深雪」
隣に座れということです、よね?今度こそ呼吸どころか心臓の活動止まらない?
「俺が抱きかかえるのと、隣に座るのどちらが」
良いかと質問が終わるより早く隣に腰を下ろす。
今抱きかかえられたりしたら夏の再来、意識が飛ぶ。
やっぱり私にお兄様の耐性なんてなかった。もしくは過剰に摂取しすぎたのだ。
「…よくわからないが、深雪は今恥ずかしがっている状態、ということでいいのか?」
お兄様による優しい尋問、じゃないね、探求心からの質問が始まった。
こくん、と頷く。
「気崩しているのだから、だらしなく思えるんだが、深雪の思っていたものと違うんだな?」
こくん、と頷く。
「それは俺のこの恰好がどこかおかしいのか?」
…これは、どうだろう。お兄様の恰好云々じゃなくて見ている私が恥ずかしいだけだから…左右に振る。
「見たくないほど見苦しい?」
これには激しく横に振らせていただきます。見苦しくなんてないです。ただえっちいだけなんです!あれです、グラビア雑誌の袋とじ見てる感じ!一人しかいない部屋なのにこっそり覗き見るようにしてしまうあの感じ!
いえ、私見たことないんですけどね。想像です。気分です気分。
「見たくても見られない?」
…頷きづらい。でもそういうことなんですよねぇっ!欲には逆らえない…小さく頷く。
「…それは、夏のあの時みたいなことか?」
ズバリ聞いてきますねお兄様?!もう私のライフはとっくにゼロ通り越してマイナスです。オーバーキルだ。
頷くこともできずに体を縮める。
「深雪、ちゃんと答えないと俺の都合のいいように解釈してしまうよ」
この内容のどこにお兄様の都合のいい解釈がありますかね?
「深雪」
「ぁ、」
耳元にお兄様が声を吹き込む。きっと耳は真っ赤になった。だって熱いもの。燃えるように熱いもの!
防ぎたいけど顔を覆うのとどちらか選ぶなら顔を選ぶしかない。なぜ、私の腕は四本無いのかっ!
「この恰好は深雪の好きな恰好かい?」
大好物です、なんて言えない。言えるわけがない。えっちいお兄様は好きですか?大好きですよ!!(キレ気味)
「教えてくれないとわからないだろう?」
嘘だ。このお兄様はすでに確信している!でなければこんな、ソファの重心が傾くほど身を寄せるわけがない。
整髪料の香りかな、いつもと違ういい匂いがする!危険、キケンなお兄様だ。
「もうお許しください、お兄様…」
小さな声で震えながら返す。
情けないが完全降伏しかない。どうしてこうなった…。
私はただお兄様のストレスを軽減させるため、リラックス方法をいろいろと試していたはずなのに。
…そういえばお兄様にとっての軽減方法に妹を構い倒すというものがあったね。私の体に悪い発散法。
「許しを請うのは俺だったと思うんだが」
「…だって、お兄様が途中でいじわるなさるから…」
「ごめんな。あまりに可愛い反応をするものだから、調子に乗ってしまった」
慰めるように頭をぽんぽんされる。
お色気モードが縮小した気配に、ちらりと横を見て。お兄様は先ほど浮かべていた苦笑と違う苦笑になっていた。
しょうがないな、という甘やかすような苦笑だ。よかった。お兄様が帰ってきてくれた。
相変わらず気崩しは格好良く、だらしなさなど欠片もないが、先ほどまでの妖しさは鳴りを潜めている。
夜の帝王は去ったのだ!
残ったのはとても格好いいお兄様の姿。…うぅ、カッコいい。でも先ほどまでの耐えられないほどではない。
「可愛いと言えば何をしても許されるなんて思わないでくださいませ」
「本音だからなぁ、こればかりは」
お兄様はもう手出しはしないよ、とばかりに離れるとコーヒーを飲み始めた。いつもより深めに座って。
それが恰好と相まってカッコいい。見惚れそうになるのを、コーヒーを飲んで誤魔化そうとするが、お兄様の観察眼は元に戻ったのか、私のちょっとした変化も見逃さない。くすり、と笑っていた。
…なんだろう、盛大に弱みを握られた気分。
「深雪が喜んでくれたならよかった」
「…やっぱりどんな姿のお兄様も素敵です」
せめてもの抵抗、ではないけれど何も言えないのは悔しかったので、苦し紛れにお兄様に体を寄せて本心を呟けば、タイミングが悪かったのか、コーヒーが気管に入ったようで二回噎せ込んだ。
慌てて体を起こす。
「だ、大丈夫ですか!?」
「…問題ない。ありがとう深雪」
整髪料はそれほど強くなかったのか、さらり、と崩した髪が耳にかかる。
徐々にいつものお兄様の姿に戻ってきたようで、安心した。
「今のお兄様もとびきり素敵ですけれど、いつものお兄様の安心感には代えがたいものがありますね。私には刺激が強すぎました」
「…そうだね。いつもの姿が安心する、には俺も同意だ。食事も刺激的なのは稀にだから良いのかもな」
おっと、お兄様も話せるクチですね。同志を得たようで嬉しいです。
「ところで、本来の目的は達成できたと思いますか?」
「ああ、疲れは取れたよ。いい休暇を過ごせた」
「ならよかったです」
「だが、溜め込むのが良くないということは実感したよ。もう二度と、こんなことは無いようにしないと」
「そうですね。これからは小まめに発散していきましょう」
お兄様のストレスが爆発すると危険だということは重々承知した。もう二度とこんな悲劇を繰り返さない。
その為にもお兄様の体調管理はしっかり気を付けておかなければ。
「すまなかったな、深雪」
「いいえ。お兄様のお役に立てたならなによりです」
――
こうして、お兄様の暴走は静まり、平和の戻った学校では元生徒会長を始め、いろんな人に拝まれた。
まるで宗教の祖になった気分。
「深雪さんに新たな称号がついたそうよ」
鎮魂の巫女だそうだ。…九校戦の巫女服の影響かな。
「達也くんは一高の災厄が封印されている生贄なんですって」
なんと、お兄様自身が生贄扱いになっていた。
災厄をまき散らす魔王じゃなくて封じられている人間なんですね。
「…演劇部の部長さんが好きそうな設定ですね」
「深雪さん、よくわかったわね。鋭意制作中だそうよ」
…前回が西洋ファンタジーだったから、今度は和風テイストなのかな。生贄文化は西洋よりも東洋文化なイメージ。部長忙しくなりそうですね。
「よくわかりませんが、深雪を公的に傍に置いておけるということですか?」
「…勝手に公的にしないで頂戴」
七草先輩から、まだ鎮まってないのでは?との視線を受けますが、大丈夫ですよ七草先輩。
「冗談はわかりやすい表情でしてね、兄さん」
「言質が取れたかと思ったんだがな」
にやりと口角を上げるお兄様の体調は万全です。
「…冗談?ほんとに⁇深雪さんちょっとマインドコントロール受けてないか検査してみない?」
お兄様は尻尾を隠すのが上手いので、揶揄われていることに気付きにくいのが難点。
卒業までに見分けられるようになるといいですね、先輩。