妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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来訪者編⑭

 

 

移動は二手に分かれた。一緒に先生の車で移動もできたけどね。

これから戦うのに同じ車両というのも気まずいかもしれないという気遣いもあっただろうが、先生は彼女とおしゃべりすることがあったから。

ということでお兄様の背にくっつきます。

 

「寒いだろうが、少し我慢していてくれ」

「お兄様が温かいので大丈夫です」

「…そうか」

 

とは言うものの、くっついていても実際はとても寒い。手袋あってもバイク用じゃないから風がすり抜けてくる。

ヘルメットがあるおかげで顔は寒くないけどね。そこはフルフェイスで助かった。

今回は今後の展開を踏まえ防寒ではなく防護メインの服を選んだ。

防護に優れた服はしっかりしているのだけど、だからといって風に強いとは限らない。むしろ普通の服よりも防寒できてない気がしてきた。寒い。

 

「ですがお兄様にこのように…その、くっつき過ぎたら傷に障りますか?」

「構わないよ。お前がくれる痛みならなんだって――なんて、見えていない箇所は大抵治してる。問題ないよ」

 

それならよかった。だけどその前のセリフいりました?もしや内側から温める作戦です⁇ボッと熱くなりましたよ。

魔法も使わずに熱くさせるなんて、恐ろしいお兄様だ。

と、ふざけるのもこの辺で。私たちもこれからのことを話さなければ。

 

「お兄様、私は勝てないと思っています。リーナでしたら勝てるでしょうが、彼女はシリウスとして戦うでしょう。そうなれば条件が変わります。実戦経験の差もあれば、今の彼女にほとんど制限は無いはず。私が彼女に対抗できるとしたらサイオン量と事象干渉力くらいです」

「よく分析できているね」

 

お兄様からのお褒めの言葉だけど、流石に喜べる状況ではない。

 

「持ち込めるとしたら引き分けくらいかと」

「…それも相当難しいと思うが、それで?どうするんだ」

「彼女は『シリウス』です。もし一高校生が彼女の尋問に成功したら――この状況だって十分にまずいでしょうが、それ以上に国際問題に発展しかねません。彼女の取り扱いはとても難しいものと思います。落としどころとしては引き分けが一番。次点で私が敗北することだと思うのです」

 

勝ったらその時点で戦略級云々がなかろうとも危険因子だと判断されるだろう。そんなことになったら彼女以外の刺客が送られてもおかしくない。

 

「…深雪はそれでいいのかい?」

「私は、お兄様に牙をむいたら私が黙ってないということが伝えられればそれで十分です。彼女とするのは試合であって殺し合いではありません。もしそうならば、彼女はきっと戦いを了承しなかったはずです」

「そう、かな」

 

お兄様はちょっと歯切れの悪い言葉を返した。どんな表情か窺えないのが気になるけれど、この状況ではどうにもできない。

ただ、面白くなさそうな空気が。私が負けるか引き分けるかするつもりだからかな。

 

「私もただ何もしないで負けるつもりはありませんよ。小細工でも何でも駆使してあがいてみます」

「無理にあがく必要はない。お前が傷つくことなんてなくていい、と言いたいが…お前はそれを許してくれないのだろうね」

 

ヘルメットの通信機器越しではあるのだけれど、悩まし気な溜息は止めていただきたい。

息が吹きかけられることはないが、ぞわっとしました。

寒さで震えたと勘違いしていてくれるといいのだけど。

 

「お兄様が心配してくださることは嬉しいのですが、これも成長と見守っていただけたら、と。私自身、どれだけできるのか試してみたいのです」

「…わかったよ。止めはしない…ようにする」

 

苦渋の決断を下したかのように絞り出した声に、ちょっぴり笑ってしまった。

 

「ですが、もし私やリーナに危険が及んだと思ったら」

「それは必ず阻止するから安心するといい。ここには俺だけでなく師匠もいる。そんなことにはならないよ」

「はい」

 

やっぱり話を擦り合わせておいてよかった。これなら予定にないことが起きてもお兄様たちが何とかしてくれるだろう。

そしてさりげなく聞いちゃったけど、私のサイオン量や干渉力って現段階でリーナちゃんを僅かでも上回ってるんだ…。

お兄様が言うのだから間違いないのだろうけれど…修行の成果が出たってことかな。

 

(読んでてよかった異世界転生ゼミ)

 

一時期異世界転生もので流行ったのよね。幼少期から始める魔力底上げトレーニング。この世界じゃ魔力とは言わないけど。

私が転生したことに気付いたのは中学生の時だったから手遅れかとも思ったが、いろいろ試してみたあの頃。

お兄様に無茶なトレーニングだって何度も止められたっけ。

私が異世界モノで再現したそれらは、どれも過去試し尽くしたものだったからやっても無駄だと思われていたりしたのだが、何もやる前から諦めるのも面白くなくて。こっそり色々試してみた。

サイオン枯渇させてみたり、片足でバランスを取りながら集中してみたり、大量に噴出させてから濃縮したり――etc.

…厨二病が疼いた結果です。だけど意外とこれが無駄でもないと思えたのは制御に役立ったから。幼少期からサイオン量は膨大な深雪ちゃん。力でねじ伏せ系チートヒロインといっても制御ができなければただの大型兵器。一般での生活は役に立ちません。小さな虫さん一匹にバズーカーは使えないでしょ、ってやつです。

だから辞め時を失ってコツコツやっていたのだけど、恐らくそのうちのどれかが成功していたというのか。

色々やり過ぎて何がどう作用したのかさっぱりわからないけど。

力はいくらあって困るものじゃないからとやれることはどんなことでも、と思ってやっていたけれど、困ることあったね。こんなところで原作改変しちゃうとは思わなかった。

だけどおかげでお兄様が制御力を解放するイベントは避けられたはず。

だって、アレがあったらリーナちゃんだって私たちが何かおかしいと思ってもおかしくない。

何かしらまた調べられてしまうのも面倒だ。

疑いの種は一つでも少ない方がいい。

 

 

――

 

 

着いたところは河川敷で、明かりもわずかなところだった。周囲に人影もない。

こういったところってヤンキーが好みそうだけれど、この時代人口が少ない影響でそういった輩の生息地が変わったのだ。

居なくなったとは言わない。いつの時代も荒くれ者はいるものだ。流石にリーゼントの気合の入った人たちはいないけどね。

ひゅう、と冷たい風が通り抜ける。

――月のない夜だった。

街灯がほとんどないせいで東京なのに星が見える空が広がっていた。

それでも霞んで見えるのは空気が悪いのか、それとも光量が弱いのか。

リーナちゃんはこの場所に降り立って体を強張らせていた。嫌な想像が過ったのだろう。

安請け合いしてしまったことを後悔しているのか。本当に何もしないなんて確証は何処にもないから。

まあ、本当に決闘以外するつもりはないのだけど、これが私たちでなかったら普通は襲撃ポイントに連れてこられたと思うのが自然なのかもね。

こんな暗がりでは不安も掻き立てられ、そのような考えに至るのも仕方ないのかもしれない。

たった一人で敵地にいるのだ。

いくら最強の戦士と呼ばれていても最悪のケースは過るだろう。

お兄様が心配しないよう声を掛けるけれど、そんなこと気休めにもならないらしい。

お兄様がここまで気にかける事なんて無いのだけど、そんなことリーナちゃんが知るわけないものね。

 

「事情を聞かせてもらうだけだ。訊きたいことを聞いたら駅まで送っていくよ」

 

挑発ともとれる笑みを浮かべるお兄様、とてもいいと思います。素敵。

気休めなんかよりこっちの方がリーナちゃんには効果があるみたい。気力を取り戻したように見えた。

 

「話してあげるのはワタシに勝てたらよ」

「無論だ。それも含めて約束は守る」

 

リーナちゃんの視線がお兄様を通り越して私に向けられた。

強い闘志を漲らせた目に、けれど私は怯まない。

対抗するように目に力を込めれば――…リーナちゃん、貴女戦闘狂の素質でもお持ちです?やる気が跳ね上がったね。

それを見届けたお兄様は審判に先生を据え、先生も心得たとばかりにルールを説明した。

 

「勝敗の条件は、どちらかが降参するか、戦闘不能になること。殺すのは無しだよ。遺恨を残してしまうからね」

「それから、予期せぬ第三者の介入があった場合ややむを得ない理由で中断や引き分けについても決めておきませんか?」

 

私からの提案に、先生はふぅむ、と顎を擦りながら答えた。

 

「予期せぬ、ねぇ。まあ可能性として無くはないとは言えないけれど、そうだね。第三者の介入や、やむを得ない理由で中断した場合は本人たちの判定に任せようか。君たちは僕たちと違って公平な目を持っているだろうからね。だけど引き分けることなんてあるかな?」

 

すると今度はお兄様が割って入る。

 

「こういった時細かく決めておかないと有耶無耶になりますからね。ただはっきり勝負がつかなかった場合ペナルティがあってもいいと思いますよ」

「ペナルティ?例えば判定負けをしたら質問回数を制限したり、肯定否定のみで返すとか?」

「ちょっと!どうしてワタシが負けることを前提で話しているのよ!」

「むしろリーナに有利な話だろう?勝った場合は無罪放免なんだ。負けはどんな負けでもしゃべってもらう、よりも好条件だと思うが」

 

お前に不利なことなど無いだろう?と不思議そうなお顔ですけど、そんなことないでしょう。

リーナちゃんこっそり喜んでるところ悪いけど、騙されてるよ。

質問に答える必要性なんてないのに答える道筋が出来上がっちゃってるよ。

でもそんなリーナちゃんが可愛い。素直でいい子。――早く、そんな立場捨ててきちゃえばいいのに。

だけど今の彼女にとっては大事な場所だものね。無理強いはできない。

 

「私は構わないですが、リーナは」

「さっさと終わらせてあげるわ!」

 

あら、やる気ですね。なら私も全力で相手をさせてもらいましょうか!

互いに闘志を漲らせて、いざ、尋常に――

 

「では、始めようか」

「ちょっと待ってください、師匠」

 

――んん?ここで水を差します?お兄様。

先の話でお兄様の秘策というか、過保護による解放フラグは無くなったのではなくて?

ほら、見てください。先生とリーナちゃんの不審なものを見る目。このタイミングで?みたいなお顔。全無視です⁇

一歩一歩近づいてくるお兄様。

暗がりの中で、黒い服なのに私の目には恐ろしいほどくっきりと見えます。

 

(ちょっと、止まりましょうお兄様。私はその、えっと!)

 

だんだん近づくお兄様に上がる心拍数と緊張感。

先ほどそれは必要ないと前振りをしていたはずなのに、まさかの強制力がここでも働こうというのか。

 

(この後の展開ってアレがくるの!?待って!なぜ?!)

 

私たちは今までハグまでならするけれど、その、額とはいえキスなんてしたことない。

額を重ねたことはあってもお兄様の唇に触れたことなど…その、原作軸に入って指先にされたのが初めてで。

 

(私からしたのだって、横浜のアレはああいう儀式であって!いや、そうするとお兄様のこれも儀式になるのだろうけども!されるのとするのとじゃ雲泥の差があると言いますか何が言いたいかというとですね!近づくお兄様に緊張がピークで大混乱で顔に血が集まっているのがわかるけどどうにもできない!誰か助けて!!)

 

オタクのノンブレス絶叫を心の中からお送りしましたけど、これくらいじゃ上手く発散できない。

息が、心臓が止まりそうだった。

内心叫びまわっている間にお兄様の顔が目の前に。

腰を抱き寄せられ、後頭部に手を回されて、いつもとは違う触れ方にパニックは最高潮。

髪の中に指を潜り込ませて、なんて――

 

(どどどこでそんなことを身に付けたのお兄様!なんで手馴れてるの?!って!そうじゃなくて!!)

 

寄せられる唇が額に触れるよりも早く、私の手がその唇を受け止めた。

 

「…深雪」

 

ふ、触れたまましゃべらないでください!そしてなんでそんな切なそうな声を出されるの?!

向けられる視線も、だめか?と訴えてくる。

ぎゅっと心臓が掴まれた気がした。だけど、お兄様を止めねばならない理由が私にはある。

 

「…お兄様が今、何をなさろうとしたのか私にはわかっているつもりです。ですが、それはいけません。私たちはこれ以上疑われるわけにはいかないのです」

「だが、」

 

どうして分かったなど、聞かないでほしい。ただ知っていたなんて答えられないから。

ちょっと落ち着いて考えると目的もわかってくる。

お兄様としては少しでも危険を遠ざけたいと、実戦経験の差を埋めるためにも私の力を解放させてイーブン以上の状態に持ち込みたいのだろう。

だけど、

 

「言いましたでしょう。私は試したいのです。いつまでもお兄様の後ろに隠れているだけの、弱い私でいたくないから」

 

本当はお兄様と肩を並べたり、背を守って戦えるまでになりたい。

けれどそれをお兄様は望まない。わかっている。

お兄様は優しいから、私を危ない目に遭わせたくないのだと。わかってはいるのだ。

 

「わがままでごめんなさい」

 

ぎゅう、と腰に回る腕がさらに強く抱き寄せられた。苦しいほどに密着する体。

二重の意味で息が止まり、お兄様の視線に射抜かれて、ついには私の体から力が抜けて腕が下がる。

そして額に近づいていた唇は横にずれ、蟀谷に、続けて頬に掠めるように触れていく。

そこに、術を解放する式は無く。

 

「お前が弱いなんてあり得ない。俺が、お前に傷ついてほしくないだけなんだ。弱いのは俺の心だ」

 

最後にこつんと額を重ねて至近距離で目を合わせて、瞳を揺らす。

お兄様の不安がダイレクトに伝わって、直前で何をされたかも忘れてお兄様に手を伸ばす。

 

「違いますよ、お兄様。それは弱さではありません。想う心が弱いだなんて言わないで。想いは力なのですから。お兄様が想ってくださるだけで私は強くなれるのです」

 

お兄様の両頬に手を添えて伝えれば、お兄様は固く目を瞑って私の手をすり抜けて肩に額を擦り付けた。

すり、と摺り寄せられ、胸をきゅうっと締め付けられながらも頭を撫でて、いつもありがとうございます、と感謝を述べるとお兄様はようやく力を抜いて拘束していた体を離してくれた。

 

「少しでもお前の力になるというのなら、俺はお前を想っているよ」

「少しどころか、お兄様は私の力の源ですから。…あら、でしたら私、負けられませんね」

 

いっちょ気合を入れ直さないといけなくなった。これがお兄様の作戦か。

なんて私に有効な作戦なんだろう。即効性がある。

笑顔を向ければ、お兄様はふわり、と優しく微笑んでくださった。

困ったね、こんなお兄様見たら負けて悲しませるなんてできない。覚悟を決めねば。

 

「お待たせしました、師匠」

 

お兄様はしれっと先生にだけ頭を下げたけれど、リーナちゃん見てください。さっきよりもひどいお顔になってますよ。

しわくちゃピ〇チュウを彷彿とさせますね。一体何を見たらそんなお顔になっちゃうというのか(すっとぼけ)。

 

「リーナも待たせたな。…調子が悪いなら、少し時間を置いてもいいが」

「そうさせた張本人が何を言ってるのよ…いえ、結構です」

 

リーナちゃんの敬語珍しいね。嫌味なんだろうけど、お兄様には効かないよ。

そして今度こそ、私たちは対峙する。

勝機は僅か。負ける確率は五分五分なんて甘いことは言えない。恐らく三割あればいい方だ。

それでも私は――

 

 

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