妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
パラサイトってどうして夜に活発に活動するんだろうね。昼間も動けるのは数日後判明するのだけど、彼らも昼間は動きづらいって認識があるのかな?それとも宿主の記憶がそうさせているのか。
夕食を終えて、お兄様はさっそく独立魔装大隊から共有してもらった情報を大型スクリーンに映して見ていた。
三面フルに使っての監視網だ。どうやってこれだけの情報を盗み見ることができるのかさっぱりわからないけれど、とにかくすごい情報だということはわかる。
…小並感しか出せなくて申し訳ない。いつも情報ばかり貰ってる人間です。大変な思いをして探ってくれる皆、ありがとう。感謝してます。
「スターズはパラサイトを探知する、我々より優れた技術を持っているようだな」
ぽつりとこぼれた言葉には感心したという色が見えた。
それと同時に興味も強く湧いているようだ。出し抜かれている口惜しさと、一体どのように探知しているのか、何が違うのか気になっているのか。
こういう研究気質なところは四葉を思い起こさせる。
お兄様、自身では気づいてないだろうけど、濃く血を継いでますよ。口にしたらなんとなく落ち込みそうなので言えないけど。
「だが、今はそんな場合じゃないな」
言葉に出さないと切り替えられないほど強い関心を持っていたのね。こういうところを可愛く思えてしまうのは妹の欲目か。
「行かれるのですね。お気をつけて」
立ち上がるお兄様を見上げてから、続いて立ち上がり頭を下げてから背を伸ばして正面から見ると、お兄様は今朝見せたのと同じ苦笑顔で。
「やはり深雪は聞き分けがよすぎる。…甘えさせてやれなくてごめんな」
すり、と頬を撫でられる。
…だから、そんなにキュンキュンさせないでほしい。それに私は我慢なんてしているつもりもないのだけど、何がそう思わせているんだろう。
「お兄様は十分甘やかしてくださるじゃないですか。これ以上は望み過ぎというものです」
「…もっと欲しがってもらえるよう精進するとしよう」
精進って、そんな集中して磨こうとしないで。その技術は十分トップクラスなんだから。お兄様力世界一で満足してください。
CADだけでなくいろいろ装備していくお兄様に、私は用意していたハンカチを左腕に巻き付けさせてもらう。
「これは?」
「まだ完成ではないようですが、試供品みたいなものらしいです」
さっそく立ち上がったプロジェクトでまず作ったのが、このハンカチ状に編み上げた特殊金属の防護布。
どれだけ効果があるかわからないけれど、とりあえず試作品として届けられた。
ちょっと固めの布地といった触り心地だけど、こうして巻き付ける分には普通のハンカチと変わらなく思えた。
…これには期待していたナイフのような切れ味はないらしい。残念。というよりスカーフにナイフの様な切れ味って危険だよね。
確かピアノ線みたいなのが一部に織り込まれているから、その切れ味が生まれるらしいけど。
それはまたの機会に研究してくれるそう。まずは防具を重点的に、とのこと。
プロジェクトの主軸となった男は、ちょっとばかりねじの外れたマッドサイエンティストのようで、与えられたオモチャを寝食忘れて弄っているらしい。
無理やり食べさせたり休ませたりしているみたいだけど、四葉の研究所って施設としては最高峰だからね。
今までできなかったことができてはっちゃけているみたい。楽しそうで何よりだ。
これが強制労働だったなら力づくで止めてもらうが、楽しんでいる分には好きにさせてあげよう。
「私はいつでもお兄様のお傍に」
心だけでも、と思いを込めてそのハンカチに口付けて。…恥ずかしいパフォーマンスだけど、お兄様を実験体にしてるみたいでちょっと気が引けたので。
お兄様喜んでくれるかなー、と思って顔を上げるとちょっと驚いた顔の後――わあ、珍しい。少しだけだけど頬が赤い。照れた表情。
すぐに口元を手で覆って隠しちゃったけど、細められた目元も赤みが差している。
「…お兄様でも照れることがあるのですね」
「俺を何だと思っているんだ。こんなことまでしてもらったら俺だって照れるさ。これでも抑えている方だ」
抑えられるってすごい。私なんてした側だけど頬の緩みが抑えられてない気がするのに。
抑えてなかったらどんな表情が見られるのか気になるけれど、今はそんなこと気にしている場合でもなかった。
「お兄様、気を付けて」
「行ってくる」
玄関まで見送って、いつもより名残惜しそうなお兄様の目に少しだけくすぐったさを覚えつつ、私はリビングに戻る。
だがモニターを起動させるようなことはしなかった。机を片して、部屋に戻って出かけられる服装に。
激しく動くことのできる恰好をチョイスしてからあのハンカチと共に届けられたアイテムを吟味する。
持ち運びできるいくつかのモノをポーチに入れて、もう一度リビングへ。
今度は自分の端末にある資料に目を通す。
四葉の動きは叔母様が指揮しているので私は関われない。確かすでに黒羽のおじ様が動いているはず。
この時はまだ排除を急かせるような段階ではないけれど、リーナちゃん自身がすべてを始末せずに済むことはいいことになるのかな。
――彼女に仲間殺しは荷が重すぎる。
(…リーナちゃんには悪いけれど、私は貴女を――)
これからのことを思うと罪悪感が募るけれど、この流れはやはり変えられない。
大まかな流れは変えないけどお兄様の正体についてはぜひ誤魔化されて欲しい。パラサイトの件は収拾付く形にはなるはずだから。
総隊長って立場なのに尻拭いに駆り出されて大変だよね。やった本人たちがちゃんとケリつけてくれればいいのに。
対抗意識で検証のされてない実験になんて手を出すからこんなことになるのだ。
(あらら。あちらの国の人間主義者が水を得た魚のような動きになってるね)
日本で吸血鬼事件が報道されてから、ネット上で噂されていた怪事件が真実味を帯びたようで、日本よりも日付が早かったことから、アメリカの吸血鬼が日本に渡って事件を起こしているのではという話になっていた。
うーん、噂の方が情報正確。一般市民の正義のジャーナリストって損得考えないから真っ当なこと考えてたりするのよね。とはいえ今でも炎上系はいるけれど。
でも吸血鬼と魔法師を同列化して排除しようの動きはおかしい。どのあたりがそれを言ってるのかと探れば、いつかお兄様が言っていたように同じ名前がちらほらと。
…これが本人とは限らないけれど、他国をこれ以上探るのも面倒だしね。こういう情報、これから繋ぎができる四葉からスターズへの手土産にならないかな。
と、そんなことを考えていると来客を知らせるチャイムが。――お迎えが来たようだ。
「少々お待ちいただけますか、先生」
準備万端で待ち構えてました、とは言えないので少しだけ先生に待ってもらいながら気合を入れる。
この後に控える戦いは高い集中力を要求されるだろうから。
今まで私が対峙してきた相手は確実に私より劣る相手だけだった。もちろん先生やお兄様たち訓練相手は除く。
横浜の陳の場合は闇討ちだからこれまたノーカンとする…けど多分技術は別だけど能力だけで言えばあっちの方が劣っていただろうな。深雪ちゃんはスペックチートだから。
だけど、これから対峙するリーナちゃんは違う。学校では差があったようだけど、制限のない彼女はおそらくだけど、私より強い。
でなければ彼女はもっと私に警戒するはずだから。彼女の中で私はまだどうにかできるレベルなのだ。
「お待たせしました」
電動四輪に乗り込んで都心のハイウェイを滑るように走る。
この時代の自動車は揺れが無く、外の景色も星の瞬きのように流れていくのが幻想的だ。静かなキャビンの後部座席に並んで座る九重先生に、私は持ってきていた袋を差し出した。
「こんな時にですが、こちら焼き菓子の詰め合わせです。よろしければ皆様でお召し上がり下さいませ」
「これはまた。美味しそうだね。ありがたく頂戴するよ」
正しく袖の下である。お坊さんによくないけれど、こういった心付けはさせて戴きたい。先生もそれがわかっているのか笑みを浮かべて受け取ってくれた。
「しかし、深雪くんは驚かないね」
「そんなこと御座いません。本来でしたら私ひとりで行くつもりでした」
「それはまた、達也くんが怒りそうだね」
「ですので先生の来訪は私にとって渡りに船だったのです。焼き菓子については、近々赴く予定でしたので。焼いた日にお渡しできてよかったです」
先生はふぅん、と意味ありげにこちらに視線を向けたまま顎を擦る。
…似合いますね、その仕草。ドキドキ胸が高鳴ります。色々バレてるんじゃないかって恐怖で。
「あの、先生。どうして今回はお力を貸してくださるのでしょう?俗世間に関わらないことを戒めにされていると記憶していますが」
とりあえず原作の流れに戻してみるけれど、先生は面白そうに笑っているばかり。
「今回はチョッとばかり事情があってねぇ」
わかるだろう?と口元が吊り上がって見えるのは気のせいですかねぇ?!読心術お持ちなの!?最強は持ってるスキルだよね。
でも先生は優しいのでいろいろ事情を搔い摘んで教えてくれました。
リーナちゃんの使っていたパレードは門外不出の秘伝が含まれているので使用するなら釘を刺さないと、ってことらしい。
あのお兄様をも欺く術だからね。相当すごい秘密が隠された術なのは確実だ。
それがアメリカで使用されまくっているとなれば気が気じゃないか。日本に来てくれてよかったね。
これで情報開示なんてされようものなら師匠も渡米しなくちゃならない事態になったりするのかな。門外不出ってそういうことでしょう?お口チャックを物理で的に。
秘術と忍びってそういう怪しさあるよね。それもロマン。
だがら先生が飄々としながらも醸すこわぁい空気に、がたぶるしそうになるのを抑えつつ運転席のお兄さんを見る。
お弟子さんのお兄さんも肩を強張らせてます。ううん、すごいプレッシャー。
この後リーナちゃんもこれを受ける事になるんだよね。
リーナちゃん、頑張って。
――
先生たちはどこからどのように情報を得ているのですかね?
音もなく車が到着。
ナビなんて見ていなかったのに初めから分かっていたかのように進み、周囲に人もいない、何もない場所に。
ここが目的地で間違いないらしい。
ちょっと離れたところから鋭いプレッシャーとぶつかり合う物音が。
戦闘の空気ってこうして肌で伝わってくるのでわかりやすくて助かるね。
ありがとう、深雪ちゃんのパーフェクトボディとその能力にはいつも助けられています。
集中してその先を窺うように意識を持ってみれば、ぱちぱちと静電気みたいなものと温かな火を僅かに感じる。リーナちゃんの得意魔法かな。
流れてくるサイオンがどんな魔法を使用したのか教えてくれた。
聞こえてくる複数の人の声がかすかに聞こえる。ということはすでに一戦交えたということ。
リーナちゃんの魔法が使用されて直後でもないのに、この場にこれだけ情報が残っているなんて、ものすごい威力だったと物語っている。
今の私は中程度にしか精度は上げてないのに、集中したとはいえ僅かにでも感じられるなんて。
見える距離まで来ると、ちょうどお兄様が偽物の警官の恰好をした男を一人地面に沈めたところだった。
冷徹に相手を躊躇なく蹴り飛ばすお兄様かっこいい!
こんな場面だっていうのにどうして煩悩って消えないんだろうね。結構な音がしました。
そのまま攻撃を食らい、顔面が陥没しててもおかしくないくらいなのに、そんな悲惨な場面を目撃しても思うところがお兄様かっこいいだなんて。私の脳はお花畑だね。
ある意味幸せなのでこのまま修正せずに行こうと思う。
倫理観?そんなもの大事に持ち続けてたらこの世界で生き抜くのは大変ですよ。
身内に甘く、敵には厳しく。
だから――目の前で互いに銃とCADを向け合う二人と、そのお兄様を取り囲む偽警官三人の姿に、お兄様がまだ話を聞きたそうだけれど抑えきれなかった。
この、胸の内に宿った激情を。
「…さようなら、タツヤ」
「そんなことさせないわよ、リーナ!」
リーナちゃんが反射で飛び出した私に視線を向けると同タイミングで、男たちがお兄様に襲い掛かる。
けれどリーナちゃんがいなければあの程度の敵にお兄様が手間取ることなどない。
リーナちゃんがこちらに左手を向け起動式を展開するのを、男達を打ち倒しながらもお兄様が見逃すはずもなく、敵に背を向けてでも術式解散できっちり打ち砕く。
お兄様がリーナちゃんを抑えてくれるのなら、お兄様の背を守るのは私の役目。
今にも襲い掛からんとする男の前に冷気の壁を構築する。
急に出現した氷の壁に慌てて急停止する男を、声も出させることなく昏倒させる先生。その姿、正に忍び寄る者。かっこいい。瞬殺です。
「いやぁ、達也くん、危ないところだったね」
「白々しいですよ、師匠。隠れて出番を待っていたくせに」
…この会話、めっちゃときめかない?互いが互いに分かり合ってるところがグッド。
そしてごめんなさい先生。もうちょっと後に出たかっただろうに。
お兄様ももう少し話を聞きだしたそうだったのに、己を抑えきれず申し訳ないです。
リーナちゃん、驚いた顔も可愛いね。
CAD向けたままで悪いけれど、お兄様も右手を向けたままだし、先生だってお兄様に顔を向けていてもリーナちゃんをしっかり視界に収めてますね。怖い布陣だ。逃げられない。
「まあ良いじゃないか。君もいろいろと訊きたいことがあったみたいだし」
「…出しゃばった真似をして申し訳ありませんでした」
視線は
敬語になってしまったのは、先生の前で取り繕うのもおかしな気がしたのでいいかなって。
でもお兄様呼びはやめておいた方がいいのかな。
どうしよう。呼ばなければおかしく思われないと思うのだけど…。そこまでは考えてなかったな。反省。
「謝ることなどないよ。実際危なかったのは確かなんだから。ありがとう」
優しい声色だけど表情厳しくリーナちゃんを見据えているお兄様器用ですね。優しくフォローまで。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
ここで謝るのもおかしくなってしまうので大人しく口をつぐんだ。
「それに訊きたいことはこれから訊けば良いだけだしな」
それからリーナちゃんとの問答が始まる。
不利な状況でも毅然と立ち向かうリーナちゃんは修羅場をくぐってきた歴戦の戦士なのだろう。総隊長の名は伊達じゃない。
時折綺麗事で正当性を主張するけど、お兄様にはお為ごかしは効かないからね。
一対三が卑怯だって言うけど、その直前数人で囲んでたのはとんでもないブーメランでは?
ちなみにお弟子さんはカウントされてない模様。もしや気づいてないのかな。
姿は見えていないけど、気配探れば先生ほどではないから感づけるはずなんだけど。思ったより余裕がないのかもしれない。
リーナちゃんが逆上するよりも早くお兄様が身も蓋もない発言をして、今度こそ逆上するリーナちゃんだけど、そうすることによって奮起しているようにも見える。
怒りは原動力だから。先生は噴出して笑ってますね。楽しそう。余裕ある大人は違うね。
でもリーナちゃんの日本人差別ともとれる発言に、先生は鋭く彼女のルーツに切り込んでいく。
そうだね。先生の目的これでしたものね。
そしてお兄様は提案する。
フェアとは名ばかりの一対一の勝負を持ち掛けたのだ。
そしてそれを了承するリーナちゃん。
…こういうところも諜報には向いてないよね。諜報の人ってこういう言葉の裏を読めないといけないから。
彼女の場合、力づくで勝てば問題ないとでも思ったかな。
さっき戦った時に勝てると確信でもしたのか。だけど彼女は忘れていないだろうか?
お兄様がきわめて怪しい候補として、アンノウンの戦略級魔法師か確認するために派遣されていたはず。
隠し玉があるかもしれない可能性抜けてない?それともそれを御せるだけ己の力を過信してる?だとしたら――
「いいわ」
「待ってください」
条件を呑むリーナちゃんの言葉に重なるように待ったをかける。そのせいで彼女が鼻白んだが、気にすることなく私はお兄様に向き直る。
「リーナとの勝負、私にさせてください」
「ミユキ、アナタ何を…」
お兄様と見つめ合う視線を断ち切って、今度はリーナちゃんと視線を合わせた。
彼女は綺麗な表情を歪ませてこちらを見ている。疑っているような眼差しに、気分も害しているのかもしれないと思うけれど、ここは私も引き下がれない。
「リーナ、貴女は私の友人であり、ライバルだと思ってる。だけど私の目の前で傷つけようと、――殺そうとしたことを見逃すことを、許すことはできない。たとえ敵わなくとも、貴女に一矢報いなければ気が済まない」
「…何よ、否定していたけどアナタだって十分ブラコンじゃない。敵わないとわかっていても立ち向かうだなんて」
呆れと嘲笑を含んだ笑みに、リーナちゃんは完全に私を見下してくれたらしい。
ブラコンってだけでどうして見下されるんだろうね。
ブラコンシスコンってかなり怖いものだってオタクは知ってるんだけど。大事な人の為なら命かける的な怖さって恐ろしいものだよね。
「タツヤはいいの?可愛い妹がUSNA最強の名を冠するシリウスと対決しようと言ってるけど」
無謀な行動を止めないのか、と嗤うリーナちゃんは完全悪役ムーヴがキマっている。
ここで長い髪をふぁさ~、とやったら完璧だったけど戦闘するのにまとまってない長い髪は邪魔よね。…あれ、ブーメラン?でもお兄様にポニーテールは禁じられてるしね。
「いいわけがない。…が、深雪がそうと決めたならそれを見守るのも兄の役目だろう」
その言葉にリーナちゃんは怪訝な顔をしたけれど、お兄様が相手じゃなく、クラスでよく対決していて手の内のわかっている相手になったことで気が楽になったのだろう。
未知の相手より勝算が高いと踏んだのか。
「条件は変えない。私が負けたら、何でも話してあげる。そんなことあり得ないけどね!」
こうして私たちが戦うことが決定。
この場に居てはすぐに人が来てしまうということで、別の場所に移動して戦うことになった。
…だから、先生たちはどこでそういう情報を得るのだろうね?人気もなく、魔法がバンバン使える場所知ってるなんて。ご都合主義かな。忍びの習性ってことにしておこう。
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