妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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来訪者編⑮

 

リーナ視点

 

 

敵に囲まれ、味方は誰もいない孤立無援状況は初めてではない。

だが、CAD以外ほとんどを奪われた状態で、というのは初めてだった。

闇も深い中、これから一対一で試合をする。――たかがハイスクールの優等生である彼女と。

…どんな馬鹿気た状態だ?命のやり取りをする気がないのは、審判がいる時点でわかる。

だがこの場にミユキがいなければ、恐らく私は尋問や拷問を受けていたかもしれない。

とっくにタツヤのことを普通の高校生と思うことをやめていた。

彼はあまりにも戦闘に慣れている。あぶり出す為だけに自身も傷つける戦術を、ただの高校生がするわけがない。軍人だってそんな戦術取るわけない。

油断をさせる為捨て身な行動をする場合、周囲に仲間がいたりするものだが、あの時タツヤの近くには仲間などいなかった。

忍術使いの男もミユキもあの時にはいなかったはずだ。

いくら何らかの種はあるとはいえ、己の身を犠牲にすることをためらわない戦い方は一般人の思考ではありえない。

だけどミユキは――今、目の前に対峙している、この闇夜でも光り輝いて見える美しい少女は違う。

兄が傷つけられたことで、対峙するのがアンジー・シリウスと知りながらも許せないと啖呵を切って立ち向かうのは異常だと思うけれど、彼女からは達也から感じるような実戦慣れの空気を感じない。

それだけは間違いようがない直感だった。

いくら優等生であろうとも、洗練された技を持っていても、しょせんは綺麗なところしか歩いたことのない少女だ。

泥臭さも知らない少女に、負けるはずが無かった。

この距離も、彼女が接近戦に持ち込みたくないのがわかる。

一般的な魔法師は魔法で戦う術は身に付けるも、接近して武術込みで戦うことなどほとんど学ばない。

彼女の通う学校ではそんなカリキュラムは無かったし、部活動を見てもルールに縛られた形だけのモノばかりだった。そんなものお遊びと変わらない。

唯一の不安は、彼女がこの師匠と呼ばれている忍術使いに教えを乞うてないかだが、彼女自身師匠とは呼ばず先生と呼んでいることから、恐らく達也と違って弟子ではないと思う。

だが先生ということは何かしら教わっていてもおかしくはない。気を付けるに越したことはない。

――そう、油断しているつもりは無かった。

実戦経験が無くとも化け物じみたサイオン量と事象干渉力は凄まじい。リーナとして潜入している学校で比べた時、彼女は抑え気味とはいえ自分の能力を上回っていた。

シリウスとして制限を解除している今も並ぶくらいか、もしかしたら相手の方が少し上かもしれない。

モンスターと呼ばれた自分と比肩しうる、生まれながら才能を持つ彼女。

 

(もし、自分の生まれた場所がこの国であったなら、彼女と本当のライバルとして共に研鑽し合う仲になれていたのだろうか)

 

ただの友達として付き合えていただろうか。――そんな夢を見てしまうほど、彼女は魅力的だった。

大事な兄を傷つけた敵だと認識してもなお、本気で友だと呼んでいる。…それも今この時までかもしれないけれど。

 

(一撃で終わらせる)

 

合図など待たずに自己加速を掛けてターゲットに接触、情報強化で魔法を無効化しつつ格闘術で無力化する。

これで条件はクリア。そのまま倒れたミユキに彼らが気を取られている間に高速移動でこの場を脱出すれば、仲間の元に戻れる。

そのためにも――速攻で方をつける。

 

(ワタシは貴女と違うのよ!)

 

のうのうと平和に暮らしていた彼女とは棲む世界が違うのだ。決別は早かれ遅かれ来る。

それが今になっただけ。

速攻を掛ける為何の予兆も見せぬよう魔法を発動しかけた直後だった。

突如自然ではありえない突風と共に霰が散弾銃のごとく襲い掛かる。

とっさに横に避けたけれど、動揺が抑えきれずに動きが数瞬遅れ、続く横殴りのブリザードに対し、空気の密度を操作し真空の盾を作って直撃を回避するしかできなかった。

彼女よりも自分の方が魔法の発動速度が速いはずなのに、と考えたのは一瞬で。

なんてことはない。彼女も合図なんてものを待たずに速攻を仕掛けてきただけのことだった。

 

(っ上等!)

 

先ほどのふざけた兄妹のやり取りで鎮火しかけた闘志に火がついた。

彼女は全力で挑んできている。目の前に対峙しているのはただの真面目な優等生なんかじゃない。どんな手を使ってでも勝とうとする戦士だった。

ならば自分がすること、それは二度と歯向かう気力さえなくなるほど圧倒的な力でねじ伏せること。

シリウスの名を冠する者の役割。

力の象徴であり、圧倒的強者であることを見せつける。

先ほどの魔法は二つとも精度と威力を無視したスピード重視の魔法だった。

当たればもちろん動けなくなっていたかもしれないが、あれだけ大ぶりな攻撃なら対抗措置が取れる。

部下たちの中でも今の攻撃が避けられる者など限られているから、十分にすごい魔法だけれど、自分なら問題ない。

攻撃が途切れたのは精度を上げる為か。

ならば今度こそ、と自己加速と情報強化を並列実行しながら間合いを詰める。

拳銃こそ取り上げられたが、服についているボタンまでは没収されることは無かった。これ一つでも自分にかかれば十分な武器になる。

ボタンを握りしめ、残り5メートルまで接近したところでまたしても直感が働いて急停止した。

直後襲い掛かる突風は唐突に動きを変えて引き波のように体を引っ張ってきた。

逆らうように体に静止の魔法をかけて対抗するが、凄まじい風だ。直積的に攻撃が当たらなくともバランスを崩すことも狙ってか。

だがこの風はこちらに好都合でもあった。逆に利用してやろうと魔法を多重展開。手に握りこんだボタンに移動魔法を発動させて加速過程を無視した時速300キロの速度で飛ばす。

こんなものを喰らえば防御魔法が発動したとて衝撃は免れないはず――だった。

しかしボタンは彼女に届くことなく一メートル手前で失速、落下した。

何が起きた?と彼女の周りを探ってみると、おかしなことに気付いた。先ほど吹き荒れた風もそうだが、忍術使いの服も、タツヤの髪も乱れた様子はない。

彼らの前にはうっすらと壁のように、ミユキと自身を中心に薄いドーム状の膜が張られているのだ。

 

(…ミユキは初めから魔法を二重展開していた!?彼らを巻き込まないために?!)

 

信じられなかった。彼らならそんなことしなくとも勝手に防いだだろうに、彼女はこんな試合中でも彼らを気遣う余裕があるというのか。

…苛立ちを隠せなかった。思わず舌打ちが出てしまうほどに。

 

(そんな余裕、ぶち壊してやる!)

 

ボタンが落ちたことで彼女の使用した魔法が日本でもっともポピュラーとされる減速領域だと推測できた。

ミユキほどの冷却・凍結魔法の使い手ならば、減速魔法の威力もすさまじいものになるだろう。

先ほどの吸い込まれそうな風も理解できる。ただの見た目通りの攻撃ではなかったのだ。

踏みとどまれたから、暴風に錐もみ状態になることなく無傷で済んだ。直感の働きは今日も優れている。

突然大規模な事象改変の気配が消失した。

今度も本能に従って地に伏せる。対物障壁展開も忘れない。

展開したガードの上をとんでもない暴風が吹き荒れて体が持って行かれそうになるのを慣性増大魔法の多重発動で持ちこたえ、風が収まるチャンスを待った。

ここまでずっと先手を取られっぱなしの状況に、プレッシャーも感じていた。

攻撃は最大の防御であり、攻撃をしなければ勝利などありえない。

コンバットナイフを右手で握りしめ、攻撃に備える。もう片方の手にはダガーを隠し持ったまま。

予測通り風は収まり、魔法を解除して体を跳ね起こす。ダガーはすでにばら撒いた。

 

(分子ディバイダー!)

 

片膝立ちで右手のナイフを横薙ぎに振り抜く。

仮想領域が伸びるのとほとんど同時に、圧倒的な干渉力が二人の間に放たれた。

形成されつつあった仮想領域が、空間を圧する干渉力に塗りつぶされる。

だがこれは想定内のこと。防がれることは読んでいた。

 

「ダンシング・ブレイズ!」

 

無効化を確認するよりも早く、魔法を放つ。

ひっそりとばら撒かれたダガーが浮き上がり、目にも止まらぬスピードで地面すれすれの弧を描きながら、深雪に支配された空間を回避しつつ彼女に迫る。

更に駄目押しでもう一度ナイフを構えて自己加速。ナイフをブラフに格闘術で昏倒させるつもりで接近したのだが、目を疑う羽目になる。

それは一瞬タツヤの時と同じかと錯覚させられた。

彼女に触れる直前でダガーが止まっているのだ。

 

(まさかミユキも同じ魔法を!?いいえ、彼女のコレは止まっている。減速魔法!?自分の体の表面を覆っているというの?!)

 

やはり駄目押しは無駄にならなかったことを意味するのだが、それにしてもそんな減速魔法の使い方は見たことも聞いたこともない。

この状況で格闘技など通用するのか!?と頭を過るタイミングで、ミユキは流れるような動きでダガーを叩き落としていた。

様子見を兼ねてもう一度ナイフを振りかざすも、何かの壁に守られているように刃が通らない。

急な怖気を感じて手を離せばナイフはそのままの形を保ったまま深雪の右腕に触れることもできずに停止していた。

左手にわずかにサイオンがまとわりついている。

あのまま押し切ろうとしたら自分ごと動きが停止させられていたかもしれない。

 

(接近戦が不得意と見せて、とんでもない隠し玉を持っていたということね!)

 

随分と、舐められたものだ。もったいぶらずに仕掛けられていたら即ヤラれていた可能性があった。

内心冷汗をかきつつ、距離を取ろうとしたところで足元に向けて何かが投げつけられた。

丸い、小さな球が7,8個。それがバラっと地面に撒かれた。

サイオンも纏っていないただの黒い玉に見えるのだが、まさか私のダガーのように?!と警戒した時、――ミユキがパチンと指を弾いたタイミングでパンパン、と音を立てて破裂した。

爆弾?!と思ったけれど激しい音ばかりで威力もなければ魔法の発動も感じられない。

ハッタリか!

隙を作ることが目的だ、とCADを構える頃にもう一度彼女が指を弾く。

次はなんだ、と警戒するように足元を見れば、残りカスだと思われていた半球となった玉の破片が発光した。

今度は魔法だ。単純な目くらましだが、闇の深い中凝視していたためこれは効いた。

慌てて後方に跳びのいたが、感覚で掴んだ彼女の居場所は変わらない。やはりただの時間稼ぎか。

先ほど接近した際、ミユキの表情は取り澄まされたものだったが、額に浮かぶ汗が、彼女の疲労を物語っていた。

どんな魔法を使ったのかわからないが、ダガーを止めた魔法は彼女にとってかなり負担が大きく疲弊をもたらすものなのかもしれない。

だが、こんな時でさえ周囲を囲む膜を解かないのだから、彼女は甘すぎる。

その甘さを逆手に取らせてもらおう。

 

「ミユキ!」

 

魔法の展開スピードは私が早かった。

 

「リーナ!」

 

構えたミユキも発動しようとしているが、出遅れもあってまだ構築中。

 

「「勝負よ!!」」

 

それでも彼女は諦めていなかった。

――きらめく彼女の瞳は、こんな時でさえ美しいと思わせる輝きに満ちていた。

 

 

――

 

 

深雪視点

 

 

空間が沸騰した。

空間が凍り付いた。

二人の魔法力が世界を塗り替え、二人の世界が激突した。

雷光瞬く、炎雷の世界。

晶光煌めく、氷雪の世界。

空気が燃え上がる灼熱の地獄、「ムスペルスヘイム」。

空気が凍り付く極寒の地獄、「ニブルヘイム」。

片や、気体分子をプラズマに分解し、更に陽イオンと電子を強制的に分離することで高エネルギーの電磁場を作り出す領域魔法。

片や、気体分子の振動を減速し、水蒸気や二酸化炭素を凍結させるだけでなく、窒素までも液化させる領域魔法。

熱プラズマが凍結した空気を元に戻し、冷気が熱プラズマを気体に戻す。

ぶつかり合う二つの力は、地上にオーロラの帳を下ろした。

揺らめき、重なり合う、極光の舞。

きっと幻想的に見える光景だろうけれど、滲む視界ではそんな光景は見えない。

いくら鍛えて原作の深雪ちゃんよりもスペックが上回ろうとも、力を解放していない状況では有利な舞台の上であろうとも、単純にサイオン量も魔法制御力も足りなかった。

恐らく一分も持たない。――だからこそ、策を弄した。

綱渡りのような作戦で場を凌いできた。

先手を取って近づくことを封じて、減速領域を使って圧倒的防御力と同時に反撃してみせて。

ただの力押しだけに見せかけつつ、分子ディバイダーを無力化できたけれど、この時点でニブルヘイムに使う余力ギリギリしか残っていなかった。

ジリ貧だったところでダガーが来ることはわかっていたからこそ、最小限の範囲を――自分の周りだけに減速領域を濃縮して掛ければあら不思議!「僕最強だから」で有名な月曜発売週刊誌の人気キャラクターの術擬きの再現に成功。

本家無下限程完璧な術式ではないけれど、全身5秒程度なら省エネモードでも張れる。

後は空中で止まっているのを物理で叩き落とした。これでもう残された力は高等魔法一発のみ!と思ってたのに、まさかのリーナちゃんの追撃。ナイフで斬りかかるなんて聞いてませんけど?!

動くことができたのは奇跡に近かった。彼女が左手でナイフを振りかざす姿を捉え、切りつけられる右腕だけに瞬時に減速領域を掛けた。

プロだからこそ狙いが利き腕だとわかったので、部分だけ掛けることで間に合ったのは助かった。

不測の事態に、本筋に持ち込むためにポーチの中にあるパチンコ玉サイズの癇癪玉を、飛び退る彼女の足元に向けて叩きつける。

これは普通の癇癪玉ではなく、叩きつけてから数秒遅れて爆発する仕様になっている。

爆発と言っても癇癪玉にそこまでの威力はない。直接当たったところで火傷も負わないだろう。

ポーズとして指パッチンをするけれど、これらは魔法で爆発するわけではない。ただのブラフである。

衝撃を受けると数秒後に激しい音が鳴るジョークグッズ。

だがそこに一工夫。熱源の残りの半球に、今度はCADをこっそり操作して意味ありげにブラフでしかない指パッチン。

フラッシュライトのようにまばゆい光がリーナの足元を包んだ。

九校戦で見たほのかちゃんの奇策、水面を光らせた時のような目くらましの光。リーナちゃん以外には目元のみシェードを掛けたので目は守られただろう。

リーナちゃんはもろに食らったのか後方にさらに距離を取って――最後の攻撃に打って出る。

迎え撃つために、私も最大速度でニブルヘイムを繰り出した。

発動は遅れたものの、押し戻すことに成功。魔法はイメージ。そして追加で魔法式に出力する。

張りぼてでもいいから前方に圧力をかけて押し戻したのだ。

その後重ねるようにもう一度情報強化を掛けて通常の威力で対抗する。

視界が滲む。もう、私の策は出し尽くした。ガス欠は目前だが、対する彼女はただでさえお兄様と激しい戦闘をした後だというのに私よりも余力が残っていそうだった。

流石数々の修羅場を抜けてきたシリウス。

拮抗できている今が奇跡のようだ。

――だけど、そろそろ彼女も違和感に気付いた頃だろう。

 

「ぐっ…ミユキ、貴女まさか!初めからこれが狙いだったというの?!」

 

おおう、リーナちゃん。テンプレよろしく叫ぶけど、そんなことしたら余計に酸素が無くなっちゃうよ?

魔法は別に無から有を生むわけではない。きちんと自然界の事象の元に構築される。

情報を書き換えたところで修正力が働いて、あるべき形に消費されるべきものは消費されるのだ。

火の魔法を使うには酸素を燃焼させねばならない。それを閉じ込められた空間で使用したらどうなるか。…酸欠になりますよね。

初めから張っていた膜は別に先生たちに被害が行かないように張ったものではない。全てはこの時のため、彼女が火と雷の魔法を使う前提で仕込んだ罠である。

 

「貴女が火と雷を使うことは予測できていたから」

 

お兄様の元に駆けつけた時に、肌で感じていたから嘘ではない。原作パワーだけを頼るわけにはいかない不測の事態が彼女にはあったからね。

酸欠になりかけているのは彼女だけじゃない。私も同じ空間にいるのだから薄くなるのも当然だ。

どちらが制御を失うか根競べになるが、氷を使う私よりも彼女のエリアの方が、酸素が薄くなるのは必然で――

30秒くらい経っただろうか?リーナちゃんが背中から奥の手を出そうとしたが、原作のお兄様が言う通り、これは自殺行為だ。

たとえそうでもしないと起死回生はないとしても、成功する確率は限りなく低い。

お兄様が動くのが見え、展開しっぱなしの膜だけを解除する。おかげで少しだけ余裕が確保できた。

光の洪水が、二人の魔法を消し飛ばした。途端襲い来るのは灼熱と極寒の嵐。

自分たちの分はどうとでもなるけれど、身を護る魔法を使えないお兄様にこの暴力的な嵐を防ぐ術はない。喰らっても修復するつもりなのだろうけれど、そんなことさせない!

お兄様を私の目の前で苦しませるなんて絶対させない。

急いで構築した魔法は無事お兄様を吹き荒れる嵐から守れたようだった。

ふらつく足を叱咤してお兄様に駆け寄る。

 

「なんて、無茶なことを!けがは!?」

「すまない。お前を更に疲労させてしまうなんて」

「私のことは大丈夫、だけど」

 

縋りついて傷を確認するけれど、本当に何とか間に合ったらしい。…よかった。お兄様を守れるように何度もシミュレートしたけれど、無事成功したらしいことで力が抜けたところをお兄様がしっかりと支えてくれた。

 

(うーん、格好つかないな)

 

最後までお手を煩わせてしまってごめんなさいお兄様。

 

 

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