妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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入学編⑥

深雪視点

 

 

 

お兄様の朝は早い。

日も登らぬ前に修行へ行くことを日課にしているから。

この弛まぬ努力がお兄様を形成する大事な要素なのだ。

ならば私も、と毎日ついていこうとしたが、お兄様に毎日はちょっと、と止められてしまった。

理由は言われていないが私が付いていくと厳しいトレーニングができないのかもしれない。先生は女性に気を使われる方だから。

今日は昨日のうちに参加する旨を伝えているので、いつもより早く起きて準備をする。

原作の深雪ちゃんがどれほど鍛えていたかはわからないけれど、私も負けてられないと魔法の力に頼れない時を想定した護身術を学んでいる。

日常の小物もいざという時に立派な武器にできる知識もある女子高生って――いいよね。

趣味と実益を兼ねてます。深雪ちゃんスペック最高です。

 

「おはよう深雪。いい匂いだ」

「おはようございますお兄様。今朝のサンドイッチはちょっと気合を入れましたので、楽しみにしていてください。こちらは飲み頃になっていると思いますよ」

 

用意したのは飲み頃の白湯と冷えていないスムージー。

飲みやすいようにサラサラになっているのでのどに引っかかることはない。

きっと寝起きには冷たい飲み物が飲みたいだろうけど体のことを思ったら内臓を冷やすのはお勧めできない。

お兄様はそれを文句を言わずに飲み切って、美味しかったよとグラスを渡してくれた。

それを食洗器に入れてバスケットを持とうとしたらさらっとお兄様の手に。

すぐそこまでだけどそれでもこの気遣い!流石お兄様!!

頬を緩ませているとそれに気づいたのか微笑み返されて今日も良い日になりそう、とお兄様と家を出た。

家を出ればそこからはひたすら魔法制御の修行が始まる。

お兄様は息切れすることもなく、けれど負荷は感じているようで顔には汗を滲ませていた。

私は魔法力が尽きることはないけれど、この多すぎる力を細やかにコントロールするのは難しい。

でもいつまでも力押しではいられない。

表向きはそれでいいかもしれないけれど、武器はいくらでも持つべきだ。これからはそういうことも必要になる場面が出てくるだろうから。

集中を維持しながらローラーブレードを主軸に操作していく。

並走、というより先行してしまっているが、お兄様から現状を維持するようにと視線で訴えられたので、このままのスピードで寺に向かった。

お兄様が先に寺の敷地に入っていくと、どこからともなく現れた先生のお弟子さんたちからの洗礼を受けていた。

どんどん奥に進んでいくお兄様をしばし見守ってから、遅れて門をくぐる。

本当はローラーブレードを脱ぎたいのだけど先生が気にするなと許してくれない。

厚意だとわかっているので大人しく引き下がるのだけど、お寺をローラーブレードで歩くって不謹慎な感じがひしひしと。あと純粋に歩きづらい。魔法のおかげでバランスは崩さず済むが、これも修行ってことかな。

 

「おはよう深雪くん!」

「!っ先生おはようございます。」

「あっはっは。深雪くんは相変わらず可愛い反応をしてくれる。忍びがいがあるなあ」

「先生は相変わらずお人の悪い。でも忍ぶのはロマンですものね」

 

胡散臭い生臭坊主で忍者だなんてロマンの塊でしかない。

 

「うんうん、深雪くんは本当によくわかってくれるよね!達也くんとは大違いだ」

「お兄様のロマンはきっと別のところにあるのです」

 

どこにあるかわからないけど、もしかしたらこれからできるかもしれないし、と期待を込めつつもっともらしく嘯くと先生はしたり顔となり私をつま先からてっぺんまで一通り眺めて。

 

「そうだねぇ。こんなロマンあふれる女の子が傍にいるんだからよそ見なんてできないか」

 

うんうん、と大げさに頷く先生だけれども、深雪ちゃんに関してのロマンは私もわかりますが、それがお兄様にとってロマンとなるかは…無いんじゃないかな、と思うわけで。

 

「それが新しい一高の制服だね。いいね、実に良い」

「今日は無事入学ができたことの報告に伺いました」

「聞いているよ。君の答辞が終わると会場が揺れたそうじゃないか」

「大袈裟です。でも確かに快く受け入れていただいたように思えました」

「まるで女神のごとき美しさと天上の歌声のような言葉に酔いしれたとか。僕も君たちの保護者として参加すればよかったな。もしくは忍び込む、とか」

「たかが高校生の答辞を随分とおかしな表現をされますね」

「いや、今の君をたかが、なんて言うのは目が腐っているとしか言いようがない。容姿はもちろん素晴らしいけれど深雪くんの場合内側からも滲み出る美しさというのかね。洗練された姿勢は君の努力を物語っている。

――君は美しいよ。15歳だとは信じられないほどに、ね」

 

最後の言葉にどきりと心臓が大きな音を立てた。

表には出していないつもりだけど、先生は侮れない御仁だ。

見えない瞳はいったい何を映し出したのか。

…こう、糸目キャラっていうか普段目を見せないキャラっていいよね。本当キャラ盛り過ぎです先生。好きです。

ぽこんと煩悩が生まれてしまう私は今すぐ滝行でも何でもするべきだと思う。

そんなことを考えていたからか先生の接近に気付かず、というより気にも留めず動きをうかがっていると、すっと顔に向けて手を伸ばしてきて――

 

「師匠、深雪に触れる時はまず俺の許可を得てからにしていただけますか?」

「それ絶対許可出ない奴だよね」

 

ぱしん、とその手は弾かれて、そこから流れるような攻防が始まった。

ふっ、と息が漏れるお兄様と、一切息を乱さず攻撃を捌きつつ反転攻勢に入ろうとする師匠の力量はまだ師匠の方が上なのだろうと思う。

とはいえお兄様の技量は素晴らしいもので攻撃をいなして足を振り切り間合いを取ったかと思うとすぐさま懐に入り――の激しい猛攻に、気付けば周囲にはお兄様たちを中心とした円ができていて私も含め皆観戦モードになっていた。

 

 

 

決着がつく頃、私は静かにその円から外れて勝手知ったると中に入って水とおしぼりを用意させてもらい、戻る頃には決着がついていた。

 

「先生、どうぞこちらを。お兄様もいかがですか」

「ありがとう深雪くん」

「…っちょっと、待ってくれ」

 

地面に転がったお兄様などここでしか見られない光景だ。

先生は涼しげな顔で水とおしぼりを受け取って飲んでいるが、お兄様は起き上がるまでもう少しかかりそうだった。

汗を拭ってあげたいけれど、そこまで甲斐甲斐しくされると逆に気まずいだろうから、ここはぐっとこらえ傍に控える。

 

「本当、できた嫁だよね」

「嫁だなんて。お兄様の妹ですもの、これくらいできませんと」

「…師匠の冗談は面白くありません」

 

私は受け流し、お兄様はぶったきる。

お兄様、息整えるので精いっぱいなのにツッコむために体を起こすなんて無茶を。

しかしいいタイミングだろう、水を差し出しおしぼりを広げる。

 

「ありがとう深雪」

「お疲れ様ですお兄様」

 

謙遜でも感謝でもなく労いを伝えるとお兄様は微笑んでおしぼりを受け取ってくれた。

そして立ち上がって汎用型CADを操作して私とお兄様の服の汚れを落とすための魔法を発動し、白い霧が体にまとわりつくように現れ包み込んだと思ったらすぐに晴れて消えていく。

 

「お見事」

 

制服は新品同様、来た時よりもきれいな状態になっていた。

簡単に見える魔法だが、これがどれだけ複雑な魔法か使わなければわからなかった。

それを原作同様軽くこなせるようになったのは日々の修行の賜物です。

 

「そろそろ朝食はいかがですか?先生もよろしければぜひ」

「もちろん、ご相伴に預からせてもらうよ」

 

サンドイッチには先生用の動物由来のモノを避けたものと、野菜たっぷりのスープを用意した。

 

「深雪くん、ぜひ僕のお嫁さんに――というのはもちろん冗談だけど寺の手伝いに来てくれないかなあ。この細やかな気配り、本当に深雪くんは素敵なお嫁さんになるよ」

「ありがとうござ――」

「それ以上はセクハラですよ師匠。深雪もいちいち律義に返してはいけないよ。図に乗らせるだけだからね」

「…達也くんはこの手の話題に一層厳しくなったねえ。学校では有象無象でも湧いたかい」

「半数は男ですからね。それに深雪は女子からの人気も高いので」

「ますます警戒に磨きがかかっちゃったか」

「あの、」

「ああ、深雪このサンドイッチは食べ応えがあっていいね」

「お口にあってよかったです」

 

どうやらお兄様は先生との会話をさせないようにしているみたいだ。

お兄様だって先生が別に本気じゃないとわかっていると思うのにどうしてこんなに鉄壁なんだろう。

 

「そっちも磨きがかかったけどこっちの腕前も、ね。体術だけならもう達也くんには敵わないかもしれないなあ」

「そうは言われましても、ぼこぼこにされていては褒められた気もしません」

「そこは流石に師匠としてはまだ15歳の半人前には負けられないからねぇ。それに深雪くんの前では張り切ってしまうし」

「その条件なら俺も、のはずなんですが」

「はっはっは。精進し給え」

 

お兄様がまるで子ども扱いで、なんとも微笑ましくなってしまう。

これも先生のおかげ。だから私は先生が好きだ。いつかこの先生が敵に回ることがないことを願うばかりだけど・・・。

 

「深雪?」

「申し訳ございません。これからのことを考えておりました」

「深雪、けして無理はしちゃいけないよ」

 

そう、今日からは本格的に作戦を実行するのだ。気を引き締めねばならない。

 

「はい、もちろん。私は私のできることを」

 

すべてはお兄様と平和に学園生活を送って、お兄様が主人公の学園ラブコメを見守るために!あれ、ギャルゲーでしたっけ?どちらにしろお兄様無双ですよね!

 

「青春だねぇ。楽しんでくるんだよ」

「「はい」」

 

先生に胡散臭くない笑顔で見送られ、私たちは一旦家に戻ってから学校に向かった。

 

 

 

「そういえば深雪、昨夜誰かと電話していなかったかい?」

「…!ああ、父からでした。入学祝いと言ってましたよ。無理にこちらに関わろうとしないで奥様と仲睦まじくしていればいいのに、なぜ無駄に絡んでくるのでしょうね。とりあえずこれ以上絡まれたくないのでそれとなく伝えたのですが、どうも毎回都合のいいように解釈されてしまうようで」

「ある意味幸せな生き方だな。…ああはなりたいと思わないが」

 

母が亡くなって半年待って再婚した父は、義理は果たしている気分なのだろうけど、普通に嫌悪対象だからな?とひょっこり前世の私がこんにちわする。

いや、葬式の仕切りも人任せでようやく顔を出したかと思えば定型文を少々言ってさっさと帰る父親のどこを尊敬すれば?一緒に暮らそうって言われたときはコキュートス逝っとく?とうっかりCADに手を伸ばすところだったわ。無くても打てるけどね。そこは雰囲気重視で。生かして返しただけでも感謝してほしい。

母が大好きだから無理!父は好きに奥さんと生きて!必要以上構わないで!!と別れ際に伝えたはずなんだけどあの男自分の都合のいいように解釈しやがりましてね。なんて父親想いの良い娘なんだ!って。キモイわ。自分のしてきたことちょっとは反省しろよ。って感じではっきり言って拒絶寸前だ。

それをしないのは司波として一般家庭を隠れ蓑として生活するため生かして()おかねばならないからだ。悔しいことに。

 

「あんな蜃気楼のような夢、私はご免です」

「ああ。深雪には本物の幸せをプレゼントするよ」

「…もう、お兄様ったら。でもありがとうございます」

 

どうしてあれが種でこんないい男ができるのか世の中不思議ですよね。

きっとお母様の血がよかったのだろうな。そうに違いない。

 

「今日も真直ぐ帰れそうかい?」

「その予定です。生徒会も昨日の今日でいきなり来るとは思いませんし…でもおそらく、さっそく問題は起きるでしょうね」

「深雪の勘は当たるからな」

「お兄様も予感はされているでしょう」

 

これは原作知識がなくてもある程度読める流れだと思う。

 

「…お互い、覚悟を決めようか」

「覚悟をもってして当たりたいと思います」

「そこまで気合を入れなくても――」

「ですからお兄様、乗り切る力を分けていただけますか?」

 

そう手を伸ばせばお兄様は私の意図を汲み取って微笑んで手を取ってくださって胸元に引き寄せると過剰サービスで肩を抱き寄せる。

…相変わらず手馴れてますよね。実に自然な流れでございました。

 

「俺にもお前を充電させてくれ」

「取り過ぎないでくださいませ」

「それは気を付けないとな」

 

兄妹のじゃれ合いはしばらく続き、お互いの熱を分け合った。

 

 

――

 

 

充電は完了したと思うんですけどね、消費エネルギー量がとんでもないんですがなぜですかねぇ?!

なんで、こんなに、衝突したがるんですか皆さん!?

なに?ここって大昔に流行ったヤンキー天国です??

なんですれ違うだけでメンチ切るの?

暴言吐き出すの?

肩もぶつかってないよ?ガンくれてなくてもいがみ合いが始まるってヤンキーよりも性質悪いよ!

熱血教師でも登場しないと収拾付かないよ!

なんなの皆、そんなにストレス溜まってました?こんな荒んだ学校いやだ!

こんなに環境悪ければ誰だって腐っていくよ。

こんな世界――私はぶっ壊す!この、溢れんばかりの深雪ちゃんのカリスマ性とこれまで培ってきたお嬢様力で!!

プッツン切れた内なる私は荒ぶった。

 

 

 

 

それは昼休みから始まった。

私はクラスメイトと共に食堂へ、お兄様はすでに席で仲良くなったクラスメイト達と食べていた。

視線が合えば無視はしない。

私は小さな声で兄さんと呼び、お兄様は深雪、と呼び返す。

特に何かを言うわけでもなく、ただ視線を絡ませた。

しかしお兄様を呼んだ声が固いことと、昨日の入学式での関係を知っている一科生は私を守るように立ちふさがる。

まるで敵対する構図だ。

そんなこと、する必要も無いのに。

そっと目を閉じて、昨日挨拶をした千葉さんと柴田さんにこんにちは、と声を掛けて空いている席を見つけて歩き出した。

何も起こらなかったことに肩透かしを食らったように、出だしが遅れてついてくるクラスメイト達に振り向くことなくお兄様グループとすれ違う。

微妙な空気に食堂は静まり返ったが、私たちが座る頃にはまた音を取り戻す。

そのことで彼らも口を開きやすかったのか話しかけてきた。

 

「司波さん、いくらお兄さんでももう関わらない方がいいんじゃないか?」

「心配してくれてありがとう森崎君。ごめんなさい」

「あ、いや。謝らせたかったわけじゃないんだ。ただ、」

「みんなの気分を悪くさせちゃったみたいだから。気を付けるわ」

 

笑って見せるけど気分が乗りきらず、不格好な笑みになってしまい、彼らも困惑気味に返すしかなかった。

 

「それより、次は三年生の実技を見学できるのよね。楽しみね」

「そうね!三年A組だから生徒会長の実技が見られるかもしれないね」

「きっと見られるよ」

 

払拭するように話を変えればようやく固い空気を和らげることに成功し、楽しい昼食が始まった。

こうしていれば本当にただの青春の1ページなのにね。

 

 

この後の見学で、お兄様のグループが空気を読まず前に陣取ったことで妙な緊張が漂ったが、先輩たちがいる手前文句を言うわけにもいかず問題は起きなかったのだけど――

校門前、お兄様との待ち合わせ場所。

そこまでなら、とクラスメイトと雑談してきたのだけど、それがどうして争いになるのかわからない。

あなたたちと寄り道をするなんて話聞いていなかったんだけど…?

 

「お、…兄さん」

「深雪のせいじゃない」

 

本人たちが蚊帳の外になっている現状は、どう考えてもおかしいと思うのですがね?

 

「別に彼女はあなたたちを邪魔者扱いなんてしてないじゃないですか。なのにどうして一緒に帰ろうとする兄妹の間を引き裂こうとするんです!?」

 

ほんとそれな。柴田さんありがとう代弁してくれて。美月ちゃんて呼んでいい?

 

「僕たちは彼女に相談することがあるんだ!」

 

初めて聞きましたよ森崎くん。っていうか同じ新入生だよ、アドバイスできることなんてないよ。

 

「そうよ!司波さんには悪いけど少し時間を貸してもらうだけなんだから!」

 

その司波さんてお兄様のこと?私のこと??たぶん私なんだろうけどややこしいね。っていうか悪いってわかってるのに引き下がらないってすごいねほのかちゃん。こうと思ったら曲がらないね!

 

「ハン、そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間取ってあるだろうが」

 

その通りですね。正論だと思います西城くん。なんで正論言えるのに千葉さんに言い負けちゃうんですかね?やっぱり前世からのつながりで?

 

「相談だったら予め本人の同意を取ってからにしたら?高校生になってそんなことも解らないの?」

 

全くもってその通り。内なる私からの盛大な拍手が沸き起こっております。エリカちゃんって呼んでいい?

っていうか二科生の方が通じ合えるっていうね。不思議ね。私二科生の方が幸せだったのでは??

 

「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが俺たちブルームに口出すな!」

 

正論に癇癪。

ありがとうございます。やられ役のド定番、お決まりコース確定ですね!でもそれ、ぶっ壊させていただきますわ。

 

「――落ち着いて森崎くん。私は模範となるようにと皆さんの前で宣言しました。その私がそのような言葉を使う森崎くんを止めないわけにはいきません。森崎くんだって、そんな言葉使いたくて使ったわけではないんでしょう?」

 

んなわけない。森崎くんは反駁されただけでポロリしたように日常でも普通に使っちゃう子だ。

でもね、それ封じさせてもらうね。

 

「正義感の強い森崎くんだもの。少しお話しただけでも分かったわ」

 

必殺私は貴方のことわかってますよ斬り!ダメージは――手ごたえあり。

彼は動揺している。二の句が継げない!

 

「いくら周りに差別用語が広がっていても使うかどうかは本人次第。使って格好つけるより使わず余裕を見せた方がかっこいいし、何より不快な気持ちにならないわ。そうでしょう?汚い言葉って聞くだけでもストレスだものね」

 

あえて言おう、汚いと。

周りを通り抜ける先輩たちの表情も微妙ですね。流れ弾でもあたりました?

 

「これは私の持論だから強要する気はないの。誤解させたならごめんなさい。森崎くんには森崎くんの考えがあるのに」

「あ、いや…僕も頭に血が上っていたみたいだ。止めてくれてありがとう」

「ふふ、どういたしまして」

 

少年よ、よかったな。これで処罰云々にかけられることは無くなったぞ。

ほのかちゃんも、と思ったけどこれお兄様とのフラグも折ってる⁇…たぶん大丈夫。私と共に行動するならフラグはどこからでも生えるはずだから!お兄様フラグ製造機だから!機会はまだあるはず。

 

「だけど二人ともごめんなさい。今日は予定があるから時間が取れないの。せっかく相談してくれるってお話だったのに」

「いいのいいの!こっちこそ予定も聞かずにごめんね!」

「ううん、頼ってもらえるようで嬉しかったわ。ありがとう光井さん」

 

うむ、素直なおなごじゃ。いい女になるんじゃぞ。

気分は世直しをする黄門様だ。…黄門様そんな俗物なこと言わないけど。

さあでは帰りましょうか。

 

「――深雪」

 

お兄様が呼ぶ。

 

「ぉ…兄さん」

 

先ほどまでの和やかさは夢だったようにすん、と表情が抜け落ちた。

すると周囲の空気が一瞬にして凍り付いた。

いえ、干渉力なんて働いていませんよ。ただの空気感のお話です。

 

「じゃあみんな、また明日」

 

そうお兄様は歩き出す。

私は少し離れて後に続く。

一科生にはにこりと笑いかけて手を振り、二科生には一瞥もくれずに。

歩く私たちの後ろには誰も続く気配がない。

明日はまた、どんな噂が立てられるのか。

 

 

そしてまた私は玄関でお兄様の引っ付き虫と化す。

 

 

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おまけ

『さて、そろそろこの座談会も馴染んできましたでしょうか。今日のゲストは深雪ちゃんとお兄様です』
「よろしくお願いします」
「それで、今日はどの話だ?」
『入学後初めて九重寺へ行った時のことからお願いします』
「先生に制服のお披露目をしに行った時ですね」
「…必要あったか?」
「入学を祝ってくださる大人は貴重ですから(あの人(父)は除外で)」
『まあ、真夜様から盛大に入学祝は無いでしょうからねぇ』
「それは…」
「ありえないだろう。司波は四葉とは何の関係も無いのだから」
『…(実際のところどうなんです?)』
「…(したかったようなことは言われましたが、自重された様です)」
『お兄様は風間さんたちからされたんですか?』
「言葉は貰ったな」
「まあ、そうだったのですか」
「藤林さんや真田さんからはようやく高校生か、と遠い目をされたな」
「ふふ、お兄様は中学生の時から大人びてましたから。一緒に出掛けてもお兄様の方が年上に見られていましたね」
『そういえば中学生らしからぬ身長でしたもんね。でもまだ顔は幼さもあったからギリギリ高校生には見られていたんじゃないですか?』
「身長に関して言えばそこまで飛びぬけていたわけではないが、そうだな…学生には見られていた」
『深雪ちゃん、実際のところは?』
「最高学年の際には大学生に間違えられることが増えていたかと。顔に多少幼さがあろうとも落ち着いた姿が堂々とされていましたから成人していると見えたのかもしれません」
『15歳ですでに…老け顔ってわけではないんですけどねぇ(十文字先輩と違って)』
「表情も穏やかな笑みが多いですからそれがまた年下を見守っているように見えるのでしょう」
「フォローありがとうな(なでなで)」
『うーん、ナチュラルにいちゃつきますねぇ。綺麗に纏まったところで話を戻すんですけど、九重先生大喜びでしたね』
「お褒めの言葉をいただきました」
「あの人の浮ついた言動は深雪に聞かせたくない」
『ワァ、シスコンお兄様がお出でになった。耳が穢れる、的なアレです?』
「先生が本気でないことはお兄様にもお判りでしょうに」
「その冗談もどこまでだか」
「もう、お兄様ったら」
『はいはい、サクサク進みますよ。でも先生は何でもお見通しとばかりの発言がてんこ盛りでしたね』
「(…私の年齢詐称疑惑もありましたねぇ…)学校の出来事も筒抜けのようでした」
『それもですが、何より『嫁発言』ですよ』
「「…」」
『もう二人の将来見抜いてません?この頃にはお兄様からの妹への熱視線バレてません⁇』
「……いえ、あの頃はまだ、熱視線と言われるほどでは…」
「師匠をけん制するようになったのは高校入学前からだったが…」
『あの一件(下着事件)でお兄様が妹を異性と認識して初めての二人揃っての訪問でしたよね?』
「「………」」
『深雪ちゃんを見る目が変わったことを先生は気付かれたのでは?』
「……だったとしても兄妹だぞ。いくら師匠でも兄妹を本気で夫婦などと――」
『ですから、分かった上でお兄様に対する『忠告』だった、とか』
「………」
「…先生ならありえなくもないお話かと思いますが、結果として何とかなったわけですから」
『まあねー。兄妹で結婚しても問題なくしちゃった四葉の非常識のおかげだけども。一応これでお兄様にもブレーキがかかった、かと』
「その意図は分からなかったが、そうだな。改めて兄妹ということを強く認識されていたのか」
「サンドイッチの差し入れではお礼にもなりませんでしたね…」
「いや、深雪の手料理は金銭には代えられない価値があるから十分有り余るものだと思うが。今度確認のためにも聞いてみるよ」
『で、お二人の父である龍郎氏から深雪ちゃんだけに入学祝の連絡が来たってことですが』
「…父、ですか…?」
『おっと、深雪ちゃん渾身の誰それ?のお顔。ま、自業自得ですね』
「深雪だけを可愛がりたい気持ちは分かるが、深雪を見ていればそんな態度を見せればよく思われないことくらいわかりそうなんだが」
「可愛がっているつもりで私のことも見えていないのでしょう。いいんじゃないですか?奥様と存分に仲良くして幸せであればこちらに構うことも無いでしょうし」
「深雪のように美しくすぐれた娘を持てば誰でも浮かれるだろうが」
『擁護するようでいて、ああはごめんだ、という空気がひしひしと』
「当たり前だろう。現実が見えていないにもほどがある。深雪から嫌われていることに気付けないとは。どれだけおめでたいんだ?」
『でもだからといって、妹に対して『本物の幸せを~』発言は如何なものかと』
「///そ、そうですよ!お兄様、ああいった発言は何処から学ばれてくるのです!?」
「どこから、と言われても。深雪には泡沫の夢よりも現実に幸せにしてやりたいと思っただけなんだが」
「そういうところですよお兄様!」
『妹相手にいう言葉じゃないですねぇ…』
「そう言われてもな。深雪が妹だからおかしく聞こえるだけで本心だから」
『その時点でお兄様にとって妹を盲目的に溺愛しているのではなく、深雪ちゃんを愛していたことになるのでは…?』
「……」
「……」
『……兄妹愛しか残されてないと伝えられればそれ以上になるとは思わないですもんね』
「…気付くタイミングはあったんだな」
「いえ、流石にこのタイミングでは難しかったかと…」
『それに、こんな序盤に気付いてしまえばずっと悶々と悩み続けることになるのでは?』
「そ、そうですよ!気付かないことの方がいいこともあります!」
『ってことで本筋に話を戻しますが!』
「必死だな」
『(そりゃあこの話を広げると大変なことになりますので!)聞くことが多いのですよ。さっそく深雪ちゃんサイドでは一科生二科生とでバチバチの空気が流れてましたが二科生サイドは如何だったんです?』
「こちらはエリカの行動に皆肝を冷やしていたな。二科生の間には事を荒立てたくない、との空気も流れていた。すでに一科生には敵わないと思っていたんだろうな」
「入学したばかりでも圧を感じていたでしょうね」
『この時には『お兄ちゃん呼び』の布石があったわけですね』
「ガス抜きには良いでしょう?」
『美少女渾身のボケですものね』
「こんな時から仕掛けていたとはな」
「こういう地道な工作が人に不信感を抱かせないのです」
『さて、この次はブランシュ案件に続きます。引き続きお二人ともお付き合いください。では!』

つづく


――

と、長くなりましたが、師匠登場回ですね。
糸目で坊主で最強チート主人公の師匠というさらに主人公を上回る最強キャラと設定モリモリ、皆大好き師匠。
常に発言が意味深すぎて深読みしたくなる師匠ですが、深雪ちゃんに対してスケベ心を覗かせるという…完全お兄様を揶揄う気満々に見えます。(…小野先生に何かしてるシーンを記憶していないのですが、原作に無いだけでしているんだろうか?)
師匠は別に成主妹が転生者だと見抜いたわけではありません。ただ、ただの箱入り娘には見えないな、と揺さぶりをかけただけ。
龍郎パパは出れば出るほどダメ親父ぶりが。彼にもいろいろ思うところがあるんでしょうがね。小百合さんを抑え込めればよかったんですが、この世界女性がやたら強いから仕方ないですね。
そして森崎君の一番の見せ場!お兄様との衝突シーンを潰してしまったことは申し訳ない。お兄様を風紀委員にしないためにはこの争いをしないことと、魔利先輩たちを介入させないことだったので。
おかげでお兄様は風紀委員の難を逃れました。…アレもやっかみの対象でしたからね。
二科生が非難浴びると分かっていてお兄様を矢面に立たせすぎ。実力があるからとはいえ…これでお兄様に感情があったなら不満爆発してますよ。
これからも原作クラッシュさせていきます!といういいスタートが切れたのではないでしょうか?流れは添うけど逆らえるところは逆らっていく、そんな序盤戦でした。

お読みいただきありがとうございました!

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