妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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来訪者編⑱

 

夕食を食べ終わってすぐ、電話のベルが鳴った。

顔を見合わせたのち、番号を見たお兄様がそのままリビングで電話を受けたことにより、高解像度の大画面に雫ちゃんのあられもない姿が映る。

瞬間カッと顔が熱くなって慌てて顔を覆いながら悲鳴を上げてしまった。

 

「きゃあああ!雫ちゃん!ダメよそんな恰好してちゃ!!ガウンを、ガウンを着てぇ!」

 

知ってた。わかってた。でも想像よりはるかに大画面の雫ちゃんはえっちくて。

ほっそりとした肢体を隠すことなどできないスケスケえろえろネグリジェは高校一年生にはまだ早いと思います!

しかも酔っているのか、目はうつろで頬は赤く上気し、妖しげな雰囲気がここまで漂ってくる様だ。えっちい!エッチだよ!!刺激が強すぎる。

どうしてみんな可愛い上にプロポーションも素敵なの!?目が離せないじゃない。

え?顔を覆ったんじゃなかったのかって?指の隙間って案外結構見えちゃうものだね。

 

(この!私の変態!!)

 

思わず素の自分が出てきてしまったのもしょうがないと思う。それくらい衝撃が大きくてヤバかった。

画面の中で雫ちゃんがガウンを取りに行っている間、静かだったお兄様の反応が今になって気になった。

気配的にお兄様がうろたえた様子はない。その前に私が叫んでしまったというのもあるけれど。

顔から手を離しておそるおそるお兄様を見れば、少し首を捻ってじっと私を見ていて、視線が合ってしまった。

途端ボッと頬が熱くなった。なんだろね。エッチなビデオを見てたのを見つかった気分?妙に焦りますね。

…おかしい。どうして私の方が焦るんだろ。こういうのって男性の方が焦るんじゃないかな?だって、女の子の下着姿を見たんだよ?もっと気まずい思いをしても良いと思うのに。

 

「あ、の…お兄様?」

「何でもない」

 

訊ねる内容もまだ口にしてないはずなのに、お兄様は何でもないと口にして前を向いたタイミングで雫ちゃんが戻ってきた。

何だったのか気になるけれど雫ちゃんの話が優先だから後回しだ。

 

「吸血鬼の発生原因なんだけど」

 

さっそく雫ちゃんは彼と接触したらしい。

…雫ちゃんの綺麗で可愛らしいドレス姿を見て、二人きりでテラスで、内緒話をした男がいると?ずるい、許しがたい。

問題点がそこじゃないことは冷静な深雪ちゃんの頭脳がわかっているけれどね。文句の一つでも言ってないとやってられなくてね。

 

「余剰…なんだっけ、余剰何とかの黒い穴の実験みたいだよ」

 

ああ…、ぽやぽやしてる雫ちゃん可愛すぎない?何故画面越しなの?今すぐ抱きしめたい愛くるしさ。

声を出さないように口元をずっと押さえてるけれど、息が漏れちゃう。そんな場合じゃないのにね。

顔はしっかりシリアスを貫いており――つつも頬が緩んでいるような気もする。気づかれてないことを祈るばかりだ。

 

「余剰次元理論に基づくマイクロブラックホール生成・消滅実験、じゃないか?」

 

低い、強張った声でお兄様が確認する。

よくお兄様はそんな雫ちゃんの様子に惑わされずに真理に近づけますね。…いえ、真剣に事件に向き合っているお兄様だからこそ、か。気を散らしすぎている妹で申し訳ない。

そこからお兄様による実験内容の説明講座が始まった。難しいけれど付いていけたよ。

お兄様から頭を撫でていただきました。嬉しい。

思わず相好崩したら雫ちゃんから私も撫でるー、と画面越しにエアなでなでを。私昇天しちゃう。

画面越しで本当によかった。画面越しじゃなきゃ供給過多で死んでた。

聴講中の舌っ足らずの雫ちゃんの破壊力も耐えきった私はかなり耐久レベルが高くなったと思う。

それでも、この二つのなでなでコンボの前では虫の息なんだけれどね。

生まれたてのバンビのよう。ぷるぷる震えています。電話が終わってもしばらく動けなかった。

 

「ひゃ!お、お兄様?!」

 

ら、お兄様に抱き上げられました。お姫様抱っこ。

え?な、何故に?!

 

「心拍が異常だ」

「そ、それはお兄様と雫に褒められたことが嬉しくてですね?!」

 

体の異常じゃなくて心です、と情けない告白だけど、ここは自己申告しないと心配させてしまうかなと思いましてですね。無駄に心配させる時間が長引くよりかはいい。

でもお兄様はそんな私に呆れることなく、ソファに運んで座らせてくれた。

 

「電話が始まって間もなく心音が乱れていたからな。酸欠になってもおかしくないほど、全力疾走と同じくらい動いていた」

 

…うう、お兄様に笑われてる。引かれたり嫌悪感が向かなくてよかったけれど、複雑。

 

「誰だって、あんな姿を見たら驚きますでしょう?」

「確かに驚いたが、何か行動するよりも早くお前の悲鳴が上がったからな。おかげで冷静になった」

「…すみません」

 

そうだよね。あんなえっちぃ姿を見て硬直したところ、いきなり背後で慌てふためきながら悲鳴を上げられたらお兄様だって驚く。

頭を下げて謝ると、隣に座ったお兄様が宥めるように背を撫でてくれる。次第に心拍数は落ち着くけれど一定からは下がらない。…お兄様のね、視線がね、優しすぎて心が落ち着かない。

 

「お兄様は今、別のことに頭を悩ませたいはずですのに」

「吸血鬼の原因が分かったところで対処法はまた別問題だから」

 

それはそうなのだろうけど、その問題だけではない。

 

「――お兄様のせいじゃないです」

 

お兄様の胸に寄りかかるように体を傾けて顔を隠した。

 

「深雪、」

「あちらの国が勝手に焦って未知の領域に手を伸ばした。成功するかもわからない実験に賭け、自滅をしたのです」

 

たとえ強国であろうとするばかりに、お兄様の力を危険視し、対抗する術を模索した結果がこうなったのだとしてもそれは、お兄様のせいではない。

リスクを知りながら手を出すことを許可した、己たちの技術を過信した研究者たちと、愚かにもゴーサインを出した上層部が悪いのだ。それを唆したっぽい黒幕おじさんが一番悪いんだろうけど。

どっちにしろその責をお兄様が背負うことなど一ミリもない。

 

「…そんなこと気にしていないよ」

 

少し間が開いたということはその可能性を考えていたということ。お兄様は話を聞いただけですでにお気づきでいたのだ。

だけどかの国の見通しの甘さを、お兄様がどうにかする謂れも無いはずなのに。

撫でていた手はいつの間にか抱きしめる腕となり、もう片方の手が私の髪を梳く。

長い髪だが、お兄様の手が引っかかることはない。深雪ちゃんボディは今日も細部に至るまで完璧だ。

 

「お兄様は優しすぎます」

「誤解だよ。俺はそんなお優しい人間じゃない。そんな俺を心配してくれる深雪こそ、優しすぎる」

 

優しくない人間は、その可能性すら気づくことはない。要因の一つとは考えても、そこに責任を覚えることなどないというのに。

お兄様が積極的にパラサイトをどうこうしようとしたのは、そこにも理由があったのかもしれない…というのは穿ち過ぎだろうか。

温かい腕の中、回された腕はいつの間にかとん、とん、とリズムを刻み、瞼がだんだん重くなる。

 

「まだ戦いの疲れが取れていないだろう?」

「でも、片付けが」

 

夕食を食べ終えたところに電話がかかってきたので、机がそのままだった。それにこんなところで寝ては――

 

「それくらいなら俺でもできるよ。安心して眠るといい」

 

その言葉が終わる頃にはふっと意識が遠のいて、つむじに何かが触れた気がしたけれど、それが何だったのか考える間もなく夢の世界へと誘われていった。

 

――おやすみ、いい夢を。

 

お兄様のお声は睡眠導入剤もびっくりの寝つきの良さを発揮する。これを音源にして販売したらいいのに。

…いや、すでにあったなそんなCD。お兄様の中の人が絵本読んでくれて眠らせてくれるっていう。それを無料で聴いていいのだろうか?お布施を払わせてほしい。

 

それが原因かわからないが、私は分厚い財布を握りしめ、賽銭箱を探して彷徨い、迷子になる夢を見た。

 

 

――

 

 

E組メンバーのいない食堂での食事は居心地が悪かった。

おかしいな。原作の深雪ちゃんと違って、私にはお兄様をほのかちゃんと取り合う気など全くない。

よってほのかちゃんはお兄様とべったりできるはず、と思っていたのだけれど、なぜか様子が違う。

ほのかちゃんはそれなりに押せ押せなのだけど、お兄様がね、どうにも困惑気味で。

そしてなぜか私を巻き込む。

まあお兄様が私を放置できるわけがないのだけれど、それにしても構うんだよね。

ここ、学校ですよ。お家じゃないのにほのかちゃんに触れ合われた分、私に触れようとする。

学校ではあまりべたべた兄妹してなかったはずなんだけどな。

後ろではこんな三角関係見たことない、とかよくわからない発言がですね――、違うね。多分だけど皆が描いている構図はわかっている。ただ私が納得していないだけで。

ほのかちゃん→お兄様→私、の図ですね。

なんでやねん。普通そこはほのかちゃん→お兄様←私、でしょうに。

いえ、私が参戦していないのだからほのかちゃん→お兄様の片思いの図、だけでいいはずなんだけどなぜそこに私を入れる⁇学校内で流行っている物語のせい?

このままここで時間を潰すのも気まずいので屋上へ行くことになった。

…この後、パラサイトと直接対峙することになるんだよね。だけど――

 

(ここではまだパラサイトを抑えることはできない。吉田くんも封印することもできないし、お兄様もまだその術を習得していない。――だから、リーナちゃんの大切な人を、)

 

救うことが、できない。

せっかく元気に(見た目だけ)登校しているのに、これは彼女の心をひどく傷つけることになる。

いえ、違う。パラサイト化した人間を救うことなど元々できない。

ただ、体を綺麗に残せるか否か、だ。――未来の一例を除いて。

居心地の悪さに移動してきた屋上、通称空中庭園も、冬には人気が無くなる。

手入れが行き届いているので、この時期でも綺麗にお花が咲いているけど、こうも寒いとね。

CADを携帯できない一般生徒がここを利用することはほぼないだろう。こういう時生徒会に入っていてよかったと思うね。使えるものは何でも使います。

ということで寒気を遮断する魔法を展開。これも学校側にバレてるんだよね、使っていること。大目に見てくれているのかな。

けれど、うん。ほのかちゃんは大胆だね。お兄様の腕に巻き付いてます。そして押し付けてますね。

男子が見たらまず羨み、次いで呪う光景。

寒い冬だからね。見た目も温かくしないと。

私はちょっと離れてベンチに腰掛けた、んだけど…お兄様?何故気遣いを無駄にするように私の腰を抱き寄せようとするのです?力が強いですね。逆らえない。

お兄様も寒いとか言わないよね?もしかして私だけ寒くないの?魔法効いてない⁇

近寄ったことでお兄様の腰に回された腕は離れたけれど、どうしよう?温度上げるべきかな。

でもそうするとほのかちゃんが暖を取る理由が無くなってしまうから、このままの方がいいと思うのだけど。

そういえば、そろそろパラサイトが校内に侵入するのよね。

飛行用デバイスは身に付けている。ほのかちゃんには悪いけれど、今後の展開のためにも連れてはいけないので置いてけぼりにしちゃうのが申し訳ない。

これから私は不快な波動を感じるらしいのだけど。

 

(そもそも不快な波動ってどんなのだろう?肌を掠めるような、ってあったけれど)

 

深雪ちゃんはお兄様と違って情報を触覚や嗅覚などの五感で感じ取る。基本パッシブスキルなのだが、普段は制御して感覚を鈍らせている。

魔法を使用する学校でMAX感知していたら体がもたない。遠くの教室の魔法実習でさえ何かを感知してしまう。

三割程にしていれば、同じ室内の魔法でも、分厚い膜上に何の魔法か感じますね、程度に抑えられる。

年齢を重ねるごとに感度の増してくる反応に戸惑うこともあるけれど、そのたびに制御の技術も向上しているから、今ではコンマ幾つまで制御可能だ。

これはちょっと自慢。誰とも比べられはしないけどね。

だけど今はそのMAX全開。いち早く気付ければ動きが何か変わるかもしれない。

そう思ってのことだったのだけれど、この時私はすっぽ抜けていた情報があった。

原作の深雪ちゃんとの差だ。

研ぎ澄まされた感覚はどんな小さな感覚も拾ってしまう――。

耳元で突然虫の羽音が掠めていく。それが大きな蜂の羽音に聞こえて思わず身が竦んだ。

 

「深雪、どうした?」

 

これは不快なんてものじゃない!虫は苦手じゃないけれど、こんな至近距離で大きな羽音を聞いて落ち着いてなんかいられない!

西城くんもこの音を聞いたのだろうか。彼は会話としては聞き取れなかったけれどなんとなく言っていることがわかっていた、という描写があったけど、残念ながら私には会話とすら思わなかった。

それとも集中すればわかるだろうか?もしくはもっと近づけば違うだろうか?だけど今、それは後回しだ。

 

「今、不快な…」

 

あれ?でもコレ不快な波動っていうよりも聴覚の捉えた情報だ。

 

(…となるともしかして深雪ちゃんが感じたのはまた別の――)

 

その時だ。

 

「ひうっ!?」

 

中途半端に口を開いていたのが悪かったのか、口からとんでもない声、とういかアレです、あられもない声を上げてしまい、慌てて口を手で覆って閉じる。

真っ赤になったのは恥ずかしい声を出してしまったことと、もう一つ――確かに、肌を掠めた。…長く、細い何かが背中をくすぐるように通り過ぎた。

だがその感覚こそが大問題で――

 

(ちょちょちょちょちょっと待とうか?!え?これってまさかそういう!?嘘でしょう?!だからどうして深雪ちゃんだけライトノベルの雰囲気から逸脱するの⁇おかしいでしょう!これは、一番、おかしい!!)

 

慌てて感覚を遮断した。もう一度受けるのはちょっと心の整理が追いつかない。

驚きすぎて寒気を遮断していた魔法も解除され、入り込んだ冷気でまた体を震わせるけれど、先ほどの感覚がまだ残っているような気がして気持ちが悪い。

 

(…確かにパラサイトって触手を持った超生物っぽかった。でも、だからってこれはないでしょう!)

 

ジャンルはラブコメから急展開、エロ漫画になってしまったというのか。信じられない。信じたく、ない!

パニック状態で思考が纏まらない!

 

「み、深雪?!どうしたの⁇」

 

ほのかちゃんの心配する声に答えなきゃ、とゆっくり顔を上げると座った目をしたお兄様と、動揺を隠しきれず、けれど隣のお兄様にも怯えているほのかちゃんの姿。

お兄様の目の色がいつもより暗いですね。ちょっと冷静さが戻った。

ありがとうお兄様。でも空気がぴりついててちょっぴり怖い。

 

「…その、とても不快な波動を感じて」

「場所はわかるか?」

 

サイオンかプシオンかも聞かれずに発生源を聞かれるけれど、遮断してしまった今、どの方向からなんて確認できない。

もう一度アレに触れればわかるかもしれないが、と若干躊躇った時、お兄様の端末が鳴った。

 

「達也くん、大変よ!」

 

音声はお兄様にだけ聞こえる状態だけれど、慌てている先輩の声が漏れ聞こえていた。

 

「七草先輩、細かい位置はわかりますか?」

 

うん。目も据わってるけど声もめっちゃ低い。今にも場所を聞いたら殴り込みに行きそうな雰囲気。

殴り込みっていうか血の雨を降らせそう、の方があってるかも?

とにかく物騒な空気背負ってます。あれ?ヤンキーかヤクザ漫画かな?これから行くのはカチコミです⁇

おかしい。この段階ですでにお兄様は相手が西城くんを襲ったパラサイトだと断定しているのだろうか、というくらいキレてる。

お兄様は般若を背負ったような形相(深雪ちゃんeye)で空を睨みつけていた。

続く言葉は先ほどのように漏れて聞こえないのは先輩が落ち着いたからか。お兄様が顔の向きを変えたことから場所の報告があったのだろう。

「了解です」と短く答えたお兄様は腰のベルトに付けていた飛行デバイスを操作。

私も続けて魔法を行使し、お兄様からわずかに遅れたタイミングでふわりと浮かび上がる。

お兄様がちらり、とこちらに視線を向けたけれど、すぐに前に戻す。

うん?何を確認されました?方向的にもう少しひねればほのかちゃんだったはずだけど、そちらは全く視線を向けられていなかった。

…今はパラサイトが問題だから、そこまで気が回らなかったのか。

ほのかちゃんごめんね?寒い屋上に一人不安にしたまま置いていってしまうことが心苦しいけれど、これもこの後の大事な流れのため。

振り返ることもできず、お兄様に続いて実験棟の方に向かって飛んだ。

 

 

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