妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
着いた先は実験棟の資材搬入口付近の空き教室。
いきなり直で現場に行ったら場を混乱させるだけだからまずは様子見。
学校の警備は論文コンペ以降、さらに厳重になったと聞いた。
元々機密保持の観点からかなり高度なセキュリティだったのだけど、不審者、盗撮、盗聴対策についてはより一層強化されたらしい。
だからきっと不審な痕跡に気付いただろうけど、その相手が新型測定装置のデモ機を持ってきた相手となれば、それが悪用のためかなど、判定はし辛い。
相手も名のある会社だから手荒なチェックもできない。そもそも許可証があるから余計に何かが無い限り詮索などできるはずも無い。
パラサイトサイドとしては表の仕事上ここへ来るしかなかったのだけど、彼らはよく考えてる。
パラサイトたちは人間たちの都合をちゃんと認識して擬態している。
元の人間の知識だというけれど、そんな人の生活なんて無視して好き勝手動くかと思ってた。
擬態のみならず、生態までトレースできるってすごいことだ。相当身近な人間じゃない限り、変化に気づけないレベルじゃないかな。
確かリーナちゃんともコミュニケーションしてても不審に思われてなかったんだもんね。
…だからこそ余計、仲間意識の高いリーナちゃんが傷つくのだけど。
(まだ高校生の女の子だ。敵地に送られた状態で少数精鋭の仲間を疑うなんて、できるはずもない。…苦しむはずだ)
目の前では6人のマクシミリアンの社員が作業を行っている。
あの人がパラサイトだと知っていても普通の人にしか見えない。魔法師の目で見てもおかしなところはない。
想子波の偽装を見破ることができなかった。ならば先ほど感知できた霊子波はどうだろう?こちらは確か隠蔽されているはず。
(もう一度、感知してみるべきかな)
あの時感じた不快感は完全に遮断したことで今は全く感じない。制御できていてよかった。
だけどそれではダメなのだ。目隠しをしたままでは何も得られない。
(徐々に、上げていけばさっきのようなことにはならないはず)
見逃さないようにフルにしていたから、あんなはっきりくっきりと感触が伝わってしまったのだ。
…粘度のある湿り気を帯びた細長いモノに背筋を撫でられたあの感覚…。嘗め回されたようで怖気が走った。
しばらくあの感覚が消えなくて気持ちが悪かった。
…深雪ちゃん、よく耐えられたね。私なんか変な声出しちゃって恥ずかしい思いまでしてしまった。
今度は気を付けていこう、と気合を入れて感覚を研ぎ澄ませていく。
まずは一割。特に変化はない。二割。少し空気は変わったけれどこれはいつもと変わらない。二割五分、も問題ない。
校内から感じるのは実習の微かな波動かな?どんな魔法を使っているのかもわからない。三割、四割と上げたところで彼らの元に近づく一人の影――リーナちゃんだ。
お兄様も気づいてそちらに注視している。
彼女はこっそり、というほど隠れてもなく、でもちょっとだけいいのかな?と周囲を窺いながらトレーラーに近づいていく。
その様子は完全に不審者のそれだけれど、美少女なおかげで不審者には見えないから美少女ってお得だね。
続いて今度は恐る恐る近づいているのは仕事中に知り合いに近づいていいのかな、と不安がっているようにも見えた。実際彼女の感覚としてはそんな感じであったのだろう。
だって、彼女は一ミリも疑っていなかったから。ただ仲間を訪問するだけのつもりだったのだ。
それを思うと胸が痛んだ。
リーナちゃんが近づくと一人の女性が振り返る。振り返った彼女の周りにはキラキラと、光がちらついた。
(んん?あれは――)
その光が物理によるものではないことはすぐにわかった。
それを振り払うように手を動かす姿にリーナちゃんが訝しんだことで確信に変わる。
同じく様子を窺っていた彼らも確信したタイミングだったのだろう、別方向で小さな揺らぎと、空気を切り裂いて何かがリーナちゃんたちに向けられて飛来してくる。
小さな揺らぎは恐らくエリカちゃんのデバイスの起動、飛来してきたのは吉田くんの魔法。
展開された魔法により、見えていたリーナちゃんを中心とした一区画が幕に覆われたように見えなくなった。
いや、うっすらと背景が見えているから、もしかしたら普通の人なら元々何もないように見えているのかもしれない。
認識阻害ってすごい。いや、こんな複雑な工程をやってのけてしまう吉田くんが凄いのか。
「結界ですか?」
「幹比古だな。大した腕だ」
吉田くん!お兄様が手放しで褒めてます。よかったね。できれば本人にも伝えてあげてね。きっと喜ぶ。
そして自己加速したエリカちゃん、その後ろには十文字先輩が続く。エリカちゃんヤる気満々だね。
早くて顔は見れないけれど漲っている闘志が伝わってくる。
結界は彼らを弾くことなく迎え入れていた。出入り自由なのかな。
視界を遮断することと音漏れ遮断に特化してるのか。
お兄様は七草先輩とお電話で結構とんでもないことを要求している。機械による録画を止めるだなんて、権限云々以前の問題ですよ。
できちゃいけないヤツ。それができちゃう先輩は今までどんな悪ぅいことしてきたのかな?
と、そんなことを気にしていたら耳元を、今度は小さな羽音が横切っていく。
この距離でも私には会話には聞こえない。何を伝えようとしているのかもわからない。四割程度だからか、それとも私の受信が悪いのか。
吉田くんの張った結界は魔法を遮断することはないみたいだ。よって、別の魔法が中と繋がっているのが感覚的にわかった。
もう少しだけ感度を上げてそれに手を伸ばすと…糸電話の糸かな。触れると微かに振動が行ったり来たり。
この糸辿って行ったらスターズのリーナちゃんお世話係の元へ行けちゃったり?それはないか。
これは物理的に横にあるのではなく、私のイメージによって感覚でとらえた情報だから。
だけど、彼女もいいお姉さんだよね。どことなくだけど穂波さんを彷彿とさせる面倒見のいいお姉さん。会うことはないだろうけど、好き。
会話が途切れたのかな?通信は繋がったままのようだけど振動がない。エリカちゃんが攻撃に入ったのかもしれない。
その証拠にぶわっと圧が。多分十文字先輩とリーナちゃんの魔法が激突したのかもしれない。
展開が早いったら。
「行くぞ、深雪」
「はい、お兄様」
顔を見合わせ頷き合って、隠れていた教室の窓から身を乗り出した。
――
ふわっと窓から飛び出したはいいけれど、だからといってすぐ姿を見せる真似はしない。
結界内に入ってすぐトレーラーの陰に隠れて様子を窺う。
あ、その間にお兄様が他の社員さんたちの意識を刈り取ってますね。素早い。
というか、突然何が起こったのかわからず恐慌状態でしたよ。彼らは本物の社員さんだから何も知らなくて当然なのだけど。
パラサイトだということが私たちに察知されなければ、そのまま表向きの仕事に従事していた可能性が高いからね。
これに関してはそちらでフォローお願いしますね、リーナちゃん。
結界の影響で先ほどまで全く聞き取れなかった会話の応酬が、目の前で繰り広げられていた。
そしてリーナちゃんの悲痛な叫びがパラサイトへと向けられる。
リーナちゃんは真実、彼女が吸血鬼――パラサイトだと知らなかったのだけれど、この状況で信じろというのは難しい。
同国の人間、しかも会いに行っている現場を見れば仲間と思うのも無理はないし、事実彼女自身仲間だと思っていたのだから。
エリカちゃんの斬撃は容赦なく相手を追い詰めていき――彼女の小太刀が吸い込まれるようにミアと呼ばれた女性の腹を貫いた。
ただの剣術ではありえない軌道。エリカちゃんは本物の天才剣士だった。
人を刺した非道な場面だというのに感動さえ覚えてしまう御業である。…リーナちゃんにはそうではなかったけれど。
だが、エリカちゃんが動くよりも前に背筋がざわつく。
次いで対峙する相手を蹴り飛ばして後方に下がるエリカちゃんの本能のシグナルは正確だった。
「っんぅ!」
突如襲われる感覚からとっさに身を守るように体を丸めるも、情報を感覚で捉えているだけ。
よって物理的でも無ければ攻撃を向けられているわけでもないので、体を撫でるような感覚から逃れることはできなかった。
(もしかして、パラサイトが魔法を使おうとするとこの感覚が毎回襲ってくるというの!?)
屋上では一本の長い――もうはっきり言おう、触手が背中を這った感覚だったけど、今のは体を包み込むように幾重もの触手が体にまとわりついた感じがした。
あれだ、イソギンチャクが背後からクマノミを包み込んでいるような光景を見たことがあるだろうか?あのクマノミになった気分だった。
きっと彼らにそんなつもりも感覚もないだろうけどね。ふんわりと無数の触手に包み込まれる。…四割ちょっとでこの感覚なの?!言い方ソフトにしてるけど、衣服の上から弄られた感覚といえば伝わるだろうか。
直接的ではないけれど、とっっっても不愉快!!痴漢されてる気分だ。
すぐに解放されたけど、たまらず体を擦ってしまう。
お兄様からまた視線を感じたけれど、…言いたくないよー。言えるわけがない。
パラサイトの傷が完全にふさがったのをリーナちゃんは驚愕して受け止め、エリカちゃんは上等!と更に闘志を燃え上がらせて構えを取るが、ごめんなさい!二度と同じものを受けたくないので邪魔させてもらう!
「だったら、これでどうかしら」
流石にリーナちゃん含め皆が見ている前で、精神体自身を凍らせる魔法が使えないので、パラサイトごと凍らせることができないのが口惜しい。
でもしばらく表面だけでも凍ってて。動かないで。
できれば魔法自体使わないでほしい。…これ、制御とは別に対策考えないと、お兄様に今後パラサイト関連携わらせてもらいないのでは?
流石に感覚全カットで立ち向かえるほど甘い相手じゃない。情報を見逃すというのは危険な行為だから。
そんなお荷物状態でお兄様が戦場へと連れて行ってくれるとは限らない。お願いすればできなくもないだろうけど、それではお兄様への負担となる。
今後、パラサイトと関わっていくと知っていて、何の対策も立てないのはまずい。
キンッ、と凍り付いた女性を見て、ようやく体にまとわりついたような感覚も消えた。
そんなもの、彼らが魔法を使う瞬間感じただけのことで、実際には常にまとわりついてなどいないのだけどね。気持ち悪い感覚はしばらく残るから。
「深雪?」
気の抜けたエリカちゃんに名前を呼ばれて手を振る。
一応存在を知らせるために声を掛けてから魔法を使った。新手と思われて警戒をこちらに向けられるわけにもいかなかったから。
背後にいるお兄様にも気づき、今度こそ完全に構えを解いたエリカちゃんは、しかし表情を引き締めてお兄様の視線の先、リーナちゃんを見つめる。
リーナちゃんは流石総隊長というべきか状況把握が早かった。
一般人であるマクシミリアンの社員たちの安否を真っ先にお兄様に確認していた。
あの状況でお兄様が何かをしたらしいと理解できていたリーナちゃん凄い。ちゃんとお仕事してる。務まってるよ総隊長。
社員さんたちは意識刈り取られただけだから。息の根なんて止められてないからね?安心してほしい。
だけどリーナちゃん、学校内だというのに発想が物騒。エリカちゃんがためらいなくぶっ刺したから余計にそう思ったのかな。
ほっとしたリーナちゃんの代わりに、エリカちゃんの厳しい視線はお兄様に向けられた。
この時エリカちゃんにとっては得物を取られた、と勘違いしちゃったのだろうけど、どうしてそう思ったのだろうね。
昨日の話し合いでお兄様はやっつけられれば誰がやってもいい、って説明していたと思うのだけど。
仲間として全面的に譲ってくれると思っていた相手にどちらでも構わないと言われたことが、彼女にとって仲間から外れたと勘違いさせてしまったのだろうか。
もしそうなのだとしたら思い違いだし、そもそもお兄様がパラサイトを構う理由がない。
この時のお兄様は、西城くんが傷つけられたことに腹を立て、排除すべき敵だと認識していたが、誰が倒すかにこだわりは無かった。
仇は誰がとってもいいって言ったことが、仇は自分たちで打ち取るタイプの彼女にとって投げやりに感じてしまったのかもしれない。
積極的に見えなかったことで、エリカちゃんに譲っても構わないという風には取れなかったみたいだ。
お兄様の心が正しく伝わらないということがもどかしかった。
「別に要らんな」
エリカちゃんの考えは見事空振り、お兄様は淡々と説明する。
パラサイトの処遇に、リーナちゃんが体を緊張させたけれど彼女は沈黙を貫いた。
自身に権利がないのだと思っているようだけど、そんな優先順位を考えてしまう時点で、彼女はお兄様のように割り切ること無く、感情を無視できていないのだと違いを見つけてしまった。
お兄様がもし彼女と同じ任務を受けていた場合、間違いなくこの場で処分していた。それが任務だからだ。
権利の有無の主張など関係ない。この程度で――この国の人間を傷つけたわけでもないので国際問題に発展することにもならないなら、躊躇うこともないだろう。
この判断が下せない時点で、彼女はこの場の空気を読み過ぎた。
もちろんそれが悪いことだと言うつもりもない。
(この人間らしさが彼女の良さだ。その良さを殺す必要なんて、ない)
十文字先輩がお兄様との話を終わらせた瞬間だった。
体にまとわりつく感覚に襲われ、パラサイトの魔法を使うタイミングだと察知した私と、俯瞰して観察・警戒を怠らなかった吉田くんの警告が重なった。
「「危ないっ!」」
瞬間的に反応したお兄様たち二人の動きは流石だった。
放出系の魔法により引き起こされた空中放電は十文字先輩の展開した障壁に阻まれ、お兄様が放った対抗魔法によりかき消された。
とっさに取った行動に称賛したい気持ちと同時に悔しい気持ちでいっぱいになる。体が竦んで警告しか出せなかった。
皆の視線の向けた先、まだ凍り付いている状態の女性には、そんなことは不可能だ。
中の精神体、パラサイトが原因であることは明白だった。先ほどよりも存在感が増している。
私は襲い来る反応を拒絶するように事象干渉力を、自身を中心に広げてパラサイトの触手から身を守ろうとした。
遠のく触手の反応に、サイオンの壁が有効なのかと兆しが見える。
「自爆!?」
パラサイトに注目が集まっていたので、私の行動に気付いたのは恐らくお兄様だけだと思う。
けれどリーナちゃんの言葉によって意識は引き戻される。
「「伏せろ!」」
お兄様と十文字先輩の指示に体が反応するより早く、私はお兄様に抱え込まれて地に伏せられる。
瞬間、サイオンの壁に揺らぎが生じて防げない触手に撫でられる感触に、声を上げないようお兄様の肩口に口を押し当ててやり過ごした。
くぐもった音は小さくて、お兄様に聞かれていないことを祈るばかりだけれど、この強い反応は魔法を使うつもりだと気付いてCADに触れて応戦態勢に入った。
お兄様と十文字先輩も第二陣に備えて既に魔法を展開中。流石の反応。
もちろんリーナちゃんも、何が起きているかわからずとも動けるのは経験の差なのか。
氷は突き破られ、女性の体は灰となって降りかかる。この場に漂う臭いが無かったのは幸いか。
だが、鋭い私の嗅覚には掠める程度に嗅ぎ取れてしまった。…パラサイトに悪気が無くても、不快だ。
正直、この時の私は若干キレていた。
気付かれていなくとも、辱めを受けている状況下でランダムに魔法でも狙われ、更にリーナちゃんを悲しませる出来事まで起きて。
エリカちゃんともギスギスしてて。
大変なストレスにさらされていたのだ。感情の制御も甘くなる。
十文字先輩の障壁を邪魔せぬよう、私は氷の粒を満遍なく空中に漂わせた。
電撃の雨は容赦なく降り注ぐけれど、氷の粒子群が絡めとり、人に近寄らせない。
本当なら今すぐコキュートスで止めを刺して全て終わらせたいくらいだ。
だけどそれができないことは私が一番わかっていた。
正体云々もそうだけど、このパラサイトは今後、お兄様の役に立つ。ここで消滅なんてさせてはいけない存在。
だからやり過ぎてもいけない。
お兄様が徐々に動きを捉えられるようになり撃ち落としている。
起動式の展開プロセスが人間と違って、工程を必要としていないパラサイトの攻撃に、初めこそ感覚が掴めずにいたお兄様だったけれど、事象改変自体は起きている。
その揺らぎを読み取って編み上げられる前に魔法式を分解できるようになっていた。対応力が早い。
だけれども決定打が無かった。霊子情報体への攻撃する術をこの場に居る誰も持ち合わせていなかったのだ。
あるとすれば吉田くんだけれど、それでも準備をしないでできることではない。美月ちゃんを守りながらの状態で参戦できるはずもない。
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