妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
「あ~、達也くんこれどうするの?決着つく前に止めちゃって」
「あの状況では『殺しは無し』が守られなかったでしょうから止めたまでです――リーナ。あの状態で何か仕掛けようとしていたようだが、それは無謀と言えたし、もし成功したとしても今度は深雪が危険なことになっていた。あの状況で威力を抑える余裕などなかっただろう」
お兄様の指摘が正しいのか、リーナちゃんは反論の口を開かない。
…あれ、待って。もしかして反論の余地がなくて黙っているんじゃなくて、酸欠で口を開く余裕すらないのでは!?遠目にも顔色が悪く見える。
お兄様から離れてリーナの元へ。体はふらつくけれど、走れないほどじゃない。
立ち続けているリーナは放心状態で立っているのも不思議な状態に見えた。
CADを操作して彼女の周囲の酸素濃度を上げる。これくらいなら僅かなサイオンでもできる。
「リーナ、大丈夫?苦しくない?」
返事はない。聞こえてはいると思うのだけど、反応できないようだった。
「リーナ、声が聞こえるなら深呼吸をして。大丈夫。もうあなたに危害を加える者はいないから」
おねがい、ともう一度深呼吸を促せば、リーナちゃんは深く息を吸い込んでくれた。良かった。ちゃんと状況が理解できている。
「…ど、して」
俯いたままのリーナちゃんの唇から言葉が漏れる。聞き取りづらいけど、これはどうして、かな?でもどれに対してかはわからないから次の言葉を待つ。
下から覗き込んで、安心させるように微笑んで。
視線が、絡み合う。
「ワタシ、アナタを…」
「そうね。でも、私はこうして怪我もしてないから」
最後、リーナちゃんは必殺の一撃を持っていた。必殺なのだから相当な威力の魔法だったのだろう。それが私に向くはずだった。
だけど、彼女は知る由もないけれど、お兄様がいるところではどうあっても私が致死の攻撃を受けることはないのだ。
「ワタシは、人を殺せるのよ」
「そう」
「世界最強の部隊を率いる総隊長だって、気づいているのでしょう?」
「ええ」
「なのに、どうしてっ」
ようやくリーナちゃんの言いたいことが分かった。
そして彼女が訴えたいことも。
「だって、貴女は私の友達でもあるもの」
「そんなの仮初めに決まってるじゃない!」
絶叫にも近い叫びだ。きっと彼女の心は私を拒絶したいのだろう。甘言を弄しているとしか思えないかもしれない。
だが、私にはリーナちゃんを拒絶する理由はない。
唯一の理由であったお兄様に対しての禍根は先ほどの試合で消化した。
「そうなの?でも、だとしても私にとっては綺麗で可愛らしい、大事な友達だもの」
「馬鹿じゃないの!?騙されてるって言ってるのよ?!」
「落ち着いて、リーナ。貴女はついさっきまで酸素が足りていなかったのだから、そんなに叫んでは危ないわ」
馬鹿にしてるわけじゃない。ただ本当に心配なのだ。つい先ほどまでここは酸素の薄い空間だった。私もようやく体の自由が戻ってきている。
「そうやって心配して!私を懐柔するつもり?!」
「懐柔されてくれるの?」
「されないわよ!!」
打って響くような返しが気持ちいいね。そして可愛い。
「なら、良いじゃない。私は貴女に優しくしたい。そして貴女はそんな私に懐柔されない。問題なんて何もないでしょう?」
「~~~~~~好きにしたら!?」
「そうさせてもらうわ。――お疲れ様、リーナ。試合に付き合ってくれて、ありがとう」
彼女の手を取って感謝を伝えれば、その手を振りほどかれることなく、彼女は少しだけ力を込めて。
「どうしようもない馬鹿ね、アナタ」
更に俯いてしまった。もしかしてこれって拘束されてることになるのかしら?人質にして逃げることもできるものね。
「私を人質にして逃げる?たぶんだけど、それなら協力できると思うわ」
小声でそう囁けば、リーナちゃんは肩を揺らした。きっと考えてたんだろうな。
でもまさか人質が協力を申し出るなんて思わなかっただろうけど。
「…そんなことしたらタツヤが襲い掛かってくるんでしょ」
「まあ、そうね。でも私が自らついていく時は結構待っててくれることもあるのよ?」
「……もしかして誘拐され慣れてる?」
「それなりに経験はしてる方だと思うわ」
余罪は聞かないでほしい。お兄様が怖いので。
リーナちゃんは手を離した。拘束していても無意味だと悟ったのかな。攫い甲斐が無くて申し訳ない。
悲鳴を上げようものなら本気でお兄様が動いてしまうので安易に上げられないのです。
「…勝負は私の負けよ」
「……リーナちゃんそれはダメよ」
「チョット!今ワタシのことなんて呼んだの?!」
しまった。疲れてたから口を抑えるの忘れてた。
あんまりにも潔く敗北を認めるものだからついうっかり心からの忠告が。
「リーナ、流石にそれはよくないわ」
「違うわよ!今『ちゃん』を付けたでしょ?!子ども扱いして馬鹿にしてるの!?」
「馬鹿になんてしてないわ。私はただ可愛い子には心の中でちゃんを付けて呼んでいるだけよ」
なので開き直って答えてみたらリーナちゃんが固まった。再起動したと思ったら顔を真っ赤に怒鳴られた。
「カワイイ?!何を言ってるの!」
「リーナは可愛いわよ。ほのかも美月もエリカも、心の中では皆ちゃん付けね。でも流石に高校生だから表立っては言えないけれど。さっきのはちょっと心の声が漏れちゃったのよ。…今年は気を付けようって誓ってたのに。リーナ。お願いだから聞いてなかったことにしてくれない?」
「……アナタ、それが本性?」
「内緒にしてね」
リーナちゃんの言う本性ってどれだろう?ちゃん付けのことだけならいいのだけど。オタバレしてないことを祈る。
だいぶ緊張が無くなってきたようでなにより。
「そろそろ皆が待っているだろうから、どうする?」
「どうするって、さっきも言ったようにワタシの負けだわ。いくら窮地に追い込まれたとしてもアナタを殺そうとしたのは事実」
「でも殺してないわ。兄さんが言っていた、やむを得ない事情で中断、が妥当じゃないかしら。それなら全面降伏じゃなく、ちょっとのペナルティで済むわ」
「…どうしてコッチに有利な方を提案するのよ」
「だってリーナが素直に腹切り受けようとするから」
「ハラキリ!?ワタシはそんなつもりじゃないわよ!」
「イメージよ。あまりにも潔いから。そんなんじゃ良いように利用されちゃうわ。心配なの、リーナがいい子過ぎて」
そう言ったらリーナちゃんに睨まれました。余計なお世話って書いてあるね。わかりやすい。
あとなんでだろう、アンタもね!って文字も見える気がする。
「もう少しずるくていいと思うわ。横槍を入れたのだからノーカンよ!くらい言ってもいいと思うのだけど。先生が言っていた本人たちの公正な判断に任せる、が気になっているというのだったら、質問にyes,noで答えるだけでいいんじゃない?」
「…アナタのお兄さんは何か聞きたそうだったけど?」
「そうね。でも手を出しちゃったのだから、ね?」
「…怒られたりしないの?」
「兄さんが、私を?……怒られたことはないわ。…後で困ることはされるだろうけど」
「え」
「あ!ち、違うのよ?困るって言っても私が困るだけで、その、別に酷いことをされるとかそんなんじゃないから」
リーナちゃんの疑惑の視線が痛い!口を滑らせた私が悪いけど、でも怒られたことは無いから!信じて!!
「何が違うというのよ。困らせてるのは事実なんでしょ」
「う…でもほら、私が恥ずかしいだけだし」
「は、恥ずかしい!?いったい何をさせられてるのよ!」
「き、聞かないで!恥ずかしいことなんだから聞かれたら困るっ…」
おかしいな。私がリーナちゃんを励まそうとしていたのに気づけば心配されてます。余計なことを口走った私のせいだけど。
気付けば手を引かれてお兄様たちの元へ向かっていた。リーナちゃん回復早い。流石総隊長。
「水を差されたとはいえ、あの時確かに私は負けそうだった。だから質問には答えるけれど、イエスかノーだけ。それからタツヤ、私からも質問があるわ。別にこれは今回の件じゃなくてミユキのことよ。その質問に答えてくれるというのなら大人しく答える」
「?深雪についてか?」
「リーナ!」
「ミユキ、これは友人として譲れない条件だわ」
ぐ、…リーナちゃんが封じ手を使うなんて。『友人』を盾に取られては止めることは…でも、ちょっと――いえ、かなり嬉しい。
「深雪が困るような質問なのか?」
「ミユキを怒ることはないけれど、困らせることはあるのでしょう?いったいアナタ妹に何をしているというの!」
リーナちゃんの一喝に、私は顔を覆い俯き、先生は腹を抱えて笑い、お兄様は真顔になった。
――
リーナちゃんとの美少女頂上決戦は無事に引き分け。
お兄様は両手に花で、先生が大笑いした一夜が明け、日曜日。
お兄様と共に制服を身に纏って学校へ。
え?何か違う?気のせいだよ、何もおかしなことなんてなかったよ。
リーナちゃんの質問に対してお兄様が、なんだそんなことか、みたいに平然と答え、リーナちゃんが怒り心頭で私を連れて帰る、って言ってきかなくなるっていうよくわからない展開が繰り広げられ、先生大爆笑でひきつけを起こしてお弟子さんにお世話された珍事が起きたくらい。
っていうかお兄様やっぱり困らせていた自覚はありましたね?そして破廉恥!とリーナちゃんが叫んだ声が頭を離れません。
リーナちゃん、破廉恥なんて古風な言葉よく知ってたね。現代で使ってる人少ないんだけど。
一体何年ごろの資料を見て日本語を勉強したのか。ファッションのことといい気になる。
とまあ、そんなこと今は置いておくとして。
部活動や実験に勤しむ生徒たちを横目に私たちは生徒会室へ。まだ誰も待ち人は来ていない。
「まだ、どなたもいらしてませんね」
「呼び出した人物が最後に登場するのはフィクションのお約束だが、現実はそういうわけにも行かないだろうな」
お兄様、そんなフィクションのお約束を知るくらいにはフィクションに精通しておいでで?
いったいどんなフィクション作品に触れたんだろう。そういった類の本を読んでいるところなんて見たことないけど。
でもそろそろ人が来ることを思えばこれも今質問していいことじゃないね。お兄様のファンとしては大っ変気になるけどね!
とりあえずそうですね、とにこにこ笑顔で返しておく。
適当なところに座って待って居ようとお兄様と並んで座るとお隣から視線が。
「どうかなさいましたか?」
「いいや、昨日も話したが、深雪は成長したな、と」
確かに、そんな話昨日したなぁ、と昨日のあの騒動後のことを思い出す。
――
試合(けしてあれは決闘ではない。命かかってないからね)が終わった帰り道、疲労した私を心配してバイクで帰ることを躊躇したりとお兄様の過保護が発動しっぱなしだった。
これも心配をかけすぎたからだと反省して大人しく従っていたのだけど。でも、だからって移動するたび抱きかかえようとしなくても…。
お兄様だって激しい戦闘したでしょうに。私と違って命懸けの。
修復したとはいえ、自ら傷ついたこと知っているんですからね。
抱きかかえられている間にそっと胸に手を這わし、腕を撫でると、お兄様は私の考えを見抜いたのかすまない、と苦笑して返した。
「お兄様はもう少しお体を大事になさってくださいませ」
「そうだな。――ああ、深雪に巻いてもらったハンカチの部分は痣にもならなかったんじゃないかな。痛みも少なかった」
「!それは何よりです」
「深雪のおまじないが効いたのかな?」
「あ、あれはおまじないなんかじゃなく…」
確実にハンカチに擬態した特殊金属のポテンシャルです。
お兄様だってわかっているだろうに、どうしても私を揶揄いたいのか。
「お前の心が傍にあるような気がして心強かったよ」
「…もう、お兄様ったら」
他に何が言えただろうね。疲労している頭では良い案など浮かばなくて、せめてもの抵抗でお兄様の肩に頭を押し付けるしかできなかった。
くすくす笑われてるけど何の反論もできない。
玄関を開けてようやく下ろされたけれど、框に座らされ靴も脱がされる。…お兄様ぁ。
「今日は世話をさせてくれ。いつ倒れるかと冷や冷やした」
「それは…そうですね、最後は危なかったと思います」
もしあのまま続けていたらと思うと、リーナちゃんにも悪いことをした。
連戦で疲労している上、酸欠状態の最悪のコンディションで更に別の魔法を使っていたら、恐らく彼女は無事では済まなかった。
冷静な判断力も奪ってしまっていただろうから、一か八かのあんな無謀な行動に出ようとしたのだろうけども。
リーナちゃんの意地を見誤っていた。
まあ、私の作戦は最終的にお兄様が止めてくれると信じてたからできた無茶だけどね。
「あの癇癪玉も試作品かな。師匠が面白そうに眺めていたよ」
おっと、忍びの先生にも興味を持っていただけましたか。忍びのアイテムがルーツだもんね癇癪玉。
「相手の隙を作るには十分な音でしたね。ただその分音が大きいので周囲に気付かれることが難点ですが。フラッシュ効果は日中じゃ暗い部屋くらいしか効果がありませんし。…結構使うタイミングが限られる、扱いの難しい品ですね」
もともと逃走する時間を稼ぐためのアイテムだ。私は二段構えで使ったが、音と同時に光らせることもできる。
本来はそう使う。今回は時間稼ぎと心理的に追い詰める為、そして物理的距離を置かせるためだったのでああいう使い方になっただけのこと。
「…深雪は成長したね」
ソファに運ばれ下ろされるとお兄様が膝を折って前に。私よりも低い位置に顔がきて、見上げられた。
その表情は微笑んでいるのに少し眉が寄っていて…どことなく寂し気に見えた。
見ているだけできゅっと苦しくなる。
なのでお兄様が口を開く前に頭を一度、少しだけ下げて謝った。
「…心配をさせてしまう、無茶な戦い方をしました」
「そうだね」
「でも、間違っていなかったと思うのです」
お兄様と視線が絡み合う。
「お兄様に力を解放していただいていたなら、恐らく私は彼女を心ごと追い詰めていたことでしょう。同時に怪しまれたはずです。『どこにこんな力が』、『学校の時とは違う』、『兄が細工を施していた』、『普通じゃない』、と。
いくら隠していても彼らは私たちの真実に辿り着いたかもしれません。それだけは避けなければならない事態です」
わかっているでしょう?と苦笑を交えて見つめれば、お兄様は苦いお顔に。
ごめんね。四葉の柵はいつもお兄様を苦しめる。早く解放して上げられたらいいのだけど。
「――拒まれた時はショックだったよ」
ん?拒む⁇……あ、ああ!
「そ、そうですお兄様!ど、どうしてあの時あんなことをなさったのです?!」
「あんなこと、とは?」
お兄様が上目遣いで首を傾げてくる。カッコいいのに可愛いとはこれ如何に?!じゃなくて。落ち着いて。びーくーる。
「その後です!そ、その…ここと、ここに…」
だめだ、言葉にするのが恥ずかしくて触れられた箇所の米神と頬を指すのが精いっぱい。
あの時は伝えねばならないことがあったから耐えられた。でも、今は…思い出すだけでも恥ずかしくなる。
(ハグはまだ許容範囲だけど、っていうか恥ずかしいけど慣れてきた、に変化しただけなんだけど。そのね、あ、あんなことされたの初めてで…)
「親愛のキスは家族間では当たり前なんだろう?」
「それは海外の話であって!そもそも我が家にそのような習慣は無かったではありませんか!」
いえね、昔私も考えたことが無かったわけじゃない。仲良し家族計画の中にハグ&キスはあったにはあった。
仲良くなるにはふれあいが大事だからね。機会が増えれば増えるほど仲良くなると。
けれど、…勇気が出なかった。だって、あの麗しい母の顔にキスできます?その上前世からの推しに自らキスを⁇
…私には無理だった。ハグがギリギリラインだった。ほら、アレにはストレス軽減の効果もあったから理由付けができた。
でもキスは違う。効果は…言葉の代わりに愛を伝えられるくらい?キスで幸福を感じられるのは愛情を理解してこそ意味がある。関係性が曖昧のままするにはハードルも高かった。
それならまだ直接口に出して伝える方がまだマシだった。
だからその行為自体は避けていたというのに…まさかお兄様の方からされるだなんて。
恥ずかしさのあまり顔を覆ってしまう。
「…怒ってるのかい?」
「怒ってなど、いないですが…でもあんなこと初めてでしたから…」
「照れているのか。ならよかった」
真っ赤に染まっただろう耳を摘ままれてするっと一撫で。いきなり驚くじゃないですか!肩がびくっと跳ねてしまった。
これも良くないけど、だめですお兄様。あんなことされたら心臓持ちません。
「キスを嫌がられたんじゃないかと心配だったんだ」
そんな心配しなくていいです。お兄様に与えられるモノはなんだって喜ぶチョロインの妹ですから!心臓に悪いけどね!
というか、お兄様。額を拒んだのは理由が違うと言っているでしょう!なんでキスを嫌がった話になってるの?!
おかしいでしょ!そのようなことを訴えれば、お兄様はどちらも変わらないよ、と。
いやいや大いに変わるでしょう。
それからしばらくその押し問答が続き、いろいろがうやむやになった。
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