妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
来訪者編①
穏やかな学園パートが戻って数日。
私たちは学生にとっての永遠の宿敵と相まみえることとなる。――そう、定期試験だ。
あの横浜の騒動の後、誰一人私たち兄妹に対して態度を変えた人はいない。
お兄様が軍属だったことも、私が皆の目の前でたくさんの人を凍結――殺しても、誰も何も変わらなかった。
思うところがないわけないだろうに…。優しい友人たち。
だから今日は彼らのために、私たちは一肌も二肌も脱ごうではないか!
と、いうことでやってきました雫ちゃん邸!
ヤバいね、豪邸どころじゃない。お屋敷?お城かな?ってくらい広い。大きい。メイドさんいる。
確かにこれを見たらうちは一般的なファミリータイプですよ。普通の一軒家の範疇だよ。
うん、部屋に辿り着くまでの絵画も花瓶も素晴らしいですね。保険は入っていますか?って心配になるくらい。
美術館に来たのかな。じろじろ見るような無作法な真似なんてしないけれど、通り過ぎるだけなんてできないほど、目に留まってしまう素晴らしい作品ばかり展示されている。
…その展示品にお花挿さってたりもしますけどね。使っちゃってるんですか。すごい。
長い廊下の先、ようやく到着した部屋は、八人でも余裕で座れる広さで、窓の外はお庭が綺麗に見えるバルコニー付き。
息抜きもできるようにという配慮からかな。雫ちゃんの気遣いが素晴らしい。友人がいい子なんです。
広げた勉強道具は時代だね、端末がメインです。教科書ノート鉛筆なんてありません。ペンはあるけどね。端末用の。
この光景を面白い、と思うのは私だけ。これが今じゃ当たり前だから何も不思議じゃない。
メイドさんが一口サイズのお菓子とお茶を提供して下がると各々勉強開始です。
だけどこの八人ほとんどが成績優秀者で、美月ちゃんもそこそこ上位から数えた方が早く、試験が不安だというエリカちゃんも西城くんも赤点に近くない、平均並みの成績だったりする。
必死に詰め込まないと、なんてことはない面子なのだが――。
初めこそ皆黙々とやっていたけど、西城くんとエリカちゃんが頭を掻きだしましたね。タイミングが同じでびっくり。席離れてるのに。
お兄様と目を合わせ、頷き合うと立ち上がって。
「エリカ、どこで躓いたの?」
覗きこめば、ふむふむ。
「ここまで解けてるなら、ここの――」
ほとんど解答に近い道筋はできていた。だだちょっと途中で式が違っているだけ。
「――解けた!深雪、どう?」
「正解よ」
ちょこっとアドバイスしただけですぐに正解を導き出せるなんて。ほぼ自力で解答できてえらい。いい子。
なでなでしちゃう。
「この問題は同じ要領で解けるはずだからやってみて」
「、わかった」
撫でられて照れちゃってたけど文句を言われる前に次の問題を進める。
いい子は撫でて褒めたいのです。付き合って。
お兄様はその間西城くんに付いて教えている。いい低音が部屋に響きます。…ほのかちゃん、うっとり聞きながら順番待ちするのはいいけど手が止まってますよ。
注意しちゃうと私が勉強教えに行くことになっちゃうからしないけどね。
エリカちゃんは次の問題をすらすら正解。すごい。もうモノにしたね。えらいえらい。よくできました。
「あ、あの!深雪さん、私も教えてもらってもいいですか?」
美月ちゃんからのご指名が。いくよ~。お、理論の方ですね。
「うん、よく答えられているけど、ここに――この文言を付け加えると」
「あ、こちらの方が纏まりますね」
「あと、この部分。これだと別解釈してるように取れちゃうから、こっちを引用した方がいいと思うわ」
「なるほど。これなら筋が通ってわかりやすいです!」
「でも伝えたいことはあってたから正解よ」
花丸あげちゃう。がんばったね~。
ニコニコ撫でてたら美月ちゃんがあうあう、真っ赤なオットセイになってしまった。オタクによくある現象ですね。
「深雪、それ以上はストップだ。勉強の妨げになってしまう」
お兄様からのストップがかかった。すまない美月ちゃん。加減を間違えてしまった。
謝ったらぶんぶん頭を振られ、ふらついた美月ちゃんは勉強不能に。
「ああ、美月!」
「集中力も切れかかったし、一度ティーブレイクしよう」
雫ちゃんの号令に、皆賛成のようで手を止めさせてしまった。…反省。
ありがとう雫ちゃん。席に戻る際にそう伝えると、続けられた言葉に不穏な空気。
「いいの。皆に伝えたいこともあったし」
――そして爆弾は投下された。
「りゅ、留学!?聞いてないよ雫!!」
「ごめん。昨日まで口止めされてた」
血相を変えて詰め寄るほのかちゃん。だけど雫ちゃんはいつものクールな表情ではなく申し訳なさが表れていた。
近しい人にも黙ってなきゃいけないのって辛いよね。
でも雫ちゃんが留学…わかっていても、知っていたけども、寂しい。
隣のお兄様が私の膝の近くに手を置いた。温かい手は慰めてくれているようだ。嬉しい、でも寂しい。
「でもさ、留学なんてできたの?」
エリカちゃんの疑問はごもっともだと思う。
本当、どんな密約があれば成立するというのか。
ただでさえこのご時世、魔法師というだけで渡航が制限されているというのに、どんな理由があれば留学が許可されるのか、そう考えるのも無理はない。
更に言えば雫ちゃんはただの魔法師ではなく成績優秀な魔法師。それだけで渡航制限は更に厳しいもののはず。
更に国外に出れば狙われる可能性は格段に上がる。
取り込もうとするだけならまだいい方。いくら表向き同盟国のアメリカだって、最悪叔母様のような事件に巻き込まれたって不思議はないのに。
資産家の令嬢の肩書がどこまで彼女を守れるというのか。当然雫ちゃん一人が行くなんてことはなく、黒沢さん含め護衛は付くんだろうけどね。
…まあ私は原作知識によって雫ちゃんが無事に帰ってくることは知ってるんだけど、それでも心配になる。
この世界はすでに色々と改変されてしまっているから。強制力が守ってくれるとは限らない、かもしれないのだ。
「ん、何でか許可が下りた。お父さんが言うには交換留学だから、らしいけど」
交換、つまり人質か、なんて思ってしまう。
あちらの人質が一人で切り抜けられるプロフェッショナルな時点で、人質として釣り合ってないけどね。
任務だし。目的がそもそも違う。
というか本当にどうやってこの話って持ってきたんだろう?雫ちゃんが自ら留学を望んでいたとは思えないし、学校側からの打診だろうか。
成績優秀で家柄も問題なし。留学って何かとお金もかかるから優秀なだけでは難しかったりもする。
そういう基準で考えれば確かに雫ちゃんが妥当なんだろうけどね。…学年一優秀な私に話が来なかった理由としては生徒会役員だから、とかかな。
一応うちも裕福な部類に入るはずなんだけどね。
そもそも私たちのこと――メインはお兄様だろうけど――を調べに来るのだから本土に送っちゃ調査にならないのかもだけど。
(リーナちゃんに会えるのは嬉しいけれど、雫ちゃんがいないのはなぁ…)
仕方のないこととわかっていても嘆かずにはいられない。でも、雫ちゃんにとってはいい勉強の機会だ。
それを一人の感情で邪魔をしていいものではない。…わかってはいるのだ。
「交換留学だったら、なぜOKが出るのでしょう?」
「さあ?」
美月ちゃんも、雫ちゃん自身も疑問だけど、ここに解答を教えてくれる人がいるわけもなく。
(――神の思し召しです、なんて言えないしね)
神によるご都合主義に理由なんてないのだ。この後の展開には必要な流れ。理由はあとから辻褄のように出てくるかもしれないけれど、後付けだから。
なんてメタい話は内に秘め。
「期間は?いつ出発するんだ?」
お兄様からの端的な質問。切り替えが早い。
「年が明けてすぐに。期間は三か月」
三か月もあるの…。ううう…三か月も会えない。
「三か月なんだ…。びっくりさせないでよ」
ほのかちゃんは胸を撫でおろしたけど、三か月も、だよ。一週間だって長いのに。
でもしょうがないか、普通留学って言ったら半年から年単位ってなってもおかしくないから。これでも最短。
膝に乗ったままのお兄様の手を掴む。お兄様はちらり、とこちらに視線を向けたけど、何も言わない。拒むことも、ない。
「なら送別会をしないとな」
お兄様の提案に、皆は賛成の声を上げる。私も、笑顔でお見送りできたらいいなぁ。
勉強会再開は、少し時間がかかった。
賑やかで、ちょっぴり騒がしかった勉強会は概ね満足がいく形で終わった。
皆、きっといい点取れるよ。
――
と、勉強会をした数日後。
私は今、お兄様と風を感じています。
気持ちいい!バイク最高ー!!
「楽しんでくれてるようだね」
「はい!」
おそらく皆が試験勉強で必死になっている中、約束していたツーリングにやってまいりました。
こんな日でもないとお兄様の時間はなかなか取れないので。
今日はバイトもなく(一応試験期間なので)久々の一日フリー。
天候も良く、絶好のお出かけ日和。
試験勉強必死な方々から怨嗟の声が聞こえそうだけど、こんな遠くでは届くことはないだろう。
ヘルメットから直に聞こえるお兄様の声に心揺さぶられながら、短くお返事。長い単語は声が震えそう。
お兄様の低音ヴォイスが耳元で囁かれていると想像してほしい。耐えられないから。身悶えちゃうから。
ただでさえ密着している状態。変に思われないように、心音が聞こえないようにと願いつつ、お兄様のお腹に腕を回して一時間。
今日はライダースーツに身を包んで完全防寒しているおかげで、風が体を冷やすことはないのだけど、お兄様と密着しているとですね、それだけで体が熱くなるのに、熱を冷ましてくれる風も来ないとくれば汗ばんできてしまう。
防寒用の為、気密性も高いから余計に熱がこもる。下には吸収性のいいものを身に付けてきたのだけど、間に合ってない気が…。
「そろそろ休憩しようか」
「いいですね」
お兄様タイミングばっちりです。…もしやばれてる?なんて、過ったけどお兄様は気遣いの紳士だ。気づいてても悟らせない。…おかげでこちらは気が気でないです。
止まったのは無人の休憩所。自販機が各種取り揃っていて、ちょっとした食べ物と豊富なドリンクが並んでいる。そのすぐ近くには四阿のような休憩スペースが。
バイクを降りて背伸び。一時間同じ姿勢でしたからね。体も固まっていた。
お兄様も軽く体をほぐしてから自販機へ。
「深雪は何がいい?」
「そうですね。スポーツドリンクはありますか?」
「ああ。――先に座って待っててくれ」
お兄様の指示通り休憩スペースに行くと、落ち葉がちらほら。でも汚れているほどではないからそれなりに人が来ているのだろう。
バイクを降りる時取り出したタオルで払おうかと思ったが、ここは都心からだいぶ離れた郊外で、市街地監視システムのようなものは途中ぽつぽつあったもののこの場には見当たらない。
お兄様のことだから恐らくそういったルートを選んでいるのかもしれない。
ありがたく魔法を行使する。
ベンチも机も砂埃が払われ、次いでに体に纏わりついた汗や汚れもきれいさっぱりさせた。すっきり。
でもこのままじゃまた汗が出そうだったので胸元が見えない程度にチャックを下ろす。
(少し風が入るだけで全然違う。きもちぃー…)
ライダースーツは防寒には優れているけれど、いったん熱くなると熱がこもるのが難点だ。
座って待っているとほどなくお兄様が戻ってきた。手にはブラックの缶とスポーツドリンク。
ライダージャケットの前は開けられ、汗で張り付いていた前髪も、今はいつものサラサラに。
…今更だけどお兄様、かっこよすぎない?いつもよりもワイルドな感じでたまらなくかっこいい。
黒のパンツも体にフィットしててラインが浮き彫りに、ですね…直視しちゃダメだ。お兄様に邪な目なんて向けるんじゃない。えっちぃですね、なんて感想も抱いちゃいけません。
落ち着こう、私。大丈夫。深雪ちゃんのポーカーフェイスを信じて。
お兄様が近づいたので立ち上がると、お兄様は一瞬目を見張り、そして視線をずらした。
(んん?横に何か変わったものありました?)
視線の先には四阿の柱。あ、ショウリョウバッタが一匹。小さいサイズ。
緑の体で茶色い柱だと目立つよ。草むらにお逃げ。
「深雪」
おっと、虫に念波を送っている場合ではなかった。お兄様からドリンクを受け取って一緒に座る。
キャップを捻ればすでに開けられていた。…お兄様、過保護が過ぎる…。ありがたいですけどね。
このままじゃ箸より重いものもほとんど持たせてもらえないような…。
そこまで深窓のお嬢様じゃないんですけどね。――いや、去年までは深窓の令嬢ではあったのか。ほとんど箱庭暮らし。
一口飲むと、体に染みわたるように冷たい液体が行き渡る。これを欲していたと言わんばかりに体が喜んでいるのがわかる。もう一口。
ほぅ、と息が漏れる。生き返った心地。
「疲れたか?」
「いえ、疲れたというより熱くて」
タオルで風を送る動作をすると、お兄様は視線を外して遠くへ。
今度の視線の先には、一羽の鳥が。ピーヒュロロロロ、と鳥の鳴き声。都会では聞くことのない鳴き声。遠くへ来ましたねぇ。
「――失敗したな」
「え?」
そう言うとお兄様はおもむろに立ち上がって、私の前に立った。
見上げるとお兄様がちょっと困った顔をしている。一体何が失敗だったのだろうか?
「防寒ばかりに目をやり過ぎていた。今の時期なら俺と同じジャケットでも十分だったのに」
その時、微かにモーター音がお兄様の背後から聞こえた。
交通量は少ないとはいえ車は通る。こちらからは全く見えなかったが、一台車が走り去っていった。
「えっと、お兄様?」
「今の深雪を人の目に触れさせられない。魅力的でもあるが刺激が強過ぎる」
言われて自身の体を見下ろす。
…チャックから白い肌がのぞき、真下を見下ろせばばっちり見えるけど、お兄様の位置からだと谷間が見えるようで見えてはいない、はず。
へそを見下ろしてみるのだけど…大きさに隠れて見えない。
更に下に見える太ももは座っていることで圧力がかかり、ぴったりスーツが輪郭をなぞって見事な曲線を描き――なるほど、直接見えなくてもこれはアウトか。
「俺でさえ理性が危ういのに、人に見せられるわけがない」
そう言ったお兄様の表情は困り顔から一転、真剣だった。
一応、家を出る前にチェックしたのですよ?お兄様にはラノベ主人公伝統のラッキースケベの呪いが掛かってますからね。
一番お兄様に近くてその可能性があるのは私だから、おかしなことがあってはお兄様に申し訳ないと上から下までチェックしたはずなのに。
だけど立って姿見で眺めた時はこれなら大丈夫かな、と。余裕があったと思ったんですけどね。
…でもそうだった。イメージして比べる相手が悪かったとしか言いようがない。
ライダースーツと言えば峰不〇子。深雪ちゃんはあのようなグラマラスでダイナマイトなボディでないし、若干服との間に少し余裕もあったので、今のようにラインが出ていなかったのだ。
だから安心していたのだけど、しかし座ったことで生地が伸び、隠されていた体の線が浮き彫りになっていた。
チャックを中途半端に外していたこともよろしくなかった。
お兄様が時折視線を外したのはそういうことか。申し訳ない。
気を付けていたはずなのにまだまだ精進が足りませんでした。今後はもっと気をつけねば。
「…申し訳ございません」
ククク、とチャックを上まで締める。熱さよりもお兄様の心の安寧が大事です。だいぶ涼しくなったしね、うん。
「深雪が謝ることじゃないよ」
いえ、私にはわかっていたことなのです。もっと注意すべきことでした。
お兄様はもう車が来ないことを確認してから隣に腰を下ろした。
「…すまない。本当に深雪のせいじゃないんだ。ただ俺が、心配なんだ。こんなに深雪が魅力的だと攫われてしまうんじゃないかって」
「お兄様…でもお兄様が守ってくださるのでしょう?」
一体私が誰に攫われると?お兄様が傍に居て誘拐される想像がつかない。
だけど心配させた上に守ってくれるよね?なんて押し付けすぎだな、と気づいたけれど今更撤回もできなくて、どうしようか視線をさ迷わせていると、お兄様から一言が。
「…守るよりも、俺が攫ってしまいそうだ」
…おおっと、お兄様ちょっとお控えになって。色気がね、あの…いつもよりもワイルドな恰好も手伝って割増になっていてですね。
そっと頬に触れる手がいつもより熱く感じるのは、私の頬が風で冷えたから。
お兄様の瞳がいつもと違う色を宿しているように見えるのも、場所と光がいつもと違っているから。
…そうだよね?
「なんて、な。今日は遠出のピクニックだろう?目的地まであと30分くらいだから」
するりと離れるお兄様の手が、最後に惜しむように顎の裏を撫でていったのだけど、…手癖悪いです?ぞくりとしました。
猫だったらテクニシャンって叫んで擦り寄るところ。…恐ろしいお兄様だ。
ほら、とお兄様は何事もなかったかのように先に見える山を指す。
「あそこに見える山を越えたあたりが目的地だ」
指された山は隣と比べて紅葉真っただ中だ。周りはもう秋よりも冬の様相なのに、日の当たり方や風が違うのだろうか?
「あそこだけ地熱が高いらしい。秘湯が近くにあるそうだ」
お兄様そんなことまでお調べに!?危険がないようチェックしたってことかな?だとしてもすごい。
キラキラした目で見つめれば、お兄様はちょっぴり居心地が悪そうな?
「浮かれ過ぎかなと思ったんだが、せっかく深雪との遠出だからいろいろ調べていたら止まらなくて」
居心地悪いんじゃなくて照れてました。
(お兄様っ!…なんで!ワイルドとキュートが同居するの!?)
照れながらも言うお兄様最高過ぎません⁇え、なんなの?私をどうしたいの⁇あまりの衝撃に耐え切れずに顔を覆ってしまった。
呼吸も苦しい。どこまで好きにさせる気なのだこのお兄様は!沼か。底なし沼か!!もう頭までずぶずぶですよ。これ以上堕とそうとしないで。
「…すまない、やっぱり浮かれ過ぎてたか」
「………違うんです。でもお兄様のせいで心臓がくるしい…」
誤解させてしまったらしいけれどごめんなさい。今処理が追いつかないの。待ってほしい。お願い。
「深雪?どういう…」
「…これ以上好きになれないくらい好きなのに、お兄様がまだ沈めようとする…」
今だけはそっとしておいて欲しいです、とんでもないことを口走りそう。
恐ろしい。お兄様が畳みかけてくる。覗き込んでくる気配がするけど、首傾げるだけで破壊力あることを知ってほしい。
しかも今ライダージャケット前開け状態で、前屈みで覗き込もうって?なんなの?ワイルドとキュートだけじゃなくてセクシーまで追加しようというのですか?
属性盛り過ぎです。情報過多。困る。いつまでも復旧できない。…見たいのに。画面越しであればがっつり見たいのに!せめて写真!欲しい。
…大変混乱しています。お母様助けて。お兄様に心臓壊されちゃう。
もう手遅れです、って顔をなさらないでアドバイスください、イマジナリーお母様。諦めないで!
処置無しって首振られてます。どうして私の想像するお母様はそんないつもしょうがない子を見るような目をされるのか。
でもそんなお顔でも麗しいなんて本当にずるい。好き。
…ちょっと落ち着いてきた。
流石処理能力の速い深雪ちゃんの頭脳。スパコン並みのお兄様には敵わないけれど十分早いですよ。
よしよし、調子を取り戻してきた。これならセクシーなお兄様もワイルドなお兄様も、その上キュートなお兄様だって受け止められる気がしてきた。
大丈夫。たとえ心が荒ぶろうとも、今なら仮面を被れる、はず。
よし、と気合を入れなおし、手を恐る恐る外して――あれ?
「お兄様?なぜ項垂れてるのです?」
「いや…言葉の意味は一部わからなかったが――、…俺が沈めるとはどういうことだ?」
覗き込む気配あったと思ったんだけど、いつから項垂れてたんだろう?
そしてなんですか?お兄様が沈める⁇何のお話です?
「無意識か…」
え、お兄様が頭を押さえて疲れたように呟いた。…無意識って、もしかしてまた何か口走りました?!
「ご、ごめんなさい。私また変なことを!?」
甦る夏休みの悪夢。あの時は死ぬかと思った。というより意識オチたものね。……そのレベルです⁇
…思い出せない。思い出さない方がいいかもしれない。
お兄様も口ごもっているし。
「…あの、お兄様。記憶が曖昧で…」
「そうか」
私の伝えたいことを理解したらしい。お互いこの話は流すことになった。よかった。
ドリンクも飲み干したことだし、休憩も終わりということでツーリング再開。
ちょっと乗る時にぎこちなくなったけれど、許してお兄様。
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