妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

81 / 265
来訪者編⑤

 

 

家に入るとお兄様は素早くコートを脱いで、私を見る。

…コート脱ぐのが遅くてごめんなさい?ようやくボタンを外し終え、コートを脱ぎ終えるとシュバっと取られてハンガーにかけられハグされた。

ううん?なにかありましたお兄様?

 

「深雪は随分、雫との三か月の別れが辛そうだな」

「う…三か月だとわかってはいるのですが…寂しいです」

 

何かあったのは私の方で、お兄様はそれを慰めてくれているらしい。うう…流石お兄様、妹の些細な変化も見逃さない。気遣いが手厚い。

 

「雫のいない分、精いっぱいお前を甘やかすとしよう」

「…もう十分甘やかされてますのに」

「俺がしたいんだ。お前の寂しさを埋めてやりたい」

 

…お兄様、そのセリフ…彼氏に振られた女の子に付け入ろうとする片思いの男の手口のようですよ。

お兄様は善意で言ってくれているのだろうけど、誤解を招くね、普通なら。

でもこうして気にかけてくれるのは、嬉しい。

 

「ありがとうございます」

 

お兄様の胸に頬を摺り寄せて抱きしめる。

まだ暖房で温められていない家は閉め切っていても外気に冷やされ寒いもので、コートを脱いだ今、お兄様の腕の中が温かい。

 

「やはり冬はいいな。深雪が自分からすり寄ってきてくれる」

 

くすぐったいのか、お兄様がくすくすと笑いながら言う。

 

「普段懐かない猫ですか、私は」

「俺としてはじゃれついてくれる子犬も嬉しいが、そっと懐に入ってきてくれる子猫も捨てがたい。どちらでも深雪なら大歓迎だよ」

 

じゃれつく私…それは内面のオタク部分の私ですかね?

表には出せませんよ。お兄様にぶんぶんしっぽ振っているのを見せるくらいならセーフかもしれないけれど、ぺろぺろ嘗め回してしまいそうなので自重させます。ステイ。お前は絶対に出てきちゃダメな子です。

お兄様も餌のやりすぎには注意してください。すぐお兄様にお腹を見せて餌を催促するタイプの子ですので。

 

「お兄様はどんないたずらも許してしまう、甘やかすダメ飼い主になりそうですね。ペットならちゃんとしつけないと悪さばっかりしますよ」

「…それはそれで見てみたいね。一体どんな悪さをするんだい?」

 

…なんでダメ飼い主って言われて色男モードになるですかねお兄様?

頬を撫でるからの顎を掬い上げる一連の流れが実にスムーズ。

しかし、悪さ…しつけられてないペットのする悪いこと?

 

「噛みついたり、引っかいたり?」

 

初めの頃は手加減もわからず、甘噛み覚えるまでは本気で噛んできますからね。彼らも必死ですから。

 

「深雪が与えてくれるならどんな痛みも享受してしまいそうだな」

 

飼い主あるあるでもある思考だけど、痛いものは痛いのですから我慢しないでちゃんと注意しないと。後々大変なことになりますからね。

助長させないことが肝心ですよ。

 

「お兄様に飼い主の適正はなさそうですね」

「残念だ」

 

言葉の割には嬉しそうなお顔ですね。

そろそろ手を離してほしい。顎の下を撫でてもごろごろ鳴いたりしないけど、背中がぞわぞわします。

低い声もおやめください。心臓が悲鳴を上げています。くすくす笑いがいつの間にかくつくつ笑いに。

外が夜に変わったからですかね。お色気魔人のお兄様はお帰りください。

 

「そろそろ上がりましょう?いつまでも制服のままでは寒いです」

「そうだな」

 

離れたことで冬の寒さを思い出すけれど、今は熱を引かせてくれるこの寒さがありがたい。

お互い部屋に戻って着替える。

冬の装いはいい。もこもこ系が好きな私は着心地と触り心地優先で好きな服を選べる。

露出なんてほぼない冬の恰好だ。お兄様の目を気にしないで好きな服を着られる。

今日は赤と緑のチェックのロングスカートに白の毛糸の模様の可愛いセーターにしよう。靴下も焦げ茶色。

これ以上ないくらいクリスマスカラーのコーデ。今日しか着れない組み合わせだね。

喫茶店でチキンも食べたので夕食は入りそうにない。

けれど軽食なら、と一口サイズのサンドイッチと紅茶を。塩気のある生ハムと、オリーブがいつものサンドイッチとは違うところか。

 

「可愛いクリスマスツリーだね。どんなオーナメントで彩ろうか。飾りつけ甲斐があるね」

 

…今日はもうそのモードのままなのです?素敵ではあるんですけどね、落ち着かない。

隣に立ってひと褒めしたお兄様はサンドイッチをテーブルまで運んでくれる。

息を吸うようにお手伝いしてくれるお兄様。助かります。

 

「ありがとうございます」

 

でもお礼は欠かせないので言わせてくださいね。

一通り並べて紅茶も注ぎ終えて座ったところでお兄様が立ち上がり、私の後ろに回る。

 

「お兄様?」

「俺はダメ飼い主らしいから子猫に首輪は付けてあげられないけど、兄としていつもいい子にしている妹にプレゼントを贈るくらいはさせてもらえるかな」

 

そう言って私の首の前に手を回し、ちゃり、と金属の輪をかける。

胸元には、リボンの形をした可愛らしいペンダントトップにひと粒きらりと輝く薄紫色の石…アメジストですね、天然物に見えるのは気のせいかな。

石言葉は確か愛情や高貴、誠実、心の平和でしたっけ。効果として心を落ち着かせるとかもあった気がする。…荒ぶる心を鎮め給え、ってこと?流石にそれは穿ち過ぎか。

デザインも可愛らしく、女子高生が普段使いできそうなところもまた気遣いを感じる。

 

「…可愛い。嬉しいですお兄様。ありがとうございます」

 

ネックレスに触れながら振り返り、お兄様を見上げれば、お兄様も満足そうに微笑まれた。

 

「喜んでくれてよかった。安心したよ」

「お兄様が選んでくださるものに間違いなどございませんもの。…なんて。お兄様が私に選んでくれた、それだけでも十分嬉しいのです。私のためを思って選んでくれたことがわかるから。だから、ありがとうございます」

「…うん」

 

お兄様は少し照れくさそうな笑みに変わって年相応の表情を見せた。

瞬間騒ぎ出す心音を聞かれまいと、私も隣の椅子に用意していたプレゼントを差し出す。

 

「お兄様にプレゼントを頂いた後にお渡しするのもお恥ずかしいのですが」

 

用意したものは手作りのモノなので、なんというか、恥ずかしいやら申し訳ないやら。

ネックレスに釣り合ってないように思ってしまう。

お兄様は気にしていないと壊れ物を扱うようにそっと受け取ってくれた。

一枚のハンカチに包まれた、この秋摘んだバラで作ったポプリ。サシェの外側のレースの袋も手で編んだモノ。

 

「いいのか、俺が貰っても」

 

お兄様のこの言葉の意味は、毎年同じものを母にプレゼントしていたから出たのだろう。それを今年は自分が貰ってもいいのか、と。

バラを育てていることに意味はなかった。ただ、庭に花が無かったことが寂しくて。それで何か育てようと思い立ったのだけど、どうせ育てるなら母に似あう花を、と目についたのが可愛らしく咲く四季咲きのバラだった。

香りもいいとあったから、ポプリにしても面白そうだ、と。

母は思いの外そのバラを気に入ってくれて、季節を終えて摘んでおいたバラの花を乾燥させてポプリにし、プレゼントしたのがきっかけで、それから毎年送り続けた。

そんな思い出のあるポプリを今年はお兄様へのクリスマスプレゼントに選んだのは、もちろん代わりに受け取ってもらおうなんてことではない。

本命のプレゼントは他にある。

 

「今年はちょっぴり工夫を凝らしてみました」

 

お兄様が摘まんでいたポプリを裏返して、お兄様に見せたのは精油の入った小瓶。

 

「バラのエキスを抽出したのです。――魔法を使って」

 

知恵を絞りまくりましたとも。

ただポプリを作って渡すだけでは面白味が無いと、何かひと工夫したいと思い立ち、考え付いたのがお兄様に構成してもらっている魔法式を駆使して、蒸留装置も使わずに作るという途方もないプロジェクト。

本当はもっと簡単にできるかな、と軽い気持ちで始めたんだけど…自分が凝り性だってこと忘れてた。

香りが思ったより出ない。色が変質してしまう。もう少し甘さを控えめにしたい等など。試行錯誤しまくりましたとも。

そしてようやく納得いくものができたのが二日前。…もうね、間に合わないかと思った。

理屈ができたなら、新鮮なものをお渡ししたいから、とお兄様が今朝のお勤めに行った時に作りました。出来立てほやほや。鮮度抜群です。

 

「…深雪さん。俺の眼が間違っていないなら、インフェルノを使っていないか?」

「頑張りました!」

 

いやー。インフェルノって案外小規模でやろうとすると大変だった…。

分離ももっとスムーズにできると思ってたし、香りを定着させるのもお兄様みたいに分子レベルまで分解できればもっと簡単に撹拌できただろうけど、どうあがいても無理でした。難しいね、魔法って。

 

「確かに、これは俺用のプレゼントだな」

 

お兄様がしげしげとポプリを、というより小瓶を見て面白そうに目を輝かせた。

魔法をこんな風に使うなんてお兄様じゃ考えられないだろうからね。謎解きと驚きをプレゼント。

と言ってもお兄様の眼では一発でばれてしまうのだけど。

 

「深雪は俺の予想もつかないことをやってのけるな。この発想はなかった」

「お誉めに預かり光栄です」

 

…誉められてるよね?裏ないよね⁇変人扱いされてない?大丈夫⁇

でもお兄様笑ってるし、大丈夫だと信じたい。

 

「それにこのハンカチの刺繍も深雪が?」

「はい」

 

ただ包んで渡すのも、と思ったのでくるむハンカチにも刺繍しました。

 

「この花は、よく深雪も育てていたね」

「ペチュニアです。長い間花を楽しむことができますし、色も豊富ですからね」

 

ラッパ型の花が可愛いよね。好きですよ。花言葉は心の安らぎです。お兄様に必要なもの。お守りとして持ち歩いてほしい。

…流石に色別はお兄様も調べないと思ってるけど、赤と紫、そしてこっそり白も添えてみたり。

赤は『決して諦めない』。お兄様を絶対に幸せにして見せるという私の決意表明。

紫は『追憶』。優しい思い出を時には振り返ってみてほしい。

そして白は――『淡い恋』。…これは私がお兄様をお慕いしているという意味ではなくて、お兄様に向けられている恋心に気付いてあげて欲しいという思いを込めました。

 

「お兄様の心の安らぎを祈って一針一針気持ちを込めさせていただきました」

「それは、なんとも効果がありそうなお守りだね」

 

…微々たるものだと思います。お兄様のこれからの心労を思えば。焼け石に水?

お兄様頑張って!そんな気持ちの篭ったハンカチです。ぜひ使ってね。

 

「俺の方が釣り合っていないような気がするよ」

「そんなことありません!とても気に入りましたもの」

 

互いが互いを想って贈り合えるって素敵だね。

こうしてプレゼント交換も無事終わり、サンドイッチを摘まみ合う。

 

「雫と交換留学してくる女子生徒ですが、私は仲良くしない方が良いのでしょうか?」

「A組に来て深雪が話さないというのは不自然だからな。普通に接していいと思うぞ」

「そうなるとやはりお兄様のところにも連れて行くのは自然の流れですね」

 

どうあってもお兄様と会わせないルートはない。

兄妹が揃って容疑者にされるなんて、そんなに怪しかっただろうか私たちは。なんて、三年前のこともあるからね。絞られるのもおかしな話ではない。

 

「喫茶店の話の続きだが、工作員ならば実力はほどほどに隠すだろうから、深雪と同等ということにはならないだろう」

「そう、ですか」

 

リーナちゃんは互角だったはず。アメリカは実力を示さないと舐められるから、抜きに出ないくらいであれば隠したことになるのかな。

深雪ちゃんとの校外での一騎打ちの場面では、お兄様が限定解除してくれたからこそ力が拮抗できたわけだし。

 

「あまり納得いっていないようだね」

「雫と交換留学してくるような実力者、という思いが強いのかもしれません」

「随分と雫を評価しているね、深雪は」

 

お兄様はちょっと呆れた表情。…雫ちゃん贔屓が凄いとでも思っているのかもしれないけれど、雫ちゃんの急成長っぷりは本当にすごいですからね。

九校戦に出場した後も更に魔法に磨きがかかっている。

きっと今でも二つのCADを使う練習しているんだろうな。

 

「それにお兄様を探りに来るくらいの実力者なら、相当の手練れであってもおかしくありません」

「俺の評価もかなり高くしてくれているようだが、工作員自身は隠密能力の方が高いんじゃないか?学校内で仕掛けてくるとは思えないのだが」

 

防犯カメラもあるし、魔法を使えば記録が残る。

アメリカの学校ではないのかな?そういうシステム。…そんなことないと思うけど、お仲間が証拠隠滅してくれるから残すようなことがあっても大丈夫なのか。

 

「そもそも深雪、あの時も言ったけどお前ほど優秀な魔法師は、高校どころか大学でもいない。魔法師全体を括りにしてもお前の実力はトップレベルだ」

「…それは、流石に言い過ぎでは…?」

 

お兄様の身内贔屓が凄い。

確かに深雪ちゃんのポテンシャルはとっても高いですけどね。まだ高校生ですよ。

 

「能力の高さ、技の練度、精度。そしてまだ成長できる伸びしろがある。…深雪は俺や師匠、あとは四葉くらいしか知らないから勘違いもするのか…?だが、九校戦で圧勝していただろう?」

「九校戦はスポーツではないですか」

 

戦場じゃないもの。比べるステージが違います。

 

「まあ、そうなんだが。…困ったな。お前が戦場に立つことはないから実感することができないのか」

 

…なんか、箱入り娘に思われてますね。でもそうね。事実桐箱とシルクで包まれている箱入り娘ではありますか。お兄様と四葉に守られているという意味では。

そこに否定できる余地はない。

 

「なら、外を知る良い機会かもしれないね。一度全力でぶつかってみればきっとわかるよ。交換留学生には悪いが、深雪の的として頑張ってもらおう」

「的って、お兄様…」

 

確かに現在実技で対戦できる相手がおらず、教員も困ってましたけど。

…でもリーナちゃんなら問題なく受け止めてくれるだろうし、お兄様が言うようなことにはならないと思うからいいのかな。

 

「逆に私の方がコテンパンにされてしまうかもしれないですよ?」

「それはない。絶対にだ」

 

お兄様の力強い断言。お兄様にここまで言われれば、私も自信に――っていうかやる気を出さないとね。

 

「分かりました。お兄様のご期待に応えてみせます」

 

この冬休み、どこまで鍛えられるかわからないけれど、やってやりますとも!

 

「その意気だ」

「ではさっそく明日から一緒に連れて行ってくださいませね」

 

朝の修練に参加の旨を伝えれば、お兄様は――ん?何故眉をお顰めに?

 

「クリスマスに師匠のところへ行くのか?何か持っていくつもりか?」

「え?ええ。去年はクッキーを持って行って貰いましたが、今年は直接お渡しできるのですね。プチシューをいくつも作ってツリーのようにして渡したら驚かれますでしょうか?」

 

可愛いよね、クロカンブッシュ。皆で分けるにはもってこいだし。積み上げるのが大変?そこは便利な魔法というものがあってだね?

この後から準備すれば間に合うだろうか。

ウキウキして構想を練っていると、お兄様は更に渋いお顔。

 

「去年同様クッキーでいいじゃないか」

「そちらの方がお日持ちはしますけれど、私も行けるのでしたらクリーム系もいけるかと」

 

天然の保冷剤です。季節は冬でも必要だよね。それにお兄様に積み上げさせるのは悪いし。

一体何がご不満です?お兄様。

 

「…あまり師匠を喜ばせすぎるのはな」

「喜んでいただけますでしょうか?子供っぽくて呆れられてしまいそうですが」

 

先生は大人ですから笑ってお付き合いしてくれそうではありますが。

最終的に私が楽しそうだからいいか、というお兄様の謎理論が展開され許可が出た。

無理やり納得させる時によくその理論が出ますよね。

 

こうして私たちの夏とあまり代わり映えのないスケジュールの冬休みが始まった。

 

 

NEXT→

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。