妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
定期試験が終わった。
途端学校中に広がる開放的な空気。クリスマスイブが二学期最後の登校日だなんて、学校がお見合い会場なんて冗談がまことしやかに流れるわけだな、なんて仕組まれてると思わなくもないけれど。
ともかく今は皆が皆、浮足立っていた。こういうお膳立てもあっていいよね。ノるノらないは別にしてもいいきっかけにはなる。
生徒会も、昨日のうちに仕事は終わっている。
特に五十里先輩は今日のためにここ数日大変そうだった。
花音先輩の期待に応えたいなんて、可憐な見た目なのに素敵な紳士だよね。
どう見ても健気で可憐なのに行動はしっかり好きな女の子のために張り切る男の子だった。良いクリスマスをお過ごしください。
そんなわけで、私たちは皆揃っていつものたまり場の喫茶店へ。今日は雫ちゃんの送別会がメインのクリスマスパーティーです。
しかもお店貸し切り。…マスター本当にいいの?クリスマスイブだよ。かき入れ時じゃないの⁇お金も、情報も。
今回の情報に限って言えば、どこよりもとんでもない情報ではあると思いますけどね。
留学の話なんて魔法師界にとってもだけど、世界情勢にとってもそこそことんでもない話だから。その情報を本人の口から聞けるのだからどこよりも情報は正確だし。
各々グラスを持つ中、お兄様はちょっぴり複雑そうなお顔。
その視線の先にはケーキ。しっかりメリークリスマスと書いてありますね。店名がドイツ語だからってこれはドイツ語じゃなくていいのか?なんて思わなくていいと思いますよ。
微笑ましくてつい笑みがこぼれる。
「深雪?」
「ううん、何でもないの」
お兄様に見られてしまった。ごめんなさい。笑ったつもりはないの。ただお兄様は真面目だなと、そう思っただけ。
首を振ると、お兄様は理由を問いただしたそうではあるけれど、手に盛ったグラスをちょいと持ち上げてみせれば、仕方がないと追及を諦めて皆に向き直って音頭を取った。
掲げられるグラスに、私たちも声を上げて。
『メリークリスマス!』
こうして宴の幕は上がった。
…なんて仰々しく言っているけど、飲んで食べて駄弁っての、いつもよりちょっと豪華版。
飲み物もシャンパンっぽいけど当然ノンアルだ。一応学生服だしね。
マスターもそういうところはきちんとした大人なのだろう。唆すこともしなかった。
雫ちゃんは来月から留学してしまうが、三か月。
次の新学期までには戻ってくることもあって、皆別れを惜しむというよりも好奇心の方に傾いている。
「ね、留学先はアメリカのどこ?」
「バークレー」
雫ちゃんが淡々と答えるけれど、皆は慣れているので特に思うところはない。雫ちゃんが気を許しているのを誰もがわかっているからね。
「ボストンではないのね」
一応私も会話に参加するのだけど、寂しさを出さないようにするのが精いっぱい。
アメリカの現代魔法研究の中心はボストンだけれど、今の東海岸はあまりよろしくない雰囲気が漂っているらしい。
一応あちらのお国にもそういったところは避ける気遣いはあるみたいでほっとした。
「ああ、『人間主義者』が騒いでいるんだっけ。最近そういうニュースをよく見るよね」
吉田くんの言葉に、私はグラスを傾けて落ち着かせる。
すでにあちらでは吸血鬼が出始めているからだろう。だからこそ程ほどに騒ぎを大きくし、魔法師を排斥しようという火種を各所で起こして人間主義者の運動を水面下で助長させる算段なのか。
やだやだあの暗躍おじちゃん嫌い!私の中の心の幼女が拒絶する。
「ああ、ニュースって無駄に煽るよねー」
「この間の議員の件で、日本の『人間主義者』の発言力は減ってたのにね」
この間の議員とは、横浜騒乱を招く原因となった港の監視を弛める法案を通した議員のことである。
実は裏で大亜連合の人間から裏金を受け取っていたとのスクープが流出したのだ。
魔法師に対して向けられると思われていた悪感情は一気にこの議員と政党に向けられた。本人は否定しているが、政党は早々にこの議員を切り捨てた。
おかげで今、日本政府は他にそういった繋がりがないかと日々マスコミに追われているらしい。人気者ですね。頑張ってください。
…でもそのマスコミが今度は平和主義の特殊な一般市民から見張られてることをまだ知らないだろうから、頑張って泳がされてね。
今こそ日本を守るため立ち上がる時ですよムーヴが密かに展開中だったり。
情報操作をする際、彼らのペンの力が強まった時が一番効力を発揮するからね。都合の良いニュースを流させるにはもってこいのタイミングを虎視眈々と狙っている――ところを狙おうだなんて本当に一般人?
彼らの狙いと行動力はどう考えても異常なくらい早いし的確だ。実は一般市民の皮を被った忍者、スパイなのでは?と疑うくらい皆隠密が得意。
いえね、アシストはうちの子がしていたりするんだけど、それにしてもそれを実行に移すなんてバイタリティがすごい。
なんかすでにアメリカの吸血鬼の話がそれとなく流れてきている模様なんだけど。早くない?とはいえ現段階は眉唾都市伝説でしかないけれど。
「『魔女狩り』の次は『魔法師狩り』かよ」
とは西城くん。うんざりだよね。勝手に人のこと異物扱いしちゃって排除しようとするんだものね。
そしてお兄様から実態は白人主義と根が一緒の忌避であるらしいと情報は修正されるが、お兄様の情報と推測もすごい。
コレ軍からの情報じゃないんだよ。今は接触禁止中ですからね。自力で調べてこれです。すごい。
「だがまあ、東海岸は近寄らない方がいいだろうな」
荒れているところにわざわざ近寄る必要はない、と付け加えた。
だそうだよ、雫ちゃん。お兄様が言うのだから絶対そっちには近寄らないでね。
傍に居られないから心配でしょうがない。
「そうなのね。知らなかった」
「活動団体のメンバーリストを眺めていると結構高い確率で同じ名前が見つかるからね。メンバーのリスト自体表で出回っているものじゃないから知らなくても無理はないよ」
…おおっと。うっかりお兄様。メンバーリストなんてどうやって一学生が目を通せると?
具体的な話が出たことで一気にきな臭い雰囲気に。
というよりお兄様かなりUSNAに神経向けてたのね。そんなところの名簿まで手を伸ばしていたなんて。
エリカちゃんが渋いお顔。確かにこの場に似合わないお話でしたからね。うちのお兄様が空気を読まずに申し訳ない。
普段はそんなことないんだけどね。話の流れでつるっと滑ったのだろう。
内情をそれなりに打ち明けていい相手に認定していると思えばいいのか。
そう思うと大分気を許しているんだなと思うけど、この話でそれを読み取るのは難しいね。
「そういえば雫、交換留学ってことはこちらに来る留学生のことは何か聞いているの?」
「同い年の女の子らしいよ」
話題を逸らすために訊ねればこてん、と首を傾げながら返す雫ちゃんかわいいね。…これが三か月も見られないの?私耐えられるかしら?
「それ以上のことはわからないか」
今度はお兄様が苦笑気味で訊ね、雫ちゃんもこくん、と頷いて答えた。
「雫と交換するのだから女の子ってことなのかしら。留学してくるぐらいだからきっと優秀な子よね」
「アメリカの優秀な女の子、ね。深雪と同等くらいだったりして」
「深雪と!?そんな子いるかな⁇」
「それは…たとえもしそんな女子がいたら本国から出さないんじゃないのかい?」
吉田くんホントそれね。雫ちゃんレベルだって外に出しちゃいけないと思うのに、スターズの総隊長御自ら来るのですって。
信じられないよね。でも皆、この可能性忘れてない?
「私よりも優秀な人が来るかもしれないわよ?」
「「「「「「「それはない」」」」」よ」です」
わあ。お兄様含めて全員の否定。でもリーナちゃんは実際私より優秀だと思うのだけど。
全力を出したって私には今のところ戦略級魔法と呼ばれる魔法はないし、そもそも実戦だったら相手にもならないのではないはず。
何せ私は実戦経験などほとんどない箱入りだ。いくら想定して訓練を積んでも所詮はその程度。戦場で鍛えられた人とは並び立てるわけがない。
もし直接戦うとなったら全力で抵抗するけどね。私の死はお兄様の不幸に繋がるので。
「むう、そんなに否定しなくても」
皆の期待が重たいですよ。私そんなにすごい子じゃありません。
もちろん自分磨きとして魔法だって頑張ってますけどね。魔法大好きだから練習も苦にならないし、いろいろできることが増えていくのは楽しいから。
否定の早さと多さにちょっとむくれてみせれば、お兄様がすかさず私の頭を撫でる。
「深雪はもう少し己を知るべきだな。お前ほど優秀な魔法師はどこの学校にもいない」
「…兄さんがいるじゃない」
お兄様の袖を掴んで抗議すれば、お兄様は苦笑して髪を撫でおろしてそのまま腰に手を回して抱き寄せる。
途端ほのかちゃんの悲鳴と美月ちゃんの悲鳴が上がる。
二種類の悲鳴が二人から聞こえたよ。歓喜と絶望。…絶望は言いすぎだね。多分混乱、動揺程度だ。
でも安心してほしい。私は彼女でも何でもない。ただの妹です。
他の四人は、と思ったらケーキ取りに行ったり食べたり、コーヒー注文に行ったり。目を外さずにいるのは雫ちゃん。黙々とケーキを食べながらこちらを見てます。
「深雪に本気になられたら俺なんて一溜りもないさ」
「それは…妹に甘い兄さんだからでしょう?」
「そんなことはない。俺ではお前に近づくことすら叶わないよ」
「嘘ばっかり。…こうやって近づくんだわ」
「深雪が許してくれるから、こうして触れられるんだ。もし許しがなければ触れることなんてできるわけがない」
…お兄様、なんのスイッチ入ったの?そしてほとんど嘘がないように話しているのはなぜ?
私が命令したら確かに触れることさえ許されないし、近づけないね。
でもそんな命令をするとしても本邸の中だけの話でしょう。彼らへのパフォーマンスでもない限りそんな必要ないもの。
そもそも私たち兄妹同士対立なんてできっこないから無意味なお話でした。
何も悪戯できないよう裾を掴まれ腕を片方封じられているからといって、空いている手で妹の腰と背を撫でるのはどうかと思います。
かといってこの手を解放したら、自由になった途端頬を撫でまわされるんですよね。
どっちが見た目的に問題ない?ちなみに腰は皆から見えてないものとする。…うん、どっちもアウトです。お兄様ストップ。
「もう。のどが渇いたわ」
「次は何を飲みたい?」
するりと手が離れました。よかった。私も裾を離してほっと一息。――するのはちょっと早かった。お兄様が一瞬身をかがめて耳元で囁く。
「続きは家で」
…拒否権無しです?お兄様は私が飲みたいモノも聞かずに行ってしまった。
まだ何か話すことってあったかな?
途端ほのかちゃんが真っ赤な顔のまま私に駆け寄ってきた。
そして耳に手を当てて内緒話のポーズ。
「な、なんて言われたの!?」
恋する乙女は気になりますか。
「続きは家で、だって。まだ何か話す気なのかしら?」
同じポーズで素直に答えればほのかちゃんはぼん、と音が鳴ったように真っ赤になって呆けてしまった。
えっと、何を想像したらそんなことになるの?私にはまだ注意されることがあるんだ、と今から戦々恐々なのだけど。
「ほのか大丈夫?冷たい飲み物でも持ってくる?」
「――深雪、ごめん。ほのかは私が引き取るから」
あら雫ちゃん。本日のゲストなのに主賓にお任せしていいのかしら。
「深雪は慣れてるかもしれないけど、ほのかにはあの達也さん、乱心事件以来の衝撃だから」
「……ああ。あの悲惨な事件ね」
そうだった。学校では人前で抱き寄せるなんてほとんどしないお兄様でした。
乱心事件と呼ばれるあの期間、何があったかは詳しく知らない。
ほのかちゃんや七草先輩がどんな被害を受けたのかも聞いてない。
けど、私と食堂でやったやり取りだけでも、十分お兄様には夜の帝王味ありましたもんね。
さっきの腰抱きと低めの声はあの時を彷彿とさせてもおかしくない。
どう見てもお兄様そっち系の手練れにしか見えない。
知らないところで特殊な訓練を受けてます(意味深)、だったとしても私はおかしくないと思ってます。お兄様にはけして言えないけど。
そしてほのかちゃんは雫ちゃんに連れられて座らされ、水を貰って一休みさせられていた。
雫ちゃんって面倒見がいいよね。やっぱり下の子がいるお姉さんだからかな。
一人で寂しいので、さっき喜びの悲鳴を上げていた美月ちゃんの元へ。
若干まだ頬が赤くお目目がキラキラしてます。可愛いね。少女漫画好き?私も好き。…対象が自分でなければなおのこといいなぁ。
「どんな子が来るのかしらね」
「雫さんが知らなければ、私たちには知りようがないですもんね。考えてみたら交換留学だから、二人が会うこと自体ないのかもしれませんよ」
「!それは、そうね。言われてみれば」
会うことのない相手を学校側も説明することなんてないだろう。雫ちゃんが聞かない限り教えることもないだろうしね。
女子だって聞けただけ情報を貰った方なのかもしれない。
「三か月ですけど、仲良くなれたらいいですね」
「せっかく来るのだから、いい思い出になってくれればいいわね」
この時はまだ、スパイだなんだ、という空気は流れていない。いくらタイミング的に疑わしいとはいえ、まだ現実味がないのだ。
…エリカちゃん辺りは考えてそうだけどね。
「深雪」
お兄様が手に持ってきたのはシャンパンゴールド色をした炭酸のりんごジュース。
シードル風に作られてるのか甘みのほとんどない、すっきりとした味わい。に、ちょこっとはちみつの味が。
お兄様が頼んで入れてもらってくれたのかな。
「ありがとう」
お兄様は微笑んで返し、皆と話に戻っていった。
こうしてクリスマスパーティーは賑やかに過ぎ――夜を前に解散することになった。
エリカちゃんがマスターに悪いし?と揶揄ったのはご愛敬。
クリスマスイブだし、帰り道、送ってくれた男の子と~、なことが起きてもおかしくないのだけれど、皆まだその空気じゃないみたい。
美月ちゃんと吉田くんなんて結構いい雰囲気だと思うんだけどな。エリカちゃんたちも。だけどこういうのは強制でなるものでもないしね。
…ほのかちゃんは若干そわそわしてる。
今日はプレゼント交換しないことをはじめから決めていたから恐らくそういうことじゃないと思う、のだけど。
「ほのか達も気を付けて帰れよ」
お兄様の声かけに、表情は嬉しそうなのに、見えない尻尾がしぼんでいくのが見えるね。送ってほしかったのかな。
雫ちゃんが一緒だけど、それでももう少し長く一緒に居たかったという複雑な乙女心の模様。
かといってここで私が口出ししても良いもの?と雫ちゃんを見れば小さく首を振られた。しない方がいいそうです。
ありがとう雫ちゃん。以心伝心で嬉しい…けど。
「雫…寂しくなるわ」
「まだ行かないよ。でも、うん。私も深雪と離れるの寂しい。向こうに行っても連絡していい?」
「もちろん!」
雫ちゃんが両手を広げてくれたのでぎゅっと抱きつきに行く。
コートに阻まれて着ぐるみに抱き着いているような感覚だけど、ここまで気を許してくれていることが何よりも嬉しい。
「…深雪」
おっと、こんな寒い中二人を放置もよくないね。
お兄様の声が気付かせてくれました。
電話では話すかもしれないけれど、こうしてゆっくり対面で会えるのは多分これが最後だから年末の挨拶をして別れた。
次は空港でのお見送りかな。…笑顔で見送れるか今から心配だ。
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