妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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来訪者編③

 

新学期に来るだろう留学生に思いを馳せていたのだけど、交換留学なのだから来る留学生がいるならいく留学生もいるわけで。

 

「雫は…無事に帰ってこれますよね」

 

分かってはいるんだよ。雫ちゃんはただ本当になんの任務もなく勉強に行くだけだって。

ただ現地の情報をお兄様に流す役割と、接触する人を紹介するために神に送り込まれるだけだって。

それでもね、心配になる。

吸血鬼事件は彼女のいる土地から離れている場所で起きることも知ってる。雫が狙われることなんてない。

せいぜいレイモンドという胡散臭い学生に絡まれるだけ。

…この男の子も油断ならない相手なのだけど、キーマンだからどうしようもないしね。

 

「そこまで心配することはないよ」

 

お兄様は空になったバスケットを退かして身を寄せて、安心させるよう頭を撫でる。

 

「雫に何かするはずはない。そんなことをしては国際問題になることは明白だからね。デメリットしかない」

「そう、ですね」

 

お兄様の言葉に安心して体から力が抜けて、肩を抱き寄せられるままに体ごと預けた。

よりお兄様の体に密着する。…少し恥ずかしいけれど、初めに頭を寄せていたせいで離れられない。ドキドキとした音がお兄様に聞こえないことを祈りつつ。

 

「ですがどうやって…。諜報員一人送り込んだところでお兄様をどのように特定するつもりなのでしょう?一高に留学したところでお兄様が優れた魔法師かを調査することは可能かもしれませんが、彼らの調べたい魔法を使うことなんてないでしょうに」

 

そうなのだ。そもそもたった三か月という期間に彼らだけで謎の戦略級魔法師を探し当てるなんて無理がある。

どうやって彼らはマテリアルバーストをお兄様が使えると調べる気だったのだろう?

ぶっ放させるなんてあり得ないだろうし。

軍からの情報をこじ開けたって大黒竜也は出てくるだろうけど、もしお兄様に繋がったとしても、そこにマテリアルバーストのことなんて出てくるわけがない。

機密情報中の機密情報だ。三か月やそこらで調べ上げられるはずがない。

もしかして調査対象が高校生男子だからってハニトラするつもりだったとか?

情報ペロッと喋らせて、更に篭絡できればお持ち帰りすることも可能とかそんなこと思われていたのかな?

…確かにリーナちゃんびっくりするぐらい美少女だものね。見惚れて釣れると思われてたり?

そういえばお正月の邂逅の時だって運命の出会い演出しようとしてたね。

なんでその作戦中断されたんだろ。無理だってリーナちゃんが判断したのかな。

実際お兄様相手だと無理だからその決断は間違っちゃいないのだけど。

そもそも優れた魔法師かというのだって、パラサイトの活動無くしてリーナちゃんが見分けられたかも怪しい。

原作の彼女に留学生の活動内で調べられることと言えば、学校で参加した九校戦や論文コンペの活躍における実績だろうか。校内では実は陰で実力がある!なんて噂くらいは拾えていたかもしれない。

そもそも深雪ちゃんをちょっと煽てればペロッとお兄様自慢しただろうから、お兄様の実力に信ぴょう性を抱くきっかけになるかもしれないけれど。

校内で仕掛けても、せいぜい年の割に実戦経験ある動きだってことくらいしかわからない。

それでも疑念が深まったところで確定はしない。だって、そもそも肝心の魔法力が乏しいのだ。

実力を隠しているように見えても、二科生の授業を見ればどれほど苦戦を強いられているかはわかるはず。

それでも完全に疑いを払しょくできないのは動きが只者ではないから。

というか高校生が忍びの先生に指導を受けている時点で普通ではないと思われてもしょうがないよね。

…たぶんだけどジャパニーズニンジャの見せる幻想ってことですべて誤魔化されるんじゃないかな。あのリーナちゃんなら。

アメリカ人、いまだにニンジャに夢見てるみたいだし。謎とロマンに包まれてますからね、忍者も忍術使いも。

原作と違ってわが校ではお兄様の実力は魔法力とは違うところにあることは有名だし、異端扱いの風潮がそもそもない。

お兄様の居心地が悪くなければアメリカに誘う理由も無いわけで、学校での彼女の活動はほぼ意味を成さない。

諜報したところで何も出るものはない。お兄様を襲ったところでマテリアルバーストを思わせる魔法は使わないのだから、ただの忍びの技に思われておしまいでいいのでは?

…なんとなくその方が良い気がしてきた。お兄様は特殊な訓練を受けた逸般人だって。

この路線で行けるんじゃないかしら。

 

「そもそも俺は叔母上から軍との関わりを絶たれているからな。アレを放つことなどできないし、何より使用する理由もない」

 

まさか大亜連合のように艦隊を持ち出すことも無いだろう。直接的な戦争を吹っ掛けるつもりなんてあちらの国にはないのだ。

「調べる為だけに戦争を仕掛けるほど愚かではないだろう」と今度はお兄様が私の頭に重なるように頭を乗せてきた。…きゅん、とした。

なんだろう、この滅多に懐かない猫が膝に乗ってきてくれたような気持ち。

…だめだめ。意識を持ってかれちゃ。撫でたいとかぎゅっとしたいとかいう気持ちは抑えて。真剣なお話してるんだから。

お兄様の言う通りだ。だから正直、そっちの心配はしてないんだよね。

リーナちゃんに調査させたのが運の尽き。素直に粛清とパラサイトの処理だけを彼女に任せていればよかったのに。

おかげで結構な手の内をお兄様にばらしていくことになるからね。

っていうかそもそも彼女の正体自体がトップシークレットなんだよね?原作では結構いろんなところにもろバレになったけれど。

あちらの国も一枚岩じゃないのよね。リーナちゃん気に入らない勢もいるから嫌がらせもかねてたような記憶。

戦略級魔法師を見つけられないことで減俸、もしくは最悪失脚にでもさせたかった?

だったらまず、同等の戦略級用意してからにしたら?っていうね。力を頼る癖に煙たがるって愚かとしか言いようがない。

彼女の場合出世できたのは確かにその魔法があるからだろうけどそれだけではない。これまで積み上げてきた実績も、人望だってあるみたいだったし。彼女は自力で伸し上がってきた実力者だ。

日本人の血が混じっていることも気に入らなかったのかな。どこの世界でも上層部なんて面倒くさい大人たちばかりだよ本当。

それに翻弄される子供たちのことも考えてほしい。

あと、これは言ってもしょうがないのだろうけどリーナちゃん、というかスターズだけだったらパラサイトの処分なんてできないのだけど、本当あの国は大雑把に力ぶつければ何とかなるでしょう感が酷いよね。

お兄様がいなかったら、吉田くんたち古式魔法師がいなかったらまず解決の糸口すら掴めなかっただろう。

…それでいいのかUSNA。日本にパラサイトが来なかったらどうなってたんだろうね?増殖しまくって国崩壊⁇

そういう意味では黒幕おじさんのお陰で助かったのか。黒幕おじさん、日本と故郷に迷惑かけられればなんだっていいからね。なんでも利用する。

あちらの国では既にマイクロブラックホール生成・蒸発実験は行われ、パラサイトは地上に上陸、活動を始めている頃のはず。

現段階でお兄様の情報網にも引っかからない。あちらでもまだ軍部で抑え込めているのだろう。

ただ、叔母様は11月初めの時点で既にスターズがお兄様を狙っているという情報を持っていた。これはフリズスキャルヴを使用して得た情報だと思われるが…ここも深くはわからないのよね。

吸血鬼に関してはまだ調べられてないのかな。

これは先にUSNAの『都市伝説』集めた方が早いかも?いくらあちらの国が情報規制掛けたところで、ニュースは封じ込められても人の口に戸は立てられないからね。

 

 

――

 

 

熟考しているといつの間にか、シートについたままだった手にお兄様の手が重ねられていた。相変わらず温かい手だ。その重ねられた手が掬い上げられる。

 

「すでに送り込まれている人材がいてもおかしくないと思うが、こちらを調べるような視線は受けてないから、先に地盤固めか、軍関連から探っているのかもな」

「…私たちはただ、平穏に暮らしたいだけなのですけどね」

 

ずっと望んでいるのはお兄様の幸せ。そのための平穏な暮らしがしたいだけなのに。

一体全体、どうして遠路はるばるやってきてお兄様にちょっかいを掛けるのか?

A.お兄様が主人公だから。…ですね。わかってますけどね。

でもいいじゃない。平穏に暮らしたいって願ったって。

なんでそんなに皆争いを好むの?マウント取るの楽しい?

未知のモノを恐れるのもわかるけど、放っておけば怖い思いなんてしなくて済むのに。

 

「皆が皆、深雪みたいに平和主義であれば争いごとなど起きないんだろうがな」

 

握られた手がお兄様の胸に引き寄せられて、手の甲に当たる温かなものは、お兄様の胸板。

とくん、とくん、と正常な心音が伝わってくる。…ごめんなさい。私の心臓はその倍のビートを刻んでます。

 

(お兄様の、お胸に、手が!不可抗力なの!!)

 

誰に対してのいいわけなのか。多分自分を落ち着かせたいのだけど、無理!って心の中で叫んでるところですね。

脳内処理頑張って。この前みたいに処理落ちしないで!大丈夫。やればできる子。信じてる。

 

「いっそここから抜け出して、二人でひっそり暮らそうか」

 

優しく囁かれる言葉の誘惑。見つめる先は非日常の美しい景色。隣には熱を分け与え合っているお兄様。

肩を寄せ、頭をくっつけ合っているのでお互い表情を窺い見ることはできない。

いや、お兄様はできるのかもしれない。お兄様の眼は映像を映すものではないけれど、情報を詳細に読み取ることができるから。

だけどそんな気配は感じない。それともずっと感じ続けているから私のアンテナが馬鹿になっているのかもしれない。

お兄様に視られていることは常時スキルみたいなものだから。

私にとっては息を吸うよりも当たり前にあるものなのかも。このところ息を吸い忘れる現象があったからね。

しかし、お兄様とひっそり暮らす、か。

 

「――素敵ですね。こうして誰もいないところで静かにお兄様と暮らせたら、きっと幸せでしょう」

 

目を瞑って夢想する。

お兄様と二人きりで暮らす日常。誰にも邪魔をされず、ただ穏やかに過ごす日々。

ありえないとわかっているからこそ浸りたくなる夢の世界だ。

お兄様の言う『ここ』とは、東京とか、日本の話ではなくて、四葉のこと。

四葉本邸から帰った後、叔母様からのちょっかいにお兄様はちょっぴりおかんむりのご様子だった。

元々忠誠心なんてこれっぽっちもないからね。自分を苦しめた場所にどうして縛り付けられなければならないのかと思ったのかもしれない。

お兄様だけであればあの日とっくに抜け出していたかもしれない。

未だ最盛期ではないにしろ打ち破るだけの力を持っているなら、こんな一族とおさらばしようと考えていてもおかしくない。

だが、お兄様が今一人で抜け出すかと問われれば、それはできない。

私が――彼にとって一番大切なものがそこにあるから。この先守りながら二人で抜け出せるほどの力はまだないから。

だから大人しく鎖につながれている。

嫌々従っている。

でも、あまり嫌わないであげてほしい、と思うのは私が彼女に絆されているからか。

原作知識だけではない、生の彼女たちに関わったことによって生まれた情。それがまた色々と考えさせる。

 

「…だめだな。帰りたくなくなってきた」

 

ふわり、と包み込むように抱きしめられた。触れているのに、まるで壊れ物に触れるかのような力具合。

先ほどまでしっかり触れ合っていたのが嘘のような触れ方だった。

触れたら、夢は壊れてしまうだろうか?そんな不安に駆られたのかもしれない。

 

「お兄様ったら」

 

くすくすと笑うと、お兄様も一緒になって笑う。

そして締め付けるような抱きしめ方に戻った。夢の時間は終わったらしい。

 

「またいつか、こうして出かけましょう?お兄様にはこういった息抜きもあった方がいいと思います」

「この間のようになっては困るからな。あの時は本当に思考が鈍っていた」

 

先日の騒動の一件ですね。

あれではいい考えなど思いつくわけがない、とお兄様は反省なさっているけど、反省点そこなんだ。

結構学校では大変なことになったんだけどね。そこは気になりませんか。

一部では疲れ切ったお兄様に近寄ったら孕まされる、なんて過激なジョークまで出回ったのですがね。あと女も男も関係なく喰われる、とか。

いつの間に両刀説が?確か男子は口説いていなかったと思うけど。お兄様のせいで目覚めた人でもいたのだろうか。

 

「一人で走るのもいいかと思いますが、偶にはこうして私も連れてきてくださると嬉しいです」

「なぜ一人で?…ああ。確かに何も考えずに走るのも気分転換にはなるだろうが、俺はどちらかというと、こうして深雪と誰もいないところでゆっくりした時間を過ごす方がいいな」

 

あら嬉しいことを言ってくださる。

少しだけ体を離してお兄様を仰ぎ見て。

 

「私もまたご一緒したいです」

「なら、またここにも来よう。ここは春には山桜が咲くらしい」

「まあ。それは楽しみですね」

 

来年のその頃は、ここにもう一人増えるのだろうか。バイクは二人乗りだからその時彼女に留守番をさせてしまうことになるのか?

わからない。未来がどうなるかなんて予知能力のない私にはわからないけれど。

 

「お兄様」

「うん?」

「私は今、とても幸せです」

「ああ。俺も、とても幸せだ」

 

こうして二人で肩を並べられて静かに過ごすことなんて、あと何回許されるのだろう?

わからないけれど、今はこの幸せなひと時に浸り、素晴らしい光景を目に焼き付けたい。

 

 

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