妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
さてさて、やってまいりました恐怖の面接会場です。
キャビネットに揺られ、とある駅で降り、用意されている車に乗り込んで。――これで目隠しでもされていたらどこの秘密結社かって感じだよね。
純和風の大豪邸、歴史ドラマでよく見る武家屋敷です。
これで十師族の中では小さいっていうのだから、彼らの感覚は狂っているね。十分大きいよ。豪邸だよ。立派過ぎる。
前世であれば完全気後れしてUターンしてた。
今だってUターンしたい気持ちはあるけれど理由が違う。これからあるであろう、圧迫面接をバックレたいだけ。
この家にも見慣れたものですよ。あれです。行き慣れていない母の実家に帰省する感じ。…ちょっと見栄張りました。そんな気楽なものじゃない。
迎え入れられ、中に入れば日本家屋だった外観からは想像できない洋風の造りに、この二面性が四葉だなあ、と妙な共通点に感心してしまう。
恐怖の権化みたいな家なのに、愛情深いってすごい二面性だよね。
ギャップが凄い。温度差で凍死するレベル。風邪じゃすまない。
車に乗り込んでからすでにお兄様はガーディアンモード。
口を開かず無表情で任務にあたっています。お仕事しているお兄様かっこいいね。
妹は邪魔しません。私も見習ってお嬢様モード頑張ります。
案内されて通された部屋で腰を下ろすのは私だけ。お兄様は横にピタリと立っている。
ここにお兄様とこうした形で訪れるのは三年ぶり。
前回を思い出すと胃が痛くなるが、今では…うん、まあ画面越しでも耐性付いたよね。多少は。
ほら、社長室も毎日掃除しに行けば勝手知ったる、になるらしいから。
面会も非公式含めれば何度もお会いしているわけだからね、そこまで怖がることはない、はずだ。
「おや」
お兄様の声に意識を浮上させて視線の先を追えば、二対のお人形さんのように可愛らしい一つ年下の姉弟の姿が窓の外に。
「黒羽の姉弟だ」
お兄様の表情が微かに緩む。お兄様はあの二人から慕われてますからね。
お兄様にとっても可愛い親戚なのだろう。
ちなみに私と彼らの関係は原作とほぼ変わらないと思う。
お兄様を近寄らせたくない彼らの父親をどうにかしない限り、不用意に近づけばお兄様への風当たりが強くなることは目に見えていたので、私から近づくことは避けたのだ。
彼らも私が近づけば二人はお兄様に近寄るチャンス!と駆け寄ってしまうからね。しょうがない。知ってしまうとお兄様の魅力には抗えないから。
可愛い二人と仲良くなれなかったことは残念だけど、ここで何かを改変してもお兄様に利はない。元々カンストしている好感度をどうこうすることなどないのだ。
…だけど、亜夜子ちゃんはお兄様のことが好きなのよね、異性として。
結婚相手としても、目的からは離れるが四葉に置きたい叔母様からしたら十分に候補になり得ると思うのだけど、その辺りどうなんだろう。
来年からは高校生になるんだし、これからチャンスがあれば、お兄様に近づける手助けをしてあげた方がいいのかしら。
亜夜子ちゃんも一途で可愛いのよね。叔母様にもよく似ていることから将来が約束された美少女だ。
彼女ならお兄様の立場も分かるだろうし、すでに四葉の闇も請け負い始めている。お兄様と一緒に裏から四葉を支えることができるなら、叔母様としても四葉全体としても不利にはならないはず。
(亜夜子ちゃんルートが一番荒波も立たずに、スマートにお兄様の居場所を確保できる、安定した未来なのよね。四葉からは出られないけれど。でも黒羽は表の姿もあるわけだから離れられる時間もあるはず。そこに四葉は絡まないのだから)
彼女ならお兄様の嫌がることは強要しないだろうし、叔母様の次の当主が私なら二人に不利な任務はさせないように配慮できると思う。立場も似ていることで良き理解者にもなってくれるんじゃないかと。
そのためにも早いところ四葉の掌握頑張らねば。
表立って生きることは、そこまでできないかもしれないけれど、波乱に巻き込まれることは無くなる。
せいぜいの障害と言ったら彼女の父親くらいだろう。彼のお兄様嫌いは恐らく骨の髄まで浸透している。
だというのに最愛の娘が、その大嫌いな相手を好いてしまうのだから叔父様も運がない。
「ちょうど帰るところのようだ」
「ご挨拶できず残念ですね」
二人のお兄様への敬愛は四葉の柵をものともしない。もし彼らがここにお兄様がいると知っていれば、滅多にない機会を逃すことなく挨拶くらいは来るだろう。
それをしないのだから、彼らは知らないのだ。今日私たちがここに訪れていることを。
「気になるかい?」
これは、どういう意味の気になるだろう?四葉の次期当主候補として文弥くんが、ということなのか、はたまた別の理由か。
「年の近い親戚ですから」
仲良くありたいですね、と当たり障りのない発言に、お兄様はそうだね、と返した。
本音を言えば、かなり気になる。二人は、三年前以前のお兄様を知っていて、慕ってくれている二人だから。私が近づけなかった頃のお兄様を知っている唯一の二人だから。
勝手なことだとわかっていても羨ましく思う。いつか、二人に聞けば教えてくれるだろうか。
「深雪?」
「どうしましたか?お兄様」
「いや…」
物欲しそうに二人の後姿を見たことに、お兄様は気付いてしまわれただろうか。
ゆっくりと彼らから視線を逸らして部屋を見回す。
豪華だけれど品を損なわない芸術作品の数々がバランスよく配置されている。絵画から花瓶、ランプ等々。…淑女教育によって得た知識のお陰でどれも触れない品だとよくわかる。
私はソファと出入口以外近寄らないことを誓います。壊すどころか汚すことも許されない部屋。
広すぎて自ら近寄らない限り触れることがないとわかっていても落ち着かない。
圧迫面接は敷地に入った時点ですでに始まっていた。
今更ここの空気に飲まれるほどヤワなつもりはないけれど、気持ちのいいものではない。
こういった心理戦を理解し、己を律し、飲まれないどころか飲み下して場を制す。――それくらい熟せるようにならねばならない。
これも修行、と目を瞑ってこれからのことをシミュレーションしようとしたところでノックが。
木の扉だからよく響く。
コンコンコンコン。
私のどうぞ、との呼び声に開く扉から、時代錯誤な、まるで文明開化直後のような着物にエプロンという、絵に描いたお女中さんが、お客様を連れてやってきた。
この部屋が洋風だから余計に彼女の装いが際立ってしまうが、元は日本建築の建物。こちらの方がきっと本来にあっているはず。
すっと立ち上がって兄に続いて一礼する。
お客人、風間少佐にとって私はお兄様の妹であり、四葉家次期当主候補筆頭ではない。出しゃばらない程度に挨拶をし、少佐に続いて席に着く。
「久しいな、達也。先週会ったばかりだが」
矛盾した挨拶だけど、きっとそれだけ彼にとってこの一週間は忙しい日々だったのだろう。
敵を撃退してハイお終い、なんてそんな単純で終わるわけがない。
後始末ももちろんだが、これまでの対策の見直しや受けた損害への補填等、すべてのチェックを行っての今日のはず。
顔色は、疲労していておかしくないはずだが、そんな様子を微塵も見せない。カッコイイ。これがプロフェッショナル。これが痺れる憧れる、ですね。しびあこです。
「少佐は、…叔母に呼ばれたのですか」
「そうだ。貴官が同席するとは聞いていなかったが」
それは完全に四葉の不手際。申し訳ないと謝罪させていただく。
風間少佐は気にしていないと言うけれど、こういうのはマナーですから。
この場に四葉サイドの人間の目が無いとあって風間少佐とお兄様は世間話、というには些か物騒な話を織り交ぜつつ、この一週間の出来事について話を擦り合わせていた。
だが意外なことに、なのか理由があってなのか、風間少佐も不明な部分があると言葉を濁す場面があった。
隊のトップといえど中間管理職。知らぬこともあれば言えぬこともあるのだろう。お兄様は追及などせず引き際を弁えていた。
「それにしても聞きしに勝る秘密主義だな」
そして話は変わって四葉家のこと。この土地のこと、…今のお兄様をつくり上げた環境のこと。
「分かりますか」
「俺を誰だと思っている」
セリフだけ聞けばただの自信家だが、彼には豪語できるだけの実績と経験がある。
お兄様は苦笑して一礼をもって詫び、風間少佐はそれを鷹揚に頷いて許した。
二人の会話は先ほどよりも物騒且つ後ろ暗い四葉の因習の話にまで行っているが、二人の間に悪い空気はない。
淡々とした会話でも温度があるように感じるのは、二人の間に互いを思いやる情があるからか。
この二人の方がよっぽど親子のようではないか。
(あ、この二人がお酒を酌み交わしている姿が見えた!成人したら父と息子がやってほしい儀式の一つだよね。…この時代アルコール摂取の規制がゆるゆるなので、成人を待たずにアルコール飲むことが多いのだけど)
ちなみに私もお酒の味を知っている。…そこまで強くないのであまり嗜まないようにお兄様には注意を受けた。
前世も元々強くなかったし、チューハイ一缶でそれなりに満足を得られる体質だったことは節約にもなっていたと思う。
おかげで掛けたいところにお金を掛けられた楽しい人生でしたとも。
好きだけどね、お酒も、飲み会の雰囲気も。深雪ちゃんとなった今、もうそういった場所には縁はないだろうけど。
――
コンコンコンコン。
またしてもノック音。
お兄様たちの会話もキリがいい。
入室許可を出せば――見覚えのある若い執事が姿を見せた。
私たちと同年代の、これから頭角を現しそうな有能執事予定の少年だ。
年若くとも四葉の執事。洗練された動きで一礼すると、当主が今迎えている客の用事が長引いているので、もうしばらくこちらで待っていていただきたいとの旨だった。
どの道、私たちにはここで待っている以外の選択肢はない。
風間少佐も心得ているとばかりに返答し、私は目礼だけ返すのだが。
「深雪様、お時間をいただいてもよろしいでしょうか」
奥様からは許可をいただいております、と続く言葉に否を唱えられるわけもなく。
用件にも心当たりがあったので、迷いなく立ち上がり、お兄様に向き直る。
「お兄様はお待ちくださいませ。叔母様が来たら迎えをお願いします」
風間少佐がいるからお兄様に冷たく当たらなくていいのは嬉しいね。少年執事くんは面白くなかっただろうけど、ゲストがいることはわかっているからか、何の反応も示さない。
お兄様もここで待たされることに不満をおくびにも出さず了承した。
風間少佐にも中座を詫びて部屋を出る。
向かうは大広間とは比べ物にならない一室、小ぢんまりとした洋間。ちょっとした打ち合わせにはもってこいの部屋だ。
「あまり時間はございませんので、詳細はまた後日お時間をいただければ、と」
前置きをそこそこに。
今時珍しい紙の資料を手渡され、ぺらぺらと捲っていく。
端末が主流の時代でも、情報を見るだけなら紙の方が楽だったりする。個人差もあるだろうけど、私は特に。
彼も心得たもので余分な言葉は言わず、空気と化して邪魔をしない。教育が行き届いてます。いい子。
「――思ったよりも悪感情が少ないようですね」
「横浜で巻き込まれた一般市民の中に、こちらに書きこんだ者がいたことで信憑性が高くなったのかと」
私が今チェックしているのは、この時代にもしぶとく生き残っている電子掲示板、スレッドを立てて匿名で好き勝手書きこめる、所謂ちゃんねる系である。
魔法師にはあまり馴染みのないウェブサイトだ。アングラ系だしね。一般からあぶれた人たちが世の不満や鬱憤を書きこむようなサイトは、そもそも一般人すら目にする機会はない。
元々ここに書きこんでいたのは魔法師に良いイメージを持っていない者が大半だった。
人間扱いをしない過激発言が飛び交っていた。
だが彼らが本心で言っているのではなく、ただのうっぷん晴らしで言っているだけだったので、そこを利用させてもらった。――そう、草の根運動はこういう地下からやっている。芽吹いた時の爆発力があるからね。
もちろんここ一つだけではない。いろんなサイトで意識改革は始まっているのだ。
もう三年。この地道な活動をしているが、おかげでさまで、
「…ここの人たちを一般人というには無理がありそうですけれど」
実は諜報活動でもしてます?というくらい裏の事情がまことしやかに流れてます。
なんでここに横須賀に大亜連合の不審船が侵入した原因が○○議員で、いつからか羽振りがいいとかそんな細かな情報が?
日本の危機を訴える声もちょくちょく上がっているね。
…ちょっと前まで都市伝説的だった扱いの情報が、今じゃ限りなく真実に近い情報が流れるサイトにランクアップしている。ログを見る限りこれ、うちの工作じゃなさそう。
「もしや私たちだけでなく、誰かほかにもこのサイトを利用しようとしている人間がいますか?」
「調査したところ、どうやら上部に睨まれたジャーナリストが、握りつぶされた情報を公開する場になっているようです」
あらぁ…。それはなんて好都合。
ニュースで流れる情報よりも正確でより深い内容だ。
軍の内情は流石に流れていないけれど、警察の動きがどのようなものか結構詳しく流れている。
その場にたまたま居合わせた警察の迅速な対応があったから、一部の被害は食い止められたとの推測もあった。非難する声もあったけど、このネタのお陰で多少緩和している。
なにより気になる一文が。
『制服を着た魔法師の女の子が、震えながら魔法で俺たちを守るために戦ってくれていた。俺の妹と変わらないくらいの女の子が、だ。…魔法使えるなんてずるいって思ってたけど、力があったって、武器があったって怖いもんは怖いよな。そんな簡単なこと気づかなかった』
叩く言葉が流れるのはちゃんねるの様式美なのだが、一、二言だけで同情の声の方が膨らんでいた。
「これはうちの仕込みではないのですね」
「保護されたうちの一人と確認が取れてます」
むしろそのあとの、冷めたようなコメントがうちの子の仕込みのよう。あまり加熱させるとこのサイトが変な方向に進むからね。
基本的にここはバランスよく、両方が利用できる板であってほしいから。
他のサイトもパラパラ。似たような流れだが、今回反魔法師の発言に力が無いのは、不満を向ける先が日本の政治家や襲ってきた国に向いているからか。
正常な、健全な方向に流れている。変な誘導は無さそう。
一つ二つ、反魔法師思想の強いサイトもあるが、ここも叩く内容が不正をしただろう政治家たちをやり玉に挙げている。
この後の流れが気になるところだが一週間後だとこんなモノだろう。
「このままこの議員のように、例えば今度はジャーナリストを擁するマスコミ関係を探れば、芋ずる式にいろいろ見つかるかもしれませんね」
例えば、USNAの皮を被った反魔法師活動に勤しむ工作員とか。
「――ではそのように」
「お願いします。あと、こちらはチームの皆に渡しておいていただけます?音声メッセージで悪いのですけれど」
本当は一人一人手紙でも書いて労おうと思っていたのだけど、たとえ十数名の少数精鋭チームであっても嵩張るから諦めざるを得なかった。お兄様に何か聞かれたら困るので。
――お兄様に秘密の暗躍チーム。叔母様に相談して作らせてもらった。
人材は――先ほどお兄様たちがお話していた四葉の闇、淘汰されかけた人やドロップアウトした人をピックアップ。
後がない人間は必死になる。おかげでたった三年で、彼らは技術を身に着け、魔法力を必要としない分野に溶け込み、魔法のように人を操ることにやりがいを見出し、よく働いてくれるようになった。まだ新設されて三年のプロジェクトチームにそこまでの実績はないが、徐々に影響力を持ち始めている。
魔法師からは見えない情報を見つけるのに、彼らの目は役に立つと葉山さんからのお墨付きが出たことも大きい。
「直接伝えられればいいのだけれど」
「そのお気持ちだけで彼らは十分報われるでしょう」
四葉の執事は気分を良くさせる技術を磨いているのに、どうして青木さんはあんなだったのだろうね。
目の前の彼だってドロップアウトするような人間を擁護するタイプではなく冷めた目で見下すタイプなのにそんな素振りを一切見せない。
よく教育が行き届いてるよ、本当に。
「貴方も、代わりにまとめてくれて助かってます。ありがとうございます」
「――もったいないお言葉です」
…そして何より顔がいい。ここで働く人間は基本顔がいい。
目立たぬように控えているから見逃しそうになるけれど、少数精鋭の四葉だから彼らも当然魔法力も強い。
だから顔がいいのか、それとも…当主の趣味か。
綺麗系な顔だよね。好きですよ。ゆくゆくはぜひ葉山さんみたいに有能執事さんになっていただきたい。
――
そろそろ戻らないと叔母様たちを待たせることになるかもしれないので、少し足早に大広間に戻る。
中に入ると、まだお兄様と風間少佐のみ。よかった、間に合った。
一礼する少年執事を見送ってまた三人の時間になるのだけど、…お兄様、何かありました?空気が、ちょっとね?横顔に視線を感じるのですが。
でも時間もないだろうし、風間少佐もいるから何か聞いてくるということはないのかな。
「達也、落ち着いたらどうだ?」
「俺は落ち着いていますが」
少佐にはお兄様が落ち着きないように見えるらしい。
残念ながら私には考えが纏まっていなさそう?くらいしかわからない。ちょっと悔しい。
そしてお兄様の何でもないような回答だけど、感情がちらっと覗いている。
…本当、風間少佐のことを信頼しているのね。
「お二人はまるで親子のようですよね」
ポロリと零した言葉に二人は虚を突かれたような顔をしてこちらを見つめている。
そっくりですよ、お二人とも。
そもそも驚きの表情にそんなにバリエーションは無いけど、その驚き具合?度合が一緒。
母の時とは違う、お兄様はこの人を見ていろいろと学んだのだろう、と思われる動きだ。
「失礼しました。ですが、いつかお二人がお酒を酌み交わす姿とか想像ができてしまって」
「――…それはまた、理想の親子像ですな」
夢見がちなことを言って呆れられるかも、と思ったけれど案外少佐もお好きです?ちょっと口元が緩んだ。
お兄様はまだイメージができていないのか、はたまた風間少佐を父親呼ばわりしたことに戸惑っているのか。困惑気味だ。
だが、そんな空気もお兄様が体ごとを扉に向けたことで切り替わる。
ラスボス様のご登場だ。
先に葉山さんが入り、ゆったりと叔母様が入室する。
二人が入るだけで空気が一気に塗り替えられた。
立って迎えた背筋は意識せずともピンと伸び、視線は失礼がないよう伏し目がちで、直接合わせることはしない。
首を垂れなかったのが不思議なほどの威圧感。
そんなプレッシャーが目の前の女性から発せられていた。
座るよう指示されるのは風間少佐と私だけ。お兄様には声もかけられない。
葉山さんも同様。叔母様と少佐、私にだけ紅茶を配り、そっと控えた。
叔母様は約束の時間を過ぎてしまったことへの謝罪を述べた後、すぐに本題へと入った。
――一週間前の横浜での事件において国際魔法協会の動向、そして今後のこと。
軍港を消滅させた爆発が憲章に抵触する『放射能汚染兵器』によるものではないと断定。よって懲罰動議は棄却されたこと。
この爆発によって十三使徒の一人、劉雲徳が戦死したことで、大亜連合は大打撃を被ったこと。
世界のバランスが崩れたこと。
そして日本がこれを機に、大亜連合にこれ以上ちょっかいを掛けさせないため、我が国唯一の戦略級魔法師、五輪澪さんを出動させたとの機密情報を開示した。
風間少佐も知らなかった情報が満載らしく、対等であったように見えた表情がみるみる硬くなっていた。
お会いしたことはないけれど、澪さんの体調は長期に船に乗れるほど体力は無いはずだ。写真で拝見したけど、儚い美女だった。
実年齢より幼く見えるのに美女、と評するのは表情に翳が濃く見えたから。年も二十歳を回ったくらいなのに、まだまだ瑞々しい年齢だというのに。
大きすぎる力というのは人間には過ぎたものだということなのか。
だとしたらお兄様は――
「三年前からの因縁は、これで決着がつくでしょう」
叔母様の言葉で沈んでいた思考が一気に浮上した。いけない。ここで気を抜いては。
そして叔母様は言う。お兄様が戦略級魔法を使ったと怪しまれることの危機感を。
あの一件で、世界はアンノウンの魔法師の存在に気付いたのだ。
一人の戦略級魔法師が斃れ、見知らぬ、全く情報のない戦略級魔法師が現れる。
この情報に危機感を覚えない国はない。
今後、確実に探りが入るだろうことは避けられない。
だから叔母様は忠告という形でお兄様にしばらく接触を禁ずると、今後しばらく対大亜連合の戦いにお兄様を参加させないようにと『お願い』した。
そして風間少佐も、その要求を吞む。
お兄様の力を抑止力に利用した彼らは呑み込むしかなかった。
「そうそう深雪さん。新しいプロジェクトの件だけど、今なら経理担当の青木さんがいるからお話してきたらどうかしら。葉山さん」
風間少佐がお帰りになり、一息ついた頃、叔母様が葉山さんを呼ぶ。
二人で秘密のお話をするので追い出されるのですね。承知しました。
お兄様の視線が向きますが、目を合わせて微笑みかけて席を立ち、叔母様へ一礼して葉山さんに続いて部屋を後にした。
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